北に向かう

 

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四階の部屋の大きな窓にかかるカーテン越しに朝の白い明かりが見える。ぴたりと閉じられた窓にはカーテンが引かれ、外の景色を見ることはできない。しかしカーテンから透けて朝の明かりが見え、リュカは遡ることのできない時間の経過にため息をついた。
部屋のベッドでは双子のティミーとポピーが並んで同じように寝息を立てて眠っている。その横ではピピンが双子の方を向いて丸くなって眠っている。双子は先ほど乳母から乳をもらったばかりで、落ち着いた安らかな眠りに就いている。生まれたばかりの赤ん坊にはまだ喜怒哀楽と言う表情が見られない。ただただ懸命に生きようとしているだけだ。母の胎内から外の世界に出てきたばかりで、今は生きるのに必死なのだろう。乳母の話ではまだ目も見えていないらしい。これから段々と目も見えるようになり、喜怒哀楽の表情も出てくるティミーとポピーの未来を想像すると、リュカは一つの思いにしか囚われなくなる。
「ビアンカ……」
この子たちの成長を最も楽しみにしていた妻が攫われてしまった。一体彼女が何をしたというのだろう。ビアンカはただ生まれてくる子供を楽しみに日々を過ごし、生まれて来た双子の子供たちにこれから惜しげなく愛情を注いでいこうとしていただけだ。彼女はただ、一人の母親としての喜びを求めていただけなのだ。
誰も彼女の喜びや幸せを奪ってはならない。リュカはビアンカを連れ去った魔物に対する憎しみを胃の底にため込んでいた。ビアンカの幸せを奪った魔物を絶対に許さない。リュカの中には強い憎悪の心が渦巻き、今にも溢れ出しそうになっていた。
しばらく前から乳母が椅子に腰かけ、うつらうつらと頭を揺り動かしていたが、今はすっかり眠り込んでいるようで、頭を前にがくりと垂れたままだ。突然乳母の役目を引き受けることになり、初めの内は緊張で眠気もなかったようだが、夜中の授乳から始まり、慣れない国王私室での生活が始まり、体の疲れは確実に溜まっていたのだろう。今はリュカが窓に寄ってカーテンをゆっくりと開けても目を覚ます気配はない。リュカは開けたカーテンの向こう側から漏れる朝の明かりの中で、一枚の紙にペンで走り書きをした。
『すぐに妻を連れ戻す。それまでティミーとポピーをお願いします』
机の上に置いた紙が、窓からの風にふわりと飛ばされそうになる。リュカは紙の端に一冊の本を置いて飛ばされないようにすると、更に窓を大きく開けた。朝の心地よい涼しい風を浴び、リュカはその風に意を決するようにグアンバニアの森を見据える。
森は静かだった。夜中、森に棲んでいた鳥たちが一斉にどこかへ消え、まだ戻ってきていないようだった。いつもは聞こえるはずの鳥たちの会話が聞こえない異様な雰囲気に、リュカは更に意志を固める。双子に必要な母親を必ず連れ戻す。最も子供たちの傍にいなければならないビアンカを、グランバニアに連れ戻すのだと、リュカは窓枠に手をかけて身を乗り出した。
後ろを振り返れば意志が揺らぐのが分かっていた。ティミーとポピーの眠っている姿をもう一度目にしたら、子供の傍を離れることができなくなると、父になったリュカは自覚していた。だから、リュカは部屋の中を振り返ることなく、頭の中を真っ白にしたまま、窓の外へと飛び出した。



