2017/12/03
サラボナでの出会い
地下道の入り口は多くの旅人が利用することもあり、しっかりとした造りになっていた。幅も広く、緩やかな下りが続く道は、かなり大型の馬車でも難なく通すほどの大きなものだ。近くに他の旅人の姿は見られないが、一日に数回は旅人や商人たちがこの地下道を利用しているようにリュカには見えた。外見から見える地下道の古さは、風化ではなく、単に古くから使用されているからなのだろう。
入り口近くまで行くと、地下道の中に明かりが灯されているのが分かった。近くに地下道を管理するような者の姿は見えない。一体誰が地下道の明かりを管理しているのだろうと、リュカは道を下りながら首を傾げた。
「マーリン、火をずーっと絶やさない呪文ってあるの?」
「ずっとと言うてものう、さすがに何年もとなると、かなり高度な呪文じゃと思うが。わしは知らんよ」
「そうなんだ。僕たちにとっては助かるけど、誰がこの火をつけてるんだろう」
整備された地下道の要所要所、壁に灯された火は、まるで先ほど点けられたかのように明るい。その明かりは地下道の奥まで続き、通常の洞窟探検のように、緊張感に身を包まれるような雰囲気はない。
しばらく地下道を進むと、明かりの中に何者かの影を目にし、リュカは『他にも人がいるんだ』と、その人影を見てほっと息を吐いた。明らかに人の形をした影は、何やら青白い光に照らされ、その姿を浮かび上がらせている。リュカは馬車の車輪の音をガラガラと鳴らしながら、迷いなく近づいて行った。
鎧兜に身を包んだその人影は、一見するとどこかの国の兵士のように見えた。しかし動きがかなりぎこちない。リュカは一度馬車を止めて、その人影の様子を窺うことにした。兵士の人影はふらふらと地下道を歩きながら、壁に近づいて行く。酒にでも酔っているのだろうかと心配になったリュカだが、兵士の人影はそのまま壁の前で立ち止まると、手にしていた青白い明かりを掲げた。その青白い明かりを見て、リュカはあっと小さく声を出した。青白い明かりは明らかに魔物だった。
青白い炎の姿をした魔物は、壁に近づけられると、切れていた蝋燭に火を灯した。ずっと昔から続けられてきた兵士の仕事であり、この世を後にした今でも、骸骨兵となりその習慣を続けているようだった。骸骨兵が手にしている青白い魔物デススパークは、魔物となった骸骨兵の昔からの習慣に付き合っているのか、特に嫌な顔もせずに、至って普通の顔をして壁の燭台に火を灯している。
青白い炎の魔物の鋭い目と目が遭い、リュカは反射的に微笑んでしまった。かつては敵だった人間の兵士の習慣に付き合っている魔物だと思うと、リュカはどうしてもデススパークのことを悪い魔物だとは思えなかった。青白い炎に宿った魔物としての心は、恐らくあまり悪いものにはならなかったのだろう。その証拠に、リュカの存在に気付いた今も、デススパークは骸骨兵の習慣に付き合うことを優先し、リュカ達に襲いかかってこようとはしなかった。
リュカは再び馬車を動かし始めた。進む先には骸骨兵とデススパークがいる。しかし骸骨兵は壁の燭台の管理をすることだけに集中し、デススパークもそんな骸骨兵に寄りそうようにくっついて仕事に励んでいるように見える。リュカ達の馬車が通る時には、むしろ道を開けて通してくれたほどだった。振り返ってもう一度彼らを見ると、淡々と消えてる燭台を見つけては火を灯しに歩いていた。デススパークも魔物の姿をしているだけで、もしかしたら骸骨兵がこの世を去る時に、一緒に消えてしまった炎だったのかも知れないと、リュカはふとそんなことを考えていた。
地下道には他にも魔物の姿があった。しかしあまり好戦的な魔物はいないようで、リュカが馬車を進める中でも、その姿ははっきりと明かりの中に見えたが、率先して襲って来るようなことはなかった。天井で蝙蝠のような形をした魔物も、ガラガラと進む馬車を見下ろすだけで、馬車の幌に穴を開けてやろうなどというイタズラ心も持ち合わせていなかったようだ。地下道に魔物がいるということを聞いていなかったリュカだが、そのことを人々が言わない訳が分かった気がした。特に気にするほどの凶暴な魔物がいないということなのだ。
山を抜けるための地下道は、通り抜けるのにかなりの時間を要した。昼頃入ったはずだったが、地下道を抜ける頃には夕闇が迫っていた。しかし山を登るのに比べれば、その時間は半分、はたまた四分の一ほどに短縮できたのではないかと、リュカは山の向こうに輝く星を眺めながらそう思った。
「今日はこの辺で一度休もうか。サラボナの町まであと三日は歩くだろうし」
「がう……」
