2021/01/22

時のからくり

 

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サンタローズの村には大きな川が流れていたことを思い出す。踏みしめる雪の感触の近くに、清らかな川の流れる音が聞こえ、リュカはその音に誘われるように向かおうとする。しかし自分の足音とは別の音が背後に聞こえ、リュカは警戒の空気を纏わせながらそろりと振り向いた。
「あんた、旅の者だな? どこからこの村に入ってきたんだ」
記憶の片隅に残っている男だった。平穏なサンタローズの村にはそぐわないような鎧兜を身に着け、彼の後ろには村の中に流れる川を飲み込むような大きな洞穴が黒い口を開けていた。村の洞窟には二度、足を踏み入れたことがある。一度は幼い頃に、洞窟の中で倒れていた薬師の男性を見つけた。もう一度は大人になってから親友と共に入り、父の手紙を見つけた。もしかしたら既に洞窟の奥には父が手紙を書いて残しているのかもしれないと、リュカは男性の背後に口を開けている洞穴をぼんやりと見つめる。
「おい、聞いているのか」
「あ、はい。……そうです、旅の者です。近くを通りかかったので、立寄らせてもらいました」
「そうなのか。それにしてはずいぶん村の奥まで来たもんだな。この奥には何もないから村の中へ引き返したらいい」
村の中の洞窟とは言え、洞窟内には魔物が潜んでいるのだ。洞窟に下手に人が立ち入らないように、また洞窟内から魔物が村へ侵入しないように、彼はこの場所で番をしているのだろう。
リュカが静かに彼を見つめていると、男はいかにも訝し気な表情をして旅人に警告する。
「怪しまれたくなかったら村のことをあまり嗅ぎ回らないようにな」
幼い頃は村の中で自由に駆け回って遊んでいた。父やサンチョと村の中で過ごす日々は平和に満ちていた。村の平和は彼のような村を守る兵たちが作り上げていたのだと、今になって気づかされる。
「それと、村の中でそれほどの武装をされては村人たちも怖がるから、剣と鎧は俺が預かる。ここに置いて行け」
その言葉にリュカは素直に従った。ここで村を追い出されては目的を果たすことなどできない。自分は幼い自分に会わなくてはならないのだ。それまでは大人しい旅人を装わなくてはならない。
リュカはベルトに下げていた父の剣を丁寧に外し、濃紫色のマントを一度脱ぐと、中に着こんでいた鎧も脱いだ。柔らかな雪の上に置かれたリュカの装備品を、男はリュカを警戒しながらじっくりと眺めた。父の剣に目を留める彼に、リュカは小さく息を吸った。グランバニアで改良された父の剣だが、柄の部分は父が使っていた時のものをそのまま使用している。鞘から刀身を少しでも引き抜けば、そこにはグランバニアの紋章が象られている。
しかし彼は旅人の剣を鞘から引き抜いてしげしげと眺めるような不作法はしなかった。ただサンタローズの村では手に入らないような洗練された剣と鎧を、羨望の眼差しで見つめるだけだった。
「あんたもかなり旅慣れた戦士なんだな。パパスさんと話が合うかも知れんぞ」
サンタローズの者は皆、父パパスを知っている。父はこの村で長のような役割を負っていたのだろう。グランバニアの国王を務めていたのだ。小さな村の長として担ぎ上げられたのも無理はないと思う。旅をして帰ってきて間もない頃のはずだが、村の人々は既に父を受け入れ、頼り始めている。
リュカはこれ以上彼と話していてはボロを出すと感じ、「じゃあ、ちょっとお邪魔します」と控えめに言い残して村の中へと足を進めていった。
川沿いを歩いて行くと、サンタローズの村は山深い場所だったのだと、その景色に思い出す。今は春の季節を迎えているはずだが、村を囲むように隆々としている山々には白が広がり、空も晴れずに同じような白に覆われている。川の水の流れを耳にするだけでも、川の水が冷たいと感じる。春になれば遡上するはずの魚も、今はまだ南に身を潜めているのかもしれない。
頭上には時折、人の視線を感じた。川沿いを歩く旅人の姿を、サンタローズの村人たちが土手の上から物珍しそうに見下ろしていた。リュカがその視線に気づいて頭を下げると、村人たちは人の好い笑みを浮かべて同じように会釈する。恐らく剣と鎧を装備したまま村の中を歩き回っていれば、村人たちは警戒の目を向けて来ていたかも知れない。小さな村にとっては、余所者、しかも旅慣れた強者というのは脅威に違いない。かつて訪れたことのあるカボチ村を思い出せば、余所者故に受け付けないという身勝手ながらも感情には逆らえない掟があってもおかしくはない。村の兵に素直に剣と鎧を預けて来て正解だった。
川を渡る橋も雪に覆われ、真っ白に染まっていた。落ちないように中央を雪を踏みしめるように歩き、対岸に渡る。サンタローズの村の景色を細かく覚えているわけではない。しかし幼い頃は広く無限に広がるかと思っていた村の景色を、今ではそれほど広くは感じなかった。川幅も恐れるほど広いわけではない。土手の上に目を向ければ、もう教会の屋根を目にすることができた。白い雪景色の中に、煙るように見える教会に向かってリュカは土手に作られた踏み固められた階段を上って行く。
教会の前では修道服を身にまとうシスター見習いの娘が、教会入口近くの雪かきをしていた。旅人が町や村を訪れた際にまず立ち寄る場所として、教会がある。旅の無事を神様に報せ、これからの旅の無事を祈るのが通常の旅人の行動だ。旅人がふらりと立ち寄る場所として最も怪しまれず、そして身の潔白を証明するかのような場所が教会だった。
雪かきの手を止めて、シスター見習いの娘はぼんやりとリュカを見つめている。リュカが困ったように笑って小首を傾げると、彼女は途端に顔を真っ赤にして、手にしていた雪かき用の鋤を雪の上に落とした。
「寒い中、ご苦労様です。大変ですね、雪かき」
「きゃっ、ステキな人! あら、私としたことが何を言ってるのかしら……」
白と黒の修道服を身にまとい、手も顔も赤く染めながら雪かきに精を出す娘を見ながら、リュカは思わずマリアを思い出す。マリアもあの海辺の修道院で、同じように雪をかいていた時があったかも知れない。
「何もない村ですがどうかゆっくりしていってくださいね」
既に雪をかいて道が見えている所を、彼女は頬を染めながらリュカに指し示す。リュカは思わず雪かきを手伝おうかと考えたが、いつまでもこの村にいられるわけではない。自分の目的は村人たちの生活の手助けではなく、幼い自分に出会うことだ。申し訳ない気持ちを持ちつつも、リュカは彼女が雪をかいてくれた道を通って教会の入口に向かった。
花壇に積もる雪を、鼻の頭を赤くして見つめる少女がいた。もこもこと綿入りの上着を着こんでいるが、髪を上の方できつく結い上げ、首が寒そうだった。花壇には当然、一つの花も咲いていない。春を迎えているはずの花壇の雪を、少女はつまらなそうに掴んでは花壇の外に放っていた。
その少女は、大人になってから訪れたサンタローズで出会った生き残りのシスターだと、リュカは教会の扉を開けたところで気づいた。思わず振り返って少女を見たが、彼女はリュカに背を向けたまま花壇の周りをうろついている。春が待ち遠しいと言わんばかりに、空を見上げる。今の彼女にかける言葉を、リュカは持っていない。どんな言葉をかけても、少女は大人で旅人のリュカを警戒しておしまいだろう。
「どうかされましたか、旅の方」
サンタローズの教会はこじんまりとした造りで、扉を開けたまま固まっているリュカに話しかける神父の声は近かった。改めて前を向いたリュカは、まだ年若い神父の姿を目にした。人の好い、慈悲に満ちた、それでいて快活さも滲み出る彼の姿に、リュカは思わず喉の奥を熱くする。彼もまた、あのラインハットの襲撃の中で生き残った一人だった。滅ぼされてしまった村の中で、彼は絶望を味わいながらも村を離れることなく、村を看取る義務があるのだと言わんばかりに壊れた教会に残っていた。今の彼とは別人のように、顔には年齢以上に皺を刻んでいた。
「もしかして……パパスさんのお知り合いの方ですか?」
思いがけず出された父の名に、リュカは声もなく神父を見る。一人の旅人であるリュカの顔をまじまじと見つめると、その漆黒の瞳の不思議に神父は心を否応なく絆された気がした。
「知り合い……そうですね。旅をしていて、噂を聞いたことがあるんです」
「ははあ、なるほど。そうでしょうなぁ、パパス殿は恐らく世界でも通用する強さをお持ちでしょうから。旅人の間で噂されることもあるでしょう」
父はリュカがまだずっと幼い頃から旅に出て、リュカが知らないほどに世界を回っていたのは間違いない。その中でパパスの噂が世界に残っていたのを、リュカ自身が知っている。かつてポートセルミで勇者の噂を話してきた老人も、その話をよく聞いてみれば父パパスのことを話していたのだった。世界を救う勇者と見間違われるほどに、父パパスは人々の目を惹きつけていたのだ。
「しかしですね、パパス殿がどういうわけで旅をしているのか、ご存じですか」
小声で話す神父は、村には長くいない旅人だから話すのだという雰囲気で、リュカの顔を見上げる。リュカはその眼差しを受けつつ、どこか緊張した面持ちのまま首を横に振る。
「これは噂ですが、パパス殿の奥さんは怪物どもに攫われたらしい。私はまだ子供のリュカが不憫でなりません」
凡その噂と言うものは真実からかけ離れていることが多いが、神父の言葉には真実しかなかった。父が自ら話したわけではない。しかし父とサンチョが話す会話の中に、その真実が含まれていたのかも知れない。それを耳聡く聞いた誰かが神父に相談し、ここだけの噂話としてあるのかも知れないとリュカは思った。
たとえ村人に知られたところで、この村の人々が今更村の長の地位に担ぎ上げられたパパスに不吉を感じ、貶めるようなこともないのだろう。また万が一にも村から追い出されるような事態に陥れば、パパスは素直にサンチョと子供のリュカを連れて村を出るのではないかと思う。あの頃はサンタローズが唯一の家と思っていたが、全てを知った今ではこの村の家は言わば旅の途中の仮の家なのだ。父は恐らく、いつでもこの村を出る心づもりを持っていたに違いない。
「そしてあの堂々たる風貌……ただの旅の方とは到底考えられない。何か、私たちには計り知れない事情を抱えておられるのではないかと思うのです」
教会の神父と言うのは総じて、人のことを良く見ている。それはこの場所が村人たちの拠り所でもあり、旅人ならば必ず立ち寄って祈りを捧げる場所だからだろう。広く深く人々の話に耳を傾け、心を寄せる彼らは当然のように人を見る目が肥えている。ただ彼らはただの好奇心で人の心を乱すことはない。彼らの務めは人々の心の平穏を保つことだ。
「旅人の貴方になら、パパス殿も何か相談できることがあるかも知れません。せっかくこの村に立ち寄られたのですから、一度お話してみるのも良いかも知れませんぞ」
「そうですね……ちょっと考えてみます」
旅人ならば、同じ旅をする者の話を聞きたがるだろうと、神父はリュカに良いようにと話をしていたが、思いの外乗り気ではないリュカの態度を見て不思議そうに眉をひそめた。
リュカは父と面と向かって話す自信がなかった。健在である父と会えるかも知れないと、この村の雪を踏みしめながら思っていた。しかし考えるほどに、父とまともに話しができるのだろうかと不安になった。過去に遡って、時間を飛び越えてこの場に来たのだと話すことはできない。一体自分は“誰“になって父と話をすれば良いのだろう。自分ではない誰かになれる自信が沸かないのだ。
「それでは私は少し外します。今日はちょっと往診に行かなくてはなりませんので」
この雪で教会まで歩いてこられない老人を診るために、神父はすぐ近くの家へ出かけるらしい。それまで気にしていなかったが、今はまだ朝を少し過ぎたばかりの早い時間だ。なるべく早い時間に来て欲しいと頼まれている神父は、いそいそと支度を整えると厚手のマントを羽織って教会を出て行った。
リュカは改めて教会内をぐるりと見渡す。この教会も、あの襲撃の中で壊され、朽ちかけていた。しかしその中で、今教会を出て行った神父は生き残り、その顔つきは年相応を越えたやつれを見せていた。リュカの脳裏には今のサンタローズの平和な景色よりも、襲撃を受けた後の滅びた村の景色が色濃く残っている。あの現実を変えることができるのだろうかと、教会の祭壇に揺らめいている橙の火を静かに見つめる。



