エルヘブンへの思い

 

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「オジロンおじさんってやさしいんだよ。いつもナイショでおかしくれるんだ」
グランバニア城内を歩く靴の音が響く。すれ違う人々は敬礼をしたり、会釈をしたり、いずれもにこやかにグランバニア国王とその両側に付き添って歩いている王子と王女に挨拶をする。グランバニア王子のティミーはその度に元気に挨拶を返し、王女ポピーも静かながらもはっきりとした声で挨拶をする。子供たちの行き届いた礼儀作法に、リュカは自分が国王としているのが恥ずかしくなる時が何度もあった。
「内緒でくれるの?」
「うん、給仕の女の人に分かっちゃうと怒られちゃうんだって。食事がちゃんと食べられなくなるからって……。でもボク、食事もしっかり食べてるから大丈夫! オジロンおじさんが怒られるのはイヤだからね」
「ポピーももらうことはある?」
「うん、お兄ちゃんと一緒にね。オジロンおじさんはお城で食べないようなお菓子をくれるの。こっそり城下町に出てお菓子を買ってるんじゃないかな」
「オジロンさんが? さすがに城下町の人に分かると思うけどな、王様だし」
「王様はお父さんでしょ」
「あ、そっか」
リュカはそう言いながら、オジロンが子供たちにお菓子をあげてしまう気持ちが分かるような気がした。オジロンから見れば、ティミーもポピーも可愛い孫のような存在だ。玉座に座っていても、ティミーとポピーを見る時のオジロンの目はとても優しく、目尻が下がりきっている。リュカはオジロンの双子を見る表情を思い出し、そしてはるか遠くに思いを馳せる。
二人の本当の祖父が、グランバニアからはるか遠くの地である山奥の村に今も暮らしている。ビアンカの父ダンカンは娘を嫁に出し、危険な旅に出たまま便りが途絶えたことに不安を感じているに違いない。八年前、長旅の末、無事グランバニアに到着したことをビアンカがダンカンに知らせていることは一度話に聞いていた。ダンカンもまさかリュカが当時グランバニアの王子であり、パパスが国王であったことなど露ほども思っていなかっただろう。
ビアンカが山奥の村に便りを出し、恐らくそれが村に届かない内に、リュカとビアンカは行方不明となってしまった。ダンカンとしては娘からの便りに驚きつつも、無事目的の場所に着いたことを知って安堵していたに違いない。しかしそれから八年もの間、何も便りがないことにダンカンがどれほど心配しているのかを考えると、リュカの胸は強烈に痛む。
「どうしたの、お父さん?」
ダンカンにとってティミーとポピーはそれこそ可愛い孫たちだ。孫の顔を見せるために山奥の村に向かうことも考えるが、ビアンカがいない今の状況を一体義父にどう説明したらいいのだろうかとリュカは頭の中が真っ白になる思いがした。ダンカンにはもちろん、山奥の村まで出向いて、村の人々の前でビアンカが行方不明になったことなど説明できるわけがなかった。彼女はあの村で皆に愛され、大事にされていた。ただでさえ八年も音信不通の状況で、その上ビアンカが行方不明であることをリュカは彼らと面と向かって話す勇気を持てなかった。
「リュカ坊ちゃん! じゃなかった、リュカ王」
前から歩いてくるサンチョが、一人頭を悩ませていたリュカに呼びかけた。サンチョが他人行儀に頭を下げる姿を、リュカは険しい表情のまま見つめた。
「どうされました、リュカ王? 顔色がすぐれないようですが……」
「お父さん、疲れた? 少し部屋に戻って休んだ方がいい?」
サンチョとポピーが心配そうに話しかけてくる状況に、リュカははっと我に返った。山奥の村の義父のことは必ず考えなければならないことだが、今はサンチョに向かい合うことで一時的に気持ちを落ち着けるようにした。
「大丈夫、ちょっと考え事をしてただけだから。それで、サンチョ、どうかしたの?」
「ええ、大事な話をし忘れていまして」
その言葉にサンチョが山奥の村の義父のことを話してくるのではないかと咄嗟に身構えたリュカだが、彼の話は義父とは全く関係のないことだった。
「リュカ王が使っていた船はオジロンどのが兵士に命じて近くへ移動してくださいました。そのことをお伝えしたかったんです」
「船を? あの大きな船を移動させてくれたの?」
「はい。主にポピー様のお力によるものですが……坊ちゃんもお使いになるあのルーラという呪文で……」
「そうなの。私ね、これほど大きなものを一緒に運べるかなって思ったんだけど、お父さんが馬車をルーラで運んだことがあるって聞いたから、がんばってやってみたの」
「ポピー……君はすごいね、よくやったね」
ポピーの言う通り、リュカはルーラの呪文で馬車ごと仲間たちを運んだことがあったが、まさか船をルーラで移動させようなどとは考えたこともなかった。しかもポピーはまだ小さな子供で、決して様々な呪文に長けているわけではない。失敗することも考えられただろう。それでもあれほど大きな船をルーラの呪文で運ぼうと考えたのだから、リュカはまだ秘められているポピーの力に思わず感嘆した。
「ボクが『ルーラで運べばいいじゃん』って言わなかったら、みんなで船を押して山を越えるところだったよね」
「私もルーラで運ぶなんて、お兄ちゃん何言ってるんだろうって思ったけど、できないこともないかもってやってみたのよ」
「リュカ王、あなたのお子様方は本当に計り知れない力や才能をお持ちですよ」
サンチョの言葉には、ティミーが伝説の勇者だから、ポピーがその双子の妹だからということだけではなく、リュカとビアンカの子供達だからという特別な意味合いが含まれているようだった。更にはパパスとマーサの孫だからという意味まで感じられた。長年、グランバニアに仕えてきたサンチョにとっては、王子と王女は国の誇りであり、そしてやはりオジロンと同様に可愛い孫のような存在に違いなかった。
「船は兵たちにより定期点検も行っていて、いつでも出航できる状態です。現に私たちがリュカ王を救う旅に出ている時、使わせてもらったこともありました」
「とっても大きな船なのよね。魔物さんたちもみーんなのんびりできるくらい」
「ゴレムスも乗れるんだもん、誰だって乗れるよ、あの船なら」
「さすがに甲板の床が傷みましたけどね……」
リュカが石の呪いを受けていた八年の間に、ティミーもポピーもリュカが子供の頃には経験し得なかったような経験を積んでいるのだろう。リュカ自身、ゴレムスを船に乗せたことはなく、まさかあの船にゴレムスが乗れるとも思っていなかった。ガンドフよりもマッドよりも大きな石の塊であるゴレムスが船に乗れば、船は沈んでしまうのではないかとリュカならば考えてしまう。しかし子供である二人にそのような大人の常識は通じない。あれほど大きな船ならば誰だって乗れるに違いないと、疑うことなく信じることができるのだ。そのような彼らの純粋な考え方があって、リュカを助け出すところまでたどり着いたようにも思えた。
「たまには私も旅のお供をさせてくださいね。年老いたと言えども、このサンチョまだまだ若い者には負けませんぞ」
そう言ってにっこりと微笑むサンチョの顔には明らかに皺の数が増え、頭にも白髪がかなり目立つようになってきた。八年の経過であまりにも年老いたようにも見えたが、それはただ年月が経過したことよりも、リュカとビアンカを失いかけたことによる心労の方が原因であるのは明白だった。
「サンチョ、僕が旅に出るのを止めないんだね」
「……もう、腹を括りましたよ、私は。それにオジロン様がお認めになったのならば、一臣下の私が止めたところでどうにもなりません。もうただリュカ王についていくのみです」
「サンチョにはずっと迷惑をかけっぱなしだね……父さんの頃から」
「いえいえ、迷惑だなどと思ったことはございません。この国に、王に仕えることが私の誇りなのですから」
あくまでもにこやかに、穏やかな声で話すサンチョにリュカは頭が上がらなかった。サンチョがいなければ、もしかしたら父と自分は早くに命を落としていたかも知れなかった。サンチョの護りがあったからこそ、リュカもティミーもポピーもこうして生きていられると言っても過言ではないとリュカは思っていた。
