魔界に通じる道?

 

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チゾットの村の大吊橋から望めたグランバニアの景色は、今は全く見ることができない。チゾットからの下山を始めているリュカたちだったが、辺りに山からの眺望はなく、ひたすら暗い洞窟の中を進んでいる。グランバニアを行き来する旅人たちも使う洞窟のためか、登山時と同じように壁には転々と燭台の名残が見られる。しかし旅人も少なくなった今では燭台が使われることもなく、風化して下に落ちているものもある。それが年月による風化だけのものなのか、魔物に壊されてしまったのかは分からない。
洞窟内は広い空洞で、リュカたちの馬車も難なく進むことができる。しかもまだ分かれ道に遭遇せず、一本道を行くだけのため、リュカたちは今までに経験した洞窟探索よりは楽な旅になるかも知れないと、淡い期待を抱いていた。
ところどころ階段があるが、旅人や商人が使う馬車を通すための坂道もあり、リュカはパトリシアを連れて坂道を下りていた。下り坂で早足になるパトリシアを手綱で抑えつつ、自分も軽い足取りで坂道を下りていく。今のところ魔物にも遭遇せず、グランバニアへの下山は至って快調に進んでいた。
「道に迷わなくて済むのは助かるわね。この調子でグランバニアに着きたいものだわ」
「油断は禁物です。今はまだ魔物に遭遇していませんが、いないというわけではないようです」
「そうじゃろうなぁ。一体どんなヤツが待ち構えておることやら」
マーリンが軽い口調でそう言った傍から、リュカたちの周りに魔物の気配が立ち込める。馬車はチゾットで貰ってきたランプを灯して進んでいるが、その明かりはリュカたちの行く先を照らすとともに、魔物にも見つかりやすいという弱点を持つ。案の定魔物に見つかり、キキッという魔物らしい声が聞こえた。
魔物の気配はするが、その姿を見つけるまで少し時間がかかった。敵は体が小さく、まるで人間の子供くらいの大きさしかない。手には槍ではなく食事で使うフォークのようなものを持っている。背中には蝙蝠のような翼を生やし、表情はまるでいたずらでもしそうなふざけたものだ。敵を挑発するかのように、舌を出してニヤニヤしている。
「マーリンがおかしなことを言うから遭っちゃったじゃないか」
「なんじゃなんじゃ、ワシのせいか?」
リュカがじとりと睨んでも、マーリンはリュカのそんな表情すら楽しんでいる。
「逃げられそうだったら逃げたいけど、この洞窟にはそういう場所もなさそうだね」
明かりが届く範囲しか見渡せないリュカだが、探索する洞窟がただの空洞に近いことは感じる空気などで察することができる。分かれ道がないのは探索には助かるが、魔物との戦闘を避けるには少し不便だ。
「仕方がない、戦おう。相手は何人だろう」
「見たところ、小さいのが五体にキメラのようなものが二体いるようです」
「小さいのはミニデーモン。あれでも魔族じゃ。上のはメイジキメラかのう。ちょっとした呪文を使うかも知れん」
「マーリンは本当によく知ってるよね。助かるよ。じゃあこっちも呪文で牽制しながら戦うのがいいかな。あ、メッキー、無理して突っ込んでっちゃダメだよ」
「ッキッキー!」
「そういえばマッドも飛べるんだったね。マッドも無茶して飛んで突っ込んじゃダメだよ」
「ぐおんぐおーん」
勢いがあって無茶をしそうな二人に注意をすると、すぐさまリュカは攻撃態勢に入る。リュカの隣にはプックルが姿勢を低くして唸り声を上げている。初めて見る魔物の姿に、リュカは慎重に相手の様子を探ろうとするが、相手も子供のような顔をしたままリュカたちの様子をうかがっているようだ。そのうち、一体のミニデーモンが武器である大きなフォークを地面に突き立て、呪文の構えを取った。聞き覚えのある呪文の文句に、リュカは思わずビアンカを見た。ビアンカが戦闘中によく唱えるメラミという火炎呪文だ。姿形は子供の用に小さいが、すでに中級程度の火炎呪文が使用できるようだ。
ミニデーモンが唱えたメラミの呪文が洞窟内を照らす。馬車ごと入れる洞窟はそれなりの広さがあるが、チゾットの村を目指した時、プックルが倒れかけた時に通ってきた洞窟に比べればかなり小規模だ。道も一本道で、リュカは先に続く下り道をメラミの呪文の明かりで確認することができた。
「みんな、あっちに向かって進みながら戦おう。道が続いてる」
リュカが大声でそう言うと、仲間たちは敵の動向を窺いながらも洞窟内の様子を見渡す。洞窟内の一本道は奥へ奥へと続き、下り坂になっているのが見える。
『みんな、相手は悪い魔物じゃないよ。攻撃しないで』
