竜神の見る景色
十年もの間、自身が囚われていたのは言わば何も存在しない、漆黒の闇の世界だった。普通の人間ならば、しばらくその空間に過ごせば気が狂うのではないかと思われるその閉ざされた石の呪いの中で、ビアンカは自身が身をゆだねる漆黒が、夫であるリュカの護りの中にあるものだと信じ続けた。
彼の瞳は、全てのものを受け入れ、吸い込んでしまうような深い黒をしている。もし石の呪いの中に在っても目の前の光景の見える状態が続いていたならば、一体自分はどのような景色を目にしていたのだろうか。恐らく自分の手の届かないところで起こる様々な出来事に歯噛みし、喜怒哀楽の全ての感情をその身に表すことも叶わず、じりじりと募る無力感にそれこそ気が狂ってしまったかも知れない。あの大神殿で起こっていた出来事を、ビアンカは夫リュカから、決して詳しくはないがある程度の事を聞いている。苦しんでいた人々の姿を目にしなかったことに罪悪感を覚える心もあるが、己の精神を十年の時を経ても尚変わらず保ち続けていられたのは、自身を包み込む漆黒の闇に夫の存在を感じていたからだろう。
今、ビアンカの前にはそれと対を為すような、どこまでも白く輝く世界が広がっている。幼い頃から、外の世界に強く興味を持ち、いつか自分も世界を冒険するのだという夢を抱いていた。子供である自分を大切に育ててくれた両親に対する反抗心などは特別抱くことも無かったが、親への感謝の念とは別に、彼女は果てしもなく広がる外の世界を自分の足で歩く夢を見ることを止めなかった。
歩く場所と同じところを、白い雲が霧のような姿で通り過ぎて行く。まさか自分が本当に、世界を旅するようになるとは思わなかった。自身の人生の終着点はあの山奥の村にあるのだと、人生の途中からそう思い始め、その意識でいつの間にか落ち着いていた。それと言うのも、あの元気な母を早くに亡くしたのが大きな要因だろう。身近な者の喪失は、己の人生観を是が非でも大きく変えてしまうに違いない。気落ちする父を放って、外の世界を夢見ることなど、ビアンカにはできなかった。これからは自分が母の代わりとなって、父と共に、人里離れたこの山奥の村で暮らし続けるのだと、そう改めて心に決めるでもなく、自然と自身の未来をそのように描くようになっていた。
空の上は非常に寒い。しかしあのセントベレスの山に建つ大神殿ほどのものではない。近くの空を鳥が飛び、子供たちに挨拶をするように可愛らしい鳴き声を聞かせてくれる。皆で旅装に身を包み、マントで身体を包んでしまえば、これを厳しい旅の最中だと思えば耐えられるくらいのものだ。
御伽噺にしか聞いたことのない空に浮かぶ城に、自分が今立っていることがまだ信じられない。しかしこの城も長い間、地に落ちていたと言う。それを夫であるリュカを初め、子供たちや魔物の仲間たちが力を合わせて、湖に沈む天空の城を空へ浮上させたというのだから、自分は途轍もない人々と出会ったのだと痛感する。山奥の村でひっそりとささやかに暮らして、行く末は父と母と同じところへ行ければいいのだと、母を喪ったことでどこか達観したような心持ちになっていたはずなのに、己の人生の歯車はあの山奥の村の中では収まってはくれなかった。
リュカの歯車が、ビアンカの歯車に新たに嚙み合わさったことで、彼女の人生は嘘のように広がって行った。子供の頃に夢見ていた、世界に冒険に出るなどと言う夢でしか在り得ないような夢の中を、彼女は現実に歩き始めた。自分は村で過ごす未来を思い描いて、今後の自分の人生を達観した気でいたが、父はそれを超えた場所で娘の行く末を遠くからでも見守る覚悟を決めた。自分が親ならば、娘をあの村から旅立たせるなどという危険を冒すわけがないと思っていたが、羽を生やしているような双子の子供たちを見ていると、親はそれほど簡単な思いを抱いているわけでもないのかも知れないと、今になってようやく父の想いを己の身に感じられるようになった。
「うう~、まだ寒い! まだ走り足りないんだ!」
「ちょっと、お兄ちゃん! そんなに端っこに行ったら危ないわよ!」
上空高くにのんびりと浮遊する天空城は、グランバニア城を飲み込んでも余るほどの巨大な城だ。その広い天空城の床の上を、息子ティミーが「寒い寒い!」と言いながら走り回って、身体を温めている。娘ポピーも兄のように走り回れればそうするのだろうが、どうやら高い所が苦手のようで、端にまで走り込んでいく兄を見て顔を青くしていたりする。
「ねえ、お母さんは高いところ、平気? 怖くない?」
リュカと手を繋いだままそう問いかけて来るポピーに、ビアンカは周りに見える美しいとしか形容できない景色を目にして、思わず笑顔を見せる。
「怖くないわよ~。小さい頃から木登りだってしてたもの。高い所から見える景色が好きだったのね、きっと」
「……そうなんだ。お父さんも高いところは平気だし、どうして私だけ……」
「僕も特別高い所が好きなわけじゃないよ。むしろあまり好きじゃないかもなぁ」
「えっ、でも魔法のじゅうたんの上でも平気そうだし、マスタードラゴンの上でも何でもないって顔してるよね、お父さん」
「うーん、一応父親だしさ、子供の前であんまりカッコ悪い所は見せられないでしょ」
「そうねぇ、高い所に行ってあんまりブルブル震えてるようなリュカは見たくないかも」
「僕が平気そうに見えるのなんて、そんなものだよ」
そう言いながら、空の上を行く天空城の高さを怖がるポピーの手を握るリュカは、平然とした顔つきをしている。無理をして高さの恐怖を我慢している様子は見られない。ただ守るべき子供たちがいる状況に、彼の気持ちは高さへの恐怖よりも遥かに子供たちへの注意へと向けられているのだろう。
そして彼の中には、この天空城と言う竜神の住む城への得も言われぬ信頼があるのかも知れない。ビアンカは初めて訪れたこの天空城と言う御伽噺の中にしか存在しなかった城を、改めて広く見渡す。皆が立つ床は、地上では見たこともない、空の青をそのまま映したような心洗われる色をしている。長きに渡り湖の底で眠っていたのだと聞いているが、天空城のどこを見ても古びた様子もなければ、損なったような箇所も見当たらない。この城自体が生きているかのような雰囲気を、ビアンカは感じている。この天空城そのものが呼吸しているかのような空気を感じるのは、奥にいる竜神の存在を想像しているからだろう。テルパドールの玉座の間から初めて目にした竜神の去り行く姿に、ビアンカはまたしても伝説の一場面を目にしたのだという感じを覚えていた。
ティミーが元気に前へ前へと走って行く。いつの間にかその姿はとても小さく見えるほどになってしまった。そして家族の方を向いて、大きく手を振っている。彼が更に前に進もうとしているところには、巨大な天空の城に似合うほどの巨大な階段が上へと続いている。その階段の上から、ふわりと下りてきたのは、背に翼を持つ魔物などではなく、大きな白い翼をはためかせる天空人と呼ばれる種族の者だ。
とあるお伽噺の本で、あくまでも想像上で描かれたに違いない天使の挿絵を見たことがある。それはもしかしたら、想像だけの絵ではなかったのかも知れないと、ビアンカは初めて目の前に見る天空人の姿にそう思わざるを得なかった。天空人が背に持つ白い翼は、当然のことだがそれ自体が生き物のように自由に動き、必要とあらばすぐに翼をはためかせて何処へでも飛んで行くことができる。しかし天空人の姿形はどこをどう見ても人間と同じように見える。ただ背中に翼があるかないかだけ、外見上の大きな違いはそれほどのものだとビアンカは遠くから天空人と言う種族をまじまじと見つめた。
