2017/12/03

大事な仲間の魔物たち

 

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洞窟内にこもる溶岩の熱は徐々に体力を奪って行くようだった。息苦しく感じる熱された空気に、自ずと呼吸も速くなる。目の前の景色はゆらゆらと揺れるように歪み、何か幻惑の呪文でもかけられたのかと錯覚するような景色に気分が悪くなる。
馬車を進めるのにも余裕のある道幅だが、その道は徐々に下って行き、溶岩の熱が近づいてくるのを感じる。馬車から離れ、道の端まで行って下を覗いてみたリュカは、この場所が死の火山と呼ばれる理由が分かった気がした。緩やかに下りて行く道はそのまま溶岩に向かっているようで、それは死に向かっているのと同じことなのだと、リュカは下方でぐつぐつと煮えたぎる溶岩を見下ろしながらそう感じていた。
しかし洞窟内の熱で苦労しているのはリュカだけではない。むしろリュカよりもプックルやガンドフが溶岩の発する熱に体力を奪われているようだ。寒さには強い二匹だが、熱された洞窟内を歩くにはかなり不向きな毛皮を持っていた。リュカはブーツを履いているから地面の熱を直接には受けないが、プックルもガンドフも裸足で、その足に直に地熱を感じているはずだ。プックルはそろりそろりと足を出して進み、ガンドフはいつものように歩いているように見えるが、大きな一つ目は半分ほど閉じられていた。リュカは二匹に馬車に乗っているように指示を出すと、ピエールとパトリシアの背に乗るスラりんとで外の魔物に警戒することにした。
「ピエールは大丈夫?」
「プックルやガンドフに比べれば大したことはありません。さすがに溶岩そのものに飛び込めと言われたらちょっと考えますが」
「大丈夫、そんなこと言わないから。でもこの先、もしかしたら溶岩で進めないところもあるかもしれないね」
リュカはそう言いながら、再び道の端まで歩いて行って下の景色を覗いてみた。下にも洞窟の道は見えるが、ところどころ溶岩が流れ出しているようだった。洞窟のどこに炎のリングがあるのかは分からないが、もし溶岩に阻まれた道を越えたところにあるとしたら、どうやって進もうかとリュカは頭を悩ませた。
「溶岩を冷やせたら進めるかな。馬車に積んである水じゃどうにもならないだろうし」
「ガンドフが冷たい息を吐けませんでしたか?」
「あ、そうだ。じゃあもしそんな道があったら、ガンドフにお願いしてみようかな」
馬車の荷台に顔を覗かせながら話すリュカに、ガンドフは少し疲れた様子でにっこりと笑うと、リュカに向かって冷たい息を少し吐き出した。一瞬にして冷たくなった顔に手を当て、リュカは少し体力が回復したような気がした。
火山洞窟の中には、火山が活動するような低い不気味な音が常に鳴り響いている。眼下に広がる溶岩は生き物のように泡を立てて煮えたぎり、上から落ちてくる獲物を今か今かと待ち構えているようだ。
洞窟内が熱された溶岩の明かりで照らされ広々と見渡せるのは、洞窟探索に当たってはかなりの好条件だった。洞窟内をうろつく魔物の姿も、遠くから確認でき、不意打ちを食うことはまずなかった。熱された洞窟の環境に集中力を欠くことはあったが、それでも明るい洞窟内で相手の姿がはっきり見えることは、リュカにとってはかなり有難いことだった。
アンディと別れた後、リュカは洞窟内の道を右手の壁沿いに進んでいた。何度か分かれ道があったが、とりあえずは決まり事を一つ作り、分かれ道に来ても悩まずに右手の壁に沿って馬車を進めた。馬車を進めて一時間ほど経った頃、リュカは緩やかな下り坂だった洞窟内の道の傾斜が、急にきつくなるところに辿りついた。パトリシアに声をかけ、馬車を慎重に進めようと手綱を握ったところ、目の前に突然、魔物が飛び出して来た。それこそ、下でぐつぐつと煮えたぎる溶岩の中から飛び出して来た魔物の姿に、リュカは声も出せずに、反射的に剣を構えた。
宙に浮く魔物の数は三体。不気味に笑う大きな口と、逆立った髪のような炎、全身は鎧に包まれ、鎧から出る手足は炎の色と対照的に真っ青だ。目鼻口があり、手足もある人型の魔物の姿に、リュカはいつも通り話しかけようと試みたが、その前に炎の戦士と呼ばれる魔物たちはすぐさま攻撃を仕掛けてきた。飛んできた炎の玉から飛びのき、リュカはごろごろと地面を転がった。道幅は広いが、うっかりすると道を外れて溶岩地帯へ真っ逆さまだ。リュカは慌てて身体を起こし、炎の戦士たちに向き直る。
「そやつらは人型をすれど、言葉は持たん。リュカよ、戦うしかないぞ」
