過去を乗り越え今を

 

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初夏を迎えようとする頃合いの、暖かで爽やかな風が通り過ぎて行く。グランバニアという国は城下町ごとを城の中に収めている構造上、日常的に外の景色を目にすることがない。窓の外に外の景色を眺めることはできても、外に広がるのは深い森の景色だ。緑豊かな森林の景色ではなく、日の光を浴びる城下町の景色に、その外側に広がる緑豊かな草原地帯を望めば、旅をしてきたわけでもないのに彼らの心身はすっかり旅人のそれになってしまった。
「うわ~、なにこれ、すっごくキレイじゃん!」
生まれて初めてグランバニアの国を出て外の世界を目にしたドリスは、まるで子供の様に目をキラキラとさせながらラインハットの城下町を見渡した。
「外に町があるなんて話にしか聞いたことなかったから、そんな危なっかしいモン嫌だなぁって思ってたのに、お日様浴びるだけでこんなに町ってキレイになるんだ……」
リュカの移動呪文ルーラで降り立ったのは、ラインハット城の城門前だ。ラインハット城を囲む深い濠の内側に降り立ったというのに、ルーラで着地する直前に上空から目にしていたラインハットの景色を存分に味わいたいと言わんばかりに、ドリスは膝下丈のドレスの裾が捲れるのにも構わずに走り出してしまった。誰にも追いつかれない内に濠を渡す跳ね橋を駆けて行き、ラインハットの城下町を見渡せる広い台の上に立った。
「い、いきなり走り出さないでくださいよ……」
念の為にと護衛役を務めさせられたピピンは突然駆け出した護衛すべき姫を慌てて追い、その斜め後ろに立った。そして彼もまた、その場から見渡せるラインハットの城下町の景色を口を開けて見渡した。
「うわ~、ホントにキレイですね~」
「も~、ドリスもピピンも勝手に行っちゃダメじゃない。私たちが行くのはお城の方よ」
「でもさ、せっかくみんなで来たんだし、ちょっとくらいみんなで城下町を行くのもいいんじゃない?」
「そんな時間ないでしょ、お兄ちゃん。私たち、今日中にはグランバニアに戻らなきゃいけないんだから」
「どうしてお父さん、今日帰るなんて言ったんだろ。もっとゆっくりしていけばいいのに」
「それってお邪魔する方が言うことじゃないと思うけど……」
ラインハット城下町を眺める四人の後ろ姿を、リュカはビアンカと並んで見上げる。ドリスは普段から踵の高い靴を履いていても走れる技を身に着けているが、ビアンカは今もまだ踵の高い靴に慣れていない。しかしたとえ走ることは叶わなくとも、歩く足取りはしっかりとしたものだ。聞けば彼女は普段、旅用のブーツの履き心地を改めて確認しているらしい。当時身に着けていたブーツは片方の爪先部分を傷め、普段使いは出来なくなっていたために、新調されていた。以前、サラボナを訪れた際に初めて履いてみた新調されたブーツは今も彼女のワードローブの下方に収納されている。
「ビアンカ、大丈夫そう?」
ドリスもピピンもラインハットを訪れるのはこれが初めてだ。そしてビアンカもまた、初めてこの国の地を踏んだ。しかし遥か遠くの大陸に位置している友好国に初めて足を踏み入れるドリスやピピンの弾む心とは異なり、ビアンカの思いはそこに留まるものではない。
頭の中では確かに整理できているが、彼女の心はやはり予想通り複雑に乱されていた。見渡せるラインハットの景色の中に、かつての残虐や過酷を無意識にも探そうとしてしまう。罪もない一つの村を滅ぼしてしまったこの国が今もこうして、一見何事もなかったかのような平和に包まれて存在していることに、彼女の心情は複雑に揺れる。
「大丈夫よ。そんなに心配しないでよ」
そう口にすることで彼女は沈みかける心を浮き上がらせる。一人思い悩んでいても大抵物事は好転しないことを彼女は賢しく理解している。善いか悪いか、どちらかに転がって行くのなら善い方が良いに決まっている。それならば己の心を善い方向へと導いていくだけだ。
「皆さんをあまりお待たせしちゃいけないわ。さあ、行きましょう」
しかし憎しみさえ抱いていたこの国に対して、今はまだ多くを語ることはできない。日差しに照らされ美しく輝くラインハットの城下町を眺めながら好きに語り始めれば、どこかに必ず良からぬ思いや表現が混じってしまいそうだと、ビアンカは四人の後ろから朧げにラインハットの城下町を見渡すに留めた。
「気分が悪くなったりしたら言うんだよ」
夫リュカの、心の底から支え掬い上げてくれるような優しさが胸の内に染みわたる。彼自身、父とサンチョと暮らしていた家が村ごと滅ぼされ、惨憺たる景色をその目にしているはずだが、彼は自身の感じた思いよりも他の人が感じた思いの方に重きを見て気遣う。そのような底なしの愛は一体どこから沸いてくるのだろうかと不思議にも思いながら、ビアンカは微笑む。
「サンチョさんも、この国に来ているんでしょう?」
