姿を消した者
真夜中を大分過ぎた頃、グランバニア城二階の大会議室にて緊急会議が開かれていた。会議には国王であるリュカを初め、オジロン、サンチョ、兵士長に一般兵士たちが顔を揃えている。会議が始まるまでにも時間がかかり、その間リュカは苛々しつつも国王としてじっと待たなければならなかった。
会議が開かれる数時間前、サンチョはリュカと話していた国王私室から飛び出し、城下町で眠りこけている人々を起こそうと、城下町へと急いで向かった。しかしサンチョが城下町に着くと、ちょうど人々が次々と眠りから覚めていた頃だった。サンチョは事の次第を説明するのは後回しに、とにかく人々を起こし、家に帰って休める者は休むよう、城の兵士たちには警備に当たる者と兵舎で休む者、そして二階の会議室へ向かう者とに分け、それぞれを誘導した。かつての国王パパスのお付きの者であったサンチョのことを知らない者はおらず、彼の誘導に素直に従い、特に騒ぎ立てる者もいなかった。中には少々騒いで混乱を招きそうな人もいたが、サンチョや上役の兵士たちが落ち着いて執り成し、グランバニア城そのものが混乱に陥ることはなかった。
それと同じ時、リュカは外で倒れている魔物の仲間たちを助けに向かった。四階の国王私室の窓から飛び出し、すぐさま倒れている仲間たちの様子を窺う。幸い、命が尽きている魔物はおらず、リュカは次々と回復呪文で仲間たちを回復した。魔力が底をつくことなど何も考えないままに回復呪文を使ったため、キングスを回復する頃には魔力の使い過ぎと寝不足と疲労で、リュカ自身がふらふらとその場に尻餅をついてしまった。慌ててピエールが追って仲間たちの回復を引受けた。
宴に参加していた魔物たちも間もなく駆けつけた。スラリンにスラぼう、ガンドフ、マッドと来たところで、リュカは他の魔物の仲間はどうしたのかと彼らのことを尋ねた。ピエールが他の仲間は他の場所の警備に当たっていたはずだと説明すると、リュカは考えるよりも先に他の仲間たちであるメッキー、ゴレムス、ミニモンを探しに行こうと駆け出した。しかしプックルが外に飛び出そうとするのを目にし、足を止め、プックルの行動を制止した。
「プックル! どこに行くんだ!」
「がるるるる……」
リュカの叫ぶ声にもプックルは動じることなく、しかし一匹で飛び出す無謀さはどうにか抑えられたようだった。リュカにはプックルの気持ちが痛いほど分かっていた。プックルは自分のせいでビアンカが危機に晒されたと分かっているのだ。リュカの真剣な顔つきを見て、プックルは否が応でもその気配を感じ取っていた。
「僕も同じ気持ちなんだ。でも、まだ何も分かっていない。どこに行けばいいのかも分からない。先ずは今できることをやるんだ、プックル」
「ぐるるる……」
「絶対に一人でどこかに行ってはいけないよ。行く時は、一緒だ。分かったね?」
リュカが低い声でそう伝えると、辺りの空気が張り詰めた。今、最も窮地に立たされているのは妻を攫われたリュカなのだと、プックルも理解した。そのリュカが、今すぐにでも城を飛び出して妻を助けに行きたい気持ちを抑え、冷静にと自身に言い聞かせ、やるべきことを探している。プックルはリュカのその気持ちに寄り添うように、彼の前で我慢するように頭を垂れた。
「……絶対にビアンカは助ける。でも今はどうすればいいのか分からない」
「がうがうっ」
「敵は皆、空を飛んできました。羽の生えている魔物ばかりがこの城を襲いました」
「あれほどの集団で、しかも統率も取れておった。どこかに敵の根城があるのかも知れん」
回復呪文でどうにか体力を取り戻したピエールとマーリンも、集団で襲いかかってきた魔物たちに太刀打ちできなかった悔しさをにじませながらそう話す。キングスが夜空を見つめている。か細い月は城の裏側にまわり、その姿は既に見えない。しかし空は晴れているようで、星々が美しく明滅している。その星の光を遮るようにして、魔物の集団は姿を現したのだろう。
「ビアンカ、イナイ?」
その場に居合わせなかったガンドフにはまだ事情が良く呑み込めていないようで、首を傾げて一つ目を不安そうに揺らしている。スラりんとスラぼうは目を見合わせて不思議がり、マッドにはまだ何が何やら分からないようで、ただいつも通り笑ったような顔で皆を上から眺めるように見つめている。
「ピー、ピキー……」
「大丈夫だよ、みんな。ビアンカは少しだけ遠くに行っただけなんだ。すぐに無事に連れてくるからね」
他に言い訳らしい言葉も思いつかず、リュカはただ不安がる仲間たちをなだめるようにそう言うだけだった。しかし仲間を安心させる言葉を口にすることで、リュカ自身もほんの少し不安から解放されたような気がした。ビアンカは必ず無事に戻って来る。彼女の何かあることは許されないのだと、リュカは強くそう思うようにした。
「リュカさん、私たちは城周辺の様子を確かめて参ります」
そう言いながら、サーラもキングスと同じように北の空をじっと見つめている。その様子に、リュカは思わず首を傾げた。まるで何かが見えているかのように夜空を見つめる二匹の視線を、リュカも厳しい目つきで追う。
「何か見えているの?」
「いえ……とにかく王は城の人々の目を覚まさせ、王としてやるべきことをやってください。私たちは私たちですぐに周辺を調査します」
サーラがこの場は責任をもって引き受けると話し、リュカは彼に城の外のことを任せることにした。まだ人間が目を覚まさない今、城の外のことは彼らに任せるしかない。
「ところで、他のみんなはどこにいるんだろう。城の中にいたのかも知れないけど、気がつかなかった」
「城の反対側の警備に当たっていた仲間もいます。それらも含め、後のことは私たちにお任せください」
「リュカ殿は城の中の人々のことをよろしくお願いします」
サーラとピエールがグランバニア王となったリュカに城の中に戻ることを推し進める。それはリュカに対する牽制でもあった。この事態の中、国王の立場であるリュカが仲間であるとは言え魔物たちと共にいることが知れれば、果たしてグランバニアの人々がどう思うだろうか。グランバニアの人々はマーサの連れた魔物たちとも、リュカの仲間である魔物たちとも手を取り合い、共に国で暮らしている。しかしこの非常時に国王たるものが人間ではなく魔物たちといることは、あまり好ましくない状況なのだと、サーラもピエールも冷静にそのことを理解していた。
しかしリュカには彼らのその意図は届いていなかった。ただリュカも仲間に言われる通り、国王としての責務を果たさなくてはならないと心に強く思うのは事実だ。しかし魔物に攫われたビアンカのことが頭によぎると、どうしようもない怒りや悲しみや苛立ちが身体を蝕もうとする。今すぐにでも敵の後を追って彼女を救い出したい。しかし敵がどこに行ったのかも分からない。何もできない自分の非力に、リュカは心の中でビアンカにひたすら謝ることしかできなかった。
「にゃあ……」
