出産
今、グランバニアの森は夕闇に包まれ、間もなく夜を迎えようとしている。この二か月、リュカはグランバニア国王を継ぐための勉学に勤しみ、とうとう明日が即位式となった。即位式を目前に、今は王室にいるオジロンに今日一日のことを振り返りながら話をしていた。連日、夜遅くまで学者の所に缶詰めになり、帝王学などを学んでいたが、即位式前日は学者も早くにリュカを解放し、早めに休むようにと背中を押してくれたのだった。
いつもなら王室の大きな窓から月が覗く時間だが、今日は月が見えない。月は新月から満月へと、満月から新月へと満ち欠けを繰り返す。今日はちょうど新月のようで、月は姿を現さない。グランバニアの森はいつにも増して輝く星々に照らされている。
「リュカよ、これまでご苦労だったな。どうだ、国王になる実感は沸いてきたか?」
一国の王でありながら、オジロンはいつでもリュカに気さくに話しかける。人の良さにかけては国民からもお墨付きをもらっているが、それが度を超すと少々頼りない印象を人に与えてしまう。オジロンは国民からの信頼を得ている反面、威厳に欠けるとも言われている国王だ。
「実感は……まだよく分かりません。でも、明日なんですよね、即位式」
「そうだな。これでようやくわしもこの玉座から下りられると言うものだ。やれやれ……」
そう言いながら、オジロンは首を傾げて手で肩をトントンと叩く。ただのジェスチャーに過ぎないものだが、実際オジロンは本来座らなくても良いはずだった玉座に長年座り、グランバニアの国政を担ってきた。しかし兄であるパパスが妻マーサを救う旅に出てから、兄と義理姉の無事をずっと祈り、そしてその祈りが届かなかった喪失感の方がはるかに国王を務めた疲れを凌いでいた。
「しかし本当にリュカが戻ってきてくれて良かった。兄上は残念なことになってしまったが、こうしてリュカがこの国に戻ってきて、明日にはこの国の王になる。そのことを最も嬉しく思っているのは、間違いなく兄上だろうな」
「……本当に父さんは喜んでくれているのかな」
リュカには当然のごとく国王になる自信などまるでなかった。この二か月間、国王になるべく様々な知識を身につけさせられ、城下町の視察も数回行ったが、それでもこの国の王になるにはまだまだ足りないのだと感じていた。父やオジロンのようにこの国で生まれ育った者たちとは違い、リュカはただこの国で生まれただけに過ぎない存在だ。ただの血筋で王位を継承することに、リュカは今も多くの不安を抱いていた。
「リュカよ、お前が生きているだけで兄上は喜んでいるんだよ。お前がこうして無事にこの場所に辿り着き、可愛いお嫁さんを貰って、もうすぐ子供まで生まれようとしている。そんな幸せな息子を見て、喜ばない親もないだろう」
オジロンの言葉に、リュカは今までのことが次々と蘇ってくるのを感じた。もちろん、思い出したくない過去もある。しかし思い出したくない過去は、今よりもずっと昔のことに感じられるようになった。それと言うのも、リュカは今、幸せを手にしているからだ。忌々しい記憶は永遠に消え去りはしないと思っていたが、たとえ消えることはなくとも、幸せな時を過ごしていけばそれらは次第に薄れていくのだとも感じていた。
「まあ、今は明日の即位式のことだけを考えた方が良いだろうな。慣れない服に身を包み、長いマントを引きずって歩くのだから、転ばないように気を付けるんだぞ」
まるでオジロン自身がその経験があるかのような言い方に、リュカは頷きながらもじっとオジロンを見つめた。するとリュカの視線を感じて、オジロンは決まり悪そうに視線を逸らす。やはり彼自身、即位式でそのような失態を晒してしまったのかも知れない。
「い、いや、兄上がな、即位式の時に慣れない長いマントの裾を踏んで転びそうになって、危うく皆の笑いものに……いや、すまん、それはわしのことだ。こんなことを兄上にせいにしたら、天から怒鳴り声が響いてきそうだな……」
オジロンが上から拳骨でも降ってきそうな感じで首をひっこめるのを見て、リュカは緊張していた体から力が抜けて、思わず笑ってしまった。パパスとオジロンは兄弟で、若い頃は二人で喧嘩をしたこともあったのだろう。オジロンの今の様子は、兄から怒られたことを思い出した弟の姿そのものだった。兄弟のいないリュカにはその感覚がよく分からないが、そこには憧れるような感じを抱いた。ラインハットのヘンリーとデールにも、同じような感覚があるのだろうとリュカは二人を思い出す。数年ぶりに再会した彼らも、数年ぶりとは思えないような見えない絆があると、リュカは二人を見て感じたことを思い出した。
「兄弟って、何だかいいですね」
「ん? ああ、そうかも知れんな。リュカももうすぐ子供が生まれる。その子供に兄弟が欲しければ、また奥方と相談してみたらいいだろう。リュカも奥方もまだまだ若い。それこそ二人、三人と、子供を授かれば、グランバニアもますます発展するであろう」
リュカに兄弟がいないのは、リュカを産んだマーサがまだリュカが赤ん坊の頃に連れ去られてしまったためだ。もしマーサが連れ去られずに今もグランバニアで平和な時を過ごしていたら、リュカにも弟や妹が出来ていたかも知れない。オジロンの娘ドリスも兄弟姉妹がいないが、オジロンはドリスを産んだ妻を早くに亡くしてしまったため、子供を一人しか授かることがなかった。元々身体の弱い妻だったようだが、もしオジロンに今も妻がいたら、ドリスにも弟妹が生まれていた可能性があった。
「……と、そんな話をするにはまだ気が早いな。だが、間もなく子供が生まれたら、考えてみても良いことだと思う……」
