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「グランバニアもそれなりに暑い所なんですが、ここは本当にたまりませんね」
「よくみんなこんな暑い所で暮らしてるよね。来る度にそう思うよ」
テルパドールの地下庭園を後にしたリュカとサンチョは、砂漠の国の外の様子を確かめるために、照りつける日差しの中城の外へと向かっていた。地下庭園は相変わらず緑に溢れ、水の雰囲気も涼やかで、テルパドールを潤す地下の水資源には何の問題もないのだとテルパドールの女王アイシスは語っていた。
三国の襲撃の日からおよそ一週間ほどが経っていた。その間にもリュカはグランバニアの復旧に身を入れ、石切り場に姿を現し国王自ら労働に身を費やすなどして国民との距離を近くしていた。神父に話を聞き、城下町の民の様子について確かめたり、兵士の訓練所に出向いて新たに兵士となったピピンの様子を気にかけたりもした。グランバニア周辺の魔物の様子を見周りの兵士や魔物の仲間らと確認し、あれ以来魔物の動きには特別なものはないものと日々確かめていた。それでもまだ不安が残る時には、リュカはプックルの背に乗り自ら巡回に勤め、グランバニアの森の平穏をその目で確かめた。
改めて国王として為すべきことに終わりも休みもないのだと痛感していた。平穏な時であれば玉座に座り、各方面からの報告を受けてすべきことを考えるくらいには余裕があるのだろうが、今はまだ敵の襲撃から日も浅く、国全体が冷静にはなれていない状況だ。その証拠に、城下町では大小様々な諍いが起こる事態となっていた。グランバニアの国を信じて城の復旧を進める者たちと、この国は呪われているのだと吹聴し国を離れる意思を固める者たちとで、答えの出ない争いが起こっていた。信じるものが根本的に異なる者たちの間で起こる諍いを収めるには、その思考の根本から正す必要がある。しかし真逆を向く思考を正すほどの確固たる根拠に乏しいのはお互い様だ。そして神父の説得も、国王であるリュカ自身の説得もその身に受け入れない者たちは国を離れる意思を更に固くしているのが現実だった。
「リュカ王、ちゃんと食べてますか? ちょっとお痩せになったようですよ」
砂漠の城を出て、砂を踏みしめるサンチョが汗を拭き拭きリュカに言葉をかける。
「サンチョだって。前よりは少し痩せたように見えるよ」
「はははっ、私なんぞは少し痩せた方がちょうど良いくらいなんです。お気になさらず」
「ダメだよ、サンチョが痩せたらサンチョじゃなくなっちゃう。ちゃんと太ってなきゃ」
「私のことよりも貴方のことが心配ですよ。先ほど、女王に歓待を受けましたが、さほどお召し上がりになっていなかったでしょう」
テルパドールが魔物の群れに襲撃された様子を確かめに、リュカはサンチョを連れてテルパドールを訪れていたが、今回の訪問は事前に伝えていたものではなかった。リュカもサンチョも旅装に身を包み、普通の旅人として砂漠の国を訪れるという体裁で訪問していた。リュカとしては、当日の状況と砂漠の国のその後の様子が確かめられればそれで良かったのだが、救国の勇者の父が足を運んできたとなればただで帰すわけにも行かないと、アイシス女王は侍女らに指示を出してリュカたちにささやかな歓待の席を設けたのだった。
その席では豆を中心とした砂漠の国特有の食事が並べられ、食事自体はリュカもどうにか平らげたが、デザートにと出された果物に至っては殆ど手を付けないまま、グランバニアへの土産物にすると袋に包み、今はその包みを手にしている。
「ほら、ポピーも少し食欲がないでしょ? だからこの瑞々しい果物なら食べるかなって」
「バザーで売っているのではなかったですか? そこでお買いになれば良いではないですか」
「でも今はグランバニアのお金をあんまり使っちゃマズイでしょ」
「その包みに入るほどの果物を買って土産にするくらいのお金はありますよ」
話をしている間も、何も遮るもののない砂漠の只中で照り付ける日差しを浴びればリュカもサンチョも首に背中に汗が流れるのを止められない。今はちょうど一日の内の最も暑い時間帯で、日差しは中天より僅かに西に傾いたばかりだ。ぎらぎらと輝く太陽の周りには、雲一つない抜けるような青空が広がっている。
「お帰りになったらお子様たちと一緒にお食べになってくださいね」
「サンチョも一緒に食べようよ」
「私は先ほど頂きましたから大丈夫ですよ」
「……そう?」
地下庭園でのアイシス女王からの歓待は、準備していなかったこともあり、あっさりしたものだった。女王はこれでは心尽くしできていないと、次の訪問の際には事前に連絡をくれるようにとリュカに伝えていたが、リュカはしばらくは自国のことにかかりきりになるために来られない旨を返していた。
アイシス女王は、あの時ティミーが魔物の仲間たちを連れてこの国を訪れなければ、テルパドールは魔物の襲撃の前に滅びていたかもしれないと、常の冷静さを身に纏わせながらそうリュカとサンチョに感謝の意を表した。幸いにも夜中の襲撃であり、尚且つティミー達がテルパドールよりもはるか遠くで魔物の群れと対峙していたために、砂漠の民は自国が危険に晒されていたことにすら気づかなかったという。それ故に今もテルパドールは以前と変わらぬ姿で、何も変わらぬ状況の中で国民らは日々の生活を営んでいる。
夜中の襲撃に気付き対応していたテルパドールの兵士らの間では、古より伝わる勇者信仰に拍車がかかり、今や勇者ティミーは既に世界を救った者のように崇められている部分もあるらしい。星と月のささやかな光に照らされるだけの砂漠の一角で、端から敵の群れを壊滅させんばかりの爆発が起こり、稲妻が走り、炎が吹き荒れ、最後には何が起こったのかテルパドールの兵士たちには知る由もないが、一気に敵の群れを敗走させてしまった勇者ティミー一行の強さに皆が皆感服したのだという。最後に敵の群れを散らしたのはミニモンの唱えたパルプンテの影響だとリュカもサンチョも知っていたが、それを改めてこの場で話しても勇者の存在に酔いたいテルパドールの人々を白けさせるだけだろうと、真実は伏せたままにしておくことにした。
その後、テルパドールに戻って来たティミー達を迎え入れ、敵は逃げたけど、違う敵を連れてきたと謎かけのような言葉と共に連れてこられた竜人族の戦士の姿に、アイシスは思わずその場に固まってしまったという。直接言葉を交わすことはできないが、アイシスは竜人族の戦士の言わんとしていることを汲み取ることができた。今は彼らも砂漠の民の国を守る戦士として、城の周りを見回っているという話を聞き、リュカとサンチョは早速彼らの様子を見に行こうとその場所へと足を向けていたところだった。
「しかし元々この砂漠に棲んでいなかった者が、この暑さや水の少なさに耐えられるものなんでしょうかねぇ」
「でも西の大陸から海を移動してきたんだよね。かなり体力もある魔物だと思うよ」
リュカはいつも通りの濃紫色のターバンで日を避け、サンチョもまた白い布を頭に被り、まるでそのまま箒で掃除をしそうな雰囲気で砂漠の城を左手に見あげつつ、北へ向かう。向かう先には朝や夕方にはバザーの行われるオアシスがあるはずだ。シュプリンガーの場所が細かく特定できない今はとにかくオアシスを拠点にして彼らの姿を探してみようということになっていた。
しかし探す手間はあっさりと省けた。リュカとサンチョが向かった先のオアシスに、一体のシュプリンガーが木陰に身を潜ませ休んでいる姿があったのだ。想像していた通り、彼らは決して砂漠の暑さに強いわけではなく、日中強烈な日差しが降り注ぐ時間帯はこうして木陰で身を休ませることも必要としているようだ。
「ここ、テルパドールの国の中だけど、入っていても平気なんだね」
「まあ、ここはオアシスの外れで人影もありませんし、ちょうど魔物たちが身体を休めるのにちょうど良い場所なのかも知れませんね」
リュカとサンチョの声に気付いたように、木陰に潜むように休んでいたシュプリンガーが声のする方へと目を向けた。人間への警戒は見られない。それだけで彼らが人間を敵とせず、外の魔物を敵としていることが見て取れた。
「立派な魔物ですね。グランバニアの防衛にも一役買ってもらいたいところですが……まあ、彼らにはこの地で守りについてもらうのが良いでしょうか」
「グランバニアには新しくアムールたちも仲間になったし、とりあえずは大丈夫なんじゃないかな」
今ではグランバニアの国も新たにリュカが仲間とした五体のアームライオンが周囲の森で警備に当たっている。彼らのお陰でグランバニアの防衛力は格段に上がったと言っても過言ではない。そして仲間になってみれば彼らは非常に人懐こい魔物で、既にティミーやポピーとも打ち解け、プックルとも馬が合うようでよく森の中で激しい手合わせをしたりしている。アームライオンとキラーパンサーの繰り広げる戦いを見るだけで、森に棲む魔物らがグランバニアを敬遠することもあるほどだった。
リュカの姿を見て深々と頭を下げるシュプリンガーを見れば、彼らは強さにおいてだけではなく、その佇まいもまた一流の戦士たるものと思えた。相変わらず彼らの言語は竜族のもののようで、その意味の詳細は分かり兼ねたが、改めてリュカに礼を述べている雰囲気は察せられた。
「他の仲間たちは今、テルパドールの守りに就いてるのかな? ありがとう、人間の仲間になってくれて。こんな時だから本当に助かるよ」
そう言いながらリュカが手を差し出すと、シュプリンガーは一瞬緊張したように背筋を伸ばし、大きな両手でリュカの右手を包み込んだ。手の平が固いのは常に剣を振り回しているからと言うだけではなく、竜の皮膚そのものが固いのだろう。背丈はグランバニアのジェイミー兵士長よりも高く、リュカもサンチョも間近にシュプリンガーを目にすれば首が疲れるほど上を見上げなければならなかった。
「これからもよろしくね。僕はたまにしか来られないけど、ちゃんとグランバニアからも定期的に人を送って様子を見に来るよ。テルパドールの人たちとも仲良くしてね」
握手を交わしたまま言葉をかければ、シュプリンガーは表情こそないものの真摯な目つきでリュカを見つめていた。そして何事かを言ったかと思うと、身振り手振りでこの場に待つようリュカに伝え、翼をはためかせてどこかへと飛び去ってしまった。取り残されたリュカとサンチョは汗を拭き拭き、今までシュプリンガーが身体を休めていた木陰で伝えられたとおりにしばし待つことにした。
砂漠の国の外には人間も魔物も嫌になるほどの広大な砂漠の景色が広がっている。見渡す限り、美しい風紋が広がるばかりの砂漠には、この国を襲おうとしている魔物の気配は感じられなかった。遥か遠くに豆粒のように見える魔物の姿もあるが、テルパドールを襲おうとするほどの群れを作っているわけでもなく、元よりこの砂漠に棲んでいるだけの者なのだろう。敢えて警戒をするほどの存在ではない。
その景色の中、唐突に五体のシュプリンガーが姿を現せば、それだけで大きな緊張感を覚えた。やはり魔物も群れを成すと大いなる脅威となる。そして魔物同士が互いに連携を取れる間柄ともなれば、その敵となる者たちは易々と戦いを挑んでは来ないだろう。
「そうか、みんなを連れて来てくれたんだね。ありがとう」
そう言ってリュカは連れてこられたシュプリンガー一体一体に向かい、手を差し出し挨拶を交わす。その度にありがとうと礼の言葉を述べるものだから、その言葉に反応したシュプリンガーがぎこちないながらもその言葉を繰り返そうと練習していた。
「何とも義理堅い魔物ですな。ピエールさん辺りとも話が合うかも知れませんね」
「一度グランバニアにも呼ぼうか。その間は誰かにテルパドールの守りに就いてもらうのもいいかもね」
「私には五人いらっしゃるお仲間の見分けがつきませんが……リュカ王には違いが分かるんですよね」
「うーん、何となくね。でもみんな、名前がないと不便だよね。もし名前があればこれからは名前で呼びたいんだけど」
グランバニアで仲間になったアームライオンには既に子供たちによって名前を付けられている。ティミーにより妙な名をつけられたアームライオンもいるが、彼らとしては初めて名をつけられ呼ばれたことに感動しており、その名の持つ雰囲気などはどうでも良かったようだった。リュカとサンチョの前で、どこか期待する眼差しを向けて待っているシュプリンガーもまた同様で、これから何が起こるのかと五体が揃ってリュカをじっと見つめている。
結局その後、リュカは砂漠のオアシスの片隅でシュプリンガーの名を考えるのに必要以上の時間を要し、最後には何やら勢いでつけてしまったような名前のシュプリンガーもいたが、彼らは一様に初めて自分に名を与えられたことに喜んでいた。彼らが揃って頭を下げ、リュカとサンチョを見送る頃には、砂漠は橙色に染められ、夕日が西の山々の彼方に沈みかけていた。