リュカの隣にプックルが寄り添う。プックルも同じように悲しげで、そして怒りを含んだ目をしていた。その上、プックルはリュカの顔をずっと見ないまま、まるで謝るかのように頭を下げ続けていた。プックルのその気持ちが痛いほどに分かり、リュカは安心させるように「大丈夫だよ、お前のせいじゃない」とプックルの赤い鬣を優しく撫で続けた。
「また後でここへ来る。その時、また話を聞かせて」
リュカはサーラにそう告げると、既にサンチョが行っているグランバニア城下町へと足早に向かっていった。それがもう数時間前のことになる。
そして今、リュカは城の二階にある大会議室にいた。オジロン、サンチョ、兵士長と兵士たちが席に着き、双子を守り通した侍女が後ろに控えるようにして立っている。彼女の計らいにより、今ティミーとポピーは他の侍女の世話を受けている。そしてシスターとも話した結果、ティミーとポピーの乳母は宿屋の女将がその役を引き受けてくれている。他にも数人、乳母になりそうな女性もいたが、リュカが宿屋の女将に対して是非にとその役を頼んだのだ。ビアンカは宿屋の娘として育ったということが、リュカの頭の中にはあった。少しでも実の母親に近いものがあるのではないかと、リュカ自ら宿屋の女将にその役をお願いした。女将自身も、ピピンという彼女の子供も、初めは国王私室の雰囲気に圧倒されていたが、ピピンがティミーとポピーに優しい目を向けてくれているのを見て、リュカはこの人たちに頼んで間違いないと思っていた。
「すると城の者たちが眠りこけた頃、怪物どもがやってきたと申すのだな?」
国王になったばかりのリュカだが、彼の妻が攫われてしまったことを慮って、会議はオジロンを中心に進められた。会議に出席している面々はまだ眠り薬による眠りから覚めたばかりで、初めの内はそれぞれがぼんやりとした顔をしていたが、王妃が攫われたという事実を聞くや否や、その顔つきは真剣そのものになった。兵士を束ねる立場の兵士長や少々年を経た兵士などは、二十年前の王妃誘拐の現場に居合わせた者もいる。忌まわしきグランバニアの過去に戻ったように、彼らは緊迫した様子で会議に臨んでいた。
「はい。でもビアンカ様はいち早く邪悪な気配を感じられ……私に赤ちゃんを連れて隠れるようにと……」
双子を守り抜いた侍女はこの会議の緊張感の中でも、自身の役割を全うすべくはっきりとした声で話した。事実は確かに伝えなくてはならないと心に決めつつも、やはり彼女の中にはまだ恐怖が残っているようだった。緊迫した会議の雰囲気に押されるのではなく、王妃と会話をしていた魔物の低い声が耳に響くようで、その声に身体を小さく震わせていた。その時のことを話すことで、鮮明にその声が頭の中に響いてしまうようだった。
「本当に、申し訳ございません……私が王妃様を……」
「そなたはそなたのできることをよくやってくれた。王妃の命令を守り、王子と王女を守り抜いてくれたのだ」
侍女の懺悔の言葉に、オジロンは彼女を責めることはなかった。リュカと同じように、侍女の当時の心情を察し、その時できることを最大限にしてくれたのだと理解していた。
「それにしてもこの騒ぎに誰も気づかぬほど眠りこけていたとは妙ですね」
兵士の一人が隣に座る上司である兵士長に小さく話しかける。グランバニアの兵士たちは上下の関係こそ当然あるが、上だからと言って押しつけがましい意見は言わず、下だからと言って自身の意見をひっこめることもない、互いに信頼ある関係性がそこにあった。今回のように国の会議という大きな場でも、兵士長のみならず一般兵にも参加させることはグランバニアという国の特徴の一つでもあった。
「何者かが祝賀の酒の中に眠り薬でも入れたのかも……」
直属の兵士の言葉に、その長が答える。そして会議室内はざわつき始めた。会議室に集められた面々は皆、城下町にて宴に参列し、量はそれぞれ異なるものの飲酒をしていた。宴が始まり、ちょうど二時間ほど経った頃から、皆の記憶が一様になくなっていたという事実を既に確認している。城下町に住む人々の話も聞き、やはり同じ頃合いに眠ってしまったことを兵士たちは聞き出していた。
「だが酒など飲めない子供もいる。子供でなくても、酒の飲めない人間はいるだろう」
「酒だけではなく、あらゆる飲み物に眠り薬が入れられたのかも知れません。子供たちもやはり同じ頃、眠りに就いているようでした」
「城の魔物たちもいくらか城の中で倒れていたようです」
それがスラりんとスラぼう、ガンドフ、マッドだったことはリュカも知っている。彼らは酒など飲まず、出されたジュースを飲んでいただけだった。それでも他の者と同じように、城下町で眠り込んでいたようだった。
取り留めもない兵士たちの会話が続き、その全てにリュカは耳を傾ける。しかし内容が頭に入らない。リュカの頭に占めるのは、攫われたビアンカのことだけだった。彼女は無事なのだろうか。一体何故、ビアンカが攫われなければならなかったのか。敵の目的は一体何なのか。二十年前に起こったマーサ王妃の連れ去りと似た状況と言うが、それが一体何を示しているのか。リュカの頭の中に渦巻いているのは、ただ妻の安否への不安と、この事件が起きたことへの疑問だけだ。
「そういえば大臣の姿が見えんな。大臣はどうした? 誰か大臣の姿を見た者はおらぬか?」
オジロンがざわつく大会議室の中で、大きな声を出して問いかける。先王の通る声に、集まる兵士たちはじっと押し黙る。誰もが言葉を発しない。決してオジロンの声に慄いているわけではない。兵士たちは誰一人、常にオジロンの隣に立っていた大臣の存在を知らないのだった。それは非常に不可解なことだった。大臣はいつでも必ず、誰かしらに自身の居場所を報せておくのが常だった。それと言うのも、何か困ったことがあれば自分に相談しなさいと言う建前の下、彼は全てを掌握していなければ気が済まない性質だった。そのため、大臣自ら誰ともつながりを持たないということは今までにありえないことだった。
兵士たちの間に長い沈黙が流れる。この状況で大臣の不在は、あまりにも異常だと、誰もが嫌でも気がついた。兵士たちの誰もが大臣の居場所を知らない時は、必ず先王であるオジロンがその場所を知っているはずなのだ。しかしオジロンも大臣がどこにいるか、知らされていない。
「ふむ……いつもならここで大臣の助言を聞くところだが、いないものは仕方がないな」
オジロンは本音を喉の奥に飲み込んで、会議室の平和を乱さぬよう平静を装った。表面上、会議室内の落ち着きは保たれたものの、居合わせるすべての者に疑念の思いが生まれるのは防ぎようがなかった。
その後も宴の時の城下町の様子や城外警備に当たった者の話などがなされた。普段、兵士たちが過ごす城の二階においても、一人残らず眠りに就いていたという話も出た。宴が開かれている最中、水も何も飲まない人間はいない。眠り薬は葡萄酒だけではなく、飲み水にさえ含まれていたのではないかと、皆は不気味な現象に眉をひそめていた。
「リュカ王……心中お察し申すぞ」