大人のリュカにとって、サンタローズは非常に小さな村だった。村の中を歩こうと思えば、一日もかからずに村中を歩いて回れそうなほどだ。教会を出たリュカは旅人であれば立寄るであろう宿屋へ足を向けた。世界を見て回ってきたリュカから見れば、サンタローズの宿屋は非常に質素な造りと感じられた。サービスが行き届いているわけでもない。古びた建物の隙間からは冷たい風が入り込んだりもする。思わず隣町アルカパの宿屋を思い出し、彼女が宿を営む両親と暮らしていたあの宿屋はやはり自慢の宿だったのだろうと思えた。
リュカが宿屋の中へ入ると、宿の主人が気さくな様子で「いらっしゃい」と声をかけてきた。サンタローズの村を訪れる旅人はそれほど多くはないが、まるでいない訳でもない。少ない部屋数だが、その部屋のいくつかは既に埋まっているようだ。現に宿客の一人が、カウンターに肘をつきながら、宿の主人と話し込んでいた。
「お部屋は一つで?」
宿の主人に問われ、リュカは少しの間考えるように黙り込む。妖精の術で過去のサンタローズを訪れているが、ここで一日過ごすことは、あの城で自分を待つ子供たちや魔物の仲間たちを同じ時間だけ待たせることになるのだろうかと、部屋には泊まらず少しだけここで休ませてほしいとだけ応えた。旅をしてきたわけではないので特別疲れていることもないが、旅人を装ってこの場にいるために疲れを癒したいという雰囲気を見せなくてはならない。
「ああ、そのまま隣町に寄るのかい? あっちはこの村とは違って賑やかだからね。旅人さんたちはあっちの町に立ち寄ることが多いんだよねぇ」
サンタローズの村人たちのほとんどが、隣町アルカパの人々との交流があるのだと彼は言う。この村の畑で取れた作物を隣町に届けに行き、代わりに村で必要な物品を受け取るという、物々交換でのやり取りが主なもののようだ。しかしこの冬が長く、畑の作物が取れないために、農夫らは嘆いているという。
リュカの後に宿客の姿はない。宿の主人もそれで良いと言わんばかりに、カウンター越しに湯気の立つカップをリュカに差し出す。リュカは礼を言って、カップの熱い茶を一口すすった。「夜なら酒でも出すんだけどね」と歯を見せて笑う宿の主人に、リュカは今が夜じゃなくて良かったと内心思いながら笑い返した。
「つい先日、村の長のパパスさんが二年ぶりに旅から帰ってきたんですよ」
接客業を営む性格からか、話し好きな宿の主人は一人の旅人であるリュカと、もう一人カウンターで話し込んでいた宿客の男に向かって喋り始める。彼からすれば会話は呼吸をするのと変わらないほどに気楽なものらしい。
「でもあんなに小さい子を連れて旅をするなんて、大変だったろうなぁ」
そう言いながら自分も熱い茶をすする宿の主人の言葉に、リュカは思わず微かに唇をかむ。幼い頃の自分は父との旅をほとんど楽しんでいたように思う。いつかは父と共に戦えるようにと剣の代わりに大きな木の枝を振り回したり、疲れていて足が痛くてもまだまだ歩けるのだと父の前を歩いてみたり、魔物を前にした時の父の大きな背中に守られる安心感だったり、その全てのことをリュカはきっと楽しんでいた。しかし実際、父にとって幼いリュカは荷物になっていたに違いない。子供の拙いチャンバラに付き合わされ、いつの間にか疲れて眠ってしまったリュカは父に負ぶわれ、まだほとんど戦うことのできない小さな子供を背に庇いながら戦うことを、父は一体どのように思っていたのだろう。
父に愛されていたという自覚はある。父はいつでもリュカに優しく慈しむ目を向けてくれた。リュカが何かを問えば、分からないことでも頭を巡らせて何かしらの答えを導き出した。その答えは合っていても合っていなくても、問題ないものだ。大事なことは、父がリュカのことを思って頭を巡らせてくれたことだった。
過去となった出来事を思い返す時、それらは凡そ美しいものとして蘇る。父との旅路がいつでも美しく思い出されるのは、父と共にあった時間がもう戻らないと分かっているからだ。憧れの中にある過去の時間に思いを馳せれば、それは美しく輝くに違いないものだ。
「昨夜、酒場でパパスという人と一緒に飲んだのですが、いやはやなかなかの苦労人で感心させられました。只者ではないですぞ!」
宿の主人の話を聞いていた一人の宿客が口を挟むように話に加わる。その言葉にリュカは素直に驚く。まさか父が見知らぬ旅人と酒を酌み交わして話をするとは思っていなかった。リュカの知らない父の姿。父はリュカと言う一人息子を大事に思う傍らで、自身の人生も歩んでいるのだ。子供でいることはどれほど視野が狭かったのだろうと、リュカは当然のことにも気づけなかった自分を恥じる気持ちになった。
「どんな話をしたんですか」
様々な感情を乗り越え、好奇心が勝ったリュカは旅人にそう尋ねた。父と話をしたという旅人はリュカと同じように頭にターバンを巻き、上下を生成色のゆったりとした服を身に着け、植物の刺繍をあしらう緑色ベストを上に羽織っていた。いかにも旅商人と言った風体で、浅黒い顔に黒の口髭を生やした彼はリュカをロビーのテーブルに手招きすると、腰を落ち着けて話し始めた。
旅人が話す父の話は新鮮だった。話の中には自分も訪れたことのある場所がいくつも登場した。驚いたのは父がルドマンと知り合い、二年ぶりのサンタローズへの帰郷の際にはルドマンの船に乗船していたと言うことだ。リュカもあの時乗船していた船のことはおぼろげながらも覚えている。目を瞑って思い出せば、ルドマンの豪奢なローブの裾を見たような気もするし、彼の横には小さな青髪の女の子がいたような気もする。彼女と会話をしたような気もするが、いったい何を話したのかはまるで覚えていない。そして彼女の泣き顔だけが脳裏に横切って行った。
父は母が魔物に攫われ、捜していることを旅人に話していた。同じ世界を旅している彼からは何かしらの情報を得られるのではないかと、父は素直に旅人に話したのだろう。父の旅する目的は、魔界に連れ去られた母を救い出すことだった。どれほどの小さな情報でも欲しいと思っていた父は、旅商人の彼と酒を酌み交わして情報を得ようとしていたに違いない。
「奥さんを魔物に連れ去られて、子供を連れて旅をするなんて、相当の覚悟がないとできないことですよ」
どうやら旅商人は昨夜の酒が少々残っているらしく、まだどこか酔った風な空気を漂わせながらリュカに話す。リュカは彼の話を聞きながら、父とサンチョと暮らしていた家の地下室に大きな木箱がいくつか積まれていたのを思い出す。そこには日々の食糧の他、リュカの目には触れないようにとひっそり酒瓶が数本置かれていた。父とサンチョはリュカが寝た後に、二人で晩酌していたこともあったのだろう。あの家の平穏はサンチョが守ってくれていたのだと、改めて気づかされる。それだけにサンチョのラインハットへの憎しみが深いのも、今のこの平和なサンタローズに身を置いてみれば理解せざるを得ない。