「みんなー! 早く行こうよ! マスタードラゴンはこの奥にいるってさー!」
「ティミー! マスタードラゴン様でしょー! 神様に向かって失礼よ!」
「ごめんなさーい!」
人間には広すぎる天空城だが、空を飛ぶことのできる天空人たちにとってはそう広い場所でもないのかも知れない。ティミーと一言二言話した天空人の男性が、白い翼をはためかせて空を飛び、リュカたちのいるところまで飛んでくるのはあっと言う間だった。目の前に降り立った天空人に、ビアンカはいくらか緊張した面持ちで頭を下げる。
「あ、あの、息子がお世話になっています」
ビアンカは自身でも母親であることを意識しながら、目の前に立つ天空人にそう挨拶をする。一体天空人に対する挨拶がどのようなものなのか、何も手土産を持ってこなくても良かったのだろうかと今になって不安になりながら、思わず夫のリュカを見る。
「妻もこの天空城を見てみたいと言うので、連れて来ました」
「ええ、そのようですね。どうぞゆっくりご覧になってください」
「……ねえ、もう少し言い方ないの? そんなの、まるで私が子供みたいじゃない」
「どうせ嘘を吐いたって彼らにはお見通しだもん。嘘を吐く方が恥ずかしいよ」
声を落とすことも無く、あまりにも明け透けにそんなことを言い返してくるリュカに、ビアンカは思わず黙り込んでしまった。どうやらこの天空人と言う種族は、ある程度人間の考えていることなどお見通しの様だと分かると、ビアンカは思わず手で口を覆って息を止めてしまった。口から先に生まれて来たなどと言われたこともあるビアンカは、天空人に対しては呼吸すらも止めていないと、全てが相手に筒抜けになってしまうとその雰囲気に恐れを抱いてしまった。
「別に何も悪いことはしてないんだから、そんなことしなくても平気だよ」
「お母さん、天空人の皆さんはとってもいい人たちばかりよ。安心してね」
「私たちも貴女がこの城にいらっしゃるのを待ちわびていたのです。勇者の母……ですからね」
そう言う天空人の男性の言葉には、どこか不思議な重みが備わっているようだった。そしてその雰囲気に、ビアンカは己の人生の始まりの、更に遡った始まりを垣間見たような気がした。
勇者の子孫が、地上の世界に生きていた。それは、紛れもなく自分のことだ。勇者という存在はかつて、天空人と人間の間に生まれたのだという御伽噺を思い出せば、その途端に彼女の目に映る天空城の景色や、目の前に立つ天空人の存在が、身近なものに感じて来る。
ビアンカ自身が認める両親は間違いなく、アルカパの町で宿を営み、その後山奥の村へと居を移した父と母である。しかしそれとは別に、彼女を生み出した実の父母なるものが確実にこの世に存在したのだ。山奥の村に今も住む父の事を思えば、考えることにも罪の意識を感じるが、この天空城の景色を目にして、白い翼を背に生やした天空人を前にして、勇者の母として運命づけられた者として、己が何処から来たのかを考えないではいられなかった。もし御伽噺の話が真実ならば、己のルーツは間違いなくこの天空城にあるのだとはっきり頭の中に想像できれば、思わずビアンカは自分の背中に今までには感じたことも無いような違和感を覚えた。
「ようこそ天空城へ」
天空人は年も取らないのだろうか、見た目はリュカと同じほどに見える青年が、栗色の短い髪を風になびかせ改めてビアンカに挨拶するように頭を下げた。天空城の更に上空に浮かぶ雲の合間から差し込む陽光に、天空人の青年の全身が照らされる。栗色に見えていた髪色が陽光に照らされ、金にも青にも緑にも、まるで七色の光を帯びたように見え、その神秘的な姿にしばし見惚れた。
「ビアンカ、行くよ」
そう言って腕を掴んできたリュカに、ビアンカは生返事をしながら、まだその視線は天空人の青年へと向けられている。天空人なんて空に住む種族なのだから、太陽の光を受けて不思議な反応を起こすのかしらと、人生で初めて目にした天空人という存在をこの際だから目に焼き付けておこうとするビアンカの腕を、リュカはいつもより強く引く。
「お母さん、どうしたの?」
「え? だってあの人……」
「あの人がどうしたんだよ。普通の天空人の一人だろ」
明らかに機嫌を損ねているリュカの様子に、ビアンカは訝し気な顔つきで夫を見る。珍しく苛立たし気な父の姿に、当然のように娘のポピーも気づく。そして少々ませたところのある少女は、父の静かな憤りに気付いたように口元に笑みを浮かべると、「お父さんって……」と言葉を濁しながらもどうにか笑いを堪えていた。
「もうお兄ちゃんの姿が見えない。勝手に先に行っちゃったんだわ。ちゃんとマスタードラゴンのいる場所に行ったのかな」
「……ポピーも。マスタードラゴン様って言った方がいいと思うわよ。相手は神様なんだから」
「え? あ、うん。そうよね。ごめんなさい」
「でもまあ、ポピーがそんな風に言うなんて意外な感じもするわね」
天真爛漫な息子ティミーであれば神様への敬称を忘れることもあるだろうという思いがあるが、兄の天真爛漫をあまり良く思っていない節のある娘ポピーならば自然と神様を敬う心を持っていてもおかしくはないと、ビアンカは思わず小さく首を傾げる。
「ただこれだけ広々してると、ティミーが思いっきり走っちゃうのも分かる気がするわ~」
「地上の外じゃそうは行かないからね。せっかくだからビアンカも思いっきり走ってみたら? ここは魔物に襲われる心配もないから、何も心配せずにどこまでも走れるよ」
「え~? でも私、二人のお母さんよ? ちょっとはしたないんじゃないかしら」
「人間がいくらここで走っても、天空人の人たちははしたないとは思わないよ。彼らはそういう感覚で生きてないから」
「そういうものかしら」
「そういうものだよ、きっと」
リュカの言葉を胸に落とし込めば、先ほどの天空人の青年の姿に見た神秘にも頷ける気がすると、ビアンカは空に浮かぶ太陽と雲とを見上げ、深呼吸をした。そして姿勢を低く構えると、「思いっきり走るのって久しぶりだわ!」と言ったかと思えば、もうリュカとポピーの前を走り出していた。走り去っていく母の後姿を見たポピーは、母が思い切り走る姿に思わずうずうずと子供としての好奇心が胸の内にせり出してくる。
「ポピーも一緒に行っておいで。お母さんと一緒に走ってみたいんでしょ?」
「お父さんは?」
「僕は……大丈夫。ティミーと一緒に天空城を案内してあげるんだろ? お母さんも喜んでくれるよ」
「……うん!」
そう言うとポピーは父の手を離し、先に行く母のところへと駆け出した。妻と娘が向かう巨大な階段の上に、再び息子ティミーが姿を現した。先に行ってしまった彼は、後ろを振り向いたら誰もついて来ていないことに気付き、引き返してきたのだろう。階段の上から、母と妹が揃って走ってくるのを見るなり、いかにも子供らしい笑顔を見せるティミーは、今は勇者と言うよりもどこにでもいるような元気な子供の一人だ。同じような天真爛漫さを見せて階段を駆け上がってくる母の姿に、心の底から喜んでいるような弾ける笑顔を見せている。母について行くポピーは、今はこの天空城が空に浮かんでいるという高さの恐怖も忘れている。階段の途中で振り返る母ビアンカの表情が明るく、この天空城という場所を楽しんでいるのだと感じれば、ポピーもまた同じように楽しむことができる。そんな母子の楽し気な雰囲気を見遣るリュカは、まるでビアンカがティミーとポピーを照らす太陽のようだと、天空城を更に上から照らす陽光を全身に浴びながらそんなことを思う。
