トロッコに乗って
「これだけ派手に動けば、そりゃあ魔物にも見つかるよね」
地下遺跡の大きな空洞の中で、金属の音が騒がしく鳴り響く。リュカたちは大きなトロッコという、本来は石を運ぶための荷車に皆で乗り込み、リュカとティミーが足元の踏み板を交互に踏みながらレールの上を走っていた。長年放置されていたにも関わらず、トロッコの車輪もレールも錆びつくことなく、車輪は滑らかに動き、レールの上を疾走する。この地下遺跡が長年封印され、風雨に晒されることもない環境のため、年月の割には古びていなかったようだった。
大きなトロッコがレールの上を走れば、鉄の車輪とレールが擦れ合う音が鳴り、それは洞窟内に響く。ただ洞窟に潜む多くの魔物がその音を気にせずに辺りを歩いているところを見ると、リュカは彼らもこの乗り物を使うことがあるのではないかと思った。彼らが時折使用しているおかげで、今もリュカたちの乗るトロッコは正常に動いているのではないかと、リュカは足元の踏み板をテンポ良く踏みながらそう考えていた。
しかしトロッコの箱の中に見えるのが魔物だけではなく、楽し気な人間の子供たちということが分かると、洞窟内に棲みつく魔物らはこぞって疾走するトロッコを追いかけ始めた。魔物らに追いつかれないようにと、リュカは後ろから追ってくる魔物の姿を確認しながら、ティミーと息を合わせて踏み板を踏み続けた。敵の魔物らを大方振りきることはできるが、トロッコは永遠に進み続けるわけではない。終着点が見えたら、リュカは必死に踏み板を踏むティミーに呼びかけながら、トロッコの速度を落とさなくてはならなかった。
速度を落とすトロッコに、追いかけてきた魔物が追いつく。トロッコが終着点に着くと、洞窟内の魔物との戦闘が待ち受けている。トロッコに乗っている時は楽しんでいるティミーも、終着点に着くとすぐに戦闘態勢を整えた。
トロッコを囲んでいたのは、ベホズンよりも大きな体をしている魔物が一体、それに鎧兜に身を包み、右手には剣を構えている竜の戦士が四体だった。
ベホズンよりも大きな魔物グレイトマムーの体は真っ赤に染まる一方、目は真っ青、四つ足で歩くようだが前足が異様に大きく発達している。背中までたてがみが続いている姿はプックルと似ていたが、たてがみは銀色で、身体全体の色のバランスに気味の悪さが表れていた。大きな顔に大きな口、口からは大きな牙が覗いており、今にも人間を食べてしまいそうな凶悪さを感じる。仲間でもグレイトマムーには近づきたくないのか、四体の竜戦士らはグレイトマムーに近づこうとはしない。一定の距離を保ったまま、リュカたちと対峙する。
「ねぇ、ここにはどれくらいの魔物がいるの?」
ティミーが今にも飛び出して行きそうな雰囲気の中、リュカは相手が魔物でもまずは話しかけることを優先した。見るからに真っ赤な魔獣であるグレイトマムーには話が通じないように感じたので、リュカは竜戦士らに距離を保ったまま話しかけたのだった。
「人間がどうやってここに入って来た?」
リュカの問いに対する返事ではないが、竜戦士が人間の言葉を話せることが分かり、リュカは別段隠すことでもないだろうと、素直に「洞窟の封印を解いて地上から来たんだ」と端的に答えた。
「……では今は、この洞窟は地上と繋がっているのか?」
「うん、外に出たければ出られるよ」
リュカの言葉に竜戦士らは互いに目を見合わせ互いに言葉を交わす。「ここが崩れるような地震があったが、それが封印を解いた時だったのかも……」と言っているのを聞き、リュカはそれはポピーが洞窟の封印を解くためにマグマの杖を使い、岩山の頂上から噴火が起きた時のことだろうと思った。まるで大きな一つの山が噴火したかのような勢いで岩山の頂上から溶岩が噴き出した時に、この地下遺跡ごと崩れてしまってもおかしくなかった。
「せっかく封印が解けたんだから、外に出てみたら? こことは違って空気もいいしさ、湖もきれいだから泳いで遊ぶのもいいかも」
まるで緊張感のないリュカの言葉に、四体の竜戦士らはリュカの顔を怪訝な顔つきで見やる。もしかしたら人間の姿をした魔物なのかも知れないと、紛れもない人間であるリュカの正体を暴こうとじろじろと見つめる。
「僕たちはちょっとこの洞窟の先に行きたいから、通してね」
魔物らに話しかけ、封印が解けて地上と繋がっていることを知った魔物を地上に誘導できれば、洞窟の探索もしやすくなると、リュカはあくまでも自分たちに良いように事を進めようとしていた。いつからこの地下遺跡が封印されていたのかは知らないが、長い時間このような場所に閉じ込められているのも嫌だろうと、魔物らも外に出たいのではないかと素直に地上に出ることを勧める気持ちもあった。
「地上はまた後で確かめてみよう。お前らを倒した後でな」
竜戦士はそう言うと、突然右手に持つ剣でリュカに斬りつけてきた。他の竜戦士らもティミーとポピーに襲いかかる。しかしリュカは自分の剣で剣を受け止め、ティミーは盾で受け止め、ポピーを護るようにプックルが剣を弾き返す。
「人間を守るキラーパンサーがいるとはな。地獄の殺し屋が聞いて呆れる」
