2017/12/03
春を待つ妖精
外で鳥が鳴いている。チチチチッと鳴き交わす声を聞くと、もう朝なんだとリュカは眠たい目を開けた。外は晴れているようで、窓の外は水色で明るい。しかし、窓ガラスが曇っていて外の景色は見えなかった。窓の縁でカツカツと足音を立てて話をしている鳥たちも、部屋の中に入りたいのか、じっとその場を離れずにいる。
しかし窓ガラスに飛び掛った野蛮な猫の仕業で、鳥たちは慌てて飛び去ってしまった。
「こら、プックル、そんなことしちゃダメだよ」
「にゃう」
リュカが叱ると、プックルは後ろを振り返って不満げな声を出した。猫の本性に逆らうことなんかできない、とでも言いたげだ。軽やかに床を歩き、ベッドの上に飛び乗ると、リュカのいるベッドの中にもぐりこんできた。
「プックル、朝だよ。起きなきゃ」
「にゃああ」
「ふわああ。うん、眠いのは分かるけど、お父さんに怒られるから」
「ゴロゴロゴロ……」
「ほんと、寒いよね。出たくないのも分かるけど、お腹も空いてきたし」
まるでリュカの言葉が分かるかのように、プックルは素早く布団から出ると、尻尾をゆらゆらさせてとっとと階段を下りていってしまった。
「プックルもお腹空いてたのかな。……ううう、でも寒い」
リュカは布団の中から手を伸ばし、ベッドの縁に引っ掛けてあった濃紫色のマントを取ると、素早くそれを身体に巻きつけた。いくらか寒さを凌ぎながら、かじかむ足をさすり、どたどたと階段を下りていった。
「坊ちゃん、おはようございます」
サンタローズに着いてからまだ数日と経っていないが、サンチョのこの言葉がリュカにはもう当たり前の風景になりつつあった。前掛けで大きな手を拭き、リュカの朝食の準備をする。プックルに至っては既に器にほぐされた魚と、野菜の煮物をがつがつと食べ始めている。見ていると、猫の割には魚よりも野菜の煮物が気に入っているようで、身をほぐされた魚そっちのけでやわらかい人参や芋を頬張っている。
「もう季節は春も過ぎている頃なのに、毎日寒いですね」
「うん。まだ、冬なのかな」
「今年はまだ道に雪も残っているし、ちょっと春が来るのは遅いみたいですね」
「寒くて外に出たくなくなっちゃうよ」
「そんなことを言っていないで、外で遊んできなさい、リュカ」
玄関を開けて現れたパパスは、どうやら外の井戸水で顔を洗ってきたらしく、前髪や髭が水で濡れていた。その姿を見ただけで、リュカは身体が寒さで震えた。ちょうどサンチョが運んできた湯気の立つ野菜スープを飲み、身体を温める。
「お父さんは? 今日もお仕事?」
「ああ、すまないな。だがリュカには友達ができたろう。一緒に遊んでやりなさい」
そう言いながらパパスは皿に顔を突っ込んでいるプックルの前にしゃがみこんだ。プックルはパパスには少々警戒心を持っているようで、姿勢を低くして低く唸った。どうやら大きな大人の男が怖いようだ。
「そうだね、じゃあ食べ終わったらプックルとかけっこしてくる」
「あとでどっちが勝ったか父さんに教えてくれ」
「プックル早いからなぁ。ぼく勝てるか自信ないや」
リュカが困った顔をしながらプックルを見遣ったが、プックルはお構いなしに皿の中を平らげることに必死になっていた。やわらかく煮込んだ野菜を食べ終え、魚の身にとりかかったところのようだ。
「坊ちゃん、早く食べないとスープが冷めてしまいますよ。せっかくですから温かいうちにどうぞ」
サンチョの言葉に合わせて、リュカは熱々のスープをひと匙すくって飲んだ。おいしそうな笑顔になるリュカを見て安心したように、サンチョは席を立ち台所へと姿を消した。その直後、台所からサンチョの素っ頓狂な声が聞こえた。
「あれ? おかしいなぁ」
「サンチョ、どうしたの?」
リュカがスープをふうふうと冷ましながら、姿の見えないサンチョに話しかけた。サンチョは首を傾げながら再び台所から姿を現した。
「坊ちゃん、まな板をどこかにやったりしませんよね?」
「まないた? ううん、知らないよ」
「そうですよねぇ。さっきまで使ってたのに、おかしいなぁ。どこにやったんだろ……」