城を飛び出してきたリュカを待っていたのは、プックルだった。プックルはリュカが間もなく支度を終えてこの場所に下りてくるだろうと分かっていた。リュカもプックルの姿がそこにあったことに驚きもせず、視線を合わせると、荷物の中から一足の靴を出した。
「プックル、一緒に行けるかどうかは分からないよ」
「がう」
やってみなければわからないのだとプックルが返事をする。この一刻を争う時に、そのような小さな不安など考えるだけ無駄なのだと、プックルに言われた気がしてリュカはさっそく靴を自分の足元に置く。空飛ぶ靴は羽をバタバタと動かし、今にもリュカをどこか違う所へ連れて行こうとしているように見える。
「リュカ殿」
低い声が聞こえた。リュカは表情も変えずに答える。
「ピエールはこの城を守ってくれ」
「そういうわけには参りません。あなたとプックルだけで向かうおつもりですか? それでビアンカ殿が救えるとでも? いくら何でも無謀すぎます」
「話している時間が惜しい。来るならつかまれ」
この場で話し合いを始め、ピエールを連れて行くかどうかなど、それこそ時間の無駄に過ぎなかった。ただ、今の自分が冷静な判断ができている自信はなかった。それ故にリュカはピエールに判断を任せた。ピエールは迷うことなくリュカの腕を抑えるようにして掴み、共に行く強い意思を見せた。
リュカが空飛ぶ靴を履くと、彼の身体が地面からふわりと浮き上がった。靴の羽がバタバタと騒がしく動いている。果たしてこの小さな靴がリュカと共にプックルとピエールを運べるのか分からない。もし彼らと共に行けないとしたら、リュカは当然の様に一人で行くつもりだった。空飛ぶ靴は懸命に羽を動かし、空を飛ぼうともがいている。
その時、近くの茂みが揺れ、大きな熊が姿を現した。ガンドフの一つ目と目が合い、リュカはじっとその目を見つめた。ガンドフは悲しそうに一つ目を揺らし、そしてリュカの方へと飛び込んできた。熊にのしかかられ、豹にしがみつかれ、リュカの履く空飛ぶ靴が悲鳴を上げている。しかし空飛ぶ靴にかかった魔法は強力なもので、その魔法が彼らすべてに及ぶと、空飛ぶ靴は軽やかに羽を動かして、リュカたちを空高くに舞い上げた。リュカたちは揃ってグランバニアの森をはるか下に見下ろす。森の東には朝日が昇ろうとしており、白々と夜が明けてきている。しかしその中でも、夜の明けない場所が北にあった。常に黒い雲に覆われたその地に、リュカは鋭い視線を向ける。その場所にいるのだと確信していた。
空飛ぶ靴はリュカたちを北へ運ぶ。この靴に意思があるわけではなく、あくまでもこの靴にはある魔法がかけられているだけのようだ。靴の行き先は決まっており、リュカの目を向ける場所には向かわず、やや西寄りの地へと彼らを運ぶ。決まった場所を行き来する伝書鳩のようなものだった。空飛ぶ靴はリュカたちを北西へと運ぶと、下降を始めた。リュカは下りる先に小さな建物があるのを見ていた。屋根の上には神の象徴となるオブジェがあり、そこが教会なのだと分かった。屋根の上のオブジェが朝日を受けて煌めいている。
ルーラの時のような調整は必要なく、着地は非常に静かなものだった。リュカは空飛ぶ靴を脱ぐと、それを荷物の袋にしまい込んだ。空飛ぶ靴はリュカが旅ではくブーツの上から履けるようなもので、それ自体が靴としての役割を負っているわけではない。
「大臣はここへ来たのか……?」
目の前の教会を見上げながらリュカはそう呟いた。グランバニアの国を混乱させ、王妃を誘拐した大臣が教会などと言う神聖な場に立ち寄るとは思えなかった。もしかしたら大臣が持っていたもう一足の空飛ぶ靴は違う場所へ運ぶものだったのかも知れないとリュカはふと思う。それがあの北の地だとしたら、真っ先に北に向かわなければならない。
「リュカ殿、早まれば全てを失います」
ピエールの言葉にリュカの心がびくついた。彼に言われなければリュカはこのまま教会にも寄らずに北を目指すところだった。それほどリュカの心は切迫し、ビアンカを求めていた。
「急ぐからこそ間違ってはならないのです。この教会にも人はいるでしょう。先ずは話を聞いてきてください」
「話を聞いたって行く場所は同じだ。北に見えるあの場所に……」
「あの場所に何があるのか、私たちは知りません。それにこの場所に教会などと言うものがあるのはそれなりの意味があるのではないでしょうか? とにかくあなたは人の話を聞くべきです」
これほどピエールが厳しく言う姿をリュカは今まで見たことがなかった。ピエールが騎乗する緑スライムがいつものにこやかな笑顔を忘れ、無表情な顔でリュカを見つめる。その横でプックルはリュカと同じように先を急ごうと喉を低く鳴らしている。プックルもリュカと同じように心が急いている。ビアンカを助けに行くことだけを考えている。