地下道で戦うことのできなかったプックルが、少し不満そうに小さく鳴いた。数時間歩き通しただけで、身体を使っていないに等しいプックルは、どうも身体がむずむずしているようだった。
「明日からまた活躍してもらうからね、プックル。地下道を抜けたから、この辺りにはまた今までとは違う魔物が沢山いるかも知れない」
「そうですね、今晩の見張りも気を抜かないようにしましょう」
ピエールがそう言うと、パトリシアの鞍に乗るスラりんが「ピー」と元気に返事をした。荷台が大きく揺れ、外に出てきたガンドフは、大きな目を更に大きく開いて、既に見張りをする気満々だ。
地下道を抜け、山を越えたことで、リュカはかなりサラボナという町に近づいたのだと、興奮していた。町にあるという伝説の盾を必ず見つけ出し、手に入れることを、心の中で亡き父に誓っていた。
一時間前に渡った大きな橋の近くには、数隻の船が停泊していた。橋の北側に泊められている船は、主に近海で漁をするための漁船のようだった。橋を渡る時、馬車を進めながら橋の下の大河を眺めていたら、強い日差しに照らされる水面に魚が跳ねているのを目にした。この辺りは良い漁場で、サラボナの町に住む漁師たちはこの辺りで漁をするのだろうと、リュカは目の前に迫るサラボナの町に対する期待を膨らませていた。
まだ朝を少し過ぎたほどの時間だが、馬車を照りつける日差しは暑い。季節は春を迎えたところだが、この地域に季節はあまり関係ないのかもしれない。一年を通して気候は温かく、しかし肌にまとわりつく湿気はなく、暑さに滲む汗に乾いた風がさらっと吹き、すぐに汗を乾かしてくれる。辺りに花の良い香りが漂い、サラボナの町が近いことを知らせてくれる。リュカは初めて感じる南国の解放的な雰囲気に、知らず景色を眺める表情がにこやかになっていた。
サラボナの町に着いたのは昼近くになってからだった。まだ十分に残っていた水を少し飲み、リュカはパトリシアの手綱を持ちながら、サラボナの町の前でしばし立ち止まった。初めてサラボナを見た印象は、花に彩られた美しい町。町の外にまで漂う花の香りは、それだけで近くに魔物を寄せ付けないような、まるで聖水の役割でも果たしていそうな清き空気に満ちていた。決してむせかえるような花の香りではなく、至って上品で、控えめにそこにある、という空気なのだ。
「キレイ……」
ガンドフの一言で全てが言い表されていた。人々が理想とするような美しい町、それがサラボナだった。町のそこここで咲き誇る花は、人の手によってしっかりと手入れされ、愛されているのだろう。まだ遠くから見る町の景色だが、それでも町の造りが花の美しさ同様に、隅々まで手入れされているのが分かる。
「何だか我々魔物は近づきがたい雰囲気ですね」
ピエールがそう言うと、リュカは改めて自分以外の仲間が魔物だと言うことを思い出した。町や村に滞在するよりも遥かに外の世界を旅している時間の方が長いからか、リュカにはスラりんもピエールもガンドフもマーリンも、プックルも皆、人間よりも近い存在のようにさえ感じている。
「そんなのは見た目だけじゃろ。入ってみればなんてことはないはずじゃ」
「マーリン、一緒に行くの?」
ルラフェンですっかり町歩きに慣れてしまったマーリンが、サラボナの町に入っても恐らく魔物とばれることはないだろうと、リュカは普通の調子でそう聞いた。しかしピエールが押し黙る雰囲気を感じたのか、マーリンは首を横に振ると、さっさと馬車の荷台に引っ込んでしまった。
「今回はやめておこうかの。ルラフェンは道もごちゃごちゃしてわしのことを誤魔化すのも苦労せんかったが、ここはそうも行かなさそうじゃ」
「確かにそうかもね。何だか、僕も入りづらいよ」
そう言いながら、リュカは長旅をしてきた自身の格好を見下ろしてみた。サラボナの町は他の国や町などと様々な商品のやりとりがあるようだが、この町を訪れる商人や旅人はどこか洗練された人たちばかりのようで、リュカのように土埃にまみれたような薄汚れた旅人は歓迎しない雰囲気が感じられた。
「近くに川はないし……仕方ないか、このまま行こう」
「私たちは町の裏側に回ることにします。正面ではあまりにも人目につきますので」
「うん、分かった。じゃあまた後で」
リュカはそう言うと、馬車を魔物の仲間に任せて、一人でサラボナの町へと足を踏み入れた。