「わたしたちサンチョと何度も旅をして、いろいろなことを教えてもらったのよ。ストロスの杖を探すときも一緒に行ったんだから」
「ストロスの杖って……あの、僕の石の呪いを解いた杖のことだよね」
「そうそう! 洞窟の奥深くにあったんだよね、あの杖。封印されててさ、すぐには取れなかったんだ」
石の呪いを解くような特別な魔力が込められた杖だからか、何者かの封印が施されていたようで、杖を手に入れるためにも彼らは苦労したようだった。八年の間にリュカが想像する以上の経験をティミーもポピーも積んでおり、知らない話を聞かされる度にリュカは子供たちの傍にいられなかったことを内心悔やんでしまう。
「サンチョってけっこう強いんだよ。でも最近はすぐにゼイゼイと息切れしちゃうようになっちゃったんだ」
その時の苦労を感じさせないようなティミーの明るい言葉と声が響き、サンチョはその言葉に苦笑いする。
「さすがに昔のようには参りませんからね。自分はまだ若いままでいるつもりなんですが」
石の呪いを受ける前、リュカはサンチョと共に試練の洞窟までの旅を共にしたことがあるが、子供の頃に頼りにしていた時と変わらず、サンチョは大きな斧を振り回して非常に頼りになる存在だった。今も同じ斧を武器として外で戦うことがあるのだろうが、昔ほどには体力が持たないということなのだろう。戦うことはできても、戦い続けることは難しいのかも知れない。
「お父さん、おばあ様の故郷には誰と行くつもりなの?」
ポピーの言葉より前に、リュカはそのことについて一人考えていた。母マーサの故郷に向かうための旅に、ティミーとポピーの二人を連れて行くことは決まっている。しかし国王と王子、王女だけで旅に出るなどと国民に知らせることはできない。マーサの故郷周辺にどのような魔物が潜むのかも分からないため、王子と王女の護衛となる者たちを連れて行く必要がある。
リュカは初め、子供たちと共に旅をしていたサンチョを連れて行こうと思っていた。しかし国王代理を頼んでいるオジロンを助ける役目でもあるサンチョが再び旅に出てしまえば、オジロンを困らせることになるだろう。これ以上オジロンに迷惑はかけられないと、リュカはサンチョにはこの城に残ってもらうことを考えていた。
「プックルは絶対に行きたがると思うよ!」
「ピエールも……自分からは言わないかも知れないけど、お父さんと一緒に旅に出たいんじゃないかな」
石の呪いを受けたリュカを助けに来た時も、プックルとピエールは彼らと共に行動していた。プックルもピエールもティミーとポピーと旅をすることには慣れていそうだ。リュカ自身も、彼らならばすぐに息の合った行動をとれそうだと確信している。
「私もお供に……と言いたいところですが、やはり私はオジロン様の傍について助けて参りたいと思います。坊ちゃんたちの足手まといになっても困りますからね」
サンチョは子供たちと共に旅をして、自身の体力が昔に比べてかなり落ちてしまったことを自覚しているようだった。そしてリュカを慕う魔物たちの強さを知っており、大事な王子と王女、そして国王を託せると判断したのだろう。
「みんなとも相談しないといけないね。勝手に決めたら怒られそうだし」
「あっ、でもゴレムスは行きたいんじゃないかなぁ。だっておばあちゃんと仲が良かったんでしょ?」
「それを言ったらキングスだって、スラぼうだって、ミニモンもサーラさんも、みんな一緒に行きたいに決まってるわ」
「じゃあ、魔物のみんなを連れてっちゃえばいいんだ! うわー、それってすごい楽しそう!」
「ティミー、そういうわけには行かないよ。この国を守るために、魔物たちにも残ってもらわないとね。……とにかく、後でみんなと相談してみるよ」
子供たちに話を任せると、魔物の仲間たちを皆旅に連れ出すことになりかねないと、リュカは一度その話を切り上げた。ティミーもポピーも楽しそうに真剣にこれからの旅を考えているようで、リュカはそんな二人を見ながら自身もこれからの旅を楽しむ気持ちになるのを感じていた。
歩いている途中でサンチョはオジロンの所へ戻り、リュカはティミーとポピーを連れたまま城下町へと降りて行った。階段を下りて左に向かえば、魔物たちが住む大広間に続く階段がある。リュカはそのまま大広間に向かおうかと思っていたが、ふと何者かの気配を感じ、ゆっくりと逆側を振り向いた。目が合ったシスターは一瞬驚いた表情を示しつつも、丁寧にリュカたちにお辞儀をする。
「オジロン様から聞きました。リュカ王の母上マーサ様の故郷エルヘブンに行かれるそうですね。どうかリュカ王に神の祝福がありますように」
リュカたちのエルヘブンへの旅は後日国民への発表がなされる予定だ。しかしオジロン自ら教会の神父とシスターへは事前に知らせていたようだ。もしかしたらオジロンはリュカにエルヘブンのことを伝える前、既に教会にはその旨を話し、相談していたのかも知れないとリュカはふとオジロンの優しい性格を思い出してそんなことを思った。
「シスターは母さんがエルヘブンの出身ということを知っていましたか?」
「話にお聞きしたことはあります。しかしマーサ様はご自分の故郷については何も語ろうとはしませんでした。ただその地方の名前を耳にしたことがあるだけです」
マーサはパパスと駆け落ちしてこの国にやってきたのだと、オジロンが口を滑らせるように話しかけたのをリュカは聞いている。一国の王となる人物と結婚するために何故駆け落ちする必要があったのか、リュカにはその意味が理解できなかった。エルヘブンという場所へ行けばその理由も分かるのだろうかと、リュカは小さく唸るように声を出す。
「マーサ様と共にこの国に来たゴレムスならば、何かエルヘブンのことについて知っているのかも知れませんね。ただゴレムスは言葉を持たないので、今まで誰もエルヘブンのことを聞いたことがありません」
「ゴレムスが? ゴレムスって一体いつから母さんと一緒にいたんでしょうか?」
「それも詳しくは分かりませんが、少なくともゴーレムという魔物はこのグランバニア周辺には生息しない魔物です。ですから私はマーサ様と共にエルヘブンから来たのではないかと思っているのですが……」
シスターの言う通り、ゴーレムという魔物をリュカは今までの旅の中で見たことがなかった。マーサが連れてきた他の魔物であるスライム、ミニデーモン、メッサーラ、キングスライムは八年前までの旅の中で遭遇し、戦ったこともあった。しかしゴーレムだけは一度も遭遇したことがない。グランバニア周辺でも、あの北の怪物の塔に向かう最中にも遭わなかった魔物だった。
「ほら! ボクが言ったとおりだ。ゴレムスが一番おばあちゃんと仲が良かったんだよ!」
「そんな風には言ってなかったじゃない、お兄ちゃん。でもシスターのおっしゃるとおり、ゴレムスが話したところって見たことないな……」
「ポピー様、ゴーレムは声を持ちません。そして本来は主人の命令に従って動く人形なのです。ゴレムスもマーサ様のお言葉を守って、今もこの国を守り、マーサ様を待ち続けているのでしょう」
シスターの話にリュカはまだゴレムスとしっかりと向き合ったことがないのだと気づいた。マーサがこの国に連れてきた魔物たちとはそれぞれに話をして、スラぼうもミニモンも、サーラもキングスもそれぞれにその性格などが分かっているつもりだ。しかしゴレムスに関しては、改めて考えてみると謎に包まれており、言葉を持たない上にゴレムスからリュカに近づいてくるようなこともないため、何も知らないのだとリュカは気づかされた。
「シスター、ありがとうございます。ちょっとゴレムスと話をしてみます」
「えっ? 話をですか? しかしゴレムスは……」
シスターの言おうとしていることを理解しながらも、今はゴレムスと会話をすることが必要なのだと、リュカはいそいそと魔物の仲間たちが控える大広間に向かう。その足取りは知らず軽やかで、リュカはゴレムスから母のことを詳しく聞くことができるかもしれないという高揚感に包まれていることに気づいていなかった。



