罪滅ぼし

 

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「あなた」
「ん?」
「教会へ行って参りますわね」
「ああ、もうそんな時間か。寒いから二人ともあったかくして行けよ」
「はい」
マリアがそう返事をすると、溜め息をついて教会に行くことを渋る息子コリンズに防寒用のマントを羽織らせ、自身も外出用のマントを身に着けた。マリアとコリンズの母子が教会に向かうのは、祈りと学びのためだった。コリンズは学びの時間よりも、祈りを捧げる時間に理由のない苦痛を感じていた。母は常に近くにいるというのに、あの時間、母はとても遠くに行ってしまうような気がするのだ。
「コリンズ」
無言で不機嫌そうに俯く息子に、ヘンリーは執務用の机から声をかけた。この国の宰相である彼には日々為すべき仕事が山のようにある。ラインハットの新年祭は三日間で終わり、今は城内にも城下町にも日常が戻っている。そもそも新年祭の間にも、ヘンリーの手から仕事がなくなったことはない。昨年にひと月以上、国を空けてしまったこともその原因の一つだが、それがなくとも彼は常に国の状況に目を光らせている。
「何でしょうか、父上」
「お前はこの国の次期国王だ」
「……もうそれは何度も聞いてます」
「しっかり勉強してこいよ」
「…………はーい」
息子が更に不機嫌になるのを分かっていても尚、ヘンリーは言葉をかけずにはいられない。かつて自身も、幼い頃に父に言われていたことだ。『お前は次期国王なのだから、悪戯ばかりせずにしっかりと勉学を……』と目が合う度に言われたような気もしている。
しかし当時のヘンリーはその言葉をまともに聞かなかった。聞く心の余裕はなかった。言われれば言われるほどに、自身の存在が希薄となった。この国の王になるのは、本当は自分ではなくて弟が良いのだろうと、継母と弟を甘やかすような父を見て、父の言葉を真に受けるのは馬鹿馬鹿しいと思っていた。
今なら父が自分にかけていた言葉の重みを知ることができる。父の厳しい言葉は、期待の表れだった。期待していているからこそ、思わず厳しく現実的な言葉が口をついて出てしまうのだ。今のヘンリーもまた、息子コリンズにこの国を託す期待を寄せるからこそ、まだ小さなその両肩にそれ以上の重みをかけてしまいそうになる。
しかしコリンズならば言葉の重みにも厳しさにも耐えられるとヘンリーは信じている。彼には最愛の母が傍にいる。母であるマリアもまた、常にコリンズに寄り添い、甘えの対象としてその役を担ってくれている。絶対的に寄りかかれれる存在である母が傍にいる限り、コリンズは心の拠り所を確かにして前を向き続けてくれるだろう。
二人が部屋を出て行くと、ヘンリーは椅子に座ったまま伸びをした。年が明けて五日目の、まだどこか城内に新年祭の浮かれた名残があるような雰囲気だが、彼には今日も訓練所での鍛錬が待っている。
リュカとサンチョと共に天空城に乗ってセントベレスを目指し、危うく魔物の襲撃を受けた際、彼はいかに自分の戦闘能力が低いかを思い知らされた。リュカには劣ると自ら認めていたものの、グランバニアの宰相サンチョの戦闘能力には驚かされた。グランバニアの戦士たちは揃いも揃って強者なのかと思い知らされたようで、少々平和に慣れてきてしまっているラインハットの兵士らに緊張を与える意味でも、ヘンリー自ら兵士の訓練所に向かう日々が始まったのだ。
いくらか動けるようになったとは言え、元来体質的に虚弱な部分のあるヘンリーは自国の兵士長を負かすような剛腕にはなれない。やはり細々と呪文を使い、敵を撹乱させる戦法に終始することになる。その精度を上げるためにも彼は自身の身軽さを生かして、いかに早く動けるかを兵に付き合わせて特訓していた。
「俺もそろそろ行くかな」
訓練所へ向かう前、ヘンリーは玉座の間にいる弟王デールの元へ足を運ぶ。一言二言、言葉を交わすだけの挨拶程度のものだが、そのやり取りを彼ら兄弟は欠かさず行うようにしている。失われた幼き兄弟の時を取り戻すことはできないが、彼らの行うこの小さなやり取りにはまるで空白の時間を埋めるような小さくも大きな意味合いがあった。
執務机に座ったまま、左手の引き出しを静かに開けると、そこにはラインハット王家が代々受け継いできた一つの腕輪があった。普段は鍵をかけ、ヘンリー以外の誰も触れることのできないものだ。本来ならばこの国の王であるデールが父王から譲り受けるべきものだったが、彼はこの腕輪の存在自体を知らないままだ。
ヘンリーは幼い時からこれを知っていた。父王が次期国王としてヘンリーに期待を寄せる傍ら、代々国王が受け継ぐこの腕輪の存在をまだ幼き王子に教えていた。その鍵の在処も、ヘンリーにだけは教えていたのだろう。他の誰も、この引き出しの中の物を知らないはずだ。
鍵をかけ、鍵は服の内ポケットに収める。そして寒さ避けにマントを羽織ると、ヘンリーは何食わぬ顔をして私室を後にした。



「ヘンリー様は既にお部屋を出られましたよ」
宰相家族の私室前にて兵にそう声をかけられた彼女は、彼が忘れ物をしたらしいと頼まれ取りに来たのだと穏やかな笑みを見せ、当惑している兵を尻目にそのまま部屋へと入室した。部屋の勝手は当然分かっている。どこに何があるのかも、彼女は当然のように把握している。
迷いなく、彼女は彼の執務机に向かう。左下の引き出し。他の引き出しにもそれぞれ鍵穴があるが、凡そ鍵はかけられておらず誰でもその中を開くことができる。ただ誰もそんな無粋なことをしない。コリンズでさえ、父に叱られるのを恐れ、執務机には近づかないのが現実だ。
彼女の手には、小さな鍵。ヘンリーが持つものと全く同様の形をした、鍵がある。その鍵で引き出しを開けた時、彼女は自身に課せられたことを全うすることにのみ集中した。



グランバニアを出た時にはそろそろ昼下がりの時間を迎えようとしていたが、太陽は見る見るうちに頭上を通り過ぎ後ろへ流れ、空の色はまだこれから青くなろうとしている時間へと戻った。ラインハット上空には薄い雲がたなびき、太陽はその間から顔を覗かせている。時間としてはまだ昼前のようだ。
そんな景色をのんびり見ていられる状況ではなかった。ポピーの唱えたルーラは慌てていて、彼女の思いと共に決定された着地点は、ラインハット城の広い中庭の中心だった。突然、魔物の集団と小さな女の子が塊りになって落ちて来たラインハット城の中庭には、城に勤める者たちの悲鳴が上がった。
「ピキッ……!」
「これはちょっと、マズイですね。早いところ私たちは外へ出なくては……」
「ガンドフタチ、テキジャナイヨ?」
「見た目の問題です。我々は紛れもなく魔物ですから」
「ご、ごめんなさい! どうしよう、ここからだと外に出るのにお城の中を通らなくちゃ」
自分の失敗におろおろするポピーが、ラインハットの中庭から外へ抜けられる道へ向かうところへ、彼女らの頭上から声がかかる。
「おーい、いくらポピーちゃんでもそれはちょっとやり過ぎってもんだぜ」
中庭の異常にすぐさま気づいたヘンリーが、玉座の間のある上階の窓から中庭を覗き込んでいた。隣にはヘンリーの弟王でもあるデールもおり、その目は驚きに丸くなっている。
「お仲間の魔物をお連れの時には必ず外からいらっしゃるのに、どうされたのですか」
「あの! ちょっと、確認したかったんです!」
大声で上階の国王宰相の兄弟に話しかけるポピーだが、声を張り上げる彼女を見兼ねてサーラがその身体を片腕に軽々と抱き上げると、翼をはためかせ彼らの近くへと飛んで行った。リュカの仲間とは言え、あまりにも禍々しい見た目のサーラにヘンリーもデールも衛兵たちも思わず身構える。
「ヘンリー様、ラインハットは大丈夫ですか?」
「……どうしたんだよ、藪から棒に」
「魔物に襲われてないですか?」
「たった今、中庭に何匹か紛れ込んだみたいだけどな」
「もうっ、そうじゃなくって! グランバニアが魔物に襲われるのと同時に、こっちにも魔物が来たんじゃないかって……」
冷静さを完全に欠いているポピーは、事の次第をありのままヘンリーに伝える。しかしその事情を聞いたヘンリーもデールも途端に表情を失くし、魔物の仲間に抱きかかえられたまま宙に浮かぶグランバニアの王女に鋭い言葉を放つ。
「自国が魔物の襲撃を受けている時に、他国の心配をしている場合ではありません」
「すぐにグランバニアに戻るんだ、ポピーちゃん」
「ラインハットが大丈夫かどうかだけ教えてください」
「見ての通り。何の異常もないよ。だから早く帰るんだ」
いつもの余裕のある素振りを見せるヘンリーだが、その口調はいつもよりもわずかに厳しい。そして急いている雰囲気を感じる。ポピーが窓の外から玉座の間を覗くと、いつもの衛兵の他に見慣れぬ二人の兵が物珍しそうにサーラに抱えられるポピーを見つめている。いつもの景色のようだが、その二人の兵だけがポピーの知るラインハットの景色とは異なった。
「サーラさん、上に行って」
ただの直感だ。見慣れぬ兵二人は見張り塔から外の異常を知らせに来た兵であり、それは即ちラインハットへの魔物の襲撃が迫っているのだと考えるのは、ポピーの直感に過ぎない。
「上ですか?」
「おい、いくら友好国の王女様でも、他国の城をそこまで自由に歩き回られちゃ困る。リュカに伝えて国家間の問題にするぞ」
「兄上、いくら何でもそこまで厳しく言うのはポピー王女がお可哀そう……」
兄の言葉遣いが普段から荒っぽいのは知っているデールだが、それは凡そ同性に対してのものだ。女性には強く出ることのできない兄が敢えて強い口調を使ってポピーを止めようとしているのも分かっているが、デールには目の前にいる王女への情の方が勝る。
「問題にしてくださって結構です」
このラインハットでヘンリーの強い口調に逆らえるものなどいないに等しいにも関わらず、ポピーは彼にも負けない強い視線を返してそう言い放つ。まだ小さな少女だが、彼女が勇者の妹であることを肌に感じたヘンリーもデールも、思わず瞬間的に口を噤んだ。その隙にポピーはサーラの飛行で玉座の間よりも更に上、ラインハット城の最上にある見張り台を目指した。
ヘンリーが中庭に残された彼女の魔物の仲間たちを見下ろす。そして一人に責任を取らせるように怒鳴りつけた。
「ピエール! お前、どうして意地でも王女様を止めて来ねえんだよ。大事な主君の娘だろうが!」
「……こればかりは、申し開きもできません。腹を切って詫びたい所存です」
「勝手にうちの中庭で腹なんか切るんじゃねぇぞ。……とにかくそっちから外へ回れ」
舌打ちしながらピエールたちに城の外へ出る道を教えるヘンリーは、いかにも苦々し気に玉座の間へ戻り、そのまま上階へ向かうべく上り階段を目指す。弟王デールに見張り塔で見張り役を務めていた二人の兵もまた、その後に続く。
「リュカ王はポピー王女がこちらに来ていることをご存じなのでしょうか」
「リュカなら止めるだろ。それでもここに来たってのは、勝手に来たんだよ」
「勝手に、ですか? ポピー王女が? 普段はとても規律正しく過ごしておられるようでしたが……」
「規律正しいだけじゃ勇者の妹なんてやってられねえだろ。第一、先月もコリンズの様子を見に来てたのだって、規律正しいだけの良い子ちゃんだったらやんないぜ」
コリンズが風邪をこじらせ、熱の引かないのを心配して、彼女は頻繁にこの国を訪れていたのだ。その時の彼女の行動もまた、グランバニアの人々には凡そ認められていなかったものだろう。
「あの娘はきっと母親譲りのお転婆だよ」