「うん、連れて来たことがあるよ。初めはちょっと僕が強引に連れてきたようなものだけどね」
「あなたやサンチョさんが向き合っているのに、私が弱音を吐いている時じゃないわ。それに、結婚式以来だもの。ヘンリーさんやマリアさんとまた会いたいのは本当よ」
未来永劫、憎悪の対象となり得たこの国を建て直したであろう彼らに、ビアンカは本心から再会したいと思っていた。サラボナでの結婚式の際に彼らと初めて会い、そしてかつての問題王子から直接詫びの言葉をも聞いた。今こうしてラインハットの城下町が日の下に輝いて見えるのは、彼の深い後悔と反省の思いが少なからず反映されているのだろうと、思い出す夫の友人の真剣な表情にそうと思える。
「過去を消すことはできないけど、私たちはこれからの事をもっと考えて行かないとね」
「本当に強いなぁ、君は」
「強くなれるのはあなたがいてくれるからよ、きっと」
ビアンカはそう言うと、いつまでもラインハットの城下町を飽きもせずに眺めていそうな四人に後ろから声をかけ、お城へ入りましょうと促し始める。この中でビアンカに逆らえる者、逆らいたいと思うような者は一人としていない。ティミーもポピーもドリスも元気に返事をして、そしてその後ろから大きな包みを手にしたピピンが遅れまいと小走りについてくる。彼が手にしているのはラインハット訪問における手土産だ。そしてリュカが手にしているもう一つの包みは、ラインハットに渡すべきものとして用意しておいた濃紫色の布に包まれた一つの木箱だった。



リュカを先頭に、列になってラインハット城の中へと足を進めるグランバニアからの一行に、城内の者たちが一様に礼をして迎える。リュカが何度かふらりとこの国を訪れる際には迎えの者などもなく、城門に立つ兵に軽く挨拶をしてからまるで我が家の一部の如く気ままに城内に入ることが多いが、流石にグランバニアの王族が揃って訪問となれば、受け入れる側も万全の体制を敷いているようだった。
「なんか堅苦しいなぁ。いつも通りでいいのに」
「一応、他国の王族が揃って来るんだから、これで普通じゃないのかしら」
「すごいなぁ。城の中も綺麗……。だけどなんか、こう、強さが足りない気もするね」
「柱にしても、この大窓にしても、装飾が細かいですね。手が込んでるなぁ」
「グランバニアのお城ももちろん好きだけど、私はこっちのお城もいいなって思う」
「うっかり傷つけたり壊したら、怒られるんだろうな~。せっかく廊下が広くても、あんまり走る気にはならないかな」
ラインハット城内の回廊を歩いている際に、主に注目を集めているのはビアンカとドリスの二人だ。ラインハットの城内に歩くこの国の人々は表立ってはしゃぐような様子は見られなかったが、彼らの視線が自ずと初めて目にする二人の女性に注がれるのも自然な流れだ。ポピーは何度かこの国を、時には一人で訪れたことがあるためにラインハットの人々の目にも慣れている。そしてまだ少女であるポピーがそのまま大人の女性に成長したような姿のビアンカに、多くの視線が注がれていることに、リュカたちも否が応でも気づかせられる。
続く回廊の窓の外に見える景色は広々とした中庭だ。初夏を迎えようとしている緑豊かな中庭には種類様々な花が整然と並び咲き誇っている。リュカは青々とした草花が広がる中庭を横目に見ながら、ついこの間雪の積もるこの中庭でマリアと話したことを思い出す。濃紫色の包みを持つ手に微かに力が入ったことには気づかなかった。
王室へと続く階段を案内の兵の後に続いて昇る。円形の階段を上る時には再びドリスとピピンが階段の手摺の細かな装飾を何気なく、まじまじと横目に眺めていた。一部何者かの悪戯か何かによって壊れたままにしてある箇所を見つけると、二人で顔を見合わせて首を傾げていた。
「とても立派なお城ね」
半円形に続く階段を上りながら、ビアンカがどこかぼうっとした様子でそう呟いた。ドリスが感想を漏らしていたように、ラインハット城はグランバニア城に比べて装飾豊かで、全体的に美しく華やかな印象があった。それだけに、かつてのラインハットが一つの村を滅ぼしてしまった過去と上手く結びつかなかった。いくらか華美に過ぎる印象すらある城だが、美しいものや優しいものに囲まれた中で暮らす人々がどうして暴力的になることができるのだろうかと、この国の過去を信じられない思いが沸きあがる。
「リュカは小さい頃にお義父様と一緒にここへ来たんでしょう? びっくりしなかった?」
ビアンカにそう聞かれ、リュカは当時父に連れられこの城を訪れた時の記憶を振り返る。覚えている記憶は朧気で、当時の記憶の中で最も強く残っているのがこの国の王子が目の前で連れ去られてしまった光景のために、ラインハット城そのものに対する印象は語れるほどのものを持っていない。
「う~ん、そうだなぁ……」