グランバニアで過ごす日々には大した隙間の時間もなかった。マーリンには一人で抱えずに任せられることは適任者に任せろと言われていたが、リュカはこれまで国を離れていることが多かったためにその罪悪感からか、全てを目にしておきたいという望みを抱いていた。横で支えるオジロンがいなければ、リュカは自身の限界に気付かないままあっさりと倒れていたかも知れない。
その間にも、リュカはラインハットへ行く日取りを既に決めていた。テルパドールを訪問した一週間後、友の国の様子を見に行くことをオジロンにもサンチョにも、マーリンにも伝えている。今回の訪問にもサンチョを同行させ、ラインハットのその後の様子を確かめに行くというリュカの決定に、誰も否を唱えないのも当然だった。誰もがその後のラインハットの様子を気にしていた。
二人の子供たちにはその決定を知らせていなかったが、どこかからその情報を聞きつけたポピーは共にラインハットへの訪問を望んだ。しかしそれをリュカはきっぱりと拒んだ。恐らく今も傷ついているラインハットの状況を目にしても、ポピーの心は更に深く沈んでしまうだろうとリュカは娘にこの国に残るよう言い渡した。ポピーはその気になれば自分自身でラインハットへ飛んで行くことができるが、もう父の許しなしにラインハットへ勝手に行くことは許されないのだと理解している。兄ティミーが厳しく叱られた時の父の怒りの声を思い出せば、ポピーは父の決定に抗うほどの覚悟を今は持てないでいた。
「大丈夫だよ。ヘンリーたちの元気な顔を見たらすぐに戻るからね」
「お父さん、一つだけお願いがあるの」
「なんだい?」
「……お土産にりんごのアメが欲しいな」
他に言いたいことのあるだろうポピーが、それらを全て胸の中に押し込めてそんなことを言う姿に、リュカは娘の頭を撫でて「必ず持って帰ってくるよ」と返すに留めた。そしてその二日後の昼過ぎに、リュカはサンチョと共にグランバニアの屋上庭園からラインハットへと飛び立った。



