平和な日々

 

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リュカは王室上階にある国王私室の扉を開け、部屋に入るや否やふらふらとベッドに向かった。広いベッドの上にうつ伏せに倒れこむと、深いため息をつく。決して眠気に襲われているわけではない。しかし今までに感じたことのない疲労が身体にまとわりついている。リュカは全身が麻痺するような感じがして、しばらくベッドから起き上がれずにいた。
「リュカ、お疲れ様。休める時に休んでおいた方がいいわ」
ビアンカの優しい声が聞こえ、リュカは目で確かめないままベッドの上にビアンカがいるのかと手で探る。そんなリュカの様子を見て、ビアンカとは違う人の声が聞こえる。
「あんたの愛しの奥さんはこっちだよ」
その声にリュカはがばっとベッドから起き上がった。この国王私室で過ごすようになってからひと月が経つ。リュカとビアンカが使っている部屋とは言え、国王私室には様々な人が出入りする。食事の給仕を行う者や、部屋の掃除をする者など、リュカたちの身の回りの世話をする人々が仕事のためにこの部屋に入ってくるのだ。初めの内はその状況に戸惑い、心休まらない日が何日か続いたが、それも数日で済んだ。そんなことには構っていられないほどリュカは疲労に苛まれ、この部屋に戻ってきてはベッドに倒れこんで休むような日々が続くようになったのだ。
「ドリスさんが遊びに来ているのよ」
「リュカも大変そうだね。でも親父もやったことだから、多分何とかなるよ」
気楽なドリスの声の後に、小さくカチャッと食器の触れ合う音がする。部屋の中にはハーブティーの良い香りが漂い、その匂いに気がつくとリュカは唐突な睡魔に襲われそうになる。しかし今寝てしまえばその後数時間は目覚めない自信がある。リュカはこの部屋に昼食を取りに戻ってきただけなのだ。昼食の後、またすぐに国王としての勉学の時間が学者ののいる図書室で始まる。ここで寝てしまうわけには行かないと、リュカはベッドの縁に腰かけた。
「ドリス、来てたんだ」
「うん。ま、しょっちゅう来てるけどね。ビアンカ様とお話してるの楽しいし」
「喜んでくれて私も嬉しいわ。私はただ、リュカとみんなと旅してきたことを話してるだけなんだけどね」
「あたしも旅に出てみたいなぁ。腕にもある程度自身があるしさ」
「でもあなたはお姫様だもの。そうそう旅に出るわけには行かないわ」
「ビアンカ様だってもうすぐ王妃様になるんだよ」
「私はリュカのおまけでなるようなものよ。そうじゃなければ今も変わらず旅を続けていると思うわ」
「……ねぇ、ドリスってビアンカのことはビアンカ様って呼ぶの?」
二人の会話を聞いていたリュカがふと不思議に思い、ドリスに問いかける。ドリスはカップのハーブティーを一口飲み、首を傾げながらリュカに応じる。
「そうだよ。何か変?」
「変……じゃないんだろうけどさ、でも僕のことはリュカって呼ぶよね」
「だって従兄のお兄ちゃんだもん。それでいいじゃん」
「お兄ちゃんっぽく呼ばれてない気がするんだよなぁ」
「じゃあどうやって呼んだらいい? リュカお兄様? リュカお兄ちゃん? 兄上? 兄君?それとも……」
「やっぱりリュカでいいや」
ドリスが色々と考えながら呼び名を挙げていくが、その全てに違和感を感じ、結局呼び捨てのままでいいとリュカは返事をした。リュカは間もなくグランバニア国王として即位する。国王と言う地位に就けば、誰もがリュカのことをリュカとは呼べなくなる。ドリスにしても例外ではない。リュカが国王になれば、ドリスもリュカのことを国王陛下と呼ぶことになるのだ。それまでの間、従妹のドリスとは壁のない関係を楽しむのが良いと、リュカは二人が座っているテーブルの所まで歩いてきた。
「ねぇ、私のこともビアンカでいいのよ。何だか、ビアンカ様なんて言われると、身体がかゆくなるって言うか、私に似合わない感じだし」
「そんなことないよ! ビアンカ様はビアンカ様だよ。とってもキレイだし、優しいし、王妃様になる人なのに料理だって上手だし、呪文だって使いこなせるし……非の打ち所がないってヤツだよ。リュカよりもよっぽど……何ならさ、この国の女王になったっておかしくないよ」
「ドリス、それは言い過ぎよ。冗談が上手ね」
「ビアンカ、それは僕も一緒。本当に僕に務まることなのか、毎日不安だよ……。いっそドリスの言うように、君がこの国の女王になった方がいいんじゃないかな」
リュカは空いている席に腰を下ろし、そのままテーブルに突っ伏してしまった。国王私室のテーブルだが、客人を迎えることもある部屋のため、テーブルから何から、すべての造りが大きい。広いテーブルの淵に突っ伏したリュカを見て、ビアンカは優しいため息をつく。
「お父さんが今からそんなに弱気になってちゃ困るわね~。ねぇ」