会議の最中、じっと顔を俯け、何も発言しないリュカを隣に見て、オジロンが気遣わしくそう声をかける。しかしリュカにはその声も聞こえていなかった。早くこの会議を終わらせて、やるべきことをやるだけだと、リュカの心は急いていた。次に何をするべきかは決まっている。腕組をしながら右足を常にゆすっているリュカを見て、オジロンは心苦しい表情をしながら、がたっと席を立つ。
「会議はこれにて終わりとする。各々持場に行き、人々の話を聞き、攫われた王妃様の行方を……とにかく一刻も早く王妃様を探し出すのじゃ! では、ゆけっ!」
これ以上ここで話をしていても、新しい情報が出るわけではない。しかしここではっきりと分かったことが一つあった。そのことに向けて、リュカはさっそく動き出そうと勢いよく席を立つ。
「坊ちゃん……まさかビアンカ様を探しに行かれるおつもりでは?」
常にリュカを注視していたサンチョがすかさずリュカに声をかける。図星を刺されたリュカの耳に、サンチョの声ははっきりと届いた。目が覚めたようにはっと顔を上げ、素早くサンチョを見る。その少しの仕草で、充分サンチョには伝わった。サンチョは青ざめた顔でリュカの前に立ち塞がり、その両腕を擦りながら言う。
「それはなりません! お気持ちは分かりますが、ここは兵士たちに任せて。生まれたばかりのお子たちもいるのです。どうか……どうか……」
サンチョの言う通り、城の四階には生まれたばかりの双子ティミーとポピーがいる。リュカは父親として彼らの傍を離れるわけには行かないという思いが当然のようにある。母であるビアンカが不在の今、尚更二人の元を離れるわけには行かないという親としての思いがリュカの心を縛り付ける。しかしこのままビアンカを見捨てるという選択肢はない。
「坊ちゃん! いえ、リュカ王! 王妃様はきっと見つかります。ええ、見つかりますとも!」
サンチョがそう強く言うのは、自分自身がそう信じたいからだろうとリュカは思った。サンチョは既に先王パパスの妻マーサが連れ去られた現場に居合わせ、そしてマーサを待ち続けている一人だ。マーサを救うべく、国王であったパパスの侍従として共に旅に出て、まだ幼いリュカの世話をしつつ、マーサが国に戻ることを信じて疑わなかった。パパスの強さを信じていた。
しかし、そのパパスが敵に敗れ、命を落とした。それはサンチョの中での絶対的なものがなくなってしまったに等しかった。必ずマーサは無事である、必ずビアンカは無事である、という彼の言葉は彼自身が強くそう思わなくてはならないほど絶対的なものではなくなってしまったのだろう。
「サンチョ、大丈夫。僕は何も分からないまま飛び出したりしない」
リュカにはそう答えるのが精いっぱいだった。他のどんな言葉を以てしても、サンチョに自分の本心を伝えることは不可能だと思った。言葉を紡げば紡ぐほど、自分がこの国から遠ざかっていくような気がして、それ以上は話せなかった。
「とにかく僕は子供たちの所へ行くよ。心配だから」
それはリュカの本心だった。まだ生まれたばかりの双子が母を失ってしまったのだ。ティミーとポピーに何かあっては困ると、子供たちの様子を見に行きたいと思ったのは本心だった。
「私もお供します。良いですか?」
サンチョの声が厳しかった。彼は恐らくリュカが一人でどこかへ行ってしまいかねないと考えているのだとリュカは思った。
「もちろん。サンチョが一緒にいてくれたら、心強いよ」
リュカは笑って言ったつもりだったが、実際には無表情に近いものだった。サンチョが心配そうにリュカを見つめ、そして視線を逸らし「参りましょう」と声をかける。サンチョがリュカを監視するつもりでついてくるのだろうということはリュカも勘づいていた。それでもリュカはすぐにでもビアンカを助けに行きたいという気持ちを抑えることは到底できそうもなかった。
まだ真夜中に当たる時分、国王私室では静かな時を過ごしていた。双子を守ってくれた侍女がちょうど城の厨房から出てくるところで会い、リュカは彼女とサンチョと共に双子が休んでいる国王私室に入った。
ティミーとポピーは母を恋しく思って泣くでもなく、今は白い包みの中ですやすやと眠っていた。生まれたばかりの赤ん坊にとって、まず大事なものは栄養だ。栄養を与えられなければ、この小さな命はすぐにでも尽きてしまう。今はその栄養を得て、落ち着いて眠りに就いているようだった。
「国王様、この度は……」
二人の乳母を引受けてくれた宿屋の女将が緊張したように立ち上がり、リュカに深々と頭を下げる。彼女自身、急な出来事で頭が追いつかない様子だが、それでも目にした双子の可愛さと母を求める切なさに、二人を絶対に健やかに育てようと決心してくれていたようだった。
「あなたのおかげで二人が無事に育ちそうですね。ありがとうございます」
ビアンカがこの場にいない悲しみとは別に、リュカは双子の命がこれからも繋がりそうだということに、宿屋の女将に心から感謝した。生まれたばかりの赤ん坊を男であるリュカが一人で育てることなどできない。ビアンカが双子に乳を与えている姿を見て、リュカはその役目を引受けられたらと願ったが、男であるリュカにはどうしてもできない女性の特権のようなものなのだ。
「まだこの子が完全に乳離れできていなかったもので、それでお役目を引受けました」
彼女が視線を投げかける先には、大きなソファで眠りこける男の子がいた。いつもリュカが使っているソファで、ピピンと言う男の子は何の緊張感もなくすやすやと深い眠りに就いている。
「その子もあなたも、このベッドを使って休んでください。十分みんなで寝られる大きさです」
「と、とんでもない! そちらは国王様ご夫妻のお休みになるところです。この大きなソファだって、私どもの営む宿には一つもないくらい豪華なもので……こちらで十分でございます」
しかしそんな母の緊張などお構いなく、ソファで休んでいる男の子は容赦なく寝がえりを打ち、ソファから落ちそうになる。落ちかけたところを母が慣れた様子で抱き上げ、再びソファに寝かせようとする。リュカはそんな母子の様子を見て、困ったような笑みを浮かべた。
再びソファに寝かせられたピピンと言う男の子をリュカはじっと見つめる。ピピンは口を開けて気持ち良く眠っている。リュカは男の子をすっと抱き上げると、双子の眠っているベッドまで運び、その横に寝かせた。赤ん坊二人に子供が一人眠っている状態では、この広いベッドの半分も使わないくらいだった。
「子供と言っても、これくらいになると結構重いんですね」
「子供の成長はあっという間です。この子も気がついたらこんなに大きく育っていました」
ティミーもポピーもあっという間にこの男の子ぐらいに育ってくれるのだろうかと、リュカは白い包みの中の二人の寝顔を見つめる。その隣に寝るピピンはまるで双子の兄のようだと、並んで眠る三人を見ながらふっと微笑んだ。リュカはこの男の子が、宴の際にリュカにかしこまりもせず堂々と話しかけてきた男の子だということを覚えていた。きっとピピンと言うこの男の子は何が何やら分からずこの場に連れてこられたのだろう。