ピエールたちがラインハット中庭から城内の通路へ向かう際、城の人々はまるで城の中を魔物の群れが通り過ぎるような怖れる表情で距離を取ってその様子を見つめていた。無用な不安を抱かせまいと、ピエールもなるべく静かにラインハット城内の通路を通るが、やはり初めて目にするグランバニア以外の城の中の様子には嫌でも興味が惹かれ、思わずあちこちをキョロキョロと見廻してしまう。
「ピィピィ」
「コノオシロ、トテモキレイネ」
「いささか華美な気もするが……しかしこの通路はあまり人気がないようだな」
その通路の端より上階に位置する部屋が、ヘンリーが幼少の頃使用していた部屋だとはピエールもガンドフもスラりんも当然気づかない。全体的に華美な印象あるラインハット城だが、この通路にはどことなく薄暗い影が常に差している。それもそのはず、この通路は幼き王子を密かに逃がすための隠し通路から繋がっている場所だ。城内の人々も普段からこの通路を使用することは殆どない。
その通路の先、ピエールは一人の人影を見た。全身をすっぽりとマントとフードに隠し、いかにも不審を露にしている者に、ピエールは騎士らしくはっきりと言葉をかける。
「そなた、どこへ行かれるのか。この通路が外に通じていると聞き、進んできたのだが……」
ピエールの言葉に僅かに驚きを示すよう両肩を震わせたようだが、その人影は先にある出入り口用の扉を開くと、そのまま外へと飛び出して行ってしまった。嫌に高い靴の音が響き、マントの裾から見える細い足に、ピエールは思わずその者と思う名を呼びかけた。
「マリア殿」
消えた人影は間違いなく女性だった。全身を茶系のマントに包んだその者の正体は知れなかったが、ピエールにはもうマリア以外の者とは考えられなくなっていた。
「アレ、マリアダッタ?」
「ピキッ?」
「違っただろうか」
「ドウダロウ……ワカラナイ」
共に旅をしていた頃であれば、彼女を彼女とすぐに認められたかもしれない。しかし魔物の仲間の誰もが久しくマリアと対面しておらず、年月により彼女の雰囲気が変化しているのであれば、今の女性が彼女と確信はできない。
「とにかくあちらに出口があるようだから、我々も向かおう」
「ピキー、ピキキー」
「ドコ、イッタンダロウネェ」
ピエールたちが扉を抜け、ラインハット城を囲う深い堀の脇に出た時には、既に女性の姿はどこにも見当たらなかった。とにかく今は城の外へ出る道をと、ピエールたちは堀の周りを進み始めた。



ラインハット城の見張り台から眺める景色は、四方八方全てを見渡すことができる。たなびく白い雲はゆっくりと東に流れ、凡そ晴れ渡る空は清々しく澄んでいる。ラインハットの国は北から東にかけて峻険な山々に囲まれ、南には森が広がるやや高地にある土地柄で、国を守る目的としての地の利には恵まれている。唯一、攻められるとすれば西側の開けた地からの侵入を注視すればよい。
その西側地域にいつからか、以前にはこの辺りで棲みつかないような魔物らが姿を現すようになった。世界全体に魔物の数が増えているという報せは、ラインハットやオラクルベリーに旅してくる人の話に聞いていた。実際に魔物に襲われ、命からがらラインハットへ逃げて来た旅人もいる。
以前、この辺りに棲みついていたスライムナイトのピエールに辺りを調べてもらえば、確かに以前ではこの辺りには生息しなかったような凶悪な魔物が棲みつき始めているということが判然とした。数多の戦闘経験がある腕の練熟したスライムナイトも怖れる敵がいるのだとすれば、ラインハットは最大限の備えをしなくてはならないと、ヘンリーはその時より兵士らと共に行動することが多くなった。
「分かりやすい奴らだぜ。まあ、あっちは身を隠す場所もないから、ああやって進むしかないよな」
西の地に、一つの軍勢となって押し寄せてくる魔物の群れの姿が見える。進む速さを測れば、あと二時間もすればラインハットの城に着くであろうという速度だ。しかしまさかラインハット城近くで魔物との戦闘を起こすわけにもいかないと、ヘンリーは見張りの兵と言葉を交わし、戦うべき地に目星をつける。
「ヘンリー様、まさか正面から戦うつもりなんですか!?」
「正面から、だなぁ。一応、呪文部隊で敵を撹乱させることはするけどさ」
敵への呪文を発動するのにも、確かに敵として対峙して、相手を敵と認めたうえで呪文を発動する必要がある。それは即ち、敵の目にも捉えられるということであり、敵にも呪文を浴びせられる危険がある。
敵の軍勢の中に二十体ほどは見られる青色の怪鳥の姿に、ポピーは思わず身を震わせる。あの青色の巨大な鳥はかつてスラりんとピエールの息の根をあっさりと止めたのだ。敵が使用する死の呪文ザラキを目の前にして、一体ラインハット兵がどれだけ生き残れるのかを考えれば、ポピーは到底この状況を放ってはおけなかった。
「ヘンリー様、私も……」
「グランバニアの王女様があの敵の軍勢の中に飛び込むのか? 冗談もたいがいにしてくれよ。俺、リュカに殺されちまう」
「しかしあの敵は非常に強敵です。我々も助太刀いたしましょう」
「自分の国は自分で守るもんだろ? それで守れなきゃ、滅びるだけだ」
あっさりとそう口にするヘンリーは、このラインハットもまたそれほど歴史の深い国ではないことを知っている。かつて世界には今よりも多くの国々があり、しかしそれらの多くは歴史の中に消えてしまった。人間の世は移ろいやすく、その移ろいやすい中に自分たちもいる。できる限りのことはするが、その結果がどうなるのかは、恐らく神様にも分からない。
「ポピー王女、早くグランバニアにお戻りください。ラインハットのことは我々で対処いたします」
「デールの言う通りだ。自分の国のことはどうにかするから、ポピーちゃんも自分の国に戻れよ」
「グランバニアとかラインハットとか、今はそういうことじゃないのよ! 今は、世界が危ないの! だから私はここに来たのよ!」
デールの言葉もヘンリーの言葉も突っぱねて、ポピーは見張り台の端へと駆けて行く。まさかこの高さから飛び降りる気ではないかと慌てる二人の兄弟だが、ポピーは見張り台の端から静かに敵の軍勢を見つめる。その目には徐々に、敵の大まかな軍勢が、一つ一つの点となり、一つ一つの点が一体ごとの魔物の姿として映り込む。実際に目に見えているのではない。ポピーは敵の群れの一体一体から確かな敵意を感じ、その明確な敵意に対して自身の魔力を放出しようと両手を頭上に高々と上げる。
空間を捻じ曲げ圧縮するようなイメージだ。今、自分は敵の目の前にいる。ラインハットの見張り台から飛び越えて、敵の軍勢の只中にその身を置くイメージを脳裏に描く。いつでも敵の攻撃が飛んでくる危険が迫る。敵の巨大な剣に身体を薙がれたようで、それだけで絶命したような気にさせられ、息が止まる。巨大な敵にのしかかられ、体中が押しつぶされたような苦しさに血を吐きそうになる。死の呪文に襲われ、瞬時に心臓も身体も凍り付きそうになる。しかしそれらは全て強い錯覚だ。自分が抱く恐怖が生み出す幻覚のようなものだ。
それらに打ち勝てば、遠隔呪文を放つことができる。
ポピーは両目を閉じ、苦しそうに一つ咳をすると、両手に魔力を溜めるや否や、間髪入れずにそれを放った。ポピーの両手から直接放たれるわけではない。その魔力は唐突に敵の魔物の群れに届く。
まだ遠くに見える敵の群れの中に、激しい爆発が起こった。敵の群れの中に明らかな動揺が見えた。魔物らにも一体何が起こったのか分かっていないのだ。唐突に爆発に巻き込まれた敵の群れには乱れが見える。まだ驚きに口を開けたままのヘンリーもデールも、この爆発を機に敵が逃げ始めるのではないかと微かに期待したが、有象無象程度に考えていた敵の群れはすぐに体勢を立て直し、変わらずラインハットへ進軍してくる。
ポピーは続けて遠隔呪文でイオラの呪文を放つべく、両手を構える。錯覚幻覚と共に訪れる敵の猛攻がポピーの小さな身体を襲う。歯を食いしばり、錯覚のダメージから逃れる。そして再び敵の軍勢の中に爆発。しかし敵にはまとまりがあり、決して敗走することはない。倒れた仲間の魔物のことなど気にすることなく、一心にラインハットの崩壊を目的に、更に速度を増して進軍してきている。
「もっと強い呪文が使えたらいいのにっ!」
ポピーが歯噛みするのは、自身が未だ爆発呪文であるイオ系の中級呪文の使用に留まっていることだ。ここで最大級のイオナズンの呪文が使えれば、恐らく敵がラインハットへ迫る前にその数を半分ほどには減らせるはずだと悔しがる。しかし今のポピーは、遠隔呪文で消耗する魔力で手一杯であり、遠隔呪文とイオラの呪文を同時に唱えることで既にイオナズンよりも大きな魔力を消費してしまっているのだ。これ以上の魔力の消費は、彼女の身体にも損傷を与えかねない。
「もう十分だ、ポピーちゃん。後は俺たちに任せて」
構わず呪文を唱えようとしていたポピーの口に手を当てて、ヘンリーが彼女の行動を止めた。集中力を欠いたポピーは、途端に力なくその場で両膝を着き、思い出したように息を思い切り吸い込んだ。呪文に集中するあまり、呼吸するのを忘れていた。
「デール、お前はここから指示しろ」
「兄上、本当に自ら行かれるおつもりですか」
「やっぱ騎馬隊にも大将ってのがいないと、まとまらねぇだろ」
「しかし他の将校に任せても良いものかと……」
「もううじうじ悩んでる暇はねえんだよ。それに兵の士気を上げるってのは大事な役目なんだぜ」
じゃあなと、軽く手を振っただけでヘンリーは見張り台から姿を消した。彼はここから階段を降り、城周りに控えている騎馬隊と合流し、自ら敵陣へと向かっていくつもりだった。既に何日も前から練られている作戦の一つだ。デールは直前になって、兄が騎馬隊を率いて敵陣に向かうことに躊躇したのだ。
「デール様、このことって、マリア様やコリンズ君は……」
ポピーが恐る恐る聞けば、デールは静かに首を横に振った。
「知らせていません。兄が騎馬隊を率いていくのを知っているのは、私と将校たちだけです」
その事実にポピーは愕然とした。誰よりも大事な家族であるマリアやコリンズには一言も事の次第を知らせず、ヘンリーはラインハットのためにと国の騎馬隊を率いるのだとその覚悟を知らされた。当然、無駄に死ぬつもりなどないだろう。しかし相手が強敵と既に分かっているはずだ。敵の中には死の呪文を操るホークブリザードという青い怪鳥がいるのだ。
「こうなったら、私の魔力で全部の敵を……」
「おやめください、ポピー王女。無駄に魔力を使ってはなりません」
ポピーの無謀を冷静に止めるのはサーラだ。サーラは魔物の目で、まだ遠くに見える魔物の軍勢を静かに眺める。ポピーの放った呪文でいくらかはその数を減らした魔物らだが、まだラインハットの騎馬兵たちの手に負える数ではないだろうとサーラはまとまりある魔物の群れを見る。
「危険の一歩手前で、これで逃げる覚悟はおありですか」
そう言ってサーラが手にしたのは一つのキメラの翼だ。グランバニアから持ち出したキメラの翼の行き先は、当然グランバニアの国だ。この道具をひとたび空に放れば、ポピーたちの意思とは関係なく彼らの身体はグランバニアに運ばれる。サーラにとって、他の魔物の仲間たちにとっても、今最も守らねばならないのはグランバニアの王女ポピーの命だ。はっきり言ってしまえば、土壇場でラインハットの国を見捨てることができるかと、ポピーに問うているのだ。
「そんなの……できない」
「それでは困ります」
「そ、それなら、危なくなったら一度私のルーラでみんなでラインハット城に引き下がればいいのよ。それでもう一度態勢を立て直して……」
「それはなりません、ポピー王女。一度退けば、我々の敗北は決定的です。勢いを増した魔物の群れは一気にラインハットを襲って来るに違いありません」
デールはラインハットの王として、まるで血の通わない冷静な言葉を発しているようだった。しかしそれだけ、彼もまた覚悟を決めているのが感じられた。既に先月より、ラインハット近辺でざわつく魔物の群れの存在を当然デールも把握しており、上層部及び国の守りを固める兵士らとの間で魔物の群れを決して国に近づかせないことを決めてしまっている。
「我々の国ラインハットはかつて富国強兵に狂っていたような国です」
幼い頃から国王の座に就かせられていたデールは、母である太后の操り人形と揶揄されることもしばしばだったが、何年もの間をただ玉座に座していただけではない。魔物に乗っ取られかけた国は内部から瀕死の状態にまで追い込まれていたが、兵の強さだけは本物だった。そして平和を取り戻したラインハットはその平和に歓喜するに終わらず、ようやく勝ち得た平和だからこそ守らねばならないと、兵力だけは落とさずに守り続けてきたのだ。
「グランバニアのような勇猛果敢とは参りませんが、我々には我々の戦い方があります。大丈夫ですよ、この戦いには必ず勝ちます」
デールの目には確かな自信が見られた。しかし同時に、何かを覚悟したような強い表情がそこにはある。普段は温厚で優し気な顔つきをしているデールのその厳しい眼差しに、ポピーは彼が間違いなくヘンリーの弟なのだと感じた。ポピーは双子の兄ティミーとよく似ていると言われることがあるが、たとえ異母兄弟であろうとも志を同じにした兄弟が似るのは当然のことかも知れなかった。
「サーラさん」
「逃げる覚悟はできましたか」
「それは、サーラさんに任せるわ。私だと多分、判断できないから」
「分かりました」
その言葉だけを交わすと、サーラはポピーを小脇に抱えたまま見張り台の上から飛び降りた。見張り台の高さのことをすっかり忘れていたポピーが、自身の高所恐怖症を思い出したように声にならない悲鳴を上げた。しかしそれもあっという間で、彼らはすぐにラインハット城の北側、ちょうど城の背面に当たる場所へ下りていた。