馬車から飛んできたマーリンの言葉の通り、炎の戦士たちは小動物のようなキキッという声を上げるだけで、話しているという雰囲気はない。その証拠に、三体の炎の戦士は連携して敵を倒すと言う頭はないらしく、各々勝手に攻撃を仕掛けてくる。まるで意思疎通のない三体の攻撃は読むことも難しく、むしろ通常の戦闘よりも苦戦しそうだった。
炎の戦士との戦いが始まると同時に馬車から飛び出していたプックルとガンドフは、毛皮が炎に焼かれることを恐れているのか、いつもよりかなり慎重に敵を見据えている。それでもガンドフが冷たい息を吐いて炎の戦士の動きをほんの少し止めると、その隙にプックルが飛び込んで行って、一体の炎の戦士の顔面を鋭い爪で思い切り薙いだ。絶叫を上げる炎の戦士の様子にも、他の二体はさほど反応せずに、変わらずリュカ達への攻撃を続ける。相手のその様子に、やはり仲間同士手の攻撃の連携はないようだと、リュカは絶叫していた炎の戦士に向かって駆け出す。剣を振り、炎の戦士にとどめを刺すと、剣を受けた傷口から血ではなく炎を噴き出して、炎の戦士はそのまま下に広がる溶岩地帯へと落ちて行った。
直後、背後に熱風を感じ、リュカは急ぎ振り向き見た。迫ってくる炎の勢いは凄まじく、リュカは避けきれないまま炎を半身に浴びてしまった。幸い、全身を炎に包まれることはなかったが、ピエールの回復呪文がすかさず飛んで来なければ、気を失っていたかも知れなかった。残る二体の炎の戦士の攻撃は留まることを知らず、彼らは戦うためだけに溶岩から生まれたのかも知れないと思えるほど、次から次へと炎を浴びせてくる。ガンドフが冷たい息で応戦しているが、炎の戦士たちの操る炎の勢いが強く、防ぎきることは不可能だった。
一体ずつを集中的に攻撃し、戦闘を終える頃にはプックルとガンドフの毛皮の一部が焦げ、リュカのマントも焼けて、端が灰になっていた。リュカとピエールで怪我は回復したものの、毛皮もマントも回復できないため、プックルは尻の横にできた焦げ跡を残念そうに舐めていた。
「プックル、ガンドフ、馬車に戻って。特にガンドフ、疲れただろうからしっかり休んでて」
リュカの言う通り、ガンドフは戦闘中ずっと冷たい息を吐いて敵の炎の力を弱めていた為、かなり消耗してしまっていた。もしまた炎の戦士が目の前に現れたとしても、今のガンドフに連戦させることはできない。
「マーリン、ガンドフの冷たい息みたいな呪文ってあるのかな」
「ヒャド系の呪文がそうじゃが、わしは使えんし、お主もこれから覚えるにしても、ちと時間がかかり過ぎるじゃろうな。覚える頃にはこの洞窟を攻略してるか、この洞窟でくたばるか、どちらかじゃ」
「難しい呪文なんだね」
「難しいと言うよりは、使えるかどうか気付くまでに時間がかかるという意味じゃ。呪文を使うにはその呪文その呪文との相性が必要じゃからな」
「リュカ殿でしたら癒しと風との相性が良いということなのでしょうね」
ピエールにそう言われ、リュカははたと昔の事を思い出した。リュカ自身が初めて使えるようになった呪文は回復呪文ホイミだった。呪文が使えるようになったきっかけは今でもはっきりと覚えている。サンタローズの家で、ビアンカと一緒に二階で呪文の本を読んでいた時、父パパスと同じ癒しの呪文を使いたいと思ったリュカが試しに使ってみたのがホイミの呪文だった。初めて呪文と言うものを使って、成功した感触は今でも身体が覚えている。
真空呪文であるバギを使えるようになったのは、アルカパの町でレヌール城へ行く直前に、ビアンカに「冒険に出る前に呪文を覚えて行かないと」と言われて、渋々呪文の勉強に付き合った時だった。初めこそ嫌々勉強に付き合っていたものの、真空呪文が使えるようになると、今度は呪文を勉強するのが楽しくなった感覚を思い出す。
回復呪文を使えるようになったのも、真空呪文を使えるようになったのも、ビアンカがきっかけをくれたのかと、リュカは過去を振り返り改めてその事実を知った。彼女の顔などははっきりと思い出せないのだが、それでもリュカの記憶の一片として彼女との思い出ははっきりと形を留めている。彼女の少し強引な行動に色々と巻き込まれたような記憶も残るが、そのおかげでこうして今でも記憶に残っているのは確かだった。
「ビアンカなら、僕が氷の呪文が使えるかどうか、すぐに分かるのかなぁ」
リュカがそんな独り言を言うのと同時に、馬車の荷台で身体を休めるプックルが、赤い尾をゆるりと振って「にゃあ」と寝言のような声を出していた。