「おや、国王ではございませんか。王子と王女まで。わざわざこちらまでどうされたのじゃ?」
「マーリン、そういう言い方やめてよ。今まで通り呼び捨てでいいよ」
「まあまあ、そうもいかんじゃろう。お主はこの城の王なのじゃから」
国王に向かって礼儀正しくというよりは、リュカをからかうように話しかけるマーリンが、椅子に腰かけながら膝の上に分厚い本を乗せていた。大広間には他に、メッキーにマッド、サーラ、キングス、そしてゴレムスがおり、その他の魔物たちは警備のために外へ出ているようだった。キングスとゴレムスは普段から仲が良いらしく、共にいる姿をよく目にする。そこへマッドが加わると、三体の魔物の大きさに広間が小さく見えるようだった。
「なんじゃ、エルヘブンへの旅の相談かの?」
まるでここに来るまでの会話を聞いていたかのようなマーリンの発言に、リュカは面食らいながらも思わずため息をつく。
「……オジロンさんは誰にどこまで話してるんだろう……」
「城下町にも既に噂が流れているようですよ。人の口に戸は立てられぬとはよく言ったものです」
「立てるつもりもなさそうだよね、オジロンさん」
「突然、国王が王子と王女を連れて旅に出ると聞かされるよりは、良いのかも知れませんがね」
落ち着いた声と表情で話すサーラを見ていると、リュカは彼がこの国の王に就いてもいいのではないかと思ってしまう。いっそのこと魔物の王を擁立して、新しいグランバニアを目指すというのも考える余地があるのではないかと、リュカはサーラを見ながらそのような景色が頭に過るのを感じた。
「エルヘブンまでの旅に誰を連れて行くか、相談しに来たわけですよね」
「まあ、そういうところかな」
「それで、ゴレムスは連れて行くと」
まるで予言者のように言い当てるサーラに、リュカは悪寒すら感じた。リュカが身震いするのを見て、サーラは小さく笑う。
「ここへきてまず、ゴレムスを見ましたからね、リュカ王。本来のあなたなら、先ずはプックルを捜すでしょうに」
「ティミー王子、ポピー王女、二人のお父上はまだまだ子供じゃ。これほど簡単に見透かされるのじゃからな」
マーリンが楽し気に笑うと、ティミーも「お父さんもボクたちとおんなじコドモだって~」とからかうようにリュカを見上げる。ポピーに至っては本気でリュカを心配そうに見つめている。
「ぐっ……そういうの、子供に言うのはやめてよね、マーリン」
「他には当然プックルにピエール、それにメッキーのように空を飛べる仲間を連れて行った方がいいじゃろうなぁ」
「ッキッキ!」
マーリンに名を言われたメッキーが嬉しそうに声を上げ、既にリュカたちと共に旅立つ気持ちを調え始める。他にも空を飛べる魔物としてミニモンとマッド、それにサーラもいるが、その中でも最も長い間空を飛ぶことに長けているのはメッキーだった。八年前までの旅でもメッキーは一行の先を行き、危険を察知すればすぐに知らせるという役目を自ら負っていたため、リュカもマーリンの勧めるメッキーを連れて行くことを考える。
「もう一人ぐらいは連れて行った方が良かろうなぁ」
マーリンがそう言いながら暗い部屋の中に視線を彷徨わせると、広間の中にいるキングスとマッドが揃って主張するようにリュカの傍に寄ってきた。キングスもゴレムスと一緒にマーサの故郷を見てみたいのだろう。一方マッドはただリュカと共に旅をしたいと言った調子で、リュカに甘えたような声を出している。この場にいない仲間たちも恐らく、外に出て旅をしたいはずだった。彼らはあくまでも魔物という生き物で、外の世界にいるのが本来の生き方なのだ。
「お父さん、やっぱりみんな一緒に行くっていうのはダメかな?」
「誰かを置いてっちゃうなんて、何だかかわいそう」
リュカも内心子供たちと同じ気持ちだった。しかし魔物の仲間たちにはこの国も守ってもらわなければならない。もちろん国を守る人間の兵士も多くいるが、実際にグランバニアの守りを固めるのは魔物の仲間たちの力が大きく、その役目は彼らも理解しているはずだ。八年ぶりにリュカが帰還を果たしたとは言え、まだマーサもビアンカもこの国に戻ってきていないのだ。彼女らを無事救出したとしても、彼女らを出迎えるこの国が危機に瀕していてはならない。
「私がお供してもよろしいでしょうか?」
最も予想していない申し出だった。サーラがリュカの目を覗き込むようにして申し出たことに、リュカは瞬きをしてその目を見つめ返した。
「サーラさんが?」
「はい。私もたまには外界に出て見分を広めなくてはなりません。それに……」
常に堂々としていて平静を保っているサーラが口ごもる姿をリュカは初めて目にした。サーラは言い辛そうに小声で本心を伝える。
「私も見てみたいのです、マーサ様の故郷を」
サーラのその言葉に、キングスが怒るように床にドシンドシンと跳ねた。それを見て、マッドも同じように、こちらは楽し気にドシンドシンと床に跳ねる。大広間が揺れ、まるで地震でも起こったかのような状況に、リュカは慌ててキングスとマッドを宥める。
「サーラさんは母さんの故郷を知らない?」
「ええ。ゴレムスからマーサ様の故郷について少々聞き出したことはありますが、それだけです」
「えっ? ゴレムスから聞き出したって……どうやって聞き出したの?」
ゴレムスは言葉が話せないと聞いているリュカは、サーラが一体どのようにしてゴレムスから話を聞きだしたのかが気になった。言葉を持たないゴレムスから何をどうやって聞き出せたというのか、リュカは思わず部屋の隅で静かに座っているゴレムスを見やった。
「ゴレムスは過去の記憶をそのまま持ち続けています。その記憶の中に、集中して私も入り込むのです」
「……それって、どうやるの?」
「上手く説明できないのですが、こう、ぐぐっと潜り込むように……」
そう言いながらサーラは左半身を斜め前に構え、どこか狭い隙間に入り込むような格好で大きな日本の角が生える頭をリュカの方へ突き出した。その時の状況を体現しているのだろうが、その表現で分かるのはサーラ本人しかいなかった。
「……サーラさんしかできないよ、そんなこと」
