試練の洞窟へ

 

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「ところで坊ちゃん、今のうちに申し上げておきたいことが……」
サンチョの背負っていた大きな荷物は今、馬車の荷台にすべて乗せてある。サンチョが扱う武器は大金槌で、かなりの重量がある。グランバニアを出て初めこそ平気な顔をして大きな荷物を背負いながら大金槌を手にして歩いていたサンチョだが、しきりに顔の汗を拭う回数が増えていった。そんな彼の姿を見てさすがに問題があると、リュカはサンチョの背中の荷を下ろさせ、馬車に乗せることにしたのだった。
「そんな真剣な顔をして……何か嫌な話?」
それまでは朗らかに話をして歩いていたというのに、急に顔つきを変えたサンチョを見てリュカも当然の様に身構えた。グランバニアを包み込む森は深く、パトリシアの引く馬車は延々と木々の中を進んでいく。木立ちの間は馬車の通れる広い道があり、サンチョの案内する試練の洞窟はその先にあるようだった。木々の陰を歩くため直射日光を避け、体力を温存できるのはありがたかった。テルパドールへ向かう時の砂漠の旅の経験がある一行にとっては、むしろ快適さすら感じられる旅が続いた。
「まあ、あまり良い話ではありません。今、私たちが向かっている試練の洞窟ですが、私はその場所を知っているだけで、中に入ったことはありません。ですから、中がどのようになっているかは坊ちゃんご自身で確かめなくてはなりません」
「そんなに広い場所なのかな?」
「それも良く分かりません。坊ちゃんがグランバニアに戻る前、私は一度試練の洞窟の様子を見に来たことがありましたが、魔物が出入りしている入口付近を見ただけで中の様子までは確認しておりませんので……」
パパスやオジロンが試練の洞窟で王家の証を手にした当時は、洞窟はまだ魔物の出入りなどなく、じっくりと試練と向き合うことができた。しかし今はその試練の洞窟に魔物らが自由に出入りしてしまうほど、世界の魔物は増えてしまっている。サンチョは当初、試練の洞窟内の様子も確認しようと思っていたが、入口付近に魔物たちが群がっているのを見て身の危険を感じ、そのままグランバニアに引き返したのだった。
「ですがこれまで長い旅をして経験を積まれた坊ちゃんですから、難なく王家の証を手に入れることができると思います。このサンチョも全力を尽くして支援して参ります」
「うん、よろしくね、サンチョ」
サンチョの言葉をリュカはさほど重く受け止めてはいなかった。今のリュカの頭の中にあるのは、グランバニアでお腹の赤ん坊と共に自分を待つビアンカの存在だ。彼女とお腹の子のためにも、リュカは早く試練の洞窟で王家の証を手に入れ、グランバニアに戻らなければならない。それだけを考えていた。本当のところ、リュカにとって王家の証を手に入れるという国王継承の儀式など、どうでもよいことなのだ。リュカは先代国王パパスの息子で、正当な王位継承者であることを国中に認めてもらうために、王家の証が必要というだけであって、リュカ自身にとってその証は特に意味を持たないものだ。父の跡を継ぐということは、王位を継ぐということ。その覚悟を決めたリュカにとって、王家の証を手に入れるという儀式はただの飾りに過ぎない。
今はただ、一緒に旅に出られなかったビアンカのことが気がかりだった。少し動けるようになったからと言って何か無茶をしていないか、また具合が悪くなって倒れたりしていないか、お腹の子に何かあったらどうしようなどと、リュカはそのことをしきりに考えていた。グランバニアへの旅でかなり無理をさせてしまった後悔があるため、彼女には静かにゆっくりと休んでいて欲しいのだが、恐らくリュカの想像通りにビアンカが大人しくしているとは思えない。それが想像できるだけに、リュカの心の中には不安が渦巻いている。
「今までの王様はみんな、試練の洞窟で王家の証を取ってきたんだよね? 洞窟に魔物が棲みついているかも知れないけど、仲間もたくさんいるし、きっと大丈夫」
「ほんとーにだいじょうぶかー? このへんのマモノ、つよいからきをつけろよー」
言葉の内容とは裏腹に軽い口調で話すミニモンに、リュカのすぐ隣を歩くプックルが「ぐるるる……」と反応する。その声はミニモンに対して何かを言っているのではなく、周囲を警戒している声だった。耳が前を向いてピンと立っている。集中して周囲の様子を探っているようだ。
「リュカ殿、恐らく近くに魔物がいるようです」
プックルの様子を見ながら、ピエールが小声で知らせる。プックルのじっと耳を澄ましている様子を見て、リュカにもその状況にあることが分かった。しかし近くには多くの木々が立っているだけのように見える。以前はここに人工の建造物があったのだろうか、大きな石の塊が木々の陰に隠れるようにちらほらと見えるが、生き物の雰囲気は感じられない。森の草地に野ウサギやリスくらいはいるかも知れないが、魔物の気配は感じられないとリュカは首を傾げながら周囲の様子を窺っていた。