神々しい天空城の景色の中に溶け込む三人の姿に、リュカはふと、ビアンカにもティミーにもポピーにも、その背中に白い翼が生えているような錯覚を感じた。かつて世界を救ったと言われる勇者は、天空の血を引いていたという話がある。その血筋をどのような経緯があってか、どのような縁があってか、ビアンカが受け継いだ。そしてその血をまた、子供であるティミーとポピーが継いでいる。脈々と受け継がれていく天空の血は薄まりこそすれ、絶えることなく今の今まで地上で続いてきたのだ。
それ故に、彼らの背に白く美しい翼が生えているように見えたとしても、リュカは何一つ違和感を感じなかった。むしろようやく彼ら三人は、この天空城と言う家に帰って来られたのではないかと言う想像さえ働いた。そんな想像を広げれば、何故彼らに白い翼が無いのかが不思議に思えるほどだ。あれほど軽やかに走り、階段も飛ぶように上るのだから、もしかしたら自分には見えない翼が三人にはあるのではないかと、そう考えればリュカの視線は自ずと下へと落ちた。様々な思いが己の胸中を巡り出すが、それには蓋をして、リュカは再び顔を上げて家族のいる場所へと歩き出した。
天空城の玉座の間へ向かう中でも、ビアンカは天空城の景色を溜め息を漏らしながら眺めて行った。とにかく天井がやたらと高く、上を見上げれば天井は目に霞んでしまうほどだ。その天井を支える柱は壁かと思うほどに太く、手で触れて見ればまるで滑らかな陶器のようで、それがただの石ではないことに気付かされる。一体何で出来ているのだろうかとビアンカが立ち止まり、柱に手を当てながらまじまじと見ていると、後ろで小さく笑う声が聞こえ、彼女は恥ずかしさに後ろも振り向かないまま柱から離れた。
「いいんだよ、ビアンカ。気になったら色々と見てみたらいいんだから」
「そう思うんだったら笑わないでくれる? 子供みたいって思ったんでしょ」
「違うよ。やることが可愛いなぁって、そう思っただけだよ」
「うふふ、お母さん、お父さんに可愛いって言われて嬉しいね」
「……まあ、ね。そうね、嬉しいかも。ふふっ」
「でもさ~、この扉もとんでもない大きさだよね。さっすがマスタードラゴンの住むお城だよね~」
「こら、ティミー。だからマスタードラゴン様でしょ。ちゃんと様をつけないと」
「あ、そっか。ついつい~」
まるで反省する様子もない息子をビアンカは困ったように見つめるが、ティミーはそんな母の様子には構わずにずんずんと前へ進んでいく。玉座の間に続く扉もまた人間の世界では考えられないほどに巨大なものだ。天空人たちの姿を見れば、その背格好は人間と大差ないもので、空を飛べるという自由な行動範囲を考えたとしてもここまで大きな扉をつける必要もないだろうと、ビアンカは首が痛くなるほどに上まで続く扉を見上げる。
「あっ、そっか! ここをマスタードラゴン様がお通りになることもあるのよね? それじゃあこれくらい大きくないとダメよね」
「そんなこと考えてたの、ビアンカ」
「えっ? だって何のためにこんなに大きいのかって思うじゃない。こんな大きな柱や壁を造るのだってとっても大変よ~。でもどうやってこんなお城を造ったのかしらね。もしかして、天空人さんたちってとんでもない力持ち?」
「そんな感じはしないけどな。もし力があれば、もっと悪い魔物とも戦えるんじゃないかしら」
「そんなの、マスタードラゴンがズバーンってあっという間につくったんじゃないの? だって神様だよ? それくらいできてもいいと思うけどなぁ」
「なるほどね~、神様ってスゴイのね。だってほら、装飾も細かいのよ。こんなに小さな葉の模様まで作れるなんて……」
「もう扉を開けるけど、いい?」
そう言いながら巨大な扉に手を当てるリュカに、ビアンカは慌てて頷いた。そしてこれほど大きな扉を一体リュカがどうやって開けるのかと、興味津々な眼差しでリュカを見つめる。そんなどこか幼いような妻の姿を見ながら、リュカは胸の内で再び「可愛いなぁ」と呟きながら扉を軽く押した。
高く聳える壁のような扉が、ゆっくりと自ずと開いて行く。眩しいほどの光がリュカたちを照らし、四人は反射的に目を瞑る。そして開いた両目に飛び込んできた景色に、ビアンカは思わず息を呑んだ。
また外に出たのかと思ったのは、外の空や雲の景色をそのまま目にすることができるからだ。しかし上空を吹く冷たい風に晒されることはない。だだっ広い玉座の間の空間には、天空人の兵士と思しき者が数人、リュカたちの訪問を待ちわびたかのように揃い立っている。そして否応もなく視界の真ん中に飛び込んでくるのは、あり得ないほどに巨大な玉座に就く、見たことも無いほどの巨大な竜だった。
リュカが前を歩き出さなければ、ビアンカはその場でしばらく立ち止まったままだっただろう。どういうわけだか、夫リュカには微塵も緊張した様子が見られない。神様を前にしているというのにどんな落ち着きぶりだろうかと、ビアンカは今は夫の頼もしさに感嘆する思いでついて行く。しかし少し落ち着いた気持ちを取り戻せば、どうやらティミーもポピーも寛いだ表情をしていることに気付く。神様を前にして緊張することの方がおかしいのだろうかと、ビアンカは自分で常識と思っていたことを思わず疑う。
「よくぞ来たな、勇者の母よ」
重々しい竜神の声に直接脳を振るわせられるような奇妙な状況に、ビアンカは戸惑いつつもどうにか前に足を踏み出す。どのような言葉を口にすればよいのかも分からないまま、とにかく頭を下げて最低限の礼儀を見せた。そして顔を上げると、彼女のすぐ斜め前に、リュカが立っていた。
「妻が天空城に来てみたいと言うので、ちょっとお邪魔させてもらっています」
「ここは其方の故郷のような場所だ。存分に寛いで行くが良い」
「妻は人間です。彼女が暮らすのはグランバニアの国です」
マスタードラゴンの優しい言葉に真っ向から勝負を挑むようなリュカの抑揚のない声に、ビアンカははらはらとする。何故夫がこれほど竜の神に向かって無遠慮なのかが分からない。ビアンカとしてはマスタードラゴンと初めて会う機会であり、神様に対する挨拶と言うものがどのようなものなのかは分からないが、それなりの態度で臨まねばと思っているというのに、リュカはその全てを否定するような雰囲気で竜神と妻の間に割って入るように立っている。
「ちょっとリュカ、何を怒ってるのよ」
「怒ってないよ」
「でも何となく感じが悪いじゃない。どうしたの?」
「どうもしないよ。じゃあもうマスタードラゴンにも会ったし、他のところを見て回ってくる?」
「あっ! リュカなのね!」
「え?」
「リュカがマスタードラゴンに『様』をつけないから、子供たちも真似をしちゃってるんじゃないの?」
「えっ、知らないよ、そんなの」
「そう言えば、お父さんってマスタードラゴン様なんて呼んだことないわよね。聞いたことないもの」
「そっか~。だからボクたちもそうやって呼んじゃうんだ。お母さん、すごいね、よく気づいたね!」
「ほら! そうじゃないの! ダメじゃないの、子供たちにはちゃんとお手本を見せないと。それにリュカの態度は神様に対するようなものじゃないわよ。だって尊敬や感謝の欠片も見えないもの。こーんな立派な竜の神様を前にして、ちょっと態度が失礼なんじゃないの?」