執務机の引き出しの鍵が開いていた。うっかり開け放しのままだっただろうかと眉をひそめ、中を探れば、置いてあるはずのものがない。
マリアとコリンズが教会に向かった後には、確かにこの引き出しにあったのだ。それが今、魔法で消されたように忽然と消えている。引き出しが荒らされたような形跡はない。
ラインハット王家創設以来、王自ら戦いに赴くことがあれば、必ず身に着けていたとされる腕輪だった。その腕輪を身に着け、戦いに出れば負けること無しと言われるような代物だ。そしてそれが、ただの願掛けだけのためにある腕輪ではないことを、ヘンリーは知っている。
自分以外にこの引き出しの鍵を持っている人物はいないはずだ。しかし万が一その者がいるとすれば、それは自分の最も身近な人物に違いない。ヘンリーの服のポケットからこっそりと鍵を持ち出し、合い鍵を作らせることのできる人物を考えれば、それはもはや一人しかいない。
「嘘だろ……マリア」
彼の妻マリアは息子のコリンズと共に今は教会にいるはずだ。しかし今から教会に向かい、それから兵たちの待つ場所へ向かうには時間がない。
何故彼女がこの腕輪の存在を知り、持ち出したのかは全く分からない。しかし他にこの腕輪を持ち出せるような人物が思い当たらない。そして今は、とにかく兵たちの待つラインハット城北面へと急がねばならない。
「仕方ねぇ。腕輪の力に頼ること自体、間違えてんだよな」
乾いた笑いが震えるが、彼の決断は早い。今はいち早く、兵たちの待つ場所へと急がねばならない。それが彼が彼自身に下した決定だ。
「こっちの戦利品だけになっちまったな」
そう言いながら引き出しの更に奥から取り出したのは、彼が常時腰に提げている剣とは異なる武器だ。大剣や斧などを振るうような力などなく、せいぜい細身の剣を身に着けることしかできない自身にも振るえる武器をと、時間をかけて手に入れた武器だった。
それを無造作に剣とは反対側の右側の腰に提げると、ヘンリーは顔をしかめたまま小さく溜め息をついて、部屋を出た。悪い予感を拭おうと、脳内を占めようとする想像を消し去ろうとするが、それはずっと彼の頭の片隅に残り続けた。



ラインハット城北面に、城を囲う堀を跨ぐ橋が架けられている。ラインハット有事の際には城下町に続く正面の大橋ではなく、こうして騎馬隊用の臨時の橋が架けられる。その橋からゆっくりと騎馬隊が二頭馬首を並べて列になって城の外へと出ているところだった。
穏やかな冬の空が広がっている。薄く白い雲がたなびき、とてもこれから北西の平原にて戦闘が行われるというような雰囲気は空には見られない。
騎馬隊が全て堀の外へ出たところで、歩兵隊が続いて橋を渡る。その中には戦闘部隊の他に、呪文補助部隊や回復部隊も混じり、その数を見て同じく橋を渡ろうとしているピエールたちは目を見張っていた。
「この国にこれほどの兵力があろうとは」
「ピキー」
「ソレデモ、チョット、ムズカシイ?」
「そうですな。敵の数はこれ以上です」
頭上から聞こえたサーラの声にピエールたちが上を見れば、ラインハット城の見張り台から羽をはためかせて下りて来るサーラと、その脇に抱えられたポピーの姿があった。
「グランバニアを襲ってきた魔物の数の比ではありません」
新年祭の武闘大会の最中、グランバニアを襲ってきた魔物の姿もサーラ達はその目に確かめている。しかしこのラインハットを襲おうとしている魔物の群れは、その数倍にも及ぶ数のようだった。ポピーの遠隔呪文でいくらか減らしたとは言え、その数は未だラインハットの兵力を大幅に上回っているように見える。
「テルパドールの状況は分かりませんが、敵が恐らくこのラインハットを最も潰したがっているのは間違いありませんね」
人間世界の中で今は、三つの国が各々異なる大陸に存在している。人も魔物も寄せ付けぬような砂漠の国テルパドールに、険しい山と深い森と言う自然の城砦に守られるグランバニア、そして最も人間同士の交易に栄えているラインハットの国。敵の目から見れば、人間世界に大きな傷を負わせたいと思えば自然とラインハットを潰すか乗っ取るかを考えるのが妥当なところだ。それ故にこの国はかつても魔物に乗っ取られかけた過去がある。
「ピエール、ガンドフ、スラりん、私たちもラインハットの戦力として加勢します」
ポピーの言葉は彼らの予想していたものと寸分違わないものだ。
「一つだけ約束ね。絶対に私たちは離れて戦わないこと。みんな絶対に、まとまっていて」
「承知しております」
その言葉すらもピエールは確かに予想していた。ピエールもスラりんもガンドフも、サーラ同様に、何をさておいても真っ先に守らねばならないのはポピーの命だ。そのためには、一方を捨てる覚悟を持たねばならないのだと、彼らはグランバニアを出る前から既にそのことだけを考えていた。
本当ならばここで、兄ティミーが元気な声でも上げて皆の士気を高めてくれるのだろう。しかし今、この場に兄はいない。ピエールたちが主と慕う父リュカもいない。この場で皆の心をまとめ活かすのは自分しかいないのだと、ポピーは兄ティミーの持つ勇者の勇気を借りる気持ちで声を上げようとした。
その時、ポピーの頭を上から撫でる者がいた。その優しい手の雰囲気に、ポピーは思わず「お父さん!」とはしゃいだ声を上げて後ろを振り向く。しかしそこには見慣れぬ鎧兜に身を包んだヘンリーが馬上の人となり、ポピーたちを見下ろしていた。
「今更グランバニアに戻れって言ったって、どうせ聞かないんだろ?」
「聞きません」
「即答かよ」
「グランバニアはお父さん達が絶対に守ってくれるもの。私、信じてます」
「ラインハットは信じてくんないの?」
「えっ? いや、そういうことじゃなくって、だって、この状況を見て今更グランバニアに戻れません!」
あくまでも頑固を貫き通すポピーにはもう言葉と言う言葉が通らないと諦め、ヘンリーはその後ろに控えるリュカの忠臣を見遣る。
「おい、ピエール。お前、絶対王女を守れよな」
「言われずとも」
「もう俺の娘みたいなもんなんだからさ」
「? 何を言っておられるのか分かりませんな」
「魔物のお前にゃ分からねぇよな」
そう言いながらヘンリーがポピーを見れば、彼女は束の間ぽかんとした表情を示していたが、何を思ったのか途端に顔から蒸気を噴き出さんばかりに顔を赤く染めた。
「ほ、ホントに何を言ってるか分かんないわ、ヘンリーおじさま!」
「さっき俺のこと『お父さん!』って言ってくれたじゃん」
「ちがうもん! さっきのは間違えたんだもん!」
「リュカと間違えたの? 確かになぁ、ここにリュカがいてくれりゃあかなり頼りになるけどさ。あいつは今、自分の国のことで手一杯だろ」
ヘンリーは決して自国のことだけを考えているのではないと、ポピーはその言葉に知る。グランバニアも今まさに魔物に襲われているという事実を、彼は親友の国のこととしてしっかりと認識しているのだ。その上で、目の前の戦いに集中しなくてはならない。
「こっちはさっさと終わらせて、グランバニアの王女様を早いところ国に戻してやんないとな」
ヘンリーはそう言うと、彼を守る六体の騎馬と共に臨時に架けられた橋を進み始めた。彼の後ろに付く騎馬の人だけは呪文の使い手なのか、マントにフードを深く被り、その手は戦士のような武骨さは見られない。それらが一体になって、前を行っていた騎馬隊と合流する。ポピーたちもまた橋を渡り切れば、臨時で架けられた橋は外され、橋は城側へ収められた。もうこの場から城に戻ることはできない。橋を外された後、ラインハットの軍隊はヘンリーと将校数名の指揮下に動き出す。その中に混じるように、ポピーたちもまたゆっくりと北西に広がる平原に向かい進み始めた。