突然、石の塊がゆらりと動いたように見え、リュカはふと足を止めた。それは見間違いではなく、大きな石の塊は更に大きくなり、まるでそれ一つが小屋のような大きさにまでなってしまった。しかしその形は人型で、手足があり、頭がある。二本足で立ち、リュカなど簡単に踏みつぶしてしまいそうな大きな足で、地面を踏み鳴らしている。
「あれはこのグランバニア周辺に生息するストーンマンです。体が石なので鈍重な魔物ですが……もう見つかってしまいましたね」
サンチョがそう言いながら大金槌を肩から振り下ろす。全身が石でできた巨大な魔物ストーンマンは頭をぐるりとリュカの方へ向け、光る目でじっとリュカを見下ろしている。その視線に生気は感じられない。ただ機械のように動き、人間を襲う魔物として存在しているだけだ。ストーンマンはリュカを敵とみなし、その周りにいる仲間たちも敵とみなしたようだ。そして目の光を何かの規則に従って明滅させると、その周りにあった石の塊も二体動き出し、同じようにリュカたちのことを見据えた。
「ちょっと馬車で逃げるのは難しそうだね」
森の中は多くの木々が立ち、馬車が通れる道は限られている。馬車は多くの荷物を運び仲間を休ませることができるという良い点がある反面、どうしても動きが制限されてしまう。他に類を見ない怪力のパトリシアならば、たった一頭でも多くの荷や仲間を運び、辺りがだだっぴろい草原や土の地面ならばその脚力を生かして逃げることができる。しかし今リュカたちが進んでいるグランバニアの森の中ではその特性が生かせない。
ストーンマン三体は動きが遅いながらも徐々にリュカたちとの距離を縮めてくる。彼らは人間の造った建造物の一部だったのか、体全体に規則正しく石が積まれて固められているような状態だ。サンチョの扱う大金槌ならストーンマンの石にも通用しそうなものだが、リュカやピエールの扱う剣では攻撃を加えるのは難しそうだ。
リュカの隣でずっと低い唸り声を上げていたプックルが、ストーンマン一体に向かって駆け出していく。ストーンマンの光る目はじっとプックルを見つめているようだ。プックルが飛びかかり、ストーンマンは石の腕でその攻撃を受け止める。プックルの前足の強い攻撃により、ストーンマンの石の腕に傷がついたが、プックルはストーンマンの腕に弾かれて地面を転がった。プックルの攻撃を受けても、ストーンマンはまるで堅固な建物のようにその場から少しも動かなかった。プックルは再び飛びかかるタイミングを見ている。
突然、リュカの後方から火が飛び出した。それはリュカを越えてストーンマンに向かっていく。ミニモンの唱えたメラミの呪文がストーンマンに命中し、石の一部が黒く焼け焦げた。ストーンマンは焼け焦げた肩を気にするように手でさするが、痛いという感情があるわけではなさそうだ。彼らは攻撃を受けて倒れる時が来ても、恐らく痛みを感じないまま倒れていくのだろうとリュカはストーンマンの表情のない顔を見ながらそう思った。
リュカがバギマの呪文を唱えるのと同時に、ピエールもイオラの呪文を唱えた。同時に放たれた呪文は勢いを増し、ストーンマン三体に向かって襲いかかる。森の中で派手な爆発音が響き渡り、木々に止まっていた鳥たちが一斉に空に飛び立っていった。同時に呪文を浴びせたのが功を奏したのか、ストーンマンの体は一部が欠けたり、腕が動かなくなったりと確かな攻撃を加えることができたようだ。しかしやはり痛みは感じないようで、動かなくなった腕を不思議そうに光る目で見つめている。
その隙を見計らって、大金槌を携えたサンチョが一体のストーンマンに向かっていく。サンチョの身長は今となってはリュカよりも低い。しかし大金槌を振り回せる力と技術をリュカは持っていない。サンチョは扱いに慣れた大金槌をいとも軽々と振り回し、ストーンマンの足にまるで森中に響くような打撃を与えた。ストーンマンの足はその打撃に耐え兼ね、大金槌の当たったところから大きなヒビが入り、膝から下が完全に取れてしまった。足をついて立てなくなったストーンマンはもう戦うことができず、ただその場でうずくまるのみだ。
一体のストーンマンを仕留めたサンチョの背後に、他のストーンマンが近づいていた。大きな打撃を与えることのできる大金槌だが、その重さ故に動きが鈍くなる不利がある。逃げることはできないと、サンチョは振り向きざまに大金槌を盾代わりに構え、ストーンマンの大きな拳の一撃を受け止める。直接の攻撃こそ免れたが、ストーンマンの一撃は到底防ぎきれるものではなく、サンチョのどっしりとした体が矢のように飛んで行った。草地に吹っ飛ばされたサンチョだが、受け止め方を心得ているため、大した怪我にはならなかったようだ。
「坊ちゃん、一気に参りますよ」
すぐに立ち上がったサンチョを見て、リュカは場違いにも嬉しさを感じていた。サンチョと肩を並べて戦っている状況を、リュカは今まで心のどこかで夢見ていたのかも知れない。そんなリュカの夢の中には当然、父パパスの姿もあった。父とサンチョと共に戦うことができればと、子供の頃に思ったことがあった。父と二人で旅をしていた時は、どうして自分はまだ子供なのだろうと常にどうしようもない事実を責めていた。今、その全てではないが、夢の一部が叶ったのだ。リュカはサンチョの背中を見ながら、父の使っていた剣を固く握りしめた。
「ピキーッ!」