そう話しかけるのは、大きくなったお腹の中にいる赤ん坊だ。ビアンカには既にお腹の中の赤ん坊が見えるかのようで、毎日毎時間、彼女は自然な様子でまだ見ぬ赤ん坊に話しかけている。お腹の中の子も彼女の話しかける言葉に応えるように動いたり、今はまだ寝ていますと静かにしていたり、もう生まれ出ているかのような反応に見えるから不思議だった。
「それにしてもビアンカ様のお腹、本当に大きくなったよね」
「そうねぇ。今にも生まれそう……」
「えっ!? 本当に? それじゃあ早く誰か呼びに行かないと……」
そう言って椅子を立ち上がり、部屋を出て行こうとしながらも、果たして誰を呼んだらいいのだろうかと部屋の中をうろうろし始めたリュカを見て、ビアンカは明るく笑った。
「リュカ、慌てないで。大丈夫、冗談なんだから」
「冗談? ……そんな冗談、言わないでよ。心臓に悪いよ」
ビアンカの笑う姿を見ながら、リュカはまるで今戦闘が終わったかのような疲れを感じた。リュカはいつもビアンカのお腹が大きくなるのを見ているだけで、彼女が日常生活でどれほど大変な思いをしているのかは想像するしかない。今にも生まれそうな大きなお腹で歩くのはとても大変なことだろうとずっと座って休んでいたらいいと思ったり、お腹の中の子にも栄養をととんでもない量の食事を勧めたり、リュカが部屋に戻ってきた時に彼女が茶を入れようと椅子を離れると慌ててそれを止めたりと、過保護とも言える対応をしているのだ。その度にビアンカは「これは病気じゃない」と言って笑いながらできることをする。
リュカも彼女が一般的な女性であればそれほど心配もしないのかも知れないと思った。しかしビアンカは根っからのお転婆で、リュカは幼い頃彼女がすいすいと木登りをしたり、結婚してからも一緒に旅をすることに胸を高鳴らせているような女性なのだ。本人が無茶をしていないという言葉は信用できず、彼女がすることなすこと全てに気を配らなくてはならないと、お腹の大きな妻の行動にかなり慎重になっていた。
「リュカったら、すっかり心配性になったわね」
「誰のせいだと思ってるんだよ。ビアンカがもっと大人しい人だったら、僕もこんなに心配しないよ」
「あら、じゃあもっと大人しい人と一緒になったら良かったわね。たとえば……」
「何言ってるんだよ。ビアンカ以外の人と一緒になるなんてできないだろ。僕は君と一緒にいたいって思ったんだから」
「……おー、熱い熱い」
リュカとビアンカの会話を聞きながら、ドリスは温くなったハーブティーをフーフーと冷ます振りをしながらぐいっと一口飲んだ。そして皿に並べられている焼き菓子を一つつまみ、口にすると「甘いなぁ」と呟いている。
「とにかくビアンカはもっと大人しくしていなきゃダメだよ。僕、お城の厨房の人から聞いてるよ、君がしょっちゅう厨房で料理を作る手伝いをしてるって」
「だってここでずっと一日過ごすなんて暇なんだもの。本当だったら外に出てもっと体を動かしたいけど、そういうわけにもいかないから、せめて料理くらいは作りたいって厨房に立たせてもらってるのよ」
「ビアンカ様の作る料理、本当に美味しいもんね。今日もこれから作るの?」
「お城で出されるお料理には到底敵わないけど、私は自分の慣れ親しんだ料理を作って食べたいのよね~」
「そうそう、お城の料理も不味くはないんだけどさ、なんていうか、ビアンカ様の作る料理は家庭的ってヤツなんだよね。あたし、ああいうの食べたことなかったから、初めて食べた時本当に感動しちゃったよ」
「ドリスにそんなに喜んでもらえるなら、今日もまた作ってこようかな~」
「ドリス! そうやってビアンカを働かせるのは止めてくれないかな。彼女はこんなにお腹が大きいんだから、無理させちゃダメなんだよ」
「リュカ、そうやって私のしたいことを邪魔しないでよ。今までの旅の暮らしに慣れてる私には、ここでの生活は時間を持て余して仕方がないのよ。だから料理くらいは好きにさせてよね。それにお腹に赤ちゃんがいるからって、料理ができないなんてことはないんだから。だって町や村や、ここの城下町だって普通に日々暮らしてるお腹の大きい女の人が料理をしないのかって言ったら、そんなことはないでしょ? 洗濯だって掃除だって、健康な妊婦さんはみんなしていることなのよ。それともリュカは赤ちゃんが生まれるまで私にベッドでずっと寝ていろって言うの? そんなの耐えられないわよ」
元来働き者のビアンカにとっては、身の回りの世話をされることに慣れておらず、その状況に罪悪感を感じてしまうのだ。グランバニアに到着した時には安静にしていなければならない状況だったが、その状態からも脱し、今は普段通り動いても大丈夫とシスターのお墨付きも貰っている。ビアンカは彼女なりに無理しないようにと、力仕事には手を出さず、台所に立って簡単な料理やお菓子を作るに留めている。もし彼女が水の入った思い桶を持ち上げようとしたり、野菜や果物の入った箱を動かそうとしていたら、すかさず城の者がそれを見つけ、慌てて止めることはあったが、彼女は彼女で自分の体を第一に気遣って生活しているつもりなのだ。