「お前と言いポピーちゃんと言い、いつも急なんだよ。なんで事前に知らせねぇんだよ」
「だって知らせたら、やれ会食だ接待だって、何だか疲れるだけでさ」
「一国の王がわざわざお越しくださってるのに何にも用意できてないってのは、それだけでラインハットの沽券に関わることなんだよ。察しろ、バカ」
「一国の王に向かってバカ呼ばわりするんだから、ラインハットの沽券も何もあったもんじゃないと思うけどね」
ラインハットへ行く日取りは予め決めていたものの、リュカは相手国に何も知らせずに唐突に訪問することにしていた。それはテルパドールの際にも同様で、下手に歓待を受けるとなれば込み入った話もできなくなると思ってのことだった。大々的に席を設けられれば、それだけ公に偏った話しかできない。リュカが今回ラインハットの訪問で望んでいることは、それほど簡単に済む話ではないのだ。
「ヘンリー殿、お忙しいところ誠に恐縮ですが、ほんの数刻我が王のためにお時間を頂ければ幸いです」
「サンチョさんもサンチョさんだよ。こいつの神出鬼没癖、どうにか治してやってくださいよ」
そんな会話を交わしながらも彼らが歩いているのは、ラインハット城の長い回廊だ。リュカとサンチョが堂々とラインハットの正面の入口から入城した際に、ちょうどヘンリーもまた近くを歩いていたのだ。彼の歩いてきた道を辿れば、そこには城の教会があるはずだった。しかし彼は隣に誰を連れるでもなく、一人だ。
ひとたび会話が途切れれば、歩く彼らを沈黙が襲った。前を歩くヘンリーの足取りは特別以前と変わったものでもない。ただどことなく、以前よりも更に身体が細くなっている印象があった。しかしそれを言ったところで、恐らく彼もまた同じことをリュカに言い返してくるに違いないと、リュカは静かに前を歩くヘンリーの姿を見ていた。
向かう先は当然のように玉座の間だ。そこには彼の弟であるデールがその座に就いている。リュカは友の様子も気にかけていたが、デールの様子も気になっていた。彼は実の母を今回の戦いで喪っているのだ。しかし一国の王の務めを果たすのに休みなどないことはリュカ自身がその身に痛く知っている。
リュカ自身は、デールの母である先太后に対して少なからずの憎しみを抱いていた。彼女は継母の立場から幼いヘンリーを蔑ろにし、あまつさえこの国から消し去ろうとした。そしてこのラインハットと言う国を滅亡に導きかけた人間だ。人の妬み嫉みと言うのは恐ろしいという、一般論で片づけられる問題では到底ない。間違った方向へと流れる人生を、どこかで立ち止まり考えるべき時があったはずだ。それを彼女は全て通り過ぎ、突き進み、間違ってしまった。今でもリュカは、彼女の罪は果てしなく重いと考えているのだから、デールにどのような顔をすれば良いのかも考えあぐねている。
玉座の間に着き、果たしてデールはその座に国王然として座していた。階段を上ったところに見えたデールには、今までと異なる様子は見当たらなかった。しかし近づくにつれて彼の目に罪の影が潜んでいることをリュカは見た。今回のラインハットでの戦いが、彼の目に影を落としたのだろうかとも思えるが、実のところ彼の目には既に何年も前から影が潜み育まれていた。何も分からぬ幼い頃から玉座に座らされ、母である先太后の言いなりに人生のほとんどを歩んできた彼にもまた、彼にしか分からないような罪の意識があるに違いない。
「リュカ王ではないですか。ご無沙汰しております。今回は……いえ、今回も急なご来訪ですね」
デールが玉座から立ち上がり、リュカと握手を交わす傍らで、ヘンリーが玉座の間から人払いをしていた。その様子を見てサンチョもまたこの場にいてはならないかと退こうとするが、それをヘンリーが止め、グランバニアの国王の従者を玉座の間に留まらせた。
突然の訪問とは言え、今のこの時何よりも優先しなければならないのはグランバニア王との時間だと、デールも玉座から立ち上がったままリュカとサンチョの前で話をし始める。
「本来ならばこちらから窺わねばならぬところでしたが、わざわざ足をお運び頂いて恐縮です」
「デール君、大丈夫?」
「え?」
「大丈夫?」
本来ならば言葉を濁し、彼の悲しみそのものに触れるような真似はしないのだろうが、リュカにはそれができない。既に兄のヘンリーとも多かれ少なかれ話をして心を落ち着かせているのかもしれないが、ヘンリーは継母に冷遇されていた立場であり、デールは実の母に溺愛されていた立場である。正反対とも思える立場の兄弟が果たして腹を割って話ができたのかと考えれば、どうにも疑わしいと思ってしまうのも仕方がない。
「……リュカ王には少し、詳しくお話しておいた方がよいかも知れませんね」
ラインハットで起こった魔物の襲撃については、既にピエールやサーラにも話に聞いているが、彼らとてラインハットの内情に詳しいわけではない。そして今回の出来事の真実については、デールだけが知っていた。魔物の襲撃に備えてデールが母である先太后と事前に策を練っていたことについて、ヘンリーも事後に知らされたという。
デールが一連の出来事を話し終えると、玉座の間は空虚な沈黙が一時支配した。デールの様子に母を喪った子の悲痛な雰囲気は見られない。既に襲撃の時から日も経っており、デール自身が心の整理をつける時間があったのかとも思えるが、それよりも以前に彼は母と共にその時が来るのを覚悟していたのだろう。
「ぜひともお母君の墓前に手を合わせたいと思うのですが、よろしければ後程ご案内いただけると助かります」
身を賭して祖国を救ったとも言える彼女の墓を参るのは一人の人間としての礼儀だろうとサンチョがそう申し出ると、デールは兄ヘンリーと目を見合わせ束の間答えに窮した。
「ラインハット王国ともなれば、王家の墓がございましょう。お母君もそちらに……」
「いえ、母は教会にその身を置いています。母の望みだったのです。自分は王家の墓になど入る資格はないから、もし命尽きた時には教会に安置して欲しいと」
「……まあ、置かれているものも母上が普段身に着けていたものだけだけどな」
敵陣に一つの人馬となって突っ込み、メガンテの腕輪の力を発動させてその身を散らした彼女だ。骨すら残さず身を滅ぼし、完全にこの世から消え去ってしまったのだろう。そのような結果ではないにしても、彼女は一度大罪を犯した自身を許すことなく、王家の墓に入る事を拒んだ。そしてその彼女の言葉を守ることが息子の責務と、デールは母の言葉通りに教会に彼女を置くことを決めたのだ。
ラインハット国民にも彼女の死については知らされているが、あくまでも兼ねてからの病が重くなったという理由の下に真実は伏せられているという。実際に北西の平原での大爆発を目にした兵士たちの中にはその真実を知る者もいたが、国が彼女の真相について隠すことを選べば、国に仕える兵士もまたそれに準じるだけとなる。
「それでヘンリーはさっき教会に行ってたの?」
「ん?」
「だって僕たちがここに来た時、君は教会から歩いてきたんでしょ」
「……うん、まあな。そうだよ、教会に行ってたんだ」
「マリアは一緒じゃなかったの? コリンズ君は?」
リュカがそう問いかけると分かっていたヘンリーだが、分かっていても思わず言葉に詰まるのにはささやかながらも深い理由がある。
「コリンズもマリアも教会にはいないよ。今は……そうだな、母上が過ごしていた部屋に行ってるんじゃないかな」
ヘンリーが幼い頃に使用していた東の外れにある部屋で、彼らの母はそれまで静かな時を過ごしていたという。言われてみれば、リュカもあの部屋で彼女に会ったことがあると、かつてヘンリーとマリアが結婚して間もない頃に訪れた時のことを思い出した。幼い頃のヘンリーを継母の立場で苛め抜き、尚且つかつてラインハットを窮地に追いやった張本人である彼女とは特別交わす言葉も見当たらず、最低限の言葉だけを交わしたことを朧げに覚えている。
「義姉もコリンズも、まだ母を喪ったことから立ち直れていないのが本当のところです」
「おい、デール、余計なことは言うな」
デールが相手が友好国の国王であり、頼れる兄の友という立場である安心感から素直に現状を話そうとすれば、それをヘンリーが素早く止める。リュカ本人としては亡くなった先太后に対する思いは非常に薄い。しかし彼女を亡くしたことを深く悲しむマリアやコリンズに対し思いが及ばないわけでは決してない。既に十年ほどの時をこのラインハットで過ごしたマリアには、彼女だけの人生がこの場所にあったのだ。それを否定できるほどにリュカの先太后に対する思いは捻じ曲がっているわけではない。
ただデールが正直に事の次第を述べようとするところを止めるヘンリーに、リュカは腹が立った。彼の性格を思えば、止める理由も容易に想像はつく。ラインハットの内情を外部に晒すのはみっともない、他所の者に敢えて伝えることでもないのだと、彼は至って常識的にデールの言葉を止めている。しかし今はその常識に収まるようなことをしないで欲しいと、リュカは親友に反抗的な目を向ける。
「何が余計なことなんだよ、ヘンリー」
思いの外低い声が出たことに、リュカ自身が驚いていた。斜め後ろに立つサンチョが、途端に張り詰めた空気を察知し、注意深くリュカの様子を窺っているが、声はかけない。
「僕がマリアやコリンズ君を心配するのは余計なことなのかな」
「そんなことは言ってねぇだろ」
「いや、言ってるようなものだよ。デール君がちゃんと二人の様子を教えてくれようとしてるのに、それを余計なことだって言うんだから」
「お前は……お前の国のことがあるだろ。自分の国のことで今は手一杯だろうが」
「手一杯だろうが何だろうが、こっちのことだって放ってはおけないよ」
「放っておいてくれよ。こっちはこっちで何とかするからよ」
「何とかしてたらそんな暗い顔、しないはずだよ」
リュカの嫌に低く落ち着いた声音と言葉に、ヘンリーは返す言葉に窮してしまった。改めて正面に立つヘンリーの表情を見れば、その顔には明らかに焦燥感が滲み出ていた。この国の宰相として政務に当たる彼は、日々の務めに追われる切迫感こそあれ、そこに不安や焦燥などの感情は通常表れないのだとリュカは思っている。しかし今の彼を見れば、隠し切れない不安や動揺がその空色の瞳に揺れて表れているのだ。
「マリアもコリンズ君も、元気ない?」
リュカがそう問いかけても、ヘンリーは俯き黙り込んでいる。兄が話さないとなれば、デールもその横で様子を窺いながらも口を噤むしかない。二人の沈黙が全てを物語っている。表面上取り繕って嘘を吐いたところで、嘘を吐き切れる自信もないヘンリーは下手な言葉を口にするよりも沈黙を選んだようだ。
人払いをしてある玉座の間には彼ら四人だけが立ち話をし、閉め切られている窓の外には晴れた空を背景にまるで陣形を組んで美しく飛ぶ数話の鳥の姿が見られた。この場からは見ることができないが、ラインハット北西に広がる平原には今も戦いの痕がありありと残っているのだろう。その場所は長い時を経た後には草地も蘇り、激しい爆発の痕はその草の中に隠されるのかも知れない。しかし決して完全に消え去ることはなく、その地表の奥には受けた傷が残り続ける。
人間が受けた傷は、外傷であればそれは回復呪文で癒し治すことが可能だが、それと同時に受けた心の傷は恐らく完全に癒されることはない。幸いにも身体に受けた傷を治す力は人間にもいくらか与えられているが、心の傷においては時間をかけてその傷の深さを徐々に浅くしていくしかない。浅くはなるかもしれないが、傷そのものが無くなることはない。そしてその傷はふとした時に、再び深く抉られることもあるような不安定なものなのだ。
「……君が小さい時に使ってた部屋だったね」
そう言うとリュカは二人の兄弟に背を向け、玉座の間の下り階段へと向かう。ラインハットに来れば当然のように、ヘンリーとマリア、コリンズと同時に対面することができると思っていた。しかし今のヘンリーの様子を見れば、彼は妻と息子をリュカに会わせる気はないと言っているも同然だった。二人の傷に触れてくれるなと言う彼なりの優しさなのだろうが、リュカにその気はない。ヘンリーはその優しさ故に、傷口の中にたとえ膿があってもそれにすら蓋をしてしまい兼ねない。その内に時間が解決するだろうと、大事な者を不安事から物理的に遠ざけようとしてしまうのだ。
「勝手に会いに行くのを俺が許すとでも思ってんのかよ」
歩き出すリュカの後ろから追いつき、ヘンリーが彼の腕を強く掴んだ。彼の行動は至って正しい。間違っているのはリュカの方だ。一国の宰相の妻子に勝手に一人で会いに行く他国の王など、常識外れも良いところだろう。
「僕にだってマリアやコリンズ君に会う権利はあるはずだ」
「それは俺が許したらの話だろ」
「君が許さなくたって、僕はマリアに会うよ」
リュカにも常識外れなことをしている自覚はある。しかしリュカにはそれ以上の強い思いがあり、今はそれを伏せることも抑えることも間違っていると感じている。そしてリュカがこの国に来たことを後になって彼女が知れば、それはそれで彼女に新たな蟠りを残してしまい兼ねないという、確かな建前の理由も密かに脳裏に描いている。
「僕はさ、ヘンリー、あの時からマリアのもう一人のお兄さんだって自分のことを思ってるんだよ」
過去に受けた心の傷は決して完全に癒えることはない。それは誰もが同じで、リュカもヘンリーも、そしてマリアもまた同様の立場なのだ。リュカはいつまで経っても、あの大樽の中で響いた彼女の叫び声を記憶から消し去ることはできない。間違いなく命を懸けて彼女を奴隷の地から逃がした彼女の兄ヨシュアの『僕はお前の幸せを祈ってる』という言葉を、リュカは自身の身にも知らず刻んでいた。
彼女の幸せはヘンリーが作り出してくれた。しかし今、彼はどうやらマリアとコリンズとは距離を開けているように見える。凡そは事情を察することができるものの、リュカは兎に角今はマリアと話をしなければならないと感じていた。それがきっと兄である立場の者がすることなのだろうと、デールの兄であるヘンリーやマリアの兄であるヨシュアの立場と自分の立場を重ねて思う。
「……分かったよ。話、してきてくれ」
ぽつりと呟く言葉と共に、ヘンリーはリュカの腕を離した。話をするにもてっきり共に行くだろうと思っていたが、ヘンリーはその場に立ち尽くすだけでリュカと歩き向かおうとはしない。そこに何か理由があるのだろうと思うが、リュカは敢えて彼らの間にある問題には触れずにただ彼に微笑みながら応じる。
「うん。じゃあちょっと行ってくる」
リュカが玉座の間を後にしようと再び玉座に背を向けると、サンチョもまたリュカの後をついていく。サンチョは以前にも、ラインハットを訪れた際にマリアと対面し、会話を交わしている。彼もまた親のような立場から彼女を心配しているのかも知れない。その上、話し上手なサンチョがいてくれれば彼女の心にも明るい光が差し込むだろうと、リュカはサンチョを伴い玉座の間を後にした。