馬鹿にされたと感じたプックルが、怒りの雄たけびを上げる。竜戦士らは洞窟に響き渡るプックルの雄たけびにひるむことはなかったが、その後ろからゆっくりとリュカたちに近づいて来ていたグレイトマムーが後ろ足で立ち上がって、大きな前足を上げたまま身体をすくませていた。
「リュカ王、戦うのですか?」
「お父さん、あっちに違うトロッコがあるよ!」
「あれに乗って逃げた方が良いんじゃないかしら?」
サーラは戦闘態勢を取り、今にも呪文を唱えようとしていたが、ティミーの視線の先にはさほど遠くない場所に運搬用トロッコが置かれていた。この地下遺跡がどれほど広いのか分からないリュカは、ポピーの逃げるという選択肢が正しいと感じ、皆に声をかけてトロッコめがけて全力疾走をした。
追いかけてくる竜戦士らに対し、スラりんとスラぼうが同時にスクルトを身体を震わせて唱える。リュカたちの体が見えない鎧に包まれ、一番後ろを跳ねて走るベホズンが竜戦士の剣を受けても、見えない鎧で剣を弾き返してしまった。
リュカたちは次々とトロッコに乗り込み、さきほどと同じようにリュカとティミーが足元の踏み台を交互に踏んでトロッコを走らせる。初めの内は速度が出ないが、少し踏み続ければ速度も出て、トロッコはレールの上を疾走し始める。しばらくトロッコを追いかけて来ていた竜戦士らだったが、その姿は間もなく洞窟の暗闇の中に消えてしまった。
「やったぁ! これって魔物から逃げるのにも使えるね!」
「体力温存のためにも、魔物から逃げるのも大事なことですな」
「でもこのトロッコ、どこに行くのかしら」
「まあ、乗ってるうちにどこかには着くよ。とりあえず進めて行ってみよう」
トロッコは順調に進む。踏み板を交互に踏むのも慣れてきた。リュカはティミーが楽しみ、初めは怖がっていたポピーも「わたしもトロッコ面白くなってきた」と言うのを聞いて、まるで遊びに来ているような感覚で踏み板をテンポよく踏み続けた。
トロッコが進むレールは左に曲がり、そして左に曲がり、三度目も左に曲がった。
「……リュカ王、これってさっきのところに着くのかな?」
スラぼうがトロッコの前の木の縁に乗り、風を受けながら洞窟内の景色を眺めている。リュカも魔物の仲間ほどではないが、前方に目を凝らすとさきほどトロッコを乗った場所に近づいている状況だと理解した。
「ふむ、さきほどの魔物らがニヤつきながら待っていますぞ」
サーラが言うように、トロッコの終着点には先ほどの竜戦士らがリュカたちの到着をさも楽し気に待っている。剣を手にし、リュカたちが到着した時を見計らって襲いかかって来そうな雰囲気だ。
「お父さん、どうするの? このままだとさっきの魔物のところに着いちゃうよ!」
「ねぇ、踏み板を踏むのを止めて、トロッコを止めた方がいいんじゃない?」
ポピーの言う通り、リュカは踏み板を踏むのを止めてトロッコを止めようとした。ティミーもリュカに合わせて踏み板を踏んでトロッコを進めるのを止めたが、ちょうどリュカたちを乗せたトロッコは下り坂に差し掛かっていた。下り坂でトロッコを止める術を持たないリュカたちは、レールの上を加速して下りて行き、終着点の近くでやや上り坂になったところで速度が落ち、まるで計算されたかのように終着点でトロッコは止まった。
トロッコからプックルが飛び出す。先手必勝とばかりに飛び出したプックルは、待ち構えていた竜戦士の内の一体を前足で蹴り倒す。リュカもこのトロッコで目の前の魔物から逃げきることはできないのだと悟り、プックルに続いて竜戦士に向かって行く。
「数が増えていますね。恐らくこの洞窟内に仲間がいるのでしょう」
リュカのすぐ後ろから敵に向かうサーラが、竜戦士の数が四体から倍の八体に増えていることを確認する。トロッコを囲むようにリュカたちを待ち受けていた竜戦士らはいかにも好戦的な様子で、剣を手にしながらリュカたちに向かってくる。金色の胸当てに兜、盾を装備し、手にしている鋼の剣で容赦なく相手に斬りつけるのだろう。
リュカはスラりんとスラぼうを振り向き見る。リュカの視線を受けるや否や、スラりんとスラぼうは再びスクルトの呪文を唱えた。リュカたち一人一人に見えない鎧の守護がつく。竜戦士の反撃にあったプックルも、スクルトの加護のおかげで斬りつけられた足にかすり傷を負う程度で済んだ。
「あのスライム二匹が面倒だ! あいつらを先にやっつけるぞ」
魔物でありながらも竜戦士らは一つの隊として動いていた。魔物らの戦う技術は優れたものがあり、一気に四体の竜戦士でスラりんとスラぼうを取り囲むと、一気に彼らに剣で襲いかかった。スクルトの加護がなければ、一瞬で勝負がついていたような状況だったが、割り込んだベホズンが盾となって竜戦士らの攻撃を一身に受けた。竜戦士四体の剣がベホズンに大きな緑色の体に傷をつける。スクルトの加護を受けたベホズンが、竜戦士らの攻撃を耐え凌ぐ。
ベホズンの冠の上にスラりんとスラぼうが姿を現すと、二匹のスライムは全身から呪文の波動を放出した。ベホズンを攻撃した竜戦士らが目に見えない呪文の効果に戸惑いを見せる。その隙にベホズンが一体の竜戦士に体当たりを食らわせると、まるで途轍もない攻撃を食らったかのように竜戦士は洞窟の彼方へと吹っ飛んでしまった。