恐らく初めて目にするお城と言う巨大な建物を目にして驚いたのは間違いない。あの頃は何故ただの旅人でもある父がこのような城から呼び出されたのかなど考えもしなかった。ただ幼いリュカにとっては強く逞しく勇気に溢れる自慢の父であったために、このような大きな城を訪れることもあるのだろうと、父を無条件に信じ込んでいた。子供にとっての父親など、凡そそのようなものだろう。
「大きくて綺麗で、とても立派な建物だけど」
グランバニア城は城下町ごと城の中に収めているために、大きさとしてはラインハット城よりも巨大な造りになっている。そしてグランバニア城は国民の暮らしと一体となっているためか、どこにいても賑やかな印象がある。厳密には王族が暮らす区画は城下町に生きる人々とは異なるが、それでもやはりグランバニアは人々が生きている力を直に感じることができる雰囲気が漂う。
「ここがもし自分の家だったら、ちょっと寂しいかな」
偶に訪れるほどの場所であれば、美しく華やかでもあるこのラインハット城は訪れる人々に非常に良い印象を与えるのだろう。しかしこの城が自身の暮らす場所と考えれば、周りの華美に気圧される日常に息が詰まるのではないかと思う。それほど大袈裟なものではなくとも、知らない内にも動かぬ冷たい美麗ではなく、動きのある生き物の温もりを欲してしまうのではないだろうかと、生活感の感じられない友の住む城の装飾を目にしてそう感じる。
案内を務める兵が最後の階段を上り詰めれば、その先で玉座の前に立つデールと先ずは目が合った。まだ年若い王だが、それでも彼は既に玉座に就いてから二十年以上の月日を過ごしている。リュカたちを出迎える様子も落ち着いたもので、自然な笑顔を浮かべてゆっくりとリュカの方へと歩み寄って来た。
「ようこそ皆さまでお越しくださいました。リュカ王とは……つい先日お会いしましたね」
「そうだね。久しぶり、と言うこともないか」
両国の国王同士が握手を交わす傍ら、対面した他の者たちは各々の反応を示していた。そして身内の一様の反応を代表するように、デールはリュカから一歩離れると、斜め後ろに立つ初対面のグランバニア王妃に視線を注ぐ。
「お初にお目にかかります。ご無事で何よりです、王妃殿下」
そう言うとデールはビアンカの前に立ち、丁寧にお辞儀をした。唐突に高貴な雰囲気の中に放り出されたような心地で、ビアンカは困ったようにリュカを見つめ、そして自らも返すようにお辞儀をする。
「お優しいお言葉ありがとうございます。こちらにお礼に伺うのが遅れてしまい申し訳ございません」
「そのようなことお気になさらず。こうして我が国にいらしていただいただけでも光栄で……」
「おい、リュカ」
デールが国王として卒なく不足なく挨拶を交わしている最中にも、容赦なく割り込むのは当然ヘンリーしかいない。思ったよりも怒気を含んでいない彼の声に、リュカはすんなりと彼に目を向けることができた。
「良かったな」
ヘンリーの声は少し震えていた。彼の隣では妻のマリアが、目元に真っ白なハンカチを当てており、母のその様子を心配そうに見上げるコリンズの姿がある。
「良かったな、見つかって。戻ってきて……本当に、良かったよ」
怒るでもなく揶揄うでもなく、ただ喜び祝うような言葉を口にするヘンリーを見て、リュカは彼も心の底からビアンカの無事を願っていてくれたのだと思い知った。それでもリュカはヘンリーの心情を完全に知ることはできない。
「うん、ありがとう、ヘンリー」
「別に、礼を言われるようなことなんて何も……」
「そうやって気にかけてくれていたことがありがたいんだよ。ビアンカのこと、覚えてる?」
「当たり前だろ。こんな別嬪さん、忘れるはずがないだろが。お前と一緒にするな」
「僕だってちゃんと覚えてるよ。おかしなこと言わないで欲しいんだけど」
「でももう十年も前にビアンカさんと再会する前はお前、顔が思い出せないなんて言ってたことあったぜ」
「……何それ。誰の話?」
「ヘンリーさん、リュカはね、たまにこうして都合の悪いことを忘れることがあるの。勘弁してあげて」
「愛されてるなぁ、リュカ」
「え、う、うん」
つい先ほどのしんみりとした空気などどこかへ去り、ラインハットの王室には早くも和やかな雰囲気が漂い始めていた。その雰囲気の中でデールが改めてリュカと話し始め、その隙にヘンリーは一度後ろを振り返るとそっと服の袖で涙を拭い、再び振り向いた時にはすっきりとした表情をリュカたちに向けていた。マリアも既に手にしていたハンカチをスカートのポケットにしまい、今は穏やかにリュカとビアンカを見つめている。
「儀礼的な場は疲れるでしょうから、友人同士、気楽に茶話会ができるような場所を設けてあります。そちらにご案内いたします」
デールがそう言いつつも兵に呼びかけると、早々と場所を移動する運びとなる。王室のほど近くに位置する一室が、彼らの茶話会に宛がわれた場所となっていた。対面式とは言えないような大きな円卓が中央に置かれ、席順なども特別決められておらず、その珍しい円卓を目にしてティミーは早速自身の座りたい場所を決めてしまった。
「ボク、ここがいいな」