激しいスラりんの声が響く。馬車を進める旅の中で、戦闘の場面に遭遇した時、スラりんは常にパトリシアの安全を確保する役割を担っている。今もパトリシアの背に乗り、彼女を危険な目に遭わせないようにと目を光らせている。そして近づく敵がいれば、スラりんも果敢に敵に飛びかかっていくのだ。
リュカが馬車を見ると、そこにはストーンマンよりもずっと大きな顔があった。両脇に二本の角が生えた不気味な兜を被り、兜の脳天の所には赤い宝石が埋め込まれている。そして、体がなかった。その魔物は兜だけで存在しているようで、地面に置かれたような状態で、兜だけがカタカタと笑うように動いている。
「な、何でしょうか、あの魔物は……」
「きもちわるいだろー。あいつ、のろいのマスクっていうらしいぞー」
ピエールが身震いする傍で、ミニモンが子供の無邪気な声で普段の調子で説明する。リュカも馬車の方を見て、魔物の姿を確認したが、呪いのマスクの内側から漏れ出て来るような邪悪な空気に、ピエールと同じように思わず身震いしてしまった。
「あの魔物はすぐに倒さないとマズイ気がする。あっちから先に……」
リュカが攻撃の相手を改めようとした時、残りのストーンマン二体がリュカとプックル、ピエール、サンチョの前に立ちはだかった。少し気を抜いた瞬間にストーンマンは間を詰めていたようで、突然リュカの目の前にストーンマンの拳が飛んできたように見えた。咄嗟に両腕を前に出して防御しようとしたが、サンチョのように大金槌を持っているわけではない。ストーンマンの攻撃を受けた父の剣こそ折れなかったものの、リュカは思い切り吹っ飛ばされ、森の太い木に身体を叩きつけられた。慌ててリュカの回復に向かおうとしたピエールも、もう一体のストーンマンの大きな手に無造作に掴まれ、そのまま地面に叩きつけられてしまった。悲鳴を上げることもできず、ただ息の詰まったような音が口から洩れただけだ。
空から戦況を見ているメッキーが慌てて二人を回復しに行く。ベホマを使えるメッキーだが、どちらか一人を回復していたら、もう一人の回復が間に合わないと気づいた。倒れるリュカとピエールにストーンマンがそれぞれ一体ずつ迫っている。リュカに迫るストーンマンにサンチョが大金槌を振るうが、ストーンマンはその衝撃に耐え、更にリュカに近づいていく。木に叩きつけられたリュカも、地面に投げつけられたピエールもまだ起き上がることが出来ない。
メッキーはリュカとピエールを同時に助ける必要に駆られた。ベホマの魔力を更に高め、今この場にいる仲間たちへ意識を集中する。仲間の傍に近づき回復呪文をかけるのではなく、空にいながらにして仲間に回復呪文を届ける。頭の中にイメージを描き、メッキーは仲間たちに回復呪文をシャワーのように上から降り注がせた。ベホマラーの呪文を浴びた仲間たちは一斉に体力を取り戻す。木の根の上に倒れこんでいたリュカは体が軽くなったようにすぐに立ち上がり、迫るストーンマンの拳を避けた。リュカのいた場所の大木がストーンマンの一撃で派手に倒れる。ピエールも地面から飛び起き、踏みつぶされそうになったストーンマンの大きな足から飛びのいた。地面に衝撃が走り、大きな足跡が残った。
「坊ちゃん、私はあちらに加勢して参ります」
サンチョが見ているのは馬車を取り囲む呪いのマスクの集団だ。いつの間にかその数を増やしており、既に五体の呪いのマスクが馬車を取り囲んでいる。馬車近くにいるのはスラりんとキングスだけだ。スラりんが何度かニフラムの呪文で呪いのマスクを何体かかき消していたが、それでもまだ五体の魔物が残っており、放っておくとまだ魔物の仲間が増えそうな雰囲気だ。キングスも大きな体で何体かの魔物を蹴散らしている。しかし今はどういうわけか、不自然に止まったまま呪いのマスクの攻撃を一方的に受けているような状況だ。
「サンチョ、ちょっと待って。サンチョはこっちに残って。プックル! メッキー! スラりんたちに加勢して! 馬車を守るんだ」
リュカの命令に即座に応え、プックルとメッキーは風のように馬車の方へと駆け出し、飛んで行った。気分屋で普段は甘えるような態度も見せるプックルだが、戦闘時においてはリュカの言葉にすぐに従う。それは昔から気心の触れた戦友の感覚を持ち合わせているからだ。
「サンチョはもう一度あいつの足を狙って。あと一回できっと倒せると思う」
リュカが見据えるストーンマンは先ほどリュカの襲いかかってきた一体だ。既にサンチョの大金槌の一撃を受けており、大きな石の足には大金槌の痕がくっきりと残っている。動く度にそこから石の破片がぼろぼろと出ている。
リュカはすぐにバギマの呪文を唱えた。目くらましのつもりで唱えた呪文に、ストーンマンはすぐに反応する。真空の刃に襲われる中、ストーンマンはただじっと真空の嵐の中で呪文に耐えている。その最中、サンチョがストーンマンに大金槌を振るう。既に打撃を受けていた右足に再び同じほどの打撃を受け、ストーンマンはその場に崩れた。右足が完全に割れ、膝から下が離れてしまい、バランスが保てなくなった。その状況を見て、リュカはすぐにもう一体のストーンマンに目を向ける。