スラりんとスラぼうのルカナンを受けた竜戦士らが感じていた違和感は、防御力が格段に下げられてしまったことだった。自慢の金装備を剥がされたような感覚で、まるで丸裸になったようなうすら寒さを感じていたのだ。
スラりんとスラぼうのルカナンの呪文は、リュカたちの周りにいる竜戦士ら全員に効果が及んでいた。プックルが竜戦士の首に噛みつこうと飛びかかり、敵が金の盾で攻撃を弾こうとしても、盾はプックルの体重でぐにゃりと曲がり、まるで役に立たなくなっていた。その状況を見て、リュカも目の前の竜戦士に剣で斬りつける。やはり敵が構える盾に弾かれることもなく、剣先は竜戦士の脇腹を思い切り斬りつけた。
あちこちで竜戦士の悲鳴が上がる。リュカたちはスクルトの加護を受け、竜戦士らはルカナンの呪文を浴びた状況では、勝負にならないも同然だった。ティミーが面白いように敵の中に突っ込み、天空の剣を振り回している。サーラもスクルトの加護を受けている限りは相手の攻撃を受ける心配はないと、すぐに決着させるべく次々と竜戦士を大きな腕で殴りつけていく。
二体の竜戦士がリュカたちに倒される寸前に奇妙な声を上げ、仲間を呼んだ。しかし呼ばれた仲間たちは地面に倒されている多くの仲間の姿を見ると、恐れをなして逃げて行ってしまった。
「お父さん! 後ろ!」
スラりんとスラぼうの近くで戦況を見ていたポピーが、リュカに大声で知らせる。竜戦士との戦闘は終わったと気を抜いていたリュカだが、ポピーの声に素早く後ろを振り向く。そこには先ほどリュカたちの前に現れたベホズンよりも大きな体のグレイトマムーが、止まったトロッコに乗り込もうとしていた。
唸り声を上げて飛びかかろうとするプックルを、リュカが抑える。静かに状況を見ていると、どうやらグレイトマムーは先ほどレールの上を走ってきたトロッコを見て、乗れば動くものと思ったようだ。リュカが少し考え込むように小さく唸り、トロッコに近づこうとしたところを、今度はサーラが止めに入る。
「リュカ王、先を急ぎましょう」
「え? あ、そうだね。その方がいいか」
「でもサーラさん、あの魔物がトロッコを使ってたら、私たちが乗れないよ」
「あのトロッコに乗ったところで、またここに戻るだけです。歩いて他の道を探した方が良いでしょう」
「あ、そうか。さっき、あそこから出発したんだものね」
リュカたちから見える場所に、トロッコを走らせ始めたレールがある。再びトロッコに乗り込み、走らせ続けたところで、この場所に戻ってきてしまうだけだ。
「それにリュカ王はまたトロッコに乗ろうと思ったわけではないでしょう」
「え、そうなの、お父さん?」
「ん? うん、まあ、そうだね。あの魔物にトロッコの乗り方を教えてあげようかなって……」
「あの魔物が危険でないとは限りません。それに私にはあの魔物がトロッコの乗り方を理解できるような魔物には見えません。余計な時間を使わず、先に進みましょう」
「あはは……そうかも知れないね。じゃあみんな、ここからは歩いて行ってみよう」
「あ~またトロッコがあるといいなぁ」
天空の剣を背中の鞘に納めたティミーは、今まで竜戦士らと戦っていたという緊迫感も忘れたかのように、両手を頭の後ろに組みながらぶらぶらと歩き始めた。リュカはベホズンの大きな体に乗るスラりんとスラぼうに「さっきは助かったよ。ありがとう」と言葉をかけると、プックルに付き添われて歩いているティミーの後を追うように歩き始めた。
広い採石場の中は立体構造になっており、岩肌に作られた階段を上り下りする箇所もあった。階段を上った先にトロッコを走らせるレールが見えると、ティミーは喜んでレールに向かって走り出した。
「ティミー、勝手に先に行くんじゃない! 魔物がいるかも知れないだろ」
「はーい。プックル、ダメだろ、勝手に先に行ったら」
「がうっ!」
ティミーに八つ当たりされたプックルが抗議の声を上げていた。その横をすっと通り過ぎるように、サーラが蹄の音を鳴らしながら歩き過ぎていく。
「ふむ。レールもありますが、何やら地面から鉄の棒が突き出ています」
サーラが眺める先の景色を、リュカは見ることができない。サーラは目の前に見えているレールを見ているのではなく、レールの先にある暗がりの中の景色を見てそうリュカに伝えていた。魔物の中でもサーラは暗闇に特に目が効くようだ。プックルも同じ方向に目を向けているが、青色の目を細め、しばらく眺め続けてようやくサーラの言う地面から突き出る棒を目にできたようだった。
「ここにトロッコはないみたいだし、サーラさんが見えているものを確かめに行ってみようよ!」
リュカたちはレールの上を歩き進めていった。洞窟の中は巨大な空洞が広がり、何の目印もなく歩き続けていたらどこをどう歩いたのかも分からなくなってしまう。レールの上を歩いていれば、確実に道を戻ることはできると、サーラを先頭にトロッコが走るレールに沿って歩いて行った。
トロッコに乗って進めばあっという間と思われる道だが、歩いて行くと非常に遠くの場所に感じられた。この距離の景色、しかも細い鉄の棒一本を見極められたサーラの目は一体他に何が見えているのだろうかと、不思議に思った。
「これってレバーか何かなんじゃない? ほら、ここでレールが分かれているし、行き先を変えるためのものなんじゃないかしら」