旅人はこれから東のラインハットへ向かおうと考えているようだった。しかしラインハットの様々な噂をも既に耳にしているらしく、まだ迷っているらしい。リュカは一言だけ「商売ならアルカパへ行ってもいいかも知れませんよ」と伝えた。彼は誰かにそう言ってもらえるのを待っていたかのように顔を明るくすると、リュカの言葉に笑顔で頷いた。
しばらく旅商人と話した後、リュカは冷たくなったカップの茶を飲み干して席を立ち、カウンターに置いた。旅商人の彼も一度荷物の整理をするために部屋に戻ると言うので、リュカは宿の主人と旅商人の彼と別れ、一人再び村の中を歩き始める。
この平和に包まれた村の景色を見ていると、リュカは自分がこの場所に何をしに来たのかを忘れてしまいそうになる。このままこの時間を過ごしても良いのではないかとさえ考えてしまう。過去に向かおうとするリュカに、妖精の女王も白のキャンバスの前に立つ妖精も、必ず現在のあの場所に戻ってこいとは告げなかった。過去に生き続けるか、現代に戻るかは、リュカ自身の判断に委ねられているのだろう。
「でもこのまま僕がここに残ったら、この世界には僕が二人いることになるなぁ」
空からは雪がちらついていた。一面に白い空が広がり、目の前に白い粒がふわりふわりと舞うように落ちてくる。これから後、幼いリュカは妖精の世界に旅立ち、村の冬を終わらせる役目を果たすことだろう。今もどこかで幼い自分はまだ子供のプックルと共に、村の中を駆け回っているのかも知れない。もし大人になった自分が、子供の自分に会い、「僕は君の未来だ」と教えたところで、果たして子供の自分はそれを信じるだろうか。
「……信じちゃいそうだなぁ」
信じた瞬間に何かが変わるのだろうかと考えるが、恐らくそこでは何も変わらない。子供の自分にこれからの運命を変えられる力があるとは思えなかった。ただ子供の心を乱すだけの行動はするべきではないと、リュカは幼い自分には何も言わないでおこうと心に決めた。
宿屋を出たリュカは道沿いにふらふらと村の中を歩く。村人たちにより踏み固められた道を辿れば、それは自ずとその場所へと向かっていた。リュカが父とサンチョと暮らしていたあの小さくも温かな家。村の中には他にも民家が立ち並ぶが、リュカはかつての家を他と見間違うことはなかった。
家の煙突からは白い空に消えるように白い煙が上がっていた。それだけで家の中には暖かな空気が満ちているのが分かる。台所にはサンチョが立っているのだろう。父は二階の机について、何か調べ物をしているのかも知れない。自分は外に出ているのか、地下室から別の世界へ旅立っているのか、それは分からない。
リュカはさほど広くはない道の反対側に立ち、足を止めてかつての自分の家を見上げた。他に立ち並ぶ民家は一階建ての造りが多いことを今初めて知った。父はこの村の中で長としての扱いを受けている。そのために住む家も他の家に比べていくらか広い場所なのかも知れない。
二階の窓は閉まっていた。外の冷気を感じれば、それも当然だった。あの窓の向こうに父がいると思うだけで、目の奥が熱くなる。会いに行こうと思えば、会いに行ける。二度と会えないと思っていた人に会いに行ける機会が目の前に転がっている。しかしいざ対面したところで、一体何を話せば良いのだろう。素直に貴方の息子だと話したらどんな反応をするのだろう。
家の二階の窓を時間を忘れたように見続けている旅人に、村人が怪訝な視線を向ける。この村に悪い人はいないと信じているが、今は自分が余所者であることを忘れてはならない。かつての自分の家を訪れる勇気も出ないリュカは、自分を見る村人にぎこちない笑みを見せて会釈をすると、そのまま家の前を通り過ぎて行った。
家からのこの道を、リュカは覚えている。このまま道を北に向かえば、村の教会へと戻って行く。そしてリュカはその道を進んでいった。村人たちが踏み固めた雪道より逸れて、ふかふかとした雪の上に小さな足跡が跳ねるようにつけられている。子供の足跡の傍には、動物の足跡がじゃれるようについている。小さな不規則な足跡を見つけ、リュカは思わず白い息を吐いて小さく笑った。そして自分と自分が出会った場所を思い出した。
「旅に出る前には教会でお祈りを、か」
小さなリュカにとって、村の中を走り回るだけでも旅に出るような心持ちだったところがある。父と旅に出ている時、父は旅に出る前に必ず教会で祈りを捧げていた。父が信心深い人だったかどうかは分からない。大人になったリュカに至っては、神仏の類を信じることができなくなってしまった。しかし教会という場所は高ぶる心を落ち着けるには好都合な場所なのだ。旅立つ前に心を鎮めるために立ち寄る場所としては適している。
教会は常に見えている。二階建てのリュカたちの住んでいた家よりも、教会の屋根は空に近い。屋根の高い教会は村のどこからでもその姿を確かめることができた。教会を目印にすれば、村の中で迷うことはない。
教会の建物の脇まで歩いてきた時、教会の大きな木扉が元気に開けられた。中から一匹の大きな斑模様の猫が飛び出してくる。猫は寒さに弱いのではなかったかと小さなプックルを見て思うが、今のプックルは小さなリュカと一緒に遊んでいることで寒さを忘れているのかも知れないと思った。まだ何も知らない、何も分かっていない小さな頃から、プックルは自分に懐いてくれていたのだなと、リュカはこちらを見つめるプックルの青い瞳を微笑ましく覗き込んだ。
プックルが不思議そうな顔をして大人のリュカに近づく。それもそのはず、今のプックルは二人のリュカをその身に感じているのだ。リュカは教会周りの雪のかかれた道の上で、身をかがめてプックルに手招きしてみた。小さなプックルは警戒することはなく、そろそろと大人のリュカに向かってゆっくり歩き近づいてくる。
プックルを追いかけて教会を出てきた幼い自分を見て、リュカは当時の自分がこんなにも小さかったのかと驚く。妖精の城で待っている双子の子供たちよりもずっと小さい。年齢を考えれば二つほどの差があるため、それも当然なのだろうが、想像ではもう少し大きな自分を頭の中に描いていた。
「プックル、おいで」
友達の声にプックルが後ろを振り向く。子供のリュカにまるで疑問を投げかけるように、小首を傾げている。リュカは子供の自分の瞳を見て、不思議な感覚を得た。母に似ていると言われるエルヘブンの血を受けたこの瞳を、リュカは初めて客観的に見て、その不思議に触れた気がした。
「こんにちは」
リュカがぼうっとしていると、子供のリュカから挨拶をされた。その事に思わず心の中で苦笑しつつも「こんにちは」と返した。声の高い子供の自分は自分ではないようで、無垢な瞳はこれから先の未来を明るいものだと信じている。
「この猫は君の猫かい?」
リュカがしゃがみこんで小さなプックルに手を伸ばすと、子供のリュカは慌てて「かみついたりするかもっ」と叫ぶように忠告した。しかしリュカは大きな手で、大きくなったプックルと比べればまるで子猫のようなプックルの頭の赤毛を優しく撫でた。プックルは至って落ち着いている。いつも友達のリュカに撫でられるのと同じと感じている。
「プックル、いい名前だよね」
