2017/12/03

炎のリング

 

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いよいよ道の隆起が激しくなり、馬車で進むのがかなり困難な状況になってきていた。しかも溶岩が流れたばかりのような柔らかい地面に、時折馬車の車輪がはまり込み、リュカとガンドフで荷台を持ち上げる作業をせざるを得なかった場面も何度かあった。馬車の車輪を転がすためにも皆が馬車から下りて、洞窟内を時間をかけて探索していた。
ところどころ煮えたぎる溶岩を避けて道を進むリュカ達にとって、進むべき道は数少なかった。洞窟の作りはさほど複雑ではなく、枝分かれした道も少ない。しかし数時間をかけて行った洞窟探索にも関わらず、目的の炎のリングは見つからず、リュカ達は初めに道が枝分かれした場所まで戻ってきていた。すぐ目の前に溶岩がぐつぐつと煮えたぎっており、リュカは仲間の魔物たちに馬車の中で待機するよう指示を出すのと共に、自らもマントで顔の大半を覆い溶岩の熱を凌いだ。パトリシアの鞍の上に乗っていたスラりんも鞍が熱を持ってしまいその場にいることができなくなったようで、馬車の中へ避難している。代わりにそこには仲間になったばかりのメッキーが羽を休めるために乗っていた。溶岩洞窟に棲息していたこともあって、溶岩の熱を特に問題としていないようだった。
「メッキー、君はこの洞窟に住んでどれくらいになるのかな」
リュカの問いにメッキーは首を小さく傾げ、不思議そうにリュカを見つめている。言葉を持たないメッキーにとって、答えようがない問いだったようだ。リュカは目の前に広がる溶岩地帯をぼんやりと見ながら再び問いかける。
「この洞窟って他に道はないのかな。ここに炎のリングがあるのは間違いないと思うんだけど……」
今まで進んできた道を振り返るリュカを見て、メッキーも同じように道を見渡す。そして思い至ったように唐突に宙に羽ばたくと、「メキー」と高い声を上げて溶岩の広がる道なき道の上を飛んで行こうとする。洞窟は確かに奥へと広がっているようだが、ぐつぐつと煮えたぎる溶岩が道を阻み、それこそメッキーのように宙を飛んでいかなければ先へ進むことはできない。
一人で先へ行こうとするメッキーに、リュカは慌てて呼びかけた。
「メッキー、ちょっと待って。先に道があるってこと?」
「キッキ」
リュカの声に振り向いて、メッキーは「そうだよ」と言うように返事をした。煮えたぎる溶岩は道いっぱいに広がり、とても歩いて進むことはできない。万が一リュカや魔物の仲間が進めたとしても、パトリシアと馬車にこの溶岩地帯を進ませることは到底できない。リュカがパトリシアの顔を見ると、さすがの彼女も首をうなだれ、「さすがにこれはちょっと……」と言わんばかりに首を横に振った。
「参ったな、どうやって先に進もう」
後ろで逡巡しているリュカに気付き、メッキーは下に広がる溶岩を見下ろすと、ゆっくりとリュカの所まで戻って来た。馬車の中にいた仲間の魔物たちも状況に気付いたようで、皆が顔を覗かせる。
「どうしたのですか、リュカ殿」
「この先に道が続いてるらしいんだ。でもこれじゃあ先に進めないよね」
道いっぱいに広がる溶岩の景色に、ピエールのみならず仲間の誰もが言葉を出せない状況だ。ここを歩いて渡ろうとする者は先ほど戦った炎の戦士のような魔物くらいしかいないだろう。
「メッキーのように飛べる奴しか進めんと言うわけか」
「ルーラを唱えても……行き先が分からないとルーラも使えないか」
「メッキメッキ」
メッキーがリュカの目の前で羽ばたくと、羽を休めるようにそのまま地面に降りた。リュカに背中を向けたまま後ろを振り向き、もう一度声をかける。
「背中に乗れって?」
「そのようですね」
「僕を運んでくれるってこと?」
「ッキ」
そう返事をしたメッキーは早く早くと言わんばかりに羽を動かす。リュカはメッキーの首にしがみつくようにその背に乗ると、メッキーは力強く羽ばたき、そのまま宙に浮いた。リュカくらいの重さであれば問題なく背に乗せて飛べるようだ。
「助かるよ、メッキー。じゃあお願いできるかな」
リュカの言葉を待たない内に、メッキーは溶岩の道の上を飛び始めていた。直接的な溶岩のダメージはないものの、道の上の熱された空気に晒されるだけで、リュカは体力を消耗しそうだった。メッキーにしがみついているため、マントで肌を覆うこともできない。火傷しそうなほど熱い空気に、リュカは時折息を止めつつ、噴き出してくる汗が目に入りつつも、メッキーの首に必死にしがみついていた。
溶岩の道を渡り切ると、リュカはその場に座り込んだ。この溶岩洞窟に棲んでいたメッキーはまるで平気な様子で、リュカの様子を確認もせずに先に進もうとする。
「ちょっと待って、メッキー。仲間のみんなも一緒に行かないと、さすがに僕とメッキーだけじゃこの先危険すぎるよ」
「ッキ?」
「できたらみんなもここに連れて来てもらえるかな」
リュカが座り込んだまま地面を指差しそう言うと、メッキーは心得たと言わんばかりに再び溶岩の道を飛んで行った。リュカはマントで身体を包み、熱から身を守るように膝を抱えて待っていると、メッキーはピエールとマーリンを同時に連れて飛んできた。溶岩の上を飛ぶメッキーの背で、ピエールもマーリンもぐったりした様子で熱された空気に耐えている。
「あとスラりんとガンドフとプックルだけど……」
そう言いながら、リュカはメッキーの身体であの二匹を運んで飛んでくるのは無理だろうと思った。メッキーの身体に対して、ガンドフもプックルもさすがに重すぎる。
「プックルは溶岩の道の上を自力で行こうと試みていましたが、さすがに私たちが止めました。向こうで留守を頼んできましたよ」
「そうだね、ガンドフもちょっと来られないもんね」
「スラりんはパトリシアを守るのは自分の役目だと、自ら残ると言い出しよった」
「そっか、いつもお願いしてるもんね、スラりんには……。じゃあこの先は僕たちで行ってみよう。メッキー、この先の道も分かれば教えて欲しいんだけど、いいかな」
もうリュカの言葉は雰囲気で分かるらしく、メッキーは羽で胸を叩いて「任しておけ」と言わんばかりに返事をした。そしてリュカ達を先導するように、前をバサバサと飛んで行く。
大きな空洞だった場所を抜けると、また前方に溶岩のオレンジ色が見え、リュカはそれだけで体力を削がれたような気分になってうなだれた。しかしよく見ると道は二つに分かれており、もう一つの道は普通に歩いて行ける固まった溶岩の道のようだ。前を飛ぶメッキーがどちらに進むのか、リュカは祈るような気持ちで「左、左……」と心の中で唱えていた。
するとメッキーがリュカ達の方を振り返り、二つに分かれた道の前で問いかけるような声を上げた。メッキーにもこの先の道は分からないのだろうかと、リュカは首を傾げる。