ピエールとミニモンが同時に呪文を唱えて、巨大な爆発を起こしていた。イオラとメラミの爆発の中で、もう一体のストーンマンがやはりじっと呪文に耐えている様子が見える。炎と爆発の衝撃は凄まじく、ストーンマンの石の体がぼろぼろと剥がれていく。元来、質の良い石で造られているわけではないストーンマンは同時に放たれた呪文の威力を受け、大分その形を失った。動きの鈍くなったストーンマンに、サンチョが大金槌でとどめを刺し、石の巨人との決着は着いた。
馬車の方からプックルの地を揺るがすような雄叫びが響いた。仲間ですらその声に思わず立ち尽くしてしまいそうになる雄叫びに、呪いのマスクの大半が凍り付いたようにその場に固まった。カタカタと不気味に笑うように動いていた魔物たちは、まるでただの地面に置かれたマスクのように固まり、マスクの奥から滲み出る邪気もいくらか弱まったように感じられる。
スラりんのニフラムの呪文が輝く。まるで心地よい極楽に連れて行かれるような輝きに、呪いのマスク二体が吸い込まれていく。光のかなたに消え去る瞬間、呪いのマスクは断末魔のような凄まじい叫び声を上げた。邪悪に染まった魔物が光に吸い込まれるのは、人間が地獄に連れて行かれるような感覚なのかも知れない。
キングスの巨体が呪いのマスクらを徐々に退ける。キングスが弾き飛ばして近くの木にぶつけた呪いのマスクは割れ、中から黒い煙が上がったかと思うと、その動きを止めてしまった。実態のない魔物で、マスクの中には魔の念だけが込められているようだ。
途中参戦したプックルも素早く攻撃を仕掛けていく。ストーンマンにはさほど手応えを感じていなかったプックルだが、呪いのマスクには戦い甲斐を感じているようで、まるで楽しむように次々と呪いのマスクに飛びかかっていく。好きなだけ暴れられる環境を存分に楽しんでいるんだなと、リュカは複雑な気持ちを抱きながらプックルを見つめる。
呪いのマスクとの戦いにリュカたちが一斉に加わると、戦況は一気に決まった。呪いのマスクはマスクの内側から不気味な黒い煙のようなものを出し、敵を煙に包んでしまうことがあるが、それは敵の動きを封じ込める呪いだった。先ほどキングスが動けなくなっていたのはこの呪いのせいだった。一時的な効果とは言え、その間に一斉攻撃などされたら、ひとたまりもない。リュカは呪いの攻撃など受けないようにと、一気に仲間たちと攻め込み、呪いのマスクが残りの一体となった時に敵が逃げたのを見て、ようやく落ち着いてパトリシアの様子を見た。彼女はやはりそこらの馬とは違い、この戦闘の状況にあっても騒ぎ立てることもなく、むしろ近くにきた呪いのマスクを一体蹴り飛ばすほどの強気を見せていた。パトリシアも立派な旅の仲間なのだ。
「みんな、大丈夫?」
「メッキーのおかげで、大怪我をしている者もいないようです」
「ッキッキー」
『メッキー、すごいじゃないか、ベホマラーが使えるんだね』
リュカの声に、皆が一斉にリュカを見る。しかしリュカは一人、ミニモンを見る。ミニモンは口の中の小さな牙を見せながら、カカカッと笑う。
「うまいだろー、リュカのまねー」
「なんと、今のはミニモンが喋ったのですか?」
「私もてっきり坊ちゃんが話されたのかと……口調までそっくりでしたね」
「がうがうっ」
俺は騙されてないからなと言わんばかりに、プックルがむきになって吠える。しかしその実、プックルもしっかり騙されていた。ミニモンの声真似は似ているというレベルを超えているのだ。本人そのものになりきって声を出している。
「そういえばそのベホマラーって呪文、本で見たことがある気がする。僕にはできそうもないやって諦めてたけど、メッキーが使えるんだ。凄いや」
「まさか回復呪文のシャワーが浴びせられるとは思いませんでした。あれはまた変わった現象ですね」
「仲間たち全員を回復できるんだよね。あっちこっちにいる仲間と回復するってどうやるんだろうって思ってたけど、あんな風になるんだね」
リュカは改めて魔物の仲間の呪文の使い方に驚いていた。ピエールやマーリンは人間の言葉が使えるためか呪文の詠唱時には言葉を口にする。しかしメッキーやスラりんは人間の言葉を話さない。しかしそれで魔物の言葉を口にして呪文を詠唱するわけでもない。彼らは特に言葉を発しなくても呪文を唱えることができるのだ。彼らの呪文の言葉は頭の中に思い描き、心の中をそのイメージで満たしているだけだ。以前、マーリンが『呪文の言葉は人間が勝手につけたものだ』というようなことを言っていたが、本当にその通りだとリュカは思った。非常に純粋な呪文の特性を、人間が難しくしてしまっているのだ。
「さあ、どうにか敵も倒したし、先に進もう」
「試練の洞窟へはあと半分くらいは歩くことになるでしょう。ここからは北寄りの道になります」
「日暮れ前には着くようにしないとね。暗くなったらこの森は危険だ」
「やはり以前よりかなり魔物の数が多くなっています……。気を引き締めて参りましょう」
旅からグランバニアに戻りもう数年が経っているサンチョだが、グランバニアにいる間も彼は国の周辺を調べるために外の世界を出歩いていたのだろう。恐らく人生の半分以上を旅に費やしているサンチョは、リュカよりも旅の上級者だ。サンチョの落ち着いた物腰に、リュカも安心して再び馬車を進め始めた。