リュカの声で発せられる声に、リュカが驚く。仲間たちは不思議がりながらも、リュカの声による指示のため、敵と思っていた魔物は悪い魔物じゃないのかもしれないと思う。リュカたちの仲間になりたい新しい魔物なのかも知れないと思い、油断する。しかしその油断の隙に、ミニデーモンがメラミの呪文をピエールに飛ばしてきた。剣を構えつつも、少し油断したために、ピエールはメラミの呪文を食らい、緑スライムがその熱さに叫び声をあげる。
『呪文は絶対に使わないで。魔力は残しておいて』
リュカの声も口調も真似て、ミニデーモンが面白いようにリュカの仲間たちに指示を出している。それに気づいているのはリュカだけだ。仲間たちはただリュカがいつも通り、戦闘の指示を出しているのだと思っている。リュカがこれからの下山に備えて魔力を残せと、回復呪文すら使うなと指示しているのだと信じて疑っていない。ピエールは真面目にその指示を守ろうと、メラミの痛みに耐え、回復呪文を唱えようとしない。二体のミニデーモンがメラミの呪文を唱えかけているのを見て、リュカは慌ててピエールの傷を呪文で癒した。
「リュカ殿、呪文を使うなと……」
「死んじゃったら元も子もないだろ。それに僕が呪文を使うなって言ったんじゃないよ。あいつが……」
リュカが最後まで伝える間もなく、ミニデーモンのメラミが飛んできて、リュカもピエールもその場を離れざるを得なかった。子供のような見た目だが、ミニデーモンは意地の悪そうな顔をして色々と悪だくみを考えているようだ。リュカと他の仲間たちにまともな会話をさせないため、リュカを孤立状態に追い込んでいる。ミニデーモンたちが初めリュカたちの様子をじっと窺っていたのは、誰が指揮者なのかを見極めていたらしい。
『この魔物は遊びたいだけなんだ。だからちょっとだけ遊んであげようよ』
「リュカ、遊ぶにしてもメラミを唱えてくるのよ。大丈夫なの?」
『大丈夫だよ。この魔物は悪い魔物じゃないから』
ミニデーモンのなりすましぶりはかなり上手なもので、少ししか観察していないリュカの言葉遣いをほぼ完璧に使いこなしていた。それ故に、ビアンカですらも、疑わし気にしながらも面と向かって反論することがない。魔物と遊ぶということはどのようにすれば良いのか、真剣に考え始めている。
「ビアンカ、違うよ。こいつらは遊びたいんじゃない。僕たちを倒そうとしてるんだ」
『ビアンカ、よくこの子たちを見てよ。こんなに可愛い魔物が人間を倒そうなんて考えるわけがないよ』
「一体どっちなのよ、リュカ! まるで反対のことを言ってるじゃない!」
『子供みたいな魔物に、悪い魔物はいないよ』
『もっと近づいてよく見てごらんよ。可愛くてとても倒そうなんて思えないよ』
「近づいちゃダメだ、ビアンカ!」
『こんなに暗いんだから、近づかないとよく見えないだろ?』
『五人も可愛い魔物がいるんだ。近づいて見たくなるだろ?』
「……いい加減にしろ!」
ミニデーモンたちがリュカの次にビアンカを標的にしたと分かり、リュカは激高した。リュカの怒鳴り声に、仲間たちの空気に緊張感が張り詰める。
「ふざけるのもいい加減にしろよ、お前ら! 見た目が子供だからって容赦しないからな!」
リュカはこめかみの辺りにピリピリとしたものを感じながら、剣を握る手に必要以上の力を込める。そしてそのままミニデーモンの群れに単身突っ込んでいった。リュカが走り向かう最中、一体のミニデーモンが楽し気にメラミの呪文を飛ばしてきた。リュカは全身にその炎を浴びながらも、炎の中を突っ走る。リュカのあまりの怒気に、ミニデーモンのみならず、リュカの仲間たちもその場を動けない。リュカは怒りのまま剣を振るい、あっという間に一体のミニデーモンを倒してしまった。そして全身に怒気を孕んだまま、近くにいるミニデーモンをぎろりと睨む。
「大事な仲間を騙すなんて、卑怯なことは許さない」
静かで暗く低いリュカの声に、ミニデーモンは声真似することも忘れ、震えながら武器の大きなフォークを前に出し、リュカの体を突こうとした。敵の気のない攻撃をリュカは剣で打ち払い、返す剣でミニデーモンを斬る。悲鳴を上げるミニデーモンに、どこからか回復呪文が施され、ミニデーモンの傷は小さなものになる。暗い洞窟の中に、リュカは頭上にはばたく敵の気配を感じ、そこに向かって剣を勢いよく振り上げた。ギャアッと言う魔物の悲鳴と共に、近くの地面にぼとりと魔物が落下した。メイジキメラが受けた傷を治そうと、必死に自分に回復呪文をかけている。
『リュカっ、やめて! 魔物が可哀そうじゃない!』
「えっ? 何? 私の声?」
『傷を治してあげてよ。そんなに可哀そうなことをしないでっ』
「私、そんなこと言ってない……」
ビアンカはそう言うと、突然リュカが怒り出した原因に気づいた。リュカも同じように、あのミニデーモンという子供の姿をした悪魔の魔物に声を真似され、自分の声で自分の意志とは違うことを言われたのだ。自分の声で仲間たちが攪乱されたことが、悔しかったのだろう。