「リュカ、ビアンカ、ダイジョウブ。ビアンカ、ツヨイ。ダイジョウブ」
その中でガンドフの声は非常に穏やかに聞こえた。ガンドフは大きな一つ目をはるか北に向けながら真剣な表情でそう呟いた。彼の目に何かが見えているのだろうかとリュカもその視線を追うが、ずっと先まで続く草原と遥か向こうに見える山々の景色が見えるだけだ。
「これほど小さな教会です。人の話を聞くのに大した時間もかからないでしょう。リュカ殿、私たちはここで待っています。すぐにすべきことを……」
「……分かった。じゃあここで待ってて。すぐに戻る」
リュカはそう言うや否や、仲間たちに踵を返し教会へと急ぎ足で向かった。
グランバニアの北西にある小さな教会は宿屋も併設されている建物だった。一階に旅人が宿泊できる宿屋があり、二階に教会があった。宿屋と言っても簡素な造りで、部屋が仕切られているわけでもなく、ただ屋根がついている場所に寝泊まりできるという場所だった。ただ旅人にとってはそれがどれだけありがたい場所なのかはリュカ自身よく分かっていた。
二階にはこの小さな建物からは想像できないほど立派な女性の像が四体並んでいる教会があった。清らかな微笑みを湛えた女性の像だが、決して女神と言うわけではなさそうだった。まるで生きているように滑らかな女性の像を見て、リュカはその像を神のように思い、まるで神頼みするように像の前で手を合わせた。普段、神など信じないリュカだが、人間追い込まれれば神でも何でもすがってしまうことを身をもって経験していた。
「旅の方、どうかされましたか? 顔色がよろしくないようですが……」
女性の像の前で必死に手を合わせて祈るリュカの姿に、教会のシスターもさすがに異様なものを感じたのだろう。困っている者に差し伸べる手を持つシスターは、迷うことなくリュカに手を差し伸べる。リュカも差し伸べられた手にすがる思いでシスターに話しかけた。
「この辺りを魔物が通りませんでしたか? 恐らく集団で……それと、人間も……女性がいたはずなんですが……」
途切れ途切れに話すリュカは心がまとまっておらず、シスターにどう説明したら良いのか分からなかった。それだけリュカ自身も何も知らず、手探りで妻を探しているのだと自覚する。しかしリュカのその説明でシスターは顔を強張らせ、苦し気に目を瞑る。そして口の中で小さく祈りの言葉を吐くと、リュカに小声で事実を知らせる。
「大分前ですが、怪物たちの集団が北の山を目指して走ってゆきました。気のせいでしょうか? その中に人の姿も見えたような……」
神に仕えるシスターとは言え、怪物の集団などを目にしたら身体が震えるのも当然だった。今も話しながら小さく身体を震わせ、その時のことを思い出したくないという雰囲気を醸している。建物の二階にある教会の窓から、その景色を眺めていたのかも知れない。真夜中にうごめく集団に彼女は気づき、そっと窓辺に寄って夜の暗闇に目を凝らすと、魔物の光る目と遭遇した。それも一体ではなく、おびただしい数の魔物の目と遭った恐怖は彼女にとって思い出したくない情景だっただろう。
「お前さん、どこから来たのかは知らんが、北の山だけは近づかん方がええぞ」
シスターの話を聞いていた一人の老婆が、ぼそっと独り言のようにそう呟いた。老婆もまた女性の像の前で手を組み合わせ、祈りを捧げている所だった。目を瞑りながら、祈りを捧げながら、リュカに言葉をかけてきたのだ。リュカは黙って老婆の横顔を見つめる。
「何でも北の山には恐ろしい怪物が住む塔があるそうじゃからな」
「怪物が住む塔……それは本当ですか?」
「さあのう、わしも人伝に聞いただけじゃから確かなことは何も分からん。しかし北に禍々しいものがあるのは、いつまでも晴れないあの黒い雲を見れば分かるというものじゃ」
老婆が言っていることはリュカにもすぐに分かった。北の地には山々が連なり、それを背景にして黒い雲が渦巻いているのが見えるのだ。それも一時の天気によるものではない。その黒い雲は老婆の言う通り、いつでもそこにあり、消えることはない。
「北のあの地に途轍もないお宝があると、あの地を目指した盗賊たちは数知れず。しかしひっとりも戻って来んらしい。皆、怪物に食べられてしもうたんじゃ、恐らくな」
老婆の話はほとんど真実なのだろうとリュカは思った。リュカにとって世の盗賊が宝を求め命を散らすことなど、今はどうでも良かった。盗賊が自ら宝を求めて怪物の塔に忍び込むなどと言うこととは違うのだ。ビアンカがその怪物の棲む塔に連れ去られてしまったという事実を知り、リュカはここでの話はもうこれで十分だと、シスターにも老婆にも礼を言わずすぐに教会を出ようと出口に向かった。
「あ、あの、旅の方、まさかこれからそこへ向かわれるおつもりですか?」
「一刻も早く向かわなくてはならないんです」
「ならぬ。お主も命を落とすぞ」