しばらくの間森の中の旅が続いた。途中、突然の大雨に見舞われることもあったが、深い森のおかげでそれほど雨に濡れることもなく、試練の洞窟への旅は順調に進んだ。グランバニアを出る際に食糧も馬車にいくらか積んでおいたが、森の中にも食用の実がなっていたりするので、ひもじい思いをすることもなく、交代で馬車で休みを取りながら一行は進み続けた。
深い森を出ると、そこにはこれまでの森とは正反対のような砂漠の景色が広がっていた。しかしテルパドールで見たような無限に続くような砂漠ではない。砂漠の中に岩山があり、その岩山を背にして何か小さな建造物があるのをリュカたちは目にした。建造物はかなり古いもので、魔物たちの仕業なのか、入口の壁の装飾が割られて壊されたりしている。その装飾が鷲を象っていたことは分かった。鷲はグランバニアの紋章に使われているものだ。
「どうにか日暮れ前には着きましたね。良かった良かった」
柔らかくなった夕方の日差しにもこめかみの汗を拭いながら、サンチョがそう言った。試練の洞窟は砂漠の中にぽつんとあり、東から迫る夕闇の中で見るその建造物の姿に、リュカは思わず寒気を感じた。古びた古代遺跡のような佇まいに、リュカは幼い頃に父の後を追って、父の最期を目にしたあのラインハットの東の遺跡を思い出してしまったのだ。
「ぐるるる……」
リュカのただならぬ雰囲気を感じたのか、それともプックル自身が試練の洞窟に嫌な雰囲気を抱いたのか、低い唸り声を上げる。リュカはプックルが今の自分の気持ちを共有しているのかも知れないと、そう思っていた。
「リュカ殿、この洞窟の入口、馬車は入れそうもありませんね」
ピエールにそう言われ、リュカはふと現実に戻された。試練の洞窟の入口は人一人がやっと入れるほどの狭さだ。それというのも、本来この洞窟は国王となる者の資質を確かめるために造られた場所だ。国王となるべき者一人でこの洞窟に入り、その資質が試される場所なのだ。今では魔物によって入口も壊され、いくらか入口が広くなっているとは言え、とても馬車やパトリシアが入れる広さはないようだ。
「パトリシアと馬車はここに残ってもらうしかないか……。それと馬車を守る仲間にも残ってもらわないといけないね」
洞窟の中も魔物の巣窟となっていることは間違いないが、洞窟の外にも当然魔物の群れが現れる可能性がある。パトリシアと馬車を守るためにも、リュカは洞窟探索組と待機組とに分ける必要があった。
「私はここに残ります」
真っ先に待機組に名乗りを上げたサンチョに、リュカは正直驚いた。試練の洞窟の中のことを知らないとは言え、サンチョは共に洞窟の探索をしてくれると思っていたのだ。
「どうにも嫌な予感がするのです……。何かとは申し上げられませんが、私はこの場でパトリシアと馬車と、坊ちゃんをお守りしようと思います」
サンチョの予感は実ははっきりとしたものだった。それは試練の洞窟に向かう最中、ずっと感じていたものだった。リュカの王位継承に異を唱えるグランバニアの大臣の存在だ。今や魔物の巣窟となってしまった試練の洞窟へ、従来と同様に試練を行うべきだと初めに言ったのは大臣だった。オジロン王は試練の洞窟の状況も以前とは変わり危険極まりないとして、国王継承の儀式を省略する考えを示していたが、大臣は国王の考えを通さなかった。あくまでも古来よりある儀式を行うべきだとして、リュカが試練の洞窟に向かうよう仕向けたのだとサンチョは感じていた。
大臣の思惑がリュカを試練の洞窟へ向かわせることならば、この場で何かが起きるに違いないと、サンチョは最も危険と思われる出入り口を守ろうと考えたのだ。リュカが王家の証を手に入れることができたとしても、外側から出入り口を塞がれてしまっては、それで終いだ。この小さな試練の洞窟の入口を外側から塞いでしまうことはさほど難しいとも思われない。そうしてリュカを帰れない状況にし、大臣が『あの者は試練に敗れてしまったようですな』といやらしい笑いを浮かべる姿が、サンチョにはありありと想像できた。
「サンチョ一人でここを任せるわけにはいかないから、他にも残ってもらわないと……」
リュカがそう言って仲間たちを見ると、プックルは当然のごとくリュカの隣に座り、頑として動かない状態だ。リュカを隣で守り、リュカと共に戦うのだという意気込みは他の誰にも負けないという思いがある。そしてリュカを傍で守りたいと強く思う仲間がもう一匹、ぼよんぼよんと前に進み出てきた。
無言でリュカを見つめるキングス。彼はどうやら言葉を発しないようで、キングスの声を聞いたことがなかった。馬車で移動している最中にも、誰とも言葉を交わすことなく、黙々と進み続けていた。しかしコミュニケーションが取れていないわけではなく、ミニモンの話に笑顔を見せていたり、ピエールの言葉に静かに耳を傾けていたり、スラりんを王冠の上に乗せて遊ばせたりと、仲間とのやり取りは確かにあるようだった。
「キングス、一緒に来るの?」
リュカの問いかけにも声で答えることはなく、ただその場で跳ねて頷いたように見せた。キングスのリュカを見つめる目はまるで保護者だ。マーサの子供であるリュカに何かがあってはいけないと、心配する気持ちがその大半を占めている。
「わかった、じゃあ一緒に行こう。僕とプックルとキングスと……」
「私が参りましょうか。見知らぬ場所の探索となれば、回復役がもう一人必要でしょう」
「そうだね、ピエールにいてくれたら心強いや。そうなるとメッキーはサンチョと一緒に馬車を守る方に残ってもらって、スラりんにはしっかりパトリシアを守ってもらって……」
「おれもこのうま、まもるぞー」
リュカが考える間もなく、ミニモンが自らそう宣言した。しかしその実、ミニモンはただ外の世界を楽しみたいだけなのかも知れないとリュカは思った。久しぶりにグランバニアよりかなり離れた土地に来て、ミニモンは楽しいのかも知れない。まるで子供の遠足にでも来たような感覚で、ミニモンは夕暮れの砂漠から望む森の景色を眺めている。
「ちょうど二手に分かれる形だね。お互い、後で必ず無事で会おうね」
「坊ちゃん、重々お気を付けください。そしてきっと王家の証を手に入れてきてください」
「うん、絶対に見つけてみせるよ。みんなのためにもね」
リュカはサンチョの言葉を深く胸に刻んだ。王家の証を手に入れ、グランバニアの王位を継承すること。それは初め、一人の旅人に過ぎないリュカにとって途方もない出来事のように思えたが、サンチョと共に見て回ったグランバニアの国は紛れもなく亡き父の残した国だった。現国王であるオジロン王も決して評判の悪い国王ではない。しかし先代の王パパスは今でも国民から慕われ、旅の途中で亡くなった事実に今も悲しみ悔やむ者がいる。リュカの心の中には、そんな偉大な国王を奪ってしまったのは自分なのだという自責の念がある。
現国王のオジロンに国王の座を勧められ、幼い頃から見知ったサンチョに後押しされれば、リュカにその権利を断る理由はない。むしろ父の残した座を自分は受け継ぐべきなのだと心に決めていた。幼い子供のせいで先代の国王を失ったグランバニアに、リュカは責任を感じているのだ。
試練の洞窟の入口の両脇には鷲を象ったグランバニアの紋章が彫られている。魔物の仕業でところどころが壊れているが、二匹の鷲は洞窟に入ろうとする者を静かに見つめている。リュカはその紋章に父を思いながら、仲間たちと洞窟の中へと足を踏み入れた。