東の小部屋に向かう最中、廊下の角を曲がって来た二人の人影を見た。てっきりそれがマリアとコリンズと思ったリュカは親し気に片手を軽く振って挨拶をしたが、その場に立ち止まりコリンズを庇うように警戒する女性の姿を見て、彼女がマリアではないことに気付いた。コリンズの世話係として付いている侍女の一人で、彼女は旅装に身を包む余所者二人に対して正しく警戒の目を向けてきたのだった。
「あっ、リュカ王だ!」
コリンズのその一言で余所者の誤解は解け、侍女は慌ててリュカとサンチョに向けて深々とお辞儀をした。広い廊下のちょうど中ほどを歩いていたリュカたちに駆け寄ってくるコリンズは、予想していたよりも元気そうでリュカもサンチョもその姿に思わず胸を撫で下ろした。
「あれ? ティミーとポピーはいないの……いないんですか?」
「うん、ごめんね。二人はグランバニアでお留守番なんだ」
「そっか。……あの、ポピーは元気ですか?」
コリンズこそ祖母を喪い気落ちしているだろうに、それでも尚ポピーの心配をする辺りに彼の持つ優しさが滲み出ている。そしてそこには、彼自身もまだ気づかないほどの仄かな想いも混じっている。
「元気になってきたかな。ちょっとまだしばらくはここへ連れて来られないかも知れないけどね。ごめんね」
リュカがコリンズの前にしゃがみこみながらそう話すと、彼は駄々をこねるでもなくただリュカの目を見ながら首を横に振った。
「オレはただ、ポピーにお礼を言いたいだけだから、別にいいよ」
「お礼?」
「だって、あいつが魔物の仲間を連れてラインハットへ来なければ、今この国がこうしてあったかどうかも怪しいって……そんな話を聞いたんだ」
ヘンリーやデールが彼にそんな話をしたのだろうかと考えるが、恐らく彼らの口からは語られていないだろう。コリンズは城の兵士たちと仲が良いと聞いている。彼は数日前に起こった魔物の軍勢によるラインハット襲撃での出来事をかいつまむようにして兵士たちの噂話の中に聞いているに違いない。
「お礼ならばお手紙を書いていただければちゃんとポピー王女に渡しますよ。お手紙ならばその場の言葉だけでなくちゃんと手元にも残りますし、後で見返して相手を思うこともできます。いかがでしょうか?」
サンチョもまたリュカの隣にしゃがみこみ、コリンズと視線を合わせてそう提案した。他国の王と従者が揃って自国の王子の前でしゃがみこむ姿に侍女はどうするのが正解なのか分からないまま立ち尽くしていたが、そんな彼女の様子には気づかずにコリンズは難しい顔をして「手紙か……」と呟き止まっている。
「コリンズ君が手紙をくれたら、ポピーだって喜ぶに決まってるよ」
「ホ、ホントに?」
「友達から手紙をもらって喜ばない人っている? いないでしょ?」
ポピーの父親であるリュカから友達と言う間柄のお墨付きをもらったようなコリンズは、密かに胸を温かくする。実のところコリンズの中で今やポピーは、自分には手の届かないような大魔法使いになってしまったと思っていたのだ。
コリンズはその目に、ラインハットの北西の平原で繰り広げられていた戦闘の一部を見ていた。そこではまるでどちらが魔物なのか分からないほどに、呪文を連発して繰り出している少女がいた。悪魔のような魔物の仲間に抱えられた彼女の手からは、周囲の敵を全て倒してしまうような爆発が次々と起こり、それを見てコリンズは母マリアのスカートを掴む手を震わせていた。それは怖れと言う感情ではなかった。ただ自分の無力さを痛感する口惜しさに震えていたのだ。
同じ子供だというのに、彼女は勇者の妹であり、呪文の才に長け、大人に混じって戦いの場に出ることもできる。それに比べ、自分は男だというのに何一つ役にも立てず、こうして母の傍で震えることしかできないのかと、現実として自分の無力を感じただけの戦いだった。
「でも、オレ、何を書いたらいいんだろう」
「お心こもったお手紙ならば、何を書いてくださってもポピー王女は喜ばれるに違いありません。お手紙ならばしっかり考えて思うことを言葉にすることもできましょう」
面と向かえば憎まれ口を叩きかねないコリンズも、手紙を書くとなれば言葉を選び、相手の反応を考える冷静さも持つだろうと、サンチョはいつも通り柔らかな口調でラインハットの王子に助言する。そんなサンチョの対応を見ながら、リュカは相変わらず彼は人の、特に子供の良い所も悪い所も、良いものにしてしまう術が上手いと感じていた。
「……うん、よしっ! じゃあ今すぐに書いてくるから、それまでこの城にいてくれますか?」
「その間、僕たちマリアと話していたいんだけど、お母さんはあっちの部屋にいるのかな?」
リュカが指し示す方向は、たった今コリンズが侍女と歩いてきた廊下の向こうにある城内の東の小部屋だ。しかしコリンズは首を横に振り、母マリアはその部屋にはいないと言う。
「母上は多分……中庭に出ているんだと思います。最近よく中庭にいるみたいだから」
常にマリアと共に行動しているものだと思っていたリュカにとっては、コリンズのその言葉は意外だった。今もコリンズの横には侍女が付き添い、この国の王子の世話をしているようだが、その役目はマリアだけに許される母の特権なのかと勝手に思っていたのだ。
そしてコリンズの言葉には少しばかりの戸惑いがあるようだった。彼にとってもマリアは最愛の母であり、今のこの時に傍にいないのはどこか不思議な感じがしているのかも知れない。
「最近は教会に行く前には必ず中庭に出てるんです。今はあんまり花が咲かない季節だけど、それでも少しでも花を摘んでお祖母様のところへ持って行くんだって……」
そこで言葉を切るコリンズの表情は固い。それがそのまま彼の悲しみなのだろうと思うと、リュカもサンチョも上手い言葉がかけられなかった。彼の祖母が亡くなってから数日が経つが、やはり彼らの受けた悲しみが癒えるまでにはまだまだ時間がかかる。
「じゃあちょっと中庭に行ってみるね。ありがとう、コリンズ君」
「あっ! でも、オレ、ポピーに手紙を書くのに何を書けばいいのか……」
「それでは私が一緒に考えましょうか。王女のご様子でしたら私からでもお伝え出来ますからね」
サンチョがまだ小さなこの王子の悲しみに寄り添うようにそう言葉をかけると、コリンズは束の間戸惑いながらも固い表情のままサンチョに向かって頷いた。サンチョのその対応に、リュカは彼が今までもこうして子供たちの心に寄り添う人生を過ごしてきたのだと感じることができた。リュカが幼い時にも、ティミーとポピーが幼い時にも、先代の国王からの従者は絶えずグランバニア国に真摯に仕える思いで子供たちの面倒を見てきたに違いない。彼の底なしの優しさをもってすれば、コリンズもすぐに心を開いてサンチョと話ができるようになるだろう。
「サンチョと一緒ならきっと良い手紙が書けるよ」
「では一度お部屋まで戻りましょうか。お付きの方もご一緒にお願いできますか?」
サンチョが丁寧にそう言えば、侍女も断ることなく付き従う。コリンズは今の時間はちょうど自由時間となっているらしく、その時間を使う分には問題ないと三人揃って東の小部屋へと足を向ける。背を向けて歩き出すその姿に、リュカは思い出したようにコリンズに声をかける。
「あ、そうだ。ポピーに書くんだったらティミーにも手紙書いてあげてね」
「もちろん書きます」
「ポピーにだけだと、ほら、恋文と勘違いされちゃうかも知れないから」
「なっ……オレ、そんなんじゃないから!」
途端に顔を真っ赤にしたコリンズを、両脇からサンチョと侍女が温かな目で見つめている。来月にようやく九歳となるコリンズがすぐさまそのような反応をする辺り、やはり彼もまた父ヘンリーと同じで成長が早そうだなと、揶揄った自分の行動を後悔するような思いでリュカは一人中庭へと向かった。