「リュカ! 疑ってごめんなさい。やっぱり戦っていいのよね!」
『戦っちゃダメだよ。こんなに可愛い子たちを……』
「黙れ! ビアンカ、戦うんだ。こいつらはそこらの魔物よりもタチが悪い」
「みんなも安心して! いつものリュカだわ。さあ、私たちも戦いましょう」
リュカとビアンカのいつものやり取りを聞いて、魔物の仲間たちもようやくいつもの調子を取り戻した。プックルが喜び勇んでミニデーモンに飛び掛かる。ようやく心置きなく戦えるといった雰囲気で、プックルはミニデーモンを前足で思い切り突き飛ばした。ピエールも剣を振るい、マーリンも呪文を唱える。ガンドフもリュカの怒りを同じように感じたのか、目を三角にして怒りながら、ミニデーモンの群れに突っ込んでいく。
マッドは今までのやり取りなど一切気にしていない様子で、大口を開けて宙に飛ぶと、高見の見物を楽しむメイジキメラにがぶりと噛みついた。そのまま至近距離でヒャドの呪文を食らい、氷の刃を右頬に受け、痛さに叫び声をあげてメイジキメラを離してしまう。しかし空中で痛さに暴れるマッドの尻尾に当たり、メイジキメラが一体暗闇の中へ飛んで行ってしまった。メッキーも同じように宙を舞い、メイジキメラに体当たりで攻撃する。同じキメラ属だが、メイジキメラは攻撃呪文を使う。メッキーはヒャドやギラの呪文を食らいながらも、傷を治しつつ攻撃の手を休めない。メイジキメラも回復呪文は使えるものの、キメラのベホイミには及ばないホイミが使えるだけだ。攻撃を受け続けるとホイミでは追いつかないほど傷が深くなる。メッキーが嘴で攻撃をすると、メイジキメラも嘴で応戦する。同じ傷を作っても、メッキーの方が治す術には長けているのだ。メイジキメラが攻撃呪文でメッキーを攻撃しようとすると、咄嗟にプックルが宙に飛び上がり、メイジキメラを鋭い爪で引っ掻いた。地面に落ち、必死に回復呪文に切り替えようとしたところで、ピエールが剣でメイジキメラにとどめを刺した。
いつもの連携で次々と敵を倒す中、一体のミニデーモンが目の前に大きなフォークを立て、じっと目をつむって集中している。いち早く気づいたマーリンが、その気配に目を見開き、仲間たちに大声で呼びかける。
「おい、とんでもないものが発動されるかも知れん。逃げるんじゃ!」
「マーリン、メラミならどうにかなる……」
「違う、メラミではない。もっと、とんでもない呪文じゃ」
マーリンの言葉に、リュカは呪文の構えを取るミニデーモンに目を凝らす。一心に集中して、真剣に呪文を唱える姿は、ミニデーモンに見えず、まるで大魔導士にでも出遭ったかのような錯覚を覚える。前に立てる大フォークが呪文の波動をびりびりと感じて、地面から浮き上がる。リュカはすぐ近くで同じようにミニデーモンを見ていたビアンカの手を引っ張ると、彼女の体を包み込んでミニデーモンに背中を向けた。その瞬間、洞窟内に閃光が走り、空洞内の空気が一気に凝縮された。しかし、それだけだった。呪文を唱えたミニデーモンががっくりと項垂れているのを目にして、リュカは呪文が失敗したのだと分かった。
「まだ子供じゃから、上手く使いこなせなかったようじゃの。やれやれ……」
冷や汗を垂れているマーリンも、リュカと同じようにミニデーモンに背を向けて呪文に耐えようとしていたようだ。
呪文に失敗したミニデーモンは、再び同じ呪文を試みようとしたが、その隙をリュカたちが与えるはずもなかった。最も近くにいて、無防備にその様子を見ていたマッドが足元のミニデーモンを蹴飛ばした。
『いたいじゃないかっ、何するんだよっ』
リュカの声を真似して言っても、もう誰もリュカの言葉だとは思わない。声があまりにもそっくりなため、躊躇することはあるが、惑わされることはない。マッドは首を傾げながらも、今度は尻尾を振り回して、ミニデーモンを洞窟の暗闇に吹っ飛ばしてしまった。
その後洞窟の中に静けさが戻り、魔物の気配もいくらか遠退いたため、リュカは他の魔物が来ないうちにと、スラリンに呼びかけて馬車を少しずつ進めることにした。他にも魔物の気配があり、炎で洞窟を照らしてみると、遠くでミニデーモンたちの集団が動いているのが見えた。しかし魔物の群れはリュカたちに気づきながらも、近づいてくることはなく、何やらじっと耳を澄ませている。そして唐突に悲鳴を上げたかと思うと、洞窟の暗闇ではない、魔法がかった暗闇の中へと消え去ってしまった。その暗闇を見ているだけで、リュカもビアンカも、魔物の仲間たちも体中に悪寒が走るのが分かった。言葉にできない恐ろしさが、その暗闇にはあった。
「一体何なんだろう、あれは」
「見ちゃいけないものを見た気がするわ……」
「消えてしまいましたね」
「ミニデーモンは悪魔の子じゃから、もしかしたら悪魔の親分にでも呼び出されたのかも知れんのう」