「右側の道に進めば、一度体を休められるようです」
ピエールにはメッキーの言葉が分かるらしく、リュカにその意味を伝える。右側の道にはまた煮えたぎる溶岩が道いっぱいに広がり、とても体を休められる雰囲気は感じない。
「どういうこと?」
「さて、私にもよく分かりませんが……」
ピエールも首を傾げながらそう答えた時、ふと魔物の気配が近いことを感じ、リュカは後ろを振り返った。見ると数人の人影らしきものが見え、リュカはそれが洞窟内を探索する他の人間かと思い、思わず声を掛けようとした。しかし五体の人影は皆同じ動きで、まるで隊列を組むかのように揃った足並みでリュカ達の方へと向かって来る。そこに人間のような意思はなく、ただ前にいる敵を倒すことだけを考え行動しているような、無機質な表情が真っ青な顔に浮かんでいる。目鼻口がついているものの、恐らく話す余地はないだろうと、リュカはその表情を見るなり魔物との会話は諦めた。
「ランスアーミーじゃ。さっきの空洞の場所にいたんかのう」
「こちらに向かってきますよ。どうしますか、リュカ殿」
「どうしますかって、できることなら逃げたいんだけど、どうしよう」
そう言いながらも、リュカ達は既に後ろに溶岩の道が迫る場所まで追い込まれてしまっていた。逃げるにしても、ぐつぐつと音を立てる溶岩の道を行かなくてはならない。
「とりあえずピエールとマーリンは先にメッキーに運んでもらって。僕は後から行くから」
「一人で残るなど危険すぎます。マーリン殿を先に運んでもらい、私とリュカ殿を一緒にメッキーに運んでもらいましょう」
「でもそうしたらマーリンが……」
「向こうでは体を休められるんじゃろ、メッキー」
「ッキッキ」
「では一足先に体を休ませてもらうぞい。お主ら二人で頑張るんじゃぞ」
マーリンはそう言うなり、メッキーの首にしがみついてさっさと溶岩の上を飛んで行くようメッキーに催促した。素早い行動が必要だと急いだのか、単にこの場から逃げられれば良かったのか、マーリンがどう考えたかリュカは考えないことにした。考える間もなく、マーリンはメッキーに連れられ溶岩地帯の上を飛んでいき、リュカとピエールの前にはランスアーミーたちが迫ってきていた。
ランスアーミーの手には使い古した槍が握られている。手入れされていない敵の武器を見て、リュカは少しだけ敵に対する警戒を緩めた。五体が隊列を組むように並ぶ姿はまるで軍隊だが、肝心の武器に対してはさほど関心がないらしい。
「ピエール、呪文で一気に……」
リュカが横を向いてピエールに話しかけた瞬間、ランスアーミーの槍がリュカの顔面すれすれを通った。鋭い風を感じたリュカは思わず飛び退り、瞬間的に間を縮めていたランスアーミーの素早さに息を呑んだ。
「呪文を唱える余裕がないようです」
そう言うピエールも、言葉を続けられない内にランスアーミーの攻撃を食らっていた。いくら切れ味の鈍い槍でも、目にも止まらぬ速さで何度も突き出されてはさすがにたまらない。まるで鉄の棒で突き出されるように、ピエールは鈍い音と共にでこぼこした地面に投げ出されていた。後ろに迫る溶岩地帯の熱を間近に感じ、ピエールは慌てて起き上がる。ピエールの緑スライムが後ろに迫る溶岩を一瞥し、「溶けたくない……」と呟く。
呪文を唱えることを早々に諦めたリュカは、手にしていた父の剣だけで戦うことにした。しっかり馴染んでいる父の剣は、まるでリュカの手のように自在に動く。しかし敵のランスアーミーは五体。ピエールと二人で戦うには余りにも不利だ。
ランスアーミーの動きは素早く、槍の手入れはしていないものの、その動きはかなり訓練されたものなのだと感じた。五体が無闇に一度にかかってくることはない。どこに焦点が定まっているか分からないような目をしているが、その目は明らかにリュカだけを狙っている。まずは人間を仕留めてやろうという意思が、その目からはっきりと読みとれた。
リュカは先ほどのキメラとの戦闘と同様に、囮に徹することにした。リュカが完全に防御態勢になったのを見たピエールがリュカの意図を察し、すかさず呪文の構えを取る。リュカがひたすら父の剣を盾にしてランスアーミーたちの攻撃を受ける中、目の前で大爆発が起こった。リュカの周りに群がるようにいたランスアーミーたちが皆、爆風に吹き飛ばされ、リュカの前から遠ざかった。その隙にリュカはすかさず呪文を唱え、身体の周りに見えない守護の壁を作る。スカラの呪文を唱えたリュカは、分厚い衣に包まれた感覚と共に、再びランスアーミーたちの攻撃の的になるべく前に進み出た。
父の剣でも身体を交わしても避けきれない攻撃も、衝撃こそ身体に伝わるが、直接身体に傷を負うことはなくなった。多少の痛みには耐えながら、リュカは防戦一方だった戦い方から、相手の隙をついて剣を振るい始めた。時間をかけながらも一体、二体と倒して行き、合間にピエールの唱えるイオラの呪文が炸裂し、ランスアーミーたちは後方へと吹っ飛んで行った。その都度リュカとピエールは前に進み、ランスアーミー達との距離を縮めると共に、後ろに迫る溶岩地帯から徐々に離れて行った。
ようやく五体目のランスアーミーを倒した頃には、リュカの体力もピエールの魔力も底をついていた。その場にぐったりと座りこむリュカと、微動だにしなくなったピエールの後ろから、「ッキッキ」と声が聞こえる。このタイミングで他の魔物との戦闘など無理だと、リュカはその場で死んだふりでもしようかと思い、ごろんと地面に寝そべった。天井を見上げた途端に目が合ったメッキーに、リュカは力なく微笑んだ。
「そうか、メッキーか。おかえり」
「メッキッキ」
早く行くよと言わんばかりのメッキーに、リュカは力を振り絞ってメッキーにしがみつく。しかしピエールにはその力も残されていないようで、必死にメッキーに乗ろうとするもののすぐにずるずると落ちてしまう。リュカはぼろぼろになりかけているマントを広げると、その中にピエールを包み、自分の腰に縛り付けるようにして固定した。
「これで何とか行けるかな」
「今の私はまさしくお荷物ですね……」
風呂敷にでも包まれた気分のピエールが、明らかに気落ちした様子でリュカのマントの中からくぐもった声を出した。
「何言ってるの、ピエールがいなかったら僕はとっくにあの溶岩に投げ出されてるよ」
「こんなところで魔力を使い切ってしまうとは、ふがいないことです」
「大丈夫、どうにかなるよ。とりあえず先に進もう」
「ッキ」
リュカの言葉に返事をしたメッキーが、溶岩地帯の上をバサバサと飛び始める。リュカはメッキーにしがみつきながらも、時折片手でピエールを抑え、冷や汗だか何だか分からない汗をかきながら溶岩のぐつぐつ煮える景色を見下ろしていた。