ただ目の前に美味しそうなお菓子の器が置かれているという理由でティミーが席を決めれば、その隣を当然のようにポピーが一応遠慮がちに席の横に立つ。
「じゃあコリンズ、お前はポピーちゃんの隣がいいだろ」
「……そんなの、どっちでもいい」
「どっちでもいいんだな? じゃあ決まりな。ティミー君も久しぶりに来てくれたんだ、子供同士色々話すこともあるだろ」
そう言っていつも通りの強引さで息子の席を友人の娘の隣にして、三人の子供たちが先ずは落ち着いた。他の者たちも子供たちを軸に席を決め、少ない時間を無駄にしないようにと各々席に着いた。
ティミーの隣からドリス、ビアンカ、リュカ、デール、ヘンリー、マリアと着席し、ピピンは土産用の包みを手にしたままドリスの後方に立っている。その姿を後ろに見て、リュカは思い出したように席から振り向いたまま、どこか緊張気味に直立しているピピンに土産物を手渡すようにと声をかける。
「何だよ、それ土産物だったのか。わざわざ悪いな」
「大したものじゃないけどね。後でみんなで食べてね」
ヘンリーとリュカが言葉を交わす中で、ピピンはぎこちない動きで目指す場所へと歩いて行く。彼が歩きついたところでは、椅子から振り返り彼を見ていたマリアがいる。
「あ、あの、大したものではございませんが、ぜひとも貴女に……」
「あら、私にですか?」
そう言いながら席を立ち、正面に立つ小柄なマリアを見るピピンの表情は心ここにあらずだ。顔を紅潮させ、夢見心地のような顔つきでマリアを見つめるその目は早くも恋に落ちかけている少年のそれだ。
「かっ、可愛らしい……!」
「俺達に、だよな? ありがたくもらっておく。ご苦労さん」
ピピンがマリアに手土産の包みを渡す寸前に、隣の席から立ち上がったヘンリーが横から奪うように包みを手に取った。そして包みを小脇に抱えると、ピピンを追い立てるようにその肩に手を置いて元の位置へと戻らせた。困ったようなマリアの表情を、自身をこの上なく心配してくれているものだと解釈するピピンは、ドリスの席の後ろに立ちながらも昂る心そのままにちらちらとマリアを見ていた。
「おい、リュカ」
「何?」
「お前んとこの護衛の兵はあんなに若くて大丈夫なのかよ。大事な姫さんたちを守るための護衛だろ。普通はもっと上のヤツが付くんじゃないのかよ」
「ああ、ピピンはまだ見習いでさ、正式な兵士じゃないんだよね」
「いや、だから女性が三人もいるのに護衛の兵があんなの一人ってのは……」
「ピピンも戦うと結構強いんだよ。この前のグランバニアの武闘大会でも予選を勝ち抜いたしさ」
「……ちっともそうは見えねぇけどな」
「あはは、人は見かけによらないって言うからね」
無意識にも毒を吐いているようなリュカの言動だったが、ヘンリーは周りにその空気に気付いている者なしと見てさらりと流した。
「王妃殿下とご一緒にこの度我が国へ初めてお越しくださったのは、リュカ王の従妹の血筋の方とお聞きしておりますが……ドリス姫、でお名前よろしかったでしょうか」
席に着いていたデールがそう話を始めたのは、しばらく前から自身の事を物珍し気に見ていた正直な姫の視線に気づいていたからだった。ビアンカの隣の席でどこか居心地悪そうに身を縮こまらせていたドリスは、ラインハットの国王から話しかけられたことに対して柄にもなく更に身を固くした。
「は、はい、ドリスと申します」
「従妹ということもあり、やはりどこかリュカ王と似ていらっしゃるような気がします」
「リュカと……じゃなくって王と、ですか? あまり言われたことはないですね」
いつもは見せないような上品な笑いをいかにも演じているようなドリスの態度に、ティミーが「どうしたの、ドリス」とテーブルに身を乗り出して訝し気な視線を送りながら問いかける。それをビアンカがドリスを間に挟みつつも、「ドリスも緊張してるのよね、分かるわ」と二人を同時に収めてしまった。
「この度はグランバニア王妃及びドリス姫にもお越しいただきましたので、これを機に今後一層互いの国の結びつきを強くして行こうと思っています。今はまだ、世界が魔物の脅威に揺れている状況です。姉上も教会で、世界の不穏を耳にしていると……そうでしたよね?」
デールが慣れた様子で話を進める中で話を振られたマリアは、慌てる様子もなく静かな口調で話し出す。
「ええ。教会のシスターはこのところ胸騒ぎがしてならないと。とてつもなく巨大な悪意が世界を覆い始めているように感じられるのだと申しております。私にはそれがただの思い過ごしだとは思えません。聖職者に在る者は人よりも悪しき魔物の気配に敏感です」
「俺達が子供の頃はまだ旅に出るような人々はいたんだ。現にリュカ、お前も親父さんと一緒に世界を旅していただろ? 今ほどの危険な世の中になれば、パパスさんだって意地でもお前をグランバニアに置いていったんじゃないかな」