「あの暗闇の先にいるの?」
「恐らくの」
「じゃあ、あれって……魔界に通じてるってこと?」
リュカはそう言いながら、消えてしまった暗闇があった場所をじっと見つめた。リュカが目指している場所は、母が連れ去られたという魔界なのだ。もしミニデーモンがあの暗闇を通じて魔界に行けるのだとしたら、自分も同じように行けるのかも知れないと、そんな思いが頭の中をよぎった。
「あの向こうに、母さんがいるかも知れない……」
そう言いながら、消えてしまった闇に向かって歩き進もうとするリュカを、ビアンカが腕をつかんで止める。
「リュカ、落ち着いて。あの闇があなたを無事に魔界へ連れていくとは限らないわ。私たちは人間なのよ」
「母さんも、人間だよ。母さんは魔物に連れ去られて魔界に連れていかれた。きっとあの闇を通じて……」
「そんなこと分からないじゃない。もっとちゃんとした方法を探しましょう。あまりにも無謀すぎるわ」
「嬢ちゃんの言う通りじゃ。ワシら魔物ですら、魔界と言うものを知っておるのは少数なんじゃ。現に、ワシも知らんしのう」
「そう言えば、私も知りません。我々魔物も、必ずしも魔界で生み出されているわけではないということですね」
魔物は世界各地に出没しているが、そのすべてが魔界で生まれているわけではない。魔界と言う世界は魔物すべてを統べる世界ではあるが、魔物すべてが住んでいる世界ではない。魔物らは魔界と言う世界に閉じ込められているだけなのだ。それ故に魔物たちは人間の住む地上を荒らし、ゆくゆくは地上すべてを魔物の世界にしてしまおうとしている。
「みんなも知らないんだね……」
リュカは魔物の仲間たちがいるというのに、魔物の仲間たちに魔界のことについて聞くことを忘れていた。それだけ仲間たちは魔物ではなく、ただ純粋にリュカの仲間たちなのだ。そこに魔物だの人間だのと、区別はない。
「とにかく今はグランバニアを目指しているんだから、このまま向かいましょう。さっきの魔物の闇に飛び込むよりも、お義父さまがいたグランバニアに向かうのが確実だわ。グランバニアに着けばきっと、もっと新しいことが分かって、お義母さまにもぐっと近づけるはずよ」
ビアンカの言う通り、父と母のいたグランバニアに行けば、リュカの知らなかったこと、知りたかったことがたくさん待ち受けているに違いない。父と母の過去に触れることもできるだろう。そこから母が連れ去られた魔界についての情報を得ることもできるかも知れない。当時、父と話すことのなかった話を色々と聞けるかも知れないのだ。
「……そうだね。ごめん、僕……」
「焦る気持ちは分かるわ。でも焦らずに行きましょう」
「ぐるるる……」
ビアンカの隣で、プックルも心配そうにリュカを見上げている。チゾットの村に向かう時の戦いでリュカに一命を取り留められたプックルは、今は反対にリュカが死んでしまうことを懸念している。もしリュカがあの魔物の生み出した闇に飛び込もうとしていれば、恐らくプックルも後ろから本気で止めにかかっただろう。
「グランバニアに向かうよ。闇雲に突っ込むのは良くないよね」
「そうそう、分かってくれて良かったわ」
「がうがうっ」
リュカはスラリンに話しかけ、再び馬車を動かし始めた。洞窟内に魔物の気配こそするが、近くにはいないようで、リュカたちはガラガラと車輪の音を立てながら、緩やかな坂道を下って行った。



長い長い下り坂を下ると、大きな空洞の中に出た。これまでは一本道が続き、道に迷うこともない洞窟探索が続いていたが、この空洞の中はそうもいかない雰囲気がありありと漂う。
馬車が通る坂道の隣には、幅の広い階段があり、階段を下り切ったところにリュカは何やら足元に違和感を感じた。地面が不自然に凸凹しており、馬車も不必要にガタンガタンと大きな音を立ててその場所を通る。ビアンカがランプで照らすだけだが、そこに何か模様のようなものが刻まれていることは誰の目にも分かった。
よく足元を見ようとした時、リュカたちは洞窟の中に人の気配がするのを感じた。グランバニアとチゾットを結ぶ洞窟内、他に旅人がいてもおかしくはない。もしグランバニアに向かう旅人がいるのだとしたら、その人についていけば道に迷うこともないと、リュカたちは人の声のする方へと馬車を進め始めた。
「リュカ、他の旅人さんと合流するのはいいんだけど、この子たちはどう説明するの?」
ビアンカが言うのは魔物の仲間たちのことだ。普通の感覚で考えれば、人間は魔物を恐れる。リュカの仲間たちを見たら、旅人は一目散に逃げるか、戦いを挑んでくるかも知れない。
「あ、そうか。ちょっとの間だけ、馬車の中に入ってた方がいいかな」
「……パトリシア、頑張れる?」