サンチョはぶつぶつ言いながらまた台所へと姿を消した。リュカの目の前にはサンチョが作ったスープがあり、切り分けられたパンがある。この食事を作るのに、サンチョはまな板を使っていたはずだが、それが見当たらないらしい。
「お父さんは知らないの?」
「私はまな板がどこに置いてあるのかも知らないぞ」
台所に入ることなどないパパスは、台所をうろうろするサンチョの後姿を見ながら首を傾げた。台所はサンチョが使いやすいように料理道具が整然と並べられている。まな板もその中にあったはずだ。
「まあ、そのうち見つかるでしょう。まな板がなくとも料理はできますし」
少々、腑に落ちない様子のサンチョだったが、自分の分のスープとパンを準備すると、リュカと一緒に朝食を食べ始めた。父は既に朝食を済ませていたようで、「二階で調べ物をしてくる」と言って階段を上がっていってしまった。
「サンチョ、お父さんっていつもどのくらいに起きてるか知ってる?」
旅の最中、父の寝入った姿を見たことがないリュカは、サンチョにそう聞いてみた。
「旦那さまはいつも日の出と共に起きていらっしゃいますよ」
リュカが起床する二時間も前にパパスは起きているらしい。夜、眠りに就くのもリュカより遅いというのに、父は今眠くないんだろうかとリュカは不思議に思った。
「大人になると体力がつきますからね。それほど眠らなくても大丈夫なものですよ」
「ぼくも大人になれば、そうなるのかな」
「坊っちゃんが大人になる頃は、安心して眠られるようになればいいのですがね……」
独り言のように呟くサンチョの表情は少し暗い。何だか話しかけづらくなってしまったサンチョから目を離し、リュカは残りのスープを皿を傾けて飲み干した。
「坊ちゃん、お気をつけて」
「うん、いってきまーす」
すっかりスープで温まった身体で、リュカはプックルと一緒に家を飛び出した。玄関の扉を開けた瞬間に身を切るような寒い風が吹き込み、一瞬気分が落ち込んだリュカだが、怯まずに飛び出していったプックルの後を追ってリュカも外に駆け出していった。
空は明るく晴れ渡っていたが、たなびく雲が霞のように薄い。村の人々はところどころで火を起こし、各々暖を取っているようだ。火を燃す臭いが村の中を漂っている。その中には芋を焼く甘い匂いも混ざっていて、リュカは食事を終えたばかりだというのに、思わず喉を鳴らした。
プックルが向かった先には村の中を流れる川があった。寒いとは言え、さすがに川が凍りついているわけではないが、それでもこの川に飛び込む勇気はリュカにもプックルにもなかった。
「魚って寒くないのかな」
「にゃう」
「夏は冷たくていいけど、冬は寒いよね」
川原の土手には硬くなった雪が少し残っている。それに気づいたプックルが小走りにその場所へ近づいていくと、氷となった雪をがつがつと叩き始めた。
「そうだ、旅に出る時はかならず教会にお祈りに行かなきゃいけないんだよ。プックル、行こう」
リュカは思い出したようにそう言うと、プックルを抱え上げて川原の土手を登っていった。プックルはまだ雪の感触を確かめたかったようで、リュカの手の中でじたばたと暴れていた。リュカの腕を叩く尻尾には黄色いリボンが巻かれている。プックル自身、そのリボンが目に入った瞬間、なにやら突然元気を失い、リュカの両腕の中で大人しくなってしまった。リボンが巻かれた尻尾でリュカを叩くと、リュカも物思いに耽るように西の空を見上げた。
「教会にお祈りに行ったら、村の外に出ても平気かなぁ」
そう言った瞬間に、この村を守るように入り口に立っている門番の男の人を思い出し、それは無理なのだとリュカは改めて悟った。子供だから一人で外に出るなんて許されない。大人になれば自分の気持ちだけで外に出ることができるんだと考えると、リュカは早く大人になりたい気持ちでいっぱいになった。
土手沿いにしばらく歩いて行くと、間もなく教会の屋根が見えた。屋根に十字架がなければ普通の民家と見分けがつかないほど、質素で慎ましやかな教会だ。ただ扉は重々しく、教会の威厳を表現している。