試練の洞窟の中は不思議な薄い緑色の光で満ちており、視野に困ることはなかった。グランバニアの城下町も魔法の明かりで町全体が照らされているが、この洞窟には更に強い魔力が込められているようで、洞窟全体が薄い緑色の光に照らされ、どことなく癒しの雰囲気を感じることができた。実際に体力が回復するわけでもなく、傷が治るものでもないが、その落ち着いた雰囲気に心が休まるのを感じる。
「本当ならグランバニアの国王になる人だけがここに入るんだもんね。特別な雰囲気なのも分かる気がするよ」
「しかしやはり魔物の巣窟となっているようですな。この長い通路の先に魔物の気配を感じます」
ピエールの言う通り、リュカもその雰囲気は既に感じていた。目の前には真っ直ぐに伸びた一本の道があり、壁が薄い緑色の光を放っているためまるで神秘的な場所にでも行けそうな雰囲気があるが、実際にはその先に魔物がいる。今リュカたちがいる入口付近も、壁が一部壊れていたりと、洞窟内に潜む魔物の仕業と見られる痕がある。
「とりあえずここにいなくて良かった。この一本道を行っても挟み撃ちされることはないね」
「先に進んでみましょうか」
真っ直ぐに伸びる長い通路をリュカたちは一列になって進む。先頭にリュカ、続いてプックル、その次にキングス、最後尾にピエールが続く。キングスも悠々通れるほどの広い道幅を見て、リュカはこの先キングスほどの大きな魔物にも遭遇するかも知れないと気を引き締めた。
途中、下り階段を下り、更に続く通路を進む。リュカが最後尾のピエールに声をかけて後ろの状況を確認する。後ろからの敵の襲来はないと確認し、リュカはじりじりと前に進む。
通路が終ると、そこにはだだっ広い空間が広がっていた。天井はドーム型に造られ、一面薄緑色の光をぼんやりと放ち続けている。木の根が洞窟内を侵食していたりするが、洞窟内の神聖な雰囲気は保たれている。しかしそんな場所にも関わらず魔物は徘徊していた。
一見、人間の女性のように見えたが、すぐにそれが魔物だと気づいたのは長い髪の向こうに見える肌が赤紫色をしていたからだった。未だかつて、そのような肌の色をした人間にリュカは出会ったことがない。しかし人の形をしているその魔物は言葉が通じるのではないかと、リュカは話しかけてみようかとしばし考えた。
人間の女性の形をした魔物は踊るようにくるくると回ったり、飛んだり跳ねたりしながら、一つの扉の前に立ち、扉を開けるとその中に入って行ってしまった。わざわざ魔物を追いかけることもないと、リュカは改めて冷静になって周りの景色を見渡した。
魔物が入って行った扉の他にも、三つの同じような扉があり、どれもが閉じられていた。扉にはどれも同じグランバニアの紋章である鷲が象られ、その全ての目がリュカを見ているようだった。そして丸い部屋の中央に、ぽつんと大きな台座が置かれている。とにかく四つの鷲の扉を前にして、何も分からないリュカは台座に近づいて見ることにした。
「とりあえずあの魔物が去ってくれて良かったですね」
踊り子のような魔物は扉の向こうから戻ってくる気配はない。ピエールはリュカと共に並び、落ち着いて台座の様子を確かめることにした。
「何か書かれているようですが……」
「うん。ちょっと読んでみるね」