彼女がつけた名前だ。子供の頃から大人になりたがっていたビアンカは色々な本を読んでいたようで、とあるお話に登場する人物からプックルの名を選びつけた。ビアンカにつけられた名をプックル自身も気に入っているのは確かだ。黄色のリボンをつける尾を機嫌よく揺らしている。
「大きな猫だね」
「うん、そうかも」
しゃがみ込んでプックルを撫でる旅人の姿に安心したように、子供のリュカも向かいにしゃがみこむ。雪のかかれた石畳の上に、ごろりと音を立てて黄金色の宝玉が落ちて転がる。教会までプックルと走ったり跳ねたりしているうちに、道具袋の紐が緩んでいたのだろう。雪空の白を鈍く受けて光る金色の宝玉は、それを求めるリュカでなくても目を奪われるほどの輝きを放っていた。
悪魔の手に握りつぶされ、キラキラと弾け潰れる運命にあるこの宝玉を、今の内に手に入れなくてはならない。
「キレイなボールだね。ちょっと見せてくれるかな」
リュカの微かな緊張が伝わったのだろうか、子供のリュカは慌てて宝玉を手に取ると、両手に隠すように包み込んだ。しかしまだ小さな手には収まりきらない宝玉が、手の隙間から神々しい光を見せている。
「ダメだよ。これ、ぼくたちの宝物なんだ」
「僕たち……。友達と、かな?」
答えが分かっているのにそう聞いてしまった自分を、リュカは馬鹿だなと思った。聞かなければ、その名を耳にして心が揺れることもなかったというのに、無意識のうちにそう問いかけてしまった。
「そうだよ、ぼくとビアンカの宝物なんだよ」
ビアンカが託してくれた宝物だった。二人で夜の冒険に出かけ、レヌール城のお化け退治をして、偶然に手に入れた宝物だった。彼女は持ち前の好奇心からこの宝玉を自ら手にしたかったのかも知れないのに、どういうわけかこの神々しい光を放つ宝玉をリュカに託した。
彼女は小さい頃から優しい人だったんだと思う。人一倍好奇心の強い彼女だが、自分のやりたいことよりも、周りの人の役に立つことをしたがった。レヌール城への冒険も、いじめられていたプックルを助けたかったという思いから行動したのだ。この宝玉も、自分で持つよりは、またいつ旅に出るか分からないリュカが心の拠り所として持つのが良いと、おぼろげにもそう感じていたのかも知れない。
幼い頃のビアンカが隣町にいる。今のこの時間、確かに生きている。今の内に隣町へ行って、彼女を救い出すことができるのだろうかと考えるが、二十年以上の時を隔てたこの時間でのその行動にどれほどの意味があるのか、リュカには分からない。第一、見知らぬ旅人である大人のリュカが子供の彼女の前に現れても、彼女を怖がらせるだけだろう。未来に起こる様々な出来事を一つ一つ話した所で、恐らく目の前の子供のリュカも、隣町の子供のビアンカもその悲惨を信じはしないだろう。
不安そうな顔で自分を見上げる子供の視線に、リュカはふっと笑みを浮かべて肩の力を抜いた。自分が今すべきことを見失ってはいけない。
「あはは、盗んだりなんてしないよ。信用して欲しいな」
リュカは何も怪しいことなどしないと証明するかのように、両手を広げて上げて見せた。手に何かを持っているわけでもない、剣と鎧も村の兵士に預けてきたリュカはまるで丸腰の状態であることを示す。しばらく旅人の様子を見ていた子供のリュカは、小さな手に乗るオーブを一度見つめると、その手を差し出した。
「うん、いいよ。お兄さん、悪い人じゃないみたいだし。でもちょっとだけだよ」
「ありがとう。すぐに返すね」
リュカは受け取ったゴールドオーブを両手に包んだ。大人の手の中にすっぽりと納まる宝玉を、子供のリュカは目を逸らさずに監視するかのように見つめている。それほどこの宝玉を大事に思っているのだろう。
と、その時、グシャッと何かが潰れる音がした。やり取りに参加できなかったプックルが近くの霜柱を踏んづけて潰していた。一度その感触を味わったプックルは楽しくなったようで、次々と霜柱の地面を踏みつけていく。
「あ、ずるいよ、ぼくもやる」
子供のリュカがプックルの近くへ行き、一緒に霜柱の地面を踏みつけていく。一つのことに集中すると、周りのことが気にならなくなる子供の自分を見て、ああ子供なんだなぁと当たり前のことを思う。リュカは素早くマントの内側で道具袋を開けて光るオーブを取り出すと、手にしていたゴールドオーブを滑り込ませるように道具袋に納めた。重みも質感もまるで変わらない。ただリュカの手に乗る光るオーブは、いくらか雪空の白を映す面を鈍らせているようにも見えた。しかしそれも、二つを並べて注意深く比べてみないと分からない程度のものだ。
「はい、ありがとう」
リュカがそう言って金色の宝玉を返そうとすれば、まるで宝玉を渡していたことを忘れていたかのように子供のリュカがはっと振り向き見た。霜柱の地面をいじっていた手は泥にまみれている。慌てて手をマントで拭いて、その小さな手に宝玉を受け取る。すり替えられた光るオーブだと言うことに、子供のリュカが気づく可能性は万に一つもない。子供のリュカにとっては、それが本物のゴールドオーブであることよりも、ビアンカとの大事な思い出の品物だと言うことが大事なのだ。
「坊や」
リュカが自分をそう呼んだのは、他に適当な呼び方が考えつかなかったからだ。しかし呼んで振り向かれても、次にかける言葉がすぐには見つからなかった。
子供の自分は間もなく、父を失う。父との残された時間は少ない。残された時間を余すことなく大事にして欲しい。それを知っている自分は、子供の自分に伝えるべき言葉があった。
「お父さんを大事にするんだよ」
ただそれだけを、リュカは本心から子供の自分に伝えた。余計な言葉を子供に伝えても、混乱させるだけだ。今の彼に伝えるのはそれだけで十分だと思った。
「うん、もちろん」
その言葉と声には自信があった。強い父に憧れ、守られる彼は、いつか父の隣に並びたいと願っていた。父を大事に思うのは当然のことなのだと、純粋無垢な漆黒の瞳は希望に満ちる光を湛えていた。
リュカは立ち上がり、子供の自分の頭を撫でる。いつも撫でる頭よりも低い位置にあり、膝を曲げなければならなかった。そのまま立ち去ろうとしたが、後ろをついて来ようとする小さなプックルの気配を感じ、今一度振り向く。小さなプックルの向こうで、小さなリュカがどこか不安そうな目で見知らぬ旅人を見つめている。
こんな小さな子供がこれから、絶望の淵に立たされることになる。よくあれほどの過酷な環境で生き延びられたものだと、自身の生命力に客観的に驚く。小さな身体の中にある底知れない力を信じるように、リュカは小さな背中を優しく押すように言葉をかけた。
「辛いことがあってもくじけちゃダメだよ」
彼自身に伝わっていないのは分かった。しかし子供のリュカはその言葉に呼応するような返事をする。
「うん、負けないよ」
この時の自分が一体何を思ってこんな返事をしたのか、リュカは忘れてしまっていた。しかし「負けないよ」の一言で返事は十分と感じた。負けないと思えればいい。諦めないと思えれば大丈夫だと、リュカは子供の自分ににっこりと微笑んで手を振ってから、背中を見せた。