「先に休ませてもらっておるぞい」
マーリンの元気な声が聞こえ、リュカはメッキーに連れられてきたその場所の光景に目を疑った。今までの熱く煮えたぎる溶岩の明るい景色からは一変、涼やかで清浄な空気に満たされた広場が目の前に広がっていた。そこにはオレンジ色の溶岩の代わりに、見た目にも青く冷えた水の景色があり、リュカはその景色を見るだけで身体の疲れが取れるような気がした。
広場の中心には、青白く光る柱のようなものがあり、マーリンはその柱の中にいた。しばらく目を瞑り、じっとしていたマーリンだが、ゆっくりとその青白い柱から出ると、今までの戦闘での疲れなどどこにも残っていないような雰囲気でリュカとピエールを見遣る。
「お主らもはようここで癒しを受けるがいい」
「それって、何?」
「さあのう、わしにもよう分からん。しかし体力も魔力もみるみる回復することだけは確かじゃ」
「不思議な場所ですね、こんなものがこの世にあるとは……」
メッキーにも促され、リュカとピエールは同時に青白い柱に向かって進んで行く。近づくにつれ、今まで溶岩の熱に当たった体が気持ちよく冷えて行くのを感じる。それはたとえば、もし今まで息も凍るような場所にいたのだとしたら、温かで心地よい空気を感じさせてくれるのだろうと、リュカは目の前にある青白い柱をじっと見つめた。魔物であるマーリンやピエールにも、人間であるリュカにも同じように癒しを施すこの不思議な空間は一体どうやって生まれたのか、リュカにはその起源が想像できなかった。
青白い透明の柱の中に足を踏み入れると、乾ききった体の中にみるみる水が満たされて行くのを感じた。魔物との戦闘や溶岩の熱さで疲れてぼんやりとしていた意識が徐々にはっきりとしてきて、視界も明るくなるのを感じる。水を飲んだわけでもないのに、まるで冷たい小川の水を存分に飲み、溶岩洞窟で熱された体ごと小川に浸かったかのような気持ちの良い感覚に、リュカは今までの疲れをすっかり忘れてしまった。それはピエールも同じのようで、癒しの光を受けたピエールの緑スライムは心なしか一回り大きくなったように見えた。もしかしたら溶岩洞窟の熱で、緑スライムから少し水分が蒸発していたのかも知れない。
青白い清浄な空気に包まれたこの空間に、魔物の気配は全くなかった。しかしもしこの場所で魔物に遭遇したとしても、恐らく戦闘にはならないだろうと思えるほど、戦いの雰囲気にそぐわない場所だった。この場所自体が、戦いや争いと言ったものを拒絶している、リュカはそんな空気をこの場所から感じていた。
「馬車に水を置いて来ちゃったから、ちょうど良かった。助かったよ、メッキー」
「ッキッキ」
「この先もまだまだ道が続くかも知れません。メッキーに馬車に戻ってもらって、水だけでも持ってきてもらいますか?」
「いや、あの水は持ち運ぶには重すぎるよ。この場所をあまり離れない範囲で、また道を探してみよう」
癒しの光の柱があるこの空洞には、溶岩洞窟ではまるで期待していなかったため池のような水場もあった。リュカは一度その中に入って頭まで浸かると、再び洞窟探索のため、この癒しの空洞を出ることにした。
「とりあえず来た道を戻るしかないよね」
「分かれ道がありましたよね。あちらに進むしかないでしょうね」
「まだ向こうにあやつらがいなければいいがのう」
再びメッキーに溶岩地帯を運んでもらい、リュカ達は先ほどランスアーミーたちに襲われた道にまで戻った。そこには既に魔物たちの姿はなく、リュカは一先ずほっと胸を撫で下ろす。
「あっちの道だね。行ってみよう」
体力も気力も回復したリュカは、サラボナの町を出てからの疲労をすっかり拭い去り、足取りもしっかりと道を歩き始めた。進む道は複雑なものではなく、一本道が伸びるだけだが、どういうわけか進む先からオレンジ色に照らされる道の様子に、リュカは嫌な予感がしていた。洞窟の中に差し込む日の光、という救いの明かりではなく、恐らく道の先に広がるのはまた溶岩地帯なのだろうと、まだ水に濡れるマントを身に纏わせながらリュカは慎重に進んで行った。
予感は的中した。それどころか、状況はリュカが想像していた以上のものだった。オレンジ色に照らされていた道は下り坂となり、進んだ先には一面溶岩となる景色が広がっていた。道は続いているものの、細々とした道で、一人がようやく通れるようなものだ。目に眩しい溶岩の赤々とした景色に、リュカは目を細めながら道を進む。マントに含んだ水分が一気に蒸発して行く。先ほど、癒しの空洞で体力を回復していなかったら、引き返していたかも知れないような道だった。