急な下り坂を進むと、今までの洞窟の景色とは一変して、今度は道幅も狭い、壁もないような危うい道に出た。白馬であるはずのパトリシアの身体の色が、間近に迫る溶岩のオレンジ色に染まり、さすがのパトリシアも首を下に下げて苦しそうな息をし始める。リュカも溶岩の上を走る、まるで剥き出しになったような道で、息をするだけで喉が焼けるような熱さに、思わず首元のマントを手繰り寄せて鼻と口を覆った。直接熱を帯びる空気を吸い込むよりは、数段楽になった。
「これはさすがに……厳しいですね」
ピエールの緑スライムがぐったりとした顔でそう言うのを見て、リュカはピエールにも馬車に控えているように指示を出した。ブーツを履くリュカは地面の熱を直接感じることはないが、ピエールの緑スライムは直接溶岩の熱を帯びる地面の上を進んでいるのだ。このままではピエールが溶けてしまうと心配になったリュカは、パトリシアの背に乗るスラりんと二人で周りを警戒しながら進むことにした。すると馬車から静かに下りてくる仲間を見て、リュカはマントで鼻と口を覆ったまま、くぐもった声で声をかける。
「マーリン、どうしたの」
「どうしたの、じゃないじゃろ。これでは後ろががら空きじゃ。わしが後ろを見ていてやろうと思ったんじゃ」
マーリンの言う通り、幅の狭い道を馬車で進むには、リュカはパトリシアの横をぴたりとつかなければならず、後ろを見渡すことができない。後ろから魔物に襲撃されたら、大打撃を食らうか、運が悪ければそのまま下の溶岩地帯へ落とされてしまうだろう。普段ならマーリンに無理をさせるわけにはいかないと馬車に控えさせるリュカだが、危険が迫ったらすぐに大声を出すことを約束して、共に外を歩いてもらうことにした。
馬車に積んである革袋に入った水は洞窟内の熱でかなり温まっていたが、それでも口に含むと体力を回復できるほどの威力を持っていた。洞窟に入る前に沢山積んできたとは言え、喉が乾いたら飲むと言うことを安易に繰り返したら恐らくすぐになくなってしまうほどの量だと、リュカは荷台に積んである革袋を見て考えていた。全てを蒸発させてしまいそうなこの洞窟で水の補給ができるとは思えない。リュカは水をほんの一口だけ飲むと、栓を開けたまま水の入った革袋をピエールに渡す。
「みんな、少しずつ飲んでおいて。倒れちゃったら話にならないからね」
「それではリュカ殿が使っている食事用の器で水を取りましょう。プックルとガンドフは身体が大きいので多めに。スラりんと私は器に半分。マーリン殿は……」
「わしはいらん。水などほとんど必要とせんからの」
骨と皮だけで生きているマーリンには食べ物も水も大して必要ではないらしい。リュカは少し心配になってマーリンを見遣ったが、マーリンは至って普通の様子で、熱のこもるこの洞窟内でも汗一つかいていない。そもそもマーリンが汗をかいているところを、リュカは未だかつて見たことがない。
「でも水を全く必要としないわけじゃないんだよね」
「そりゃあのう。水を全く取らなかったら、もしかしたらミイラの魔物に生まれ変わるかも知れんぞい」
「それは困るよ。一応今のうちに飲んでおいて」
みんながそれぞれ水の補給を終えると、リュカは再び馬車を進めた。マントで極力身体を覆い、目だけを出しているような格好でパトリシアの手綱を引く。後ろを歩くマーリンもローブとフードで身体と頭と顔まで覆い、なるべく洞窟内の熱に晒されないようにしていた。汗をさほどかかないとは言え、長時間溶岩の熱に肌を晒していると、それだけで火傷を負いそうなのだ。
少しでも気を抜くと、洞窟内の熱で視界がぐらぐらと歪み、道を踏み外しそうになる。壁も何もない剥き出しの道の上で足を踏み外したら、一巻の終わりだ。リュカは時折深呼吸をしながら、慎重に馬車を進め、洞窟内の道を探索して行った。
しばらく進み、再び水を少し飲んだところで、リュカは道の先に何かがあるのを見た。熱で歪む視界の中に、明らかに自然の景色とは異なる四角い箱のようなものが置かれている。ルドマンがフローラとの結婚の条件に提示してきた炎のリングというのは恐らく世界に二つとない宝のはずだ。ルドマンの宝物であるフローラとの結婚を認めるためには、世界に二つとない宝を探し、手に入れることが必要なのだと、ルドマンは娘との結婚を望む男たちに向かって強く言い放った。今リュカが目の前にしている箱は、まさしく宝箱だった。人など誰も立ち入ることのない火山の洞窟にぽつんと置かれている宝箱の存在は、それだけで特別なものだと信じるに値するものだった。
「あの中に炎のリングが……」