オジロンがにこやかに話をしていると、オジロンの座る玉座の後ろから一人の女性が急ぎ足で階段を下りてくるのが見えた。転びそうになったところをどうにか堪えて、息せき切らしながらオジロンではなくリュカの所へ駆け寄ってくる。
「大変でございます! 大変でございます!」
「な、なにごとだっ!?」
オジロンが玉座を立ち上がって後ろを振り返る。侍女は息つく間もなく、まずはオジロンに礼をしてからオジロンとリュカに話しかける。
「はい! ビアンカ様が……リュカ様の奥様が赤ちゃんを!」
「なんと! 生まれたと申すかっ!?」
「いいえ……でも今にも生まれそうで……」
侍女は今までこれほど走ったことはないというほど全力で走って王室へ知らせに来たのだろう。喉の調子をおかしくしたようで咳き込んでいる。それほど切迫した彼女の様子に、リュカは全身に緊張が走るのを感じた。
「なんとめでたい! これはもしかすると、新しい王と王子の二人が同時に誕生だわい! おっと、リュカ! のんびりしている場合ではないぞよっ」
「さあ、リュカ様、こちらでございます!」
リュカはビアンカの世話をしている侍女の言葉に、頭の中が真っ白になってしまった。その時が来ると分かっていたものの、いざその時が来てしまうと、何も分かっていなかったのだと分かった。ビアンカが産気づいて苦しんでいると聞いても、言葉に聞いたところでそれが一体どういう状態なのか、女性の出産など見たことがないリュカには想像することも出来ない。これまで二か月間、リュカは国王になるための準備に追われ、ビアンカの細かいところまで見ていなかったのだと反省した。
侍女の一人に連れられ、リュカは足元の感覚も良く分からないまま玉座の後ろの階段に向かう。明日が即位式であることも頭の中に残っているが、それとは別にビアンカが赤ん坊を産もうとしている漠然とした想像が頭の大半を占める。階段をどう上ったのかもよく分からないまま、気がついたらリュカはいつも一日の最後にたどり着く国王私室に足を踏み入れていた。
いつもは椅子に腰かけて本を読んでいたり、ベッドの上でゆったりと横になって過ごしているビアンカの姿は、今は二人の女性に見守られていた。ちょうどシスターの検診を受けていたところのようで、シスターがビアンカの手をしっかりと握り、彼女に何か言葉をかけている。ベッドのすぐ傍では、侍女の一人である中年の女性が大きなたらいに湯を注ぎ、何やら準備を始めていた。部屋のカーテンはすべて閉められ、窓だけは薄く開けられており、時折外からの風を受けてカーテンが揺れている。広いベッドの上には数枚のタオルが積んで置かれていた。
ベッドの上にいるビアンカは今までにないような苦悶の表情を浮かべていた。顔色が悪いわけではないが、こめかみから額からじわりと汗が浮かび、首筋に垂れている。痛みに耐えるために深い呼吸をし、痛みを逃そうと努めているようだ。
そんな妻の様子を見て、リュカは声もかけないまま彼女の所へ歩み寄った。シスターと反対側からベッドの脇に立ち、苦しそうなビアンカの顔を覗き込む。ビアンカもリュカが間近に来るまでその気配に気づかないほど、今は自身に起こる痛みと戦っていたようだ。
「リュカ……」
ビアンカの力のない声を聞いて、リュカは不安な表情を浮かべる。出産は女性が命がけでするものだと、リュカは学者に聞いたことがあった。出産後に体調を崩し、そのまま女性が亡くなることもあるのだと学者は淡々と事実を述べていた。実際、オジロンの妻はドリスを産んで間もなく亡くなってしまった。リュカの目の前には出産の痛みに額に脂汗をかくビアンカがいる。彼女がこのままいなくなってしまうのではないかと、リュカは妻の手を強く握った。
「戻ってきてくれたのね……」
いつもならまだリュカは学者の所で勉学に勤しんでいる時間だと、ビアンカは分かっているのだ。まだ夜を迎えたばかりの時分で、空には星々が瞬き始め、新月のために月の姿はなく、夜空の闇は深い。
「ビアンカ、大丈夫……?」
リュカは月並みな言葉しかかけることができなかった。他に気の利いたことを言ったとしても、それはすべて飾った気持ちになってしまうと、リュカは素直に思ったことを口にしただけだった。
「大丈夫よ、世のお母さんたちは、みんな、していることだもの……」
言葉と言葉の間で息を詰め、痛みに耐えているビアンカを見て、リュカは彼女の痛みを取り去ってやりたいと心底思った。しかし出産と言う出来事に回復呪文は効かない。出産は病気でも怪我でもなく、母になるための道の途中に過ぎないのだ。
痛みに波があるのか、ビアンカの表情が少しだけ和らいだのをリュカは見た。首筋に流れていた汗をビアンカは自ら拭い、しかし痛みは鈍く持続しているようで、掴んでいたタオルをそのまま脇に放るように置いた。そのタオルをリュカが手に取り、ビアンカの顔の汗を丁寧に拭う。リュカの優しさにビアンカは痛みに顔をゆがめながらも笑う。
「ありがとう、リュカ……。私、頑張って元気なリュカの赤ちゃんを産むわ……」
再び痛みに襲われたようで、ビアンカは顔をしかめ、息を詰めて言葉を失う。再び呼吸を始めても、ただ喘ぐばかりで、必死に痛みと戦うことしかできないようだ。リュカは何もできることがないと分かりつつも、ビアンカの手を握って彼女の苦しそうな顔を辛そうに見つめる。
「あ、あの、シスター、ビアンカは大丈夫なんでしょうか? どうにかできないんですか? こんなに苦しそうなのに……」
「お静かに。今、まさに新しい命が生まれようとしています」