空は変わらず雪雲に覆われ、空からはふわふわと小さな雪が落ちてくる。ひどく積もるような雪ではない。雪のかかれた道の上に落ちれば、それはすぐに溶けて消えてしまった。暦の上では春を過ぎたような季節を感じられない冬が、サンタローズの村を依然包んでいる。
時を戻り、為すべきことは済ませた。天空城を空に浮かばせるための宝玉を無事手に入れることができた。これ以上まだ平和だったサンタローズに居続ける理由はない。
しかしこの村で平和な時を過ごし、温かなあの家の記憶が鮮明に蘇る今、リュカの足はかつての家に向かうことを止められなかった。一目だけでいい。見知らぬ旅人としてでいいから、父の声を聞きたいと思った。今となっては父の姿も声も、記憶の中に朧げになり、新たな記憶が積み重なっていく中でみるみる薄くなっていくのだ。その記憶を今は手に掴んで取り戻すことができるかも知れない。その可能性を、リュカはみすみす捨てたくないと思った。
早足に歩けば、小さな村の中ですぐに自分の家の近くにまで来ていた。二階建ての二階の窓を見上げる。外の寒さを遮断するために当然のように閉められている窓は、白く曇っている。白い窓が見えるだけならば、リュカはまだ冷静でいられたかも知れない。しかしその窓の向こうに、人影が動くのを見た。家の二階にいるのは、父だ。冷たい外気の中に立ち、周りは残る雪で冷え切っているというのに、リュカは家の中の温かな温度を感じたかのように手の先が温かくなっていくのを感じた。一歩踏み出せば、かつての我が家の玄関先に立つのは容易いことだった。
素朴な木の扉を二度叩く。中からすぐに返事が聞こえる。ドアが開けられると、温かな部屋の中の温度がリュカを包んだ。そして目の前の人の良さそうなサンチョの顔に出会えば、それだけでうっかり涙腺が緩みそうになる。
まだ若いサンチョには顔の皺などほとんどなく、茶色の髪には白いものも混じっていない。サンタローズのこの家での生活に満ち足りているのだろう、ふくよかな体系には喜びが滲んでいる。二年ぶりに旅先から村に戻ってきたパパスとリュカを出迎え、再びこの家で生活できていることに、サンチョ自身から幸せを感じる。
リュカが口を小さく開けたまま言葉も継げずに立っていると、サンチョが少し困ったように首を傾げて問いかける。
「はて? どこかでお会いしたことがありましたっけ?」
そう言いながらサンチョはリュカの瞳を覗き込むように見上げる。彼の中にほんの僅かな動揺が生じているのを感じる。今のリュカにとっては父のようでもあり母のようでもあるサンチョに、一体何を告げればよいのか分からず、勢いでドアを叩いてしまったことをほんの僅か後悔した。
「……。ああ、旦那様のお知り合いの方ですね。旦那様なら上にいらっしゃいますよ」
子供のリュカにはあれほど普通に話すことができたというのに、幸せの中にいるサンチョに対しては上手く言葉を紡ぐことができなかった。二階の父に声をかけるために部屋の中へ戻って行くサンチョの背中に、「すみません」とただ一言呟くのが精いっぱいだった。
この村に父を訪ねる旅人は他にもいたのだろう。宿屋で話をした旅商人の男も、昨夜はパパスという男と酒を酌み交わしたと言っていた。父は母を探し救うための旅を続けているため、他の旅人からの情報を大事に思い、時折家に旅人を招いて話をすることもあったのかも知れない。
階段を下りてくる足音が聞こえた。リュカは外からの冷気を遮断するために、後ろ手に玄関の扉をぴたりと閉じた。部屋の奥に見える階段に目を向ける。柔らかな表情をしたサンチョの後ろに、記憶も朧になっていた父があの時の姿のまま、歩いてくる。
父の目と目が合った瞬間、リュカだけではなく、父も目を見張ったような気がした。そして目を細め、一人の旅人として玄関に立つリュカを見つめる。その眼光の鋭さは旅に出ている時によく目にしていた父の目であり、思い出すようにリュカはふっと微笑んだ。
「旦那様のお知り合いの方ですか? お部屋に入っていただきましょうか?」
必要であれば茶の支度をすると言うように、サンチョは半身の姿勢で既に台所へ向かおうとしている。自分を見ている父のことを、リュカはほぼ無意識に細かに観察する。旅で日に焼けた肌は浅黒く、口端には年齢にはそぐわないような深い皺が刻まれている。口元は黒の髭を拵え、太い眉も勇ましく黒々としている。瞳には鋭さを現しつつも、その中心には懐の深さを思わせる底のない優しさを感じる。特徴的な癖のある髪を見れば、どうしてもティミーを思い出す。髪だけを見れば、父はその色だけを変えてティミーとして生まれ変わってきたのではないかと思ってしまう。
「ん? 誰かは知らんが私に何か用かな?」
リュカの密かな懐古など構うことなく、パパスは目の前の旅人とは出会ったことがないと告げるようにそう言った。その言葉に傷つくのもお門違いだと、むしろその言葉で現実に引き戻されたように、リュカは当たり障りのない笑みを浮かべることができた。
「あなたの噂を耳にして、少しお話を聞きたいと思って来てみたんです。様々な場所を旅されたとか……」
「見たところ、お主もかなり旅慣れた者のようだな。ふむ……では少し話をしようか。さあ、入りなさい」
家の中でのパパスは寛いだ格好をしていた。ゆったりとしたシャツとズボンに、家の中でも寒さがあるために大きな上着を羽織っていた。恐らくサンチョの上着を借りているのだろう。リュカは旅装ではない父の姿を今初めて見たような気がしたが、思い起こせば父はこの平和なサンタローズの家にいる時には、少しだらしないほどの格好をしていたかも知れないと思い至る。
「上でお話されますよね? では少ししたら上に温かい飲み物をお持ちしますね」
サンチョが既に台所でいそいそと茶の支度を始めている。その丸っこい背も、リュカはよく見上げていた。今はそんなサンチョの背を、見下ろしている自分の視線が不思議に思える。
父の後を追うように、リュカは家の階段を上って行った。父やサンチョが階段を使う時には確かにいつも軋む音を立てていた。今の自分も同じような音を響かせて階段を上っていることに、やはり不思議を感じる。
二階は主に父が書斎として使う部屋だ。奥には寝室がある。机の上には本が何冊も積み上げられており、父が調べ物をしていたことが分かる。あの頃は父が本を読んでいる横から覗き込んでも、まだ字を読めなかったリュカにとってはそこに一体何が書かれているかなどまるで分からなかった。しかし今は積み上げられた本の背表紙を見るだけで、父が何を調べていたのかが分かるのが嬉しくも虚しい。そこに“天空の詩”と書かれている詩集があろうとも、この時父はまだ天空の剣を見つけていただけで、彼が求める天空の防具も勇者も、遥か未来にあるのだ。
パパスは机の上に積み上げていた本を一度に持つと、それらを空いた本棚へ押し込みしまった。机の上の埃を払うように武骨な手で何度か擦ると、旅人に椅子を勧めた。リュカがぎこちない笑みを浮かべながら椅子に腰を落ち着けると、パパスも向かいの席に腰を下ろした。そして間もなく階段が大きく軋む音を響かせて、サンチョが盆の上に乗せた茶を運んできた。
机の上に置かれたカップから温かな湯気が立ち上る。家の中では一階で暖炉を使用しているために、その暖気が二階にも届いて暖かい。二階と言っても半二階と言うような造りで、二階の柵越しに一階の部屋の様子が窺える。一階に戻って行ったサンチョは再び台所に立っているのか、その姿は見えない。しかし家事に勤しむ彼は生活の音を家の中に温かく響かせている。
「私のことをどこで聞いたのかな」
パパスが黒の口髭を揺らしながら、目の前で微笑んでいる。父の顔を見て平静でいられると思っていなかった。それなのにこの家の玄関の戸を叩いてしまった。一人の旅人として迎え入れられればそれで話ができると、それだけを考えていた。自分は一人の旅人なのだと思い込もうとしていたが、生きている父の微笑みを正面から見つめられるほど、リュカは大人になりきれなかった。
自分を落ち着けるように細く震える息を吐き、カップを手にして一口茶をすする。手も震える。茶を飲み下すのにもいつもより力が要る。宿屋で旅商人に会い、彼から貴方の話を聞いたのだと本当の話をすればいいだけなのだ。しかしそれはリュカにとっては、嘘の話だった。
二度と訪れないこの機会に、リュカは真実を告げたいと強く思った。
「僕は……貴方の息子です」