【王たるべき者 けしてあらそいを許すべからず
 たがいに背を向ける者あらば 王みずから出向きて ただしく向かい合わせるべし
 すべては紋章の導くままに……】

「これだけでは分かりませんね」
「とにかく先に進んでみろってことだよね。さっき魔物が入ったところとは違う扉に入ってみようか」
先ほど魔物が入って行ったのは四つ並ぶ扉の内、左から二番目の扉だった。リュカはなるべく危険からは避けるようにと、その扉からは最も遠い一番右側の扉に入ってみることにした。扉に象られた鷲の目が鋭くリュカを見つめる。実際には扉に施された彫刻に過ぎないのだが、扉自体にも洞窟全体と同じような魔法が施されているのかもしれないと、リュカは鷲の目を見つめながらそう思った。
プックルが扉の前に止まり、両耳をじっと傾ける。扉の向こうに魔物の気配はないようだ。リュカが扉に手を当てると、青白く光る扉は重々しくゆっくりと開いた。いかにも魔法の施されていそうな扉だったが、特にこの扉自体には何も特別なものはないようだった。リュカは用心しながら扉の奥を覗き、奥に小部屋があるのを見た。
一番後ろからキングスが大きな体を細めて扉を通っても、青白く光る扉は自ずから閉まることもなく開いたままだ。プックルが扉の外に向かって両耳をピンと立て、小さく唸るような警戒の声を出したため、リュカは音を立てないようにゆっくりと扉を閉めた。プックルは小部屋の外に魔物の気配を感じていたようだ。
扉を閉めると小部屋の中は静寂に包まれた。耳鳴りが聞こえるような静けさに、リュカは自分の足音の大きさに思わず身を縮こまらせた。
小部屋の壁も薄緑色で、その色で仄かに部屋の中を照らしている。四角い部屋の中には二つの大きな像が置かれていた。大きな石の台座の上に、大きな石の鷲の像が乗っている。ここにも魔物が出入りしているのだろうが、鷲の像はどこも壊されておらず、造られたその時のままの姿をとどめている。鷲の像がまるで生きているかのような迫力に満ちており、その姿に畏れをなして魔物らも壊そうという気になれないのかも知れない。
「この部屋にはこの石の鳥しかないようですが……どこかに道が続いているわけでもなさそうですね」
ピエールの言葉の通り、小部屋にはこの鷲の像が二つあるだけで、他には何もない。壁から薄緑色の光が出ているためか、通常は壁に取り付けられるような燭台もこの試練の洞窟には一つも見当たらない。壁にも床にも何も装飾が施されているわけではなく、のっぺりとした空間が広がっているだけだ。
「さっきの魔物が入って行ったところからしかどこかに行けないのかな」
リュカたちはこの小部屋に入る前に、踊る魔物が四つ並ぶ扉の左から二番目に入って行ったのを目にしている。この洞窟に棲む魔物ならばこの洞窟を知り尽くしている可能性は大いにある。魔物が進んでいった道をついて行くべきだったのかもしれないと、リュカは小部屋に置かれる鷲の像を恨めし気に見る。
「あまり気が進まないけど、さっきの魔物の後を追いかけてみようか」
「それがいいかも知れません。それではこの部屋を出ますか?」
「うん、一度出てみよう」
リュカとピエールが話をしている間も、プックルは小部屋の壁際を、キングスは鷲の像の周りを手持無沙汰な様子で歩いていた。プックルは小部屋の壁際を歩きながら、床を前足でがりがりとかいたりしていた。キングスは鷲の像の周りをぴょんぴょんと跳ねながら、時によって全く風化していない鷲の像を物珍しそうに見つめていた。
その時、突然鷲の像が鈍い音を響かせながら動き、その音にリュカたちは何事かと小部屋の中を注意深く見渡した。二つの鷲の像が同時にゆっくりと動いている様子を、リュカは瞬きしながら見つめた。それまで一羽の鷲は小部屋の奥を、もう一羽は扉を向いていた像が、互いに回転しながらその向きを変えていく。
「何で急に動き出した……」
リュカが言いかけたところで、キングスが動く鷲の像を近くで見るためにその場を離れると、鷲の像はそこで動きを止めた。リュカはその状況にすぐに気がつき、キングスのところへ近づき、彼の近くを観察してみた。
二つの鷲の像の間に、一部の床が少しだけ飛び出している箇所を見つけ、リュカはその場にしゃがみ込んだ。非常に精巧に造られているこの試練の洞窟で、この一か所だけ造りが曖昧だったとは考えられず、リュカは少々飛び出している床に手を当ててみる。その床の石だけ、他の場所と比べて滑らかにできている。しかし手を当てただけでは何も起こらなかった。
「キングス、さっき、この上に乗った?」
リュカがそう聞くと、キングスは視線を上に向けて考える様子を見せ、次には大きく頷いた。キングスの返事を聞き、リュカは自分もその床に乗ってみることにした。キングスが乗って危険でないものは、リュカにとっても危険なものではないはずだ。
少々出ている床の一部に、リュカは飛び乗った。すると小さな「カチッ」という音と共に、鷲の像が二体、再び回転を始めた。明らかに足元の床がスイッチなのだと気づき、リュカはその床から下りてみた。鷲の像はぴたりと動きを止める。
「これ、絶対に何かあるよね」
今、鷲の像は互いに背を向けて立っている。鷲の像は二体が逆回転で回る仕様になっているようだ。一体誰がこのような仕掛けを考え、作ったのかがリュカには不思議だったが、グランバニアの城下町を照らす魔法仕掛けの明かりを考えれば、さほど特別なことにも感じられなかった。グランバニアという国はその昔、魔法に長けた国だったのかも知れない。
リュカは互いに背を向けて反対側の壁を見つめる鷲の像を見上げながら、ふと小部屋の外の台座のことを思い出した。台座には『王たるべき者 けしてあらそいを許すべからず』と書かれていた。一国の王が争いを好む性質を持っていては、国は間もなく滅んでしまう。国を治める王というのは、すべての者の調和を求めなくてはいけない。それには互いに向き合い、話し合う姿勢を以て初めて調和に向かうことができる。リュカは台座に書かれていたことの内容が胸に刻まれるのを感じた。
リュカは再び床のスイッチの上に飛び乗った。小さなカチッという音と共に、鷲の像がぐるりと回り出す。背を向けていた鷲が徐々に向きを変え、互いの顔が見えるようになってくる。ちょうど二羽の鷲が向き合ったところで、リュカはスイッチの床から静かに下りた。鷲の像は互いに正面から向き合い、争う姿勢を失くし、調和を取ろうと話し合いに応じる姿勢を取っているように見える。
「これで仲良くできるね。背中を向けてちゃダメだよ、同じ仲間なんだから」
そう言いながらリュカは鷲の像をぽんぽんと軽く叩く。生きているわけではない鷲の像は何も反応することもなく、静かに正面にいるもう一体の鷲の像を見つめている。
「しかしこれで何かが起こったわけでもないようですね」
「この部屋には他に何もなさそうだし、一度外に出てみようか」
「ああ、そう言えば外には他にも同じような扉が三つありました。魔物が入って行った扉も……」
「うん、あまり気が進まないけど、調べてみた方がいいだろうね。でもまずは隣の扉から調べてみよう。魔物が入って行ったのはその隣だもんね」
そう言いながらリュカが小部屋の扉に手をかけると、その直後、プックルが扉をぶち破るような勢いで飛び出していった。その様子にリュカは扉の外で魔物が待ち伏せしていたのだと気づき、慌ててプックルの後を追って小部屋を飛び出した。