「父上、オレ、雪が降る前にちょっと遠乗りしたい」
そう言い出したのはまだ秋が深まる前の、これから木々の葉が色づくような季節だった。冬ともなればラインハット近郊には雪の降ることが多い。雪が降れば積もり、そしてラインハットは冬の間閉ざされた国になってしまう。そうなる前にと、コリンズは父ヘンリーに馬で城近くの平地を馬で走りたいとせがんだのだ。
「ああ、そうだな。お前も近頃は乗馬もサマになってきたし、俺もちょっと都合つけて一緒に行ってやるよ」
ラインハットの王族の遊びとして一つ、乗馬があるが、これは遊びに留まるものではない。いざという時には王族自ら兵の指揮官となり、軍を統率していく義務を負う。むしろ戦闘時に備えた訓練の一つとも呼べるものなのだ。ヘンリー自身、幼少の頃に既に乗馬を始めており、今ではヘンリーもデールも、そしてコリンズも馬を乗りこなすことができる。
「あなた、お母様もお連れになってはいかがですか」
そう提案するマリア自身は乗馬の術を身に着けてはいない。通常、王族と言えども女性は特別乗馬の術を身に着けるものではなかった。しかし彼女の言うコリンズの祖母である先太后に関してはその通常の範囲に収まる人ではなかった。彼女は趣味程度だが乗馬ができた。
また彼女は普段、このラインハット城の中に半ば幽閉されているような立場の者だ。それと言うのも、かつてこのラインハット王国を窮地に陥れた張本人であり、いくらヘンリーやデールが彼女の存在を許し、次期国王が約束されているコリンズの祖母という立場であっても、やはり一般庶民の目から見れば複雑な思いが残るのも仕方のないことだった。先太后自身、そのような庶民の声を耳にしていないわけではない。それ故に普段は城から殆ど姿を現さず、大人しく慎ましやかに暮らしている。
その立場を最も慮っているのがマリアだ。マリアはこのラインハット王国に嫁いでからと言うもの、先太后の存在にも言葉にも助けられた部分が大いにあった。王宮のことなど何も知らないマリアを、先太后はまるで彼女を本当の娘のように可愛がり、今までの罪滅ぼしの一つでもあるかのようにマリアを助けた。その恩を、マリアは母となる先太后に返したいという思いを常に抱えている。
「お母様もたまには外にお出かけになりたいでしょう」
「そうだよな。城の中ばっかりじゃ息が詰まっちまう。よし、じゃあ俺とコリンズと母上とで、ちょっとだけ遠乗りしてみるか」
「おばあ様の乗馬って、とてもキレイですよね。オレもあんな風にキレイに乗れたらいいんだけどな」
「お前はまだチビ助だからな。どうしたって手足がまだ短いんだから無様になるのは仕方ねえだろ」
相変わらず口の悪いヘンリーがそう言うのを聞き、コリンズがむっとした様子で言い返す。
「オヤジだってそんなにキレイな乗り方じゃないって、兵士たちが言ってるのを聞いたことがあるけどな」
「なんだと? 誰がそんなこと言ってたんだ。教えろ」
「あなた、早く予定を調整しないと、またすぐに他の予定が入ってしまいますわよ。善は急げ、です」
母マリアの仲裁に父子が揃って気を削がれるのはいつものことだった。父と子の些細な喧嘩が始まりそうになると、必ずと言ってよいほどマリアが自然と間に入り、場を和ませる。そしてその後は何事もなかったかのように、各々のすべきことに戻るのだった。
乗馬の予定は何の問題もなく組まれた。当日、天気にも恵まれ、ヘンリーは息子コリンズと、継母である先太后と共に、数人の兵の護衛をつけて北西の平原近くまで行き乗馬を楽しんだ。コリンズの言う通り、先太后の乗馬の所作は非常に美しいものだった。趣味として洗練されたもので、一つの絵画にも収められるような景色だった。



新年を迎え五日が経ったこの日、ラインハットの北西に位置する平原には雪が残っていた。しかし魔物との戦闘を控えたこの場で問題になるほどの雪ではない。大方、太陽の熱に溶かされ、地面が凍りつくような場所はないようだった。ただ、溶けた雪が地面に染み込み、いくらか泥にぬかるんでいる場所もあるのが多少の気がかりだった。
遠くからでも敵の魔物の軍勢が押し寄せてくるのが分かっていた。この平原は広い。敵の目にも遠くから、ラインハットからの軍勢が近づいて来るのがはっきりと見えていた。
魔物との間に、取引や駆け引きはない。互いに睨み合い、攻撃の手がもう少しで届くところまで近づけば、戦闘は唐突に始まった。
ラインハットの騎馬隊が動き出す直前、ポピーを抱えたサーラが彼らの頭上に飛び上がった。敵の群れを見る。恐らく二千は下らないような魔物の群れだ。しかしその中には、以前よりこの地域に棲みついている魔物の姿もある。イエティやスライムナイト、ブラウニーと言った者たちで、それらは恐らくこの戦いに急遽駆り出されたようなものだろうとサーラはその者たちを眺める。
本当の敵は、宙に飛んでいる青い巨大鳥ホークブリザードだ。死の呪文を操る危険極まりない魔物であり、呪文を食らえば忽ちラインハット兵らに計り知れない損傷を与えるに違いない。
「ポピー王女、よろしいですか」
「うん、私たちでまずは引っ搔き回すのよね」
宙を飛び進んでくるホークブリザードの目には、同じように宙に浮かぶサーラとポピーの姿が映っている。敵の軍勢には宙を飛行できる魔物は複数いるが、ラインハット側にはポピーとサーラしかいない。目立つことを利用し、ポピーを抱えたサーラがそのまま敵の青い巨大鳥に向かって飛び進んでいく。それを見て、ヘンリーが大声を上げて止めようとするが、すぐ傍を進むピエールが「必ずサーラ殿が王女を守ります」と固く約束する。
まるでラインハットの騎馬隊を率いる形で前を行くサーラとポピーに向かって、ホークブリザードの死の呪文が容赦なく放たれる。敵の呪文はまだ二人にしか届かない。そしてその二人の身体は事前に反射呪文で覆われている。
死の呪文ザラキが次々にポピーとサーラを包むマホカンタの呪文に跳ね返され、そのまま敵の軍勢へと向かっていく。敵の群れに一気に動揺が広がる。ポピーとサーラが跳ね返した死の呪文を食らったホークブリザードが、己の呪文の威力に耐え兼ね、次々に地面へと落ちて行く。それだけで凡そ半数の鳥の魔物の姿が宙から消えた。
ラインハットの騎馬兵らが敵の群れに迫る。彼らには反射呪文の効力はない。ポピーとサーラに及んでいる反射呪文も、跳ね返す呪文の威力によりみるみるその効力は削がれていく。
このまま接近し、死の呪文を食らえば今度はこちらの戦況が不利になることは分かっていた。それ故に、サーラがすぐさま魔封じの呪文を敵に続けざまに放ったのだ。敵の数を冷静に確認し、魔封じの呪文マホトーンが全てホークブリザードに向けられる。兎に角、死の呪文さえ封じてしまえば良いと、それだけを先行したいとポピーとサーラは動いていた。
ラインハット兵たちは元より、死の呪文をも怖れぬ勢いで馬を駆けさせていた。国を守る兵の意志とはこういうものだと、たとえ死の呪文を受けてもその呪詛の力には耐えて見せると言わんばかりの強さを見せている。
その中で、駆ける騎馬の動きに合わせて、ピエールが敵陣の中へと突っ込んでいく。同族のスライムナイトも多くいるが、当然の如く戦いの中でピエールは同族にも容赦はしない。向かってくる敵に違いはない。そして絶えず努力を重ね、修練を積んだピエールはもうそこらのスライムナイトとはまるで別の生き物のように強い。ピエールの剣の前に、スライムナイトだろうがイエティだろうがドラゴンキッズだろうが、従来よりこの地に棲む魔物はひとたまりもない。
敵陣の前に飛び出したガンドフが、一度集中するようにきつく目を閉じたかと思えば、カッと見開いた大きな一つ目で光を放った。眩しい光に晒された敵の群れは、動きを封じられたかのようにその場に留まり、その隙をラインハットの騎馬隊が駆け攻撃を仕掛ける。敵が多ければ多いほど、眩しい光の効力は大きい。ガンドフは四方八方へと眩しい光を放ち、敵の群れをことごとく足止めした。
そのガンドフの頭の上、スラりんが目を瞑り集中している。小さな青い雫形の身体をふるふると震わせ、魔力をその身体に溜めている。ガンドフの足止めした敵らを一気に消し去らんばかりに、スラりんの身体からは聖なる光が滲み出すように全方向へ放たれた。ニフラムの光の渦に飲み込まれた敵の魔物の姿は、その光の中へ引きずり込まれ、光が消えると同時にその姿も忽然とこの世から姿を消してしまった。
グランバニアから来た魔物の助太刀の力を目にして、ラインハットの兵たちは勢いづく者もあれば、恐れをなす者もいた。ピエールはポピーのバイキルトの力を借り、更にその力を高める。彼の剣に触れる敵は、たとえ軽く触れるだけでも深手を負い、それだけで恐れ戦き逃げ出してしまう者もいた。
彼らの頭上、絶えず宙を舞うポピーとサーラは呪文の連発で空中から敵を追い回した。彼らには下に降りられない理由がある。反射呪文を身に帯びている限りは、味方の回復呪文をも跳ね返してしまうために一切怪我をすることも許されない状況なのだ。もし敵の一手でサーラが飛べなくなり、地に落ちれば、忽ち袋の鼠のような状態に陥る。
敵の群れを見ていると、ふと群れがまとまる時があった。ただの寄せ集めではない集団があると、馬上からヘンリーが目を細めて様子を窺う。その間にも敵の群れに襲われるが、手綱を引き、馬の前足で蹴り込むなどして敵を退ける。
何かの呪いにでもかかったのかと思うような、両手が蛇の魔物がいる。それらの魔物の集団が真っすぐにヘンリーに向かってくるのが分かった。魔物の集団だが、敵は明らかに敵である人間の集団の大将を討とうと、ヘンリーに向かって走り込んでくる。彼を守る兵たちが、圧倒的な力の差の前に崩れていく。逃げろと勧める守護兵に抗うように、ヘンリーは腰に帯びていた武器を手に取る。
鞭が唸りを上げて敵の頭上へと降った。腰の剣を抜いて戦うと見ていた敵の蛇手男らは、その異様な鞭の軌道に面食らい、体勢を崩した。三本に分かれる鞭の先の鏃が、敵を逃すまいとその身体に食い込み、そして荒々しく離れた。まるで鞭自体が暴れているような有様だ。
しかし敵は強い。グリンガムの鞭の攻撃にも耐え、馬上のヘンリーを引きずり降ろそうとする。蛇の手が彼の乗る馬に激しく噛みつくと、馬は高い嘶きを上げて暴れる。たまらず地に落ちるヘンリーだが、その前に現れるのは、主の友を救わんとするピエールだ。
言葉を交わしてなどいられない。目の前の蛇手男の群れを一掃せんと、未だバイキルトの効力を得ているピエールが敵に猛攻する。ヘンリーもまた鞭を振るいながら、幻惑の呪文を唱えて敵の目を眩ませる。ラインハット兵も持ち直し、主を守るべく剣を振るう。その隙にピエールがヘンリーの乗る馬の傷を回復呪文で癒し、ヘンリーは素早く馬に乗る。
ラインハット軍の呪文部隊によるルカナンの呪文が功を奏し、敵の守備力が異様に下がった。それだけで恐れをなして逃げ出す魔物も出て来た。しかしそれでも尚、敵の軍勢の方が圧倒的に数は多い。まだ敵が敗走しているとは言い難い状況だ。
ポピーもサーラも呪文の連発で息切れを起こしていたが、背後に感じる身の毛もよだつような冷気を感じた時、息の根が止められたような錯覚を感じた。しかしそれは、ただの錯覚ではなかった。
彼らの更に頭上、一匹のホークブリザードがふらふらと飛んでいた。ポピーとサーラは集中的にこの青い巨大鳥を攻撃し、既に戦えるホークブリザードはいないと思っていた。しかしまだ一匹、その魔力を残して生きていた。
サーラが未だ身にまとうマホカンタの呪文で敵の呪文を弾き返そうとしたが、遅かった。ホークブリザードの放ったザラキの呪文が、地で戦っているラインハット兵たちの息の根を止めにかかる。嘘のようにあっさりと、ばたばたと、兵たちが倒れていく。
ホークブリザードは確かに狙っていた。ただラインハット兵たちを意味もなく死の呪文に巻き込んだわけではない。その呪文の中心にいたのは、ラインハット軍の大将だ。
馬上から力なく地に倒れたヘンリーの姿を見て、ポピーは声を上げることもできない。サーラに抱えられたまま身体を小刻みに震わせ、その小さな身体に途轍もない魔力が蓄積していく。