「せっかく動けるようになったのに、じっとしていられるわけがないじゃない。それにお腹の赤ちゃんのためにも、少しは動いていた方がいいんだって聞いたわ。あんまりじっとしてると、お産が辛くなるんだって」
「えっ? そうなの?」
「シスターがそうおっしゃってたわ。だから無理しない程度に動くようにしてねって」
「それにビアンカ様、本当にお腹の赤ちゃんを大事にしてるもんね。歩く時だってすごくゆっくりだしさ。大丈夫だよ、リュカ、ビアンカ様が一番赤ちゃんを大事にしてるんだから」
「動こうにも動けないのよ、これだけ大きなお腹になると。屈むのだってそーっと屈まないといけないし、走ったりするなんてとてもできないし。だからリュカが心配するようなことは何もないわよ、安心して」
ビアンカがそう言いながら、テーブルの上に乗るリュカの手をポンポンとあやすように叩くと、リュカは妻のその手を受け止めるように手の平を上に向ける。お腹の子も順調に育ち、ビアンカの食欲も旺盛なようで、彼女の手も以前よりもふっくらと肉付きが良くなっているようだ。旅の間は食事もまともに取れていない期間があり、その時からお腹に子供がいたのかと考えると、リュカは今も彼女に申し訳ない気持ちになるが、今は非常に健康的になり、ビアンカもお腹の中の子も元気に生きている。そのことがリュカにはとても嬉しかった。
その時、部屋の扉が静かに叩かれ、リュカに昼食を持ってきたと給仕の者が呼びかけた。ビアンカが立って扉の所に行こうとするのを止め、ドリスが椅子からぴょんと飛び降り扉に向かう。扉が開かれ、台車に運ばれてきた料理から漂う匂いに、リュカは途端に腹が空いていたことを思い出した。
昼過ぎまで学者の所で帝王学について学び、途中オジロンも顔を出してリュカの様子を見に来たりもしたが、それだけであっという間に午前中が過ぎてしまった。帝王学とは王家の跡継ぎに対する特別な教育であるが、その内容は幅広く、言葉も難解なため、リュカにとっては眠気を誘う時間であることには間違いなかった。真面目に聞かなければならないと思いつつも、その言葉の難解さに首を傾げ、考え込み、そして分からず眠くなる、と言う繰り返しなのだ。内容自体には興味があるものの、言葉さえもう少し易しければ理解も早まるのにと、リュカは帝王学の教本を作った気難しそうな人物を想像し、内心で愚痴を言ったりしていた。
グランバニアで過ごすようになってからというもの、リュカの前に出される料理は常に豪華なもので、初めこそその料理に目を輝かせていたリュカだが、最近では旅の頃の素朴な食事を懐かしく思ったりすることもある。もちろん豪華な食事内容に不満があるわけではない。未来の国王に健康でいてもらうべく、食材も様々取り入れており、バランスよく作られている。城の料理長に会えば必ず礼を述べるリュカだが、それでも外に出て自然の木の実をそのままカリカリと食べたいなどと思ったりする。食事をしながらふとヘンリーのことを思い出し、彼は子供のころからこのような食事を出され、よくぞあの奴隷の生活を耐え抜いたなと今更になって親友を称賛する気持ちになったりしていた。
「ほら、リュカもこういう食事が飽きてるんじゃないの?」
ドリスに図星を刺され、リュカは慌てて首を振る。そんな様子のリュカを見て、ビアンカはただ微笑んでいる。
「今までが今までだったからね。あんまりたくさん料理を出されても、そんなにたくさんは食べられないんでしょ」
「……うん、そうなんだよね。どれも美味しそうだから食べたいんだけどさ、全部食べると何かこの辺りが苦しいって言うか、ちょっと辛くなるんだよね」
「えー? でもこれってあたしでも食べられるくらいの量だよ。それでも苦しくなるの? ……旅って過酷なんだね……」
ビアンカに様々な旅の話を聞いて夢を膨らませていたドリスだが、旅の最中の食事内容に気づかされ、大きな夢がしぼんでいくのを感じていた。
「でもそんなに無理して食べることもないかもよ。だって親父みたいに腹が出てきたら大変だもん。リュカが中年太りなんかしたら、ビアンカ様に愛想つかされちゃうよ」
「中年太りのリュカ? あははは、おかしいわね、それ。想像したこともなかったわ」
「でもこの食事を続けて、体も動かさないと自然とそうなりそうだよね……。せめて体は動かすようにしないとな」
テーブルに並べられた料理はすべて舌鼓を打つほどの美味しさで、元来苦手な食べ物もないリュカにとってはすべてがごちそうそのものだった。命を分けてくれた食材と、作ってくれた人々への感謝をしながら、リュカは次々と料理を口に運ぶ。この食事が終わったらまた学者の所へ行かなければならない。国王になるためには様々な学問や、リュカはこのグランバニアに来たばかりで、この国のこともまだほとんど知らずにいるため、城下町を視察する予定もあると聞いている。既に何度か行われている城下町視察だが、リュカが一人で自由に見て回れるわけもなく、必ずお付きの者が帯同する。
「その前に少しくらいは時間があるかな……」
と呟きながら、リュカは食事を早く済ませ、学者の所に行く前に少し寄り道をしていこうと密かに考えていた。