外も寒かったが、教会の中はさらに冷え込んでいた。目の前に白い息が浮かぶ。足元に来ていたプックルも身体をぶるぶると震わせた。しかしこれほど冷えている教会の中で、冷たい長椅子にじっと座って祈りを捧げているおばあさんの姿がある。おばあさんはちょうど朝のお勤めを終えたようで、リュカが近づいていくと椅子を立ち、にっこりと微笑んで扉へと向かった。プックルにも同じように笑みを浮かべて通り過ぎていった。
「これはこれは小さな子羊さんが現れたな」
教会の神父が良く通る声でリュカにそう言った。
「パパスさんのところの息子さんだね。教会にお祈りに来たのかい?」
「うん……はい、そうです」
リュカの服とは違う、しっかりとした素材の生地で作られた神父服の威厳に、リュカは思わず返事をしなおした。
「それは感心だね。しかし今日も冷え込んでいるから、あまり長居しない方がいいかも知れないね。風邪を引いてしまう」
にこやかな笑みを浮かべる神父に、リュカはこくりと頷いた。その神父の隣に、あらぬ方向を見つめているシスター見習いの少女がいた。その視線はこの教会の中にとどまらず、壁を通して外を見ているような視線だった。そんな少女の様子に、神父も困ったように笑う。
「さっき、旅の人がここに来てね、それからずっとこの調子なんだよ」
「どうして?」
「さあ……。本人に聞いてみたらどうだい?」
そう言うなり、神父は聖書台に置いてある村の人々の日々の記録を手にとって黙読し始めた。神父がどんな動きをしようと、シスター見習いの少女はうっすらと笑みさえ浮かべてずっと止まったままだ。
「お姉ちゃん、どうしたの? お熱でもあるの?」
不安そうにリュカが見上げて聞くと、シスター見習いはようやくはっと我に返ったように、リュカに視線を合わせた。しかしまだどこか心ここにあらず、の状態だ。
「さっき教会に来た人、とてもステキだったの」
「ここに来た人?」
「そうよ。旅の方のようだったわ。何だか、こう、さわやかなんだけど、でも少し影がある感じというのかしら。とにかくステキだったの」
子供のリュカに伝えようとした少女だったが、リュカは丸い目をぱちくりするだけで、年頃の乙女の気持ちはとんと分からないままだ。しかしリュカは分からないながらも、少女の言う「旅の人」という言葉の響きに多少なりとも親近感を覚えた。
尊敬する父と同じような旅人がこの村に来ているらしい。教会に来る途中には会わなかった。川原の土手の方にでも行ったのだろうか。それとも、父と同じように村の奥にある洞窟に向かったのだろうか。
一度気になりだすと、リュカはいても立ってもいられなくなってきた。気がついたら、今まで足元にいたプックルがいなくなっている。慌てて教会の中を見渡すと、プックルは教会の扉を爪でガリガリと引っかいていた。リュカよりも先に、この教会を出たかったようだ。
「神父さま、お姉ちゃん、またね」
リュカは教会の扉を傷つけているプックルを叱り、木製の扉を開けた。相変わらず外は寒い空気に包まれている。白い息を吐きながらリュカたちは教会を出て行った。
前を小走りに進んでいたプックルが、教会の建物の角まで行くと、そこでピタリと足を止めた。そしてその場でじっと立ち尽くしている。何も反応しなくなったプックルを見て不安になったリュカは、思わずプックルを呼んだ。
「プックル、おいで」
リュカの幼い声に反応し、一瞬後ろを振り返ったプックルだったが、またすぐに目の前の見慣れぬ旅人を見上げる。なにやら落ち着きを失っているようだった。
そこにはシスター見習いの少女が言っていた旅人の姿があった。
まずリュカの目に飛び込んできたのは、古びれた紫色のマントとターバンだった。日に焼け、すっかり色褪せてしまったのか、紫色というよりは藤色に近い。リュカは自分のマントと見比べてみたが、一言に紫とは言っても、全く種類の異なる色だった。
体つきは父より痩せている。しかし旅慣れた雰囲気が青年の周りに漂っていた。リュカがじっと見つめていても、一向に動じる気配がない。子供の扱いに慣れているのだろうか、リュカの間合いを邪魔しないよう、待っている。