ラインハット北西の平原での戦いに動きが見られた。ラインハットの騎馬隊の方に明らかな動揺があった。城の見張り台に立ち、戦況を見ていたデールは動きの中心に目を凝らす。望遠鏡を手にし、動揺の中心にそれを向ければ、見たくもない状況を目にすることになった。
「デール王、ご指示の通り城下の人々を城の教会へと誘導しておりますけど……一体何が起こっているのですか」
後ろから声をかけてきた義理姉は今も何も知らないままだ。ただ今回の戦の事情を知るデールや神父の言葉に従い、彼女も教会で人々の誘導を手伝っていた。本来ならば今日も常の通りに息子のコリンズを教会に連れ、小一時間ほどの勉学の時間に当てる予定だったが、その予定は早々に崩れた。このラインハットに大きな嵐が迫っているために城下の人々も城内へ避難すべしと、単にそれだけの触れを出して人々を誘導しているのだ。城下町に住む人々の間にも、さざ波のような困惑が広がっている。
「叔父上、何だか城の兵が少ない気がするんだけど、気のせいじゃないですよね」
普段から城内を好きにうろついているコリンズは、兵士たちとも打ち解けており、最近は剣の稽古もしているために訓練所にも出入りしている。城に配備されている兵士の数がいつもより少ないと気づくのも当然のことだった。
この二人、マリアとコリンズにだけは今回の戦いがあるかも知れないということを知らせていなかった。その時が来れば自ずと知れるからと、ヘンリーが皆に口止めしていた。そして今、その時が来てしまったのだとデールは一つ息を吐いて冷静さを取り戻し、手短に説明をする。
「兄上が兵を率い、北西の平原に戦いに出ています」
そう言ってデールが見張り台から指し示す方角に、魔物の群れとラインハットの騎馬隊がぶつかり合っている景色が見える。デールの落ち着いた声音に、マリアはすぐにはその言葉が現実とは受け取れなかった。コリンズにしても、父は常に城で執務に追われている身で、兵たちを率いて戦いに出るような人間ではないと思っている節がある。
望遠鏡がなければ戦いの細かな様子は見えないはずと、デールは望遠鏡を持つ手を細かく震わせながらも更に言葉を続ける。
「大丈夫です。我々は必ず魔物に打ち勝ちます」
まさか今、兄が倒れ、戦況が一気に悪化しそうだということは口が裂けても二人には言えなかった。今のこの状況で、二人に現実を伝えても何一つ良いことはない。二人の心が壊れてしまうだけだ。
「ええ、私は信じています。このラインハットを」
マリアはデールの言葉を信じ、両手を合わせ祈る。祈りや思いが届くかどうかなど誰にも分からないが、そうせずにはいられない。自分には何も分からない状況では、幸運を祈ることしかできないのがマリアにはいつも歯がゆい。
「ポピーは? ちょっと前に中庭でポピーの声が聞こえたんだ」
コリンズの言う通り、グランバニアから文字通り飛んできたポピーたちは中庭に降り立ち、そこで玉座の間から見下ろすヘンリーと大声で会話を交わしていた。その声が教会にいたコリンズの耳にも届いたのだろう。
「ポピー王女は……すぐにグランバニアにお戻りになりました。このような状況で留めるわけにも行きませんからね」
「デール王、お母様はどちらにおいでですか」
「母上は自室におられるかと思います。部屋の外に兵が立ち、護ってくれているはずです」
「いいえ、おられませんでした」
「え?」
「お母様が見当たらないのです、どこにも……」
コリンズを連れ教会を出たマリアは、今は母となった先太后を捜し城の中を歩き回った。非常事態となった今、王族は一つ所に留まるべきと思ったマリアは母も共にあらねばならないと、その姿を捜したが、誰に聞いてもどこを捜しても彼女の姿は見つからなかった。先太后の自室として使用している東の部屋の前に立つ兵が言うには部屋の中に彼女はおり、自分はこの部屋を守っていると言い張ったが、マリアはその言葉を直感的に怪しんだ。そして無理を通して部屋を覗けば、やはり彼女の姿はその部屋にもなかったのだ。
マリアはデールの逃げ場を失くすような強い目を向ける。決して逸らされない義理姉の、彼女に似つかわしくない鋭い視線にデールの顔も思わず引きつる。
「私、それより前にお母様にお会いしたのです。一つ、頼まれごとをしていたのです」
ヘンリーの執務机の左側の引き出しに、ラインハット王家に代々継がれている宝があると、先太后はマリアに話した。しかしそれには強い力が秘められているのと同時に、強い呪いもかけられているために、この度呪いを解くために神父に解呪を願うからそれを持ち出して欲しいと話を持ち掛けられた。ヘンリーに素直に話しては決して渡してくれないだろうと、彼女はマリアに引き出しの鍵を渡し、その宝をこっそりと持ち出すことを頼んだ。マリアは自分がまるで泥棒の真似事をするようで気は進まなかったが、夫の身に災いが降りかかっては大事だと先太后の言葉を信じ、神父による解呪のためにと引き出しから宝を持ち出し、先太后の手に直接手渡した。そしてその後、母となる先太后はラインハット城から忽然と姿を消してしまったのだ。
「あの腕輪は確かに、何か禍々しい力を感じました。しかし後になって、本当にお母様に渡してよかったものかと考えると、分からなくなってしまって……だけどデール王はきっと、全てを知ってらっしゃるのでしょう?」
戦いが始まり、今はラインハット軍の勢いに翳りが見える最中で、デールはどこまでマリアに話して良いものか逡巡する。隣には彼女の息子コリンズもただ静かにデールの言葉を待っている。まだ十歳にも満たない小さな子供だが、デールがこの年の時にはお飾りとは言え既に玉座に就かせられていた。状況が状況ならば、このコリンズが今のラインハットの国王の座に就いていても決して可笑しな話ではないのだ。
デールは何も知らない幼い王だった。しかしコリンズは平和を取り戻したラインハットで様々な知識に教養を身に着け、その姿は本来ヘンリーが辿るはずだった王になるべき者としての教育を受け続けている。王となるべき者として、知らずにいることは即ち罪にもなるのだと、デールは自分に言い聞かせるようにそう思い、二人に話した。