ポピーが地面にしゃがみこんで、レバー部分とレール部分が鉄の線でつながっているのを確かめた。試しにリュカがレバーを反対方向に動かしてみると、それに伴いレールの位置が切り替わった。それまで直線方向に乗っていたレールが、レバーの切り替えと共に曲線方向へと切り替わる。
「すごーい! これで行き先が変えられるんだ! ……でも、トロッコはどこなんだろう?」
「トロッコならばあちらにあるようです」
サーラがさらりと言う景色を、やはりサーラ以外の者は見ることができない。洞窟内は岩盤から仄かに放たれる光で照らされてはいるものの、それほど強い光と言うわけではないため、遠くを見渡すことは不可能だ。しかしサーラにとってはたとえ岩盤からの仄かな明かりがなくとも、特に問題ないほど暗闇の中を見渡すことができるようだ。
「サーラさんって、どこまで見えてるの?」
思わず聞くリュカに、サーラは真顔のまま応える。
「私は魔物の中でも魔族ですから。暗闇には強いのです」
「トロッコがある場所って、ここまで歩いてきたよりも遠いかな?」
「そのようです。歩く途中でまた魔物に遭遇するやも知れません」
サーラのその言葉に、意気揚々と歩き出そうとしていたティミーがぴたりと足を止めた。そしてそそくさとリュカのいるところへ戻ってくる。
「みんなで行こっか!」
「でもこのレバー、このままにしておくと、さっき私たちが歩いてきた方向へ戻っちゃうってことよね? 真っすぐに直しておいた方がいいんじゃないかな?」
「ここを真っすぐ進んだ先には、ここと同じようなレールの分かれ道と、同じようなレバーがあるようですが……そちらもレールの切り替えができるのでしょうね、きっと」
サーラにしか見えていないレールの先の景色をリュカは想像した。二手に分かれたレールの先にどのような道が続いているのかは、さすがのサーラにも分からないようだ。もしかしたら先ほどのトロッコのように、行きつく先が始まりと同じ場所では、トロッコに乗って進む意味はないに等しい。ただただティミーが楽しむだけの乗り物になってしまう。
「とにかくトロッコに乗ってみればわかるんじゃないかな?」
ティミーはあくまでもトロッコに乗ることを優先している。確かにトロッコに乗って進めば、魔物との戦いを避けることもでき、進みも速くなる。しかしもし間違った道に進んだ場合には、一度引き返さなくてはならないことになるかも知れない。
「サーラさん、トロッコとレバーのところと、どっちの方が近いかな」
「ふむ……レバーの方が近いでしょうね。歩いてもそれほどの距離ではありませんよ」
「レバーならボクにも見えるよ。だからそんなに遠くないと思う」
スラぼうも地面で揺れながらリュカたち人間には見えない暗がりに目を凝らしてそう言う。それならばとリュカは切り替えレバーのある場所まで歩こうと、皆に呼びかけ歩き始めた。ティミーが名残惜しそうに後ろを振り返る後ろで、ベホズンも同じような様子で遥か後ろに置かれているトロッコを見つめるように少しの間佇んでいた。
行った先にあった切り替えレバーを確認し、分かれるレールの先を見てサーラが「この切り替えは変えなくて良いでしょう」と判断した。たとえレバーを切り替えても、その先の終着点は見えているため、特に切り替える必要がないということだった。
「じゃあ戻ろうか」
「非常に申し上げにくいのですが、もう一つこれと同じようなレバーが先にあるようです。それも確認しておいた方が良いかと……」
リュカがレールの脇を戻りかけた時、サーラが淡々とそう言い添える。ようやくトロッコに乗れるというティミーたちの気持ちに水を差すようで言い辛いと思いながらも、見えてしまった事実は伝えなくてはならないとサーラは更に先にあるレールの奥を指し示す。
結局先に見える切り替えレバーも確かめることになった。ティミーが「先に戻ってトロッコを走らせて来てもいい?」とプックルを連れて戻ろうとしたが、リュカがそれを止めた。第一、ティミー一人でトロッコを走らせることはできない。トロッコの中にある踏み板を両側から交互に踏まなければトロッコは動かないのだ。ティミーと一緒にトロッコに戻りかけていたベホズンも、残念そうにリュカの後をついて進み始めた。
「これって昔はここでたくさんの人が働いていて、トロッコを動かす人やレバーを切り替える人や石を乗せる人なんかがそれぞれいたのかしらね」
「きっとそうなんだろうね。それだったら僕はレバーを切り替える人がいいなぁ」
「えー、ボクは絶対にトロッコに乗る人がいい! だって楽しいもん」
「どうでしょうな。それぞれの担当に分かれていたかも知れませんが、日替わりなどで担当も変わっていたかも知れませんぞ」
話ながら歩いている内に、もう一つの切り替えレバーのある場所に到着した。切り替えた先に続く二方向のレールの内、一つはリュカにも終着点が見える位置にあり、もう一つの方向へはまだまだレールが続いており、サーラにもその先の景色は見えないようだった。リュカは先の見えない方向へ向かうようレールを切り替え、ようやくレールに沿って元の道を戻り始めた。戻る途中で竜戦士二体に遭遇したが、プックルが飛びかかって一体を蹴り飛ばしてしまうと、もう一体の竜戦士も恐れをなしてどこかへ姿を消してしまっただけだった。