ヘンリーにそう言われ、リュカは思わず腕を組みながら小さく唸った。彼の言う通り、魔物の脅威が増している今の世の中で、もし当時のように父と幼子二人きりでの旅などしていればいつどのような危険に遭遇するか分かったものではない。父パパスはただ手放したくないからと言う理由だけでリュカを旅に連れて行ったわけではないだろう。当時の世界の状況の中で、リュカを魔物から守れると判断し、大海を行く船での旅にも連れて行けたのだ。
「でも、ボクたちもまだ子供だけど、お父さんと一緒に旅をしていました」
そうティミーがはっきりと口にすれば、一斉に皆の視線がティミーに向く。彼は確かにまだ子供の域を出ない少年だ。体つきもまだ大人の男には追いつかない。しかし彼の背負う宿命には、世の中に生きる誰もが一生を懸けても追いつくことはできない。
「ティミーたちはおっかない魔物の仲間がいるじゃないかよ。悪いヤツらじゃないんだろうけど、みんなとんでもなく強いんだろ?」
「とても頼りになる仲間よ。私たち、何度もみんなに助けられてるもの」
コリンズの言い方に少々棘を感じたポピーの口調には、仲間の魔物を庇うための意地が込められる。彼女にとって魔物の仲間たちは、人間と変わらぬ存在だ。
「俺達人間が滅びるわけには行かないからな。魔物の脅威に対抗するためには互いに協力を、ってことだよ。地道に、な」
「私たちが為すべきことも、一応理解しているつもりよ」
ヘンリーが敢えて避けようとする核心に、ビアンカは明確な言葉を避けつつも核心に触れる発言をする。グランバニアという国ができることもする、併せて自分たちにできることもするのだと、彼女のその言葉の意味は自ずとテーブルを囲む大人たちに行き渡った。
そして皆の視線は必然的に、リュカへと集まる。ビアンカが口にした『私たちが為すべきこと』へのリュカの思いがどのようなものであるか、グランバニア王である彼が一言発すれば、それがそのまま今後の潮流となるほどに大きなものとなる。リュカはテーブルの一点を、焦点の定まらぬ目で見つめていたが、その視界の端に映る息子の姿がひと際存在感を高めることに、やはり前進するべきなのだと顔を上げる。
「ドリス、ラインハットに初めて来てみてどうだった?」
しかしこうして一堂に会している状況で、リュカは外側に向けて道筋を示すべきではないと、いつも通りの穏やかな顔つきでドリスに問いかけた。ふと話を向けられたドリスは、何故その質問をビアンカにではなく自分にと不思議がりながらも応じる。
「グランバニアとは違って、こんなに綺麗なお城があるものなんだなって思ったよ。本の挿絵にはこういう綺麗なお城って見たことがあったけどさ」
「この国の印象は?」
続けざまに問いかけてくるリュカにドリスは怪訝な顔を隠しもせずに、しかし逃げ場のないこの状況でどうにか答えて行く。
「城下町の人たちは皆明るい顔をしていると思った、かな。お日様に照らされてるからそう見えただけかも知れないけど、それでも暗かったり沈んでいたりする印象はなかったよ」
「これからもラインハットに来ることに問題はなさそう?」
「これからも来られるの!? あたし、今回だけ特別に連れて来てもらったのかと思ってたんだけど、違うの、リュカ?」
「ドリスもグランバニアの代表の一人だからね。これからは君にも協力してもらおうと思ってるんだ」
彼女の父オジロンに直接許しを得ているわけではないが、国と国の架け橋となる役目の一端を彼女が担うことに、オジロンも反対はしないだろう。ドリス自身、常日頃外の世界への憧れを一切隠していなかった。オジロンもまたいずれは娘のドリスに外の世界を見せなければならないと思っていたはずだ。そして彼女は恐らくグランバニアという国を非常に大事にする心を持っている。何かがあれば彼女は父オジロンと共に、この友好国と協力しながらもグランバニアを守ってくれるに違いない。
「ドリス、良かったね!」
「じゃあこれからはドリスと一緒にラインハットに来られたりするのね!」
ティミーとポピーがはしゃぐ傍ら、ドリスは喜び反面、少々考えるような面持ちも見せている。しかし彼女がリュカに問いかけるような言葉もなく、ただ隣に並ぶティミーとポピーと楽し気に喜び合うに留まった。
「グランバニアから再び美しい姫君がいらした際には丁重におもてなししないといけませんね」
所謂社交辞令のようなデールの言葉だが、その言葉がデールの口からすらすらと出る様子を見れば、ドリスの目は思わずデールのその姿に釘付けになる。それと言うのも、彼女の中では目の前のデールが、御伽噺にしか出てこないような王子様がそのまま挿絵から抜け出してきたような人物であり、現実世界にこれほどの王子様たる王子様がいるものかと信じられないような気持ちがあるからだった。実際にはデールはラインハットの国王として玉座に就く人物だが、顔つきにまだ幼さ残る彼は十分に王子として通用する風貌でもある。
「あ、あの、そんな丁重にしていただかなくても結構ですので……」