地に横たわるラインハットの大将の身体に、蛇手男の大蛇のような手が伸びる。しかしその蛇を、凄まじい勢いで斬りつける剣がある。
「スラりん! ヘンリー殿を!」
「ピキーーー!」
死の呪文を浴びた彼の魂はまだ辺りを彷徨っているはずだと、ピエールはスラりんに蘇生呪文ザオラルを試みるよう叫ぶ。スラりんも言われなくともと言うようにヘンリーの身体の上に乗り、素早く蘇生を試み始めた。その間にも、ラインハットの大将の骸を寄越せと言わんばかりに、蛇手男の手があちこちから伸びて来る。ピエールが剣で捌き、ガンドフも怒りに任せて手で殴りつけ足で蹴飛ばし、暴れまくる。それにラインハットの兵たちも加わり、必死に地に横たわるヘンリーを守り続ける。
空中で轟音が響いた。同時に放たれた爆発と火炎の凄まじい威力に、宙に飛んでいたホークブリザード一体が力なく地に落ちる。死の呪文を操る最後の一匹だった。
爆発は収まらない。ポピーの怒りと悲しみは増すばかりだ。怒りに狂う彼女が暴走するのを見るのは二度目だと、サーラは片腕に抱く小さな少女の身体から放たれる凄まじい魔力の大きさに、思わず彼女を落としそうになってしまう。一度目は、彼女が父リュカの死を目にした時だ。そして二度目は、リュカの友の死を目にした時。二つの凄惨な記憶が彼女の脳裏に残ることを、サーラはどうにかして消し去ってやりたいと思った。
その間にもスラりんは必死にザオラルの呪文を唱えている。死の呪文ザラキに倒れたのはヘンリーだけではない。ラインハット兵六名もまた、同様に地に倒れている。雪が解け、泥濘の中に倒れる彼らからは一切の命の気配が消え去っている。その中でも先ずは大将を蘇らせなくてはならないのだと、スラりんは懸命に呪文を唱え続けるが、ヘンリーの魂は戻らない。
「貴様! 死んでよいと思っているのか!」
ピエールが剣を振るいながら、後ろに庇うヘンリーの身体に叫ぶ。そこらに漂っているに違いない彼の魂に、届くと信じて呼びかける。
「マリア殿を悲しませるな! 息子を絶望に落とすな!」
何でも良い。ヘンリーの心に響く声を届ければ良い。ピエールは蛇の牙をその身に受けながら、尚も言い募る。
「ラインハット王国を見捨てるつもりか! それでも貴様、国の宰相か!」
魔物の脅威に晒されていたラインハット王国を立て直し、ここまで復興させてきたのに偏にヘンリーの力が大きいことはピエールも知っている。彼は本心から、このラインハットを平和に導きたいと願っていたはずだ。
「この国が貴様を必要としているのだぞ! 簡単に倒れている場合ではない! 立て!」
ザオラルの呪文になかなか反応しない彼は恐らく、生きようとする力が弱いのだ。生きることに迷いが生じている者に、ザオラルの呪文は届きにくい。ボブルの塔の死闘では、一度命を失ったリュカに終ぞスラりんのザオラルの呪文は届かなかった。ピエール自身も、スラりんのザオラルの呪文を何度も受けようやく蘇った者の一人だ。
この世に強く留まりたいという思いを引き出さなくてはならない。彼を唯一と、彼が唯一と思っている人物が、彼の妻子の他にももう一人いる。
「我が主にこれ以上、心の傷を負わせてほしくはないのだ! 生きろ!」
ピエールはリュカとヘンリーが過去にどのような人生を送って来たのかなど、詳しいことは何も知らない。しかし彼ら二人の間には誰にもどうにもできないような絆がある。簡単な絆ではない。非常に危ういように見える時もある。しかしその絆は決して誰にも切ることはできないものだ。
スラりんが魔力を振り絞ってザオラルの呪文を叫び唱えた。誰もヘンリーの指先が動いたことには気づかなかったが、呪文を唱えたスラりんだけはヘンリーの魂が戻ったことをその身に悟った。高らかなスラりんの泣き声が響いたのを背にしながら、ピエールやラインハット兵たちが絶えず敵の猛攻から彼を守り、ガンドフがまだ地に横たわるヘンリーに回復呪文を施し、その身を抱き上げて包み込む。
「マリア、コリンズ、マッテルカラネ」
「……ははっ、そうだな。悪い」
束の間、軽い眩暈を起こしていたヘンリーだが、戦場の緊張にすぐさま身を慣らして馬に飛び乗る。そんな大将の姿を見て、ラインハット兵たちの間にも再び士気が上がるが、依然として数の上ではまだ魔物の群れの方が優勢だった。今もまだ、敵の死の呪文の倒れた兵が地に伏せたままだ。ヘンリーが蘇生した状況を受け、兵たちは倒れた仲間の身体を馬上に乗せ、その身が酷く傷つけられないようにと戦場から離れた場所へと運んで行った。
宙からヘンリーが蘇生されたのを見て、ポピーの怒りの呪文がピタリと止まった。既に彼女の魔力は限界を超えており、底をついていたはずの魔力を絞り出すようにして呪文を放っていた。呪文の使い過ぎで無理が祟れば、その身には異常が出始める。サーラが脇に抱えるポピーの小さな身体から力が抜け、その身が耐え難い寒気に襲われ始めた。
「王女、ご覚悟願います」
そう言ってサーラが手にするのは、この戦いの前に約束していたキメラの翼だ。意識が朦朧として来ている今のポピーに、判断能力はない。朧げに見える地上の景色に、仲間の姿が見える。ピエールにスラりん、ガンドフが一つ所に固まって戦っている。そしてその中には命を取り戻したヘンリーの姿もある。
上から見る景色は、全てを見渡すことができる。ぼんやりと見える景色の中、ふと一頭の馬が一直線に、敵の真っただ中へ突き進んでいくのが見えた。呪文の使い手だろうか、全身をフードとマントに隠し、その姿は決して戦士のようには見えない。
敵の軍勢は凡そ北側に位置している。敵味方入り乱れている場所も当然あるが、大まかには南に味方、北に敵という構図だ。突き進む馬に乗る者は一瞬、後ろを振り返った。遥か後方、南に位置するラインハット城の見張り台には人影があり、そこで何かがキラッキラッと、まるで何かの信号を送るように光を発しているのをポピーは目にした。
駆ける馬の上に乗る者の、フードが煽られ外れた。現れたのは女性。ポピーも当然、見覚えがある。面と向かって話したことは一度もない。しかし彼女を、コリンズの祖母として見知っている。
「母上!」
ヘンリーの叫び声が響いた。しかし彼が継母の元へ駆けつけることはできない。目の前の魔物の群れと対峙するので精一杯だ。そんな戦闘の最中、一つの人馬がまるで敵の軍勢の中へと投げ槍のように突っ込んでいった。



デールは手にしていた鏡を力なく脇に下ろした。陽の光を受けてチカッチカッと二度、鏡の信号を送った。それが母と子の間で決められていた合図だった。
敵の軍勢は半数以下に減っていた。初めほどの軍勢であれば、太刀打ちできなかっただろう。しかしラインハット兵たちとグランバニアからの協力で、敵の数を大幅に減らすことができた。中には逃げ出す魔物の姿もあり、想定よりも早くに魔物の軍勢は弱まった。
「デール王! 今の、取り消してください! お母様が……!」
「もう母はこちらを振り返らないでしょう。母が、決めたことなのです」
「どうしてこんな、惨いことを……」
「しかし母がこの方法を取らねば、きっと兄上が同じことをしていたんです」
ラインハット王家に代々伝わる宝の腕輪の存在を、デールは母である先太后から聞いていた。その腕輪は国民を守るための最後の手段なのだと、腕輪の持つ力についても教わった。
彼女自身がその宝の存在を知ったのは、デールが生まれるよりも前のことだ。先代のラインハット王の後妻となり、彼女は夫である王より腕輪の秘密について知らされていた。この腕輪のことを知るのは、国王自身と妻と、そして第一王子であるヘンリーだけだと、宝物庫などではなく、国王の執務机の引き出しに密かに安置されている腕輪を見せられたという。
「姉さまがもし、母と同じ状況だったらどうしていましたか」
デールの言葉に、マリアは両目に涙を湛えながらも考える。いや、考えるまでもない。子であるコリンズがもし、その身をもってして国を救わんと破滅の腕輪を身に着けるとしたら、子の手から腕輪を奪い自ら身に着け、その役目を自身が進んで負うに違いない。デールはそのようなマリアの心情を予め分かっていた上で、狡くもそんな問いかけをしたのだ。
「ひどい息子でしょう、僕は」
「……そんなことはありません。貴方は立派な、ラインハットの国王です」
そう言いながらマリアが義理弟であるデールの手を取り、両手で包めば、その手の甲に王の涙が一粒落ちた。
「母なら、子のためなら、きっと迷わず命を懸けられるのです」
マリアの言葉を聞いてコリンズが思わず母のスカートを強く握りしめる。ラインハットの見張り台から、北西の平原で繰り広げられる戦いの場に何かができるわけではない。非力である彼らが駆けつけたところで、何も役に立てるわけではない。今はラインハット側が勝利することだけを願い、目を背けたくなる戦場を必死に見守らなくてはならない。
「母は罪の意識からいつでも探していたんです」
デールの目には、もう涙はない。彼女はかつてラインハットを滅びの道へと導いた首謀者なのだ。長年、地下牢に入れられた不遇があったとは言え、自身が最も苦しめていた継子に救い出され、生きろと言われた彼女は本心ではその場で命を絶ちたいほどの罪の意識に襲われていた。しかしそれはできなかった。最も償いたいと思っている継子に生きろと言われれば、生きるしかなかった。
「自分の死ぬべき場所を、いつも探していました」
彼女は今のこの時だと、遂に見つけたのだと、デールの言葉は語っていた。



乗馬は得意だった。趣味程度に嗜んでいたものだが、夫となったラインハット王に乗馬の所作を褒められてからは、気を良くして更に技術を磨いた。恋や愛とはとても単純なものだった。
今では相応に年を取ったが、若い頃に身に着けた技術と言うものは年月を経ても身体が覚えている。時折、息子たちが遠乗りに誘ってくれることも手伝い、乗馬の腕はそう落ちることはなかった。
駆ける馬の上で浴びる風は心地よい。今は年明けの寒い時期だが、目の前に広がる恐ろしいばかりの光景を目にすれば、寒さの感覚など吹き飛んでしまう。
かつて自分のことばかりを考えていた過去が嘘のように、今の彼女の胸には残していく子供や孫のことばかりが占めている。息子たちの人生を、ラインハットの歴史を傷つけた罪を償いたいと思う心が今の彼女の原動力だ。その力で、考えられないような魔物の軍勢の中へと突っ込んでいく。
願うのはラインハットの未来。自分が壊しかけた未来あるラインハットを、二人の兄弟が中心となってこれからも続けていく。明るいばかりの国を守るために散れるのだと思えば、怖いものはない。
最期まで勝手なことをする母をデールは呆れて見ているだろうか。遥か後方で自分を母と叫ぶヘンリーには感謝の念しか浮かばない。可愛い妻と子と、彼の未来に幸あれと願えば、自ずと涙が零れた。
敵と戦う術など持たない、一人の女だ。しかし目の前の魔物の軍勢を一匹一匹その目に焼き付ける。全てを、この腕輪の力で倒さなくてはならないのだと、彼女は身に着けた腕輪の重みを馬の揺れと共に感じている。
メガンテの腕輪の効力を、彼女は理解している。敵と認める者たちに向かい、腕輪を身に着ける者の命を持って発動する。一度、死んだも同然の身だ。たまたま運よく生き永らえた命をこの場で使えるのならば、それはもはや運命だったに違いない。
馬の首を一度撫でた。共に散らねばならない馬に「すまぬな」と声をかけた直後、一つの人馬は一体となって敵の軍勢の中へと突っ込んだ。
ラインハット北西の平原を揺るがす大爆発が起こった。戦っていたラインハット兵も敵の魔物の群れも、揃って大爆発の起こす地面の振動に思わず戦いの手を止める。
敵の軍勢の大半が、焦がした平原の上で、地面を埋め尽くすように倒れていた。戦況は一変した。敵の魔物らはその殆どが消え去り、ラインハット側の圧倒的有利の状況となった。その状況を、サーラは確かに目にした。
ピエールがヘンリーに回復呪文を施し、周囲にいる傷ついた兵たちにも同様に回復呪文を次々とかける。ガンドフも同様に兵たちに回復呪文を施し、スラりんは魔力の底をつくまで防御呪文スクルトをかけ、広い範囲のラインハット兵たちに目に見えない防御の盾を作り出した。
「まだ戦いは終わっていないが、我々にも守らねばならぬものがある」
ピエールの声に、ヘンリーは返事もしないまま上を見上げる。放心したような王女を抱える悪魔のような姿の魔物が宙に浮かんでいる。そんなサーラの手には、ヘンリーも見慣れているキメラの翼が一つ握られている。
「王女様を無事に国まで戻してやってくれ」
「また後日、様子を確かめに来る」
それだけの言葉を交わし、ピエールが上を見上げると、サーラがポピーを抱えたまま仲間の元へと下りて来る。ヘンリーが兵たちと共に戦闘を再開したところで、サーラはどこまで状況が分かっているのか明らかではない王女を抱えたまま、仲間たちと一塊になり、キメラの翼を空へ放った。忽ち彼らの身体はキメラの翼の効力に包まれ、ラインハットに何の感情も残さないかのように、青空の間を駆け抜ける流れ星のごとくグランバニアへと飛んで行った。

Comment

  1. ともこ より:

    bibiさま

    え!?ちょっと!?
    ここで、先太后がですか!?