ラインハットの中庭には解けない雪が凍りつき、冷え冷えとしたその景色は夏になってもそのままそこに残っているのではないかと思えるほどに、未来永劫閉ざされてしまうような感覚がある。冬の今の時期は城の中庭にも影が多く占め、ただでさえ積もった雪は解けにくい。そのために好んで中庭に出る者もほとんどおらず、リュカはすぐに目当ての人の姿をその凍りつくような景色の中に見つけた。
しゃがんで雪の積もらない草地に咲く花をじっと見つめているマリアを見れば、それはまだ小さな一人の少女のようだった。外套を羽織っているとは言え、長くこの場に留まれば身体を冷やすと、リュカは自分が身に着けているマントを外す。
「……あ、リュカさん」
立ち上がって振り向くマリアの肩に、リュカは自分のマントを乗せるようにかけた。
「こんなことしたらヘンリーに怒られそうだけどね。でも風邪を引かせるよりはいいよね」
「リュカさんこそ、ご自分のマントを外したら寒いでしょう」
「僕は暑さ寒さは結構平気なんだ。普段、旅してることも多いからね。その辺、鈍いって言うか、そんな感じ」
そう言いながらマリアの正面に立ち、彼女が勝手にマントを取らないように首元の釦を止めてしまえば、彼女もまたそのままリュカの厚意に甘んじることにしたようだった。
「主人と会えませんでしたか? 城の人に探してもらいましょうか?」
「ううん、ヘンリーには会ったよ。デール君にも会った。さっきはコリンズ君にも会ったんだ」
「そうですか。……それなら、どうしてこんなところにいらしたのですか」
「だって、まだマリアには会ってなかったもん」
「あら、それはご面倒をおかけしました」
そう言って少々申し訳ないと言うように微笑むマリアは、以前から見る彼女とさほど変わらないように見えた。しかし潮が引くように彼女の表情から笑みが消えるのを見れば、やはりまだ心に受けた傷は殆ど癒えていないようにも見受けられる。
「ポピーちゃん、元気にしていますか?」
マリアもまたコリンズと同様に、あの日のあの時のポピーの戦う姿を目にしていた。その時には遥か遠くで何度も爆発が起きている状況に、ラインハットにはあれほどの呪文の使い手がいたのかと思っていたが、後にコリンズに真実を聞いて唖然としたのだ。ポピーが様々な呪文を使うことは話に聞いていたが、まさかあのような恐ろしい戦場に出て魔物の仲間たちと共に少女が戦うことがあるのかと、しばらくは信じられない思いでいた。
「うん、ポピーは大丈夫。ティミーもいるし、僕の従妹のドリスもポピーのことをよく見てくれるし、オジロンさんもサンチョだって、それに魔物の仲間たちもたくさんいるから」
「そうですか、それはとても心強いですね。支えてくれる方に囲まれていれば、きっと大丈夫でしょう」
「マリアは? マリアは平気?」
「私、ですか?」
「うん。デール君が心配してたよ」
「……デール王にご心配をおかけするなんて、義姉として失格ですね。一番苦しんでいるのはきっと王ご自身でしょうに」
マリアの言う通り、先太后の実子であるデールが最も心に傷を負っているのかもしれない。しかし先ほど聞いた話によれば、彼は事前に母と救国のための最後の策を講じていた。何も知らずに母を喪ったわけではない。彼には心の準備ができていたのだと、リュカはデールの話に聞いている。
「私は大丈夫ですよ」
そう言いながらもリュカとは目を合わせられないのだから、彼女の心は言葉とは裏腹なのだと知らされる。彼女がこのラインハットで暮らすようになり、しかも王兄妃殿下としての立場で生きることを求められた時に頼りにしていたのは、恐らく夫であるヘンリーではなく新たに母となった先太后なのだろう。頼りにしていた存在が唐突にその身を滅ぼし救国の人となったことに、彼女の心はまだ追いついていないに違いない。
「マリアは相変わらず真面目だよ。大丈夫じゃない時は遠慮なくヘンリーに言えばいいんだって」
友がマリアの事を結婚する前から大事にしているのはリュカも知っている。彼はきっとマリアになら何を言われてもその望みを叶えようとするに違いない。そしてそれを全く苦には思わないし、むしろ喜んで行動する友の姿が目に浮かぶ。
雪の残るラインハット城の中庭に、三羽の小鳥が羽ばたき飛んできた。リュカとマリアの立つ近くの木の枝に留まり、仲良く話をしていたかと思ったら、その内の一羽だけが再び飛び去ってしまった。残された二羽はもう話をするでもなく、ただ飛び去った一羽をしばし呆然と見ている風だった。寒さに身を震わせ、再び飛び立つ元気がなかなか沸かないのかも知れない。
「私があの人に何を言えるのでしょうか」
いつもなら抑え込めるはずの本音だが、何もかもを見透かすようなリュカの前では思わず零れてしまう。マリアは今もできうる限り教会に日参し、自身の心に刻みつけるように変わらぬ祈りを捧げている。もう十年ほどの月日が経つが、目まぐるしく変わる自身の生活の中でも、あの大神殿に残る兄ヨシュアや残された奴隷の人々への思いは忘れることなく彼女の心に残り続ける。
「あの人は私に……何も教えてはくれませんでした」
「それは、この国を救った彼女のこと?」
「いいえ、あの人自身のことです」
マリアの口調はしっかりしている。今やリュカよりも年上となってしまったマリアだ。リュカの経験していない八年の月日をこのラインハットで過ごし、王国を支える立場の一人として弱音を吐くことも自身に禁じていたようにも窺える。しかし今は、リュカと言う一人の人間を頼りに素直な思いを吐露しようとしている。
「ヘンリーにもデール君にも、誰にも言わないよ」
だから話しても大丈夫だよと、リュカはそこまで口にしないながらもマリアの正面に立ち、その意思を言外に含めて伝える。あの日以来、マリアは夫であるヘンリーの目もまともに見ていないが、リュカとは自然と視線を合わせることができた。既に長くラインハットにありながらも、唯一気を許して夫ヘンリーが話をするのはリュカだけだということにマリアは当然気づいている。彼らの絆は奴隷の日々の間に築かれたもので、それは誰にも超えることのできないものなのだろう。そんなリュカを、マリアは心の奥底でもう一人の兄のように慕っていた。
「お母様がお使いになった腕輪は、代々ラインハットに受け継がれた国宝と聞きました」
腕輪の話はグランバニアでも、先ほどのデールとヘンリーとの話の中にも登場し、そのメガンテの腕輪はラインハット王国を守るための切り札だったとデールは語っていた。
「その腕輪、私がお母様にお渡ししたのです」
「え?」
「何も、知らずに。ただお母様にそうお願いされて、渡して欲しいと」
「彼女が持っていたんじゃなかったの?」
「……主人の机の引き出しにあるから、それを取ってきて欲しいとお願いされて……私は何も疑問を持たずに言われた通りに……あんなに近くにあったのに、今まで何も、そんな素振りなんて見せずに、あの人は……」
マリアの言葉から落ち着きが失われて行く。思いがまとまらずに言葉になるが、思っていることは一つなのだと分かる。
「分かってるんです。それがあの人の優しさなんだって。何も言わないことがいいんだって、そう思っていたから私には何も教えてくれなかったんだって分かってます」
頭で理解するのと心で納得するのは全くの別物だ。両方が上手く収まれば、荒れる気持ちも落ち着きようがあるが、今のマリアは心が追いついていない。
「でも、そんなにあっさりと、私もコリンズも置いて命を……そんなこと考えると、胸が潰れそうで……」
彼女の言葉にリュカも初めて、先太后の使用したメガンテの腕輪は当初その持ち主であるヘンリーが使おうと決めていたことを知った。マリアにとって、母である先太后を喪った悲しみも当然深いものだが、それよりも夫ヘンリーが妻である自分に何も告げずに勝手に命を賭して戦の場に出ていたことに、深く傷ついていたのだ。
「マリアは何も悪くないよ。ただ、僕にはヘンリーの気持ちも分かる」
家族だからと、夫婦だからと全ての物事を共有したいという思いはある。共有するということは、結婚の誓いにもあるように喜びも悲しみも分かち合うことだが、相手を大事に思うあまりに苦しみなど自分一人で抱えてしまえば良いと思うこともある。誓いを違えてしまう裏切りと言われればそれが正しいが、正しいばかりが人の感情ではないのだ。
「私は結局、いつになっても子供なんです」
震える声で話すマリアが俯くと、その拍子に目に溜まっていた涙が一つ地面に落ちた。彼女が手にしている花は冷たい風に吹かれ、寒そうに細い茎を揺らしている。
「あの時だって、兄の覚悟に気付いたのはもう……顔が見えなくなってからでした」
大神殿の山頂を脱出した十年以上も前の事をはっきりと覚えているのが、マリアの言葉から察せられる。大樽の蓋が固く閉じられた直後、マリアははっきりと現実を認識し、必死に分厚い蓋を手が傷だらけになるほどの勢いで叩き始めた。その時の彼女の叫び声を、リュカもまた嫌と言うほどはっきりと覚えている。
「ヘンリーは今も傍にいるでしょ? 避けないで、ちゃんと二人でよく話をした方がいいよ」
「……何を話せばいいのでしょう。もう、私には何を話せばいいのかも……」
「何でもいいと思う。だって、せっかく傍にいて話せるのに、何も話さないでお互いに避けるなんて……僕から言わせればそれって二人ともワガママだよ」
ヘンリーの事を我儘と呼ぶ者は多くいるが、マリアを我儘と言うものは誰一人としていない。彼女は常に一歩身を引いたところに立ち、自分の我儘など言わずに周囲の者への気遣いを自然とこなし、またそれが彼女の性分でもある。しかしリュカにそう言われて初めて、マリアは自身の恵まれた立場を今一度思い返した。
今のリュカには、話したいと思う相手が傍にいないのだ。
「ごめんね、キツイ言い方したよね」
「いいえ、そんなことありません。私、リュカさんの仰る通り、我儘でしたね」
あくまでも優しく気遣うリュカに、マリアは心底申し訳ない気持ちが沸いた。可愛い双子の子供たちと共にありながらも、リュカは今も愛する妻を捜す旅を続けている。その上、まだ会ったこともない母をも捜し続けている。彼は世にも稀な過酷な運命を背負った人なのだと改めて気づけば、マリアはこれ以上リュカに弱音を吐くことなどできなかった。
しかしリュカにとってはそれこそが邪魔な感情だった。真面目な彼女にはしっかりと弱音を吐き出せる場所がなければならない。それは本来ならば夫であるヘンリーが受け持つべき場所なのだろうが、この国の宰相という立場にある夫にすっかり甘えられるほど、彼女は自分を甘やかさない。唯一、彼女を最も甘やかしていたのが、もしかしたら先太后だったのかもしれないと思えば、リュカの心の中に残る先太后に対する蟠りがまた一つ減ったような気がした。
「これから教会に行くの?」
マリアが手にする花は亡き先太后の下に供えるためのものだ。幼いヘンリーを苛め抜き、このラインハットを滅ぼしかけた彼女だが、今となっては彼女もその罪滅ぼしをするかのようにこの国の窮地を救い、散った。そのような彼女の生き様に報いるように自身も花を供えるべきかと、リュカはしゃがんで数本の花を手に取ると、マリアの前に立つ。
「僕も一緒に行ってもいいかな」
「……お断りする理由などございません。お母様もきっとお喜びになるでしょう」