町全体が頑強な外壁で囲まれているサラボナの町には、整然と石畳が敷き詰められ、馬車ごと入るのにも全く問題ないほどの広い道が西に向かって伸びていた。真っ直ぐに伸びる石畳の道の先には、陽光をきらきらと跳ね返す大きな噴水があった。そこは町の人々の憩いの場になっているようで、ちらほらと町の人の影が見える。そしてその北側には、見たこともないような大聖堂が、燦々と陽の光を浴びて建っていた。遠くからでも分かる町の清らかな雰囲気はこの大聖堂があるからだと、ピエールが近づきがたいと言っていた理由が分かった気がした。
町の中に入り、少し歩くと宿屋の建物が見えた。多くの商人や旅人が訪れるサラボナの町の宿屋は大きく、部屋に空きがないということはなさそうだった。大きな宿屋には酒場も兼ねているようで、宿屋の印の隣に、ジョッキの絵が描かれた看板が掲げられていた。
「とりあえず宿を取らないと」
リュカが早足で宿屋に向かう途中、突然、大きな犬の吠え声を聞いた。その声はみるみる近づいて来る。声のする方を見ると、散歩の途中だったのか、まるで長い尻尾を持て余すようにリードを引きずって走ってくる大きな犬の姿が見えた。リュカが見ても分かるほど、手入れが行き届いた、清潔感に満ちた白い大きな犬だ。リュカは思わず、自分の姿があまりにも汚いから、サラボナの犬にまで「この町に入ってくるな」と言われているのだろうかと、小さく唸り声を上げていた。
「わんわん!」
明らかに警戒している声だった。犬は人間の数倍物事に敏感だ。数ある旅人の中でも、魔物と旅をする人間はリュカの他には恐らくいないだろう。他の旅人と比べて魔物のにおいが強いリュカに過剰反応をしているのかも知れない。今にも襲いかからんばかりの犬の顔つきを見ながら、リュカはその場に座って犬が走ってくるのを待つことにした。自分は魔物ではなく人間だと一度教えれば、この賢そうな犬だったらすぐに分かってくれるだろうと、リュカは手を出して犬を待ち構えた。
「誰か! お願いです! その犬をつかまえて下さい!」
女性の必死な声が、犬を追いかけてきた。しかし町を歩く人間は、女性の助けに応えようとも、大きな犬が全速力で走るのを止めることはできない。町の人々が見守る中、白い大きな犬はリュカ目がけて真っ直ぐ走って行く。緊張が走る人々の視線に気づかないまま、リュカは犬をじっと見つめながらしゃがみ込んでその場に留まっていた。
リュカの手前で急ブレーキをかけた犬は、直前までの闘争心をどこかへ置き去りにしてしまったように、一転してリュカの顔をじっと見つめた。少し距離を取り、窺うような視線を向けてくる。
「やっぱり君は賢い子だね。僕は魔物じゃないよ、分かるかい?」
小さい子供に話しかけるような口調で、リュカは犬に話しかけた。しばらくして前足を一歩、リュカの方へと踏み出した時、後ろから犬を追いかけていた女性がようやく追いついた。
「はあはあ……。ごめんなさい。この子が突然走り出して……」
必死に駆けてきた女性は息を整えるのに必死で、まだ飼い犬のリードも持たずに、両ひざに手をついて肩で息をしている。しゃがみ込んだ状態から女性の顔を見上げると、リュカは瞬間的に思わず息を呑んだ。
まるで今の空を見上げたかのような真っ青な髪色は特徴的で、腰まで伸びる青髪は両側をすくって後ろで珊瑚色の大きなリボンできっちりと結えられている。足首まで隠れる長いスカートとは対称的に、細腕は肩から出ていて、いかにも華奢な女性の腕だ。必死に走って来たため、こめかみから汗が流れ落ちるが、陽光に照らされてきらりと光る汗にすら清潔感が漂うほど、目の前の女性には洗練された雰囲気が漂っていた。
女性を見て、初めて「美しい」と思った瞬間だった。
「あの、お怪我はありませんか?」
息を整え、心配そうに向けられる目も、髪色と同じ青色をしていた。リュカはしばらく彼女の瞳をじっと見つめていたが、慌てて立ち上がると「大丈夫です」と返事をした。
「一体どうしたのかしら? さあ、いらっしゃい」
女性はその細腕を伸ばしてリードを掴むと、白い大きな飼い犬を軽く引っ張った。しかし犬は動かず、まだリュカのことをじっと不思議そうに見ている。
「リリアン!」
名を呼ばれてようやく犬は飼い主である女性を振り向き見たが、またすぐにリュカの方に向き直ってしまった。そしてリュカに近づき、差し出されたリュカの手に鼻を近づけると、次にはもう尾を元気よく振っていた。
「わんわんっ! く~んく~ん」
「まあっ!? リリアンが私以外の人になつくなんて初めてですわ。あなたは一体……」
大きな目を更に丸くして、女性が片手を口に当てて驚きの声を上げる。彼女の行動全てが洗練されていて、リュカは思わず返す言葉もなく無言で見つめてしまった。
「…………」
「……。……あら、いやだわ。私ったらお名前も聞かずにボーッとして」
「いや、僕の方こそ、すみません」
「お名前は……」