慌てるリュカに、シスターは静かに毅然とそう言った。慌てふためかんばかりのリュカに、シスターは落ち着くようにと言葉をかけたのだ。リュカが今慌ててしまえば、ビアンカも要らぬ不安に苛まれてしまう。出産を目前に不安にさせるなどあってはならないと、シスターは真剣な顔でリュカを見て、そしてにっこりと微笑んだ。
「ご安心ください。お子様は必ず、無事に生まれます。信じていてください」
「お二人の子供ですから、きっとかわいい赤ちゃんですわよ」
リュカをこの部屋に連れてきた侍女も、リュカの不安を和らげるように優しい言葉をかける。出産の現場では誰もが厳しくもなり、誰もが優しくもなる。
「なーに、大丈夫さ。これでも私は今まで三人も産んでるんだよ。さあさ、ここは私たちに任せて、下の部屋で待っておいでよ」
恰幅の良い中年の侍女が、経験者ならではの安定した声でリュカに話しかける。出産は特別なことであっても、多くの人が経験している普通のことでもある。ただ出産の経験など得られない男性にとっては想像もできないことで、この場にいるだけでビアンカにも出産の手伝いをしている女性たちにも邪魔になってしまうのだと、リュカはそう悟った。
「初産は時間がかかるもんさ。下の部屋でどんと構えて待っておいで。生まれたらすぐに呼びに行くからさ」
「はい。どうか、ビアンカを、妻をよろしくお願いします」
決して重い口調で話さない侍女の言葉に、リュカは少しだけ心が落ち着くのを感じた。自分がこの場でできることは何もない。ただひたすらビアンカの手を握っていても、タオルで顔の汗を拭っても、彼女の痛みを代わってやることはできない。リュカはもう一度、ベッドの脇に寄り添い、ビアンカの様子を見つめる。彼女は歯を食いしばり、喉の奥で唸り声のような声を出し、必死に痛みに耐えている。リュカとちらと目を合わせたが、もう言葉を返す余裕もなく、すぐに視線を逸らしてしまった。出産と言う大仕事に向けて集中している彼女を邪魔しないように、リュカは静かにその場を後にした。
ふらふらと階段を下り、王室に戻ると、玉座を立ってうろうろと歩いていたオジロンがすぐにリュカに声をかけた。
「おお、どうじゃった?」
「えっと、その、まだみたいです」
「そうか、そうか。出産と言うのは時間がかかるからのう。ドリスが生まれた時は半日もかかった」
「半日!? 半日って、半日ですか?」
「そうじゃ。全く女性と言うのはとんでもない生き物だよ。男だったら到底耐えられないものだろうなぁ、出産というのは」
「半日もあんなに苦しい思いを……本当にどうにかならないのかな……」
「リュカよ、これから長丁場になるやも知れん。こんな時ではあるが、明日は予定通り即位式が行われる。休める時に休んでおくのだぞ」
オジロンはその優しさからリュカに言葉をかけたが、それがリュカに届かないことは分かっていた。もちろん、リュカの頭から即位式と言う現実が吹き飛んでしまったわけではない。しかし即位式では誰も苦しむこともなく、ましてや誰かが命を失うこともない。対して出産は、もしかしたらビアンカが命を落としてしまうかも知れない、お腹の中の子が命を落としてしまうかも知れない、そんな可能性が無きにしも非ずなのだ。そんな場面で果たして自分がどう休めるのかと、リュカはオジロンの言葉を耳にしながらも、心が休まることなどないと広い王室内を歩き、窓辺に寄った。王室の大きな窓からは夜の森の景色と、空に散りばめられた星が広がっている。新月のために月がなく、いつにも増して暗い景色に、リュカはより不安が大きくなるのを抑えられなかった。
普段だったらオジロンも一日の仕事を終え、王室の中の明かりは落とされている時間だったが、夜半過ぎ頃になっても王室は弱い明かりに照らされ、その中を一人の人間が落ち着きなく歩き回っていた。静かな王室の中をコツコツと上等な靴の音が響く。まるでその音が時計の音のようで、リュカは歩きながらも自分の足音に更に落ち着きを失くしていた。
「あ! 坊ちゃん! 話を聞いて私も飛んで来たんです」
そう言ってサンチョが現れてから既に三時間が経とうとしているが、未だビアンカのいる国王私室からの知らせはない。知らせがないということは出産の進展がないということで、ビアンカも赤ん坊も無事だと言うことだ。それが分かっていてもいつ何が起きるか分からないという不安の中から抜け出せず、リュカはずっと王室内を歩き回っていた。オジロンやサンチョに何度も落ち着いて座っているようにと勧められているリュカだが、その度に椅子に腰を落ち着けるものの、やはりじっと座っていることができずに窓辺に寄って外を見たり、普段は見もしない王室の天井を眺めて見たり、気を紛らすために石造りの王室の壁の石の数を数えてみたりしている。結婚した時に夫婦は喜びも悲しみも分かち合うものだと誓い合ったが、出産の痛みばかりは分かち合うことができないと、リュカは女性だけが負わなければならない痛みに申し訳ない気持ちにさえなっていた。
「しかしここでこうして待っていると、まるで坊ちゃんが生まれた時のようですね。坊ちゃんが生まれた時、パパス王はどんなに喜ばれたことか……」
サンチョはオジロン王と向かい合う形で椅子に腰を落ち着けていた。昔を回顧しながらどこかのんびりと遠くを見つめ、幸せそうに微笑んでいる。リュカは当然、自分が生まれた時のことなど覚えているはずがない。しかし今のリュカのように父もかつてここでリュカが生まれるのを待っていたのかと考えると、同じ時を過ごしているような不思議な感じを覚える。