    全く予想していなかったので、久々のメッセージです(><)

    読みながら、涙が…
    読んだ直後で、なんか感情とかめちゃくちゃなので再度読んできます
    たぶんあと、5、6回いやもっと?読みなおしてしまうでしょう

    これだけ伝えておきます
    今回も素晴らしいお話でした、いつもありがとうございます
    ゆっくりでいいんです、更新まで何度も振り返りながらゆっくり続きをお待ちしております

    • bibi より:

      ともこ 様

      早速のコメントをどうもありがとうございます。
      予想していませんでしたか。そうですよね。ここで彼女が出てくるとは、という感じでしょうかね。
      ラインハット編はどうしても力が入ってしまいます。本当はもっと書き込む部分があるんですが、自分ではかなり端折りました。まあ、あまり無駄に長く書いてもだらだらしてしまうので、これくらいで良かったのかも知れませんが。
      実はゲーム上での彼女は、この時期には姿を消してるんです。あっさりと引き下がってもらうパターンもあったんですが、彼女も彼女なりに苦労した人生だったかなと、ここでこうして登場してもらいました。
      次のグランバニア編に向けて、また話を考えて行こうと思います。また気合いが入りそうです。

  2. ジャイン より:

    bibi様
    この回の題である「罪滅ぼし」が何を意味するのかと思って読んでみたら…衝撃でした。
    しかし太后に悔いは無かったんでしょうね。
    もしこのことをリュカが知ったらどのような感情になるのか気になるところです。
    それからポピーは未だに習得呪文がイオラ止まりのようですね…とはいえ最近マヒャドを覚えて、ゲーム上は先にイオナズンよりもドラゴラムを覚えることになってるので、今後の展開が気になります。
    話は変わりますが、私もドラクエ関連ではないのですが、とあるゲームを題材とした二次作品を数年前から制作しています。(おそらくbibi様は知らないゲームかな…) なので本来ゲームにはない展開だからどうしようとか悩んでしまう気持ちが私にはよーく分かります。私も何度もそのような壁に阻まれたことがありますので…
    今後この話がどうなるのかは当然私には分かりませんが、楽しく読ませていただこうと思います。

    • bibi より:

      ジャイン 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      そうですね、このことは必ず後でリュカにも伝わるので、その時は・・・どうなるでしょうね。私も気になります。
      ポピーはまだイオラ止まり、そうなんです。イオナズンまではまだまだ道のりがありそうです。それよりも前にドラゴラム、その辺りの話も後々考えて参ります。

      ジャインさんも二次創作をされているのですね。本来ゲームにない展開を書くのは難しいですよね。果たしてどれだけの方に受け入れてもらえるやらと考えると、一切筆が進まなくなるので書いている時は話に集中することにしています(汗)
      今後の展開は私自身もよく分かっていないのですが、多くの方に楽しんでもらえるお話を書ければと思いながら進めて行こうと思います。・・・それにしてもラインハット編で力をかなり使い果たしてしまい、グランバニア編がどうなることか・・・いや、弱気吐いてないで頑張ります!

  3. ケアル より:

    bibi様。
    ラインハット戦、心からお待ちしていました!どうもありがとうございます。

    「罪滅ぼし」このタイトルを聞いて、まさかとは思いましたが…そのまさかだったとは…。またしてもbibi様の意表を突いたシナリオに驚きましたよ。
    先太后をメガンテの腕輪で大爆発させるなんて誰が思い浮かぶだろうか…。鬼滅で炎柱の煉獄杏寿郎が死んでしまったことぐらいに驚きましたよ(叫)
    文中に腕輪という単語がでて来た時、なんとなくはメガンテの腕輪かなとは予想できました。なんせロッキーにメガンテを使わせて一回り小さくさせたぐらいですから。
    でもまさか、デールまで…実の母であるのにデールまでが了承済みでの親子作戦だったとは…いやはやいやはや~予想外(驚)

    bibi様がコメ返信に書いていますが、ゲームでこの青年時代後半、ラインハットに先太后が居ないんですか?
    えっそうなんだ。知らなかった。ゲームでなぜ居なくなったのか知りたいところですよね。

    今回、先太后の壮絶な行動と死にホーカスされやすいとこですが…注目しないといけないのは、忘れてはいけないのは、メガンテの腕輪を持っていたヘンリーですよ。
    ヘンリーはこの戦いで死ぬつもりだったということでしょうか?それとも死んでしまったらということを考えていたのでしょうか?
    もし前者なら、リュカが激怒しそうですね。
    亡き父の形見の腕輪…なんとも言えない…。

    ポピー、2度目のぶち切れ呪文ですね。
    文中には書かれていませんが、あれはあの大爆発はイオナズンで良いんでしょうか?
    そして、本作初のポピー遠隔呪文お披露目ですね(パチパチ)
    遠隔呪文そのものにMP消費がある設定になっていたなんてびっくりです。なるほどイオラ+遠隔のダブルMP消費、連発は身体にきそうですね。

    やはり、ホークブリザード中心のモンスター軍団でしたか。
    おそらく、ヘンリーがザラキで倒れるだろうとは思っていました。スラりんが一緒にいるわけですから、
    でも、他の兵士までとは思わなかった。スラりんたちグランバニアに帰っちゃったけど…死んじゃった兵士たちはどうなるのでしょうか?
    やはりもう…。
    グランバニアにポピーたち帰りましたが、その後のラインハットはどうなったんでしょうか?大丈夫だったってことですよね?

    ヘンリー、オラクルベリーのカジノでグリンガムのムチを手に入れていたんですか。コインをラインハットの税金で250000毎まとめ買いしたとか?(笑い)
    せっかくの最強ムチなのに活躍できずにもったいない(苦笑)
    ヘンリー!ムチの使い方もっと鍛錬しないと駄目だぞ!(笑み)

    ティミー・ポピーの活躍で一段落ついたのかな?テルパドールとラインハット。
    次は、リュカ・サンチョ・オジロン率いるグランバニア群VSデモンズタワー群ですね。
    リュカはどうなってしまうのか?
    オジロンの強さはいかに?
    サンチョの動けるデブパワーは?
    ドリスは戦場に飛び出すのか?
    スラぼうたち魔物の仲間たちは?
    トレットの強さは?
    次話をなるべく早く、どうかbibi様お願い致します(願)

    • bibi より:

      ケアル 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      今回のオリジナル展開、楽しんでいただけたでしょうか。
      メガンテの腕輪の伏線は、以前グランバニア一家とラインハット一家で訪れた海辺の修道院でのお話です。修道院長様が同じ腕輪を持っています。彼女の修道院が危機に瀕した時にはその身を盾に修道女らを守る役目を負っています。ヘンリーはその時に、同じ役目を負ってるんだなと気づいています。・・・と、そんなん説明されてようやく知るわ!みたいな裏話ですね。

      ホントは今回のお話、これ以上にもの凄く長くなってしまうものでした。ある意味、消化不良・・・(笑)
      ラインハットに危機が迫っていることに、先太后はデールに言われなくとも気づいています。そして今回の作戦を持ち掛けます。デールは反対しますが、兄ヘンリーが犠牲になるのはラインハットの大きな損失になると、彼女は息子を説得し、また彼女自身がこの役に最も適しているのは自分だと曲げない意思を見せます。デールは実は、ヘンリー以上に嘘を吐くのが上手い人間です。伊達に小さい頃から玉座に座っていません。なのでこの話は母と二人だけの秘密にしていました。
      そうなんです、先太后はこの時期、ゲーム上では姿を消しているんですよ。なので彼女にも華を持たせようと、今回このようなお話にしてみました。
      ヘンリーは自分一人の命でラインハットが助かるならそれで構わないと思っています。彼は自分の命を軽く見ていますからね。ここまで生きて来られたのは単なるラッキーで、本当だったら子供の頃に死んでいたはずだと、心のどこかで常に諦めたような気持ちが燻っています。彼の妻子にしても、デールがいてくれれば平気だろうと、そんな風にさえ思っていそうです。・・・後でリュカに叱ってもらいましょうか?

      ポピーは怒りで呪文を出していましたが、あくまでもイオラの連発です。彼女はまだイオナズンは使えない段階、と言うことにしています。
      遠隔呪文も私の独自設定で申し訳ないですが、呪文を唱えるのと同時に魔法力を消費することにしました。そうそう使えないということですね。でもそうなると、テルパドールのアイシス女王の魔法力は・・・きっと彼女、とんでもない魔法力を秘めていますね。ただ、彼女は補助系呪文のみ使える人、という私の独自設定はあります。・・・ホント、色々と勝手に書いてしまってるけど、大丈夫でしょうかね(汗)
      ヘンリーが倒れるのは予想されていましたか、あはは・・・。共に倒れた兵士たちは後に城に連れて帰り、教会で神父様のお力を借りるとしましょうか。そのために身体を傷つけないように戦闘の場から避けてもらいました。
      中途半端なところでグランバニアに帰りましたが、ラインハットの勝利をピエールもサーラも確信しているので、恐らく大丈夫でしょう。
      ヘンリー、ちょくちょくオラクルベリーのカジノに出入りしてました。税金をふんだんに使って・・・ではなくて、自分のお小遣いをほとんどここに注ぎ込んでいる、と言った感じですかね。まあ、カジノで遊んでもいたでしょうけどね、遊び人ハリーとして(笑)

      次はグランバニア編か~。登場人物がいっぱいで、私の頭が飽和状態です。どうしましょ。
      またちょっと長くなりそうですね。2話に分けるかも知れません。またしばらくお待ちくださいませ~。

  4. トトロ より:

    太后さんゲームでいなくなるんだ…知らなかった。
    いまDS引っ張り出して5を最初からやってるんですが、なかなか進まない。。なぜなら小説と同じ魔物を仲間にしてるから。おかげで今までにないくらい高レベルでボスキャラ撃破してますが。
    端折った部分もいつか短編集で、みたいですねぇ。

    • bibi より:

      トトロ 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      彼女、この時期には姿を消してるんですよ。そういうところも想像を掻き立てられるところでして・・・今回こんなお話にしてしまいました。他にも色々なお話が考えられますね。こういう想像の余地があるところが、ドラクエの面白いところです。
      このお話と同じ仲間を実際にゲームで仲間にされているんですか。それは、とても大変そう・・・。テルパドールでうっかりシュプリンガーがたくさん仲間になっちゃいましたけど、それはまあ、カウントしないでも良いかなぁと思いますよ。
      端折った部分を書くとなると・・・うおおお、それだけで頭が爆発しそうです。でもいつか、書いてみたいですねぇ。と言うか、ラインハット側の話だけでサイドストーリーができそうです。私がもう一人いてくれれば、隣で書いていて欲しいものです(笑)

  5. ケアル より:

    bibi様。

    そうですね、ヘンリーを後でリュカに叱って貰いましょうか(笑み)
    リュカは何度もヘンリーにそういう話をしていますよね。それなのにリュカの気持ちをヘンリーは分かりたくても分からないんだろうか。

    ポピー、そうかイオラでしたか。
    ポピーがぶち切れると、新たな呪文を使うことの他に、MP0になっても、呪文を使い続けることができるんですね。
    遠隔呪文の遠隔にMP消費がある設定は良いと思いますよ。そのほうが執筆の時に描写しやすいと思いますしね。

    ヘンリーは後でデールにかならず事情を聞きますよね先太后のこと…メガンテの腕輪のこと…。
    そのあたりbibiワールドで読んでみたいなぁ?
    マリアがメガンテの腕輪を先太后に渡したマリアの心情、それにちなんだデール・ヘンリーの兄弟喧嘩か言い争いか…それとも違うふうになるのか…。二人のその後が気になります。

    bibi様、すみません打ち間違いありますね。250000毎←枚ですね失礼しました。

    • bibi より:

      ケアル 様

      リュカの気持ちをヘンリーは一生分からないかも知れませんね・・・。ヘンリーには子供の頃の孤独な経験から、自信と言う自信がありません。本能的に、人に認めてもらいたくてどこか投げ槍になるところがある、という勝手な設定(妄想)です。暗いですねぇ、親分。

      ポピーは特別な魔法使いとして育てています。彼女の血筋がそうさせているんですかね。ゲーム上ではあり得ない設定ですが、ご容赦いただけるとありがたいです(汗)

      ラインハットのその後、気になりますよね。もし余裕があればそちらのお話にも手を付けられればとは思います。

      グリンガムの鞭、ヘンリーはかなりの年月をかけて手に入れたようです。短期間で手に入れようとすれば、やはり税金をつぎ込んで・・・ということになりそうなので。そんなことしたら、ラインハットで暴動が起きかねないですね、ウチの宰相はカジノ狂いだって(汗)

  6. ピピン より:

    bibiさん

    舞台裏で何か動いてるなと思っていたらまさかです…
    5の小説を書く上で扱いの難しい太后を、ここまで掘り下げて活躍の場を与えるなんてお見事としか言いようがありません。
    メガンテと言えばダイ大やロト紋でも名場面に関わる呪文なので、それらを彷彿とさせて胸が熱くなりました。
    ヘンリーもまた色々な立場の顔を見せて格好良かったです。

    • bibi より:

      ピピン 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      彼女はゲーム上ではいつの間にかさらりと姿を消していたりするんですが、かつては国一つを滅ぼしかけた張本人なので、どこかで彼女を・・・とは思っていました。彼女の人生も決して恵まれたものではなかったと思います。なのでどこかで少しは報われて欲しいなぁと。
      メガンテはあまり多用できない呪文ですが、彼女なら贖罪の意味で使うだろうと、今回のお話をこんな内容にしてみました。
      ヘンリーにおいては私の多大なる妄想が含まれているので、格好良く感じて頂けたのかも知れません(笑)

  7. ラナリオン より:

    bibi様。執筆大変お疲れさまでした。今回はかなりの長編でしたね。映画2作品分は一気に視たような充実感です。もうお腹いっぱい。(笑)まさかこれほどの大戦になろうとは…。いい意味で想像を裏切られました。お見事です。蛇手男にホークブリザード20匹って命の石とエルフのお守り何個いるんだよっていう話です。(汗)冒頭のタイトルの罪滅ぼし…。他の読者様も仰っていましたが、どういう意味なのだろう?と思いつつ、読んでいましたが、先太后の捨て身の特攻作戦ときたものですからなるほど!納得という感じです。贖罪の念が拭えずに苦しんでいたのはヘンリーだけに限らず彼女も同様でしたね。リュカやサンチョからは許せない気持ちこそあれど国の為に生きてほしいと云われていましたが…。償うにはこの方法しかなかったのでしょうね。ゲーム上、青年時代後半では先太后はいなくなっているのですね。それは知らなかったなぁ。消息はゲームのシナリオでは明らかになってはいませんが、ここは色々と想像の余地があるというか話が広がりますよね。bibi様の作るお話では見事な最期でした。ヘンリーは相変わらず死にたがり野郎ですね。(笑)彼自身、今回の戦いは相当な覚悟をもって挑んでいたと思いますが、その覚悟を周囲の人間や家族に悟られないように振るまうところが彼らしいというか素敵ですね。ヘンリーがザラキに倒れた直後のピエールの熱い魂の叫びが響きましたよ~。なんだかんだ啀み合っていてもヘンリーのことを認めているのが伝わってきます。今回はポピーも先頭に立ち、魔物の仲間達の士気を鼓舞し、先陣を斬る大活躍でしたが、父リュカのシーンとダブる大切な人を目の前で失うという凄惨な光景を目の当たりにしてしまいましたね。今回もトラウマになりそうです…。サーラは今回の戦いで大勢の人達が戦死するという光景も予測できていたからこそ、ポピーを戦場へ連れて行きたくなかったのでしょうね。辛いところです。とはいえ戦いは避けられませんし、bibi様の描く戦いも日々激しさを増しています。ここは頑張ってほしいところですね。さて、次はいよいよグランバニア防衛戦ですね!グランバニア襲撃時、敵の数からいっても今回の襲撃はさほど脅威ではないようなことをリュカとオジロンさんは話していましたが、そんなに容易にはいかないであろうと私は思うのです。私の勝手な想像ですが、ラインハット襲撃時同様、敵もグランバニアを本気で潰しにかかってきているはず…。必ず魔物を統率して指揮している者がいるのでは??それが誰なのか気になるところです。もしかしてイブールの片腕ラマダなんてことは!?いや、ないか(笑)でも、だとすれば戦力的にはかなり厳しい状況ですね。その後のラインハットも気になるところです。

    • bibi より:

      ラナリオン 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      今回は色々と盛り込みすぎてしまい、かなり長いお話になってしまいました。彼女をこのような形でお話に盛り込むのは反則かしらとも思ったのですが、凡そ受け入れて頂いているようなのでホッとしているところです。彼女はかなりの大罪を犯しこそすれ、その罪は途中から魔物が引き継いだものですからね。彼女自身がラインハット王国を滅ぼそうとは思っていなかったはずで、でもその引き金を引いたのは彼女で、どうにか罪滅ぼしをしたいとは常々思っていたところ・・・という私の妄想にお付き合いいただいて恐縮です(汗)
      そうです、ヘンリーは相変わらず自分の命を軽く見ています。困ったヤツです。自分の代わりなどいくらでもいると本気で思っています。ピエールの本気の叫びがなければ、彼は戻ってこなかったと思います。どうにかザオラルで蘇るところは、ボブルの塔のピエールと同じですね。敢えて境遇を重ねてみました。
      ポピーは・・・また心に傷を負ってしまいました。兄ティミーとの差がここでできてしまいました。しばらくはまたリュカにべったりの日々が始まるかも知れません。
      グランバニア編、どうなるでしょう。今、お話を書き進めていますが、ひたすら戦闘で精神がすり減りそうです(苦笑) ラインハット編は背景をメインに書いていましたが、グランバニアは武闘派揃いなのでやはり戦いメインになりそうです。もう・・・ネタ切れを起こしそう。

  8. ラナリオン より:

    ゲーム上では物語も終盤に入ってきて戦闘も激しいものになってきているので表現というか描写が難しいですよね。回を重ねる度に迫力も増してきて読む側からすれば大変ワクワクしますし、楽しく読ませてもらっているので有難いのですが…。bibi様のご苦労を考えると本当に頭が下がる思いです。何よりも書きたい時に書くのが1番かと思いますのでどうかあまりご無理なさらないよう。bibi様、あくまでも素人目線の意見ですし、単純な発想なので参考にならないかもしれませんが、確かゲーム上ではグランバニアの宝物庫に星降る腕輪があったかと記憶しています。戦闘中、素早さが格段に上がるアイテムなので戦闘に上手く活用できそうな気もするのですが、難しいでしょうか?特定の敵に対して威力を発揮する武器(ゾンビキラーやドラゴンキラーなど)も今後の戦闘ネタの材料に使えそうな気も…。すいません。差し出がましいことを言ってますよね。もし、ご不快な気持ちにさせてしまったり、執筆上、ご負担になるようでしたら謝ります。要望ではなく、少しでも執筆の材料になればと思った次第ですので。

    • bibi より:

      ラナリオン 様

      これから終盤になって行くに従い戦闘描写がどうなるか、もう不安しかありません(笑) かと言って、あんまり酷い状況は書きたくないんですよね。こんだけ書いてきて今更そんなこと言うか、という感じですが、読んで下さる皆様の心に傷を残すようなものは書きたくないなぁと。読んで感じ入るものを書いて行けたらと思いつつ、今後もどうにか頑張ってお話を進めて行ければと思います。
      出来る限り週に一度のペースでお話を上げて行きたい目標はあるんですよ~。今は子供も小学校に通ってくれているので、その間の時間を書く時間に当てられるので。長期休みになるとほぼ時間が全滅になるので、ちょっと更新も滞ってしまうのですが(汗) 

      なるほど、そうですよね、色々と活用できそうなアイテムがありますよね~。星降る腕輪はもし使えたら楽しそうですね。プックルなどに装備させて、もう目では見えない速さになってもらうのも面白いかも知れません。・・・魔物は装備できないのかな?
      ゾンビキラーやドラゴンキラーなども出しどころによっては面白そうですね。リュカとティミーは既に武器を持っているので、ピエール辺りですかね。もし私の頭に余裕があれば、そんなお話も書けたらと思います。余裕があれば・・・(汗)

      この度はご提案をありがとうございましたm(_ _)m

  9. ラナリオン より:

    とんでもないです。提案というほどのものでもないですし、余計かな?と思いつつもつい口を出してしまって。(汗)でも、読んでいるとそれだけ想像を掻き立てられるというか引き込まれていくんですよね。今回のラインハット編、少し時が遡っての回想?背景?というのかな?ヘンリーやマリアや先太后などそれぞれ各キャラの視点に切り替わって物語が進んでいくところが読んでて面白かったです。これだけの内容を書くとなると考えることも多いし、凄いなと。星降る腕輪ですが、みんな魔物も装備できますよ。ドラクエ5では装備すると素早さが2倍になります。プックルなら神速です。合わせてバイキルトもかけたらかなりヤバいです。先ほど思い出したのですが、ドラクエ5では店で買える武器の中では吹雪の剣が最強なんですよ。斬ると通常攻撃+傷口を凍らせる追加ダメージが加わるのですが、ポピーの氷系呪文を剣につたらせたら魔法剣の完成です!遠隔呪文と繋げたら面白いかもなんて思ったりして…。すいません。勝手に言っているだけなので…。余裕がありましたら気にとめておいていただければ幸いです。m(__)m時折、カフェで珈琲でも楽しみながらゆっくり書いていただければと思うのですが、なかなかそうもいかないですよね。(泣)グランバニア編、気長に楽しみに待ってます。

    • bibi より:

      ラナリオン 様

      ラインハット編は本当は書き切れていない部分も多々あり、でもあまり書き過ぎちゃうと誰が主人公だったっけ?みたいなことになるので、抑えめで端折りながら書いてあんな感じに仕上がりました。長い話になると辻褄を合わせることに一番苦労します(笑) ・・・ま、今までの話を振り返れば辻褄の合っていない部分も多々あるのでしょうけど、怖いので見返していません(汗)

      星降る腕輪は魔物たちも装備できるんですね。スラりんとかが装備したらどんなことになるのかしらと想像すると面白いですね。装備する時だけ腕でも生えるのかしら。プックルに装備させたら、途轍もなく速くなる一方で、リュカはもうその背には乗れないかも知れないですね。振り落とされそう(笑)

      吹雪の剣とか、属性を持った武器というのも面白いですよね。相乗効果が狙えるのは攻撃力も上がって良いかも知れません。色々と想像が膨らみます。

      カフェ・・・もう何年行ってないやらですね。今使っているのがデスクトップ型のパソコンなので持ち運びできずです(笑)でもカフェとかってあの程よい雑音の中で集中できたりしそうですね。それと他に出来ることがないから、書くことに集中できそう。そういうの、憧れます~。

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