マントを口に巻きつけながら漏れるくぐもったリュカの声は、他の誰にも聞こえなかった。馬車の後方にいるマーリンは後ろを警戒しながら進み、リュカの姿を見ることもできず、ましてやリュカが目にしている宝箱の存在になど気付きもしない。リュカが何の迷いもなく宝箱に向かい、躊躇なく開けるその時まで、他の仲間は誰一人としてリュカが突然窮地に立たされることに気がつかなかった。
リュカは宝箱に近づき、蓋に手を触れた。蓋には鍵穴があるが、鍵がかかっているかどうかを調べる必要もなかった。リュカが蓋に手を触れた瞬間、宝箱は独りでにその場で飛び上がり、自ら蓋を開けた。そして蓋がそのまま大口となり、ギザギザの凶悪な歯を剥き出しにしながら、リュカに襲い掛かった。
リュカの悲鳴に、仲間の魔物たちが一様に外に飛び出した。見ればリュカは両手で必死に宝箱の口を抑えており、その手は両方とも血にまみれている。馬車の後方にいたマーリンも慌ててリュカの見えるところへ走ってきて、その光景を目にするや、宝箱に向かって呪文を唱え始める。
「こんなところに人食い箱がおるとは……。ピエールよ、リュカをすぐに回復してやれ。あのままでは手が千切れるぞ」
「は、はい」
ピエールが慌てて返事をすると、リュカはようやく人食い箱を投げ出すことに成功し、血まみれの両手をだらりと下げる。ピエールがベホイミの呪文を唱えると、リュカは遠のいていた意識を取り戻すことができた。
マーリンの火炎呪文ベギラマが人食い箱に向かって放たれ、宝箱は一瞬にして炎に包まれた。木製の宝箱は火炎の勢いに包まれ、その中から人食い箱の叫び声が聞こえた。しかししばらくすると炎の勢いは弱まり、焦げた人食い箱が鋭い目をマーリンに向けていた。
「うぐっ、しまった」
マーリンのうめき声が聞こえ、リュカは瞬時に振りむいた。しかしマーリンに異常は見られず、何か呪文で攻撃を受けたようにも見えない。リュカがマーリンに声を掛けようとしたその時、今までに感じたこともないような冷たいものに取り囲まれる雰囲気を感じ、リュカはその場で固まった。
直前まで目の前に広がっていた溶岩の明るさから一転、リュカの目の前には暗黒が広がった。目を開けているというのに、リュカの視界には黒が広がるばかりで、その場から動こうにも、一体自分は今立っているのか座っているのか寝転がっているのかも分からず、指一本動かすこともできない状態だった。動くと言うのはどういうことなのか、今のリュカにはそんなことも分からない。生き死にの区別もつかない。真っ暗闇に包まれ、右も左も上も下も分からず、何も分からない今の状態が死だとすれば、それを受け入れる気持ちがリュカの中に芽生えていた。
『僕が死んだなら、この世界のどこかに父さんがいるはずだ』
死に対する恐怖よりも、リュカは死の世界を旅して父を探して見たいと思い始めた。父に会えたら、まず初めに頭を下げて謝りたい。僕のせいで死なせてしまってごめんなさいと、ずっと心に抱えていた懺悔の言葉を父に伝えたい。それができるのなら、今ここで死んでしまっても悔いはない。
そう考えると、リュカの心と体は更に深い暗闇へ落ちて行く。光りを求めないリュカにとっては、この暗闇もさほど居心地の悪いものではなかった。すーっとどこか分からない場所へ落ちて行く感覚はむしろ心地よいとさえ思えるものだった。
何も感じていなかった身体に、突然、強烈な痛みを感じた。左手に何か鋭い刃物が刺さるような感覚がある。そこから全体に広がる痛みに、リュカは深く沈んでいた暗闇から無理やり引き上げられるのを感じた。
「ガルルッ」
耳元で獣の吠え声が響く。魔物に襲われている途中だっただろうかと、リュカは痛みに歪んだ顔をそのままに、薄眼を開けた。一面、朱に染まる世界の中に、黄色と黒の大きなものが二つの青い宝石を見せている。色合いがきれいだななどとぼんやり見ていたら、黄色と黒と青が一斉に「ガウッ」と獣の声を出し、リュカは面食らってぱちりと目を開けた。
「無事じゃったか」
「ピーピー」
「リュカ、シヌ、ダメ」
「もう大丈夫ですね。では傷を治しておきましょう」
ピエールはそう言うと、プックルが噛みついたリュカの左手の傷を呪文で癒した。徐々に痛みが引き、リュカは少し傷跡の残った左手を軽く振ってみた。手が千切れそうになるほどの痛みはすっかりなくなっていた。
「リュカ殿、剣は持てますか」
ピエールの声は一刻を争うような慌てたものだ。リュカはまだ少しぼんやりとする頭のまま立ち上がると、目の前の戦況を素早く見た。リュカ達の前にはまだ人食い箱がギザギザの歯を見せて構えていた。その口は何事かを呟いている。恐らく呪文なのだろうが、どうやら発動する気配がない。
「マーリン殿が人食い箱の魔力を吸い取り続けています。今の内に我々で倒さねば」