「そうね、人間にはできない気がする」
ティミーとポピーが言うように、リュカにもその特技はサーラにしかできないことなのだと思った。サーラ自身よく失敗もするようだが、時折ゴレムスの記憶を覗くことができるらしく、その景色の中にエルヘブンの土地の景色が映り込んだことがあったという。
「これはもう、サーラさんに決まりかな。ゴレムスのことを一番理解していそうだもんね」
リュカの言葉に、キングスが再び床に跳ね始める。隣のマッドは悪乗りするように一緒に跳ねている。恐らくこの場にいないミニモンもスラぼうもマーサの故郷を訪れたいと思うだろう。しかしやはりグランバニアの国を守るためには、仲間の内の半数は城に残ってもらう必要があるだろうとリュカは小さく唸り声を上げて考える。
「エルヘブンに着いたら、僕やポピーはルーラが使えるからすぐにグランバニアに戻れるんだ。そうしたら、今度はまたすぐにエルヘブンに行くこともできる。その時、必ずキングスたちも連れて行くって約束するよ。それじゃダメかな?」
マーサが連れていた魔物の中で最も古くから付き合いがあるのはゴレムスなのかも知れない。しかしキングスやスラぼう、ミニモンも既に二十年以上もの間マーサを待ち続けている。マーサの故郷を訪れたい気持ちに大した差をつけることはできない。皆、同じようにマーサという存在を待ち続け、追い求めているのだ。
それならば一度エルヘブンという土地を確認した後、再びゆっくりキングスたちをエルヘブンに連れて行くということで、彼らにもマーサの故郷を安全に見せてやることができるとリュカは素直に提案した。リュカもポピーもルーラという便利な移動呪文を使うことができる。ルーラを使えば、エルヘブンに一度訪れさえすれば、たとえその場所を立ち去ったとしても一瞬にしてまた戻ることができることを魔物の仲間たちは皆知っている。キングスはリュカの真剣で困ったような表情を見て、そして後に必ずマーサの故郷に行けることを信じて、大人しく床に跳ねるのを止めた。
「キングス、ありがとう、分かってくれて。ちょっと時間がかかるかも知れないけど、後で絶対に連れて行くからね」
キングスも普段は言葉を話さず、声を出すことも珍しい。この時もリュカの言葉にただ静かに大きな体を揺らしていただけで、声を発することはなかった。ただ少々悲しそうな表情の中にも理解した様子が見られたので、リュカは一先ず安心してキングスに改めて礼を述べた。
「でも他のみんなにもちゃんと話さないといけないよね。今、警備に出ているみんなはいつ頃戻ってくるのかな」
「まだまだ戻らん。昼過ぎにちらほらと戻るくらいじゃろう」
「そっか。それまでここで待ってようかな」
「何を言っておるか。お主はこの国の王じゃろうが。こんなところで油を売っとる場合か。はよ自分の仕事に戻らんか」
「え? でも、僕はまたすぐに旅に出るから、国王の仕事はオジロンさんが……」
「かと言って、ここで数時間も他の皆を待ち続けるのはあまり具合がよろしくありません。リュカ王はご自分の場所へお戻りください。エルヘブンへの旅については私たちから話しておきましょう」
「そうじゃそうじゃ。わしらから話しておくから、お主は王子と王女と上に戻っておれ。心配いらん、国王のお主が決めたことに逆らう者はおらん」
サーラとマーリンにそう言われ、リュカは眉をしかめ、いかにも苦々しい顔をする。一国の主の言葉に逆らう者はいないという状況が、リュカには好ましくなかった。国王の意見が何も疑問を抱かれないまま通ってしまうことは、国を危機に陥れることなのではないかとリュカはかつてのラインハットを思い出してしまう。
「そうだ、お父さん、ゴレムスには一緒に旅に行くって伝えた? 伝えてないよね?」
ティミーにそう言われ、リュカはこの大広間に来た目的を思い出した。シスターに聞いた話の中で、ゴーレムという魔物はこのグランバニア周辺では生息しておらず、恐らくエルヘブンの辺りにいる魔物であり、ゴレムスはマーサがエルヘブンにいた頃からの知り合いなのだろうということだった。その事実をまだゴレムス本人に確認しないまま話を進めていたことに、リュカは今初めて気が付いた。
リュカたちが話をしている間、ゴレムスはずっと静かに大広間の一角で座り続けていた。目を閉じているのか開いているのかもよく分からず、まるで壁の一部にでもなったかのように動かず、リュカたちの会話に何の反応も見せなかった。もしかしたら今の会話中、ゴレムスは眠っていたのではないかと思うほど、その姿は微動だにしなかった。
「ゴレムス、お父さんたちの話、聞いてた?」
先にとことこと歩いて近づいて行ったポピーが、座るゴレムスを見上げながら問いかける。ゴレムスはポピーが足元に来てもしばらくは静かなまま反応せず、本当に眠っているかのように動かなかった。
「ゴレムスは母さんの故郷を覚えてる?」
ポピーに続いてゴレムスの足元まで来たリュカが聞くと、ゴレムスはゆっくりとその場に立ち上がり、頭をかがめた状態で部屋を移動した。空洞になっている目の部分に小さな光を宿し、意思を持った動きでマーリンの所まで数歩で歩くと、マーリンが手にしていた呪文書をつまむように手にして広げた。呪文書の裏表紙には簡単な世界地図が描かれており、ゴレムスはその地図の一点を指差しているようだったが、大きなゴレムスの指で指し示された場所が一体どこなのか、誰にも分からなかった。
マーリンがよく使っているペンを渡すと、ゴレムスはそのペン先を少し見つめた後、慎重にペン先で地図の一点を指そうとした。ゴレムスの指し示す場所はグランバニアの北側に広がる海で、広い海の上にペン先を滑らせていた。リュカがオジロンに聞いた話は、エルヘブンの場所はグランバニアの北側に位置する大陸の中ほどということだったが、ゴレムスは北の海をペン先で示し、そのペンを更に北に向かって滑らせ、外海に出るような道筋をリュカに示していた。
「エルヘブンは海にあるの?」