「……父さんは僕よりも落ち着いてた?」
いつの間にか喉が渇いて声が掠れてしまったリュカに、サンチョは笑い声を漏らしながら答える。
「とんでもない。むしろ今の坊ちゃんよりも落ち着いておられなかった気がします。数分置きに『まだ生まれないのか』『マーサは大丈夫なのか』『ちょっと長すぎるんじゃないのか』など、兵士に確認させたり、階段を上って上に行こうとしてシスターに咎められたりと、今の坊ちゃんの方がよほど落ち着いていますよ」
「父さん、そんなに落ち着きがなかったの?」
リュカは過去の父の姿をサンチョに聞く度に、自分の思っている父の姿との差が大きいと感じていた。子供であるリュカから見るパパスの姿と、友人にも似た存在のサンチョから見たパパスの姿では、まるで別人であるくらいの差がある。国王としても威厳があり、国民からも慕われていたパパスだが、ただ一人の人間としてはとても人間味のある温かで隙のある人だったのかも知れない。
「あんまりパパス様のことをこうして話すと、怒られてしまいそうですね」
「そうだぞ、サンチョ。兄上のことをリュカに話す時は、少々誇張するくらいでちょうど良いくらいだ。あまり素直にべらべらと喋るものじゃない」
「そうですね、すみません、オジロン王」
「いやいや、まあ、実際兄上はああ見えて色々とやらかしていたからな。わしらが小さい頃なんて、弟のわしはいつも泣かされて……」
オジロン王とサンチョとこうして他愛もない話をしていると、リュカの心はいくらか安らいだ。今もビアンカは出産に向かって必死になっている最中だと考えると、リュカの心は強く押しつぶされるように息苦しくなるが、二人の話を聞いているとその息苦しさから少し解放されるように思えた。オジロン王もサンチョも、リュカの心を落ち着かせるためにこうして心が軽くなるような昔話をしてくれているのだと、リュカも当然気づいていた。二人の厚意を無下にすることがないよう、リュカは叔父と父の友人の話に耳を傾けていた。
しかしそのような話がいつまでも続けられるわけではない。話が一度止むと、王室内は再び静けさに包まれる。夜も深くなり、グランバニアの森には夜の鳥の鳴き声が静かに響いている。城下町も寝静まり、今は魔物の仲間の誰かが城の警備に当たり、城の兵士たちも交代で見張りについているだけだろう。彼らは今、ビアンカが出産の時を迎えていることを知らない。城の者がサンチョには至急で知らせたものの、他の誰一人として今のこの事態を知る者はいなかった。
「王子になるか王女になるか、どちらにしろめでたいことだな」
オジロンの言葉に、リュカは生まれてくる子供について自分が何も考えていないのだとこの時知った。ビアンカが苦しんでいる今、生まれてくる赤ん坊のことを考える余裕がなかった。今はただ、赤ん坊が無事に生まれ、ビアンカも無事に生きてくれさえいたら、それで良かった。子供を産み育てる母親が多くいる中で、出産で力尽き、子供を育てることなく命を散らしてしまう母が少なからずいることを聞いているリュカは、妻と子供の無事をひたすら祈ることしかできなかった。
大人しく座っていることも出来ず、リュカは王室内をうろうろと歩き回る。ビアンカがいる国王私室へ通じる階段には城の兵士が立っており、その道を閉ざしている。兵士に近づいて声をかけてみるが、まだ上階からの知らせはなく、何の物音も聞こえない。再び窓辺に寄り、外の夜の景色に目を凝らしてみたり、目が重たいと王室内にある水場でバシャバシャと顔を洗って、サンチョに手渡されたハンカチで顔を拭いたり、一度気分転換のために入口の扉から外に出ようとして兵士やオジロンに止められたりと、まるで落ち着きを失くしてしまっていた。
「これ、リュカ。少しは落ち着いたらどうだ。心配なのは分かるが、あまりオロオロしては父としてみっともないぞ!」
オジロンが笑いながらリュカに話しかける。そんなオジロン自身はドリスを産んだ妻を亡くしているのだが、既にその現実は時間をかけて受け入れ、今では国のことと無事に育ったドリスのことが頭の中を占めているようだった。もしそのような悲しい現実があろうとも、時間をかければ受け入れることも出来るのかも知れない。しかし今のリュカには到底受け入れがたいことだった。たとえ赤ん坊が無事に生まれても、ビアンカがいなくなってしまったら恐らく自分は気が狂ってしまうかも知れないとリュカは自分に自信がなかった。
「坊ちゃん、大丈夫ですよ。坊ちゃんたちとの長旅にも耐えた命です。きっと無事に生まれてきてくれます」
「うん、そうだよね……でも、もしビアンカに何かあったら……」
「あのビアンカちゃんですよ? 何かあることが想像できますか? 坊ちゃんとの旅の中でも一緒に勇ましくも戦ってきた女性です。そんな強い女性がここでどうにかなることなんてありません。どうか安心してください」
サンチョの言葉は自信に満ちたものだった。サンチョ自身はビアンカと旅に出たことはないが、それでも小さな頃の彼女を知る者としては、グランバニアにたどり着くまでの危険な旅の間でも彼女は楽しんでいたに違いないと思うのだろう。実際、ビアンカはリュカと結婚してから旅に出て、苦しいことも当然あったが、おおよそ旅を楽しんでいた。冒険の旅に出るという、まるで男の子のような幼い頃の夢が叶い、ビアンカは本当にリュカたちとの旅を楽しんでいたのだ。
「そうだね、あのビアンカだもんね。きっと元気な赤ちゃんを産んでくれる……」