グランバニア城の二階は主に兵士たちの場所となっており、外の訓練から戻ってきた兵士たちはここで休息を得たり酒場で語り合ったりと、好きな時間を過ごす。様々な部屋や場所に分かれているが、多くは兵士たちの寄宿舎となっており、グランバニアの兵士となった者はこの寄宿舎で日々を過ごし、一日の疲れをこの場所で癒している。今も二階の廊下には兵士たちが歩き、城の門番の交代をするべく一階へと向かっている。
リュカとすれ違う時には必ず帽子を取り、丁寧に礼をする。リュカがこの国の国王になることを、国中の人々は既に耳にしている。先代の王パパスの息子であるリュカがグランバニアに戻り、王家の証を手に入れ、あとひと月ほどでオジロン王から王位を継ぐのだということは、大臣の計らいにより国中に知れ渡っていた。城下町ではその旨の内容が書かれた掲示が出され、国の人々はパパスの息子が戻ってきたことに歓喜し、そして王位を継ぐことに既に感動を覚えていた。
かつて連れ去られた王妃を助けに旅に出た国王は、旅先で命を落としてしまった。しかし共に連れていた幼子が無事に国に戻ってきたことは、グランバニア国民の心を掴むのに十分な奇跡を持っていた。大臣が手配した掲示の内容は先代の国王パパスの息子であるリュカが国に戻ってきたという淡々としたものではなく、国民の信頼や期待を得られるよう多少なりとも脚色した内容となっていた。そのため国民は先代の王であるパパスの偉大さを思い出し、奇跡的に生きて戻ってきたリュカに多大な期待を寄せるようになったのだった。
「おや、リュカ殿、これからまた王になるためのお勉強に向かわれるのですかな?」
礼をして去って行った兵士を見送ると、長い廊下の角から姿を現したのは大臣だった。両手で抱える書類の束はかなりの量で、あれで前が見えているのかと心配になり、リュカは大臣の書類を半分持つよう申し出たが、大臣は笑ってそれを拒んだ。
「未来の国王に書類運びを手伝わせるなどできるものですか。大丈夫です、これしきのこと」
「即位式の準備って、大変なんですね」
「そりゃあまあ、大変ですが、今までにも何度もしてきたことですからね。以前の資料を集めさえすれば、同じことをするだけなのでそれほど難しいことでもありませんよ」
そう言って笑う大臣の顔を見ていると、リュカは何故この人のことをあまり好きではなかったのだろうかと思ってしまうほど、今の大臣は心晴れやかに仕事をこなしているようだった。額に汗して働く大臣に、リュカは心からの礼を述べる。
「本当にありがとうございます。あなたがいてくれるから、いろいろと助かります」
「未来の王に礼を言われるとは、私も鼻が高いですな」
そう言いながら笑う大臣の表情は、今までとは印象が異なり、どこか吹っ切れたような清々しいものだった。新しい目的に向かって邁進している大臣は実に精力的で、何も心に迷いのない様子が見て取れる。それはまるで、神を信じる修道士のごとくひたむきな姿勢に見えた。
「リュカ殿も慣れないことばかりですが、あともう少しですからどうぞ頑張ってください」
「あ、はい、何とか頑張ります」
大臣にこれからも国王になるための勉学に励めと言われ、リュカは少し寄り道していこうとしていることに少々罪悪感を覚えた。しかしこのまま学者の所へ行って勉学に励んだところで、恐らく内容は右から左へ抜けてしまいそうだと、リュカはやはりこっそり寄り道して行こうなどと考えていた。
「あともう少しで終わりますからね。即位式、楽しみに待っていてください」
「はい、よろしくお願いします」
大臣はそう言うと、書類を抱えたままリュカに頭を下げ、足早に廊下を歩き去って行った。リュカは彼の後ろ姿を見送りながら、「僕も頑張らないとな」と呟いて、大臣とは反対の方へと歩き出す。
「あ、坊ちゃん」
一階に下りようとしたところで、階段からサンチョが笑顔で現れた。即位式の準備はすべて大臣が引き受けているが、サンチョはその間普段大臣がしている仕事を支援している。サンチョはこれからオジロン王の所へ行き、国王の執務の支援を行うつもりなのだろう。
「これから学者の所へ行くんですか?」
「う、うん、そうだよ。お昼を済ませたらまた来てくださいって言われてるからね」
「……そう言いながら、寄り道するつもりでしょう?」
リュカの表情を見ただけでサンチョが見事リュカの心中を言い当てたので、リュカは返す言葉もなくその場に立ち尽くした。口を開けたまま止まってしまったリュカを見て、サンチョは可笑しそうにクスクスと笑う。
「いやいや、坊ちゃんはまだ良い方ですよ。だって寄り道って行ったって、お城の中でしょう? お父上はよく外に出ちゃっていましたからね、勉強嫌いで」
「え? どういうこと?」
「先代の王パパス様は国王になるためのお勉強が嫌いでしてね。しょっちゅう城を抜け出して森に隠れてしまって、よく学者たちが頭を抱えていました。城の中に閉じこもって勉強するよりも、森で体を動かす方が楽しいと言って、坊ちゃんたちが使っている部屋からそのまま外に飛び出したこともあるんですよ」