「僕の命なんかどうだっていい! 妻を助けに行かなくては……」
シスターと老婆の話を切り捨てるように、リュカは振り返りもせずに教会を出て行った。怪物の塔が北にある。リュカにとって情報はそれだけで十分だった。足早に教会を去るリュカの背中に神父は厳しい視線を送っていたが、リュカにとって神はいないも同然の存在だ。ただ妻ビアンカを救ってくれるのならば祈りでも何でも捧げようと思った。しかし神は天から皆を見ているだけで、結局は何もしてくれないのだと、リュカは神と言う存在に対してほぼ絶望に近い感情を持っていた。
あっという間に教会を出てきたリュカを見て、ピエールは不審な目を隠さずにぶつけた。ピエールとしてはリュカに少しでも休息を取って欲しかったのだ。リュカは双子が生まれたその時からほとんど眠らずに過ごしている。今はビアンカが連れ去られている緊急事態のため、気が張って眠気も飛んでいるのかもしれないが、それでも彼の体力は確実にすり減っている。その状態でこれから魔物の巣窟に向かおうという無謀をどうしても止めたかったが、上手く行かなかった。
「北の地に怪物の塔があるらしい。ビアンカは間違いなくそこに連れて行かれたんだ」
「リュカ、ビアンカ、ダイジョウブ。アンシンシテ」
ガンドフがそう言う時、リュカは大抵心が落ち着き、ガンドフの言う通りなのだと冷静になることができた。ガンドフは仲間思いの優しい魔物だ。しかし妻が攫われたという今、ガンドフの言葉はむしろ焦りを感じるものになっていた。ガンドフが大丈夫と言えば言う程、ビアンカは危機に晒されているのではないかと言う思いがリュカの頭を過る。一刻を争う時、リュカの気持ちは急くだけだった。ガンドフの言葉がたとえ真実であっても、既に曇ってしまったリュカの心には届かなかった。
「リュカ殿、本当にこのまま向かうおつもりですか? あなたはグランバニアの国王なのです。王であれば国の兵を動かし、王妃を救出することを考えるべきではないのでしょうか?」
「ピエール、国って言うのはとんでもなく動きが遅いんだ。ビアンカを助けに行くまでにいろいろと話し合って、段階を踏んで、許可を取って……そんなことをしている時間はないんだよ。ビアンカは今、危機に晒されているんだ。今助けに行かなきゃいけないんだ」
「仰ることは分かります。しかしあなたは……」
「僕の言うことに文句があるならついてこなくていい。ピエールは城に戻っていろ」
「戻るわけには参りません。あなたがそうと決めたことなら、私はついて行くのみです。ただ私はあなたの身を案じているだけです」
ピエールの言っている意味もリュカは理解していた。敵はただビアンカを攫ったのではない。王妃を攫ったのはリュカをおびき寄せるためなのだろうとリュカ自身もその状況を推測していた。このままリュカが敵の根城に向かえば、それは敵の思う壺なのだろう。それが分かっていながらも、リュカは自ら妻を助けに行くことを止めることなどできなかった。
恐らく父パパスも同じ気持ちだったに違いない。当時国王だったパパスも魔物に攫われた妻マーサを探し求める旅を続けていた。リュカの母マーサには魔物に対する特別な力があったらしく、そのために魔物に連れ去られたという話だが、パパスは妻を求めて果てしない旅を数年にわたり続けた。パパスも国の者たちを頼りにしていたのでは手遅れになると思い、そして自身の手で妻を救い出したいという思いがあり、また救い出せるのだと信じていた。その思いは恐らく子供のために母を連れ戻すのだという強い思いがあったに違いない。
まだ生まれたばかりのティミーとポピーが突然母を失うことなどあってはならないとリュカは強く思っていた。双子の子供たちのためにも、すぐに母であるビアンカを救い出し、子供たちの元へと帰す必要があるのだと、リュカは思っていた。子供には父親だけではなく、母親が必要なのだ。生まれたばかりのまだ生命力の弱い小さな赤ん坊を見て、リュカは自然と母親の必要性を見出していた。
このような強い思いを抱くことができるのは、ティミーとポピーの親である自分しかいない。リュカはその思いに囚われ、ただひたすらに妻ビアンカを救うという思いだけに囚われていた。
「大丈夫だ、僕たちはこれまで何度も危機を乗り越えてきた。必ず僕たちの手でビアンカを救い出す」
リュカの怒気を孕んだ声に、プックルが同調するように吠える。その一人と一匹の覚悟を見て、ピエールももう彼らを止めることを諦めた。ガンドフは辛そうに一つ目を細め、リュカを見つめる。既に朝が訪れ、教会は朝日を浴びて眩しく白く光っているように見える。一方で北にそびえる山々の辺りには晴れない雲が漂い、そこだけが夜に覆われているような景色だ。リュカはその景色を睨むように見つめながら、仲間たちとその場所へ向かって進み始めた。