「…………」
腰に両手を当てて説教を始めるビアンカの前で、リュカは言い返す言葉はいくらでも思い浮かべながらも、謝る気にもなれず、ただ事を穏便に済ませるべく黙り込んでいる。そのような人間の家族の状況を見ていたマスタードラゴンは、自身が巨大な竜神であることも忘れたように、鼻から大きく息を噴き出した。それが竜神が笑って噴き出したのだと分かるのはリュカくらいのもので、突風が吹き荒んだ玉座の間では天空人の兵士らも、ビアンカもティミーもポピーも揃ってその場に踏みとどまるのがやっとだった。
「すまぬ」
「……まだ自分が大きな竜だって自覚がないんですか?」
「いや、そういうわけではない」
「じゃあ呼吸一つも気をつけてしてくださいよ」
「ふむ、そうだな。ただ……」
「ただ?」
「やはり勇者の血を引く者と言うのは誰もかれも堂々としたものだなと、そう思ったのだよ」
そう言いながら竜神が巨大な玉座に就いて琥珀色の大きな目を細める姿を見て、リュカが不愛想に竜神を見つめる横で、ビアンカは世にも珍しいものを見た喜びに思わず顔を綻ばせる。そんな彼女の様子を静かに見ている竜神は、口を動かすことも無く、やはり人々の脳に直接語りかける。
「竜が笑うとは思っていなかったようだな」
「えっ? いや、そんなことは……と言うか、神様が笑うだなんて、想像したこともなくって……」
「神様って言ったって、形ばかりなものだよ。長いこと、人間だったんだから」
「そうだよね、普通のおじさんだったもん」
「そうよね、あの時はどこからどう見ても普通のおじさんだったわ」
子供たちが口をそろえて言う普通のおじさんと、目の前の偉大なる竜神の姿がどうしても結びつかず、ビアンカは一人首を傾げる。これほどの立派な竜神なのだから、たとえ人間にその身を変えていたとしても、世を統べる神たる雰囲気がその身から滲み出るものではないのかと、自然とそう考えてしまう。
「神と言えど、完全なる存在ではないのだよ」
「そういうこと」
竜神自身の謙遜するような言葉に、間髪入れずに同意するリュカを見ていると、ビアンカは普段の温厚な夫を忘れてしまいそうになる。リュカや子供たち、魔物の仲間たちがこの竜神の復活に助力したことは話に聞いているが、一体その旅の間に何があったのかをビアンカは詳しく聞いてはいない。彼女もその当時の話を聞いてみたいと思ったことはあったが、神と呼ばれる存在の事を直接的に聞くのも憚られるのだろうかと、躊躇している内に月日が経ってしまっていた。
「堂々としているって言うなら、よっぽどリュカの方が堂々としている気がするけど」
ぼそりと呟くビアンカの言葉に、リュカは改めて自身の行動を振り返るように腕組みをして考える。
「お父さんの場合、堂々としてるって言うよりも……もっと堂々としてるんじゃないかなぁ」
「……だってお父さんはマスタードラゴンのこと、そんなに……アレでしょ?」
竜神の面前では流石に「嫌い」などという言葉を使えないポピーはどうにか言葉を濁して父にそう伝えるが、リュカには娘の言葉の含みが素直に伝わった。一方、いくら言葉を濁したところで、マスタードラゴンはその巨竜の身に宿る能力で、いとも簡単に人々の思考を透かして見ることができる。そしてポピーの濁す言葉そのものの感情をリュカが抱いていることに、理解を示すようにじっとリュカを見つめる。
「リュカが私に抱く感情も、運命の一つであろうな……」
「仮にも神様が運命って言葉を使うのは卑怯だと思いますよ」
「すまぬな、他に言葉が思い当たらなかったのだ」
「僕にもよく分かりませんけど……仮にも神様が使っちゃいけない気がします」
「……リュカ、『仮にも』って言い過ぎじゃない?」
ビアンカが近くでそう囁く忠告にも、リュカは大して心動かされない。恐らく自分は今、神様に対して途轍もなく不敬な態度を見せているのだろう。それは自覚している。しかし神様を信じ、地上に生きている人々の事を思えば、自分が代表して神様に文句を言うことはある種の正当性があるのではないかとも思う。第一、いくら文句を言ったところで、リュカたちの進むべき道は変わらない。運命を変えられるのは神様の力などではなく、恐らくこの世に生きる者たち一つ一つの力が強く合わさった時なのだと、リュカはそう思う。
「運命って言葉はさ、僕たちが使うべきだよ」
リュカはこの言葉の響きに、人々が抱える諦めの心が内包されているように感じるのだ。どれほど辛いことが起ころうとも、それが天の与え給うた運命ならば受け入れるしかないのだと、一つの未来を諦める時に使う言葉なのだと、どこか寂しく虚しい響きを感じるのがこの運命と言う言葉だ。耐え切れないほどに辛く悲しい出来事が起こった時にも、それを運命と呼べば、どうにか耐えて前に進むこともできるのだろう。運命と言う言葉の中に、全ての悲しみや怒りなどを放り込み、包み込み、消えることはないが忘れてしまうことで、また前に踏み出すことができる。
「そうかもね。それなら……私が今こうしてここにいるのも、みんなに助けてもらったのも、運命の一つってわけよね」
ビアンカの力強い声に、リュカは途端に眠りの世界から目を覚ましたかのような感覚に陥る。彼女の言葉に表れる運命の意味は、陰に怯えるようなものではなく、陽の中に希望を見い出すようなものだと、リュカはその言葉の温かさを初めてその身に感じた。
「こうして神様にお会いできたのも運命。こんなに綺麗な天空城に来られたのも運命。捨てたものじゃないわね、運命って」
そう言って二人の子供たちの肩を両手に抱くビアンカは今、二人の愛する子供たちに出会えた運命の奇跡を喜び味わっている。彼女が嬉しそうに微笑み、その表情をリュカに向ければ、リュカもまた運命の奇跡を喜ぶ連鎖に巻き込まれる。運命と言う言葉を悲しみや怒りなど、負の感情の中に収めようとしていた自分の思いは、まだ小さなものだったのかも知れないと、リュカは妻が、子供たちが目の前にいる喜びを改めて感じ、胸の中が温まるのを感じた。
“リュカよ”
その声は、リュカにのみ届く。今日のこの日、グランバニアから天空城を目指すに当たって、リュカはドラゴンの杖を通じて竜神の存在を感じ、ルーラの呪文でひとっ飛びに家族をこの場所へと連れて来た。今もリュカが腰につけるベルトから、ドラゴンの杖が提げられている。マントの内側に収まるその杖が振動し、リュカだけに竜神の声を伝えている。
“魔界を目指すのだな”
特別言葉にして伝えなくとも、当然竜神はリュカたちの事情を全て知り得ている。勇者であるティミーを連れ、妻も娘も共に魔界を目指し、リュカの母マーサを救い出した上で、再び地上から魔界の扉を固く封じる。その目的をも把握しているのだろうと、リュカはマントの内側でドラゴンの杖に手を当てながら、玉座に就く竜神を見上げ、一つ頷いて見せた。
“それを貴方が言うのか”というリュカの言葉にならない思いが竜神に伝われば、静まり返った天空城の玉座の間で、竜神の大きな琥珀色の目がリュカを射抜くように見る。
ビアンカに、ティミーにポピーに、背中を向けて立つリュカはたった一人で、心の中で、竜神との会話を続ける。家族から見えるのは、ただ静かに竜神の前に立つリュカの後姿だ。風もないのにどこか不気味に濃紫色のマントが揺らめくその姿に、誰も声をかけることができない。リュカは風の呪文の使い手だ。しかし今のこの場所で、呪文を使っているわけではない。ただ、抑えきれないリュカの思いに応じるように、その身から呪文の波動が滲んでいるのかも知れないと、ひと際呪文に長けているポピーは父の様子に怖れを抱くように、母の手を握った。