今リュカとビアンカが使っている王室上階にある国王私室は城の四階にあり、到底飛び降りられる高さではない。しかしそれを若きパパスは、ただ勉強から逃げたいというだけでやってのけてしまったらしい。その率直さが実に父らしいと、リュカもその話を聞いて思わず笑ってしまった。
「とんでもない王様だね」
「国王になる前のお父上の評判はあまり良いものではありませんでした。国王になるための勉強が嫌いで未来の国王が務まるものかと、周りからは色々と言われていたんですよ」
リュカが常に追いかけ、そうでありたいと目指している父の背中が意外に近いことを感じた。父パパスも若い頃があった。国王になることを嫌がり、勉強から逃げ出すような子供の時があった。リュカには想像することしかできないが、そんな父の姿を想像すると、今も城の中を駆け回っている父の姿が見えるような気がした。
「しかしそれもマーサ様とご結婚されて、マーサ様が坊ちゃんを身籠られてからは、まるで別人のように勉学に勤しまれるようになりました」
サンチョの話を聞きながら、リュカは父パパスが父となって行った過程を思い浮かべていた。父が国王としての勉学に励むようになった理由は、守るものができたからに他ならない。もちろん、父にもグランバニアと言う国を思う心はあったに違いない。しかし国を思う心はあれど、それはまだ若い父にとっては漠然としたもので、また途方もなく大きなもので、果たして自分一人でどうにかなるものなのだろうか、自分が頑張らなくても周りの者たちがどうにかしてくれるのではないだろうかと、責任と言う面においてまだそれほど背負っていなかったのかも知れない。
それが自分の命を賭してでも守りたい存在が現れ、父は他の誰でもない自分が背負わなければならない責任に直面した。妻のマーサと息子のリュカ。二人の家族がいたからこそ、パパスの国を思う心は増大し、国王になるための勉学にも身を入れるようになったのではないかと、リュカは今の自分の身に重ねてそう思った。
「まあ、お父上が突然マーサ様をこの城に連れてこられたときは皆驚いていましたけどね。『俺はこの方と結婚する』って、外から戻ってきたと思ったら、突然そんなことを仰られて……」
サンチョの話を聞いていると、遠かった父の存在がみるみる近づいてくるのを感じる。父は自分が思っていたよりもかなり破天荒な性格をしていたのかもしれない。
「しかもマーサ様も魔物の友達を連れてくるものだから、一時グランバニアは騒然としていましたよ」
「サーラたちのこと?」
「当時マーサ様が連れてこられたのはスラぼうとゴレムスでした。スラぼうはまだ何とか説明がつきましたが、ゴレムスはあの通り大きな魔物ですから、国の人々を説得するにはかなり大変でしたよ」
「……母さんはゴレムスを隠そうとしなかったの?」
「人間だから良い、魔物だから悪いという考えは間違っている、と言うのがマーサ様の強い思いでしたからね。それは坊ちゃんと同じではないですか?」
サンチョにそう問われ、リュカは素直に首を縦に振った。リュカは母マーサとの思い出は全くない。マーサに魔物と仲良くするんだということを教わったわけではない。リュカはリュカ自身で、魔物すべてが悪いわけではないことを知っている。しかしそれを知っているのは、やはり母マーサから引き継いだ何かが影響しているのだろうかと、思わざるを得なかった。
「おっと、あまり話していると坊ちゃんの休み時間がなくなってしまいますね。魔物の仲間たちのところへ行くんでしょう? お急ぎくださいませ」
「え? あれ? なんで分かったの?」
「坊ちゃんがそれほど楽しそうに向かうのは、ビアンカちゃんの所か魔物の仲間たちのところか。それくらいは分かりますよ」
「僕って分かりやすいんだね……。まあ、いいや。ちょっとだけ行ってきます」
「あまり学者を待たせない方が良いですよ。ペナルティを出されることもありますから」
「何、それ?」
「やらねばならない課題を増やされるということです。ビアンカちゃんたちのところへ帰れなくなりますよ」
「……冗談じゃない。じゃあ、本当にちょっと話すだけにしてくるよ」
「はい、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
リュカが魔物の仲間たちのところへ寄り道することを分かっていながら、それを止めないサンチョにリュカは内心感謝した。サンチョはリュカが小さい頃からずっと優しく見守ってきてくれた父の従者なのだ。リュカが危険なことさえしなければ、彼はいつでもリュカの味方だ。サンチョは恐らくオジロン王の所へ向かうのだろうが、リュカと今会ったことも話さずに過ごすのだろう。
リュカは城内の至る所に設置されている明かりを見て今の時間を確かめ、急いで階段を下りて魔物の仲間たちのところへ向かった。