プックルと一緒にリュカも少しの間、ぼうっと青年を見つめていたが、父に「人に会ったらまず挨拶をしなさい」と言われていたのを思い出し、慌てて「こんにちは」と頭を下げた。
「こんにちは」
父よりは高く、サンチョよりは低い声だった。そして声に深みがある。子供のリュカでさえ、惹きつけられるものがあるのだから、教会の少女は一目見た瞬間に釘付けになってしまったのかもしれない。
「この猫はキミの猫かい?」
青年がしゃがみこんで手を出そうとするのを、リュカは慌てて止めた。
「かみついたりするかもっ」
プックルは元々気性が荒い。実際にパパスやサンチョにも飛びかかろうとしたことがあった。それと言うのも、二人から手を出された時だけだ。決して好戦的というわけではなく、防御本能で仕掛けられる前に攻撃を、ということらしい。
しかし青年の手が目の前にあるというのに、プックルはじっとその場で動かなかった。身構えるでもなく、ただぽかんと立ち尽くしているのだ。青年が「プックル、いい名前だよね」と言いながら、プックルの頭の赤毛を撫でても、プックルは目を細めるだけで攻撃態勢にはならなかった。むしろ触れられたことに安心すらしているようだ。
「大きな猫だね」
「うん、そうかも」
村の中には他にも気ままに歩いている猫がいるが、プックルはそんな猫たちと比べてもふた回りくらい大きい猫だ。それがリュカにとっては少し誇らしいことでもあった。勇ましく強い、に憧れるリュカは、自分と一緒にいる猫が大きいだけで、ちょっと嬉しかった。
一緒にプックルの前にしゃがみこむと、その拍子に腰に結び付けてある道具袋からごろりと重い音を立てて何かが落ちた。それはあのお化け城で手に入れたゴールドオーブだった。そういえばあの時、自分の手の中に落ちてきたこのオーブをそのまま袋にしまってしまったんだと、リュカは急にビアンカに申し訳ない気持ちになった。
「キレイなボールだね。ちょっと見せてくれるかな」
隣でしゃがんでいる青年にそう言われ、リュカは咄嗟にボールを手の中に隠そうとした。しかし小さなリュカの手の中には隠れ切れず、大きなゴールドオーブはきらきらと輝きながらリュカの両手に乗っている。そのままリュカは、警戒心を露に青年からオーブを遠ざけた。
「ダメだよ、これ、僕たちのたからものなんだ」
「僕たち……。友達と、かな?」
「そうだよ、僕とビアンカのたからものなんだよ」
リュカがそう言うと、青年が一瞬ぐっと息を詰めたのが感じられた。自然な笑顔だった表情にさっと影が入ったようだ。しかしそれも一瞬で、すぐに青年は笑い声を立ててリュカに言った。
「あはは、盗んだりなんてしないよ。信用してほしいな」
青年は決して無理に取ろうなどとはしなかった。リュカが持つそのオーブを見つめ、リュカに笑いかけ、ただ渡してくれるのをひたすら待っているようだった。リュカは青年の先ほどの不安そうな表情が心配になり、思わず「はい、いいよ」とオーブを渡していた。悪いことをしそうな人には見えなかった。
青年の手に乗ったオーブは彼の手の中にすっぽりと納まる大きさだった。両手で包み込むように持つと、オーブは完全に隠れてしまう。リュカはじっと目をそらさずに青年の手に乗るオーブを見つめていた。冷たい空気に晒されながらも、何故か冷たさを感じなかった。日の光を受けているが熱くも感じなかった。
と、その時、グシャッと何かが潰れる音がした。リュカが慌てて振り向くと、プックルが霜柱の張っている地面を踏んづけていた。その感触が楽しいのか、プックルは次々と霜柱を壊していく。
「あ、ずるいよ、ぼくもやる」
リュカはプックルを真似するように、まずは右足で霜柱の地面を踏みつけた。派手な音を立てて地面が陥没する。地面から覗くのは白い氷の柱だ。リュカはその柱を一塊手にとってじっと見つめてみた。良く見ると透明で、氷の柱の向こう側が透き通って見えた。色々と角度を変えて見ると、太陽の光の当たり具合で七色に光ったりした。もう一度同じように七色の光を出そうとリュカは霜柱を覗き込んだり、上から眺めたりしてみたが、手の中にある氷の一塊はみるみるうちに解けていき、泥水になってしまった。