その時、ポピーの脳裏を掠めた光景に、二体の巨大な竜が対峙する像が映り込んだ。一体は今も玉座に就いているマスタードラゴン。そしてもう一体は、巨大な黒竜と化した父。二体の竜が大きく翼を広げ、今にも互いに掴みかかろうとしている姿は、即ち世界に破滅をもたらしてしまうと、ポピーはきつく目を閉じて「お父さん!」と悲鳴のような声で父に呼びかけた。
ポピーの声が玉座の間に反響し、あまりにも予想外の大きな声に、天空人の兵士らも、ビアンカもティミーも驚きに目を見張った。リュカがゆっくりと後ろを振り返り、可愛い我が娘に何事か起こったのかと真剣な顔つきで「どうしたんだ」と問いかける。硬い表情ではあるが、それが自分を心配してのものだと分かれば、ポピーはほっと息を吐いて取り繕うように「何でもないの。ごめんなさい」と謝った。
「ねえ、お父さん。マスタードラゴンに話さなくていいの? 魔界へ行くこと……」
ティミーの言葉に、息子にもその目的があったのだろうとリュカは彼の表情にそう感じた。世界に唯一の勇者として、世界を救う力を持つ唯一の者として、勇者をこの世に産み出したような存在の竜神に話して問いかけたい思いがあるに違いない。今のこの時に、勇者が魔界に入ることを竜神はどう考えるのか、感じているのかを、ティミーは一つの大きな拠り所として竜神に聞きたいのだろう。
「ティミー、竜神は止めもしなければ、背中を押してくれることもないんだ」
実際、リュカの言う通りなのだ。竜神は世界を統べる者ではあるが、世界に干渉する者ではない。竜神がいる限り、『世界』というものが一切無くなるというわけではない。しかし今のこの世界がもし破滅に向かう時が来たら、竜神は今の世界の姿をすっかりかえてしまうのだろう。そして一たび変えられた世界には恐らく、リュカもビアンカもティミーもポピーも、グランバニアの人々も誰もかれも、一切の存在が無くなっている。そして世界はまた一から作られる。
「魔界に行くなとは、言ってない?」
「言ってないよ」
「魔界に行けとも、言ってないの?」
「うん、言ってない」
「そっか」
父の言葉を介して竜神の心を知ったティミーは、そう言った切り、しばし黙り込んだ。
もし竜神に『魔界には行くな』と言われれば、ティミーはそれにあっさりと従ったのかも知れない。それは神そのものの言葉であり、天からの命令だ。マスタードラゴンに対する敬意がそれほど厚くないティミーでも、流石に竜神自身から直接制止の言葉を聞けば、勇者の足を止めるに値するものなのだろうと、その場に踏みとどまることができただろう。
しかしもし竜神が『魔界に行け』との言葉をティミーに投げてきたとしたら、彼はその言葉には素直に従う気にはなれなかったに違いない。神が、世界を救うべくこの世に生まれた勇者を魔界の世界へと誘うとなれば、それは生贄としての存在を確立されるようなものなのではないかと、ティミーの足も身体も震える。
ティミーが一人、どこまでも深く考えるのを遮るように、玉座に就く竜神がのそりとその巨大な身体を動かす。人の背丈の何倍もあるような大きな身体で、玉座の背もたれを避けるようにして広げて見せた竜の翼は、まるで高い天井を覆うかのように巨大だ。そしてゆっくりと一度竜の翼をはためかせると、天空城の玉座の間の隅々にまで柔らかな風が行き渡った。
「リュカよ。家族と共に、我が背に乗るが良い」
「何をするつもりですか」
「世界を……見せよう」
低い声を皆の脳に直接響かせると、竜神は玉座を降り、それ自体が巨大な竜ではないかと思われるほどの大きな尾をリュカの前へと伸ばす。
「リュカ、これって……」
ビアンカが戸惑いの声を出す前で、リュカは彼女を安心させるように微笑みながら応える。
「みんなを乗せて、空を飛んでくれるってさ」
「空を……」
「良かったね、ビアンカ。こんなの、なかなか体験できないよ。せっかくだからみんなで楽しもうか」
「……お父さん、空を飛んでいる時は手を離さないで欲しいな」
「もちろん」
「ボクに世界を見ておけって、言ってるんだね。マスタードラゴンは」
決してはしゃぐことのないティミーの様子を、リュカは静かに受け止めた。いつもの彼ならば竜神の背に乗り、世界を飛び回ることのできる状況にただ楽しさを見い出し、無邪気な笑顔を見せて喜んでいたに違いない。しかし今のティミーは、天空の武器防具を身に着けずとも、勇者として在るべきだと自らそう思い、己の宿命の中に立ち上がろうとしている。
「うん、僕たちみんなにそう言ってるんだよ。さあ、みんなで行こう」
そう言ってリュカはティミーの頭を撫でると、息子よりも先に竜神の尾の上に乗り、まるで一つの丘のように見える竜神の背へと歩みを進めた。濃紫色のマントを揺らして先を歩く父の背中に迷いはない。その力強い背中を目にすれば、ティミーも、ビアンカもポピーも、ただ父を信じる思いで前に進むことができる。四人の家族が竜神の広い背中に立つと、天空城の玉座の後方に並ぶ荘厳且つ巨大な柱が、竜神の行く先を広く開け、そうして竜神は天空城から勢いよく飛び立った。
天空城がみるみる遠ざかって行く光景を、ビアンカはまるで自分の身体が竜神に吸い込まれるような感覚で眺めていた。想像していたよりも速い竜神の飛行に、ビアンカは思わずその場にぺたんと座り込んで安定を保とうとするが、どうやらその必要もないと再び竜神の背の上に立つ。
景色は飛ぶように過ぎて行くというのに、まるで風を感じないのだ。寒さを予想していたにも関わらず、寧ろ竜神の背の上には仄かな温かささえ漂っている。その状況はリュカやポピーが唱えることのできる移動呪文ルーラにも似ていて、移動の最中は何か見えない膜が彼らをすっぽりと包み込み、外部からの影響を一切受けない不思議な護りの中にいるようだった。
「きゃー!」
リュカが手を繋いでいても、竜神が唐突に上昇や降下をすれば、当然のようにポピーは悲鳴を上げてリュカの手を痛いほどに握る。リュカは娘を落ち着かせるように手を握り返しながら、もう片方の手でドラゴンの杖を持ち、杖の先で竜神の背をつつく。リュカのその姿を見ていたビアンカが、夫が竜神に対して文句を言っているのだろうと思わず苦い顔つきを示すが、どうやら竜神とリュカの間の関係は特別なもののようで、自分が立ち入るような問題でもないのだろうと見過ごすことにした。
「ポピー、大丈夫よ。ほら、実はほとんど揺れてないもの。不思議ね~、こんなに激しい飛び方をしてるのに。やっぱり神様だからかしら」
「ボクはもっとビュンビュン飛んで欲しいんだけどな~。海の上すれすれくらいまで急降下してさ、それから一気に空まで……」
「お兄ちゃんのバカ! そんなこと言わないでいいから! そんなこと言ったら、マスタードラゴンがやっちゃうかも知れないでしょ!」
「流石にそこまで激しい飛び方はしないと思うけどね。もしそんなことをしたら、僕吐きそう……」
「あ、そうよね。リュカは乗り物があまり得意じゃなかったものね」
「マスタードラゴンって乗り物なの?」
「神様だけど……今は乗り物なの?」
「もう乗り物でいいんじゃないかな」