道は一本道で、ぐつぐつと煮える溶岩に向かって行くような下り坂が続く。ぼこぼこと泡を立てる溶岩の音が徐々に近づいてくる。通常の人間であればとても進んで行かないような道だからこそ、リュカは先に進んで何があるのかを確かめたかった。
オレンジ色に染まる視界の中、前に伸びるでこぼこした道は行き止まりになっているのが分かった。道の先は溶岩に阻まれ、その先に道が続いているようにも見えない。完全な行き止まりだ。しかし溶岩に阻まれた道の手前に、溶岩が固まって自然にできたと言うよりは、何者かが意図的に置いたような岩があった。周りの景色に比べてあまりに不自然なその岩に向かってリュカは迷わず進んだ。
岩の手前に来たリュカは、まるで何かの台座のような岩の一部分に文字が彫り込まれているのを見た。しかし刻まれているその文字は古代のもののようで、リュカには読めなかった。刻まれる文字のすぐ脇には、誰かの手によって作られたようなくぼみがあり、その中に小さな赤い宝石が埋め込まれていた。
「指輪……なのかな、これ」
リュカが赤い宝石に手を伸ばすと、長い間迎えに来る者を待っていた炎のリングはリュカの目の前で目も眩むような光を放ち始めた。リュカは咄嗟に目を覆い、光が止むのを待ってからゆっくりと目を開けると、台座の上には赤い宝石をつけた指輪が静かに置かれていた。
「封印されておったようじゃが、特に合言葉なんぞは必要なかったようじゃな」
マーリンの言葉にリュカは頷いて、台座に置かれた炎のリングを恐る恐る手に取った。温かいとも冷たいとも何も感じないリングだが、赤い宝石をよく見てみると、宝石の中でまるで生き物のように小さな炎が揺らめいていた。それはこの炎のリングが壊れでもしない限り、永遠に生き続ける炎なのだろう。
「リュカ殿が探し求めていたものはこれですか」
「うん、間違いないよ。こんな珍しいもの、世界に二つとないと思う。ルドマンさんはこれを探せって言ってたんだ」
「全くとんでもない注文をつける人間がおったもんじゃ。これを探しに来た人間が他におったら、皆とんでもない目に遭うとるじゃろうな」
マーリンがそう言うなり、リュカははっと息を呑んだ。この死の火山洞窟の入り口付近で会ったアンディに、あれから一度も会っていない。これまでの道のりを考えても、アンディが一人でこの場所まで来られるはずがない。いくら運に恵まれていても、せいぜい魔物から逃げるのが精一杯だろう。
「アンディを探さないと。僕らがこれを見つけたってことは、アンディはまだここに来ていないはずだよ」
リュカは手に入れた指輪をとりあえず指にはめた。道具袋に入れるには小さ過ぎて失くしてしまいそうだったからだ。そして急いで来た道を引き返そうと、後ろを振り返った。
その時、背後から凄まじい音が聞こえ、リュカたちは何事かと慌てて指輪のあった台座を振り返る。すると台座の向こう側に広がる溶岩地帯が、まるで巨大な生き物のように盛り上がり、赤い波を生みだしていた。それは目の前の一か所に留まらず、その両脇にもそれぞれ生まれていた。合計で三か所の溶岩地帯が盛り上がり、そこから真っ赤な巨大岩が溶岩を被りながら姿を現した。巨大岩には顔があり、鋭いその目はリュカ達をじっと見下ろしている。
「どうりで簡単な封印じゃったわけか……」
これまでにも、もしかしたら炎のリングのあるこの場所まで辿りついた冒険者はいたのかも知れない。しかし炎のリングに触れ、持ち去ろうとした途端、現れる封印の魔物である溶岩原人に倒され、この場で散った冒険者も数知れないのだろうと、リュカは赤々とした巨大な岩の魔物の姿にそう想像した。
溶岩原人の声が洞窟内に響いた。しかしその言葉は台座に書かれていたような古代の言葉で、リュカたちは一切その言葉が分からない。何かを言われているだけなのかも知れないし、何かを聞かれているのかも知れない。しかし内容が全く分からないリュカには、その言葉に答えようがなかった。しばらくの沈黙の後、溶岩原人たちは溶岩の海を進み出てきて、リュカ達のいる台座のある地面の上に飛び乗って来た。巨大な岩が地面に飛び乗る衝撃に、まるで洞窟全体が揺れるような震動を感じた。間近に迫る溶岩原人の熱で、リュカは息が詰まりそうになった。
来た道を振り返れば、そこにも溶岩原人が立ちはだかっていた。逃げる道も残されず、リュカ達は炎のリングの守護者とも言えるこの溶岩原人三体と対峙しなくてはならなくなった。煮えたぎる溶岩から出て来たばかりの溶岩原人の赤々とした体に、リュカは手にしていた剣を向けるものの、果たして剣で戦える相手なのだろうかと一瞬悩む。しかしそんな隙も与えないかのように溶岩原人は突然口から炎を吐き出してきた。