「はい、ありがとう」
青年にそう言われるまで、ゴールドオーブを渡していたことさえ忘れていた。リュカは慌てて青年からオーブを受け取ると、しっかりと道具袋の中にしまいこんだ。リュカのその様子を見ながら、青年は微笑んでいた。
「坊や」
青年にそう呼ばれ、サンチョがいつもぼっちゃんと呼んでくれていることを思い出した。サンチョの声は優しいが、青年の声は今まで聞いたことのない響きが含まれていた。リュカは反応に困り、ただ青年の顔を見上げていたら、青年が静かに言った。
「お父さんを大事にするんだよ」
そう言われた瞬間に、リュカは心が落ち着かなくなった。しかし青年は普通に微笑んでいるだけだ。常に強く逞しい背を見せる父を、不安に思う理由はなく、リュカは漠然とした不安をどこかへ押しやってにっこり笑って返事をした。
「うん、もちろん」
リュカが笑うと、青年も同じように微笑んだ。いざ笑うと、先程感じた一瞬の不安はどこかへ吹き飛んでしまった。
青年は立ち上がり、リュカの頭を撫でると、そのまま立ち去ろうとした。その後をプックルが追いかけようとする。
「プックル?」
リュカの呼びかけに反応するように振り向いたプックルだが、すぐにまた青年の背中をじっと見続けた。リュカが呼びかけなければ、そのまま青年の後をついて行ってしまったのではないか、と思うほどプックルの足取りは自然だった。
そんな猫の気配に気づいたのか、青年は振り返った。色あせた紫色のターバンを少し手で直し、大きな猫を優しく見つめる。そして今一度、リュカを見た。
「つらいことがあってもくじけちゃダメだよ」
青年はそう言った。リュカは自分に言われたことだと分からなかった。てっきり青年がプックルに言ったのかと思っていた。プックルが子供たちにいじめられていたことを知っていたのかと思った。
「うん、負けないよ」
リュカは返事のできないプックルの代わりに青年に言葉を返した。青年はもう何も言わずに一つ深く頷くと、視線を遠くに彷徨わせた。方角は太陽の昇る位置、東の方角だ。
プックルはその青年の姿をずっと見つめていたが、後ろのリュカを振り返り、ゆっくりとした足取りで戻ってきた。
リュカがプックルの赤いたてがみを撫でると、プックルは「にゃあ」と甘えた声を出した。その声に安心したリュカは、「行こ、プックル」と言ってプックルと一緒に村の中を歩き回り始めた。
無意識に村の入り口に向かっていたリュカだが、先程の青年の姿はもうなかった。少しがっかりした気持ちでリュカはそのまま村の中に視線を戻した。少し先には先日までビアンカと彼女の母が宿泊していた宿がある。アルカパでのビアンカの宿屋に比べれば非常に小さな宿屋だ。
先程の青年もあの宿にいたのかもしれない、と思ったリュカはプックルを連れて宿屋へ向かった。青年のことは何も知らないが、何故か心の奥底で青年のことが知りたかった。
宿屋の木扉を開けると、宿のカウンターで落ち着かない様子の主人がいた。その表情はあまり和やかなものではない。
しかし宿に入ってきた小さな子供の姿を見ると、すぐににこやかに声をかけた。
「おや、小さいお客さんだ。どうかしたのかい?」
宿の主人が話しかけてきた。しかし話しかけた直後、眉根を寄せてリュカを見つめた。朝、家で見たサンチョと同じような落ち着きのなさだ。
「坊やじゃないよね、この宿帳にラクガキしたのは」
思いの外鋭い眼差しを向けられ、リュカは言葉に詰まった。初め、何を言われたか分からなかったリュカは、宿の主人に宿帳をひらひらと見せられ、慌てて首を横に振った。
「してないよ。ぼく、届かないもん」
「あ、そうだね。ごめんごめん。……しかし誰が書いたんだろう、これ」
今度は朗らかな笑顔で謝ると、主人はぶつぶつと呟きながら、宿の奥へと引っ込んでしまった。村の宿に旅人が訪れることはあまりない。カウンターに立たずとも特に問題はないのだろう。