リュカの言葉を聞くや否や、竜神は唐突に大きく宙返りをして、その背に乗る四人は各々種類の異なる悲鳴を上げた。飛行の最中は竜神自身に重力が働いているように、四人が巨大な竜神の背から宙に放り出されることはない。しかし彼らの視界は間違いなく宙返りをして、ポピーはたまらず目を回し、娘を抱きかかえていたリュカも頭がくらくらする状態に陥っていた。
間もなく竜神の背から見下ろす景色が、海から陸へと移った。どうやら今まで天空城は西の大陸の外海を浮遊していたようだ。恐らくいつも竜神が空を飛んでいる時よりも、高度を低くしているのだろう。地上に広がる景色は鮮やかな色彩で描かれた地図のように見えた。
険しい山々の只中から絶えず煙を吐き出しているのは、死の火山と呼ばれる、凡そ人間が近寄らないような山だ。その山々の傍に動く何かが見える。それは全て、魔物なのだろう。リュカがかつてこの地域を旅していた時にも、当然魔物は棲みついていた。しかしあの時よりも今の方が、明らかにその数を増やしている。決して人間が寄り付かないようなこの険しい山々の間で、数を増やした魔物たちは、放っておけば更に数を増やし、徐々に人間たちの住む場所へと生きる場所を広げていく。
竜神は北へと向かう。一見穏やかに見える草原地帯にも、魔物の群れは目にできた。まだ昼の明るい時間だというのに、森の中に隠れることもなく、堂々と草原地帯で群れを成している魔物の状況を見れば、世の中を旅する人間が以前に比べて極端に減っているという現実にも頷ける。リュカたちには移動呪文と言う便利極まりない力があるために、既に訪れたことのある場所にならば飛んでいけるが、普通の人々はそうは行かない。ただでさえ長旅には危険がつきものだが、これほどに魔物が増えてしまった世界では、旅に出て世界を歩こうと思う人間などそうそういないだろう。
サラボナの町の上空で、竜神は旋回する。比較的低い場所を飛んでいるために、リュカたちにはサラボナの街並みだけではなく、その中でも最も目立つルドマンの屋敷をも目にすることができた。サラボナの西北に広がる丘には、フローラとアンディが中心となって営む子供たちの学び舎がある。そして、町の中にいる時には気づかない景色が、空から望めた。町をぐるりと取り囲むように、サラボナの町を守る男たちの姿が見えるのだ。ただでさえサラボナの町は周りを石壁に囲み、魔物に対する守りを厚くしている。しかしそんな守りでは追いつかないのだと、町を守る自衛団の数を増やしたに違いなかった。
地上に広がる景色はどこもかしこも美しくリュカたちの目には映る。空からの陽光を浴びて青々と輝く草木や森林の緑は、この世に生きとし生けるものを育む力を感じさせてくれる。その中で時折ぽつりと姿を見せるのは、商人を中心とする旅団だ。硬い武装に身を包んだ兵士を幾人も連れ、守りを厚くしているのが分かる。そのような人々の生きる姿を、リュカたちはまるで神の視点を得たような気で、空から見下ろしている。
再び海上へと飛び出した。空には暗雲が立ち込め、海は強い風に荒れている。航海の途中で嵐に会うのは覚悟の上で、人々は海に出る。そして今も、荒波の中を一つの大きな船が、東から西へ向かって進んでいる。
荒波の中に潜む魔物の姿を、リュカはその目に映した。明らかに人間の乗る船に狙いをつけ、機会を見計らい襲おうとしている。敵も群れを作り、その数の多さでは船に乗る人間の数を圧倒しているように見えた。
「……ちょっと行ってくる」
そう言ってリュカが懐から取り出したのは、魔法の絨毯だ。天空城を訪れるに当たり、到底必要とも思えない空飛ぶ便利な道具だが、先日のテルパドールでのこともあり、念の為にと旅装の懐に入れておいたのだ。広大な海上で、荒れる海に耐えて前に進もうとしている船に襲い掛かる魔物を追い払うべく、リュカは手にした魔法の絨毯を広げようとする。
「お父さん、こんなに高い所から……危ないわ」
「そうだよ! 魔法のじゅうたんじゃ一気に下まで落ちちゃうよ!」
「……何をする気なの、リュカ。ちゃんとみんなに言ってからにして。一人で何かをしようとしないで」
竜神の背に乗る四人に、空から降りつける雨の影響はない。近くの空には暗雲が広がり、その雲の中を行く筋もの稲妻が閃いている。うかうかしているとリュカたちが雷に打たれるのではないかと思うほど近くにある暗雲だが、竜神の護りの中にある彼らにはその雷も届かない。
「船がある。それを魔物たちが取り囲んでる。このままじゃあの船の人たちが危ないんだ」
リュカの言葉に、三人が一斉に海上へと目を凝らす。雨に風に荒れる海の上、どうにかその波間を行く一隻の大きな船がある。大きさ故に、転覆の危険はないように思えるが、確かに船の周りに潜む海の魔物の姿が、目を瞑るポピーの瞼の裏に映った。ビアンカとティミーには、海上を進む船の姿こそ見えるが、それを取り囲む魔物の姿は分からないらしい。
「お父さん、私に任せて」
目を瞑ったまま、ポピーはその場で両手を前に突き出す。瞼の裏には荒れる海の光景が移る。船の甲板に出ている人は少ない。多くの人々は船室の中で嵐が過ぎ去るのを待っているのだろう。しかし甲板に出ている船員たちもまだ船を囲む魔物の姿には気づいていないようで、ただ船の進行方向を注視しているだけだ。
「ポピーの氷の呪文って、海の魔物にはあんまり効かないんじゃない? ボクの方が向いてるんじゃないかな」
ティミーの声に集中は一度途切れ、ポピーは目を開けた。瞼の裏に映り込んでいた人々の乗る船の窮地に集中していたが、兄の冷静な一言にポピーは思わず「そうかも」と素直に頷いた。氷系呪文ではなく、爆発の呪文にも長けているポピーだが、船に乗る人々が魔物の存在にさほど気づいていない状況で突然船の周囲に爆発が起これば、それだけで混乱を起こしかねない。爆発の勢いで船にも危険が及ぶ可能性も大いにある。
ポピーはティミーと目を見合わせると、決まり、と言うように互いに頷いて意思疎通を済ませる。二人は片手を繋ぐと、ポピーが目を閉じ、すぐさま意識を荒波を行く船に向ける。続いてティミーも目を閉じ、妹と同様の景色を見ようと試みる。しかしティミーに遠隔呪文の才はない。ポピーが見ているような景色を、ティミーは見ることができない。それでもポピーが意識を向けている遥か下に見える海の細かな景色を、映像に見るのではなく、全身に感じるが如く集中する。
「見えるのは……二十を超える、かな。分かる? お兄ちゃん」
「ぼんやりとだけど、何となくだけど、分かる……ような気がする」
「船を傷つけなければ大丈夫。できそう?」
「船を傷つけないように……うん、やってみる。大丈夫。人は絶対に傷つけないよ」
二人の集中を邪魔しないようにと、リュカとビアンカはただ子供たちが実践しようとしていることを、固唾をのんで見守る。失敗する可能性は零ではない。もしティミーの呪文で船に乗る人々が窮地に陥るようなことがあれば、リュカはいつでも竜神の背を飛び降りるつもりでいる。魔法の絨毯を手にしながら、ビアンカに目線だけで合図を送る。彼女もまた、その時のためにと子供たちの傍から離れないことを同じように目線で返した。
ティミーも、ポピーほどではないが攻撃呪文を使うことができる。海に棲息する魔物に対しての呪文は当然、火炎呪文であるのだろうとポピーもリュカも、息子が外の世界で呪文を使った場面を見たことのないビアンカも、そう予想していた。