険しい道のりではなかった。拍子抜けするほど目的の地には早くに着いた。プックルの鼻を頼りにすることもなく、途中障害となる大きな山や崖があるわけでもなく、魔物とも数回遭遇したがリュカやプックルの怒気の前に怖気づいて逃げてしまったり、力を出し切る前に倒れる魔物がほとんどだった。リュカにはこんなところで倒れてはならないという信念があり、そして今までの旅の経験で積んだ自信があった。幾多の危機を仲間たちと乗り越えてきた実績はリュカの中で確実に自信となっている。それが追い風になっていたのか、リュカの前に立ち塞がる魔物はいなかった。
半日歩いたところで、リュカたちは敵の根城の前にたどり着いた。グランバニアの北に常に存在する黒い雲の下には、恐ろしい怪物が棲むと言われる双子の塔が聳え立っていた。魔物の城のようなものなのかもしれないと、リュカは高くそびえる塔を憎々しげに見上げる。明らかに人工物である塔だが、一体いつからこのようなものがここに立てられているのかは誰も知らない。もしかしたらこの塔を建造するために、何人もの人間が奴隷として働かされていたのかも知れないし、元々人間が使っていた建造物を魔物らが乗っ取り、使っているだけなのかも知れない。
この双子の塔ができた経緯やそれまでの歴史などは、今のリュカにとってはどうでもよいことだった。この場所に間違いなくビアンカがいる。それだけでリュカはこの塔への侵入を試みる十分な理由を得ていた。
双子の塔の上には黒雲がかかり、怪物が棲むと言われる雰囲気を漂わせている。しかしこれまでに旅をしてきたリュカは双子の塔の持つ様相にひるむなどということはなかった。いかにも禍々しい空気をまとわせている塔だが、リュカには怪物たちが生み出す禍々しさに勝利する自信があった。この塔の持つ負の空気に負けてしまうことは、妻を失うということ。絶対に負けられないという思いの下、リュカはビアンカを救い出すことだけを思い、無事に妻とグランバニアに帰り、彼女に再び双子を腕に抱いてもらうことだけを頭の中に描いていた。
双子の塔の周りは静まり返っていた。本当にこの塔の中に魔物が棲んでいるのか不思議に思う程、何の物音もしなかった。ただ上空に垂れこめる暗雲のために景色は暗く、塔自体は灰色に染まっていた。リュカは堂々と正面に位置する大きな扉に向かって歩いていく。
「リュカ殿、お待ちください」
ピエールが小声でリュカを呼び止める。プックルはピエールが声をかける前に身構え、塔の陰から現れた者に鋭い目を向ける。ガンドフはその大きな身を隠すでもなく、不思議そうにその者を見つめる。
塔の陰から現れたのは人間の男だった。その者の身なりが一般の旅人に類する者であれば、リュカは話しかけてみただろう。しかしその男は明らかに盗賊風情の者で、魔物を警戒するというよりも、辺りを警戒しながら塔の周りをうろついている。そして堂々と姿を現しているガンドフと、鋭い眼差しを送っているプックルと目が合うと、身をかがめながらその場で固まってしまった。
「オロオロ……。兄さんったら、どこで待ってるんだろ? ボク一人じゃ死んじゃうよお……」
情けない声を出す男はどうやらこの場所で兄を待っているらしい。一人でこの怪物の根城のような塔に忍び込むのはさすがに無謀とも言える。余程頼れる兄なのだろう、弟は兄さえくればこの危険極まりない塔に忍び込むことも問題ないと考えているらしい。
足を震わせながらリュカの仲間の魔物たちに立ち向かおうとする男だが、リュカは相手にしないことにした。盗賊と言う者に対し、リュカは到底良い感情は抱いていない。王家の証を手に入れるために入った試練の洞窟で、カンダタと言う大盗賊と遭遇し、死ぬ思いをした。カンダタと言う盗賊に仕事を依頼したのは恐らく大臣なのだろうが、それ以上にあのカンダタと言う盗賊に対してリュカは未だに恐怖を覚える。悪いことを悪いと思わないその心は既に魔物以上に魔物であり、リュカにとっては通じるものがない相手だった。
頼りない盗賊がプックルやガンドフを牽制しながら、じりじりと移動する。当然人間であるリュカにも気づいているが、魔物を連れた人間と話が通じるとも思わないようで、盗賊はそのまま正面の大きな扉の隙間から身体を滑り込ませるように中へ入って行った。その直後、扉の内側から激しい音が聞こえ、恐らく盗賊が危機に晒されているのだろうということが窺えた。
「面倒なことに巻き込まれたくないから、こっちの入口から入ろう」
盗賊は塔の中にいる魔物に見つかり、戦闘に巻き込まれているのだろう。リュカには盗賊を助けるという気もなかった。このような禍々しい雰囲気を持つ塔に忍び込み、宝を漁ろうとしているのだから、それなりに腕に覚えのある盗賊なのだろう。宝を盗むという行動に加担したくはないし、何よりもリュカは先を急いでいた。
三つある塔の入口の内、左側の扉に近づき、耳をそばだてて中の様子を窺う。プックルもガンドフも何も反応しないところを見ると、中に魔物はいないようだった。リュカは静かに扉を開けた。中からはこの塔に似つかわしくない、淡い緑色の優しい光が溢れ出してきた。