正面の一体の攻撃を避けたかと思えば、今度は横から同じように燃え盛る火炎が迫る。その炎は人間であるリュカのみならず、ピエール、マーリンも同様に標的として捉えていた。宙を舞うメッキーも、一人別行動を取るものの、三体いる内の一体の溶岩原人がすかさず攻撃をしかけてくる。炎のリングを取りに来た者全てを、溶岩原人は敵とみなし、逃がさず、攻撃をしかけてくるようだ。そこに人間だ魔物だと言う区別は一切ない。
三体の溶岩原人が容赦なく燃え盛る火炎を吐くため、リュカ達のいる場所は炎の海とも呼べる状況だった。とても攻撃をしかけられる余裕はない。ひたすら炎の熱から身を守ろうと、マーリンは吐き出される炎からどうにか逃げ回り、リュカとピエールは数回にわたって回復呪文を唱えていた。
「こんなんじゃ、とても持たないよ」
「とにかくどれか一体を倒さないと……三体揃って炎を吐かれてはどうすることもできません」
「じゃあまた僕が囮になるから、ピエールとマーリンで呪文を……」
「危険過ぎます。囮になった瞬間に炎に包まれたら、回復が間に合いません」
リュカとピエールが会話をする間にも、溶岩原人は容赦なく火炎の息を吐いてくる。二人の間に飛び込んできた炎の帯に、リュカとピエールはすかさず離れて炎をかわした。しかしそれでも負ってしまう火傷に、リュカもピエールも素早く回復呪文を施さなくてはならない。せっかく癒しの広場で体力も魔力も回復してきたばかりだが、これではすぐに両方とも尽きてしまいそうだった。
その時、頭上から炎の力を弱めるような冷たい空気を感じた。上を見上げると、メッキーがリュカ達に向かって冷たい息を吐いている。空中をも行動範囲にできるメッキーは状況を察し、リュカ達に向かって冷たい息を吹きつけ、炎の熱から守ろうとしたようだ。通常であれば肌が凍るような氷混じりの息だが、盛んに火炎の息を吐かれる戦闘の場ではその火炎の威力を半減してくれた。
「メッキー、君もガンドフみたいな息が吐けるんだね」
「メッキッキ」
返事をするメッキーに向かって、すかさず溶岩原人の火炎の息が吐き出される。メッキーはひらりと身を交わして炎を避け、再びリュカ達に向かって冷たい息を吐き出した。リュカは存分に冷たい息を全身に浴びると、凍りつくマントを盾代わりに、溶岩原人への攻撃に転じた。ピエールもマーリンも鎧やローブを凍らせ、各々呪文の構えを取る。
リュカは一か八か剣で切りこんでみた。岩のように硬いものだと思っていた溶岩原人だが、意外にも剣は溶岩原人の一部を切り裂いた。溶岩の熱に溶けるかもしれないと思った父の剣も、特殊な製法で作られているのかは分からないが、熱で剣が使いものにならなくなることはなかった。体の一部を切り裂かれた溶岩原人は轟くような悲鳴を上げ、その口からは再び火炎の息が漏れ出していた。
すぐさま後ろから迫る他の溶岩原人の火炎の息から身を翻したリュカを見て、今度はピエールがイオラの呪文を炸裂させる。爆発を受け、溶岩原人たちの身体の一部が割れて、周囲の溶岩地帯へ飛び散り沈んで行った。何を以ってしてこの溶岩原人を倒すことができるのか分からないが、とにかく剣や呪文での攻撃が有効だと分かった以上、リュカ達は息をつく間もなく攻撃を仕掛けて行った。
メッキーが吐きかける冷たい息を全身と剣に浴び、凍りついた剣を溶岩原人に振るって攻撃をしかける。魔力を無駄にしないためにも、ピエールも呪文は極力唱えず、リュカと同じような攻撃で溶岩原人に向かって行った。マーリンは得意とする火炎呪文での攻撃を試みていた。赤々とした溶岩原人に火炎攻撃は無効かも知れないと思いつつ、目くらまし程度にはとマーリンはベギラマの呪文を敵の目の前に放ち続けていた。
もう何度目になるか分からない攻撃をしかけようと、リュカが溶岩原人に向かって駆け出した時、頭上から大きな悲鳴が上がった。溶岩原人二体の炎をまともに受けたメッキーが、全身に火傷を負ってたまらず地面に落ちて来た。冷たい息でずっと応戦していたメッキーが溶岩原人の集中砲火を浴びてしまったのだ。
「メッキー、大丈夫?」
呼びかけに反応をしないメッキーに、リュカは慌てて回復呪文を施そうとする。しかし溶岩原人が追い打ちをかけるように容赦なくリュカとメッキーに向かって燃え盛る火炎を吐き出してくる。息も絶え絶えのメッキーを抱きかかえたまま、リュカはとにかく炎を避けることしかできなかった。
メッキーの冷たい息を浴びなければ、溶岩原人への攻撃を仕掛けることもできない。ピエールもメッキーの回復をしようと機会を窺っているが、三体の敵が順に吐き出す炎はその隙を与えず、リュカもピエールも回復呪文を唱えられずにいた。