このグランバニアにいる限り、ティミーもポピーも様々な人の護りを受けられる。それはサンチョであり、オジロンであり、双子を守ってくれた侍女であり、乳母となった宿の女将であり、このピピンと言う男の子であり、多くの人に助けられ、二人は育つことができるだろう。オジロンの娘ドリスもきっと双子の良き姉となって面倒を見てくれるに違いない。
この場に足りないのは、ビアンカだけなのだ。彼女さえ戻れば、リュカは何一つ心配することもなく、再び母マーサを探す務めを続けられる。そして彼女を必要としているのはティミーとポピーだけではなく、むしろ自分が最も必要としているのだとリュカは内心気がついていた。
白い包みの中でティミーが身じろぎをした。ほんのわずかな動きだったが、リュカはその小さな動きを見て悲し気に頬を緩める。ティミーもポピーも小さな体で懸命に生きている。この子たちを絶対に死なせてはならないというビアンカの思いがリュカにもはっきりと伝わる。
じっと見つめていたティミーとポピーの周りに、薄ぼんやりとした光が浮かび上がるのをリュカは見た気がした。昨日、今日とほとんど寝ていないリュカは、寝不足のために目がおかしくなったのかと目を擦る。しかし再び赤ん坊を見ようと目を向けた時、激しい光が部屋中に満ちた。
光を見たのはリュカだけではなかった。部屋にいたサンチョも侍女も乳母も、皆がその光の中にいた。真夜中の王室にまるで太陽が現れたかのような光が満ち、それが部屋の隅から発していることに彼らは気がついた。
部屋の隅にはリュカが旅の中でずっと持ち続けていた荷物が置かれていた。おおよその荷物は部屋の棚や箪笥の中に片付けられていたが、一つだけどこにも片付けられない大振りの剣が布に巻かれた状態で棚の上に置かれていた。それが深緑色の布の中から溢れるような光を放っている。直視できないほどの光の量に、リュカは目を細めたままその剣の近くまで寄ろうとするが、布に包まれた剣はまるで生きているかのように自ら布を脱ぎ捨てていく。
現れた刀身に、サンチョが息を呑んだ。サンチョはこの剣の存在を知っていた。リュカが幼い頃、父パパスが息子に隠し続けた伝説の剣の存在は、サンチョにだけは知らされていた。
「こ、これは……パパス様が求められた天空の剣!」
美しく神々しい天空の剣は今も眩い光を放ち続けている。部屋の中に突然小さな太陽が現れたようで、居合わせる者は皆、まだ目を細めている。天空の剣は今、部屋の隅で中空に浮かび、部屋にあるもの全てを照らしている。サンタローズの洞窟奥深くでこの剣を見つけて以来初めて見る状況に、リュカは無意識にも子供たちが眠るベッドの前に立ち塞がり、彼らを守ろうとした。そうしなければ、この神々しくも恐ろしい光に子供たちが傷つけられてしまうのではないかと思った。
「どういうことでしょう……」
サンチョが呟く言葉にも、居合わせる皆はまだ沈黙する。天空の剣の異常な状態にリュカは徐々に神々しさよりも恐怖が増していくのを感じた。旅の最中はずっと布に包まれており、その美しい姿を隠していたため何も思うことはなかったが、一度その姿を現せばその美しい造形の剣にどうしようもない畏怖の念を抱いてしまう。自ずと輝くその姿はまるで神が降臨したかのようで、リュカだけではなくサンチョも侍女も乳母も、皆がそれぞれに思いを抱いた。
「この剣で……いや、この剣が城を守るというのでしょうか?」
サンチョにはこの天空の剣の光に期待する思いがあった。パパスがこの伝説の剣を発見し、光り輝く剣を目にした際にも、サンチョは神の化身がこの剣に宿っているのではないかと思った。パパスにもサンチョにも装備できない天空の剣は、持つ者を『勇者』と言う世界でもたった一人に選定する特別な剣だ。剣自身が持つ者を選ぶその性質はまさしく神そのものなのではないかと、天空の剣を目にしたその時からそのような思いが彼の中には生まれていた。
「……そうなのかも知れないね」
サンチョの言葉に同調するように、リュカもそう言った。自ら光を放ち、中空に浮かぶという特別なこの剣が、子供たちを、グランバニアを守る力を持っていてもおかしくはないと自然に思えた。天空の剣が放つ光は優しいものではなく威厳に溢れた強い光だ。魔に染まった魔物たちがこの光を浴びれば、弱い者などはその光に溶け、強いものでも好んでこの光に近づこうとは思わないだろうと、リュカは想像する。
そのような思いを強くする中、リュカは天空の剣の力を借りて、その力に委ねようと考えていた。
「サンチョ、この剣を持っておいてくれないかな」
「え? 私がですか?」
「うん。だって誰か悪い奴に盗まれでもしたら大変だからね。大事に保管しておいてほしいんだ」
リュカの提案にサンチョは唸るような声を上げ腕組をした。城の保管庫に置いておくのが良いのか、それともこの部屋でどこか隠しておける場所を考えるか、それとも王室のどこかに隠し場所を見つけるか、保管場所を考えるサンチョの頭の中はぐるぐると回っていたが、今の状況で落ち着いて考えていられず、とにかく意を決してリュカの願いを聞き入れることにした。
「分かりました。……ともかく、この剣は大事にお預かりしておきます」
「ありがとう。こういうことを頼めるのはサンチョだけなんだ」
「はい、パパス様が発見されたこの剣、命に代えてもお守りいたします」
「うん、じゃあ……あとはよろしくね」
そう言って、リュカは一度ティミーとポピーの寝顔を見つめた。二人はこの光の中でもすやすやと落ち着いて眠っている。その隣ではピピンも堂々とした寝相で眠っている。天空の剣の光は子供たちの眠りを妨げることなく、ただ強い光でこの子たちを守ってくれるだろうとリュカは双子の寝顔を見ながら口元を引き締めた。
リュカがベッドから離れ、部屋の扉に向かうと、サンチョが慌てて声をかける。
「どこへ行かれるおつもりですか?」
「一つだけ確かめたいことがあるんだ……一つだけね」
そう言いながらリュカは頭の中にある人物を思い浮かべていた。緊急会議に出席していなければならないのに、姿を現さなかった人物がいた。リュカだけではなく、会議に出席していた者たちの多くは、その人物に疑念を抱いていたに違いない。
「どうか坊ちゃん、いえ、リュカ王、無茶をなさいませんように……」
リュカの思いにサンチョは嫌でも気がついていた。いつもの穏やかなリュカの中に、誰にも負けないほどの怒りが渦巻いている。愛する妻を攫われたリュカの背に激しい怒りを見ながら、サンチョはリュカを止められない自分の弱さを嘆いていた。
リュカは国王私室を出ると、足早に城の二階へと向かった。王室でオジロンが神妙な顔をしながら兵士と話す横を、リュカは無表情のまま会釈をして通り過ぎた。オジロンが強引に自分を引き留めないという現状に、リュカは甘えることにした。妻を攫われたリュカを気遣う風で、足早に去るリュカをオジロンは止める言葉を持っていなかった。
王室を出ると、城を彩る大きな庭園が広がる。真夜中の庭園ではただ草も花も静かに風に揺れるだけで、本来人影などない場所のはずだった。しかしその庭園の中で一人、空を見上げて佇む小さな人影をリュカは見た。こんな夜中に一人で夜空を見上げる人物と目が合うと、リュカはやはり無表情のままその人物を見つめる。リュカに近づいて来たその人物も、ドレスの裾を気にすることもなくずかずかと歩いてくると、突然核心をついて話をしてきた。