リュカの言葉にゴレムスは反応しない。地図の上にペン先を滑らせているだけだ。ただ徒にそのような事をしているわけではないだろう。何か意味があって、その意味を伝えたくて、ゴレムスは同じ動きを繰り返してリュカに見せていることは間違いないようだった。
「陸地から行くのではなく、一度船で外海に出てから、北の大陸の東側から行く必要があるのかも知れません」
リュカが旅をしていた時に持ち歩いていた地図でも、オジロンがエルヘブンのおおよその位置を教えてくれた地図でも、エルヘブンがあると思われる場所周辺はただ森や岩山に覆われているだけの大雑把な地図が描かれているだけで、その中心部は全くの空白となっていた。世界地図の中では何箇所かそのような空白の部分があるが、空白の部分というのは決まって険しい土地柄であり、到底人が住むような場所ではないという印象があった。しかしその中にも人々が暮らすエルヘブンという地があるとすれば、その地に入るには特別な生き方をしなくてはならないのかも知れないと、リュカもゴレムスの指す海にじっと目をやった。
「エルヘブンを覚えてるんだね、ゴレムス」
リュカが断定的にそう言うが、ゴレムスはリュカの言葉には何の反応もせずに、ただ地図に滑らせていたペン先をぴたりと止めた。もしエルヘブンのことを覚えているのなら、ゴレムスは今までにもその内容を誰かに伝えることができたはずだった。しかし今までエルヘブンの話を打ち明けなかったのには事情があるに違いなかった。今になってようやくエルヘブンの話をしたのには、マーサの子供であるリュカが無事この国に戻ってきたことが関係しているのだろうと、リュカ自身そう感じていた。ゴレムスの中で、エルヘブンのことを秘密にしている時間は終ったと思ったのかも知れない。
「ありがとう、ゴレムス。一緒に旅をするのは初めてだけど、よろしくね」
リュカはそう言うと、ゴレムスを見上げながら右手を差し出した。表情がまるで分からないゴレムスだが、リュカの手を見てゆっくりと自分の右手を差し出した。友好を深める握手という行為を知っているようで、ゴレムスはリュカの右手に触れるとその手を握ろうとした。しかしあまりにも大きさの違う二人の手は握手をすることができず、互いに触れるだけにとどまった。リュカはゴレムスの大きな手に仄かに体温を感じたような気がした。城の石のようにひんやりとした感触なのだろうと思っていたが、ゴレムスには生きている温もりを微かに感じることができた。
「ティミーとポピーとは旅をしたことがあるんだよね」
「私もお二人とは少しですが旅をさせてもらったことがあります」
「そうなんだ、サーラさんも。ティミーとポピーは僕の先輩だね。いろいろと教えてね」
「お父さんってサーラさんやゴレムスとは旅をしたことがなかったんだ。知らなかった」
「サーラさんもゴレムスもとっても強くてとっても頼りになるの。サーラさんに炎の呪文を教えてもらおうとしたこともあったんだけど……私には炎の呪文の才能がないみたいなのよね……」
「ビアンカ王妃がお使いの呪文でしたので、王女様にもその才能があると思ったのですが……王女様には違った呪文の才能がおありだったようです」
ポピーに呪文の才能があることはリュカにも彼女が身にまとう雰囲気から察することができた。恐らくビアンカの血を強く引いているのだろうと思っていたが、彼女が得意としている炎系の呪文はさっぱり使えないらしい。リュカがティミーと城下町の噴水広場で試合をした時、ポピーが呪文を唱える気配を感じたことがあったが、その時に感じた呪文の気配は熱ではなくむしろ冷気だった。背後から迫ろうとする冷たい気配に、リュカはポピーが何かをしようとしているのだと気づいたのだ。
「ねぇ、お父さん。私って本当にお母さんの子?」
ポピーが純粋にそう問いかけると、一瞬辺りが静まり返り、その直後皆が揃って笑い出した。
「ポピー王女よ、そなたほどビアンカ王妃に似ているお子など、世界を探してもおらんじゃろうて」
「そうですね。ポピー王女のお顔を見れば、ビアンカ王妃のお顔も自然と思い出すことができます。それほどに似ていますよ」
「キキーッ!」
マーリンとサーラの言葉に、メッキーも強く同調する。リュカには生まれたばかりの赤ん坊の頃の記憶しかなかった双子たちだが、今こうして八歳の子供に成長した二人を見ると、どうしてもあの時の記憶が蘇ってしまう。自分が子供の頃にビアンカと町の外に出て冒険した時の思い出が、今のティミーとポピーの姿を見ると、鮮明に思い出すことができた。それほどに二人は、とりわけポピーはあの頃のビアンカとそっくりに育っていた。
「僕なんかね、君を見て、『あっ、ビアンカだ』って思ったくらいなんだよ。あの時のビアンカが髪を短くしていたら、きっと今のポピーになっていたんじゃないかな。それくらいに似てるよ」
「本当に?」
「うん、本当に君はお母さんにそっくりだ。早くお母さんにも君の成長した姿を見てもらいたいよ」
「うん……そうね。早くお母さんに会いたいな」
ポピーがぽつりと言う一言に、リュカは胸が締め付けられる。父であるリュカが戻ったことを心から喜んでくれている子供達だが、やはり子供である二人に本当に必要なのは母親なのだと思い知らされる声だった。リュカは早く彼らのためにビアンカを救い出さなくてはならないと、改めて心に誓う。
「ねぇ、ボクは? ボクはお母さんに似てる?」
「ティミーも……そうだね、お母さんに似てるかな。でも父さんに……おじいちゃんによく似ている気がするよ」
「パパス様ですか。そうですね、どことなく面影があるように思います。癖の強い髪はパパス様譲りでしょうな」
サーラの言葉に、キングスも静かに同意しているような雰囲気があった。初めて成長したティミーをまじまじと見た時、リュカはティミーに父パパスを見たのだ。オジロンもティミーを「小さい頃の兄上にそっくり」とまで言っている。サンチョがリュカに似ていると言ったのは、リュカの中にも受け継がれているパパスの血をティミーの中に見たのではないかとリュカは思っている。
「…………僕、拗ねてもいい?」
「……ッキ」