その時、リュカは目の前の溶岩原人の溶岩の色が赤々としたものから少し黒みがかったように色が変わるのを目にした。それと同時に、溶岩原人から感じていた肌を焼くような熱もかなり落ち着いたように感じた。そして自分が抱きかかえるメッキーではなく、違う場所から冷たい息が溶岩原人に向かって吐き出されるのを見た。
リュカが後ろを振り返ろうとした瞬間、すぐ横から一陣の風のように飛びだす影が見え、それは果敢にも溶岩原人に向かって飛びかかって行った。見た目にも温度の下がった溶岩原人は、動きも鈍くなり、突っ込んでくる虎のような敵の攻撃をまともに食らった。目に爪の一撃を食らった一体の溶岩原人は視界を閉ざされ、攻撃の手をしばし止めざるを得ない状況だ。
「プックル!」
「がう」
見ればプックルだけではなく、スラりん、ガンドフも戦闘に加わっていた。後ろにはパトリシアの姿も見え、リュカはこれが夢なんじゃないかと何度も瞬きをした。
「一体どうやってここまで……」
「リュカ殿、危ない!」
状況を飲み込めないリュカの一瞬の油断の隙に、他の溶岩原人の吐き出す燃え盛る火炎が迫りくる。しかしその火炎は、マーリンが放ったベギラマの火炎に向かう方向を変えられ、リュカとメッキーを焦がすことはなかった。
「確認は後じゃ。今はとにかく集中せい!」
マーリンの大声にリュカはすぐに現実に戻り、抱きかかえるメッキーに回復呪文ベホマを施した。たちまち回復したメッキーはすぐに宙に舞い上がり、すぐさま冷たい息を溶岩原人に向かって吐き散らす。それに応戦するように、ガンドフも同じように冷たい息を吐き出し、溶岩原人の持つ熱を奪って行く。氷になど出遭ったこともないであろう溶岩原人は、メッキーとガンドフの吐き出す冷たい息に動きを鈍らせ、口の中に溜めこむ火炎の威力も弱まって行くようだった。
この機を逃す手はないと、リュカ、プックル、ピエールが一斉に一体の溶岩原人に向かって攻撃を仕掛けた。剣で切りこまれ、爪で薙がれ、爆発で溶岩の身体を部分的に破壊され、溶岩原人たちが徐々に弱まって行くのが分かった。その上、回復の手段を持たないようで、ガンドフとメッキーの吐く冷たい息の力で、赤々とした溶岩の色が次第に黒ずんで行き、その色は元には戻らず、冷えて行く溶岩原人にプックルが容赦なく直接攻撃を仕掛けて行った。
とどめを刺そうと、リュカとプックル、ピエールが各々目の前にいる溶岩原人に攻撃をしかけようとした時、最後の力を振り絞った溶岩原人が三体揃って燃え盛る火炎を吐き出して来た。リュカの傍にいたマーリンが咄嗟に放ったベギラマが、リュカに襲いかかった火炎を押し返しはしたものの、ピエール、プックルは目の前に迫った火炎を避けることもできずにまともに食らってしまった。
その事態にリュカが気付いたのは、目の前の一体の溶岩原人を仕留めてからで、見ればピエールとプックルは炎に巻かれ、地面の上をのたうちまわっていた。頭上からすぐに冷たい息が吐き出され、メッキーの息でピエールとプックルを包んでいた炎は消されたものの、二人ともその場に倒れたままぴくりとも動かなくなってしまった。
まだ二人とも生きていると信じ、リュカはピエールに、メッキーがプックルに回復呪文ベホイミを施す。癒しの光を受けてもしばらく起き上がらなかったピエールとプックルだが、回復呪文が効いたのを目にして、リュカはほっと胸を撫で下ろした。
すぐに残りの溶岩原人二体に向き直ると、そこにはリュカ達に背中を見せるガンドフの姿があった。大きな熊が溶岩に向かって行くような姿に、リュカはそこにガンドフの怒りを感じた。リュカのすぐ傍で「ピキー!」とスラりんの大きな声が聞こえたかと思うと、直後、溶岩原人の身体の色が更に黒ずんで、もうほとんど熱を感じないほどになった。メッキーやガンドフのように冷たい息を吐いたわけでもないスラりんに、リュカは思わず不思議そうな顔をした。
「ルカナンの呪文じゃ。やつらの防御力を下げたんじゃろ、スラりん」
「ピッ」
スラりんのきびきびした返事を耳にしたかと思うと、リュカは洞窟内を揺るがすような激しい音と震動を感じた。それはガンドフが大きな腕を振り回して溶岩原人を殴りつけた音だった。その一撃で、弱っていた溶岩原人はその場に倒れ、もう起き上がることはなかった。残りの一体もその状況を見て焦りを感じたようで、溶岩の奥へと移動を始めたが、ガンドフがすぐに冷たい息を吹きつけ相手の動きを封じ、そして容赦なくまた殴りつけた。黒く固まりかけた溶岩と化した魔物は、その衝撃に粉砕し、周囲の溶岩に落ちた。魔物としての命を終え、溶岩の一部となったようだ。
戦いの音が止み、辺りは溶岩の流れる音だけが残された。戦いの最中は周りの溶岩の熱を忘れていたリュカだが、戦いが終わると途端に体を焼くような溶岩の熱を肌に感じ、すぐさまマントで全身を覆った。ところどころ熱で火傷を負っているようで、肌がひりひりと痛かった。