ビアンカの気遣わし気な声に、パトリシアはブルルルッと鼻息を荒げる。任せてと言わんばかりの彼女の気迫に、ビアンカはパトリシアの鬣を優しく撫でた。この旅の一番の功労者はもしかしたらパトリシアなのかも知れないと、ビアンカは彼女の静かな苦労を労った。
気配のする人間は何やら大きな声で「ああ、びっくりした」と騒いでいる。魔物にでも遭遇したのだろうかと、リュカは馬車を進めるのを速める。早足で洞窟内を移動しながら、隣を歩くビアンカがふと思い出したように呟く。
「階段のところに紋章があったわね。あれってグランバニアのものかしら?」
「紋章?」
「ほら、階段を下りたところ、地面がでこぼこしていたでしょ? あれ、鳥みたいな模様が彫られていたのよ。きっとグランバニアの紋章だと思うわ」
リュカにはよく見えていなかったが、ビアンカは自分が手にしていたランプの明かりでその模様をしっかりと見てきたらしい。それでもその模様が鳥のようなものとしか分からなかった。以前、旅人が頻繁に行き来していた平和な時代には、洞窟内も明るく照らされ、その紋章がはっきりと旅人の目に映っていたのだろう。
「グランバニアはもうすぐ近くってことよね。何だか元気が出てきたわ。頑張っていきましょう」
洞窟内に彫られたグランバニアの紋章は、旅人を元気づけるのもその目的の一つなのかも知れないと、リュカはビアンカを見ながらそう感じていた。グランバニアへの目印と、旅人の加護を祈るのと、様々な目的のためにこの洞窟内にグランバニアの紋章が彫られている。リュカはそんなグランバニアの心に触れ、ふっと自然に笑みが零れた。他者を思いやり、勇気づけるその目的に、父の優しさを感じた。
気配のしていた人間に近づき、リュカは仲間たちに馬車の中に入るよう声をかけた。馬車の荷台はかなりの広さがあるとは言え、新しく仲間になったマッドが入ると中はすし詰め状態だった。パトリシアの足取りが当然のように重くなる。しかし上り坂ではなく、微かに下り坂になっていたため、パトリシアもいくらか楽に馬車を引くことができているようだ。
ガラガラと音を立てながら近づいてくる人間の旅人に気づいた旅の商人は、この暗い洞窟の中でも場違いなほどの人当たりの良い笑みを浮かべてリュカに近づいてきた。
「いやはや、えらい目に遭いました。あなた、これ以上先に進まない方がいいですよ」
「どうかしたんですか? 先に何があるんですか?」
「何があるって、それは……」
「ちょっと、リュカ、見て。外よ!」
ビアンカに言われ、リュカは慌てて振り向き見る。遥か遠くではあるが、真っ暗な洞窟内に小さな白い点が見える。まだ外の景色を望むことはできないが、恐らくあの白い点の先には外の景色が広がっていることは間違いなさそうだ。
そしてビアンカの声で馬車の中にいた魔物の仲間たちが俄かに騒ぎ出す。騒ぐ仲間は明らかに魔物の声を出し、それを抑えようとする仲間は言葉を話している。絶対的に奇妙な状況に旅の商人もすぐに気づき、怪訝な表情で馬車を見ている。そして馬車の中にいる魔物の仲間の内、今にも馬車の外に顔を出し、外の様子を見ようとしているのがリュカにもビアンカにも分かった。馬車の幌からちらちらと竜の翼が見え隠れしているのだ。
「リュ、リュカ、外の景色を見てみましょうよ。もしかしたらもう山のふもとまで下りてたりして」
「そ、そうかも知れないね。じゃあ、失礼します」
「あっ、だからそっちは……」
旅の商人の言うことも耳にせず、リュカとビアンカは急いで馬車を引いて洞窟の先に見える白い光に向かって進み始めた。旅の商人は首を傾げながら、「まあ、いいか」と言いながらリュカたちとは反対の洞窟の暗がりの中へ入っていった。
馬車を進めていたリュカたちだったが、気が付けば馬車は下り坂を下りていた。しかも下り坂の傾斜がみるみる急になり、パトリシアが必然的に駆け足で走っている。リュカが必死になって手綱を掴み、速度を上げるパトリシアを抑えようとするが、パトリシアの力と、魔物の仲間たちが乗る馬車の重みで加速する馬車を、リュカ一人の力ではどうにもすることができない。
「みんな、馬車から降りてー!」
馬車のかなり後方を走るビアンカが危険な状況を察知し、馬車の中にいた魔物の仲間たちに声をかけた。真っ先にプックルが馬車後方に飛び出し、メッキーが飛び出し、ガンドフが転がり出てきた。必死になっていたパトリシアの表情がいくらか和らぐが、馬車の速度が落ちたわけではない。一番大きな仲間、マッドの姿がまだ外に出てこない。パトリシアの手綱を持つリュカは、馬車の中で必死にマッドに降りろと呼びかけているピエールとマーリンの声を耳にした。しかし当のマッドはまるで疾走する馬車を楽しんでいるのか、陽気に「ぐおんぐおーん」と言うばかりで、一向に下りる気配がないようだ。
「マッド! 頼むから一度下りてくれ!」