マリアと訪れた教会には、ラインハットの城下町に住む人々も数人姿を見せていた。城内に設けられた教会とは言え、この教会を日々訪れる人は少なくない。その中にふと姿を現したマリアを、人々は何やら有難がるように目を細めて見つめていることに気付けば、彼女が既にこのラインハットで一つの地位を築いているのが自ずと知れた。
シスターに案内されて奥へと導かれた場所に、ひっそりと一つの石の箱が置かれていた。リュカが胸に抱えて軽く運べそうなほどに小さな箱だ。その脇には既に数本の花が供えられていたが、それらは既に萎れ、色も変色し始めていた。
マリアはその花を手に取ると、代わりに新しく摘んできた花をその場所に供え置いた。箱の蓋は閉じられているが、その中には恐らく先太后が身に着けていた衣服や装飾品などが入れられているのだろう。リュカもまた、マリアが置いた花の隣に、自身が摘み取って来た花を静かに置いた。
「ありがとうございます、リュカさん」
そう言って深々と頭を下げるマリアを見て、そんな彼女の言葉や行動自体が非常に他人行儀なものに感じられた。マリアの事を考えれば、自ずと思い出されるのは彼女の唯一の肉親である兄ヨシュアの存在だ。今の彼女にヨシュアが話しかければ、それは確かに彼女の救いになるのではないだろうか。人と人との関係は血の繋がりが全てとは言えないが、血の繋がりに勝るものもないという思いもリュカにはある。
「マリア」
「はい?」
名を呼んでみたものの、続ける言葉が見当たらず、リュカはしばしマリアの顔を見ながら黙り込んでしまった。しかしマリアにこの合間を遮られる前に、頭に浮かんだ言葉をそのまま口にする。
「僕が……どうにかするよ」
その言葉の真意がマリアに伝わるはずがないとリュカは分かっている。現にマリアはリュカの言葉を聞いて、困ったような笑みを浮かべているだけだ。リュカ自身も何故、こんな言葉を唐突に口にしたのか分からない。
しかし嫌な過去から逃げ続けてきたのは確かなのだと、自分の発した言葉の中に知った。高度を低くした天空城ではたどり着けなかったあの場所へも、今のリュカは行く術を得ている。世界は幸せの国と言うまやかしへの憧れを強くしている。人々を恐怖に陥れ、その国へ導く手には、悪意しか存在しないと彼は断定している。リュカはグランバニアと言う人間世界の国の王であり、その力は世界のために振るわねばならないのと同時に、恩人に報いるために力を振るうことも許されるだろうと考える。
自身は決して勇者などという大それた存在ではないが、世界にも稀な力を有しているのは確かなのだと、グランバニア城に置いてあるドラゴンの杖にそう確信している。竜神の力そのもので世界を救うことは不可能だが、竜神の力を借りて世界を悪意の底から拾い上げることは可能なはずだと、リュカはマリアの肩に手を置いていつものように微笑んだ。懸命に笑顔を返してくれるマリアを見て、彼女にその気はなくとも、リュカは彼女の手で優しく背中を押されたような気がしていた。
もはやあの山の頂に向かうことは、一国の王として、かつてあの地から逃れた者として為さねばならないことだと思えた。マーリンには適材適所、人を使えば良いと言われている。リュカはその言葉に従い、国の立て直しなどは国の者に任せ、自身は世界に蔓延る元凶を絶つべきなのだと、それまで定まらなかった思いをあの忌まわしき地に向けることで前進することを心の中で誓った。