ピエールの言う通り、マーリンが目に見えない呪文を唱え続けている。息をつく間もなくマホトラの呪文を唱え続けるマーリンの体力はそろそろ限界を迎えそうだ。
ピエールが戦線に戻るのと同時に、リュカも剣を握りしめて後を追った。人食い箱は死の呪文ザキだけではなく、鋭いギザギザの歯で噛みつこうとする攻撃力も高い。プックルが素早く飛びかかって攻撃を仕掛けているが、どれも致命傷にはなっていないようだ。ガンドフも力任せに箱を殴っているが、宝箱自体の強度があるらしく、外からの物理攻撃を箱の強度で凌いでいる。
「外からの攻撃じゃダメなんだ」
リュカは父の剣を握りしめると、人食い箱にじりじりと近づいて行った。人間の姿を見たことで、人食い箱の対象は再びリュカ一人となった。魔の力が込められた宝箱は純粋に人間を襲う本能を持っているらしい。
ピエールの剣も箱の金具に弾かれ、人食い箱はほとんど傷を負わない。少しずつ近づいてくるリュカと同じように、人食い箱もじりじりとリュカに近づいて行く。そして攻撃の範囲に入ったと見るや、人食い箱は大口を開けてリュカに飛びかかった。横からプックルが飛んでくるのを目の端に捉えたが、リュカはそれよりも先に手にしていた剣を人食い箱に向かって突き出した。槍のように突き出した剣先は人食い箱の大口の中へ吸い込まれ、何の感触もない箱の暗闇に剣が突き刺さる。手ごたえも何もない攻撃だったが、人食い箱は絶叫し、その場で蓋を全開にしたまま動かなくなってしまった。
絶命した人食い箱は、ただの宝箱に姿を戻していた。恐る恐るその中を覗いてみると、何も入っていないただの箱だった。
「宝箱に魔物が潜むってことがあるんだね」
「何を悠長なことを言っておるんじゃ。お主、死にかけたのだぞ」
「見ていて肝を冷やしました。リュカ殿の身体から魂が抜けかけたのを見ましたからね……」
マーリンの怒鳴り声とピエールの震える声に、リュカは自分が窮地に追い込まれていたのだと改めて知らされた。リュカ自身はただただ暗闇に落ちて行く感覚のみで、そこに恐怖や痛みなどは全く存在しなかった。プックルが左手に噛みついて痛みを感じさせてくれなければ、リュカは人食い箱の死の呪文の餌食になっていたことは間違いない。
しかし死ぬのは案外怖くないのかも知れないと、素直な感想を述べようと口を開きかけた時、リュカは左手にふさふさした毛皮の感触を得た。プックルが頭を擦りつけ、リュカに謝るように左手を舐めた。スラりんとガンドフも近づいて来て、リュカがしっかりと生きているのかを確認するように、心配そうに顔を覗きこむ。
仲間たちのそんな様子を見ていたら、リュカは死ぬのが怖くないなどと口にするのは身勝手なことだと口を噤んだ。死んだら全てが終わる。仲間たちとも二度と会えなくなる。死んだら父に会えるかもしれないと思ったが、それも確証はない。第一、父の遺言である母の救出の目的が潰えることになる。何もかもが終いだ。
そしてリュカは大事なことを思い出した。目の前で人に死なれた後、残された者の悲しみは半端なものではないのだ。死ぬのは案外怖くないなどと軽々しい感想を述べることを、仲間の誰一人として歓迎しないだろう。旅をする仲間のうち、誰が欠けてもならない。
「今度からは宝箱にも気をつけるよ。あんな魔物がいるなんて知らなかった」
「とにかく、お主が生きていて良かったわい」
「この道はここで行き止まりのようですね。別の道を探しましょう」
人食い箱の置かれた場所はちょっとした広場になっており、そこでパトリシアを回らせ、一行は道を引き返した。残された人食い箱の抜け殻は、ただの宝箱として蓋を開け、まるで盗賊に宝物を盗られた後のような格好で静かにその場に残された。



溶岩の海の中に剥き出しになった道を進むこと二時間、リュカ達は逃げ場のない洞窟内の熱に体力を消耗しつつも、何とか先に進む道を見つけた。馬車がやっと通れるほどの道を進んだ先が行き止まりとう言う道を二本ほど進み、道幅が狭いため魔物との戦闘にも苦戦し、洞窟内を進むのにかなりの時間を要していた。ようやく見つけた先に進める道は、更に下へと続く坂道だった。その道はまるで溶岩の海に飛び込んで行くようで、リュカは思わず進むのを躊躇した。今までどんな道でも嫌な顔一つせず馬車を引いてきたパトリシアも、さすがに一度足を止めて首を振ったほどだ。しかしどうにか歩いて進める道だと分かると、リュカはパトリシアの首を撫でて落ち着かせ、下の階層に続く洞窟の探索に挑んで行った。