Comment

  1. ケアル より:

    ビビ様更新お待ちしておりましたぁ。

    久しぶりの戦闘、楽しませて頂きました。
    相変わらず呪文の重ね技は、光るものがありますな!
    プックルの爪や、リュカとピエールの剣がストーンマンの岩には歯が立たないという描写、たしかにそうだな…て思いましたよ。
    ゲームでは、関係ないですが現実を考えると納得であります。

    ベホマラーの描写、さすがはビビ様!
    回復呪文のシャワーを降らせるとは、これまたステキな表現であります。
    でも…息子のティミーが使用した場合の表現は、どうしますか?。

    やはり、パトリシアは、あるいみ最強仲間です。
    魔物を一蹴りで仕留めるパワー!
    もしかしたらエビルマウンテンあたりでもパトリシアの会心の一撃が見れるかもしれないですね。

    サンチョが洞窟に入らないのは、想定外です。
    さすがはサンチョ!
    大臣の陰謀に気がつきつつありますね。
    でも、馬車防衛に残るということは、カンダタやシールドヒッポと、リュカの前に先に戦い、負けてしまうフラグ?。

    試練の洞窟、スーファミ版とは、かなりリメイクされ、仕掛が変更したみたいですね。
    銅像の仕掛…忘れていましたよ。

    次回は、すぐに戦闘になりますね。
    フラグにあったデビルダンサーの群れが待ち構えているのか…他の魔物、ガボット、呪いのマスク、ジェリーマン、メッサーラ、はぐれメタルがリュカたちを阻んでいるのか…先が気になります!。
    次回も楽しみにしています!。

    ジェリーマンのモシャス、ぜひ戦闘の描写に入れて貰いたいですビビ先生(笑み)

    • bibi より:

      ケアル 様

      早速のコメントをどうもありがとうございます。
      グランバニアに着いてからは色々とあったので、外に出ての戦闘は久しぶりでした。楽しく描かせてもらいました。
      ゲームではストーンマンにも爪や剣の攻撃は効きますが、実際にはどうかしらと考えると、私の中ではこうなりました。こういうところはゲームに準じてないんだよな……。
      覚えていく呪文の描写はいつも悩まされます。息子の時には、また違った描写を考えたいなぁと思います。
      パトリシアは馬用の鎧を装備させて戦闘メンバーに入れたいくらい、頼りになる仲間です(笑) ここぞという時に力を発揮してくれます。
      サンチョには洞窟の外で待っていてもらうことにしました。ゲームだと、ここまでサンチョを連れてくることもできないんですもんね。ちょっとイレギュラーなことをやってしまった手前、洞窟には入らないでもらいました。でも洞窟の外でも活躍してもらう……かな?
      洞窟の仕掛けはスーファミ版が一番苦労させられた記憶があります。いつまで経っても先に進めないっっっ、と(笑) ハードが変わるごとに仕掛けは優しくなるのかな。
      試練の洞窟も色んな魔物がいるので、どの魔物に出てきてもらうか思案中です。ジェリーマンは楽しそうですよね~。

  2. ケアル より:

    ビビ様もう一つ。

    プックルの、雄叫びが炸裂しましたね。
    仲間たちにも殺気を感じさせる吠え声。
    これから、雄叫びをプックルがやれば戦闘が楽になるかもしれませんね。

    リュカの相棒ですから、個人的には、武器を装備させてあげたいな…て思うんです。
    プックルだけ特権で人間が装備できるツメを戦闘中に装備できませんか?。
    どうか検討してもらえませんか?。
    お願い致します(礼)

    • bibi より:

      ケアル 様

      プックルにはこれからも思う存分雄叫びしてもらおうと思います。
      爪装備、私も考えたんですが、普通に考えるとちょっと無理があるんですよね。でもグランバニア特権を発動すれば……ちょっと考えてみます。でももし出てくるとしてもかなり後になってからかも……。気長にお待ちくださいm(_ _)m

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