Comment

  1. ケアル より:

    bibi様。
    いつも執筆してくださりありがとうございます。

    今回のラインハット話、自分的にポピーの話と先太后の話になるかと思っていたんですが、まさかヘンリー・マリアの夫婦問題が最終的な話になるとは思いませんでしたよ。
    マリアの気持ちは複雑すぎではないでしょうか…。メガンテの腕輪のことをヘンリーはマリアに説明しないのはマリアにとってみれば夫は大事なことを妻に言ってくれない、疑心暗鬼になりますよね、しかも、ヘンリーは腕輪で死ぬつもりだったことを知れば、マリアの心境はグチャグチャになりますよ。
    マリアのみ知らないことだった…王族になっても誰一人教えてくれない。
    死んでしまった先太后もマリアに言わなかった。ヘンリーは妻に大事なことを言わないで秘密にしていた。デールも同罪ぐらい悪いのでは…。
    マリアにしてみたら、信用してもらえないから腕輪のことはマリアに言わなかったと感じてしまうのは当たり前。
    しかも、ヘンリーは死ぬ覚悟があった、いやそれは良いんですが、そんな大切な話をマリアに秘密にしていたという現実がマリアにしたら許せないですよね、夫婦として、ものすごく大事なことを…死ぬか生きるかって話なのに…。マリアはこのせいで人を信用できなくならなければいいんだけど…。
    この、ヘンリー・マリア夫婦問題、マリア・デール義姉義弟問題今後の話が気になります。

    次回は、とうとう大神殿に突入になりますか?ティミー・ポピー今後は旅について行けるのか?
    サンチョは旅について行くのか?
    大神殿のパーティー編成は?
    天空の鎧、ラマダ戦、ビアンカ像、このあたりの話になりますか?
    次話も楽しみにしています!

    • bibi より:

      ケアル 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      今回のお話はラインハットに残されたしこりが浮き彫りになった形となりました。そんなマリアの心を救う気持ちも持ちながら、リュカは大神殿を目指すことになります。
      マリアはラインハット国に行って幸せになったところでゲームとしてはめでたしめでたしな感じなんですが、私としては彼女もまたかなり不幸な境遇なんじゃなかろうかと思っています。教団に仕え、奴隷に落とされ、兄と生き別れになり、逃亡の末に愛する人と結婚し、子供まで授かりますが、全く慣れない王宮生活に心身ともに疲弊していたのではと、と言うのが私の勝手な妄想物語です。(それこそ私の勝手な妄想の中で、彼女はヘンリーとの結婚に当たっても色々と苦労しているものと設定しています、こっそりと、自分の中でだけ・・・)
      リュカによる叱責で、彼女は今後夫とちゃんと向き合って話をすると思います。それで徐々にか一気にか、また元の距離に戻るものと思います。その辺はちょっとこちらでは書かないとは思いますが。すみません(汗)

      次回はまた大神殿前の序章、みたいな形でお送りできればと思います。書きたいことが多くて・・・でも今年中にはどうにか最後までケリをつけたいと思っています。・・・でももう気づけば四月、急がねば(汗汗)

  2. ケアル より:

    bibi様。
    いつも楽しいお話ありがとうございます。

    そうですか…。
    マリアの複雑な気持ちの心境の変化は執筆しないかもしれないんですね、ちょっと寂しいです…。

    これからは、仲間になったリンガーやアムールたちはリュカといっしょに旅をするのか?
    キングス・ベホズンはまだリュカたちと旅にでていないが、次回は旅に出れるのか?(記憶違いならごめんなさい)
    ビアンカ石像に向かってポピーがストロスの杖を使った時の反応はいかに?
    まだまだ気になる描写満載です(笑み)

    bibi様、実は、まださきの話なんですが…。
    今回の大神殿探索に関してですが、ヨシュアのことを執筆するならば気をつけてください。
    ゲームで大神殿探索の時にヨシュアの…。マリアが…。タイミング…。
    ネタバレになってしまうので、言うのは自重しますが…ゲームしてて子供ながらに疑問した記憶がある一コマなんです。今後bibi様の執筆状況に応じて、何を感じていたのか…話させて戴こうと思っています。

