2023/03/18
「三四郎」を読んで
近頃は夏目漱石の本を読み漁ることにしていて、先日は「三四郎」を読み終わりました。
前には「吾輩は猫である」を読み、何とも面白くも哲学的だし、世の中を猫の目線で達観して見ることの体験は、人間の世の中なんてこんな小さなものなのねと気楽にさせてくれるものでしたが、この「三四郎」は猫ちゃんとはまったく異なるテイストで楽しむことが出来ました。
「三四郎」は男女の物語。まだ大学生になったばかりで、九州から上京してきた小川三四郎と、若くて美人で教養もある里見美禰子の恋愛物語を中心に、三四郎が通う大学での出来事などが描かれたお話でした。
本物の作家が書く言葉と言うのは、一つ一つが丁寧で損なわず、短くあってもその中にふんだんに意味が含まれているし、その言葉や文章の後には余韻が残るしで、始終溜め息をついてしまうような心地になりますね。全体の雰囲気としては、常に黄みがかった光がかかるノスタルジックな空気の中で、互いの距離感は一定程度守りつつ、それだけにいざ一定を超えて距離が近づくと途端に香りや呼吸も今ここで感じられるようで、三四郎の世界観が私の中に一つの教養として体験として落ちて行くのを感じました。映画でも見ているよう。あ、でも映画館で大々的に見ているようなものではなくて、小さな画面を覗き込むような感じで映画を見ている雰囲気を感じていました。こう感じるのは私だけかも知れませんが。感想なんて各々、ということで。
ストレイシープ(迷羊)という言葉が、このお話のキーワードと言えるものでしょう。私にこの本を読んだことがあると教えてくれた義母も、この本を読んだことのある義父も、二人揃って「ストレイシープ、ストレイシープ」と口にしていたので、相当この言葉には印象が残っていたようです。
実際、大学生になったばかりの三四郎は、人生の中でもまだ序盤に立っているようなもので、まだまだ迷羊のごとく、彷徨っているような状況なんだと思います。ただ、それは若いからというだけではなく、美禰子も、三四郎の友人や先生や、彼を取り巻く様々な人々も常にストレイシープなのではなかろうかと思わせられます。迷う中でも人それぞれの人生を見つけて、どうにかこうにか生きて行くけど、やはり常に人はストレイシープなのかな、と。文学的であり哲学的であり。
迷わず直線的に生きて行く人もまあ、いるでしょう。三四郎の友人である与次郎などは直線的な人物かと思います。お調子者の雰囲気もあり、それこそイメージ的には主人公の友人の立場の代表例とも呼べるような人です。嫌味の無いお調子者ゆえに、人に憎まれるようなことはないんですよね。ただ、そんな彼でも時には悩んだりで、やはりストレイシープの域内の人なのかなと思われます。
何も迷わないで生き続けると言うのも、考えてみれば、成長しないということなんじゃないでしょうかね。何かに迷って、考えて、一つの答えを出して、試して、間違って、また迷って・・・いつかは大なり小なり成功するかも知れませんが、そこで終わりというわけでもなく・・・の繰り返しですよね、人生ってきっと。
読んだことのない方は、一度読んでみるのもお勧めです。よく、「言語化できない気持ち」があったりしますよね? (私はよくある・・・言語化できないのは語彙力が・・・という問題ですが) そこを夏目漱石は見事に言語化してくれるんですよ。本当にそういうところ、気持ちがすっとします。心豊かにさせてもらえます。本を読んだ後に、外を歩いて景色を見ると、いままでよりもより明瞭に見えたりするから不思議なものです。それだけ、うすぼんやりとしていた今までの気持ちが、整理されて、落ち着くんじゃないかなと、感覚的にそう思います。
最近、電車に乗って周りを見てみると、スマホでゲームをしていたり、動画を視聴していたりする方が多いように見受けられます。私もね、前まではスマホでゲームをしていたりしたんですが、ある時にふっと「あ、この時間は無駄だ。人生はそれほど長くないんだから」と気づきました。他にやりたいことはたんまりあるんだから、こんなことに時間を割いてはいられないと。
ま、ゲームを軸としたサイトを運営してるんですけどね(汗)
どうでしょ、ここらで一度、本をじっくりと落ち着いて集中して読んで、心の滋養にしてみるのは。集中力を鍛えるのにもオススメですよ。
そして、夏目漱石の紡ぐ言葉は丁寧で繊細で美しく、それでいて笑わせてくれるところもあり(笑わせ方が落語的で、表面的に笑う感じではなくて、心の底から湧き上がる笑いがあるように思えます。笑いってきっと、こういうものなんでしょうね)、読み終えると一つ自分の中に落とし込んだ感覚が養えます。
そうして次は、「坊っちゃん」を読んでいます。こちらも面白いですね。人物を説明する時の文章が本当に秀逸。想像を掻き立てられます。こんな文章が書けたらさぞかし気持ちが晴れるでしょうねぇ。語彙力、だなぁ・・・。