「みんな乗った? 行くよー! 出発―!」
トロッコの場所に戻るや否や、すぐに乗り込んだティミーが踏み板の位置を確認し、後ろに続々と乗り込んだ皆に声をかける。ベホズンもしっかりと収まり、ティミーと同じように目を輝かせているのを見て、リュカはベホズンもこの乗り物を楽しんでいるのだと気づいた。
リュカとティミーが交互に踏み板を踏む。進み出したのは良いが、相変わらずトロッコを止める方法は分かっていない。もしトロッコを止めたくなっても、上り坂になるのを待つか、踏み板を踏むのを止めて、徐々に速度を落とす以外の方法を知らない。不安を感じつつも、どうにかなるだろうとリュカはティミーと並んで踏み板をテンポよく踏み続けた。
レールは景気よく下り坂を下り、勢いを増したトロッコにティミーが歓声を上げる。ポピーも楽しそうにトロッコの中で風を顔に受けている。ベホズンも興奮した様子でぼよんぼよんとトロッコの中で弾んでいるが、その重みでトロッコが脱輪しかけてしまうため、「ベホズン、落ち着いて!」とリュカが声をかけて興奮を鎮めた。
トロッコはレバー切り替えのところで滑らかに右側へと進路を変えた。その先は先ほど、目視で確認できなかった場所へと向かう。先頭でトロッコを漕ぐリュカとティミーには先の景色はあまり見えないが、リュカの後ろに立っているサーラがいつもよりは慌てた様子でリュカに告げる。
「レールが途切れています」
「あ、じゃあもうそろそろゆっくりにした方がいいかな」
「いや、しかし、ここからは下り坂に……」
「え?」
その後は言葉を交わす余裕はなかった。リュカとティミーが踏み板を踏むのを止めても、下り坂で速度を増したトロッコは勝手に進み続ける。リュカは試しにトロッコの踏み板を強く踏み続けてトロッコを止めようとしたが、既に加速しているトロッコを止めることはできない。
先に見えた景色にリュカはサーラが言っていた意味を理解した。先にはレールどころか、地面ごと途切れた景色があった。このまま突っ込めば、トロッコもろとも地面の下へ落とされてしまう。しかしまるで天空の塔から飛び降りた時のような信じがたいほどの速度で走るトロッコを、今更どうすることもできない。
リュカはティミーとポピーの頭を両脇に抱えて、トロッコの中に身を伏せた。プックルも同じように隣で身を伏せている。トロッコの車輪がレールを離れた瞬間が分かった。車輪が空中で空回りし、明らかに宙を飛んでいた。サーラがトロッコの中から飛び出して、後ろに飛んで行ったのが分かった。スラりんとスラぼうはベホズンの冠の上に乗って、目の前に迫ってくるレールをまじまじと見つめていた。
トロッコが一瞬、空中で止まったような気がした。しかしそれも一瞬のことで、すぐに動き出したかと思ったら、激しく車輪が何かにぶつかる衝撃を感じた。そしてトロッコは何事もなかったかのように、レールの上を走り続けた。リュカもティミーも踏み板を踏まないトロッコは徐々に速度を落とし、そのうちにゆっくりと止まってしまった。
「……トロッコごと飛んだように思ったけど、気のせいだったのかな」
ティミーがトロッコの木の縁から顔を覗かせて、前を見つめる。トロッコの前にはまだ少しレールが続いていたが、レールの終わりが見えていた。
「気のせいではありませんよ、ティミー王子。トロッコは宙を飛んでいました」
「サーラさんがどうにかしてくれた?」
「私にできたのは衝撃を和らげることと、トロッコをレールに乗せることです。上手く行くかどうかは……賭けでしたが」
一瞬、トロッコが宙で止まったような気がしたのは、サーラが下からトロッコを支えたからだった。しかしプックルやベホズンも乗るトロッコをサーラ一人で支え切ることはできず、サーラは翼を広げて飛びながらトロッコの後ろに移動すると、トロッコをレールの上に落としたのだった。
「こんなことであれば、マッドを連れてくるべきでした。マッドがいれば、私とマッドでこのトロッコを運ぶこともできたかも知れません」
「サーラさん……ありがとう、助かったよ」
「でもでも! すっごい楽しかった! こんな乗り物、乗ったことがないよ」
「私は……怖かった。でもどうして途中でレールが途切れていたのかしら」
「この洞窟って長い間封印されていたみたいだから、地形が崩れていたのかも知れないね。それにしてもみんな無事で良かったよ」
リュカは天空の塔を飛び降りた時よりも命の危険を感じていた。天空の塔の時には魔法のじゅうたんで助かると信じていたが、今は何も命の保証がなかった。ただサーラがトロッコの後ろに向かって飛んで行ったのを見て、サーラのことだから何か考えがあるはずだと、トロッコの中で子供たちの体を抱えながら信じるしかなかった。
「リュカ王―、あっちに道が続いているみたいだよ。行ってみようよ」
既にトロッコを下りているスラぼうが、ベホズンの冠の上に乗りながらリュカに呼びかける。同じように冠の上に乗っているスラりんが元気に「ピー」と鳴いてリュカに呼びかけている。ベホズンも何事もなかったかのように先に続く道を見ながら、大きな緑色の身体を小さく左右に揺らしている。全身が柔らかいスライムの身体は、たとえどこに落ちようがぶつかろうがさほど傷を負うこともないのだろうかと、リュカは彼らを羨ましいと思うと同時に、隣で身を伏せていたプックルをじとりと見つめる。