「リュカ、ビアンカ様は……本当に……?」
全てをはっきりと言えないのはドリスの中でその事実を認めたくないのだとリュカにも伝わった。いつもの元気さが感じられないドリスの姿に、彼女が深く傷ついているのが分かった。しかしリュカの手前、自分が傷ついている姿を素直に表すことに躊躇している様子も感じられた。
「大丈夫。絶対に助け出すよ」
自信を持ってそう答えなければリュカ自身、気が狂ってしまいそうだった。ビアンカがこのまま魔物に連れ去られたままで良いはずがないと最も信じているのはリュカなのだ。リュカの強がりにも似た言葉だったが、ドリスはその言葉を額面通りに受け取り、落ち着いた様子で小さくため息をついた。
「ドリスは中に入っていた方がいい。外は危ないから」
リュカはそう言いながら、ドリスの顔を窺った。真夜中の暗さで顔色は分からないが、その表情が怯えたものだと感じた。城下町で宴が開かれていた時、ドリスも当然参加していたはずだが、リュカは彼女の姿を一度見ただけでその後は目にしていなかった。そして今、いつものようにこの庭園で一人佇んでいる。いつも彼女の傍にいるお付きの侍女の姿もない。
「ドリス、君はここに一人でいたの?」
リュカにそう問いかけられ、ドリスは小さく体を震わせた。あの異変を感じた時、リュカはわき目も振らずにビアンカと双子の休む四階の私室へと向かっていた。その際、この庭園の脇を通り過ぎたが、ここに人がいたことなどには気づきもしなかった。ドリスは自身が姫であることをあまり良く思っていない。宴での対応に疲れたのもあるのだろう、いつものこの庭園に逃げるように来ていたのかもしれない。
「あたし、ここにいたんだよ」
ぎこちなく話すドリスは明らかに様子がおかしかった。リュカはまだ子供である彼女を放っておくことも出来ずに、少し彼女の話を落ち着いて聞く態勢を取る。
「何か見たのかい?」
リュカの聞き方があまりにも的を得ていて、ドリスは驚いたようにリュカを見返す。そして理解者が現れたと安心したように、ドリスは目にした状況をリュカに語る。
「誰も信じちゃくれないけどさ。あたしは見たんだよ。大臣のやつが北の方へ空を飛んでゆくのを」
ドリスの言葉に、リュカは厳しい表情になるのを抑えられなかった。会議に参加していなかった大臣の姿を、ドリスは一人この場所で目にしていたらしい。リュカは無意識に止めていた息をゆっくりと吐き出し、意識的に落ち着くように自分に言い聞かせる。
「そりゃあ、あたしだって、人が空を飛んでいくだなんて信じられなかったよ。でもさ、本当だったんだよ。本当に大臣があの場所から空を飛んで行ったんだ」
ドリスが指さすところは、リュカたちが住む城の四階の私室の外だった。私室から外に出るような出入り口はないが、四階の区画の周囲は常に城の兵士たちが見回りをし、敵の襲撃に備えている。即位式の宴が行われている最中も当然、見張りの兵士はいたはずだが、襲ってきた敵に眠らされたかあるいはこっそり酒を飲んでいたか、いずれにせよその場に倒れていたのは間違いない。たとえ見張りの兵士が魔物に気づき応援を呼ぼうにも、既に城の中の者が眠らされていたためそのような対応も無駄に終っていただろう。
「ドリス、教えてくれてありがとう。君はやっぱり外に出ているべきじゃない。中に入っていて」
リュカはそう言いながらも、内心歯ぎしりする思いで拳を固めていた。何故ビアンカだけを連れ去ったのかは分からないが、リュカにとって魔物の持つ理由などどうでも良かった。ただ子供たちから母を、自分の妻を連れ去った魔物を許さないという強い思いだけが胸に渦巻いた。
「やっぱりあの大臣、どっかおかしかったんだなあ」
ドリスがそう呟くのを聞いて、リュカは視線を床に落とした。恐らく多くの者が心の中でそう思っていたのだろう。即位式当日に姿を現さない大臣に、首を傾げる者は少なくなかったはずだ。オジロンが王座に就いていた時には、まるで自分が王になったかのような心持ちで国王であるオジロンに色々と意見を述べ、大臣の思うがままにしてきたことは、国民の間にも噂になっていた。権力への欲求が強そうな大臣がこの即位式で一度も姿を見せず、完全に裏方に徹するなど、誰が見ても異常なことだと気づいていたに違いない。
「ところでリュカ、どこに行くの?」
「兵たちに状況を聞きに行くんだ。大人しく座ってもいられなくてね」
咄嗟に嘘をつけるようになった自分にリュカは内心驚いていた。ドリスに本当のことを話せば、彼女はきっとリュカの後をついてきてしまうだろう。リュカは誰も巻き込みたくはなかった。ましてやドリスのような女の子を危険に巻き込むことなど誰も許してくれないだろう。
今やグランバニアの国王となったリュカに、ドリスも無理を言わなかった。一国の王となったのだから、リュカの判断と行動は絶対なのだ。リュカはその立場を利用して、ドリスを黙らせていることに気づきながら、彼女に城の中へ避難するようもう一度勧めた。ドリスも大人しくリュカの言うことに従い、リュカのことを気にしつつも王室へと入って行った。
リュカは再び歩き始めた。先ほどまで会議が開かれていた大会議室は今、誰も使っておらず空っぽだ。大臣は会議にも姿を見せなかった。それも当然のことだろう。大臣はもう、この城にはいない。ドリスが北の方へ飛んで行った大臣の姿を見ている。誰も信じないようなドリスの言葉だが、リュカはそれが真実なのだと信じていた。このような状況でドリスが嘘をつくとは思えない。彼女は口こそ荒っぽい所があるが、まだ純粋な子供だ。
リュカは二階の会議室の中の様子をちらりと見ただけで、更に奥へと早歩きで進んでいく。国王となったリュカの姿を見た兵士は、皆敬礼をしてリュカが通り過ぎるのを待つ。その敬礼にはリュカと言う新たな国王に対する敬いの心の他に、王妃を攫われた国王に対する憐みの心や、城を守り切れなかった自分たちの不甲斐なさや、いつ国王から兵としての不甲斐ない行動を叱責されるのだろうかという緊張感など、様々な心情が混ざっていた。
しかしリュカは兵たちのそのような心情にはまるで目が向かなかった。国王となったリュカだが、今は一人の人間として行動しているだけだった。早足で城の廊下を無言で歩く国王に話しかけられるものはいない。ただ王の為すことを見ていることしかできなかった。
リュカは二階の奥まった場所にある部屋にたどり着いた。大臣の部屋は常に見張りがついており、たとえ国王と言えども立ち入ることはできないのだとオジロンに知らされていた。今となってはそんな馬鹿げた規則を守る理由はないのだと、リュカは無表情のまま見張りをする兵士の前に姿を現した。
門番の兵士は廊下の角を曲がってきたリュカの姿を目にすると、思わず「あっ! 王さま!」と声を上げ、必要以上に背筋を伸ばして敬礼をした。
「ここは大臣の部屋だね?」