グランバニア城の南東に位置する広間で、魔物の仲間たちは日頃過ごすことが多い。しかし元来外で暮らしていた彼らは、日がな一日この広間で過ごすことはなく、パトロールと称しては思い思いに外に出てのんびり過ごしたりしている。リュカが広間に行った時、そこにいたのはピエールとマーリン、それにサーラとスラぼうだった。この魔物たちは皆人間の言葉が話せるため、広間の扉から聞こえてくる話し声に、リュカは果たしてここは人間の部屋だっただろうかと首を傾げた。
「おや、リュカ殿。このような時間にお珍しいですな」
「今日も王となる勉学に勤しんでおるかと思ったが、なんじゃ、さぼっとるのか?」
「違うよ、ちょっとみんなと話したかっただけだよ。あんまり時間はないんだけどさ」
「まあ、少々の息抜きも必要でしょう。さあ、こちらへどうぞ」
魔物の住む広間とは言え、人間用のテーブルや椅子も置いてある。それらはかつてマーサが使っていたものかも知れないと思いながら、リュカはサーラに勧められた椅子に腰かけた。魔物の暮らす広間は窓が少なく、昼間でもかなり暗い空間が広がる。城下町などの人々が暮らす場所にはいたるところに魔法の明かりが備え付けられ、夜の寝静まる時以外は常に明かりに照らされている明るい空間だが、この魔物たちの暮らす広間に明かりはほとんどなく、常に暗い状態が保たれている。魔物にとって住みやすい環境が整えられ、その環境の中でサーラ達は心地よく過ごしている。
「リュカ殿、明かりをつけましょうか?」
「ううん、大丈夫だよ。この暗い感じも落ち着くよね。何だか眠たくなってくる……」
昼食を終えたリュカは腹も満たされ、ちょうど昼下がりの今、良い昼寝ができそうな状態だった。自然と欠伸が出て、慣れない帝王学などの勉学に勤しむリュカには抗えない眠気が襲ってくる。
「リュカさん、今ここで眠ってしまっては困るのではないですか?」
サーラの優しい声に、リュカは机に突っ伏しそうになっていた上体を起こし、頭を激しく横に振った。もしここで寝てしまったら、魔物の仲間たちに起こされようとも起きない自信があった。ちょっとした昼寝では済まされない疲れと眠気を感じ、リュカは昼寝に入らないよう席を立ち上がって顔を洗いに行った。そんなリュカの後ろ姿を見ながら、魔物の仲間たちは一様に笑っていた。
「ところで今日は何かあった?」
席に戻って来ると、リュカは魔物の仲間たちの顔を見回しながらそう問いかけた。即位式があとひと月後に迫る忙しい中だが、リュカは二日に一度はこの場所を訪れ、仲間たちに最近の状況を聞くことにしている。城の警備は主に城の兵士たちがしており、夜間に行われる魔物の警備も城の兵士にその情報が集約されている。グランバニアが安全に保たれていることはオジロン王が日々城の兵士からの報告で確認しているが、リュカはリュカでこうして魔物の仲間たちから直接グランバニア周辺の状況を確かめているのだ。
「今日も特に今のところは何も変わりないようです。この周辺には強い魔物もいますが、あえてこの堅牢な城に襲いかかろうという魔物もいません」
ピエールの言う通り、グランバニアの国は国全体を城の中に内包しており、その更に外側を城壁で囲っているため、外をうろつく魔物らもそこをあえて攻撃しようとは思わないようだ。リュカはこれまで旅をしてきた中でも最も魔物の攻撃を受けにくいグランバニアの国を見て、特にこの国が危機にさらされるという心配もないだろうと、安穏と構えている。
「そうだよね。僕がその辺をうろつく魔物だったとしても、この国に襲いかかろうとは思わないもん。忍び込もうとしたって、絶対にどこかで見つかるよね。だってこの国は魔物の君たちにも守られてるんだから」
グランバニアが安泰なのは、人間の兵士に守られているだけではなく、魔物の仲間たちによる警備も行われているからだと、リュカは少々誇らしげな気持ちになる。リュカが夢に描いていた魔物たちとの暮らしが、今は現実のものとなっているのだ。国の警備と言う仕事も与えられ、魔物の仲間たちが堂々と人間の国の中で生きている。リュカは魔物の仲間たちと互いに支えあいながらこうしてグランバニアの中で暮らしていることに、その生活が始まってからひと月経っても感動を覚えている。
「今はプックルたちが外に出てるんだね」
「はい。まあ、プックルなんかは体をのびのび動かしたいというのがあるようですがね」
「ずっと旅をしてきたからのう。リュカと共にこの城で暮らせるとは言え、ずっと城にいて、たまに外に出て警備をするだけでは物足りないのじゃろう」
「ああ、それ、分かるなぁ。僕もおんなじだよ。最近まともに体を動かしてないから、何だか動きが鈍ってきた気がするよ」
「リュカがぼくぐらい小さかったら、この部屋を三周もすればいい運動になるのにね」
テーブルの上に乗って体を揺らしているスラぼうが、いつもの笑顔を見せながらリュカにそう言う。スラりんと違い、スラぼうは人間の言葉を話すことができる。それは元からなのかと聞いたことがあったが、スラぼうはマーサと共にいる内に人間の言葉が話せるようになったらしい。それを聞いて、リュカはスラりんもその内に人間の言葉を話せるようになるんだろうかと期待する気持ちを抱いたが、どちらにしろスラりんの気持ちはいつも分かるのだからどちらでもいいやという考えに落ち着いた。言葉が話せようが話せまいが、仲間であることには変わりない。
「みんなはいいなぁ、仕事って言う名目で外に出られて」
「名目とはまた酷い言い方ですな、リュカさん。我々はしっかりと職務をこなしておりますよ」
「いや、そうなんだけどさ、僕もそういう仕事があればいいなぁって。だって僕の仕事なんて、ずっと机にかじりついて国王たるものはこうあるべきだとか、国民にはこう接するべきだとか、国民の意見を取り入れるために設置してある投書箱の中身はその日じゅうにすべて目を通すこととか、日に二度ある会議には必ず出席することとか、そんなことを教えられてるだけでさ、もうずーっと学者の部屋に缶詰めなんだよ。国のみんなの意見を聞きたいのは山々だけどさ、一体この国って何人の人がいるの? その全ての人達の意見を聞き入れるなんて無理だよね。今までオジロン王はそんな職務をやっていたのかって思ったら、オジロン王をとんでもなく尊敬しちゃったよ」
「……リュカ殿、まるでビアンカ殿のような話し方ですな」
「本当にのう。考えるよりも口から先に出るといった感じは、まさしくビアンカ嬢そのものじゃ」
「ビアンカっていつもこんな感じなんだね……。それっていつもストレスを感じていたってことなのかなぁ。大丈夫かな、ビアンカ」
「いや、ビアンカ殿のあの話す感じは、単に楽しそうだったり、話したくてたまらないと言った様子なので、特に不安を抱えているわけではなさそうですが」