「プックル、お前ってもしかして怖がり?」
「がっ……がうがう!」
リュカの言葉に『違う違う!』と抗議するように吠えるプックルは、怒ったようにトロッコを飛び出し、ベホズンの横を通り過ぎて先に進み始めてしまった。プックルを追いかけるティミーに、ベホズンたちの様子を窺うポピーを見て、リュカは改めて誰も怪我をしていない状況に溜め息をついた。
「もうどこも崩れていないとよいのですがね」
「本当だね。でももしそんな場所があったら、サーラさん、またよろしく」
「ふむ……どうにかするしかありませんな」
リュカの言葉に、サーラは苦い顔つきで唸るしかなかった。
「遠くで水の流れる音がするみたい」
「遠くなんだろうけど、すごい音だね。まるで滝みたいだよ」
下り坂を下りて歩いて行った先には、また新たな洞窟が広がっていた。水の気配がそこかしこに漂い、小石を拾って下に落とせば、少ししてから小石が水の中に落ちる音が聞こえた。リュカはこの洞窟が湖に囲まれている場所にあることを思い出し、洞窟内にも湖の水が及んでいるのだろうと思った。
「まだ喉は乾いていないけど、どこかで水を汲んで飲めるといいね」
「ピキー! ピキー!」
リュカが悠長なことを言っていると、スラりんが警戒の声を上げた。魔物が近くにいるらしい。サーラもすぐにその気配を察知し、近づいてくる魔物から逃れるように、リュカたちを誘導する。進んだ先には一台のトロッコが置かれていた。
「お父さん、これに乗って魔物から逃げようよ!」
「それが良いかも知れません。魔物はもうすぐそこにまで迫っています」
ティミーはただトロッコに乗りたいだけのような気もしたが、サーラの助言を聞くと、リュカはすぐに皆にトロッコに乗り込むよう指図する。洞窟の侵入者であるリュカたちを追いかけてきたのは、死して尚死に切れない状態のゾンビナイトが三体だった。リュカたちがトロッコに乗り込むのを見て走り出したゾンビナイトらだったが、発車してしまったトロッコに追いつけるほど足が速いわけでもなく、すぐに振り切ることができた。
しばらく進んだトロッコが行きついた場所では、さきほどまで遠くに感じていた水の音が格段に近くなったように感じられた。さきほどティミーが言っていたように、滝から流れ落ちる水のような激しい音がリュカたちの耳に届く。この洞窟の上部から水が流れ落ちているということは、湖のかなり下にまで潜っているのだろうかとリュカは思わず天井を見上げた。
「リュカ王、また魔物だよ! どうする? 戦うの? 逃げるの?」
「お父さん、ここにもトロッコがあるわ!」
「よし! じゃあ逃げよう!」
戦わないで済むのならそれに越したことはないと、リュカは迷わずトロッコに乗ることを選択した。トロッコの踏み板の踏む強さの加減なども大分分かり、リュカとティミーはすぐに息を合わせてトロッコを進め始めた。
トロッコを追いかけてくる魔物は先ほどと同じ種類のゾンビと化した戦士たちだった。もしかしたらこの地下遺跡でかつて働いていた人間らが魔物と化してしまった姿なのかも知れないが、既に言葉が通じないのは明らかだ。ゾンビナイト自身も、何故リュカたち人間を追いかけ、攻撃しようとしているのかを理解していないだろう。まともに相手をして互いに傷を負うよりは、逃げて互いに事なきを得た方が良いとリュカはトロッコを進め続けた。
「リュカ王、もっと加速してください。レールが途切れています」
サーラがリュカにそう伝えながら、大きな翼をはためかせてトロッコの後方へ回る。ティミーが踏む踏み板の上に加勢するようにスラりんとスラぼうが跳ねて踏み板を深く踏み込む。下り坂で一気に加速し、車輪から火花が散る。耳障りな音が響き、ポピーは思わず両耳を塞いだ。
サーラがトロッコを後ろから支え、宙を飛ぶトロッコは無事に先のレールの上に着地し、続いてレールの上を滑るように進み続けた。トロッコから顔を覗かせていたプックルが、皆に知らせるように吠える。レールの終わりが見え、そしてトロッコを待ち構えるかのように魔物の群れがそこにあった。リュカがティミーと合わせてトロッコを徐々に止める最中、トロッコから一足先に飛び出したプックルが魔物の群れに突っ込んでいった。続いてサーラも空中から魔物の群れに飛びかかる。
トロッコの前で待ち構えていたのは、まるで邪悪な兜が単独で動いているような気味の悪い魔物だった。それが六体並んでいたため、その光景にリュカは思わず身震いした。グランバニア周辺でも同じような気味の悪い魔物を見たことがあるが、色が異なり、目の前のサターンヘルムはまるで血を浴びたかのように真っ赤な色をしていた。
見た目通りの硬さで、プックルの爪などは歯が立たない。しかしそれを見計らって、スラりんとスラぼうが同時に相手の防御力を削ぎ取る呪文ルカナンを唱える。呪文を受けたサターンヘルムだが、動きに変化はなく、ただじりじりとリュカたちに近づいてくるだけだ。
「お父さん、何、これ? なんだか変な音がする……」
ポピーの言う音をリュカも耳にしていた。どこからともなく耳障りな音が聞こえる。トロッコに乗っていた時に聞いた車輪とレールがこすれ合う音ではなく、脳内を侵食されるような叫び声を上げたくなるような嫌な音だ。