リュカが大声で呼びかけても、マッドは馬車の幌から前方を見つめて、目を輝かせてこの状況を楽しんでいる。前方に見える白い光はもう目の前まで迫っている。パトリシアも必死になって足を踏ん張っているが、急坂と馬車の重みとで、止まることはできない。
「メッキー! 外を見てきてくれ!」
リュカは走りながらメッキーに指示を出す。メッキーも状況の悪さを理解し、パトリシアよりもずっと早い速度で、洞窟の外の光に向かって飛んでいく。外の状況がチゾットの村のように一面が雪で覆われていたら、馬車は滑り、運が悪ければ谷底へ落ちてしまいかねない。外に出られるのは今の場所を確認するには良いかも知れないが、この速度で外に飛び出すのはあまりにも危険すぎる。
前方で外の景色を見るメッキーの姿がしばし止まっていた。そしてくるりと振り向くと、「ッキー!」と悲鳴にも近い声を上げた。
「リュカ殿! どうにかしてください!」
「僕だけじゃどうにもならないんだよ!」
「マッドよ、楽しんどる場合じゃないんじゃ! 下りんかい!」
馬車の加速の原因となるマッドを下ろさないことには、走る馬車を止められない。マッドは仲間たちの激しい言葉の応酬にようやく事態を察知したらしく、突然真面目な顔をして一つ頷くと、馬車後方の出口から翼をバサバサと広げ、軽やかに飛び出していった。ようやく馬車が軽くなり、パトリシアは歯を食いしばりながら四本の足すべてに力を込めて馬車を止めようとする。リュカもパトリシアの前に立って、彼女の巨大な身体を洞窟内へ押し戻そうとする。
その時、リュカは背中に日の光を浴びたのを感じた。外に出たのだ。後ろの状況を見ようと振り向くが、その瞬間に足元から地面がなくなった。地面ぎりぎりのところで踏ん張るパトリシアだったが、先に落ちてしまったリュカが握る手綱に首をぐいっと引っ張られ、前足を一歩、崖から踏み外す。
「スラリン、スクルトを唱えて!」
「ピキー!」
リュカに言われた通り、スラリンはパトリシアの首にへばりつきながらスクルトの呪文を唱えた。パトリシアと馬車が防御呪文に包まれ、そして馬車は崖を落ちた。スクルトの効果が及んでいるとしても、とてつもない衝撃に襲われるだろうと、リュカは落下しながらもう一度パトリシアにスカラの呪文を施した。
唐突に落下が止まった。地面に着いたわけではない。リュカもパトリシアもまだ宙に浮いている。今度は落下ではなく、上に向かって強い力で引っ張られ、リュカは手綱にぶら下がる格好になった。パトリシアも四本の足をばたつかせて、まるで空を飛んでいるかのようだ。
手綱に掴まりながら、リュカは上を見上げた。パトリシアの引く馬車の荷台の後ろで、青い翼がバッサバッサと強い羽音を響かせている。空を飛べるマッドが、馬車の荷台を掴んでパトリシアもろとも宙に浮かばせているのだ。マッドの力がそこまでのものだとは思っていなかったリュカは、驚きのあまり思わず手綱に込めていた手の力を抜いてしまった。
「あっ!」
短い悲鳴と共に、リュカのみ落下し、地面に落ちてしまった。幸いにも地面は近く、リュカは両足を踏ん張ってどうにか着地することができた。しばらく両足が痺れて動かなかったが、怪我もせずに下に降りることができた。
続いてパトリシアも崖の下の地面に降りてくる。まるで天翔ける天馬のような軽やかな足取りで地面に降り立ち、その後ろで馬車の荷台がドシンッと荒々しく落ちてきた。どうやらマッドがパトリシアが無事に下りたのを見て安心したのか、唐突に荷台から手を離してしまったようだ。怪力のマッドとしても、さすがにパトリシアと馬車の重さには参ったのかも知れない。しかしスラリンのかけたスクルトの呪文の効果もあって、馬車はどこも傷むことなく、今後の旅にも事なきを得た。
「マッド、ありがとう」
「ぐおーん」
「……しかしマッドが原因でこうなったような気もしますが……」
「とんでもないスリルを味わったぞい。しかしぎりぎりで言うことを聞いてくれて良かったわい」
ピエールとマーリンも荷台から顔を出し、言葉を交わす。二人が必死にマッドに呼びかけ続け、それに応えるようにしてマッドは馬車の荷台を掴んでいたらしい。二人が呼びかけるのを諦めていれば、今頃馬車の荷台は木っ端微塵になっていた可能性もある。
「リュカっ!」
上からビアンカが叫ぶ声が聞こえる。リュカが見上げると、空にメッキーがはばたく姿があり、崖の上でガンドフとプックル、そしてビアンカがリュカたちを覗いている姿があった。プックルが崖を下りようと足を踏み出しており、リュカの顔にぱらぱらと石の欠片が当たった。
「プックル、ちょっと待って。一人ずつマッドに運んで……」
リュカが言い終わる前に、プックルは待ちきれないといった様子で、崖を真っ逆さまに走って下りてきた。元々山の中に暮らしていたプックルとしては、これくらいの崖を下ることに恐怖を感じないらしい。日常の一部とでも言わんばかりの余裕のある表情でリュカに近づいて足元に擦り寄った。