「リュカと言います」
「そうですか、リュカさんとおっしゃるのですね」
女性が続けて何かを言おうとした時、町中に鐘の音が響き渡った。リュカ達がいる場所からでも見える町の大聖堂の鐘が、昼の時刻を知らせたようだ。
「まあ、もうこんな時間。早く戻らないと……」
女性は真上に昇った太陽を眩しそうに見上げ、そしてまたリュカに向き直る。
「本当にごめんなさい。またお会いできたらきっとお礼をしますわ」
「いや、僕は何もしていないから……」
「あなたのおかげでリリアンが止まってくれましたわ。私、あのままリリアンが町の外に出てしまうんじゃないかと心配だったんです。ですから、とても助かりました」
リュカに向かって走って来た時のリリアンには、確かにその勢いがあった。町の通りを疾走する大きな白い犬の姿を、町の人々は見守ることしかできないほど、リリアンは人間など追いつけない速さで走り続けていた。しかしそうさせていたのは恐らく自分なのだということを、リュカは説明しようがなかった。まさか魔物の仲間を外に待たせているなどということを話すわけにはいかない。たとえ話しても、女性は話を信じないだろう。
「さあ、リリアン、帰るわよ。いらっしゃい!」
「わんわん!」
元気に吠える犬と共に、女性はリュカに背を向けて去って行ってしまった。町行く人が皆、彼女に視線を送る。そんな町の人々の視線に、彼女は丁寧に頭を下げ、「お騒がせしました」と謝りながらリリアンという大きな白犬を連れて足早に歩いて行く。リュカは彼女の姿が見えなくなるまでずっと、その後ろ姿をぼうっと見つめていた。
宿屋で宿泊手続きを済ませると、リュカは昼食を取るのも兼ねて、再び町の中に出た。まだ陽は傾いたばかりで、年中夏のようなこの町の日没は遅い。時間はまだたくさんあると、リュカは町に入る時に見えていた噴水広場に向かって歩き出した。人が集まる広場には、決まって飲食店も並んでいる。宿屋に併設されている酒場にも足を運んでみたが、まだ昼間だからか閑散としていたため、リュカは人の集まる広場に足を向けていた。
予想通り、噴水広場の周りには飲食店がいくつか並んでいた。初めはどこか店に入って食事をしようかと考えていたが、入店して食事をするような店はどこも値段の高い食事を提供しているようで、リュカは手軽に食べられるパンに魚と野菜を挟んだものとオレンジジュースを買い、広場で手早く食事を済ませてしまった。この辺りではオレンジが良く採れるようで、水を注文するよりもオレンジジュースの方が値段が安く、リュカや他の旅人も、ほとんどが手にオレンジジュースを持っていた。
広場には町の人の他にも、旅人や旅の商人の姿があちこちに見られた。日差しが照りつける暑い時間は、サラボナの町では仕事を休む者も多いようで、広場にある木陰で昼寝をする者もいる。その中で、リュカは噴水近くで水遊びをする子供を見た。町の子供に見えないのは、年の割にどこか精悍な顔つきをしているからかも知れない。サラボナの町に守られた生活をしていれば、もっと平和な表情をしているはずだ。しかしリュカの見る少年は、噴水で水遊びをしながらも、どこか隙がない雰囲気を持っている。
気になったリュカは、少年のところへと歩いて行った。手にしたオレンジジュースを飲みながら近づいて行くと、まだ遠いところから、少年は誰かが自分のところへ向かって来ることに気付いたようだ。水遊びしていた手を止めて、人懐こい笑顔のまま、リュカをじっと見つめた。
「お兄ちゃんは旅の人だね」
リュカが話しかける前に、少年から物怖じせずに話しかけてきた。まだ十歳そこそこだろうか、それでも旅慣れている空気が少年の周りには漂っている。
「うん。君も旅をしているの?」
「ボクも父さんと商売しながら旅してるんだ」
生き生きと話す少年を見ながら、リュカはかつての自分を思い出した。幼い頃、自分も父の連れられ旅をしていた。しかし当時、旅の目的など何も知らずに、ただただ父に手を引かれるだけの旅だった。旅をしていること自体が日常だったため、何故父と旅をしているのか、何故サンタローズには知り合いが沢山いたのか、リュカは何も知らずに、知らされずにその時を生きていた。
しかし目の前の少年は、父が商売をしながら旅をしていることを理解している。そして父の商売を手伝ってもいるのだろう。リュカに向けられる人懐こい笑顔、それが一つの商売道具のように見えた。少年自身、笑顔を道具として使っているわけではなさそうだが、商売をする父を見ているうちに自然と身についたものに違いない。それと言うのも、少年が父を手伝いたいと思う心があるからだと、リュカは当時の自分に置き換えてそう思った。