リュカは自分の言葉の余裕のなさに気づきながらも、それを隠そうともしなかった。兵士は新国王のリュカの前で緊張した様子ではっきりと答える。
「はい、ここは大臣殿のお部屋でございます」
「今、大臣は中にいないだろう?」
「はい、ご不在のようです」
「僕を通してもらえるかな」
「……国王様の命令は絶対です。どうぞお入りください」
普段、大臣は誰一人この部屋に入れることはなかった。前国王であったオジロンでさえこの部屋には入れず、大臣の部屋は大臣しか分からない空間だった。彼はこの部屋の中で完全に何者からも守られていた。秘密を持っていたとしたら、この部屋の中で完全に守られているはずだ。門番である兵士も大臣の言いつけを守り、これまで誰一人この部屋には入れなかった。
しかしこの兵士にも今の事態が平常ではないことぐらい分かっている。そして彼も恐らく、大臣が宴にも姿を現さず、今も行方不明であることに当然の様に疑念を抱いているに違いない。それ故に国王であるリュカの命令を受け、ようやく肩の荷が下りたように大臣の部屋への入室を許可できたのだろう。
リュカは大臣の部屋の妙に重い扉を開いた。国王私室よりも重厚な扉で、外からの音も外への音もまるで聞こえないような隔離された部屋だった。分厚い扉を抜けて、扉を閉めると、もう外の音は何も聞こえない。窓も開いていない部屋の空気は澱んでおり、そして何か寒気を感じる雰囲気があった。
自分の足音だけがする部屋の中で、リュカはまず部屋を見渡した。まだ夜中を過ぎた頃の時分、部屋の中には魔法の明かりがぼんやりと灯り続けている。二日間、ほとんど眠っていないようなリュカだが、異常なまでに目が冴えていて、薄暗く灯る明かりの中でもはっきりと部屋の中を見渡すことができた。
調度品などは高級なもので揃えられ、大臣が不自由なく暮らしていた様子が窺える。そして部屋の中はあまりにも綺麗に片付いていた。本も綺麗に本棚に並べられ、衣服もしっかりとクローゼットに収められ、小物もきちんと棚に並べられている。床の上にはごみの一つも落ちていない。大臣の部屋にも定期的に掃除をする侍女が入室することはあるのだろうが、それ以前に大臣自身が部屋を散らかさない習慣があったのだろう。そうでなければ掃除の侍女に部屋の粗を見つけられ、自身の立場が危うくなることを恐れていたに違いない。
リュカはそう想像しながら、容赦なく大臣の部屋の中を調べ始めた。多くの者が怪しいと思っている大臣の部屋に入り、こうして大臣の許可なく部屋を調べることができるのは、国王であるリュカだけなのだ。オジロンは国王でも大臣の部屋に入ることは禁じられているなどと言っていたが、リュカはそのような大臣の都合に合わせる気は全くなかった。絶対にこの部屋から何かの手がかりを見つけてやるのだと、それだけを考えて、次々と引き出しを開けたりクローゼットを開けたり、棚の中のものを出したりして、くまなく調べた。
本棚を調べている最中、リュカは微かに何かの物音を聞いた。どこかで小さくバタバタと暴れるような音がする。何か動物でもいるのだろうかと、耳を澄ましてその音のする場所を探る。
音はクローゼットの奥から聞こえてくるようだった。先ほど調べた時には何も見つからなかったが、明らかに音はこの中から聞こえてくる。リュカはもう一度クローゼットの扉を開け、中に入り込むようにして探り始めた。
明かりの届かないクローゼットの中で、リュカは四つの光る目に遭遇し、息を呑んだ。小さな四つの目はどこを見ているわけでもなく、ただ白く光っているだけだ。そしてリュカの目の前で、がたがたと動いて見せた。リュカはそれが何か分からないまま手でつかみ、クローゼットの中から引っ張り出してみた。
部屋の明かりに照らして引っ張り出したものを見ると、それは一足の靴だと分かった。しかし普通の靴ではなく、靴の両側に白い羽をつけ、靴の前面には顔のような模様があり、靴全体が何か空を飛ぶ生き物を模したものだった。その靴の羽が時折、ばたばたと動いているのだとリュカは靴を机の上に置きながらじっと見つめた。即位式に出た時の正装姿で、リュカはその妙な靴を腰のベルトの後ろに押し込んで挟むと、そのままマントを被せて隠し持った。魔力が込められている靴はまるで生き物のようにリュカのベルトの間でバタバタと苦しそうに暴れたが、リュカはそんなことにはお構いなく、引き続き大臣の部屋の捜索をした。
しかしその他には何も怪しいものは見つけられなかった。大臣は潔癖の性質があるのだろうか、華美なものこそ好きなようだが、余計なものはこの部屋に残していないようだ。自身で怪しいと思うものは早々に処分し、何も証拠を残していないのだろうかと思うと、リュカは悔しさで歯ぎしりする思いだった。
しかしその中でも唯一、手に入ったものをしっかりとマントの内側に隠したままリュカは大臣の部屋を出ることにした。部屋の見張りに立つ兵士は静かにリュカに敬礼をするのみで、国王の行動に不信を抱いたり、興味を示すような仕草も見せなかった。何事もなかったかのようにリュカは大臣の部屋を去り、手にした妙な靴のことを相談しに行こうと、再び外へ向かい始めた。
夜明けにはまだ少し時間があり、外は未だ暗闇に包まれている。リュカは妙な羽のついた靴をマントの内側に隠したまま一度城の外に出ようとしたが、城の外に出ることを門の脇に立つ衛兵に許可されなかった。城の外で警備を続ける魔物たちに話があるのだと素直にその理由を伝えても、どのような理由があろうともリュカ王を通してはならないとサンチョに命令されているのだと答えるだけだった。サンチョはリュカが一人で城を飛び出し、ビアンカを助けに行ってしまうという無謀を未然に防ぐことに全力を注いでいた。リュカ王がもし城の外に出る行動を起こした時にはどのような手段でもそれを止めなければならないと、サンチョは城の兵士たちに指示していた。
リュカにはサンチョの思いも良く理解できた。かつて父パパスが魔物に攫われた妻マーサを救う旅に出た結果、命を落としてしまったという信じがたい現実がある。サンチョには悔やんでも悔やみきれない過去がある。あの時、パパスが旅に出ることを身体を張って止めていれば、パパスが命を落とすこともなかったかもしれないという後悔がサンチョの中には常に蟠っている。そのような悲劇を繰り返さないためにも、せめてパパスの息子であるリュカを守るためにも、国王となったリュカの意志などとは関係なく、国王を城の外に出してはいけないという命令を出している。
魔物たちの半数は今、いつもの大広間で休息を取っていることを兵士に聞き、リュカはとりあえず魔物たちの住む大広間へ向かうことにした。夜の警備も半数ずつの魔物たちが交代で行っている。会議前に話した魔物以外の者たちがいるのかも知れないと、リュカは二階に続く階段を上る。
大広間にいたのはマーリンとサーラ、それにキングスにミニモン、それだけだった。魔物たちは半数もいなかった。この緊急事態でいつもより多くの兵士や魔物たちが城の警備に当たったり、王妃捜索の隊に駆り出されたりしていることを先ほどの会議で話していたと、リュカはおぼろげに会議の内容を思い出していた。