そう言葉にすると、リュカにも自信が沸いてくるのを感じた。ビアンカの強さを信じる気持ちが強くなり、彼女も赤ちゃんも無事に違いないという思いが強くなる。悪い方向に考えていても仕方がないのだ。今は彼女と赤ん坊の無事を信じ、今までにないほど信心深い気持ちでリュカは神にすがるように祈った。
突然、王室内に弾けるような赤ん坊の声が聞こえた気がした。その声に、リュカははっと顔を上げた。しかし他の誰もがまだ神妙な面持ちでその時を待っている。リュカにしか聞こえなかった産声は、リュカの耳にではなく頭の中に直接響いたようなものだった。
「リュカ様! リュカ様! お生まれになりました!」
それから間もなく、上階から王室へ一人の侍女が走って知らせにやってきた。侍女の知らせに、王室内の鬱屈した雰囲気が一気に晴れるのを誰もが感じた。日付が変わる直前の夜中にも関わらず、グランバニアの城が朝日に照らされでもしたかのように、王室内にいる皆の表情が晴れ渡る。
「坊ちゃん! おめでとうございます!」
サンチョがリュカに駆け寄り、その手を取って握る。リュカはまだその実感がなく、ただサンチョの手の冷たさに驚き、サンチョも自分と同じように緊張の中にいたのだということだけが分かった。
リュカは玉座の前に立つオジロンに目を向けた。オジロンはまるで自分に孫が生まれたかのような穏やかな笑みで、リュカを見つめている。うっすらと目尻に涙を浮かべるオジロンの表情の中に、リュカは父パパスの面影を見たような気がした。兄弟と言う絆の中には、普段は見られないような似たところがあるのかも知れない。リュカがオジロンに歩み寄って、礼を述べようとすると、オジロンは首を横に振りリュカに言い放った。
「さあ、わしに構わずに行ってあげるがよい!」
何をどうしたらいいのか分からずにいるリュカに、オジロンは行動を促す。生まれた子供と妻に会い、父となるのだとオジロンは優しくリュカに頷いている。リュカは言葉も発せずにオジロンに頭を一度下げると、自身に命が吹き込んだかのように上階への階段に走って行った。
侍女に案内されるままに、この二か月毎日過ごしていた自分の部屋に再び入る。毎日使っていた部屋だというのに、今はまるで違う部屋に見えるのが不思議だった。大きなベッドの上にビアンカの姿を見ると、リュカは今まで溜めていた肺の中の息をすべて吐き出すかのような深い呼吸をした。ビアンカは無事に生きている。出産の疲労が隠せない状況だが、それでも目を開いて隣にいる小さな包みの中を覗き込んでいる。その表情が今までに見たことのないもので、リュカはしばし彼女のその表情に見とれてしまっていた。
侍女に連れられたリュカに、ビアンカはやはりすぐそばに近づいてくるまで気づかなかった。ビアンカは右隣にいる包みに目を向けたと思ったら、今度はその反対側にいる包みに目を向ける。彼女の両側に同じような白い包みがあり、片方はよく動き、もう片方は静かにビアンカに寄り添っているだけだ。
「ビアンカ……」
リュカはベッドのすぐ傍に寄り添い、ビアンカの名を呼んだ。そこまでして、ビアンカはようやくリュカに気がついた。それほどビアンカは両隣にいる白い包みに夢中なのだ。
「リュカ……私、頑張ったよ。よくやったって褒めてくれる?」
ビアンカの顔には明らかに疲労が残り、今も引かない汗が彼女の首に流れている。美しい金色の髪も顔や首に引っついているが、それを気にすることもない。そんなことはどうでもよいという、母となった強い心が生まれたように見えた。
「……うん、本当によく頑張ったね。偉いよ、ビアンカ。本当にありがとう」
「私たちの赤ちゃんよ」
出産の直後だというのに、ビアンカの意識が思ったよりもはっきりしていて、リュカは妻のその様子に驚いていた。出産の疲労は残っているものの、生まれたばかりの我が子を前に、疲労よりも喜びが勝っている様子がありありと窺えた。
「ビアンカさんはとってもよく頑張りましたよ。ほら。本当に可愛い玉のような男の子と、そして女の子も……。いっぺんに二人もなんて、リュカさんは本当に幸せ者だねっ」
実際に赤ん坊を取り上げたベテラン侍女がそう言いながら、ビアンカの隣で忙しなく動いている包みの中をリュカに見せた。包みの中には、赤ん坊と呼ばれる理由が分かるほど、産まれたばかりの赤い小さな生き物が元気に手足を動かしていた。赤ん坊は頑張って大きな声を上げているのだろうが、その声はまだまだ小さい。まだ目も開かない我が子を前に、リュカは今までに感じたことのない感覚が胸を占めるのを感じた。これほど小さな命だとは思っていなかった。少しでも触れたら傷をつけてしまいそうで、リュカはただ包みの中の元気な命をしっかりと目に焼き付けることしかできなかった。
侍女が大きなベッドの反対側に回り込んで、もう一つの包みの中をリュカに見せる。そこには全く同じような赤ん坊が両手を動かしていた。その手は母を探しているようで、ビアンカがその小さな手に触れると、赤ん坊は触れる母の手を確かめるようにずっと触っていた。たった今、母の腹から出たばかりで、新しい世界に不安を抱いているのかも知れない。母の腹の中の温かさに戻るように、今度は包みの温かな布に触れ、その温かさに安心したように両手で包み布を触り始めた。
「二人……双子だったんだ……」
「双子だったなんて、本当にびっくりしちゃった」
「こんなに小さいものなんだね、赤ちゃんって……」
包みの中にいる赤ん坊は、リュカの片手に収まるほど小さなものだ。まるで子犬や子猫と変わらない大きさで、その小さな中にもしっかりと人間の形を備えている。ビアンカの腹の中で十月十日育ち、生まれ出てきた赤ん坊は既にこの世界で頑張って生きようとしている。