妻ビアンカや父パパスに似ていると言われる子供たちを誇らしいと思う反面、リュカは親心に二人が自分に似て欲しいのだと気づき、そのような子供じみた感情を素直に吐露してしまった。リュカの傷つく心に寄り添うように、メッキーが翼でリュカの背中をばさばさと叩く。メッキーの優しさが心に沁みるようだった。
「いつ頃旅立つつもりなんじゃ、リュカ王」
「本当だったら今すぐにでも旅立ちたいんだけどさ」
「一週間から十日間はグランバニアに残っていた方が良いでしょうな。何せあなたは八年もの間国を空けていたのですから」
サーラの言葉が最も賢明な判断なのだろうとリュカは理解したが、本心ではやはり今すぐにでも旅支度を調えて旅に出たい気持ちだった。ビアンカは今も終わりの見えない石の呪いを受け、心までもが闇に包まれようとしているのかもしれない。すぐにでも彼女を助け出して、子供たちに会わせてやりたい。父の遺志を継いで母を助け出すという目的もまだ果たしていない。自分が母に会いたいという気持ちだけではなく、今となっては孫となるティミーとポピーとも会わせたいという親としての欲求もある。ただ徒にこの国で過ごすことなど、リュカにはできない選択だった。
ゴレムスがリュカの前で再び大きな手を差し出した。しかし今度は何かを見せるように手の平を上に向けている。リュカは不思議に思いながらも、ゴレムスの大きな手の平を静かに見つめ、導かれるように自分の手を重ねるように置いてみた。ゴレムスの手から静かに彼の意識が流れ込んでくるようだった。何かが見えるわけではない。しかし仄かに感じる温かみの中に、ゴレムスがマーサを待ち続ける二十年以上の歳月を手の平を通じて感じられるような気がした。ゴレムスだけではなく、サーラとスラぼう、ミニモンにキングスも、魔物である彼らを人間の国であるグランバニアに入れたのはマーサという一人の女性だった。彼ら自身、本来ならば連れ去られたマーサを救い出したい気持ちに駆られているに違いない。しかし彼らはこの国でマーサの帰りを待ち続けている。恐らくマーサに、「この国を守って欲しい」と願われているのだろう。彼らはマーサの言葉を忠実に守り、そして彼女が無事に戻ってくることをこれからも信じて待ち続ける。
ゴレムスたちの待つ年月の長さを感じて、リュカはここで慌てて旅に出ることが良いことではないのだと知らされた。リュカを救い出すにも八年の歳月がかかった。その間にも彼らは慌てず騒がず、じっくりと調べながら着実に救い出す方法を探り、そして石の呪いを受けたリュカにたどり着いたに違いない。彼らにはリュカを救い出したという実績がある。
妻と母を救うことに失敗は許されない。しかしのんびりしてはいられない。リュカはサーラの言う通り、一週間は国に残り旅の支度をすることを心に決めた。一週間の間に自分でも調べられることは調べて、とにかくエルヘブンへの道をがむしゃらに進むのではなく最短のものにできるよう努力をしなくてはならない。
「一週間のうちに旅支度を済ませる。三日後には国民に旅に出ることを知らせる。僕と一緒に旅に出るのはティミーとポピー、それにプックル、ピエール、メッキー、サーラ、そしてゴレムス。……そんな感じでいいかな?」
「供に人間の者は連れて行かないのですか?」
「うーん、本当は連れて行った方がいいのかも知れないけど、僕が一緒に行動できそうなのはサンチョぐらいだし……でもサンチョはこの国に残ってオジロンさんを支えて欲しいからね」
「リュカ王よ、そなたはこの国の王なのだぞ。国の兵士を連れて行くことを考えても良いと思うがの」
「でもそれって僕がどうこうしろって命令しないといけないんでしょ。あんまり大勢連れて行っても、僕は上手く命令できないと思う。そういうこと、したことないしさ」
「それでよろしいかと思います。マーリン殿も人が悪い。リュカ王を試すようなことを言って」
サーラに横目で睨まれ、マーリンはフードを目深に被りながらクスクスと笑っていた。リュカが国の兵士を動かすことができないと知りながら、リュカの国王としての資質を窺うような話をしてきたのだ。
「国民がざわつくこともあると思いますが、それは残る者たちで対応しましょう」
「ありがとう。本当は僕は国王としてここにいなきゃいけないのかも知れないけど、でも、このままこの国でビアンカや母さんを待つなんてできない……きっと気が狂っちゃうよ」
かつて幼い自分を連れながら旅をしていた父パパスも、恐らく同じような気持ちを抱えたまま旅を続けていたのだろうと、リュカは大人になり、子供を持つことによってようやくその時の父の気持ちに追いついたような気がした。子供たちのために母を、自分のために妻を、早く取り戻さなくてはならない。その気持ちを抱えたまま、一日一日をこのグランバニアで静かに暮らすことなど、かつてのパパスにも、今のリュカにも、到底できることではなかった。
「幸い、この国には長年国政を執るオジロン様がおられますからな。それに今回はマーサ様の故郷へ向かうという限定的な旅です。この旅を無事に終えたら……その後のことはまたその時に考えましょう」
サーラが言葉を濁した理由がリュカには伝わっていた。リュカがこのエルヘブンへの旅を終えてから後、グランバニアの王としてこの国に留まるとは全く思っていないのが分かった。エルヘブンへの旅を始めることは、即ちリュカの終らない旅が始まるのだとサーラにもマーリンにも、恐らくすべての魔物の仲間には気づかれている。そして魔物の仲間たちは誰一人としてそれを止めることはない。むしろリュカが旅に出ることを彼らは望んでいるのだ。八年もの間石の呪いを受け、絶望的な状況にありながらも生還を果たしたリュカに、魔物の仲間たちは多大な期待を寄せている。
リュカは大広間にいる魔物の仲間たちに再び礼を述べると、ティミーとポピーを連れて広間を出た。子供たちは既にエルヘブンへの旅を楽しみにしているようで、何を持って行くか、食べ物はどうしようかなど声を弾ませて話し始めている。リュカは二人の楽し気な会話を耳にしつつも、エルヘブンの旅が終った後、二人をこの国に残して再び旅に出ることを密かに考え始めていた。