「どうしたんじゃ、リュカよ」
まさかリュカがこの場に現れるとは思っていなかったマーリンが驚いた様子でリュカを出迎えた。その後ろでサーラが立ち上がり、リュカに茶を入れる支度をする。皆がリュカの心を支えたがっていた。キングスも心配そうにリュカを見つめ、いつもはふざけたように声真似などをして笑わせるミニモンも、長い舌を垂らしたまま神妙な顔つきをしている。
「ちょうど良かった、マーリンに見て欲しいものがあるんだ」
悠長に話をしている場合ではないと、リュカは早々に自分の要件をマーリンに伝えるべく、マントの内側に隠し持ってきた妙な靴を取り出し、床に置いて見せた。この妙な靴はリュカのマントの内側でも数回バタバタと羽を動かしていたが、今も床に置かれて驚いたように羽をバタバタと動かしている。しかし靴自体が飛び上がるわけではなく、床の上でもがくように羽を動かしているだけだ。
「大臣の部屋で見つけたんだ」
「なんじゃと? 勝手に入って探したというのか?」
「これ、何だと思う? 絶対に何かあるよね。履いてみれば分かるのかな」
「まて、早まるな。世の中には呪われるようなものもあるんじゃ。うっかり履いて呪われたら最後、一生脱げなくなるかも知れんぞい」
「でもどう見ても靴だよね。だったら履くしかないと思う」
「しかし靴に羽が生えているなどとは不思議なものですね。まるで靴が空を飛んでいきそうな……」
「靴が空を飛ぶ……」
カップに茶を用意してきたサーラが床に置かれた靴を見ながらそう呟くと、リュカはその言葉に本能的に反応した。サーラの言葉が心の中に引っかかる。
「とにかくリュカよ、一度落ち着くのじゃ。お主、全く休んでなかろう。まずはサーラの入れた茶を飲み、心を沈めるのが先じゃ」
「お茶なんか飲んでいられないよ! ビアンカが魔物に攫われたっていうのに、そんなのんびりしたこと……」
「リュカ様、このカップはつい先日、ビアンカ様がお使いになったものです」
「えっ?」
サーラの落ち着いた声音に、リュカははっとして後ろを振り向いた。テーブルの上には湯気の立つカップが置かれている。何かの装飾が施されているわけでもない、何とも味気のない白いカップで、とても王家のものが使うようなものには見えない。しかしその素朴さが、ビアンカの好みに合いそうだと、リュカはじっと白いカップを見つめる。
「大きなお腹を抱えて、わざわざこちらにいらっしゃいました。楽しく我々と話をして、大きなお腹を何度も撫でて、とても幸せなご様子でした」
サーラの短い説明だけでも、リュカにはその時の様子が目に浮かぶようだった。生まれてくる子供を心待ちにしていたビアンカは、その嬉しさを持て余し、ここに来て魔物の仲間たちにも幸せを分けたいと来ていたのだろう。長い旅を経て、無事にグランバニアに到着し、お腹の赤ん坊ももうすぐ生まれそうだという時に、ビアンカは幸せな日々を噛みしめていたのかも知れない。
「初め、そのカップを使うことを断られたのです」
「どうして?」
「そのカップは元々、マーサ様がお使いのものなのです。それを伝えると、私がそれを使ってはいけないと、大事にカップをしまわれようとしました」
ビアンカはまだ見つからないマーサに気を遣ったのだろう。いまだどこにいるのかもわからないままのマーサだが、決して彼女のことを諦めていない。ここでマーサのカップを自分が使ってしまっては、マーサの無事を信じ切れていないのではないかと言う思いが湧いてきてしまう。それを避けたかったに違いないとリュカは思った。
「しかしのう、わしが嬢ちゃんに言ったんじゃ。ずっとこのまま使われないカップを嬢ちゃんが使えば、このカップは今を生きることになる。それはマーサ殿が生きることにもなるのではないかと。しまわれたままのカップはそのうち皆に忘れられてしまう。それが一番悲しいことではないのかと、の」
「マーリン殿の説明で、ビアンカ様もご納得されたように、こちらのカップでハーブティーをお飲みになっていました。あの方はとても……お優しい方ですね」
マーリンはビアンカと共に旅をしてきたため、彼女のことを良く知っている。それ故に彼女に率直に言葉をかけることができたのだろう。そして彼女もマーリンの言葉を受け取り、素直にマーサのカップを使うことができた。そして今はリュカがそのカップを手にしている。中に入っている茶は恐らくマーサが飲んでいたものと同じものなのだろう。心安らぐハーブの香りに、リュカは思わず顔を歪めた。妻も、母も、今どれほど辛い時間を過ごしているのだろうか。鎮静効果のあるハーブの香りはむしろリュカの心を乱してしまった。この香りをリュカは妻と共に楽しみたいのだと、駄々っ子のように思うだけだ。
「……空を飛ぶ、靴……そうか、分かった!」
先ほど聞いてきたばかりの話をリュカは思い出した。ドリスが見ていたもの、それは大臣が城の四階の外から北へ向かって飛んで行ってしまったということ。誰も信じてくれないというその話を、リュカは信じていたものの、他の者たちと同じように大臣自らが空を飛べるとは思っていなかった。しかしこの羽の生えた靴を履いて空を飛べるのなら、大臣はこれをつかって北の方へ飛んで行ったに違いない。そうと考えたら、もうそうとしか考えられなくなった。
「これを使って飛んでいけば、きっとビアンカのいるところまで行ける。大臣はこの靴で北へ行ったんだ」
がたりと席を立ち、リュカは空飛ぶ靴を持って外に駆け出そうとした。テーブルのカップが揺れ、少し茶が零れる。リュカが扉に向かう前に、既にキングスが扉の前に立ちはだかっていた。まるでリュカの行動を予測していたかのような様子で、落ち着かないリュカをじっと静かに見つめている。
『慌てちゃダメよ、落ち着いて』
耳障りの良い聞き慣れた声が聞こえ、リュカは目を見開いて辺りをきょろきょろと見渡す。暗い大広間の中に彼女がいるのではないかと期待したが、いるはずはなかった。声の主はミニモンで、彼は決してふざけてビアンカの声を真似したわけではなかった。リュカの無鉄砲な行動を止めたい一心で、ビアンカの声を真似して聞かせたのだ。その証拠に、ミニモンは泣きそうな顔でリュカを見つめ、小さく首を横に振っていた。
「ビアンカさまは、ぜったいにだいじょうぶだよー。そんなにこわいかおしないでー」
ミニモンに言われるまで、リュカは自分の表情が厳しいものになっていることに気がつかなかった。しかし言われたからと言って、笑うことも出来なかった。
「リュカよ、一人で行くことは許されんぞ。お主、プックルと約束したはずじゃ。せめてあやつに言葉をかけて行くんじゃ」
外からの魔物の襲撃で、プックルたちは倒されていた。リュカが助けに行き、皆が息を吹き返すと、すぐに城を飛び出そうとしたのがプックルだった。ビアンカが連れ去られたのを知っており、守れなかった不甲斐なさに自分を許せず、プックルは何も考えないままビアンカを連れ去った魔物の後を追いかけようとした。しかし何も手がかりがない状況で、リュカはプックルを一匹でどこかへ行かせることはできなかった。それは今と逆で同じ状況なのだと、リュカはマーリンの言葉で思い出すことができた。