ベテラン侍女と共に赤ん坊を取り上げたシスターが、赤ん坊の様子を確認しながら満足そうに頷く。シスターの目から見ても、全く問題なく健康で、元気な赤ん坊は今もビアンカの両隣で元気に動いたり静かに動いたりしている。
「男の子の方は目元がリュカ様にそっくり。優しそうで、しかもどことなく不思議で……。女の子の方は、そうね……やっぱりお母さん似かしら。大きくなったらきっと美人になりましてよ」
今までにも何人もの出産に立ち会い、赤ん坊を取り上げたことのあるシスターの言葉は非常に強く頼れるものだった。ただ赤ん坊が生まれた感動だけに浸るのではなく、彼女の冷静な言葉のおかげでリュカは我が子を現実的に受け入れる心の準備が整えられた気がした。生まれたばかりの赤ん坊はこれからどんどん育ち、やがては大人になる。今はまだ片手に収まるほどの小さな命だが、双子の未来は果てしなく大きく広がっているのをリュカは感じた。
「ねぇ……。赤ちゃんの名前、どうする?」
「え? 名前? あ、そうか、名前……」
「私はリュカに名前をつけて欲しいな」
ビアンカにそう言われるまで、リュカは生まれてくる赤ん坊の名前のことなど何も考えていなかった。ただ赤ん坊は無事に生まれてくるのか、ビアンカは無事に生きてくれるのか、それだけがリュカの頭の中を占めていた。しかし無事に生まれてきた赤ん坊には、当然名前が必要だ。名前を授けて、ようやくこの双子はこの世に認められることになる。父親として初めての、最も重要な仕事ともいえる名付けに、リュカは腕組をして思い切り難しい顔をした。
「ちょっと、そんな顔をしたら赤ちゃんが怖がっちゃうわよ。ほら、一度抱いてみたら? そうしたらそんな顔していられなくなるわ」
「えっ? でも、抱いてみるって言っても、どうやったらいいのかな」
リュカがオロオロし始めるのを、ビアンカもシスターもクスクスと笑い声を上げて見つめた。ベテラン侍女に促され、リュカは元気に動いている包みに手を伸ばす。侍女に抱き方を教えてもらい、恐々生まれたばかりの赤ん坊を腕に抱いてみる。片手に収まるほどの小ささだが、とても片手で持とうなどとは思えない、不安定なものだった。両手でしっかりと抱き上げ、胸に抱くと、包みの中の赤ん坊は目も開かないというのに必死になってリュカの方に手を伸ばしている。
「リュカが今抱っこしてるのは、男の子よ。とっても元気よね。生まれた時も元気な産声を上げていたわ」
王室にいる時に、リュカは元気な赤ん坊の産声を耳にした気がしていたが、恐らくこの子の産声がリュカの頭の中に響いたのだと感じた。包みに収まっているはずの足までもバタバタと動かし、とても元気な様子だ。生まれた世界に恐怖など感じず、彼はこの世に好奇心たっぷりに生まれてきた。それはまるで、産まれたばかりのビアンカを見ているような感じだった。彼女も生まれた時からこのように、この世界に希望や期待を抱いて生まれてきたのだろうと、リュカはそう思ってしまった。
「僕やビアンカはどうやって名前をつけられたんだろう」
誰しも生まれたばかりの時は名前がない。この世に生まれ、親から名前を与えられ、初めて一人の人間としてこの世に認められる。リュカもビアンカも、その他の人々も必ず誰かに名前を付けてもらっているはずだ。
「私は父さんのお父さんから名前を付けたんだって言われたことがあるわ。私のお爺さんよね」
「えっ? ビアンカのお爺さんがビアンカって名前だったの?」
「ビアンカは女の人につける名前だから違うと思うけど、でも私の名前の由来はお爺さんだったんだって聞いたことがあるわ」
「それってなんだか、優しい感じがしていいね。お義父さんだってきっと嬉しいよね、自分の孫に名前を継いでもらえるなんて」
リュカはそう言いながら、この双子の祖父に当たるダンカンのことを考え始めた。ダンカンは今、山奥の村で村人たちと過ごす毎日を変わらず送っているはずだ。この二か月の間に、ビアンカからダンカンへ一通の手紙を送ったらしいが、グランバニアから山奥の村まではかなりの距離があり、手紙はまだ届いていないものと思われた。グランバニアから山奥の村までは陸路、海路を通じて運ぶ必要があり、しかも山奥の村まで手紙を届ける便は本来ないため、ビアンカが特別に頼み込んだらしい。その話を後で聞いて、リュカは彼女をルーラで山奥の村まで連れて行ってあげれば良かったと後悔した。しかしビアンカは「面と向かって父さんに話すのは照れるから、これでいいのよ」と笑って済ましていた。
ビアンカは旅に出られたことを喜び、母を捜すというリュカの旅に文句も言わずについてきているが、その間父であるダンカンを一人村に残しているという思いは常に抱いているのだろう。こうしてグランバニアに着き、自身の容態も落ち着いたらすぐに、彼女は父ダンカンへ手紙を書こうかなと呟いていたのだ。ダンカンは娘を笑顔で送り出してくれたが、父も娘も互いに心配に思う気持ちがないはずがなかった。
「ダンカンさんから名前を取ったら、ダンカンさんも喜んでくれるよね」
ダンカンから大事な一人娘を奪った者として、リュカは義父に孝行できることを考えた。ダンカンの孫の名に彼の名を継ぐのは、非常に優しく思いやりのある考えだと思った。
「……うん、そうね。でもリュカのお父様だってそうよ」
「僕の父さん?」
「そうよ。パパスおじさまのお名前も使わせてもらいましょうよ。おじさまもきっとお喜びになるわ」
「でもこの子にどうやって二人の名前を……」