誰もいなくなった宿のフロントで、リュカは階下に下りる階段を見た。その階段の下からはカチャカチャと食器の音がしている。香ばしい食事の香りと共に、ほのかに酒の臭いも漂う。
青年は地下の酒場にも寄ったのだろうか。リュカは好奇心に任せるまま、誰もいなくなった宿のフロントをこそこそと歩き、静かに階段を下りていった。
日の光が差し込まない地下の空気は思ったより淀んでいた。料理の匂いと酒の臭いが壁や床に染み付いて、木製の床には光沢が生まれている。カウンターで食器を洗っている店員が「おや?」という顔をしてリュカを見た。
一方、リュカの視線はカウンターの上に釘付けになっていた。
カウンターの端には重たそうな花瓶に花が飾られている。その花瓶の手前に、ちょこんと少女が座っていた。その少女はリュカをじっと見つめて、控えめに手を振っている。その姿は明らかに人間のものとは異なっていた。背中に透明の羽を生やし、髪は見たこともない薄紫色、座っているカウンターから少し身体が浮いている雰囲気があった。
リュカが驚いたのは、花瓶や花が、少女の身体を通して見えたことだ。彼女の向こう側にある花瓶や花が透き通って見えるので、まるで少女の身体の中から花が咲いているようだ。
店員の目も気にせず、とことこと歩いて少女の前に立つと、リュカはおもむろに話しかけた。
「こんなところで何してるの? ユウレイさん?」
「まあっ、私の姿が見えるの?」
「うん」
「ちょっと、キミ、何を言ってるんだ。ユウレイなんてここにはいないぞ」
「やっと私のことが見える人間に会えたわ。でもここで話し込むわけにはいかないわね」
少女はちらりと店員に目を向ける。店員は少女の姿に気づいておらず、リュカに困ったように話しかけているだけだ。リュカも困ったように店員を見上げたが、すぐに少女に向き直った。
「きみはだれ?」
「話は場所を移してしましょ。確かこの村にはもう一つ地下の部屋があったわよね。あそこなら人気もないし、ちょうどいいわ。そこでお話しましょう」
「ちかのへや……?」
「じゃあ後でね。ちゃんと来てね」
少女はそう言うが否や、リュカが話しかける間もなくその場で姿を消してしまった。
呆気に取られているリュカを、店員が何か怖いものを見るような目つきで見つめていた。
「坊や……一体何を見たんだい?」
リュカはにべもなく答えた。
「ユウレイさんがいたんだよ」
そう言うと、リュカは「ちかのへや」について考えながら、地下からの階段を上っていった。残された酒場の店員は気味悪そうにカウンターの花を見ていた。
一度家に戻ったリュカは、台所で野菜をトントンと切っているサンチョの後姿に話しかけた。リュカが見る時、サンチョは大抵料理をしている。
「サンチョ、『ちかのへや』って何だか知ってる?」
「地下の部屋、でございますか?」
「うん」
「この家の床下の物置のことでしょうかねぇ」
「ものおき?」
リュカが首を傾げていると、サンチョは思い出したように笑い出した。
「そうですよね、坊ちゃんは覚えてらっしゃらないですね。坊ちゃんがもっと小さかった頃、旦那さまに『お仕置きだ』と言われて閉じ込められたイヤ~な場所ですよ」
「……ぼく、悪いことしたの?」
「ええ。私は構わなかったんですがね。私の作ったスープを坊ちゃんが皿ごと投げてしまったことがあったんですよ。お口に合わなかったんでしょうね。それで旦那さまは『食べ物を粗末にするんじゃない』とお怒りになって。それで泣きじゃくる坊ちゃんを床下の物置にちょっとの間閉じ込めたんです」
「サンチョのスープ、おいしいのに」
「私が言うのもなんですが、きっとね、味じゃなかったんですよ。坊ちゃんは旦那さまに構って欲しかったんでしょうね」
眉根を寄せて、少し困ったような表情をしながら言うサンチョを見ても、リュカはその時のことを思い出せなかった。
「坊ちゃんが思い出せないのは、その後物置の中で遊び始めたからじゃないでしょうかね。旦那さまも呆気に取られてましたよ。まさかお仕置きの最中に遊び始めるなんて、思ってもいなかったでしょうからね」