Comment

  1. ケアル より:

    bibi様。

    ダンカンに会いに行くのは、やはり難しいですね…。
    ビアンカが居ないことをどのように話をして良いか…う~ん…。
    小説にするとなると、辻褄が合わなくなりますか…残念ですが、しょうがないですね。

    ルーラ問題!
    bibi様、以前に自分ケアルが、テルパドールの時に、ルーラ案を出したことを覚えていてくれていたんですね。
    ルーラで船も運んじゃえ作戦!。
    採用してくれて嬉しいです(嬉)。

    パーティーをどうするか…今回の1番の注目ポイントですね。
    リュカ、ティミー、ポピー、プックル、ピエール、メッキー、サーラ、ゴレムスの8名。
    たしかに、他の魔物たち皆も、連れて行けば楽しいだろうけど…それをしてしまうと、bibi様の執筆に深く関わり、bibi先生の描写の思考力が低下してしまうかもしれませんね(汗)。
    サンチョとピピンを連れて行かないのは、やはり、ゲームの難易度が二人を連れて行くと、上がってしまう可能性があるからでしょうか?
    魔物の仲間の方が、レベル的にもキャラ性能的にも強いですよね。

    bibi様?一つ質問です。
    現在、DSにそってプレイしながら小説を書いているんでしたよね。
    もしかして、このじてんではゴレムス仲間にしていない…いやできていないですよね?
    パーティーはさっきの8名でDSもするんですよね?
    もしかして、そのあたりは微妙に、小説とDSが違ったりするのでしょうか?。
    いやべつに、攻めている分けではないですから気になさらないでくださいね。
    素朴な疑問です。
    誤解しないでくださいね先生!(笑み)。

    リュカ
    やっぱり、いつもどうり、子供たちをグランバニアに置いて行こうと考えるんですなぁ…。
    親心…分からなくもないですが、1度は旅の了承をしたのだから、この場で、また同じことを考えるのは、さすがに、おうじょうぎわが悪いと言うか…覚悟が無いと言うか…子供たちと一緒にいたいって思ったんなら気持ちを変えないで欲しいですよぉ…(涙)。
    まあ、これからの旅で、子供たちの成長ぶりに度肝を抜くことになりますよね?…予定では?…。

    さて次回は、いよいよエルヘブンに向かって船旅ですか?
    それとも1週間ぐらいのグランバニア旅支度ですか?
    もし、船旅の戦闘があれば、子供たちの活躍が楽しみであります。

    最後に…。
    ポピーがリュカVSティミーの承諾試合の時に、ティミーの援護をしようとした呪文は…

    ヒャドですか?
    たしか、リメイクは最初からポピーはヒャドを覚えていましたよね。
    そして、もう一つ…
    山奥の村は今は行けませんが、ラインハット、テルパドール、そして…パルプンテを覚えるためのルラフェン…。
    それぞれに行くタイミングは、どうしようか考えていらっしゃいますでしょうか?
    なかなか難しいですよね。
    今から、もう…わくわくが止まらないであります。

    また、長い分になってしまいました…書きたいこと多久さん書いてしまいましていつも…。
    ご迷惑なら言ってくださいね?
    少しだけ自重しますね。

    • bibi より:

      ケアル 様

      いつもコメントをどうもありがとうございます。
      ダンカンさんはまた気持ちが落ち着いた時に改めてお伺いしようと思います。
      ルーラって不可能を可能にしてくれますよね(笑) ここで使わせてもらいました。
      パーティーメンバーは主に魔物たちで。人間をこれ以上増やすと会話にかなり気を使わないといけなくて……。控えてもらいました。
      ゴレムスはそうですね、ゲーム上ではこの時点、仲間になっていないはずですので、私が今進めているゲームとは状況が違っています。ゲームではがんばってゴレムスを仲間にしようかなと考えています(笑)
      リュカは今回の旅はエルヘブン探訪として割り切っているので、その後は別の話だと思っています。母と妻を捜す旅に子供たちを連れて行くには、もう少し覚悟が必要な状態です。
      次回は旅に出ているのではないかと思います。あんまりのんびりしていると本当に話が進まなくなるので……^^;
      ポピーが唱えようとしていたのはヒャドです。リュカが冷気を感じたのは、決してポピーから殺気を感じたわけではありません(笑)
      エルヘブンの旅が終った後のことは、成り行きに任せます。でもまずはティミーの装備を調えるために、テルパドールには行っておいた方がよさそうですね。今、何故行かないのかと言うと……リュカがテルパドールのことを忘れているからです(笑)