竜神の更に上を渦巻く暗雲が、多くの稲妻を溜め込んでいる。間近に轟く雷の音は、竜神の護りの中に在るとしても本能的に恐怖を感じる。その稲妻閃く暗雲に向け、ティミーの右手が真っ直ぐと伸びた。誰もが恐怖を抱き、畏れ多いようにも捉えられるような雷を、ティミーは怖れない。裁きの雷なるものは、善き者を救い、悪しき者を倒すのだという信念の下に、ティミーの右手は暗雲の中に溜まる稲妻を集めてしまう。
竜神の目の前を、まるで幾本もの雷の槍が地上へと放たれたように、まさしく光の速さで雷は落とされた。ポピーの瞼の裏に映り込んでいた魔物の陰は、瞬時にその一切の気配を消し去ってしまった。あまりの衝撃に思わず目を開けたポピーの目の前には、同じように目を開けて呆然としているティミーがいる。自ら雷の呪文ライデインを放っておきながら、最も驚いていたのもティミー本人だったようだ。
「大丈夫だよ、二人とも。船に乗る人たちは無事だ」
そう言いながら竜神の背から地上の荒波を見つめていたリュカは、手に持っていた魔法の絨毯を懐にしまった。恐らく今の雷の轟音でしばし船の上の人々には混乱が生じるかも知れないが、間近に雷が落ちたというのに船が無傷であることに気付けば、彼らは再び荒波を超えて行くことに集中することになるだろう。
「……今のって、二人がやったことなのよね……?」
ビアンカの視界にはまだ光り輝く雷の残像が映り込んでいる。目も開けていられないほどの光が眼前に現れたかと思ったら、それは次の瞬間に海に落ちていた。激しく轟く音もまた、耳鳴りのように今もまだ彼女の耳に残っている。
「今の呪文はお兄ちゃんが……」
「いや、でもボクだけじゃこんな強い呪文は出せなかったと思うんだけど……」
母子が顔を見合わせて驚きを隠せない状況を、リュカは一人落ち着いて見つめていた。リュカはこれまでの二年の間、子供たちを連れて世界を旅してきた。本来ならば、ビアンカの驚き方が正しいのだろう。興奮の中に見ても、冷静の中に見ても、二人の子供たちの能力は凄まじいの一言に尽きる。流石は勇者という宿命の中に生きる二人だと思わせられる。その二人が互いに力を合わせたならば、それは恐らく竜神が地上の世界を託せるその人となり得るのかも知れない。
リュカが二人の子供たちの能力の高さに内心舌を巻いているその目の前で、ビアンカはまるで子供の想い全てを受け止めるかのように、両腕を開いて二人を抱きしめた。その瞬間に、ティミーとポピーが感じていた戸惑いは霧消するようにどこかへと去り、どこかふわふわとしていた全身が確かに母の腕の中に在ることに安堵する笑みを見せる。
「あなたたちなら大丈夫。二人ならきっと、何だってできるわよ」
ビアンカは確かな根拠があってそのような言葉を二人に向けているわけではない。しかし何かしらの根拠を並べ立てて論ずるよりも大事なものを、彼女は子供たちに伝えているのだ。親が子を信じる力が、子供たちを強くするのは間違いない。特に、子供たちが不安を覚えている時には、親のそのような力が必要に違いない。
「私たちなら大丈夫。絶対に何だってできるんだから!」
根拠などない言葉なのに、彼女の言葉はいつでも皆の心を引き上げてくれるのだと、リュカは母の言葉に明るい表情を返している子供たちを見てそう思う。言葉の力と言うのは強い。現に今、ビアンカの言葉の力だけで、ティミーもポピーも戸惑っていた心を忘れて、各々に自信を漲らせている。
「うん……うん、ボクたちならきっと何でもできるよね!」
「……お母さんはどうしていつもそんなに強くいられるの?」
思いがけず問いかけられたポピーの言葉に、ビアンカは二人から身体を離して、しかし両手は二人の肩に置いたままふふっと笑みを見せる。考えるまでもない、それに対する答えは初めから決まっているのだと言わんばかりに、ビアンカは正面に立つリュカを見る。
「お父さんがいてくれるからよ」
さも当然のように子供たちの前でそんなことを言うビアンカに、リュカはどのように返したらよいのかも分からずにただ妻の水色の瞳を見返す。
「何があってもリュカが必ず助けてくれるもの」
そう言って微笑みかけるビアンカを見ながら、リュカは彼女の揺るぎない信頼の思いに応えるように柔らかく微笑み返す。十年もの長い間助けに行くことができなかったと言うのに、ビアンカはただ純粋に今もリュカという人物を信じ続けてくれている。それだけの想いを向けられればそれに応えるだけではなく、それ以上の想いを以って妻や子供たちを必ず守るのだという思いが自然と胸に沸き、留まる。
「うん、三人とも、僕が絶対に守るよ。僕の大事な……家族だ」
妻の真似をするように、リュカもまた自身を奮い立たせるように先ずは言葉を口にした。言葉とは不思議なものだ。口にして、音として外に表されれば、それはただの思いから誓いとなる。その誓いを耳にするのが自分だけではなく、他にもいるとすれば、言葉の力は尚のこと強くなる。言葉が先行して、行動を起こすことができるようになる。誓いの言葉とは異なる行動を起こすのはもはや罪にもなるのだという思いが芽生え、やはり誓いの言葉の通りに行動しようという気持ちが働く。
リュカが一塊になっている三人を更に外側から覆うように抱き込むと、妻も二人の子供たちも頼るようにその身をリュカに任せる。広い竜神の背に乗り、世界を巡る彼らの目に今映るのは、西に沈みゆく橙の夕日だ。地平の彼方へ沈みゆく夕日もまた、明くる朝になれば東の地平の彼方から大地を照らしながら姿を現す。しかし太陽が、月が、星がこの地上の空を行き来している間にも、地上の世界のそこここでは今のように危機に晒されている人々がおり、その数はこの数年の間でも増えていることは間違いない。
“リュカよ”
竜神の重々しい声が、リュカの頭の中に響く。今リュカは特別ドラゴンの杖を手にしているわけでもない。しかしもはや竜神はリュカ個人との繋がりを持ったように、リュカの脳へと直接語りかける。
“地上の世界は美しいものだな”
竜神は更に東へと飛び続ける。空には星々が瞬き始め、地上の世界は眠ってしまったかのように真っ暗になる。しかしその中にも人々の生きる力を示すように、ところどころに明かりが灯る。いかにも賑やかな明かりが灯る場所はオラクルベリーの町があるところだろう。それを北に進めば、倹しいように感じられる小さな明かりの灯る場所を通り過ぎる。サンタローズの村に灯る小さな生活の明かりを後ろに見るリュカとは反対側で、ポピーが「あれって、ラインハット?」と前方に現れた広範囲に及ぶ明かりをリュカの手に掴まりながら見つめる。
世界は美しいと言う竜神の目線を今、リュカたちはまさしく体験しているようなものだった。夜の闇の中にあっても、人々の生きる証でもある明かりは地上に点々と灯り、一日一日を懸命に生きているのだと感じることができる。しかしこの人々の生活の明かりも、魔界の王がその手を地上へと伸ばせば忽ち消え失せてしまうのだ。完全なる闇となれば、この地上の世界は最早人間の住むような場所ではない。魔界の魔物たちが跋扈するような地上の世界とは、想像しても絶望の景色しか思い描けない。
あっと言う間にグランバニアの上空に着いた時には、地上は朝を迎えていた。東の大海原から顔を出した太陽は、神をも上回るような力で地上を遍く照らし出す。たとえば魔物たちに明け渡した地上の世界があるとしたならば、この太陽の力さえも奪われるのだろうかと、リュカは目を細めて光り輝く太陽を見つめる。
“どうして僕たちにこの景色を?”