どうしてもマントから出てしまう足に、プックルがぴたりと寄りそってきた。いつもなら温かく感じるプックルの毛皮も、溶岩の熱の前ではむしろ熱を遮断してくれるようだった。
「ところでどうやってここまで来たの? まさか溶岩の上を歩いてきたわけじゃないよね」
リュカはプックルの赤いたてがみを撫でながら、誰にともなくそう問いかける。
「スラりん、ジュモン、アルケタ」
先ほどまでの凶暴な熊のような印象はどこへやら、いつもの優しげな状態に戻ったガンドフが簡単に説明する。その言葉を聞いてマーリンがは感心するような声を出してスラりんに確認した。
「お主、トラマナの呪文が使えるようになったのか」
「ピィ」
「トラマナ? その呪文で溶岩の上も平気なの?」
「体に害になるような地から少しだけ体を浮かすことのできる呪文じゃよ。溶岩もそうじゃが、毒の沼なんかからも身を守れるはずじゃ。スラりん、一体どうやって覚えたんじゃ」
マーリンが不思議そうに首を傾げると、スラりんも同じように体を傾けて不思議そうな顔をした。スラりん自身、どうやってトラマナの呪文を覚えたのか分からないのだろう。ただ目の前に広がる溶岩地帯をどうにかして進みたい一心で、スラりんは訳も分からず念じている内に、その身体が浮き上がったのかも知れない。スラりんが呪文を構成する時は常に強い意思が働くが、それは呪文を覚えようという意思ではなく、目の前のことをとにかくどうにかしたいという純粋なものなのだ。
「スラりん、その呪文って今も使えるのかな」
「ピィピィ」
任しておけと言わんばかりのスラりんの自身に満ちた返事に、リュカは顔を輝かせる。
「それならこの洞窟をまた歩いて戻れそうだね。一度あの涼しいところに戻って、それから……」
「洞窟入り口付近で会った人間を探すんですね」
「うん、だって炎のリングは僕が見つけたから、もう探す必要はないよって教えてあげないと。無暗にこんな洞窟を歩き回っても危険過ぎるからね」
「無事だったら良いのですが」
「そうじゃのう、何とも頼りなさそうな若者じゃったからのう」
「きっと大丈夫だよ。魔物と戦うのは向いてなさそうだったけど、こんなところにまで来られたんだからとんでもない強運の持ち主なんだよ、アンディは」
明るくそう言うリュカだが、内心では最もアンディの身を案じていた。彼が強運に恵まれていることは確かだが、この洞窟に来るまでに運を使い果たしてしまったかも知れない。しかし彼には生きていてもらわなくてはならない。もし自身の結婚の条件で旅立った若者が命を落としてしまったと知ったら、あのフローラという令嬢の悲しみは底知れぬものとなるだろう。
リュカは今、炎のリングを手に入れている。右手の指に光る炎のリングは、周囲の溶岩の熱にも負けないほどの熱い炎をその宝石に宿している。それはフローラとの結婚の許しを得るための条件であり、もう一つの条件である水のリングを手に入れれば、フローラと結婚することができる。
リュカは急いで馬車で来た道を戻り始めた。一刻も早くアンディを見つけなくてはならない衝動に駆られた。たとえ炎のリング、水のリングを手に入れても、それはあくまでフローラとの結婚の条件というだけで、そこに結婚する者同士の心は考慮されていない。このままではただ機械的に結婚するようなものだ。右手に光る炎のリングを見つめながら、リュカは本来これを持つべき者は自分ではなくアンディなのではないかと、思わずにはいられなかった。しかしリュカがリングを見つけなければ、恐らくアンディもリングを見つけることはできなかっただろう。彼一人であの溶岩原人に打ち勝つのは、どれほどの運を使っても成し遂げられるものではない。
リュカが目的とするのはあくまでも天空の盾なのだ。サラボナに無事戻ったら、そのことをルドマンに正直に話し、炎のリングを渡した上で盾を譲り受けられるかどうか話してみようとリュカは馬車を進めながら考えていた。そして無事アンディを見つけ出し、彼を連れ帰った上で、ルドマンに彼こそがフローラの結婚相手としてふさわしいことを説明しようと、リュカは結婚というものについて初めて真剣に考え始めていた。
結婚とは、ラインハットで見たヘンリーとマリアのような強い絆で結ばれる関係を言うのだと、リュカはフローラに対するアンディの強い想いを今さらながらに感じていた。魔物との戦闘などほとんど経験がないに等しい彼が、死ぬ気でこの死の火山に辿りつき、諦めずにリングを探すその想いには到底敵わないだろうと、リュカはフローラとの結婚からは退く意思を固めつつあった。