下りてみると、そこに溶岩の海は広がっておらず、ただでこぼこした地面が広がる普通の洞窟の景色があった。リュカは熱除けのマントを顔から外し、深く息をついた。上の階層よりも数段楽な辺りの空気に、肺の中が一度に浄化されるようだった。仲間の魔物たちも同様に、身体の中に溜まっていた熱を外へ放出するかのように息をついていた。
遥か前方にはまた溶岩の海が広がっており、その明るさがリュカ達のいるところにまで届く。洞窟内の景色は何とか目にすることができる程度の明かりがあった。隆起した地面と壁、仲間の魔物の姿と、その他の魔物の姿が溶岩の明かりを背にしてシルエットとして浮かび上がる。明らかに仲間の魔物ではない、宙に浮く魔物の姿に、リュカはすぐさま剣を手にした。
鳥の類かと思った魔物は、鳥のような羽を持つものの、身体を見ると竜のようで、足がなかった。同じ魔物が四体、重そうな竜の胴体を力強い羽ばたきで宙に浮かせている。大きく鋭いくちばしを見ると、攻撃はくちばしで仕掛けてくるのだろうと、リュカは上からの攻撃に備えて剣を構える。ピエール、プックルもすぐさま戦闘態勢に入り、ガンドフは大きな一つ目でじっくり相手の様子を窺っている。
「マーリン、この魔物は知ってる?」
馬車の荷台から戦況を見守るマーリンに、リュカが声をかける。
「お主ら人間が乱獲するキメラじゃ。そやつらの人間への恨みは深いぞ」
まるで他人事のように言うマーリンの言葉の通り、キメラたちはまるで示し合わせたかのようにリュカを標的として捉えている。人間の町や村で売られているキメラの翼という、旅には欠かせないアイテムの元となっているのが目の前にいるキメラたちである。人間の商売道具となるため、強欲な人間の餌食となって多くのキメラが乱獲されるのは昔からのことらしく、その為キメラたちの意識の中にはほとんど無条件に人間への憎悪が備わっている。
キメラたちの攻撃は、その大きなくちばしでの直接攻撃が主だった。力強い羽ばたきで飛びかかり、鷲のような攻撃的なくちばしを突き出してくる。それを四体のキメラが次々と繰り出してくるため、リュカは防戦一方となってしまった。剣で攻撃しようにも、剣を盾代わりにしか使うことができない。
リュカを襲うキメラの後ろから、プックルが飛びかかる。キラーパンサーの一撃を食らえばさすがにタダでは済まないが、宙を舞うキメラはその攻撃を巧みに避けてしまう。羽を持ち、宙をも自在に移動できる能力は、戦闘において非常に有利な特性だった。手の届かないところに留まられては、直接攻撃のみを得意とするプックルには手も足も出ない。
呪文で攻撃をと思い、キメラに向かって呪文を唱えようとするが、順番に矢継ぎ早に飛びかかってくるキメラの攻撃の合間に呪文を唱えることは不可能だった。リュカはとにかくダメージを最小限にとどめるため、必死に守りを固め、囮になることに徹した。
戦況を見ていたマーリンが、プックルと同じように直接攻撃をしあぐねているガンドフの前に立ち、呪文を唱える。離れたところにいるピエールも同じように呪文を唱え始めている。四体のキメラはそれぞれ呪文の気配に気づき、一度宙高く舞い上がったかと思うと、今度はリュカから離れて標的をマーリンとピエールに絞り、呪文発動前にと勢い良く突っ込んで行く。目にもとまらぬ速さで飛びかかるキメラに向かって、マーリンもピエールもひるまず呪文を唱え続け、リュカも素早く呪文の態勢を取った。
火炎と爆発と真空の刃が入り乱れ、戦闘の場は瞬時に、見たこともないような火炎の嵐に包まれた。そんな嵐に包まれたキメラ三体はたまらず羽の動きを止め、そのまま地面にぼとりと落ちた。すぐさま飛び上がろうとするキメラにプックルが容赦なく飛びかかり、一体のキメラを倒す。残りの二体に、無傷の一体のキメラが「メッキッキ」と鳴き声を上げながら地面に下りて近づき、その大きな羽で仲間のキメラも身体を包むと、仲間の傷が癒されて行くのを、リュカは目の当たりにした。
「回復呪文が使えるのか」
そんな感想を述べている間にも、回復したキメラがすかさず攻撃に転じる。リュカ、ピエール、マーリンの発動した呪文を見て、最も危険を感じた相手マーリンに向かって素早く襲いかかった。無防備になっていたマーリンはまともに一撃を食らい、キメラの鋭いくちばしを防御反応で前に出た腕に受けると、そのまま吹っ飛ぶように宙を横切った。地面に投げ出されたマーリンにリュカとピエールが急いで回復呪文を施そうとするが、先ほど仲間の傷を回復したキメラがそうはさせまいと言わんばかりに飛びかかってくる。リュカの剣とキメラのくちばしがかち合うと、キメラは力を入れてリュカの剣を折ろうとしたため、リュカは慌てて剣を引っ込めた。その間にピエールが素早くマーリンの傷を回復した。