「お父さんはどこにいるの?」
「今あそこで誰かと話してる」
少年が指差す方向に、町の人と立ち話をする三十半ばほどの男がいた。少年と同じ茶色の髪で、口元にはわずかばかりの髭を蓄えている。リュカがその男を見ると、ちょうど男もリュカの視線に気づき、次いで息子と目が合うと、男は町の人との話を切り上げてリュカ達のところへ歩いてきた。
「あなたも旅の方ですか?」
男がそう尋ねる横で、水遊びを止めた少年が父の隣にぴたりとつく。並んで見ると、一目で親子と分かるほど、顔の造作がそっくりだった。
「はい、ちょっとサラボナに用があって。今、町の人と何を話していたんですか?」
「息子を連れて旅する途中でこの町に寄ったのですが……全くすごい話ですよ。あなたも聞きましたか?」
「何をですか?」
サラボナの町に入ってまだまともに人と話していないリュカは、町の人々の噂話にまだ触れていない。何が何やら分からないと言った表情で、商人の男に聞き返す。
「他の町でも有名な大金持ちルドマンさんが、娘のフローラさんの結婚相手を募集するそうですよ」
「結婚相手を……募集?」
「もちろん条件は厳しいですが、結婚が決まったら、家宝の盾もくれるとか」
商人の最後の言葉に、リュカは言葉を失った。商人の言う家宝の盾というのは、ラインハットでデールに聞いた天空の盾のことではないだろうかと、リュカはすぐに思い至った。サラボナに来た目的は、伝説の勇者が装備できるという天空の防具の一つ、天空の盾を手に入れるためだ。それが間違いなくこの町にあることに、リュカは顔を綻ばせた。
「その家はどこにあるんですか?」
「おや、君も結婚相手として立候補するのかい? それも良いかも知れないね」
商人の男の言葉に、近くで立ち話をしていた男たちが面白そうに話に加わって来た。二人の男は町の人間で、ちょうど昼休みを取っているところのようだ。
「ルドマンさんの家ならこの奥の立派なお屋敷だよ。道具屋の主人まで店を休んで行っちまって、今頃は大騒ぎだろうな」
「お店を休んで行っちゃったんですか? 大丈夫なんですかねぇ」
旅の商人の男は、心配そうな顔でそう言った。店を勝手に閉めて、お客さんに迷惑をかけるなんて、と真面目な性格がちらりと見える。
「この奥の立派な屋敷ですね。僕、行ってみます」
「あんた、旅の人だろ。ルドマンさんが旅の男に大事な娘をやるとは思えないけどな」
町の男の言葉も聞かないまま、リュカははっきりとした目的のため、町の西に向かって颯爽と歩きだした。着実に父が果たせなかった夢に近づいている。あるかどうかも、残されているかどうかも分からなかった天空の防具の一つが、もうすぐ手に入るかも知れない。そう考えるだけで、リュカは旅の疲れなど吹き飛んでしまうほど、身も心も軽くなるのを感じていた。
噴水広場から西に向かって歩いていくと、商店の立ち並ぶ賑やかな雰囲気はなくなり、代わって見たこともないような大きな家が建ち並ぶ閑静な住宅街に入ったのが分かった。通りの両側にいくつもの屋敷のような家が並び、リュカは先ほど町の男に聞いたルドマンの屋敷がどれなのか、一つ一つを見て回らなければならないのかと小さく溜め息をついた。
しかしその必要はなかった。更に町の西に目を向けると、一際大きな、まるで小さな城のような家が、サラボナの町を取りまとめるかのように建っていた。そしてその巨大な屋敷に向かって、数人の男たちが歩いて行く姿が見えた。旅の垢を一つも落としていないリュカのように小汚いわけではないが、それでもいかにも野心を持ってルドマンの家に向かう若い男たちの後ろ姿がリュカの目に映った。どことなく近づきがたい雰囲気に、リュカは少し距離を開けて、彼らの後をついて行くことにした。
まるで湖のような大きな池に橋が架かり、その橋を渡ると間もなくルドマンの屋敷の庭に入った。個人の家の庭だと言うのに、手入れの行き届いた広い庭を見て、リュカはラインハットの中庭の景色を思い出した。城の中庭と遜色ないほど、ルドマンの屋敷の庭は見事な庭園で、様々な花に美しく彩られていた。
広い庭を抜けて、ようやく屋敷の入り口に辿りつくと、入り口のすぐ脇から大きな犬の吠え声が聞こえた。声のする方に目を向けると、屋敷の庭ほどではないが、広い敷地内に白い大きな犬が一匹、放し飼いにされているのが見えた。リュカが近づいて行くと、犬は柵に前足をかけて、リュカを見ながらぶんぶんと大きく尻尾を振り始めた。町に入った時に、自分めがけて走って来た先ほどの白い犬だということは、すぐに分かった。
「君はここの家の犬だったんだね」