中には大きな円形の空間が広がり、その中心に緑色の光の柱がぼんやりと浮かび上がっていた。小さな部屋ほどの大きさの緑色の空間を、リュカたちは過去にもどこかで見たような覚えがあった。魔物のために建てられたようなこの塔に似つかわしくないこの緑色の光の柱には、癒しの効果があるのだとリュカたちは知っていた。
「これは助かりました。ここで体を癒して行きましょう」
ピエールが迷うことなく光の柱の中へと入って行く。するとピエールの身体を包み込むように光が溢れ、回復の力を発揮した。数秒でピエールは気力も体力も充実した様子で光の中から再び出てきた。
「火山の洞窟で同じような場所がありました」
ピエールがそう言うと、リュカもプックルもガンドフも同じ場所を探索したことを思い出した。サラボナの辺りを旅していた時に、炎のリングを見つけるために入った火山洞窟で、ここと同じような不思議な癒しの空間があった。果たしてこれがどのようにできているのか、いつからここにあるのかなど、考え始めればキリがない謎ばかりが生まれるが、とにかくこの場所では体力も魔力もすべてを回復することができるのだ。
「これはここにいる魔物たちが使うものなのかも知れないね」
「そうかも知れません。しかし使えるものは使うのがよろしいかと」
「ここで使わない理由なんてないよ」
魔物たちが生み出したものと考えれば、この癒しの光を悪魔の光と見る人間もいるかもしれない。そして怖気づき、いかにも神々しいこの光に近づかないで済ませてしまう人間もいるだろう。しかしリュカにとって、この場所が魔物が生み出したかどうかなど、どうでもよいことだった。もしかしたらこの光の中には呪いがかけられているかもしれないと言われても、迷わず飛び込んだだろう。それほどリュカはすべての力においてすでに尽きかけている状態だった。
癒しの淡い緑色の光はリュカもプックルもガンドフも同じように包み込み、癒した。空間内に光が溢れ、目を開けていられないほどだった。リュカは目を瞑り、身体を癒してくれる光の力に集中した。リュカの中に積み重なっていた疲労が取り払われ、分解され、白い光の中に溶け込んでいく。代わりに栄養も休息も、今のリュカに必要なものすべてが身体の中に入り込む。この淡い緑色の光の中だけは時間の流れも違うのかも知れない。リュカは短時間の休息と言うわけではなく、しっかりと眠れたような休息を取れた感覚があった。グランバニアの城を勢いで飛び出してきた時とは違い、城で十分に休み、旅支度も整え、腹も満たされたようで、状態が完全に回復したのを身体全体に感じていた。
癒しの光から出ると、リュカは頭の中がすっきりと澄み渡っているのを感じた。ビアンカをすぐに助けに行かなくてはならない。その思いは当然変わらない。しかし気力も体力も魔力も回復したことで、今の状況を冷静に考えることができるようになった。
今、リュカは一人で行動しているのではない。仲間がいる。これまで長い月日旅をしてきた頼れる魔物の仲間たちだ。一人でビアンカを助けに行くなどと無謀なことをどうして考えてしまったのだろうかと、今の状態であれば反省することができた。リュカは同じように全てを回復した仲間たちを見つめ、「行こう」と一言声をかける。リュカのその落ち着いた声で、プックルもピエールもガンドフも、彼が自身を取り戻したのだと理解した。
「ここは敵の根城。十分用心して進みましょう」
「分かってる。……いや、分かってなかったよ。僕を止めてくれてありがとう、ピエール」
「がうがうっ」
「うん、ビアンカは絶対に僕たちで助ける」
「ビアンカ、ダイジョウブ。ゼッタイ、ダイジョウブ」
「そうだね、絶対に大丈夫だ。敵がビアンカを連れ去った理由は、きっと、僕だから」
リュカは当然の様に魔物の魂胆が分かっていた。しかしこれはリュカだけではない。恐らく今も城にいるサンチョもオジロンも、敵の考えていることには気づいているはずだ。それ故にサンチョはリュカを絶対に城から出すなと兵士たちに命令をしていた。リュカが敵の所へ行けば、それは敵の思う壺だった。敵となるものはただ、グランバニア王となったリュカの首が欲しいだけなのだ。
敵の思う壺となっても尚、リュカは自分自身でビアンカを救い出す必要があると考えていた。それはグランバニア王としての務めでもあった。かつて妻であるマーサを連れ去られ、救い出すために旅に出たパパスは旅先で命を落としてしまった。それはグランバニア国の中に影を落とし、国民の活力を奪ってしまった。リュカはその歴史をひっくり返したい思いを抱えていた。自身がこの手で無事王妃を救い出し、グランバニアに帰還する。そうすればグランバニアの国にも活力が生まれ、国が豊かになることに結び付くだろう。
そのためにもリュカは必ず無事にビアンカと共に国に帰らなければならなかった。そしてリュカにはその自信もあった。今までの旅での経験や、共に長く旅をしてきた信頼できる魔物の仲間たちがいる。今ならばどれほどの強敵が現れようとも、リュカには勝利する自信が溢れていた。
「ピエールの言う通り十分用心して……でも急いでいくよ」
リュカは戻った体力を持て余すほどの勢いで、回復の間を出ると再び正面に位置する大きな扉に向かって早足で歩き出した。