グランバニアには洗練された王子様のような王子様はいないとドリスは思っている。それだけに初めて出会うデールのような人物に対してどのように振舞うのが正解なのかも分からず、思わず恥じ入るような態度を取ってしまうのだった。見たこともないようなドリスの態度にリュカは笑いを堪えていたが、この和やかな雰囲気の中で一人だけ、その雰囲気に飲まれない人物がいることにも気づいていた。彼は一見、和やかな空気の中で笑みを浮かべていたが、その視線は広い円卓のどこかに彷徨い、腕組みをして椅子の背もたれに寄りかかっている。リュカは敢えて、彼の空色の瞳が向けられることを避けるように、別の話題を持ちかける。
「ところでラインハットでも少なくない人々を受け入れてくれてありがとうございます」
リュカはデールと直接会い、セントベレスの大神殿より救出した人々の受け入れを請い、了承してくれたことへの礼を改めて述べた。
「リュカ王はセントベレスの山より多くの人々を救い出したとお聞きしましたが、一体どのようにして……」
デールの言葉に必然とヘンリーとマリアが熱心な視線をリュカに向ける。リュカはデールに宛てた手紙の中で多くの事は語っていない。ただ世界広くに決して良い影響のない光の教団の総本山に向かい、そこに囚われていた人々を救出したというような内容を書き記していただけだった。それ故にこの場でリュカは、主にヘンリーとマリアに対して語るべきだと思っていた。
「竜神の力を借り、セントベレスに向かいました」
魔物の仲間たちとかの場所へ向かったものの、子供たちも隠れてついてきてしまったことや、完成していた大神殿の中では多くの人々が悪しき魔物の力で魂を抜かれ、ただひたすらに熱心に祈りを捧げていたこと、人々の魂を抜き取り良いように操っていた魔の大神官ラマダを倒して人々の生きる力を取り戻したことなど、凡そ筋道立ててリュカは話した。合間にティミーが「ラマダってヤツでさ、とんでもなく大きかったんだ!」とか、ポピーが「とっても沢山の人たちがいて、でもみんなお祈りするだけで……ちょっと怖かった」など感想を述べつつも、その場で何が起こったのかを想像するラインハット側の者たちの顔は一様にして青ざめていた。
「それって、本当の話なのかよ……」
コリンズがぼそっと呟いた言葉が彼らの代表する感想そのものだった。デールも言葉を失っている。ヘンリーは苦々し気な顔を隠せず、マリアの目は潤んでいた。
「その大神殿の奥に、妻を見つけました」
それは本当に偶然だった。まさか妻ビアンカが光の教団の大神殿に囚われているとは思っていなかった。リュカはただ世界にじわじわと手を伸ばしてくる光の教団の悪影響を留めたいがために彼の地に向かったのだ。しかし後から考えてみれば、勇者の血筋を引くと知られたビアンカを、敵の悪趣味により石像のままあの大神殿の奥に安置されることがあっても決して可笑しなことではないのだとリュカは思った。
「私はほとんど、覚えていないんです。ただいつの間にかただの暗闇の中にいて、どれほど時が経ったかも分からないまま、気が付いたら目の前にリュカと魔物のみんなと……大きくなったティミーとポピーがいました」
ビアンカのその一言に、彼女が大事にしようと思っていた時間が無情にも流されて行ってしまったことを大人たちは嫌でも知ることとなった。言葉を失う彼らを前に、ビアンカは悲しみや寂しさなどを表すこともなく、ただ緩やかに微笑みながら続けて話す。
「まさか二人がこんなに大きくなっているなんてびっくりしちゃって。子供の成長ってあっと言う間だって聞いたことはあったけど、私の場合はあっと言う間もなくて……でも一目見てこの子たちが私の子供だって分かりました」
「……そっくり、だもんな」
思わずぽつりと漏らしたコリンズの言葉が、円卓を囲む彼らの雰囲気を一息に和ませた。コリンズは自分の隣の席に座るポピーのみならず、その二つ先に座る彼女の母ビアンカを彼女と重ねるように見ていた。その横顔たるや、ポピーを見れば子供の頃のビアンカを髣髴とさせ、ビアンカを見れば将来ポピーはこれほどの美女になるのかと思わず息を吞んでしまうほどだった。
「ティミー君は近頃ますますリュカに似てきてるしなぁ」
「本当ですか、ヘンリー様!」
「なんつーか、色はまるで違うけどさ、ティミー君の目をじっと見ると……しぶとくしつこく食らいついてでも負けないっていう根性が見える気がするよ」
「根性って……いいですね! 何だかすっごく強そう!」
「……僕には何となく嫌な言葉に聞こえたんだけど」
「そうかぁ?」
とぼけるヘンリーにリュカは顔をしかめつつも、一つ溜め息をついてその場をやり過ごした。
「皆さんのお力添えがあったから、私もこうして助けられたんだと思っています。本当にありがとうございます」
「俺達は別に……寧ろこちらの方が助けてもらってるようなもんだ」
「そうです。リュカさんたちにはどれほどお礼の言葉を述べても足りないほどです」