この一言を言ってしまえば、後は自分が話したいことを話すだけだった。机の上に落としていた視線を上げ、リュカは父の目を真っすぐに見つめる。涙は出ない。今この時、涙は邪魔だ。
「何だって? おぬしが私の息子?」
いかにも驚いたように、パパスは片方の眉を上げた。そして少し目を細めるようにしてリュカを見つめ、腕組みをして椅子の背もたれに背を持たせかけると、黒い髭を拵える口端を上げた。
「わっはっはっはっ! 私の子どもは後にも先にもリュカ一人だけだ!」
父のその言葉がリュカの胸に響く。父の声に、何よりも子供を大事に思う温もりを感じた。それを今感じられて、リュカはたまらない嬉しさに胸の中を温かくした。リュカが抑えきれない笑みを見せると、パパスは再び片方の眉を上げて少しおどけたような表情を見せた。
「突然何を言い出すのかと思えば……なかなか変わっているな、お主は」
「あはは……そうですよね。本当に。自分でもおかしくなります」
父の屈託のない笑い声に、リュカはいくらか冷静さを取り戻した。自分は父のただ一人の息子であることに間違いはないが、この場にいて良い彼の一人息子は今、プックルと外で駆け回って遊んでいるのだ。
父がカップの茶をすする。いかにも武骨で、粗雑な雰囲気さえ漂う父だが、茶をすする音など一つも立てない。今思えば、父には一人の戦士としての生き方と共に、特別な気品が備わっていた。それはあのグランバニアで王子として生まれ、国王として務める中で、必然的に身に着けた所作なのだろう。小さなサンタローズの村で長として扱われる父の本当の姿に、今になって気づけたことにもリュカは嬉しさを感じる。
「何か他に用でもあるのかな?」
父の瞳はあくまでも優しい。果たして他の旅人にもこれほどの優しさを持って話をしていたのだろうかと思うと、父と会話をした旅商人を羨む気持ちが生まれる。
父はこの後ラインハットへ向かう。そして彼は、幼いリュカを庇って非業の死を遂げる。これほど優しく強く、いなくてはならない父がこの世から消える現実をどうにか変えたい。懐かしく思い出の中にしか現れてくれない父を目の前にして、リュカはやはり口から真実を紡いでしまう。
「ここから東の国ラインハットは今、あまり良い噂を聞きません。なんでも王位継承問題に揺れているとか」
「お主はラインハットから来たのか?」
「……そうではないんですが、ただそういう噂を耳にして、貴方に伝えたかったんです。これからも旅をするんだったら、ラインハットへ行くのはあまり……」
「ふむふむ……。ではラインハットには行くなと言うのか?」
「たとえラインハット王から直々に呼ばれていても、お断りするべきだと思います」
リュカのはっきりとした物言いに、今度こそパパスは驚きに目を見張った。パパスは唯一何でも話すサンチョにもまだそのことを知らせていないに違いない。一体いつどのようにして、父がヘンリーの父であるラインハット王からの呼び出しを受けたのかは知らない。しかしパパスが二年ぶりにサンタローズの村に帰郷したことをラインハット王は既に掴んでおり、恐らく旧知の仲であるグランバニア王であるパパスを気軽な気持ちで呼んでいるのだろう。リュカは一度だけ会ったことのあるヘンリーの父の、彼に似たいたずら好きそうな笑みを思い出し、自然とそう思い至る。
パパスは顎を擦りリュカを見つめたまま、長い息を吐いた。その表情からは笑みが消え、ただ真剣にリュカをまじまじと見つめている。リュカも父の視線から逃げずに、視線を向け続けている。
「私がラインハット城に呼ばれているとよく知っていたな……」
父が明らかに動揺しているのが見て取れた。誰にも知らせていないことを、会ったばかりの見知らぬ旅人に言い当てられたとあっては、動揺するのも当然のことだ。難しい顔をして小さく唸る父を見て、リュカは更に言葉を続けようとしたが、遅かった。
「分かった! おぬしは予言者だろう。悪いが私は予言など信じぬことにしているのだ」
その言葉を聞いた瞬間、リュカは悟った。父はこういう人だった。誰に何を言われようとも、自らの信念を曲げることは決してない人だった。予言を信じないというのも、父の信念の一つに違いない。そしてその信念を、リュカは壊したくないと思ってしまった。予言など信じない父であって欲しいと、己の意思とは矛盾する思いを抱えながら、多くの感情が胸の中を去来する中、安心するように微笑んだ。
「僕が言えるのはそれだけです。信じるか信じないかは……貴方にお任せするしかないですもんね」
リュカが視線を机の上に落として微笑むのを、パパスは組んでいた腕を解いて静かに見つめた。リュカがその目を見ることはなかったが、パパスの瞳はどこまでも優しさに満ちていた。
温くなった茶を飲み干し、リュカは椅子を引いた。自分を見上げるパパスの目に出会い、リュカは席を立つと頭を下げる。
「貴方と少しでも話ができて良かったです。忙しいところ、ありがとうございました」
「お主にも大事に思う人がいるのであろう?」
パパスも椅子を立ち、向かいからリュカの左手に視線を落とし、そう言った。リュカの左手薬指には、もう自身の一部になってしまったかのような炎の指輪がはめられている。ビアンカとの結婚指輪。彼女との幸せな思い出が指輪には詰まっている。
もし父がリュカの言葉を聞いて、ラインハットへ行くのを取り止めたとしたら、その後の未来は変わるのだろうか。変わった未来には父がいる。しかし、変わった後の未来には何が起こるのだろう。
ビアンカと再び一緒になれるのか。可愛い二人の子供に恵まれるのだろうか。出会い、仲間になってくれた魔物たちは傍にいるのだろうか。ラインハットとの関係はどうなるのか。ヘンリーはやはり攫われ、今度こそ命を落とすのかも知れない。父を取り戻した後の未来を希望に満ちた思いで頭の中に描くには、リュカはあまりにもその後の時間を長く過ごしてきてしまった。父との時間を取り戻すためには、多くのものを見捨てる覚悟がいると、父の言葉に気付かされた。
「早く君の大事な人のところに戻ってあげなさい。きっと心配して待っているよ」
待っているのは僕の方なんですよと、リュカは顔を歪めながら心の中でそう言った。今のリュカには大事なものが溢れていて、取捨選択できるような状況ではない。全てが大事で、全てを失いたくはない。
当然父も失いたくはなかった。リュカは父が大好きだった。その背を見ればいつでも安心できた。父の強さは絶対だと思っていた。しかし父はいつでもその時が来るかもしれないと覚悟をしていた。今はリュカたちの私室であるグランバニアの部屋の引き出し奥に、サンタローズの洞窟で見つけた父の手紙が大事にしまわれている。
「しかし私の妻に似た目をした人よ。おぬしの忠告だけは気に留めておこう」
低く太い父の声に、リュカは今一度その瞳を見た。大人になっても父に背が追いつかなかったのだと、今初めて知った。少し見上げるように覗いた父の黒の瞳には、まるでリュカの本心を汲み取るかのような深みを感じた。
リュカは何故、今の父から優しさに満ちた目を感じたのかが分かった気がした。子供の頃にも何度も、父からこのような優しい眼差しを受け取った。それをただの旅人を装うリュカにも同じように向けてくれる。
「さあ、もういいだろう」
父はリュカの背を押した。階段を下りるよう促される。そしてまるで大人が子供にするように、頭をぽんぽんと優しく叩かれた。自分も大人になったというのに、どこまでも父の手は大きく温かかった。やはり気づいているのだと、思わざるを得なかった。出会ったばかりの旅人の頭を親し気に叩くなど、普通ならしないのだから。
「……ありがとう……ございました」
「こちらこそ、訪ねてくれてありがとう」
階段の下に行くと、サンチョが不思議そうに首を傾げ、「もうお帰りですか?」と尋ねてきた。リュカはサンチョの顔ももうまともには見られなかった。代わりにパパスが「彼も急いでいるようでな」と取り繕うように一言告げた。
玄関の戸を開ければ、忘れていた冬の寒さが背を叩く。サンチョが慌てて台所に戻ると、貯蔵用にいくらかある固パンとチーズを一切れリュカに手渡した。旅人に対する優しさをサンチョの分厚い手から感じる。包み紙に包まれたそれをリュカは懐に大事にしまうと、二人の目を見れないまま頭を下げた。
「元気に暮らすんだぞ」
親はいつでも子供の元気を望んでいるのだ。父のその言葉の意味を最後に胸に刻みつけ、リュカは堪え切れない涙と共に、かつての自分の家の玄関の扉を静かに閉じた。