その時のリュカの様子を思い出して、サンチョはくすくすと笑い出した。リュカはあまりいい気はしなかったが、サンチョの後ろのまな板を見て、ふと思い出した。
「あれ、まな板、あったの?」
「あ、そうなんですよ。なんと、まな板がタンスの中から見つかったんですよ。どこかにイタズラ者がいるんですかねえ」
サンチョはリュカを疑うわけでもなく、ただただ首を傾げていた。リュカはそれが先程のユウレイの仕業だと気づき、はっと息を呑んだが、サンチョには何も言わなかった。
「ねえ、サンチョ、下には入れるの?」
「え? あ、はい。坊ちゃん、何かお探しですか? 何なら代わりにサンチョが探して参りますが」
「ううん、ちょっとユウレイさんとお話するんだ」
「幽霊さん、ですか?」
「ユウレイさん、ちかのへやにいるって、さっき言ってたから。そこでお話するの」
サンチョは不思議そうにリュカを眺めたが、リュカにおかしな様子はない。外に出るわけでもない、ということで、サンチョは床の板を外し、地下室に通じる階段を手で示した。
「暗いので気をつけてお入りになってくださいね」
「うん」
リュカはうっすらと明かりが差し込む地下室への階段をトコトコと下りていった。明かりが差し込むのも手前だけで、地下室の奥には暗闇が広がっている。リュカは背筋に水滴が伝うような冷たい感覚を覚えた。
しかし、その時ふっと、リュカの横をふわっと風が通り過ぎた。外も地下室も寒いほどだが、その風は温かく感じられ、通り過ぎた後には花の香りが漂った。
地下室の奥に、ぼんやりとした光が浮かび上がった。今まで暗闇で何も見えなかった地下室の一角に、先程酒場で見かけた少女の姿が徐々に見えてきた。
「来てくれたのね!」
「うん。ここ、ぼくのうちなんだ、ユウレイさん」
「あら、私はユウレイさんじゃないわよ。妖精よ」
「ヨウセイさん?」
「そう、妖精。絵本なんかで見たことないかしら?」
妖精の少女は微笑みながらリュカに言った。リュカは妖精の前まで歩いて行くと、少女は深刻な表情をしながら話し始めた。
「私の名前はベラ。実は私たちの国が大変なの!」
リュカは自分よりも少しだけ背丈の高い少女を見上げ、静かに話を聞いた。リュカについてきたプックルは足元に来た足速い虫を追っている。
「それで人間界に助けを求めて来たのだけど、誰も私に気がついてくれなくて……。気がついてほしくて、いろいろイタズラもしたわ。そこへあなたが現れたってわけ」
ベラが高い声で一気に話すのを聞いていたリュカだったが、ふと階段の上から父の声を聞いた。二階で作業していた手を止め、一階に下りてきているようだ。
「シッ! ちょっと待って。だれか来たみたいだわ」
ベラがそう言った直後、父が地下への階段を下りてきた。ドンドンと力強い足音に、リュカは少し後ろめたい気持ちになった。リュカが階段を見上げると、父が真っ暗な地下室に目を凝らして、辺りを見渡していた。
「誰かと話しているのかと思ったら、お前一人か……」
やはり父にはベラの姿が見えていないらしい。大人には見えないのだろうか。酒場の店員にも彼女の姿は見えていなかったようだった。プックルにもはっきりとは見えていないみたいだが、何かの気配を感じるらしく、焦点の合わない視線を空中に投げている。
「ここはとても寒い。一人遊びもそこそこにして、カゼをひかぬうちに上がって来るのだぞ」
「……うん」
歯切れの悪い返事をするリュカに、パパスはしばし問いかけるような眼差しを向けたが、何も言わなかった。息子が何か隠し事をしていると感づいたが、パパスはそのまま階段を上がっていった。パパスの姿が見えなくなると、リュカはほっと息をついた。
父の姿が見えなくなって安心するなんて感覚を、リュカはこの時まで味わったことがなかった。
「やっぱり他の人には私は見えないみたいね……」
「そうだね。プックルにも見えてないみたいだし。ベラがいるのはなんとなくわかるみたいだけど」
「ふにゃ~ん」
「ホント、なんとなく分かってるみたいね、この子は。……ともかく私たちの国に来てくださる? そして詳しい話はポワン様から聞いて!」