  2. ケアル より:

    bibi様

    ゴレムスは簡単に仲間にできて、超有力なパーティーの一員になってくれるモンスターですよね。
    瞑想を覚えたゴレムスなら、一人でミルドラース倒せる…のかな?
    さすがに言い過ぎか(笑み)。

    bibi様の小説ではゴレムスがペンで洞窟を教えてくれましたが、ゲームでは…洞窟があることはノーヒントでしたよね?。
    SFCの時、行き方が分からなく、陸の上を彷徨っていましたよ。
    まあ…自分が子供のころだったから、しょうがないです…が、本気で、つみそうになったことを覚えています。

    bibi様そろそろ小説無いに新しい仲間モンスターを登場させることはできますか?
    ストーリー的に…

    ホイミン、ベホマン、メタリン…(全部スライムかよ)
    いや思いつくモンスターが居なくて(汗)
    そろそろ野生の仲間モンスターが見たいです。

    • bibi より:

      ケアル 様

      そうそう、ゲーム上では洞窟があるのはノーヒントでした。そういうのも、ドラクエの醍醐味ですよね(笑) ドラクエ史上一番の難所は太陽の紋章だったような……。
      ゴレムスの瞑想はかなりの強みですよね。話の中では回復以外でも使えそうだな~なんて。
      仲間モンスター、そろそろ増やしたいですよね。小説を書くのにDS版を並行してプレイしていますが、うっかり(?)エミリーさんが仲間になりました。ネタ的には面白いんですけどね、名前が女の子だし。でも話に入れるのは難しいかなぁ……。

  3. ピピン より:

    bibiさん

    更新お疲れ様です。
    正直ダンカンさんの事をすっかり忘れてたので、ここで言及してくれて嬉しかったです(笑)

    ゲームで子供達やサンチョの反応が気になって何度か会いに行ったのを思い出しましたが、本作で会いに行く時もぜひ、サンチョも一緒に連れてってやって下さい( ´∀` )b

    子供達の今後の同行に否定的なのは、やはり何度も死線を潜り抜けてきたリュカだからこその想いでしょうね。
    野生の魔物相手なら色々対処の方法はあっても、ゲマ一味やカンダタのような凶悪な相手だとそれも限られるでしょうし…

    • bibi より:

      ピピン 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      ゲームを進めていると、山奥の村へは行かなかったりしますよね。でも実際には義父なので、そういうわけにもいかんだろうと、ここで少し触れておきました。行けはしませんが……。
      なるほど、そうですね。サンチョを連れて行くのは良いかも。以前はパパスを交えて話をしたこともあったでしょうからね。
      子供を旅の仲間として連れて行くにはまだまだ時間がかかりそうです。なんせ、自分の子供ですからね。かなり複雑なところです。その点、パパスはすごいなと。赤ん坊のリュカを連れて旅に出るなんて、やはり並大抵の人物ではありません。

  4. ケアル より:

    bibi様。

    エミリーですか…。
    ゲームでは簡単に仲間になってくれるが…特技がねぇ…。
    みなごろし・ルカニの二つ…。
    ルカニを覚えるから使えそうですが、ルカニ習得レベル20にするまで経験値が、はんぱなく必要。
    しかも、みなごろしが、仕えそうで、まったく使えないという、まさに博打会心の一撃!。
    仲間になった瞬間、モンスター爺さんに即送りになることも多い、見た目が、カンダタかオルテガのエミリーですかぁ~。

    小説内に登場させたら、まあ…オカマさんとして会話して貰います?…いややっぱり辞めといた方がいいかもしれません。
    ティミーとポピーの教育に悪いですな(爆笑)。

    • bibi より:

      ケアル 様

      そうなんですよね、特技がもう少し欲しいところです、エミリーちゃん。話的には色々と楽しそうですが、ちょっと難しいかな。
      話を進めながら考えてみたいと思います。双子の教育上よろしくないのも問題ですね(笑)

  5. トトロ より:

    昔呼んだゲームブックをまた見てみたいなぁと思ってネットサーフィンしてたら、たまたま見つけました。面白い!
    とくに奴隷生活~ラインハット奪還がお気に入りです。
    勝手ながら、これから更新楽しみにしています。

    • bibi より:

      トトロ 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      たまたまこちらに来られましたか。何かのご縁ですね。ありがたいことです。
      ラインハット奪還辺りは、私自身がヘンリーとマリアが気に入っているため、力が入っているかと思います(笑)
      これからものんびりお待ちいただければと思います。のんびり更新しておりますゆえ……m(_ _)m

  6. ツバサ より:

    初めまして!
    半年ほど前にこのサイトを見つけ、それからずっとお気に入りで見てます!
    最初からここまで行き着くのに長かった‥(笑)
    ですがすごく面白いです!
    結婚編、出産編と思わず涙が出るくらい感動しました。
    自分はビアンカ推しなのでメインヒロインがビアンカでとても嬉しいですね(笑)
    あとリュカが石像になって心情の中で語るシーン
    すごく辛かったのを覚えてます(笑)あと奴隷編も自分はかなり小説に感情移入しやすい方なので
    辛かったです。
    自分はアプリのほうでドラゴンクエストVをやっているのですがこの小説をみながらやるとさらに楽しく感じます!
    まぁ自分は新婚編の所のカジノでメダルを貯めまくり、メタルキングの剣やらグリンガムの鞭を手に入れて無双しまくってます(笑)
    毎回更新を楽しみにしてますのでがんばって下さい!

    • bibi より:

      ツバサ 様

      初めまして^^ コメントをどうもありがとうございます。
      面白いと言っていただけると、今後のモチベーションも高まりますので、どうぞもっと言ってやってください(笑)
      ドラクエ5は人生の物語なので、感情移入もしやすい部分があるのかと思います。私なんぞは、自分で泣きながらこの話を書いていたりしますので……それくらい入り込んでいる時があります(笑) とても家族には見せられない……^^;
      ゲームの中では、メタルキングの剣やグリンガムの鞭などを手に入れて、戦闘も爽快感と共に進められそうですね。その設定を話の中に入れると、一気にギャグの方向性になりそうで、怖くてそちらの設定には手をつけられませんでした(笑) それはそれで楽しそうなんですけどね~。
      これからもゆっくり更新ですが、がんばって最後まで話を書けたらと思います。どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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