塔の正面の扉を入った先には巨大な柱が数本立っており、その後ろには壁が広がっていた。巨大な柱はまるでどこかの神殿で見るような美しいもので、それらが整然と並ぶ光景を目にするとここが魔物の棲みつく塔だということを忘れてしまいそうだった。しかし一方で、リュカたちの歩く床には悪魔の彫刻が施されており、今にも床が動き出し、悪魔がリュカたちに襲いかかりそうな形相をしていた。これほど大層な塔に棲みつく魔物たちのことだ。もしかしたらこの悪魔の彫刻にも罠が仕掛けられているのかも知れないと、リュカは仲間たちに呼びかけながらそれらを踏むことなく先に進んでいった。
正面は壁に阻まれていたが、壁を避けるようにして進めば道は続いていた。分かれ道があるわけでもなく、壁の向こうに続く道の先には上階に登る階段が見えた。幸いにも魔物の姿はない。魔物の塔とは言え、人間の城や町のように出入り口に門番がいるわけでもなく、この塔での暮らしを守っているわけではないらしい。魔物の塔と人間に恐れられているために、まさか人間がこの場所を襲ってくることもないだろうと、特に守りを固めることなくこの場所に棲みついているのだろう。先ほど、この扉から侵入し悲鳴を上げていた盗賊の男は、運悪く魔物に見つかってしまったのかも知れない。
周囲への警戒を怠らず、用心しながらリュカたちは上階へと上った。階段の先にも魔物の姿は感じられない。この塔には道と言う道があるわけではなく、広い空間を壁で仕切っているだけの形をしているようだった。塔の二階にも壁が広がり、しかし壁と壁との間に真っ直ぐに伸びた一本道が続いていた。既に外は夕闇に包まれている時刻だが、塔の中には要所要所で明かりが灯っている。魔物しかいないこの塔でこれほどの明かりが必要なのだろうかとリュカは思ったが、理由はどうあれ今のリュカにとっては好都合だった。
「道はここにしか続いていないみたいだね」
「ここにも魔物の気配がしませんね……」
怪物が棲みつくと言われている塔にその気配がしないことを、ピエールは訝しんだ。塔は高く、魔物らは塔の上層部に集中しているのだろうかと、ピエールは集中して辺りを窺う。プックルも同じように真剣に周囲の気配を感じ、ガンドフも全身で敵の気配を感じられるように集中して耳を澄まし目を凝らす。しかしやはりリュカたちのいる塔は静かで、ただ微かに風が通る音が聞こえるだけだった。
道は一本道で他に行く場所もないため、リュカを先頭に彼らは壁に挟まれるような狭い一本道を素早く進んでいった。一本道の先には揺れる明かりが見え、道の先には再び広い空間が広がっているのが分かる。その空間に出る際にはリュカも用心深くゆっくりと周囲を窺った。
新たに出た空間には上に上る階段があった。一本道の通路の先に見えており、リュカはすぐさまその階段を上るつもりだった。空間には他に床が二か所、怪しげに明滅し、何かの仕掛けがあるのは明白だったが、魔物の塔にある仕掛けなど信用できるものではないと、リュカは真っ直ぐ階段に向かって進もうとしていた。
その時、二か所の床が激しく光り、リュカたちは思わず目を瞑った。目のくらむような激しい閃光の後には、何もいなかった空間に魔物が現れていた。まるでリュカたちがこの場にいることを知っていたかのように、現れた魔物たちは余裕を示した表情で突然リュカたちに襲いかかってきた。
咄嗟に抜いた剣でリュカは突き出された槍を全力で払った。衝撃に手が痺れ、思わず顔をしかめる。しかしすぐに異なる方向から槍を突き出され、リュカは後ろに飛び退いた。服をかすめたが、傷を負うことは免れた。
現れたのは不気味な青色をした猪の顔をした魔物が二体と、ガンドフほどの大きさの獅子の顔をした巨大な魔物が一体。猪の顔をした魔物のことはサンチョから話を聞いていた。オークキングと言うオーク族のエリートで、蘇生呪文ザオラルが使えるということだ。外見からはおおよそ蘇生呪文が使える雰囲気を感じなかったが、恐らくこの魔物が蘇生呪文を使用できる理由は、仲間を思う心と言う理由ではないのだろう。戦える味方の駒が減ってしまっては戦いが不利になるからと言う単純な理由ではないかとリュカは思った。同じザオラルと言う呪文でも、魔に染まった魂を持つ者が使う呪文は、呪文の性質が異なるのかも知れない。
もう一体の獅子の顔を持つ巨体の魔物は、手を四本、足を四本持ち、普通の獅子のように四つ足で走ることができ、上体を起こしたまま四本の手で容赦なく相手に攻撃を仕掛けてくる。青紫色をした立派な鬣に、やはりオークキングと同じような魔に染まった力を感じる。このアームライオンと言う魔物のことはサンチョからも聞いたことがなく、初めて遭遇する魔物だった。四本の手に四本の足を持つ異形の姿は、それだけで人間に恐怖を与える。
しかし長年旅をしてきたリュカにとっては恐れを感じる対象ではなかった。恐れなど感じてはいられない状況でもあった。とにかくビアンカを無事助け出さなくてはならない。それだけを考えれば、目の前の巨大な獅子にも仲間と共に立ち向かうことができた。
オークキングもアームライオンも、はっきりとリュカと言う人間を敵として見ていた。この塔に侵入してきた人間がグランバニア国王であるリュカと言うことを、魔物たちは認識しているかのようだった。楽し気にすら見える敵の様子に、リュカは冷静に怒りを感じていた。ビアンカを連れ去り、リュカをおびき寄せ、ゲームでも楽しんでいるような様子の魔物に、リュカは容赦なく切りかかって行った。
魔物たちはリュカと言う小さな人間を甘く見ていた。旅装姿も戦士とは程遠く、剣を装備しているものの、盾や鎧などは一切身に着けず、非力な旅人にしか見えなかったのだ。リュカがプックルと共に飛びかかってくると、その勢いと怒声にオークキングもアームライオンも圧倒された。リュカが勢いのまま、オークキングの槍を弾き飛ばす。リュカの持つパパスの剣は、パパスがグランバニア国王となって以来、長年持ち続けていた剣だ。国王が手にする剣だけあり、かなり鍛えられたもので、既に幾年もの月日が流れたがその強さは健在だった。
リュカの怒りの力に触れ、プックルもガンドフも虎や熊のごとく大いに暴れた。槍を弾き飛ばされたオークキングの顔面にプックルの強力な前足が襲いかかる。勢いのままに飛びかかられたオークキングはそのまま床に倒れ、プックルに思い切り噛みつかれ悲鳴を上げる。普段は少々鈍重なガンドフも、向けられた槍を素早くつかむとそのままへし折り、遠くへ投げ捨ててしまった。武器を失ったオークキングに殴りかかられても、ガンドフは痛みもそのままに倍以上の拳の打撃を浴びせ、オークキングを床に倒した。すかさずその上に飛び乗り、敵の反撃する間を与えることなく倒してしまった。
リュカもアームライオンの手に切りかかり、腕の一本に深手を負わせる。しかしアームライオンは他の手でリュカの身体を掴もうとする。その手にピエールが切りかかる。アームライオンに比べれば小さな生き物のリュカとピエールだが、その小ささを利用してすばしっこく動き回り、アームライオンの目を攪乱させる。アームライオンはあくまでも標的をリュカに見定めているため、ピエールはその状況を利用して次々と獅子の手に剣で切りつけて行った。
四本すべての手に傷を負ったアームライオンは思うように攻撃を繰り出せなくなった。痛々しく腕を振るうが、その動きは鈍く、リュカたちには当たらない。弱っても尚逃げずにリュカを仕留めようとするその攻勢に、仲間の魔物たちは危機を感じ、プックルもガンドフも一斉に飛びかかり、最後はピエールがとどめを刺して戦闘は終了した。辺りは再び静かになり、塔内で燃える灯りの音が耳に響いてくるようになった。
「……みんな、ありがとう」
リュカはこの塔の敵が明らかにリュカだけを狙っていることが分かった。仲間たちもそれに気づき、リュカを守るようにして戦い抜いた。この塔の魔物はただ塔に棲みついているだけの魔物ではない。明確な指示を受け、行動している魔物なのだとリュカたちははっきりとそのことを理解した。
「やはりついてきて正解でした。リュカ殿を一人で行かせていたら、今頃は……」
「リュカ、ビアンカ、ダイジョウブ。ガンドフ、マモルヨ」
彼らの言葉はグランバニア王としてのリュカに対する兵士のようなものではなく、これまでずっと共に旅をしてきた仲間に対する言葉だった。互いに失うことはあり得ないのだと、リュカも自身に言い聞かせる。
「僕を守ってくれるのはありがたい。だけど今は、第一にビアンカを……」
「分かっています。ですがあなたが倒れては元も子もありません。もしあなたが倒れたら、ビアンカ殿は一体どれほどの苦痛を味わうでしょう」
ピエールの言葉も十分に理解しているつもりだったが、やはりリュカにとっては自分の命などどうでもよく、ただただビアンカを救い出し、双子の子供たちの元に帰してやりたいと思うだけだった。ただひたすらに彼女の幸せを奪うものたちを許せなかった。
「がうがうっ」
プックルが怪し気に明滅を繰り返す床をじっと見つめながら吠えたてる。今にも床が激しく光り出し、再び魔物が送り込まれてくるのかも知れない。リュカたちは無駄な戦闘は避けるべく、突き当りにある階段に向かって走り出し、上へ上へと上っていく。