「まあ、時にはそういう時もあるかも知れんが、嬢ちゃんの場合は大方話すのが楽しいんじゃろう。心配するようなことはないと思うぞ」
「そっか。それならいいんだけど」
一気にまくし立てるような話し方をしたらビアンカに似ていると言われ、リュカはふと彼女の精神状況を心配した。しかしピエールやマーリンの言う通り、彼女は話している時は大抵楽しそうにしていたり、ただ話したいだけだったりするのだとその時の様子を思い出し、一先ず落ち着いてため息をついた。
「そういえば昨日、メッキーが北の方にすごい雨雲を見たって言ってたね」
スラぼうがリュカのついているテーブルの上に乗ったまま、サーラに話しかけていた。グランバニアは深い森に囲まれており、森から立ち上る湿気が原因で時折激しい雨が降る。その時は決まって禍々しいまでの分厚い雨雲が空を覆い、太陽の光を隠し、まるでバケツをひっくり返したかのような雨が辺りに降り注ぐ。しかしそれも一時的なもので、黒い雲はすぐに流され、再びグランバニア周辺は天気に恵まれるのだ。グランバニアの国が分厚い城壁に囲まれ、国自体が城の中にすっぽり収まっているのは、魔物から国民を守るためだけではなく、特殊な天候の影響も受けないように造られたのだということを、リュカは学者に聞いていた。
「北の方は黒い雲が生まれやすいのです。地形などが影響しているのでしょう。昔からそうなのだと、私は以前パパス様に聞いたことがあります」
「そっか、父さんも知ってたんだ」
「このお城だって、パパス様がお造りになったんだもんね。色々と国のことを考えていたんだね、パパス様は」
サーラとスラぼうが父のことを話すのを、リュカは不思議な気持ちで聞いていた。彼らはリュカの知らないパパスを知っている。まだ自分が生まれる前のパパスと会い、話をし、その国王たる姿を目にしている。彼らと話しているとそのような父の姿を見られるような気がして、嬉しい気持ちもある反面、少し羨ましい気持ちも抱いていた。
「リュカ殿のお父上はお優しい方だったのですね。それはしっかりリュカ殿にも引き継がれているから、私はこうしてリュカ殿と出会えて……お父上に感謝いたします」
ピエールが感慨深げにそう口にし、深々とお辞儀をする。魔物と心を通わし、こうして仲間になれたのは母マーサに似た性質があるのだとサンチョやオジロンからは聞いている。実際、母はサーラやスラぼう、ゴレムス、ミニモン、キングスと言った魔物たちと友達になり、このグランバニアで共に暮らしていた。しかしピエールはリュカが父パパスに似て優しいからこうして仲間になることができたのだと礼を述べている。そのことにリュカは感動を覚えた。見知らぬ母に似ていると言われることが嫌なわけではない。だが憧れ、常に背中を追い続ける父に似ていると言われる方がリュカにとっては余程嬉しいことだった。
「リュカ、お主がこの国をまとめていくのじゃ。他の誰でもない、お主の国を作るんじゃ」
マーリンの言葉に、リュカはずっと心に抱えている不安を見透かされているのだと思った。今もグランバニア国民に敬われ、ある種神格化されてしまったような父パパスの存在に、リュカはいつも圧倒されていた。学者から帝王学の講義を受ける時にも、やはりパパスのことを引き合いに出されることがよくある。そしてその学者自身も先代の王パパスに対して敬愛の心を抱いているため、学者の語るパパスはやはり近づきがたい完璧な王だったのだと認めざるを得ない印象があった。サンチョは父が勉強嫌いでよく学者の講義から外に抜け出していたというようなことを言っていたが、それでも国王に就いてからのパパスは民衆に慕われ敬われ、とても偉大な国王として人々の心に残っている。
そんな父にどれだけ近づけるのだろうかと、リュカは不安に感じていたが、マーリンが言うことは「父の国を引き継ぎ、自分の国を作るのだ」という意味なのだとリュカは捉えることができた。父と同じようにはできない。それは自分は父ではないからだ。それならば自分にしかできない国づくりをすればよいのだと、心の中に常に存在していた不安が霧消するように晴れるのを感じた。
「色々とやることはあるじゃろうが、一つ一つ積み上げて行けばきっと、国と言うものは成り立っていく。ワシらも支えてやるから、お主はどんと構えておれ」
「うん、マーリン、ありがとう。そう言ってもらえると本当に助かるよ」
「あとひと月ほどで即位式ですね。大丈夫です。パパス様だって、初めから偉大な王様だったわけではありません。国王になられてから様々な努力をなされ、そしていつしか今も敬われる偉大な国王になったのです」
リュカには強くて逞しく、優しい完璧な父の姿しか記憶にないが、父は父で努力を重ね、徐々に国王となって行ったのだとサーラの言葉で想像することができた。勉強嫌いの父がそれほどの努力を重ねた理由は、やはりこの国が好きだったのだろう。代々継がれる王位から決して逃げることなく、この国を作り上げていこうと父は覚悟を決めた。そして今、リュカも同じように、人間と魔物が共に暮らすこの国を好きになり、ビアンカと間もなく生まれる子供のためにも堂々たる姿を見せなければならないと責務を感じ、サンチョやオジロンの期待に応えたいと自発的に思えるこの国を守って行かなければならないと、深く心に刻んだ。
リュカは席を立ち、窓の所へと歩いて行った。窓からは森の緑ばかりが見える。城壁の内側でスラりんとキングスが何やら話しているのが見えた。スラりんがリュカたちとの冒険の話を聞かせているのか、スラりんの言葉にキングスは優しく相槌を打つように体全体で頷いて話に耳を傾けている。少し上を見上げれば、森の上を飛ぶ魔物の姿があり、それが真面目に警備をしているメッキーの姿だと分かる。そんなメッキーの隣で、蝙蝠のような翼をバサバサとはためかせているミニモンは、警備と言うよりも同じように空を飛べるメッキーの隣でただ景色を眺めているだけと言った雰囲気だ。プックルとマッドとゴレムスの姿は見当たらず、他の場所での警備に当たっているのだろうと、リュカは一人満足そうに頷いた。たとえプックルがのんびりと昼寝をしていても咎める気もない。それほど今のグランバニアは平和な空気に包まれていた。
「そろそろ学者がここに怒鳴り込んできそうだね」
スラぼうが体を揺らしながら楽し気に言うのを見て、リュカははっと後ろを振り返った。さほど話をしている感覚もなかったが、気がつけば学者の所へ行かなければならない時刻を過ぎていた。サンチョの言っていた学者からのペナルティが頭にちらつき、リュカは魔物の皆に再び礼を述べると、慌てて大広間を後にし、学者の所へと急ぎ足で向かった。