    • bibi より:

      ケアル 様

      マリアの複雑な心境、本当は書きたいんですけどね。でもそれを書き出すと恐らく私の事ですから、完全にラインハットが主の舞台になってしまいそうで(汗) ただでさえラインハット贔屓のところがあるもので。

      仲間が増えてくると、連れて行くメンバーに悩みますよね。古参は大事にしたいし、でも新しい仲間も連れて行きたいしと、なかなか悩ましい所です。
      これからの場面も気になるところが多々ありますよね。うんうん、分かります。私も気になります。どうなるのかなって。私自身、分かっていませんからね(苦笑)

      大神殿での兄妹のことですか。ふーむ、何でしょう。もしこっそりお話されたい場合は、メッセージでいただいても大丈夫ですよ。私の事ですから、その辺りに気付かずに話を進めて、後になって「あっ・・・」みたいな後悔に陥りそうです。なんせ勢いで書いているものですから。よく後になって困っています(笑) もっときちんと話を練ってから書けばいいものを、そういうところを面倒臭がるから後になって困るんですよ、まったく、困ったものです。

  3. ラナリオン より:

    bibi様。今回も執筆、大変お疲れ様でした。つい最近まで春休み期間でしたからね。終わったと思ったら新学期も始まり、執筆に費やす時間を作るのに御苦労されたのではないかと思います。いやはや、パソコンの横で小説の内容を読み上げられては恥ずかしくてたまったものではないですよね。(汗)今にお子さんにもドラクエの世界を体験してもらいたいですね。さて、いよいよ大神殿突入が近づいてまいりましたね。今まで目を背けてきた場所にもう一度向かい合う時がきたということですね。目的はヨシュアさんや奴隷達の救出。まさかそこにビアンカの石像があるとは思いもせず…。次回からは内容も更に濃いものになりそうですね。ゲーム上ではマリアはヘンリーと結婚して幸せに暮らしました。めでたし×2って感じにサクッと進んでいますけど、マリアは自身、元は普通の一般市民。実際は慣れない王族の生活に戸惑うことも多く、気苦労が絶えなかったかもしれませんね。マリアは芯は強いですけど、そんなに自己主張の強い性格でもないですし、ヘンリーとのやりとりの中で思ったことや言いたいことを上手く言えずに苦労していたことがあったかも…。なんて思ってしまいました。身ひとつで嫁いできているわけですからね。勿論、充分に幸せなんですけど、どこか孤独を感じる部分が少なからずともあったかもしれないと…。さて、ラマダ&イブール戦、王者のマントがないのでちょっとキツい気もしますが、ゲマ戦と同様に激しい戦闘になりそうですね。果たしてbibi様のエネルギーがもつのかちょっと心配です。(汗)個人的には奴隷の皆さんをどのような方法で救出するのかが楽しみです。やっぱりここは竜の神様や天空城の出番かな?ゲーム上では皆さん自力で下山したことになっていますけど、真下は海だしさすがにちょっと無理があると思うのは私だけでしょうか。(汗)ここまでくると本当にもう最終回が近いなぁって思います。年内に終わってしまうかと思うとロス感が半端ないです…。(泣)

    • bibi より:

      ラナリオン 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      子供の春休みが終わって、さて時間が取れるかなと思った矢先に子供が風邪を引くのは一定のパターンです(笑)そしてまた自分の時間は取れないと。まあ、それが親の仕事ってことですね。せいぜい子供とがっつり関われるのは小学生の間かも知れないですから、この期間はやはり子供中心で行きたいと思っています。昨日も私が本をひたすら音読して聞かせていたので、今は私も喉が痛いです(笑) 読む本が消費増税の本なんだから、我が息子もなかなか変わった子供です。おかげで私も色々と勉強させてもらっています。

      大神殿が目の前に来ているので、ああとうとうここまで来たかと、自分のことながら感慨深いものがあります。長かった。何年かかっとんねん。
      マリアは密かに色々と苦労しています、という私の妄想です。ラインハットはどうしても私の想像の中では、どこか暗い影があるんですよね。魔物に国を乗っ取られかけたので、どうしてもその時の影が拭えない感じです。・・・グランバニアも相当ですけどね。二代続けて王妃が魔物に攫われるって、そりゃあ国民がこの国は呪われてるんじゃないかって思うのも仕方ない部分があります。結論、人それぞれ色んな悩みや不安や孤独があると。それを人と共有したり相談し合ったりできるかどうかで、その人の人生が開かれるか閉ざされたままになるかになるのだと思っています。

      もう戦闘シーンは限界を迎えているような・・・いや、そんなこと言ってられないですよね。まだまだ先があるんだから(笑) あの大神殿から自力で脱出はなかなかハードですよね。その辺りもこれから考えて行こうと思います。最終回が近い・・・確かにそんな感じがしますが、私としてはまだまだ先が長い感じもします。ドラクエ5のお話をまだまだ書いて行けるモチベーションはあるんですよね。ただあんまりだらだらしてもね、というか、散々だらだらしてきたので(笑)、これからはどうにかシャキシャキ進められたらと思っています。・・・今までのお話を本にまとめると、どれくらいになるのかしら。本心では本にして、皆さまにお手に取って読んでいただきたいなぁと思っていたりします。やっぱ、読むのって紙がいいかなぁと。古い人間なもので(笑)

  4. バナナな より:

    bibi様、今回もありがとうございます。
    bibi様の書く物語はゲーム本編でみんなが腑に落ちないところをとても丁寧に描写されていますね!
    そうなんです。ここまでの流れもそうですが、ゲーム本編だと大神殿に行く理由が無いんですよね。

    ただ小出しにされる情報に則って何故か大神殿に行くとそこにビアンカ像があるだけで、プレイヤーは何故大神殿に行ったのか謎なままでした。
    SFC当時、余計なデータを入れられなかったとはいえ釈然としないのは私だけではなかったはずです。ドラクエ5が名作であることに異論はありませんが、初見では
    「そんなことよりビアンカどこだよ?」って思いながら冒険していたのを覚えています。
    それんbibi様ときたら!マリアをリュカの大切な妹のような存在という描写で、妻と母の捜索を後回しにする大義名分を作ってしまうとは恐れ入りました!

    次回も楽しみにしていますね。それでは、また。

    • bibi より:

      バナナな 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      丁寧、ですかね。お褒めのお言葉をいただき恐縮です。ゲームだと、もう他に行くところって言えばあの山よね、と言う感じで向かったりしますよね。竜の神様でしか行けない所ってあそこだもんねぇと。私自身もあの流れはちょっとお話にすると急な展開だなぁと思っていたので、そしてあの場所に向かう動機を作るにはやはり彼ら二人、その中でもマリアはその存在が大きいなぁと思っていたので、前々から彼女をお話に絡めようとは思っていました。・・・もうちょっと話の流れを上手く作れれば良かったんですが、ちょっと急いでしまいました。本当はもうちょっと丁寧に話を進めたかった(苦笑)
      さて、これから一気に話が進み出す・・・予定です(笑) ああ、緊張する。見せ場が続きますもんね。気合いを入れてお話を書いて行きたいと思います。

  5. ピピン より:

    いつも思いますが、bibiさんの書くラインハット編が大好きです。
    ゲームで嫁いでからのマリアを想ったのはヨシュアの事についてくらいでしたが、
    この作品の丁寧でリアルな描写で、決して幸せだけじゃないマリアの苦悩に気づかせてくれて、感情移入してしまいます。
    きっとマリアに足りないのは、同じ目線で悩みを相談できる友なのかもしれませんね。

    • bibi より:

      ピピン 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      ゲーム上では、マリアは幸せな結婚をして子供にも恵まれて、めでたしめでたしと言うことになっているんですが、脱出後の彼女の人生を想像すると実はなかなか波乱万丈だったんじゃないかと想像してしまうんです。誰も身内がおらず、おまけに奴隷の過去も背負ってラインハット王家に入るのは色々と問題もあったろうと・・・。
      なるほど、そうですね。彼女に足りないのは友達なのかも。良い友達に恵まれれば、彼女の心も救われるのかも知れません。

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