ピエールが仲間を回復する光景は見慣れている。しかし敵となる魔物が仲間の魔物を回復する光景はあまり目にしたことがない。死の火山に来る途中、遭遇したホイミスライムは自らの意思で仲間を回復したと言うよりも、魔物使いの言いなりで回復呪文を唱えていた。仲間を回復すると言う行動は通常、相手を思いやって初めてできることだ。特にキメラは羽を使って飛ぶことができるのだから、もし仲間が傷ついても、回復呪文を施す前にさっさと自分だけ逃げてしまえば自らの命は助かるのだ。それをキメラは至って普通の行動だと言わんばかりに、何の迷いもなく仲間のキメラに回復呪文をかけた。
「魔物の中でも仲間意識が強いのかな」
リュカがそう口にした矢先、回復呪文を受けて傷を癒したキメラが一匹、バサバサと大きな羽音を立ててどこかへ逃げて行ってしまった。キメラという種族が仲間意識の強い種族と言うわけではないらしい。その一方で、回復呪文を仲間に施したキメラは未だ、リュカをじっと見据え、いつ攻撃に出ようかと様子を窺っている。
「色々性格があるんだなぁ」
リュカがのんびりと感想を言っていると、様子を窺っていたキメラがすかさずリュカに飛びかかって来た。他のピエールやマーリン、プックルには目もくれない様子に、やはり人間であるリュカだけを攻撃の対象としているのだと分かる。剣を構え、キメラのくちばし攻撃を跳ね返す。重々しい体重をかけたキメラの攻撃に、リュカはよろめいたが、倒れるほどではない。すぐさま次の攻撃を仕掛けてくるキメラと対峙し、リュカはまるで剣と剣で戦っているような感覚になる。一匹のキメラに集中していて、もう一匹のキメラがいることを忘れていたリュカだが、もう一匹のキメラはピエールとプックルとで対峙していた。リュカに襲いかかろうとするところを二人が止めている格好だ。やはり人間であるリュカだけを狙っているらしい。
「それだけ人間への恨みが深いってことか……」
マーリンが初めに言っていた言葉を思い出し、リュカは思わず溜め息をついた。商売道具のキメラの翼を得るために乱獲されたキメラから見れば、人間ほど極悪な存在もいないのだろう。恐らく無意味に殺されてしまったキメラも多くいるに違いない。そう考えると、リュカはとても目の前のキメラを本気で攻撃する気にはなれなかった。
もう何度目になるか分からないが、キメラのくちばしを剣で跳ね返す。父の剣は古びてはいるものの、切れ味が悪くなっているわけではない。それなのにキメラのくちばしに傷一つつけられないのは、恐らくこの剣もキメラを倒すことを望んでいないのではないかと、リュカはふと思った。
「謝って済まされることじゃないけど……ごめんなさい」
突然キメラに向かって頭を下げるリュカを見て、敵のキメラだけではなく、仲間の魔物たちも面喰らった様子でぴたりと攻撃の手を止めた。キメラに謝り、頭を下げる人間の姿など、彼らは一度たりとも目にしたことがない。
「僕たち人間のせいで、色々辛かったんだよね。人間なんていなければいいって思うのも、無理ないよ」
キメラは決して言葉の分かる魔物ではない。しかし神妙な雰囲気漂うリュカの態度を見れば、言葉が分からずとも彼が一体何をしているのか、少しは通じているようだ。その証拠に残されたキメラ二体は揃って顔を見合わせ、ただ宙でバサバサと羽ばたき、留まっている。
「でも分かってほしいんだ。人間にも悪い人間もいれば良い人間もいる。魔物だってそうなんじゃないかな」
根っから悪い人間も魔物もいないと、リュカは思っている。もし悪い者がいるとすれば、それは環境がそうさせてしまったはずだ。生まれたばかりの赤ん坊に、悪い心は存在しないのは明らかだ。
「僕は魔物の仲間たちのおかげで、魔物にも良い魔物がいっぱいいるって分かったよ。多分、君たちもそうなんだと思う。だって仲間のために回復呪文をかけられるなんて、仲間を思いやらないとできないことだよ」
リュカの目の前にいるキメラは決して自分の傷を癒そうと呪文を唱えたのではなく、仲間の傷を癒したいと思って呪文を発動させたのだ。そしてリュカをじっと見つめているキメラの目は、リュカにはもう魔物の目には見えなかった。暗い洞窟の中で光る赤いキメラの目だが、その目からは戦意が失われつつある。
「仲間が大事だって思う気持ちは僕も一緒だよ。でもその為に意味もなく戦うのは嫌なんだ」
「メキー……」
「戦わなくて済むんなら、それが一番。それで仲間が助けられるんなら、それでいいんだ」
リュカの言葉、雰囲気に、二体のキメラはバサバサと宙に留まりながら再び顔を見合わせる。そして一体のキメラがリュカ達に背中を向けて行こうとすると、もう一体のキメラも続いて飛び去ろうとする。しかしまたリュカ達を振り返り、興味深げにじっとリュカを見つめてきた。