「じゃあ、マッドはガンドフを、メッキーはビアンカを運んできてくれるかな?」
リュカの指示に、マッドもメッキーもすぐに翼をはためかせて飛んでいく。ビアンカはメッキーの背に乗るようにして、ガンドフはマッドの大きな足に尻を乗せ、手でマッドの両手を掴む。メッキーは最後まで慎重にビアンカを運び、ゆっくりと地面に下ろしたが、マッドは詰めが甘く、ある程度の高さからガンドフを離してしまい、ガンドフは座ったような恰好のままドシンと地面に尻もちをついた。ガンドフは目を痛そうに目を細めて、自分でベホイミの呪文を尻にかけていた。
「商人さんも落ちたのね。確かにあの場所まで戻るのは大変かも……」
そう言いながらビアンカは先ほどまでいた崖の上を見上げる。一人一人が上に戻るには、マッドとメッキーの力を借りればどうにかなりそうだったが、パトリシアと馬車を上まで戻すのは不可能に近い。マッドの怪力をもってしても、さすがに上まで馬車を引き上げることはできないだろう。
「ここからまた洞窟の中に入れる道が続いているようですね。他の道を探ってみますか?」
「そうするしかないよね。まだまだ山のふもとまでは下りてないようだし」
大分山を下ってきていたと思ったリュカたちだが、彼らはまだ山からの絶景を見渡している。洞窟の暗がりの中を歩いていると、どれほど山を下りているのか分からず、今は仲間たちも皆、山からの絶景にがっくりと肩を落としているような状況だ。
「さっきの商人の人、ここから先は進まない方がいいって言ってたけど、こういうことだったんだ」
「そこまで言うならどういう目に遭ったのか教えてくれてもいいのにね」
ビアンカが口を尖らせながら言うのを見て、リュカは先ほどの状況を思い出してみる。旅の商人が話を続けようとしたところ、それを遮って外が見えると喜びの声を上げたのはビアンカだった。そして外の景色を見たい魔物の仲間たちが馬車の中で騒ぎ出し、慌ててその場を離れたという経緯がある。商人の話を最後まで聞かなかったのは、とそこまで考えたところでリュカはぎこちなく笑った。
もしかしたら先ほどの洞窟内で他にグランバニアに通じる道があったのかも知れないが、今そんなことを考えてもどうにもならない。違う道に来たのだから、違う道を探せばよいのだと、新たにぽっかりと入り口を開ける洞窟に向かって皆と共に馬車を進めた。



「とにかく下りればいいんだよね?」
「山を下っているんだから、それで間違いないと思うわよ」
「洞窟の中を進むから、どれだけ下りているのかよく分からなくなりますね」
「道はそれほど複雑なものでもないがのう。ただこれ以上崖から落ちたくはないもんじゃ」
リュカたちの進む下山の道はほとんどが洞窟の中で、外の景色を確認することができない。マーリンの言う通り、進む道は迷路のように複雑なものではなく、ほとんどが一本道のため、道を間違えているという意識は生まれない。しかし進んだ先が再び崖から落ちるような道で、もしマッドやメッキーがいなければ到底馬車が通れるような道ではなかった。恐らくリュカたちは旅の商人と出会った場所で道を間違えてしまったのかも知れなかった。
「ところでさっき見つけたキラキラ光ってた魔物は何だったの?」
「あれははぐれメタルという魔物じゃ。ワシら魔物でも滅多に遭遇することはないような希少な魔物じゃよ」
「珍しい魔物なんだね。でも珍しいからって勝手に着いて行っちゃダメだよ、マッド」
「ぐおーん」
「逃げ足がとんでもなく早い魔物だったわね。とっても臆病な魔物なのかしら」
「しかしそれで勢い余って、また下に落ちてしまいましたね……」
「でも道はここしかなかったし、合ってるはずだよ。道って言えるのかどうか、分からないけどね」
「崖から落ちる道なんて、普通の旅人さんは使わないわよねぇ。でもここもこうして洞窟が続いてるし、大丈夫よ、きっと」
落ちてしまったものは仕方がないと、リュカたちはとにかく前へ前へ進む。洞窟内はそれなりに広いが、道は単純で、あちこちと迷うことはなく、しかも行く先々で床や壁に彫られたグランバニアの紋章を目にすることができた。鷲と見られる鳥の紋章には力強さが感じられ、チゾットからの長い下山でも勇気づけられる印象がある。そして紋章があるということは、道を間違っていないのだという確証が得られた。リュカたちは洞窟内に彫られた鷲の紋章を目にしながら、気を強く持って馬車を進め続ける。
洞窟内には当然魔物もちらほらと生息し、数回魔物との戦闘も繰り広げられたが、広い洞窟内を利用して度々戦闘から逃げることもあった。下山の体力や魔力を残しておくため、なるべく魔物との戦闘は避けるようにリュカは仲間たちに逃げるのをまず考えるよう指示していた。プックルとマッドが物足りなさを感じていたようだが、ガンドフに優しく諭されたりして、今のところ二人とも大人しく指示に従っている。