Comment

  1. ケアル より:

    bibi様。

    さすがのリュカも、人が変わって口調が怖くなってしまいましたね。
    それをさっした初期モンスターメンバー。
    やっぱりbibi様、プックルは勿論、ピエールとガンドフには思い入れありますよね。

    いよいよデモンズタワー!
    岩を落として竜の炎を交わす描写と、ジャミの前のレブルアップキメラとオーク。
    どのように描かれるのか、わくわくです!

    今回の話は、リュカの心情をどのように表すか…なかなか難しかったと思います。
    うまく表現できていて、リュカの気持ちに入れましたよ。

    • bibi より:

      ケアル 様

      いつもコメントをどうもありがとうございます。
      大事な人の危機なので、口調もいつもと違う厳しいものになりました。恐らくかつてのパパスも同じような状況だったのだろうと思います。
      救出メンバーはこのメンバーになりました。スラりんには城で待っていてもらうことにしましたが、本当は連れて行きたかったです。
      実際に最近私がDSでDQ5をプレイした時に組んだメンバーです。ゲームのままで行くことにしました。
      デモンズタワーはゲーム上では成り立つ存在なのですが、一体何故あの場所に魔物の塔があるのかとか、あの火を噴く竜の像と岩の関係とか、いろいろと解いて行かなければならない箇所があるので、ちょっとその辺りを検証中です。うまく検証できなかったら……強引に話を進める可能性もあります(汗) その際は温かい目で見てやってください。
      リュカはこれからますます厳しい態度や口調になるかも知れません。彼がかなり追い詰められている場面なので……。

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