ルドマンの家で飼われる白い犬リリアンに、好き好んで近づくものはいない。飼い主以外には懐かないことで有名で、近づけば必ず大きく吠えたてられるか、柵の隙間から手を入れようものなら噛みついてくるような警戒心の強い犬なのだ。そんな犬に、リュカは話しかけながら、何事もないように柵の隙間から手を入れ、リリアンの頭を撫でてやった。余所者に撫でられても大人しくしているリリアンを見て、屋敷の前に集まる男たちは信じられないと言った顔をしていた。
「君の家、ちょっとお邪魔するね」
リュカはそう言いながら、リリアンの飼い主である先ほどの女性のことを思い出していた。噴水広場で聞いた話では、ルドマンと言う他の町でも有名な大金持ちが娘の結婚相手を募集しているということだった。その娘というのがこの犬を散歩させていた彼女なのかと、リュカはどこか納得するような気持ちに落ち着いた。
屋敷の門の前には黒山の人だかりができている。そのほとんどがルドマンの娘との結婚を望んで屋敷まで足を運んでいた。年齢も様々な男たちがひしめき合う光景は、この美しいサラボナの町にはそぐわないものだった。野心の滲み出る者が多く、それだけで様々な花に彩られたルドマンの屋敷が穢されてしまいそうだ。
「いやいや、あなたもちょうど良い時にこの町を訪れましたね」
リュカのくたびれた旅装を見て話しかけてきたのは、恐らくこの町で商売を営んでいる中年の商人だった。マントや服の端などがボロついて、身ぎれいにもしていないリュカを見て、余裕の笑みを向けている。
「旅するにもお金は必要ですからね」
「え? ああ、まあそうですね」
「でもフローラさんと財産は私がいただきますよ」
恐らく客には決して見せない狡猾な笑みを、商人の男はリュカにはっきりと見せた。もしかしたらこの男が先ほど噴水広場で言われていた道具屋の主人なのではと、リュカは思った。仕事をほっぽり出して、富豪の娘との結婚を望む者と、飼い犬を必死に追いかけてきた美しい少女と、と考えると、リュカは胃の辺りがむかむかするのを感じた。周りにはこの道具屋の主人のような、野望を持った男たちが沢山いるのだろう。リュカはそのような男たちに、あの女性を渡してはならないと、本能的にそう思った。
商人の男をやり過ごし、リュカはその場から移動した。ルドマンの屋敷を訪れた男たちは門の前に列を作っているわけではなく、群がるようにしてルドマンの屋敷を見上げている。リュカはその男たちから少し離れ、後ろから傍観することにした。
その中に一人、まるで野心の感じられない青年の姿があった。男の割にはほっそりとした体つきで、身につけている服も大人しいもので、後ろから見るとまるで女性にも見えてしまう金色の長い髪。なぜこの場にいるのかと思わせるほど、異質な雰囲気を漂わせる青年だ。しかしリュカにとっては唯一、話しかけやすい雰囲気を持った青年に見えた。
リュカは後ろから青年の肩を叩き、話しかけてみた。すると青年は驚いたようにリュカを見て、しかしリュカの持つ穏やかな雰囲気を感じたのか、安心して話に応じた。
「ボクはアンディ。彼女とは幼馴染なんですよ」
初対面だが、親しみを持って話す独特の雰囲気を持つ青年アンディに、リュカはほっと息をついて話を続ける。
「幼馴染って、小さい頃からの友達なんですか?」
「友達って言ったらおこがましい気もしますが……なんせ、こんなお金持ちのお嬢様ですから。でも彼女が修道院に行く前までは、よく一緒に遊んでいたんです」
そう話すアンディの表情には、周りの男たちにはない柔らかさが漂う。
「あなたも彼女の結婚相手になりたくてここへ来たんですか?」
そう問いかけられ、リュカは曖昧に返事をするほかなかった。リュカの目的はただ一つ、天空の盾を譲り受けたいということだけなのだが、今この場でそんな話をしても首を傾げられるだけだろう。それほど、ルドマン邸にある家宝の盾の存在は、娘の結婚相手募集という事実にかき消されている。
「ボクはお金も宝も欲しくありません」
きっぱりと言うアンディの瞳には、野心に燃える男たちとは別の熱が宿っていた。それは一瞬、リュカと敵とみなしてぶつかってきた。受けとめたリュカは、ぐっと息が詰まるのを感じた。
「彼女が妻になってくれるなら……」
アンディの思いに、リュカは何も言葉を返すことができなかった。アンディはたとえ結婚相手がルドマンの娘でなくとも、彼女が彼女であれば結婚したいと、そう思っているのだ。その思いは、この場にいる他の誰とも違うものだとリュカは思った。