リュカは特別竜神に問いかける風でもなく、ただそう胸に感じた。リュカの独り言のような思考に応じるように、竜神も独り言の如くその思考をリュカに見せる。
“この美しい景色を 私だけで見るなど つまらないではないか”
その言葉が頭の中に流れ込んで来れば、リュカは思わず小さく噴き出し微笑んだ。天空城の巨大な玉座に就き、堂々たる巨躯を晒していたマスタードラゴンだが、彼の中には確実に人間としてのプサンの魂が残っているのだと感じられた。美しいものを一人で見ても、感想を言い合える仲間がいなければ楽しくないのだと、竜神もまたこの世にただ一つの存在としてではなく、共に語れるような仲間が欲しいのかと思えば、途端に竜神に対する同情心が沸く。
それと共に、竜神もまたこの美しい地上の世界を残したいのだろうと、そう思わずにはいられない。その思いにはリュカも全て同意できる。たとえ自分が勇者ではなくとも、多くの人々が息づくこの地上の世界を守りたいと思える。この地上の世界を悪しき魔物たちに荒され、人々が滅んでしまう道をただ受け入れることなどできるはずもない。
「お父さん」
ティミーが見下ろす先には、朝陽に照らされるグランバニアの城が、広大な森林地帯に守られるように建つ景色がある。朝方グランバニアの城を囲んでいた霧は既に東の森へと去り、今は人間の力で建てたグランバニアの城がはっきりとその目に映る。
「ボクなら、大丈夫だよ」
グランバニアの城だけではなく、朝陽はその光が届くところ全てを明るく照らす。陽光の力を正面から受け、その光にも負けないほどの力を有しているのだと思われる雰囲気が、今のティミーには漂っていた。
「早くおばあちゃんを助けに行かなくちゃね!」
ティミーが口にするその言葉は、ティミー自身の心を奮い立たせる。言葉が先行して、誓いとなり、その誓いに基づき行動を起こそうと思える。それはいつも、ティミーが意図せずともやってきたことだった。まだ世界全てを見渡したわけではない。しかし美しく輝く世界の景色の画が、ティミーの脳裏に一つ一つ映り込んだ今となっては、もう消えることはない。
「おばあ様にもこの景色を見せてあげたいな」
同じく強い太陽の光を受けながら、リュカの手を掴んだまま竜神の背に立つポピーも、心からの思いを口にする。娘の言葉にリュカも小さく頷く。母マーサはもう三十年近くもの間、この地上の世界を離れた場所に生きている。その母をこの地上の世界に連れ戻し、共にこの美しい気色を見たいと思うのは、共に在るべき家族として当然の心情だろう。
「みんなでまたマスタードラゴンの背に乗せてもらいましょうね。その時はおばあ様も一緒よ!」
ビアンカがそう言うと、それに応えるように竜神が上空高くで宙返りを決める。ティミーが歓喜の悲鳴を上げ、ポピーが恐怖の悲鳴を上げる。ビアンカが楽しそうに明るく笑い、リュカは竜神を戒めるかの如くドラゴンの杖で広い竜神の背をぽこんと叩いた。この家族の中にリュカの母マーサが加わることを、誰もが夢見ながら、竜神は更に空を行く。
Comment
bibi様。
原作ゲームでもビアンカまたはフローラが天空人だと分かりますが、なぜ地上のどこかに捨てられていたというか…放置プレイされていたのか、なぜなのかの理由を知り得る説明やシナリオはないですよね。 そして、ビアンカまたはフローラの両親が誰なのかも明かされることがない。
ドラクエ4ではキコリと天空人の女性と恋に落ち、そして勇者が生まれた。 想像するに、ドラクエ4の勇者とエルフのシンシアの子供たちのずっと後の先祖がビアンカまたはフローラの両親だと思うが、前述のとおりなぜ地上で一人ぼっちで放置されていたのか…。 ドラクエ5をプレイしていた時、ずっと疑問になっていたことなんですよ。 bibi様はどう考察しますか?
ビアンカ最後の最後で自分もマスタードラゴん呼び捨てにしてるし(笑い)
次話天空城の続きお待ちしています。
ケアル 様
コメントをどうもありがとうございます。
彼女たち二人の出生が明らかにされない辺りがまた神秘的でもあり、私はそのような秘められた部分があることが更にドラクエの世界を良くしているんじゃないかな~なんて思っています。全てを明らかにしてしまうと、私としては達成感よりも、「なーんだ、もう知れることがないのかぁ」とちょっとがっかりしてしまいそう(微笑) 彼女たちの出生についても色々と想像の余地ありで、それだけで楽しい私は単純な思考の持ち主です(笑)
そこで、私個人の勝手な想像としては、勇者の血筋を引く者の多くは何かしらの災難に見舞われる運命にあるんじゃないかと、そんなことを思っています。その強烈な運命を代々継いでいくというだけで、強い光には濃い影があり、その影にどうにかこうにか耐えられる者もいれば、耐えられずに・・・という者もいる。ビアンカやフローラの実親はその影に耐えられなかった、というようなことを考えていたりします。・・・暗い。暗いわ。でもこんなダークな部分って、ドラクエには1作目からずっとあると思うんですよね。ドムドーラとか、ムーンブルグとか、テドンとか。このダークな部分もまた、ドラクエの良い部分と思っています。明るいだけじゃないし、善だけじゃないし。でもそれだから、明るい方へ、善なる方へと向かおうと頑張るのがドラクエなんじゃないかな。もうね、私としてはこのゲームは一つの芸術作品だと思っています。
そうそう、最後にはビアンカもマスタードラゴンを呼び捨てです(笑) 結局そんな扱いです、プサンさんは。
bibi様。
すみません間違えてますね…。
先祖でなく子孫です、失礼しました。