「何言ってるのよ。二人いるじゃない、可愛い赤ちゃんが」
ビアンカが笑いながら、自身の脇に寝かせられているもう一つの包みに目を向ける。包みの布を少しめくると、そこにはめくられた包みの布を捜すように小さな手を伸ばす赤ん坊がもう一人いる。リュカが抱いている息子に比べ、ビアンカの隣に寝る娘はとても大人しく見える。
この時にはもうリュカは明日の即位式のことなどすっかり忘れ、息子と娘の名前を考えるのに必死になった。ビアンカも産後間もなくの身体とは言え、無事に赤ん坊が生まれたという高揚感に包まれ、疲れを忘れて一緒に名前を考えた。その間、双子が同時に泣き出し、リュカが何事かと慌て始めると、ベテラン侍女が「そろそろおっぱいが欲しくなったのかね」とリュカから赤ん坊を受け取り、ビアンカの隣に寝かせた。ビアンカも初めての授乳に少々手間取ったが、まだ赤ん坊の双子は既に生命力に溢れていて、勢いよく母から乳をもらっていた。その姿を見て、ビアンカは安心したように微笑み、リュカは赤ん坊の力強さに思わず目尻に涙を浮かべた。
「男の子はティミー、女の子はポピー。どうかな」
母から乳をもらってすやすやと寝てしまった双子の赤ん坊を見て、リュカは唐突に思いついたようにそうビアンカに告げた。ビアンカの父の名はティムズと言うらしく、その名からティミー。リュカの父パパスから、ポピー。今までにも魔物を仲間にして名前を付けることがあったが、これほど頭を悩ませ、精神まですり減らしたのは人生で初めてのことだった。
「ティミーとポピー。ちょっと変わってるけど、ステキな名前ね」
「本当に僕がつけちゃっていいのかな。ビアンカは何か良い名前、思いつかない?」
「私はあなたが良いと思った名前がいいと思う。それにこの子たちも、明日にはグランバニア王になるあなたに名前をつけてもらったってことが、きっと誇りにもなると思うわ」
「そうかな」
「そうよ、決まってるじゃない。ティミーとポピー。この二人が大きくなるまでに平和な時代がやってくるといいね、リュカ」
「そうだね。本当に、そう思う」
ビアンカの言葉が身に染みて理解できる。親にならなければ分からなかった感情だった。ビアンカの両隣で小さな寝息を立てて眠っている、小さな小さな赤ん坊。これほど小さな命を、自分たちはいかなる危険からも守り、育てていく。この子たちに危険が迫れば、自分は命がけでこの小さな命を守らなければならない。それは親としての義務でも何でもない、純粋な感情から生まれる思いだった。
ビアンカの両隣の赤ん坊は、母の隣で安心しているように、二人ともとても安らかな寝顔で眠っている。そんなティミーとポピーの寝顔を見ていたビアンカも、思い出したように欠伸をし、目を擦る。産後の高揚感から抜け出し、ようやくまともに疲労を感じることができ、急に眠気に襲われたようだった。
「疲れたせいか、私何だか眠くなってきちゃったわ」
「そうだね、本当にお疲れ様。ティミーとポピーと一緒に、しっかりと眠った方がいいよ」
「そうね、少しでも眠っておいた方がいいわね」
「少しでも?」
「生まれたばかりの赤ちゃんって、一度にそんなにおっぱいを飲めないから、日に何度もおっぱいをあげなきゃいけないんですって。だからこの子たちと一緒に眠れる時は眠っておいたほうがいいって、シスターに教えていただいたの」
出産と言う大きな仕事を終えたばかりだというのに、母となったビアンカには休む間も与えられないという現実に、リュカは言葉を失った。リュカはもう少しビアンカと話をしたり、ティミーとポピーの寝顔を眺めていたりしたかったが、そんな悠長なことを言っていられる時でもないようだ。
「リュカも明日即位式なんだもの。早く寝た方がいいわよ」
「う、うん。でもその前に下で一緒に待ってくれていたオジロン王とサンチョに、ちゃんと知らせてくるね」
「そっか、一緒に待ってくれていたのね。一人じゃなくて良かったね、リュカ。私からもお礼を言っておいてね」
「本当に一人じゃなくて良かったって思う。一人だったらとてもまともに待っていられなかった……」
「じゃあ、悪いけど先に寝かせてもらうわね。おやすみ、リュカ。私、とっても幸せよ……」
ビアンカはまるで呪文でもかけられたかのように、眠りに誘われ、そのまま眠りに落ちていった。出産と言う大仕事を終え、これからは赤ん坊を育てるという大仕事が待っている。ビアンカの束の間の休息を妨げないようにと、リュカはビアンカの額に軽くキスをすると、その両隣にいるティミーとポピーの眠る小さな顔を覗き込み、自然と緩む顔を抑えられないまま階下の王室へと足取り軽く戻って行った。
Comment
bibi様。
ティミーとポピーの名前の由来が、ダンカンとパパスからというシナリオ、よく考えましたね。
ティミーのダンカンのことは分かりましたが、ポピーのパパスの由来が描写されてないので、教えてください。
今回の話は、おちついて安心しながら、ゆったり楽しませて戴きましたぁ。
しっかし双子の生命力は、はんぱないですね。
幽霊船に襲われ海の上で戦闘したり、砂漠の地獄熱をガンガン喰らい、激しい山を登っていたら、雷爺がプックルを一撃で殺しかける雷戦をしたり、1度酸素が薄い山の上で倒れたり、ものすごい勢いで崖から落ちたり、1度でなく2度までもグランバニアで倒れたりしているのに、こんな元気な赤ちゃんなんですね。
さすがは天空人の子供だね!(笑み)
次回は、とうとうあの最悪なイベントが待っているのでしょうか。
bibi様、即位式の時ヘンリーとマリアも招待してあげれませんか?