Comment

  1. クロコダイン より:

    ビビ様
    更新お疲れ様です。
    今回はいわゆる日常回ですね。
    今回の話のパパスの設定は中々凝ってますね。
    勉強嫌いで国民から信頼されてなかったというのは、リュカにとってもビックリでしょうね。
    仲間の魔物達は広間で過ごしている感じですが、
    街中を歩いたり国民達と交流したりはしないのでしょうか?
    最近はとんと暑くなってきて辛い季節となりましたので、無理をなさらずに頑張ってください。
    次回の更新も楽しみにしています。

    • bibi より:

      クロコダイン 様

      早速のコメントをどうもありがとうございます。もう読まれてしまったのですか? は、早い……^^;
      パパスの設定は勝手に作らせてもらっています。ご了承ください。パパスの場合はリュカと違い、少しは家族で城で過ごす期間があったと設定しています。
      パパスは実はそれほど勤勉ではなかったという性格だと面白いなぁと、そんな話にしてみました。
      仲間の魔物たちはおおむね広間で過ごしていることにしましたが、街中を歩く話を書いても面白かったですね。マーリンは特に違和感を感じなさそうですが、新参者の中でもプックルとマッドには国民もどよめきそうですね。
      今日は本当に暑かった……。クロコダインさんもこの暑い中、ご無理なさらず、体調に気を付けてお過ごしください。本当にこの連休、暑い(;’∀’)

  2. ケアル より:

    bibi様。

    まさに平和な空間で、微笑ましいですね。
    ビアンカのお腹、やっと大きくなったんですね。
    まあさすがに、大きくならないと可笑しいですもんね。

    大臣の今の心境は、いったいどう思っているのか…。
    大臣は魔物に心を売り、裏切られて殺される…。
    そんな人生を送ることも知らない大臣。
    リュカと話をして、そんな気持ちを投げ捨ててくれればいいのに…。

    bibi様、次回は、いよいよ最悪な宴会ですね。
    ゲームでは、ビアンカが浚われる様子はなく、あの、赤ちゃんの泣き声とベットですが…。
    ここは、ビアンカが浚われる様子をbibi様の想像で、魔物に抵抗をするビアンカを描写してくれませんか?
    どうぞ、宜しくお願い致します。

    暑い時期は、まだ続きますが、自分もbibi様と同様、栄養ドリンクのお世話になりながら、日々過ごしています

    • bibi より:

      ケアル 様

      いつもコメントをどうもありがとうございます。
      ビアンカさんは落ち着いて妊婦生活を送っています。ちょうど臨月を迎える頃かな、というところです。
      大臣は吹っ切れたように即位式に向けて仕事をしています。彼も誰か信頼できる友人や同僚がいれば、道を間違えなかったのかも知れませんね。
      確かに、即位式の時のビアンカの描写はないですよね。気になるところですよね。ちょっと書けるかどうか分かりませんが、検討してみます。
      さて、今週も暑そうです。栄養ドリンクでも飲んで、乗り切っていきたいと思います~^^;

  3. ケアル より:

    bibi様。

    え~と…誤解していたらすみません。
    赤ちゃんの泣き声とベットの下のシーンの描写はしてください。
    お願いしたいのは、宴会の夜、リュカが目を覚ます前のこと。
    ビアンカが魔物に浚われるシーンの描写をお願いしたくて…。

    どうか、御検討くださいです。

    • bibi より:

      ケアル 様

      ビアンカが魔物にさらわれるシーンは、書くとしたら次回かその次くらいの話になるかと思います。
      もし書けなかったらごめんなさいm(_ _)m でも検討してみますね^^

  4. ピピン より:

    ビビさん

    ちょっと見ない間に2話も更新されててちょっとしたサプライズをされた気分です( ´∀` )
    筆が乗って来ましたね。

    リュカ夫婦とドリスの会話、とても和みますね。
    お兄ちゃん呼びはリュカをからかう時に効きそう(笑)
    つくづくドリスの立ち位置は美味しいというか、原作でももっと掘り下げて欲しいなと思いました。

    • bibi より:

      ピピン 様

      いつもコメントをどうもありがとうございます。
      そうなんです、息子が夏休みにも関わらず、今は筆が乗っています。ただ、それもいつまで続くかは分かりません、と言っておきます……^^;
      ドリスはなかなか良いキャラですよね。本当はもっともっとグランバニアでのやり取りを書きたいところですが、ここに浸っていると次の話が書けなくなりそうなので、そろそろ前進しようと思います。
      リュカもお兄ちゃんなんて呼ばれたら、悪い気はしないでしょうね。いつも年下だの子分だの言われていたから余計に(笑)

  5. ピピン より:

    ビビさん

    毎月1話読めるだけでもありがたいですよ( ´∀` )

    言われてみれば、今までは明確な弟や妹的な存在はいなかったですね…!

    そうですね、まだまだ出番はあるでしょうから今後に期待してます(^-^)

    • bibi より:

      ピピン 様

      私の目標は毎月2話! でもその目標に囚われると現実世界(私の子育て)に影響を及ぼしそうなので、無理しない程度に……^^;
      関係性としてはマリアが妹的存在かなぁと思いますが、まあ、友達の一人なので、ちょっと違うかもなぁ。ドリスにはまた登場してもらって、リュカによく懐いてもらおうと思います。双子のお姉さんみたいなものですしね。

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