「どうしたの?」
リュカが問いかけると、キメラは赤い目をピエール、マーリン、プックルに移す。人間と魔物が行動を共にするというのはどういうことだと、今さらながらに聞いているようだった。
「魔物だから、人間だからって、それだけで敵になるとは思ってないんだ。さすがに命が危なくなったら戦うけどね」
リュカの言葉に嘘偽りはない。実際にこれまで仲間の魔物たちにどれだけ助けてもらったか分からない。そしてこれからも魔物の仲間に頼って旅を続けて行く。リュカは素直な気持ちで魔物たちに感謝し、仲間が窮地に陥れば死ぬ気で守りたいと思っている。
「通ってもいいかな」
リュカは既に剣を鞘に収めていた。目の前で羽ばたくキメラから既に戦闘意欲が消えているのはリュカのみならず、仲間の魔物も気付いていた。もう一体のキメラもしばらく仲間のキメラをその場で待っていたが、なかなか動きそうもないのを見ると先に洞窟の奥へと飛んで行ってしまった。残されたキメラは変わらずじっとリュカを見つめている。馬車を進めようと思えば進められたが、リュカは真剣に自分を見るキメラの気持ちに応えようと、同じようにじっとその赤い目を見つめてキメラの行動を待っていた。
「仲間になりたがっておるんではないのか」
マーリンの言葉を受けて、リュカは改めてキメラを見上げる。そう言われてみれば、仲間にしてほしそうな目でこちらを見ている気がすると、リュカは思わず微笑んだ。
「仲間にしますか?」
ピエールが問いかけると、リュカは即座に答える。
「断る理由なんてないよ。でも僕の旅はいつ終わるか分からないよ。それでも良ければ……」
「メッキキ」
リュカが言い終わらない内に、キメラは嬉しそうにリュカに近づいた。思わずプックルとピエールが構えるが、リュカが手を伸ばして宙で留まるキメラの頭を撫でると、キメラは笑うようにくちばしを大きく開けた。
「飛べる仲間なんて初めてだな。君、名前はあるの?」
「メッキー!」
「メッキーか。これからよろしくね、メッキー」
「メッキッキ」
軽い挨拶を終えると、キメラのメッキーは道案内でもするかのように、リュカ達の前を飛んで進み始めた。この洞窟に棲息していた魔物のため、洞窟内を熟知しているに違いないと、リュカは迷わずメッキーの後を追って馬車を進め始めた。
進み始めた馬車の中で、ガンドフがピエールとマーリンに水を出していた。器に注がれた水を飲んだピエールが、一息ついてからマーリンに話しかける。
「あのキメラ、メッキーという名前だったのでしょうか」
「さあのう、恐らく違うと思うが、そもそも名前なんてないじゃろうから、問題なかろう」
「名前がないと言うのも不便ですからね。丁度良かったのかも知れません」
「あやつは嫌みのない強引さを持っておるからの。メッキーとやらも名前がつけられてむしろ嬉しかろう」
「あとはメッキーが自分の名前がメッキーだと認識しているかどうかですね」
「しつこく呼び続ければそうと分かるじゃろ。ガンドフ、わしにも水をくれい」
「ハイ、タダイマ」
マーリンに催促され、ガンドフはその大きな手にごくごく小さな器を乗せて水を注ぐ。そしてそれを渡すと、マーリンが一気に飲み干し大きく息をついた。その音を聞きつけたリュカが馬車の中を覗きこみ、「ガンドフ、僕にもくれるかな」と戦闘の疲れを思い出したように水を求めに来た。注がれた水をリュカも一気に飲み干し、再び器に水を入れて、外に持って行ってしまった。
「メッキー、喉は乾いてない?」
「メッキキキ」
宙を飛んでいたメッキーがリュカの声に反応し、素早く下りてきた。器に注がれた水を見ると、恐る恐る顔を近づけて一口飲む。ただの水だと分かると、くちばしを器用に使って水を飲み始めた。
「こんなところにいるんだから、喉も渇くよね。でも水も限りがあるから、勝手に飲んじゃ駄目だよ、メッキー」
「メッキー」
「飲みたい時は一応僕に言ってね、メッキー」
「メッキー」
リュカとメッキーとのやり取りを馬車から見ていたピエールとマーリンは、顔を見合わせて思わず笑っていた。
「もう完全にメッキーじゃな」
「そうですね」
新しく仲間になったメッキーはすっかり信頼してしまったリュカに懐くように背中にもたれかかり、羽を休めたりしている。水を飲み終えたメッキーが再び宙に舞い上がり、洞窟を進み始めると、リュカ達も馬車をゆっくりと前進させた。

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