「肉弾-旅順実戦記」を読んで

 

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どうもこちらではご無沙汰しておりました。この夏、お盆の期間だけ暑さが和らいだという印象だけで、何だかずっと暑かったように思います。連日、35度を超えるような暑さで、外に出るのも躊躇するような暑さが続きました。外出するのが怖いと感じるような酷暑でした。

その暑い夏の最中に、こちらの本を読みました。

「肉弾-旅順実戦記」桜井忠温(さくらい ただよし)著

少々昔の本で、日露戦争を題材にしたものです。日露戦争、学生の頃に一度、二度と社会科の授業で学習する内容かと思います。ただ、学校の授業で触れるられるのは、ただその歴史があったということだけで、その内容に深く触れることはほとんどないかと思います。年単位で決められている授業時間では、そもそも一つの歴史を深堀することも難しいでしょう。何せ、日本の歴史自体が長いので、それだけで学習する内容が多くなってしまいますからね。もし習った歴史の中で、深堀したいものがあれば、自ら調べに行くことで、当時の歴史への理解を深めることはできます。今はインターネットがあるので、昔に比べたら調べることも簡単でしょうが、やはり当時の生の声を拾うには、当時の方が書いた本を手に取るのが確実なのかなとも思います。

この「肉弾-旅順実戦記」という本、その名から凄まじい内容を想像してしまいますが、確かに凄まじい内容の箇所もありますが、それだけに留まらないのは、あの日露戦争を実際に体験した本人がその手で書いているから、ということがあるのかも知れません。これが、後に生まれた人や、当人ではない人が書けば、もしかしたらもっと凄まじい内容に書かれていたかも知れません。その目にしたものを書くのと、想像して書くのとは、やはり想像の方が大きくなりがちなところはあるように思います。想像はどこまででも広がりますからね。これが実体験の話と言うところが、非常に大きな意味を持っています。

その意味合いからも、こちらの本は世界的ベストセラーになっています。今から百年以上も前の本です。初版は明治39年4月、そしてこちらの本はその初版の1380版(昭和3年4月)を底本にし、新字新仮名に改めたものです。……1380版って、意味が分からなくないですか? そんな本が存在するのかと、驚きました。

こちらの本を読んで、当時の空気を感じるのは、戦争の暗さがほとんど感じられないことでした。本の著者である桜井忠温さんご自身、日露戦争に従軍し、瀕死の重傷を負って帰還した方です。そのような状況になった経緯も、当然本には書かれています。しかしこちらの本に書かれている凡その空気は、明るいし、仲間に対して、また敵兵に対してさえも、慈しみの心を持っていることを感じられました。

戦場に向かう船の上では歌を歌ったり、踊ったり、楽しいひと時を過ごす場面がある一方で、その後には敵地上陸の際には荒波に呑まれて上陸叶わずの兵士もいるという惨状。しかしその荒波に呑まれてしまった兵士に対しても、その遺志をしっかりと拾い上げる桜井さんご自身の思いがあり、それは桜井さんのみならず、共にその場に在った方々共通の思いだったのだろうと想像させられます。とにかく、誰も見捨てないという意識が、常に根底に流れているようで、その熱く優しい思いに救われる思いがしました。

こう書いてしまうと、何となく現代の意識では漫画チックだな、みたいな雰囲気が出てしまいそうですが、紛れもなくこれが当時の空気だったのでしょう。事実は小説よりも奇なり。こちらの本の内容を”奇”とは表現したくないですが……ただ、本当に奇妙なこととして一つ、書かれていることがありました。敵兵が退却する際に、大手を振ってノソリノソリと歩いていたので、狙いを定めて撃ったが当たらない。中にはこちらに尻を突き出して用を足すなどと言った大胆不敵な者もいたので、狙いを定めて撃ったが当たらない。ただ、当たる者には四十でも五十でも当たるのだと書いており、「弾丸は魔物」と、桜井さんは表現しています。こればかりは天運だが、中には真に追っかけてくるのかと思うほどによく当たるものがある、と。この辺りは本当に、「事実は小説よりも奇なり」ということなのだろうと感じました。

こちらの本の最終局面では、文字通りの死屍累々とした場面が描かれています。言葉には表せないほどの惨状で、桜井さんご自身も瀕死の状態で、死体と間違われるほどの状況でした。その状況においても、誰一人として、「自分のために」という行動を取らないという空気を肌に感じるためにも、こちらの本を一読することをお勧めします。どれだけ自分が傷ついていようとも、たとえじきに死んでしまうであろう兵が「末期の水を……」と求めれば、放ってはおけないと、臨終の兵の口に水を含ませてやる。この一場面でも泣けます。どうして泣けるのか。魂を揺さぶられるからに他なりません。そしてこれが過去の現実だったことを思えば、この日本を守るために必死に戦った方々がいたのだと、身の引き締まる思いがします。同時に、今の日本の姿を、到底誇れないことに、申し訳なく思う気持ちに沈んでしまいます。

しかし、日本の根底には、このような精神が今も残っていることは、私たちは漫画やアニメにもその一端を感じているはずです。精神と言うものは、時間を経て薄れても、根絶やしにされることはないはずです。考えてみれば、たったひと昔前の出来事なんですよね。ざっと120年ほど。当時の景色を、ただ学校の教科書を追って流し見をするだけではなくて、こうして当時の本を手に取ってしっかりと味わってみるのも有意義なことだと思います。

今回読んだのは、日露戦争の実戦記。また、今私は同時に別の本も読み進めています。トルストイの「戦争と平和」。時代は異なりますが、こちらの本はロシア側からの景色が見えてきます。外国文学を読むと、その国の考え方に触れることができるので、ある種の新鮮さがあります。その国その国に由来する文化、習慣の違いから、根底の意識の違いにも気づくことができます。長いお話で、まだ読み終わっていないのですが、中盤を過ぎて面白くなってきました。このまま最後まで読み進めたいと思います。

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