「さっき一度外に出たけど、もう夜になろうとしてたね」
先ほどまた崖から落ちてしまった時、外の景色はすでに暗くなり始めており、東の空には星が瞬き始めていた。チゾットの村を出てからまともに一度も休息をとっていないリュカたちだが、ほとんどが暗い洞窟の中を進んでいるため、時間の感覚が掴めていない。
「山を下りるのに二日がかりになるわね」
「少し休んだ方が良いかな。まだこれからどれだけ歩くかも分からないし」
リュカたちがそんな会話をしている時、ふと洞窟内に淡い光が浮かび上がるのが見えた。魔物の仕業ではなく、洞窟内に彫られる鷲の紋章がほんのりと光を帯びているのだ。そしてその紋章の傍には、四角い枠に囲まれた階段と下り道が続いている。いかにもグランバニアへ導こうとする光る床の紋章に、リュカもビアンカも揃って歓声を上げる。
「あの下まで行ったら、もうグランバニアは目の前なんじゃないかしら。行ってみましょうよ」
「そうだね。みんな、もう少し頑張れるかな?」
リュカの声に、仲間の魔物たちも元気な声を上げる。皆、早くこの洞窟を抜け出したい気持ちは同じなのだ。リュカの仲間の魔物たちは、暗いところを好む魔物としての特性も薄れてしまったのか、日の光にさらされた外を好むようになったようだ。
リュカたちが近づいても、相変わらず鷲の紋章は淡く光っている。明らかに魔法がかった仕様で、グランバニアの人間がこの紋章に光る魔法を仕掛けたのだろう。それは旅人のために違いないと、リュカはグランバニアと言う国に多大な期待を寄せる。
馬車は淡く光る紋章の傍を通り過ぎ、下に続く坂道をずっと下っていく。かなりの急坂で、坂の隣には頑丈な造りの階段が続いている。階段にも何かしらの装飾が施されているようで、明らかに今までの洞窟の様子とは異なる雰囲気に、リュカたちは出口が近いのだという本能的な期待を抱いた。
馬車が下りた先には、一転して何もない空洞が広がっていた。それもさほど広い場所ではなく、しかし魔物の姿はないようだ。とても落ち着いた雰囲気の空洞だが、グランバニアの紋章があるわけでもなく、何の変哲もない洞窟の一部であるだけだ。ビアンカがランプの明かりで空洞内をぐるりと見渡しても、何も特別なものは見当たらなかった。外に出られるわけでもなく、下に降りる階段や坂道があるわけでもない。完全に行き止まりの場所だった。
「……そんなことってあるのかしら」
「これは誰もが勘違いしてしまいそうな仕掛けですね」
「ずいぶん意地の悪いことをするもんじゃのう」
「ここで十分休みなさいってことかな。ちょうど魔物もいないみたいだし、ここで少し休もうか」
まるで洞窟探索に疲れた旅人たちのために用意されたような空間に、リュカは甘んじることにして仲間たちとゆっくり休息を取ることにした。階段と坂道の周りで淡く光っていたグランバニアの紋章は、グランバニアの人間が旅人の疲れを癒すために結界を張り、こうして安全な空間を作り出してくれたのかも知れない。そんなグランバニアの人間の優しさに触れたような気がして、リュカはますますグランバニアへの思いを募らせていた。

Comment

  1. ケアル より:

    ビビ様!
    ミニデーモンの作戦変えには、当時を思い出したら、腹が立つ特技ですよね。
    ビビ様らしい描写で楽しませて頂きました。
    最後に唱えようとしたミニデーモンの呪文はイオナズンですか?

    洞窟落下の描写、なるほど!メッキーやガンドフを使うなんて考えましたね。
    スクルト、スカラ、確かに使わないと全滅になっちゃいますね。
    サンチョは、どのように帰ったのか…気になります(笑み)
    洞窟脱出できなかったですね次回はミミックですか?

    • bibi より:

      ケアル 様

      いつもコメントをどうもありがとうございます。
      ミニデーモンの作戦変えは、こちらの手間が増えて面倒だった記憶があります。うっかりそのままピッピッとボタンを押すと、ガンガン呪文を発動したり、瀕死状態なのにちまっと薬草使ったり。
      そうです、最後にミニデーモンが唱えようとしたのはイオナズンです。ミニデーモンでいる限り、成功しない呪文ですが。
      洞窟落下は苦肉の策です(笑) もし他の旅人が馬車で旅をしていたら、使えない方法です。まず飛べる魔物の仲間を作ることから始めないといけません。
      次回、ようやく洞窟を抜けられるかな。早くサンチョに会いたい。

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