アンディともう少し話がしたいと思った矢先、屋敷の中から一人の女性が姿を現した。屋敷に仕える使用人の一人のようだ。ざわついていた空気がぴたりと止み、屋敷の門に集まっていた男たちが皆、女性に注目する。
「それではお時間となりましたので、応接間へお通しいたします。どうぞお入りください」
使用人の女性の近くにいた者から順に、奥の部屋へと入って行く。中には見物に来ていただけの者もおり、彼らは部屋の中には入らずにただ屋敷の外で状況を見守るだけのようだ。
「あなたも行くんですよね?」
アンディにそう言われ、リュカは頷かざるを得なかった。とにかく屋敷の中に入って話を聞かないことには何も始まらない。この機会を逃したら、自分一人でこの屋敷に入ることも叶わないのではないかと、リュカは大勢の男たちに続いて、使用人が案内する応接間に入って行った。
通された応接間を見ながら、リュカはラインハットの王室上階にあるヘンリーとマリアの私室を思い出した。城の一室と見間違うほど、内装や調度品は豪華で品があり、掃除も行き届いた部屋に埃っぽい場所は一つもない。リュカ以外の者も皆、ルドマンの屋敷の雰囲気に圧倒され、ほうと溜め息をついていた。使用人が姿を消しても、ルドマン邸に集まった男たちは富豪の屋敷の雰囲気に飲まれたままで、話し声を立てるものは誰もいない。しんとした空気が応接間を包む。
しばらくして、応接間の扉が開いた。一人のふくよかな中年男性が、にこやかな笑みを浮かべて応接間に入ってくる。身につける宝石類が赤や緑に輝き、いかにも大富豪の装いだが、その装いに嫌味な雰囲気は感じられなかった。
「みなさん、ようこそ!」
広い応接間中に、声が響いた。集まった男たちの背筋がぴしっと伸びるような、よく通る声だ。小柄な体型だが、そのふくよかな腹から出る声は、見た目よりも力強い。
「私がこの家の主人、ルドマンです。さて、本日こうしてお集まりいただいたのは、わが娘フローラの結婚相手を決めるため」
応接間に集まる男たち一人一人に視線を向け、一方的に話す調子ではなく、ルドマンは皆に語りかけるような口調で話す。リュカはルドマンの娘との結婚を望んでこの屋敷に来たわけではないが、ルドマンの真摯な語り口調に、とりあえず話はしっかりと聞いておこうと耳を傾けた。
「しかしただの男にかわいいフローラを嫁にやろうとは思わんのだ。そこで、条件を聞いて欲しい」
ルドマンの口から語られるより前に、娘の結婚相手となるための条件が、既に人々の間では噂されていた。リュカも噴水広場で、旅の商人がそのようなことを話していたのを思い出した。
「古い言い伝えによると、この大陸のどこかに、二つの不思議な指輪があるらしいのだ。炎のリング、水のリング、と呼ばれ、身につけた者に幸福をもたらすとか。もしもこの二つのリングを手に入れ、娘との結婚指輪にできたなら、喜んで結婚を認めよう!」
ルドマンの出す条件に、応接間にいる男たちのほとんどは、その瞬間にフローラとの結婚を諦めたようだった。それも無理はない。『古い言い伝え』、『この大陸のどこか』、『二つの不思議な指輪』。どれもが曖昧模糊として、果たして本当にその指輪があるのかどうかも疑わしい。そんなものを探すために、自らの命を危険に晒し、見つけられるかどうかも分からない旅に出るのは、本気でフローラと結婚したいと思う者か、若しくは本気でルドマン家の財産が欲しいと思う者かのどちらかだろう。
「我が家の婿にはその証として、家宝の盾を授けるつもりだ」
ルドマンの口から出た『家宝の盾』という言葉に反応するのは恐らくリュカだけだろう。そしてその『家宝の盾』は、リュカがどうしても欲しいと望むものだ。リュカが早速その場で世界地図を広げたのを見て、周りの男たちは信じられないといった目を向ける。何をヒントにどこへ行くのか、まるで見当もつかない旅に出ようとする若者を、皆感心すると言うよりも、白々しい目でリュカを見ていた。
「では……」
ルドマンの話はそれで終わりらしい。後は大事な娘のために、死に物狂いで頑張りなさいと、その小柄な背中が語っているようだった。
「待って下さい!」
応接間に鈴を転がすような声が響いた。その声に、応接間に残る男たち全員が一斉に振り向く。彼らの視線の先には、美しい青髪を腰まで垂らした、一人の令嬢の姿があった。
「フローラ! 部屋で待っているように言っただろう」
「お父様。私は今までずっとお父様の仰る通りにしてきました。でも、夫となる人だけは自分で決めたいんです」
両手を胸の前で合わせ、父に話しかけるその姿が、まるで一枚の絵のように美しく、男たちは皆フローラに見惚れていた。フローラは大富豪の令嬢と言うよりは、空から舞い降りた天女とも表現できるほどの、現実離れした美しさを持っていた。