「しかし妙ですね。大臣がその靴を使ったとなると、何故今リュカ王が一足お持ちなのでしょうか? 大臣は何足もその靴を持っていたということでしょうか」
「ふむ、そうじゃな……。このような奇怪なものが何足もあるとは思えんがのう……」
サーラとマーリンの言うことに、リュカはその奇妙な事態に初めて気がついた。彼らの言う通り、大臣は自らこの靴を履き、北へと飛んで行った。それはドリスの言葉を信じて間違いないだろう。そうなると、今リュカが持っている一足の空飛ぶ靴は一体誰のためのものなのだろうか。大臣はこの奇妙な靴をもう一足予備で持っていたということだろうか。
サーラとマーリンはそのことについて深く調べる必要があると考えていたが、リュカにとってはあまり興味の無いことだった。とにかく今、この靴を手に入れることができたのだ。大臣がこの靴を使って北へ向かったと考えれば、この靴を使わない手段はないのだ。リュカにはもうそれだけしか考えられなかった。
しかし今慌てて行くのは得策ではない。マーリンにもサーラにも止められ、キングスは扉を通してくれないだろう。リュカは一先ず落ち着いて、カップに入れられたままのハーブティーに口をつけた。温いハーブティーは普段であれば心安らぐ茶なのだろうが、今は急き立てるもの以外の何物でもない。この香りにはビアンカを思い出し、母であるマーサの姿も想像してしまう。心が急くのを表面上抑え、リュカは懸命にいつもの状態を演じようとしていた。
「とにかく一度、自分の部屋に戻るよ。子供たちも心配だし……」
「そうじゃな、それがええ。お主は子供たちの傍におるのじゃ」
「我々は学者の所へ行って、空飛ぶ靴のことについて聞いて参ります。何か分かればすぐにお知らせします」
「うん、分かった」
リュカは短く返事をすると、扉の前に立ち塞がっていたキングスにいつもの調子で「どいてくれるかな」と優しく語りかけた。キングスはまだ疑念の表情を見せていたが、それでもリュカに道を通した。リュカはありがとうとキングスに声をかけると、直ぐに走り始め、言葉の通り子供の様子を見に行こうと四階へと向かって行った。東の森から白々と夜が明けていく雰囲気があった。
Comment
bibiさん
更新お疲れ様です。今回は心なしかいつもより文章量が多いでしょうか?
しかも恐らく前話から2週間も経ってない…まさに絶好調ですね(*´∀`)
もう初プレイ当時の記憶は殆ど忘れてしまいましたが、本当にこの作品はプレイヤーの心を抉ってきますね。
すんでのところで堪えてるリュカの精神力は大したモンだと思います…
二足ある空飛ぶ靴は、ゲーム進行上の都合だと特に気にしてませんでしたが、今思えば黒幕の思惑なのでしょうね。
生き物のような描写はちょっと意外で面白かったです(笑)
てっきり新しい仲間でも増えるのかと思いました( ´∀` )
ピピン 様
コメントをどうもありがとうございます。
文章量はあまりいつもと変わらないかな? 長く感じたということは……読み辛かったでしょうか……? 精進しますm(_ _)m
DQ5は本当に色々と抉られますね。この状況に堪えられる人間はそうそういないと思います。
二足ある空飛ぶ靴は、初めは違う設定で考えていたのですが、二足ある方が辻褄が合うなぁと思い、今回のような話にしました。生き物のような描写で新しい仲間が増えるとお思いになりましたか? 思わせぶりですみません>< そういう話でも面白かったかも知れませんね^^
bibiさん
そんな事は無いです(笑)
いつも、あとどれくらい読めるかなって右のバーの位置を確認する癖があるのでそんな気がしたのですが…気のせいでしたか。
やはり主人公は違いますね。
伊達に波乱万丈な人生を送ってないです(´・ω・`)
仮にそうだとしたら多分プチ/コロヒーロー系ですかね。
もし良ければいずれ勇者の相棒にぜひ…(笑)
ピピン 様
毎度、書いた後に「このまま世に出して良いのだろうか……」と思いながらアップしているので、読み辛い箇所もあると思います。ご了承くださいませ~m(_ _)m
DQ5の主人公はこれからも波瀾万丈な人生を歩みますもんね。普通の人に二倍、三倍くらいの経験を積んでいそうですね。
プチ/コロヒーローはいいですよね。彼らは彼らで世界を救う冒険を続けていると思うので、見かけたら応援したいと思います。勇者の相棒に……全体的にちっさい感じで可愛らしいですね^^ そういう冒険も微笑ましくていいですね。
bibi様
コメント遅くなり、すみませんでした。
ゆっくり読むことが今まで、できなかったんで…。
サーラたちは北の方角を気にしているのは、ビアンカが、あの場所にいるのを感づいているのでしょうか…。
ゲームでも、たしかに疑問になったドリスの大臣空を飛ぶ発言と、空飛ぶ靴が2足…。
まあたしかに2足ないと、つじつま合わないですよね。
ドリス発言は、彼女は睡眠薬を飲まなかったという設定でゲームも行ったんでしょうかね。
bibi様、ジュースにも睡眠薬入れちゃいましたね。
まあそうでないと、あの状況を作れないですもんね。
ピピン君、まだ、お母さんの乳を飲んでいるんですか?
年令…2歳ぐらい?
カップの話、心にしみますねぇ…ビアンカも、マーサの温もりを感じたかもしれませんね。
さすがbibi様、細かい描写であります!
さて、次回は、どうやって脱出しますか?
サンチョの包囲網を抜ける作戦ありますか?
パーティーは、どうしますか?
プックルは、ぜったいとして…。
次回も楽しみです!
ケアル 様
いつもコメントをどうもありがとうございます。お忙しい中お読みいただいて、本当にありがたいことです。
サーラたちは魔物たちが北に飛び去った姿を見ている、くらいにしておいてください。感づいてもいるかも知れません。
ドリスはいつもの庭園で眠っていたけど、ぼんやりと早くに目を覚ました、というところでしょうか。彼女は彼女で独自のストーリーがありそうですね。
空飛ぶ靴はリュカを罠にかけるために二足用意していた、ということで。リュカはまんまと罠にかかった、と言うか、それが分かりながらも止められなかった、というところかな。
ジュースに睡眠薬はさすがに抵抗があったんですが、リュカが酒を飲めないという情報を元に黒幕がジュースにも……ということです。ゲーム上は違うでしょうが^^;
ピピン君は5歳くらいのイメージですが、まだちょこちょこ飲んでる設定。と言うのも、私も知らなかったんですが、世界の自然卒乳の平均年齢は4歳くらいなんだそうです。日本が早すぎるんですね、きっと。ということで、ピピン君のお母さんに乳母さんとして頑張ってもらうことにしました。お乳はあげ続ければ出るみたいなので。
カップの話はちょっとねじ込んでしまいました。私自身、ちょっとこういう話が欲しいなと思いまして。
次回はどうにかして北に向かいます。プックルは相棒なので必ず連れて行きます!