「がうがうっ!」
プックルには特に嫌な音が聞こえてないらしく、後ろを振り向いてリュカに呼びかける。リュカも脳の中が侵されるような音をどうにか振り払い、防御力が削ぎ取られたサターンヘルムとの戦闘に加わる。ルカナンが効いている敵を倒すのはさほど苦労もなく、リュカとプックル、ティミー、そしてベホズンだけで倒してしまった。
「一体何だったのかしら、あの音……」
「あれは呪いの一種です。現に私はその呪いにかかっていたようです」
「え、どういうこと?」
「つい先ほどまで呪文が唱えられませんでした。死の呪文で敵を一掃しようとしたのですが、呪文を唱えようとしたら呪いに邪魔をされたようです」
サーラが「今なら死の呪文も唱えられると思います」と言って呪文の詠唱を始めたところで、リュカが慌てて止めた。
「とにかくみんなが無事で良かったよ。さあ、先に……」
「ピキー、ピキー!」
スラりんの声にリュカは素早く振り向く。今まで進んできたレールの上を辿るように、別の魔物の群れが姿を現していた。トロッコに乗る人間を見つけ、レールを辿って追ってきたようだ。
「お父さん、また逃げる?」
「さっきと同じ、あのゾンビたちみたいだよ。どうする、リュカ王?」
「前に進めば上に上る階段があるようです。進んでみますか?」
サーラには暗がりの中の階段が見えているらしい。そちらには魔物の気配がないことを確認し、リュカは前方にあるという上り階段を目指して走り出した。非常に急な勾配の階段だったが、最も苦労するベホズンも一気に弾みをつけて上り、後ろから追ってきていたゾンビナイトらを振り切った。
「またトロッコだ……。広い採石場だったんだね、ここ」
「じゃ、乗ろうか、お父さん」
トロッコに乗ることには少しの迷いのないティミーは、先にさっさと乗り込んでしまった。この広い洞窟内を歩いて移動するよりはトロッコに乗って移動する方が遥かに楽なのは確かだが、急には止まれないトロッコに乗るのはあまり心臓に良くないものだとリュカは思わずため息をついていた。
「このトロッコはどこまで行くのでしょうね。私にも行き先はさっぱり見えません」
「サーラさんでも見えないのか。まあ、とりあえず行ってみようか」
トロッコは緩やかな下り坂を下って行く。先ほどの階段はトロッコの進むレールに高低差をつけるために設けられたものだったのかも知れないと思いながら、リュカはのんびりと踏み板を踏んでいた。下り坂を進んでいる間は踏み板を踏まなくとも、トロッコは勝手に前に進む。
「このレール、長いね~。どこまで続くんだろう」
「特にレールも途切れている様子はないですし、このまま進み続けるしかないようですな」
「魔物さんもいないみたいね。とっても……快適」
ティミーだけではなく、いつの間にかポピーもトロッコに乗ることを楽しんでいた。トロッコは一本のレールの上をひたすら進み続ける。途中、分かれ道もなく、レールを切り替える必要もないようだった。
水の音が近づいてきたと思ったら、みるみる音は大きくなり、その内轟音に包まれた。リュカたちの乗るトロッコは大きな滝の裏側を進んでいた。水しぶきがトロッコに降りかかるが、その冷たさが心地よかった。
「うわー、すごい! 滝の裏を通ってるんだね! おもしろーい!」
「でも滝の水しぶきでビショビショになっちゃいそう。気をつけようね、お父さん」
ポピーの何気ない言葉に、リュカは胸が締め付けられた。かつて神秘的な景色が広がる滝の洞窟の中を、ビアンカと魔物の仲間たちと旅をした。水があちこちに広がる洞窟の中を歩いている時、ビアンカはリュカに気遣うように言った。
『でも滝の水しぶきでビショビショになっちゃいそう。気をつけようね、リュカ』
危うくビアンカの名を口にしそうになったリュカだが、その名をぐっと飲み込んだ。ビアンカの名を口にしてしまえば、子供たちを不安にさせ、魔物の仲間たちに心配をかけ、そして自分自身も普段は気づかない寂しさに耐えられないと感じた。
リュカはふとプックルを見た。プックルはリュカに背を向けたまま、赤い尾をトロッコの床の上に落として、滝を静かに見つめていた。もしかしたらプックルも、あの時のビアンカとの旅を思い出しているのかも知れない。彼女との記憶を共有できる仲間がいることに、リュカは安心してトロッコが進む前方を見やった。
トロッコはひたすら一本道を進む。途中、二度ほどレールは右に曲がり、左側には常に洞窟の岩盤が迫っているような状況だ。このトロッコは広い洞窟の最も外側を走るものなのだろうと、その位置を見ながらリュカは思った。
三度目の曲がり角を曲がると、トロッコのレールが浸水しているようで、車輪が水しぶきを上げ始めた。これくらいの浸水なら問題はないと、リュカはティミーと息を合わせながら踏み板を踏み、トロッコをひたすら前に進める。
その時、レールが一気に下り、トロッコ自体への浸水が始まった。木の板を乱雑に組み合わせただけの作りであるため、トロッコの中へ水が入り込むのはあっという間だった。
「お父さん、もうこれ以上先に進めないんじゃないかしら?」