「それに皆さん! 炎のリングは溶岩の流れる危険な洞窟にあると聞いたこともあります。どうかお願いです! 私などのために危ない事をしないでください……」
応接間に集まる男たちに、フローラは頭を下げて彼らの無茶を止めようとした。男たちの大半は初めのルドマンの話で既にフローラとの結婚を諦めていたが、フローラの話した『溶岩の流れる危険な洞窟』と言う言葉で、更に多くの者が大富豪の婿になる夢を諦めた。目の前にいる天女のような美しい女性と結婚することと、危険な洞窟で命を賭して指輪を見つけるのとでは、やはり自分の命が惜しいと思う者が大半だ。
しかしリュカのすぐ近くにいたアンディは違った。フローラが応接間に現れるなり、アンディはまるで息を止めて彼女を見ているように、じっとフローラから目を離さなかった。フローラが危険なことをしないでと頭を下げても、アンディはそんな彼女のことをじっと見つめていた。アンディがただただフローラとの結婚を望んでいることはリュカの目にも明らかだった。彼の表情はどこか苦しそうにも見えた。
「……あらっ? あなたはさっきの……」
大きな世界地図を広げているリュカは、応接間でも目立っていた。フローラの目にもすぐに留まり、淑やかでありながらも堂々としているフローラはすぐにその場でリュカに声をかけた。
「この家の人だったんですね、あなたは」
「ええ。それではあなたも私の結婚相手に?」
「えぇと……そういうことですね」
「まぁ……」
「なんだ、フローラ、知り合いなのか?」
娘が話しかけた青年に、ルドマンが注意深い目を向ける。フローラがついさっき町の入り口近くで会った旅人だと説明しても、ルドマンは娘の話を聞いているのかいないのか、ただ青年のことをじっと見つめていた。その目は人の頭からつま先まで品定めするようなものではなく、ただリュカと言う青年に興味を持って素直に見ているだけのものだった。ルドマンの視線に、リュカは居心地の悪さは感じなかった。
「……ふむ。少しは頼りになりそうな若者だが……。ゴホン! とにかくフローラと結婚できるのは、二つのリングを持ってきた者だけだ! さあ、フローラ、来なさい!」
そう言うと、ルドマンは応接間を出て行ってしまった。フローラも足早に父の後をついていく。しかし部屋を出る時に、もう一度応接間に残る男たちに丁寧に頭を下げ、静かに扉を閉めて行った。二人が部屋から去ると、それだけで応接間の緊張が解かれたようだった。知らず深呼吸をしていたリュカは、自分に近づいてくる気配を感じ、後ろを振り返った。そこには先ほど少し話をしていたアンディが立っていた。
「ボク、あなたに負けないように頑張ります」
穏やかに言われたその言葉が、アンディの宣戦布告だということに、リュカは気付かなかった。ただアンディの瞳の奥に宿る力は、恐らく自分にはないものだと言うことを、リュカはこの時悟っていた。
リュカはリュカで、天空の盾を手に入れるためには、フローラの結婚相手として認められなければならない。ルドマンは炎のリング、水のリングを見つけた者を、フローラの結婚相手として認めると同時に、天空の盾を授けると約束した。母を助けるため、父の遺志を継ぐため、天空の盾を他の誰かに譲ることはできない。リュカにとって、選択肢は一つしかなかった。
「僕も頑張ります。指輪がどこにあるのかもさっぱり分からないけど、とにかく早く見つけましょう」
「そうですね。そうじゃないと、彼女も年を重ねてしまうから可哀そうだ」
そう言うと、アンディはリュカを置いてルドマンの屋敷を出て行ってしまった。大人しそうな見た目とは裏腹に、かなり行動力のある青年らしい。実はリュカと言う強力なライバルが現れ、焦りから特に考えもなしに屋敷を飛び出して行ってしまったということに、もちろんリュカは気付いていない。しかしこの町に住むアンディであれば、町の人々に話を聞いて回るのはリュカよりも早いだろう。
「参ったな。この大陸のどこかって言われても、さっぱり分からないよ」
すっかり古くなった世界地図を広げて見ても、サラボナの町が地図上に記してある他は、サラボナより北に『山奥の村』と書き記してあるだけだ。そしてその『山奥の村』には、船でもない限り、サラボナから行くことはできないようだった。
「とにかく町の人に話を聞いてみよう。さっきの噴水のところか……教会か、酒場かな」
ルドマンの屋敷に集まった男たちの中で最後に屋敷を後にしたリュカは、まだ暑い日差しの照りつける昼の陽気の中、とりあえずはと、町で最も目立っていた大聖堂に向かうことにした。