調べ物を続けていたが、まるで身に入らなかった。気づけば窓からは薄日が差し込み、ちらついていた雪は止んでいたようだ。白く曇る窓からぼやけた光が滲んでいる。
机の上に開いていた分厚い本を閉じた。隣町に偶然、天空の勇者について興味を持つ男がいた。彼から譲り受けたいくつかの書物を自室の本棚に納めている。その内の一冊を開いて読んでいたが、文字を追う目は動かず、代わりに脳裏には先ほどの旅人の姿ばかりが浮かんでいた。
階段を下りると、外の井戸から水を汲んで戻ってきた従者が玄関の扉の前で赤くなった手に息を吹きかけていた。日差しが出たからと言って外が寒いことには変わりない。日々の生活を支えてくれ、危険な旅にも文句ひとつ言わずについてくる従者には心から感謝している。
「旦那様、どうされました? お出かけですか?」
「ああ。少し洞窟へ行ってくる」
「おや、そうですか。では装備品を……」
そう言って従者は足元に置いていた水の入った桶をそのままに、部屋の奥へと入って主人の旅装用マントや剣、胸当てなどを用意する。慣れた様子で装備品を身に着けると、主人は「昼までには戻る」と言い残し、家を出た。
旅人が家を去ってからかなりの時間が過ぎていた。既に彼はこの村にはいないのだろう。この村どころか、恐らくこの世界にはいないのだろうと胸の中で確信めいたものを感じている。
彼は五体満足、元気に暮らしているようだ。どのようにしてあの姿で、この村を訪れたのかは分からない。しかし彼が大人になるまで生きてくれていること、それだけで十分だ。危険な旅の最中で命を落とすことはなかったのだと、それだけ分かれば良い。
左手の薬指に指輪をしていたということは、良き伴侶に恵まれているだろうから、彼の身を案じてくれる人がいるということだ。それならば自分がいなくとも、彼を支えてくれる人がいる。
彼の傍には恐らく、自分はいないのだろう。ラインハットへ行くなと言う彼の表情は悲壮なものがあった。しかしあくまでも予言の域を出ないその言葉に従うことはできない。自分はラインハットの友に会いに行く。これは変えられない運命だ。そして変えてはいけない運命だろう。
この運命を変えてしまえば、今の君の人生はどうなるのか。無理に捻じ曲げられた運命が上手く行くとは限らない。もしかしたら君を絶望の淵に追い込んでしまう未来を生む可能性もある。今の君が元気に生きている。それだけでいいではないか。
洞窟手前に住む老人に話をして、川を飲み込むように口を開けている洞窟に向かう。対岸には無暗に洞窟に人が入らないようにと、一人の兵士が番人を務めている。一言大きな声で挨拶をすれば、彼もまた頭を下げて挨拶を返してくれる。そしてその目が不思議そうに自分の腰の剣を見ていることに気付いたが、それには触れずに洞窟の奥へ入るための筏に乗る。
筏を漕ぐ。冷たい川の水が跳ねる。洞窟の中には魔物もいるが、グランバニアの辺りに棲息する魔物に比べれば大したことはない。
君が何を不安に思っているのかは確かめなかった。変えたい運命があったのだろうが、それには取り合わなかった。ただ、君が来てくれたことで一つ、決心がついた。
まだ幼いリュカには、旅する理由など一つも伝えていない。子供は複雑なことなど知らずに、元気に遊んでいるのが一番だ。旅の理由は彼がもっと大きくなってからで良いと思っていた。それ以前に、妻を救い出すことができれば、何の問題もない。
しかし彼は教えてくれた。直接伝えることができる未来が、あるとは限らない。
「……おかげで覚悟ができたよ、リュカ」
私はお前に、手紙を残しておくことにしよう。