そう言いながら両手を組み合わせて祈りを捧げるように頭を下げるマリアを見て、リュカは困惑した顔つきのまま首を横に振る。大神殿に囚われていた奴隷たちを解放し、その一部の人々をラインハットにも受け入れてもらった。しかしその中に彼女の兄ヨシュアはいない。それが何を意味しているのか、マリアは言葉にせずとも理解しているはずだ。リュカは膝の上に置く濃紫色の包みをこの場で彼女の前に差し出そうかとも椅子を引きかけたが、今ではないと踏みとどまる。きっと彼女は、子供たちの前で私情溢れるような状況になることを望んではいないだろう。
「母上がいつでもお祈りをしていたから、祈りが届いたに決まっていますよ」
「はっ母上!?」
コリンズが隣の席に座るマリアを見ながらそう言えば、ドリスの後方に立ち茶話会の様子を見守っていたピピンが素っ頓狂な声を上げた。驚きの余り呆然と立ち尽くすピピンの姿に、円卓を囲む一同の視線が否応なく集まる。
「どうしたの、ピピン」
「あ、いえ、何でも……しかし、その、母上と言うのは、一体どういうことかな、と思いまして……」
口籠りながらも事情をはっきりさせておきたいという思いでどうにか言葉を口にするピピンに、ビアンカが面白がるように小さく笑い、ポピーは不思議そうに彼を斜め後ろに見て、ドリスは呆れたように思い切り溜め息を吐いている。
「お前、どういうことだと思ってたの?」
ヘンリーが円卓の端に肘をつきながら、少々憮然とした顔つきでピピンに問いかける。もうこれまでに何度も誤解を受けたことのあるマリアの立ち位置だが、こうして王族同士で円卓を囲む一人に加わっているのだから誤解のしようもないだろうと、ヘンリーも思わず溜め息を吐く。
「いえ、ラインハットでは王子のお付きの方も王族の皆様と同じ席に着いているから、その内に僕も席に着いていいよ~なんてお呼びがかかるかなって……そうしたらもっとお近づきになれるかな~なんて」
「ポジティブね~、ピピンは」
「お母さん、それってポジティブって言うよりも」
「見境なしでしょ。ホント、ピピンは惚れっぽいんだから」
ビアンカがいかにも楽しそうに笑う傍らで、ポピーとドリスが同じグランバニアの人間として少々恥ずかしいという思いも交えながら感想を口にする。
「悪いな。マリアは俺の妻だよ」
「……ぐふっ」
「で、こいつが俺たちの子供」
「それは一目瞭然でした……」
「コリンズ君はヘンリーの子供だって、間違えようがないもんね。そっくりにも程があるよ、君たちは」
「オレ、どうせなら母上に似たかった……オヤジの髪を継いだせいでどこに行っても目立つんだ」
「それなら良いことをして目立てばいいじゃない」
正論だけを口にするポピーに、コリンズは面白くなさそうにむすっとして黙り込んだ。ラインハットでの出来事を特別正直に何もかもを話しているわけでもないのに、まるで傍で監視でもしているのかと思うほどにポピーの言い様が的を得ていて、コリンズは返す言葉もなくただ目の前に置かれているクラッカーを指でつまんでぽりぽりとやり出した。
「拗ねた顔までお父さんそっくりね。可愛い~」
ビアンカが本心からコリンズをそうもてはやすと、コリンズは今まで見たこともないような美女が自分を見ているとして、顔を真っ赤にして俯いてしまった。彼の隣に座るマリアも面白そうにくすくすと笑っている。
その後も至って和やかな茶話会が続けられた。しかし彼らの間の時間には限りがあるとして、ある時に途切れた会話の合間を掴むようにしてデールがこの会をお開きにすべく話をまとめた。うっかり話に夢中になり、出された菓子を食べ足りないとティミーが慌てて目の前のクッキーに手を伸ばせば、それを見たマリアが「慌てて食べれば喉を詰まらせてしまう」と心配しながらも、残りの菓子を包んでまとめてあげると約束した。
初めてラインハットを訪問したビアンカとドリスに、自慢の中庭の庭園を歩いてもらおうとデールとヘンリーが皆を先導する中、リュカはティミーとポピーのために菓子の包みを用意しようとしているマリアに歩み寄り、話しかけた。
「マリア、ちょっといいかな」
「あら、リュカさん。どうされたのですか」
「少し話があるんだ」
先ほどまでの和やかな雰囲気を残すように、顔に笑みを浮かべるマリアを目にして、リュカはまだ自分の手を離れない濃紫色の包みを握る手に力を込める。
「はい、なんでしょう」
「みんなが出て行ってからの方がいいかな」
「……では先にお庭に行っていてもらうよう主人に伝えて参ります」
いつも通りの口調で一見穏やかな様子のリュカだが、正面から表情を覗けば少々強張っている雰囲気も漂っているように思われた。リュカらしからぬ緊張した面持ちを見せる姿に、マリアも釣られるように神妙な顔つきになりながら、パタパタと小走りに扉の外へ出ていたヘンリーの下へと向かう。
しばらくの間扉の外でざわざわと聞こえていた皆の声が、扉が閉じると同時にその声はほとんど聞こえなくなった。そしてマリアがリュカのところへ戻って来るのに合わせ、他にも二人部屋の中に留まることになった。