足元が水浸しになったトロッコに、ポピーが慌てたようにリュカに言う。下り坂が続いているようで、トロッコは特に踏み板を踏まなくとも進み続けてしまう。
「でも、じゃあどうしてこんなところにレールが続いてるんだろう」
「ピッピキー!」
リュカの言葉を聞いて、トロッコの木の枠に乗っていたスラりんが弾みをつけてトロッコから降りた。水しぶきを上げて水の中に入って行ったスラりんを追いかけるように、ベホズンもトロッコから飛び降り、激しい水しぶきが上がる。リュカが慌てて追いかけようとトロッコの縁に手をかけて伸びあがるが、それをスラぼうが止める。
「リュカ王、大丈夫。スラりんとベホズンが水の中を見て来てくれるよ」
少しすると、スラりんが顔を出し、スラりんを支えるようにベホズンも水の中から顔を出す。彼らの体はほとんどが水でできているためか、水の中で行動することには特に問題がないようだった。
「ピー、ピー」
「水の中もレールが続いてるみたいだね。どうする、リュカ王?」
「どうするって、トロッコって水の中も走れるの?」
「うーん、どうなんだろう。やってみないと分からないけど」
「お父さん! 話してる場合じゃないわ! トロッコが……!」
リュカたちが悠長に話し合いをするのと同時に、トロッコは順調に下り坂を下り続ける。水の抵抗を受けて止まることはない。トロッコの中に水がみるみる浸水し、トロッコはレールを進むというよりも、水の中に沈んでいっていると言った方が正しい状況だ。
「みんな、息を吸って! 行くよ!」
リュカの声に合わせ、皆が限界まで空気を吸う。そしてトロッコが上まで水で覆われると同時に、リュカたちは激しい勢いのまま水の中に突っ込んでいった。
Comment
bibiさん
再会してからは勇猛な特攻隊長のイメージが強いプックルに意外な一面が(笑)
ちょっと可愛いですね…
スライム2匹も良いコンビで頼りになりますね。
ポピーにビアンカの台詞を被せるのはズルい。
リュカは普段から出来るだけ考えないようにしてるんでしょうね…
ピピン 様
コメントをありがとうございます。
そうですね、プックルは素早さに長けているだけあって、特攻隊長のような存在ですね。
しかし自分の足で走るのとは違い、トロッコと言う勝手に転がって進むのは苦手という・・・実は馬車に乗るのも苦手だったりして(笑)
スラスラコンビ、とても頼りになります。スクルト重ねがけ、ここに更にティミーのスクルトも加われば、もうみんなで猪突猛進戦法を・・・呪文には弱いですが。
ポピーにビアンカのセリフを言わせたのは、こういうことって本当にありそうだなと思ったので言ってもらいました。
もしかしたら、パパスもリュカの言葉の一つ一つにマーサを思い出していたのかも知れません。
リュカは普段、子供たちのことで必死になっているため、ビアンカのことは頭の片隅に封じ込めているという感じでしょうか。
辛いことがあると仕事に忙殺されている方が気が紛れる、と言ったところかな。
bibi様。
トロッコジャンプ、もしサーラが居なかったら時の運次第だったわけですね。
今さらだけどbibi様…マッドがいれば執筆が楽だったかなぁ…なんて思ってますか?(笑み)。
bibi様たまに過去の作品から回想シーンを持って来ますよね。
自分たちヘビーユーザーにはニヤニヤしちゃうんですよbibi様の小説を読み込んでいますから!。
プックル本当は怖がりさんだったんですね。
マスタードラゴンの背中に乗る時だいじょうぶでしょうか…。
サーラのザラキ見て見たかったですよぉ
ザラキやザキの描写は、それこそ滝の洞窟でリュカがミミックから食らった以来になるでしょうか?。
次回は、いよいよプサン登場ですね。
周り続けるプサンとの会話をどうするか…そして天空城に到着するのか…。
次回も楽しみにしています!。
ケアル 様
コメントをありがとうございます。
トロッコジャンプはゲーム上でも見た目にぴょんっとジャンプしているように見えるので、サーラさんに手伝ってもらいました。
誰かの手伝いがないと、あの動きは無理かと(笑)
マッドがいれば書くのも簡単・・・そ、そんなこと、思ってませんからねっ(汗)
人生ってぶつ切りじゃなくて、一つの線上に続いているものなので、やっぱり過去の情景と重ねたくなっちゃうんですよね。
実際、DQ5ってそういうところがいいなぁと思う部分でもあります。主人公が過去に行く場面とか。
プックルはマスタードラゴンに乗る時は、必死に爪を立てて乗っているかも知れませんね(笑)
サーラにはこれから活躍してもらおうかなと思っています。ただのトロッコ運び要員では可哀そうなので。
次回はようやくあの人の登場ですかね。私も楽しみです。ようやく書けます。
魔物が、トロッコ追っかけてくる描写と、ゾンビがわらわらとトロッコに近づいてくる描写に普通の子供たちならビビりあげるなあと思って、ビビりながら読んでいました。更新ありがとうございます!
がっちゃん 様
コメントをありがとうございます。
そうですよね、普通の子供たちならゾンビに追いかけられるなんてトラウマものですよね。
旅慣れて、魔物に慣れた二人はもうゾンビには驚かなくなってしまったのかも知れません(汗)
これからも頑張って更新して参ります!