Comment

  1. ケアル より:

    bibi様

    春を待つ妖精とのリンクお見事です!子リュカの時の心情は過去作品、大リュカの心情は現代作品、両方を読むと子リュカ大リュカの感情の移り変わりがすんごぉく伝わりました!
    矛盾な出来事もなく、寧ろここまで純粋にリンクさせて頂けるとは…ん~感無量ですありがとうございます。

    そして…ゲーム本編の台詞を零さず使ってくれて、なおかつbibiワールドとしての台詞と描写は、いつもながらにして、さすがとしか言えないでありますよ。

    bibi様、きっとたぶんですが…間違えていましたらお詫びします。
    台詞回しとかは本来ゲーム本編のみの台詞を使い描写してしまえば小説としては成り立つと思うんです。
    しかし、そうしないで新たなbibiワールドの台詞を付け加えながらゲーム本編を崩さずに執筆されるのは、本当に難しいことなのではないでしょうか?
    bibi様のそういう描写と台詞回し、本当にすごいと感じており尊敬しています!

    そうですか…パパスは大リュカの正体に感づいていましたか、リュカの目はマーサの目…パパスはエルヘブンの民たちの不思議な力を知っているから、タイムスリップも不可能ではないと感じたんでしょうか…。
    子リュカにしかしない優しい目刺しと頭をポンポンを大リュカにもするという描写…bibi様ずるいです!目頭が熱くなりましたよ(涙)

    そして、最後の描写はなんですかあれ!
    パパスは自分自身が将来この世に存在しないということを悟ってしまった、ラインハットでとんでもないことが起きることを分かってしまったのに、リュカの炎の指輪を見て過去は変えられないと感じて、あのパパスの手紙をこのような感じで描写するなんて…ずるいですbibi様!涙が…。
    パパスの手紙が、どのようなけいいで残されたのか…bibiワールドですっきり致しましたよ納得です。

    bibi様そしてまたずるいです…サンチョの固パンとチーズの描写…涙が。
    しかもリュカ、持ってかえっちゃったけど、現代で固パンとチーズどうしますか?
    サンチョに見せますか?サンチョ混乱しそう…。

    次回はいよいよ天空城を浮遊でしょうか?
    固パンとチーズの行方は?
    次話も楽しみにしています!
    いやぁ今回は涙涙…お見事でありました!(泣)

    • bibi より:

      ケアル 様

      早速のコメントをありがとうございます。
      今回のお話は書くのに緊張しました。DQ5の一大イベントなので、正解が分からず・・・幾通りもの書き方があったのでしょうが、私の中ではこんなお話で落ち着きました。
      あくまでもゲームのDQ5があって、こちらで二次的に書かせていただいているので、ゲームの世界は崩したくないんですよね。だからどうにかゲーム中のセリフを基に話を書きたくて。でもゲーム中のセリフだけだと、話を作るにはちょっと足りない部分もあるので、話の雰囲気などと調整しながらセリフを付け足し付け足し、全体を書いています。・・・まあ、それでも書き足りない部分だったり、むしろ蛇足になっちゃったなという部分もあるんですが(笑)
      ゲーム中のパパスはきっとリュカに気づいていないんでしょうね。ですがこちらでは気づいている描写にしました。どうしてもあの手紙に繋げたかったので。
      パパスがリュカだと気づきながらも気づかないふりをしたのは、あくまでもリュカが生きている未来を大事に思ったから。そういうことをここでは書きたかったんですよね。パパスも色々なところを旅して、色々な不思議を見てきたわけで、時を越えて息子が現れることも想像できたのではないかと、そんな勝手な解釈です。
      固パンとチーズは、どうしましょうか。勢いで書いていて、後のことを考えないのは私の悪いクセです(笑)でも後にどうにか回収しようと思います。できるかな・・・。
      次のお話に進まないとですよね。いやぁ、何だか今回のお話でやりきってしまって次に気持ちが移れない・・・なんてことを言っていないで、次を考えようと思います(笑)

  2. トトロ より:

    リュカが村を去ってからのパパスの描写、凄い感動的でした。パパスが大人リュカの正体を感づいていたなんて僕には想像できませんでした。
    堅パンとチーズの伏線は回収されるのかな?武道大会のようなオリジナルストーリーがあったら……なんて思ってしまいます。。
    あと一つ質問が、パパスの「……おかげで覚悟ができたよ、リュカ」は子供リュカへの想い?大人リュカへの想い?あるいは両方?
    次回も楽しみです。

    • bibi より:

      トトロ 様

      早速のコメントをどうもありがとうございます。
      最後のパパスの話は蛇足かなと思いつつも、どうしても入れたかったので書いてしまいました。
      ゲーム本編ではきっと、パパスはリュカに気付いていなかったかなと思います。勝手にこちらでこんな解釈で書いてしまって申し訳ないと思いつつも、ちょっと今回はどうしてもこんなお話にしたかったので。
      固パンとチーズのお話は・・・ちょっと考えてみたいと思います。現代のサンチョを巻き込んで・・・どう巻き込んだものか(悩)いずれまたグランバニアには戻るので、その時にでも・・・私が忘れていなければ。
      パパスのあのセリフは、主に大人リュカに対してかなぁと思っていましたが、トトロ様お考えのように両方に対しての方がしっくり来そうですね。教えて下さってありがとうございますm(_ _)m
      次回もどうにかこうにか、お話を書いて参ります。いつになるかな。なるべく早いうちに。

  3. 犬藤 より:

    過去の体験から現在の体験に繋がる伏線回収・そしてパパスの描写・・・ほんとに泣きそうになりました。
    感情の描写が丁寧で本当に尊敬します。(レポート書くのにその技術分けてほしいです)
    だんだんクライマックスに近づきますね
    物語が終わった後も、完全にbibiさんの世界観で続きが読んでみたいなぁと
    思わされました
    ゲームでは妖精の城何回でも行けましたよね??
    そのお話もみてみたいなぁ
    お願いばかりになってしまいましたが
    次回も楽しみに待たせていただきます!
    どうぞごゆっくりなさってください。

    • bibi より:

      犬藤 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      過去と現在をリンクさせるのに注意してお話を書いてみましたが、上手く行ったかどうかは・・・自信ないです(笑)もっと他に書き方があっただろうと考えればキリがなく。とりあえずパパスのことをたくさん書きたかったので、ある程度は満足しています。
      そうですね、物語が終わっても続きを書いてみたいなぁとは思っています。でもそれっていつになるんでしょうね・・・その時、私が一体いくつになっているのかを想像すると怖いものがあります(苦笑)
      そうそう、ゲーム中は妖精の城にはまた行けるんですよね。そちらのお話もまた書いてみたいですね。書くとしたら、短編になるでしょうか。
      次回は天空城浮上・・・の一歩手前くらいのお話になるかなと思います。私自身、クライマックスに近づいてきていて、とてもワクワクしています。これからも楽しく書かせてもらおうかなと思います。長いですが、お付き合いいただければありがたくm(_ _)m

  4. ピピン より:

    bibiさん

    原作の流れを尊重するbibiさんがパパスにリュカの正体を気付かせたのは意外でしたが…なるほど、パパスのモノローグを読んで納得しました。
    …何だろう、最後にリュカにかけたパパスの言葉といい凄く感傷的な気持ちになりました…( ;ω;)

    リュカが失ってきた物よりも手に入れた物のほうが多い事もまた事実で、例えラインハット行きを止めれる可能性があったとしても、結局その選択は選べないでしょうね。

    上手く言葉に出来ませんが
    いつにも増してとても良かったです…!

    • bibi より:

      ピピン 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      そうですよね、本来ならばここでパパスがリュカに気づくことはないですもんね。私もどう話を進めようか迷いましたが、こちらではリュカの正体に気付いてもらうことで話を進めさせてもらいました。パパス自身、様々な場所を旅してきて、魔物の心を開く力を持つ奥さんは魔界に連れ去られ、魔界に行くには伝説の勇者の力が必要だとか、彼自身もかなりおとぎ話の世界に頭を突っ込んでいるので、タイムトリップについての書籍にも目を通したことがあるかな、なんて。その不思議を信じざるを得ないほど、成長したリュカがマーサに似すぎていたと。そんな感じでしょうか。
      やり直すにはあまりにも時間が経ちすぎちゃったんですよね。その間に起こった出来事が全て不幸だったかと言うとそんなわけでもなく、簡単にやり直したいと言える二十年ではないと・・・。パパスにとってはリュカが無事に成長して生きていてくれるだけで万々歳なわけですから、それ以外の未来を生み出す可能性はない方が良いと、そんな親心で締めくくってみました。今回のお話を受け入れて下さって良かったです。ふぅ。

  5. やゆよ より:

    bibi様

    あけましておめでとうございます。
    今年も新作、楽しみにしています!
    ご挨拶が遅れて申し訳ないです!

    読んだ感想ですが、一言言わせて頂きます。

    号泣しました!!!!!

    bibi様のお話を読むのが、僕の昨年のライフワークでした。今年も、お子さん優先、プライベート優先で、無理せず更新お願いします。
    (プレッシャー感じないでくださいね笑)

    • bibi より:

      やゆよ 様

      明けましておめでとうございます。
      今年もどしどし書いて行ければと思っています。

      コメントをいただきましてありがとうございます。
      楽しんでいただけて何よりです。
      当サイトをライフワークなどと・・・いえいえ、こちらはちょっとした合間に覗いていただければそれだけでありがたいので、また気が向いた時にでもお立ち寄りくださいませ。
      子供も大分、小学校に慣れてきたようで、今は一安心と言ったところです。私も空いている時間をほぼフルに使って、こちらのお話を完結まで書ければと思っています。どうしたって、ここまで来たら最後まで書き切りたい・・・(切実)

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