Comment

  1. ケアル より:

    bibi様。
    お盆休みイベントで、ケアルの中で、以前の作品を読み返そう週刊であります~。

    改めて、炎のリング関係の4作品を読み返して、さすがでありますよ!

    アンディとの心情の遣り取り、爆弾岩のメガンテの恐怖と、人食い箱のザキでのリュカの致命傷。
    でも、滝の洞窟でも、同じような呪文でビアンカに迷惑かけたような?あれはメダパニだったでしょうか?。

    メッキー仲間入りのリュカのメッキー名前付けには笑顔が、こぼれました。

    やはり、熔岩魔神との戦闘には、思わず、手元の飲み物をこぼしそうになりましたぁ(汗)

    回復場所に行ったメンバーだけでは、勝てそうにない状態で、なんと待機組のガンドフ、スラリン、プックルが参戦してくるとは、読み手をハラハラさせてくれますな。

    その中でも、スラリン!
    まさか、トラマナとルカナンが使えるなんて…。
    スラりんが居なかったら、おそらく棺桶状態になっていたかもしれませんね。

    ゲーム本編でも、ここは何度もリセット確定場所…。
    眠気が飛ぶ描写でありましたぁ!

    燃えさかる火焔連発は、難易度マックスで、全滅を何回、喰らったことか…。

    メッキーとガンドフの冷たい息と、プックルの戦闘力がなければ、勝てなかったかもしれませんね。

    bibi様。
    スラりんのルカナンとトラマナは、今後、使えそうですね!。

    • bibi より:

      ケアル 様

      お返事遅れまして申し訳ございません。
      過去作品をお読みいただいて、誠にありがとうございます。
      私は到底過去の作品を読む気にはなれないのですが(いろいろと怖いので^^;)、繰り返しお読みいただくのはとてもありがたいことです。
      何といっても、ゲーム自体がとても楽しく、のめりこんでプレイしたものなので、それをどう楽しく真剣に表現できるかが私のやりたいことです。
      あくまでもゲームそのものを主体に、どこまで小説で再現できるか、それを今もどうにか続けています。
      それができるのも、ケアルさんのように温かいコメントを下さる方がいらっしゃるからです。本当にありがとうございます。
      炎のリングのところは、溶岩原人との戦いが何といってもメインでした。スーファミのゲームで何度も全滅させられたあのボス戦は今でも心に残っています。
      スラりんは最終的にしゃくねつも覚えるので、補助呪文も合わせて主力を任せられそうですよね~^^

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