「お前さ、他所の国の宰相の妻と二人っきりで部屋にいて外交問題にならないと思ってんの? バカなの?」
「え?」
「え、じゃないわよ。たとえ不純な動機がなくたって、そう疑われるかも知れないって考えるべきだわ」
「あ、あの、ごめんなさい。私の考えが浅はかで……」
ヘンリーとビアンカが揃ってリュカを責める言葉を投げる傍らで、マリアが自らに非があるのだと謝りの言葉を述べる。
「いや、その、ちょっと二人で話をしたかったから……」
「出たよ、この天然軟派野郎。少しは言動を慎め」
「リュカはもう少し自分の発言について意味を考えるべきだわ。その内悪気なく女の子を誤解させるわよ。それって相手を傷つけることになるのよ。可哀そうじゃない、そんなの」
「あの、ビアンカさん、リュカさんはただ落ち着いてお話をされたかっただけだと……」
「……その、大神殿での話だったからさ。みんながいない時がいいかなって。それだけなんだ」
リュカのその一言に、彼らの間に沸き起こっていた熱が嘘のように引いて行く。誰もが言葉を発するのを止めれば、閉じられた扉の向こう側の音ももう何も聞こえない。既にデールが護衛の兵たちと共に、ドリスや子供たち、そしてグランバニアからの護衛役であるピピンもまた連れ立って中庭へと向かったようだ。大方ヘンリーが「先に行け」とデールに伝えているのだろう。ビアンカもまた部屋の残るリュカとマリアのただならぬ雰囲気を感じ、「後で行きます」と半ば強引にその場を離れたに違いない。
「そう言う話だったら、マリアだけじゃないだろ。俺にだって聞く義務がある」
ヘンリーの硬い口調を聞きながら、リュカは自身で納得するように小さく何度も頷いた。いざ彼にそう言われれば、何故自分はマリアにだけ話して済むようなことだと思ったのだろうと、内心で自身の誤りを認めた。
「私にも、聞く権利はあるわよね」
ビアンカは過去にリュカから、彼ら三人があのセントベレスの山の上で奴隷としての過酷な生活を強いられていたことを聞いている。恐らく彼女が今のこの場に同席することは場違いとも言えるような状況なのかも知れない。しかし今では彼女は、彼の妻と言う立場だ。彼が何か苦労を抱えているのなら、それを寄り添い支える役目は自分しかいないはずだと、この場に留まる意思を見せた。
円卓に残された食器や菓子はそのままに、ヘンリーは椅子を四脚引っ張り出すと二脚ずつ向かい合わせるようにして並べた。そしてリュカとビアンカを横並びに座らせると、自身もマリアと並び椅子に腰を落ち着ける。
「早いところ中庭に行ってやんないとみんなが心配する。本当は……じっくり聞きたいところだけどさ」
「うん、そうだね……」
雰囲気が重苦しく動けないほどにならない内にと、リュカは膝の上に濃紫色の包みを優しく乗せたまま、向かいの二人の顔を交互に見つめながら静かに話し始めた。

Comment

  1. ケアル より:

    bibi様。

    ラインハットでデールたちに会う前に壊れた飾り物がありましたよね?…あれはコリンズの仕業なのでしょうか?

    bibi様、ヘンリーがいると会話が楽しいですね!
    ヘンリーの口の悪さとリュカの丁寧な言葉がうまく中和されていて、今さらなんですがヘンリーのキャラ設定は絶妙であります(笑み)

    bibi様、なぜこんな気になる所で次回に続くにしちゃったんですかぁ!(ブーイング)
    bibi様、やはりヨシュアの話をここでするんですね。 以前、個人的にbibi様とヨシュアのことでメールでお話させて戴いた時、この話を考えていると言っていましたよね。
    しかし、bibi様に話しをしたとおり、ゲームではヨシュアの話はここではなくて…、bibi様的に後々のことも思案していらっしゃるんでしょうか。

    次回は、ヨシュアの遺骨…。
    マリア、ヘンリーがどんな風になってしまうのか…。

    • bibi より:

      ケアル 様

      コメントをどうもありがとうございます。
      壊れた飾り物は・・・幼きヘンリーの仕業です。コリンズはそういう悪戯はやっていません。物を壊したりするのは母マリアが悲しむのを知っているからしない、とそんな感じです。
      ヘンリーがいると会話が楽しいのは私もです(笑) 彼がいるとリュカとの会話がぽんぽん進むので、楽しい反面、話が逸れてしまいそうでそこだけが不安要素。ちょこちょこ軌道修正しながら会話を進めています。
      気になるところでおしまい、嫌ですよね~。すみません、この後まだ長くなりそうだったので一度話を切らせてもらいました。ヨシュアさんのお話はじっくりしたいところだったので。次回、多人数の人たちの会話を楽しみながらも、シリアスに書いて行きたいと思います。

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