次回も楽しみにしていますね。
ケアル 様
いつもコメントをどうもありがとうございます。
ティミーとポピーの名前の由来は、公式のDQ5小説より拝借いたしました。名前をそのまま拝借するので、祖父の名からつけるという由来もそのままお借りしました。その設定ってとても温かいなぁと思ったので。ポピーの名前の由来は……パパスとポピー……なんとなーく音が似てるなぁということでお願いできますか?^^; パパスを女の子につける名前にすると、ポピーになる、くらいで。公式の小説はもっとしっかりとした説明があるのでしょうが……すみません、こんな何となくな設定でm(_ _)m
双子の生命力は、それはもういろいろなものに守られているということでしょう。本人たちが頑張って生きていたというのはもちろん、生かされていたという側面もあるかなぁと思っています。
次回にあのイベントが来るかどうか、まだ怪しいところです。宴で終わる可能性も。
即位式へのヘンリーとマリアの招待は……ちょっと難しいかも知れません。もし彼らを呼ぶとしたら、これからサンチョやオジロンを説得しなくてはならない……。特にサンチョはラインハットに対して憎しみすら抱いていてもおかしくないので、感情的にも無理かも。すみません……。本当は式に呼んで、友達どうしてわいわいやって欲しいんですけどね~。
ビビさん
ついにこの時が…!と言いたいところですが、まだ赤ん坊なのでキャラクターとしての誕生という意味ではもう少し先になるでしょうか。
でも何にせよめでたい。読み始めた頃が遠い昔のようですよ( ´∀`* )
そう言えば名前はどうするんだろうと思って読んでましたが、やはりリュカと同じく小説版準拠なのですね。
小説版ではティミーポピーは愛称で本名はティムアルとポピレアでしたが、ティミーポピーをそのまま本名として採用する感じですか?
サンチョは、原作の仲間会話でもラインハットに対して複雑な感情を抱いているようでしたね。
仕方のない事ではありますが、今後は友好国として付き合って行く事になるでしょうし、いつか受け入れて前に進んで欲しいです。
ピピン 様
コメントをどうもありがとうございます。
そうですね、まだ生まれたばかりなので、しっかりとお話に出てくるのはもうちょっと先になりそうです。
名前は公式の小説に倣いましたが、私の方ではティミーとポピーが本名と言うことで行きたいと思います。おおよそ王家らしくないポップな名前ですが。リュカもリュケイロムではなく、リュカ。もうややこしいことはしないで、簡単に済ませたいと(私の頭が追いつかなくなるので……)。
サンチョはビアンカよりもはっきりとラインハットに対して複雑な感情を抱いています。ヘンリーの父である先王のことも知っていて、彼がパパスを呼び出さなければ……という思いもあるので。彼がラインハットを受け入れるにはもう少し年月が必要になるでしょうね。完全に受け入れることは難しいかも知れませんが。
ビビさん
定着しているのはティミーポピーで、殆どそっちしか使わないですしね。
リュケイロムに至っては名前として認識しづらい(笑)
何かしらキッカケが必要ですよね…。
負のイメージを塗り替えるくらいの。
ピピン 様
なるべく面倒なことはしたくないという私の浅はかな考えのもと、当サイトのお話は進んでおります……(笑)
サンチョがヘンリーと直接話をして、ラインハットの復興にヘンリーも尽力している姿を見れば、サンチョの心も少しずつ救われるのかも知れませんね。
bibi様
そしてピピンさん。
いやそうなんですよね…。
あの日、サンチョはラインハットの襲撃を免れ、命からがらグランバニアへ旅をした。
王であるパパスの死を受け入れ、国であるグランバニアへ報告に行ったサンチョ。
どう考えてもラインハットに恨みがあって当たり前!
リュカが、ヘンリーの誤解をサンチョに話をしても、やはり…パパスの死に大きな原因を持ったヘンリーは、サンチョにとっては、大金槌での会心の一撃が来てもおかしくないですよね…。
しかも、まだサンチョに奴隷の話をしていない今、リュカが王様になる話をヘンリーに言い、即位式に来て貰うのは、サンチョが許さない…ですよね…。
ケアル 様
サンチョもリュカから話を聞けば、ラインハットのこととしっかり向き合うようになれるかも知れませんが、彼にとってはずっとしこりが残るものだと思います。
サンチョが当時子供だったヘンリーのいたずらを責めるほど人の器が小さい人物だとは思えませんが、それでもヘンリーに対して良い印象は持たないでしょうね。リュカはその辺りが理解できるが故、サンチョにラインハットでのことが詳しく話せずにいる……そんな感じでしょうか。
でもこの即位式を逃すと、次にヘンリーに会うのは……ずいぶん先になりますね^^;