「私たちの国?」
リュカの問いに答えることもなく、慌てた様子で、まるで階段を上がるように空中を上へ歩き出した。そしてふっとその姿が消えた。
リュカがベラの消えた空間に手を伸ばすと、自分の手の先からじわじわと光が広がり、やがて光輝く階段が現れた。慌てて手を引っ込めたリュカだったが、白く光る階段は消えないままだ。
プックルが不安げに「くぅーん」と犬のような鳴き声をあげた。普通ではない雰囲気を感じているようだが、プックルには階段が見えていないようだった。
「プックル、おいで」
「にゃああ……」
「大丈夫、ぼくの後についてくるんだよ」
「にぃ」
リュカは光るだけの透明な階段を確かめるように踏みしめた。しっかりとした感触がある。プックルがリュカの足元に鼻先を近づけて、訳もわからず確かめようとしている。リュカの足元を前足でかこうとしたら、空中にぶつかり、プックルは驚いて後ずさった。
「プックルは見えないんだよね。ぼくが連れてってあげる」
プックルを抱き上げたリュカは、恐怖心と探究心も抱えながら、光る階段をトコトコと上がっていった。地下室の天井にぶつかる、と思った瞬間、リュカとプックルの身体は目も開けられないほどの眩い光に包まれた。
ふわふわとした綿のような感触がリュカの右頬を埋めていた。綿だと思っていたその感触は徐々に冷たくなり、次第に右頬が痛くなってきた。今度は左頬にざらりとした感触を感じ、リュカは眉をしかめながら目を開けた。
顔を上げると、一面真っ白な世界が目の前に広がっていた。瞬きを繰り返していると、また頬にざらりとした感触があった。プックルの舌だった。
「プックル、痛いよ」
「にゃう」
リュカが立ち上がると、プックルがリュカを置いて走り出してしまった。その先には見たこともないような真っ白な猫がいる。
リュカも好奇心満タンでその猫に近づこうと歩きだすと、後ろから唐突に声をかけられ、肩をびくつかせた。
「来てくれたのねっ!」
先ほどまでのぼんやりと見えていたベラの姿が、ここでは輪郭もはっきりと見えた。花の色をそのまま抽出したような菫色の髪、耳は異様に尖り、手足はやたらと細く白い。背中に生える羽根は透明で、羽根を通してこの妖精の村の様子が見える。
「さあ、ポワンさまに会って!」
ベラががっしりと腕を掴まれ、リュカはあっと声を上げた。
「どうしたの?」
「ベラ、ぼくに触ってるよ」
「ここは私たちの国だから、私たちも実体があるのよ。だからこうしてあなたにも触れるんだわ」
「ぼくはトウメイになってないんだね」
「人間は透明にはなれないわ。実体ばかりの存在だもの」
ベラの言うことの半分も理解できないリュカだったが、ベラに腕を掴まれたまま急ぎ足で村の奥へと向かう。リュカが離れていくことに気付いたプックルが、慌ててリュカを追いかけてきた。
村を覆う白い綿の正体は、ずっと降り続ける雪だった。絶え間なく降る雪のせいで、村の景色が真っ白に染められている。先ほど真っ白に見えた猫は、ただ全身に雪をかぶっていただけのようだ。ただ、あまり寒くはないようだった。妖精の村に住む猫は寒さに強いのかもしれない。
遠くから巨大な木のように見えていたものに近づくと、その根元に扉らしきものがこさえられていた。ベラが手をかざすだけで、その扉はひとりでに開き、リュカは目を丸くした。扉を開ける魔法でもかけたのだろうか。
中は巨大な木をくり抜いたような大きな空洞だった。明かり取りの窓は二つしかなく、その二つとも小さい。しかし部屋の中は明かりがなくとも、柔らかい光に包まれていた。それは足元から、壁から、天井から、どこからともなく生まれる不思議な明かりだった。素材そのものから光を発しているような光景だった。
しかしリュカは周りを見る余裕も与えられずに、ベラに手を引かれたまま螺旋状の階段をドタドタと登り始めた。部屋の中にいる妖精たちは珍しいものを見るようにリュカとプックルを目で追った。
上まで登りきると、また外に出た。絶え間なく降り続ける雪が顔に当たり、リュカは目を瞑った。思い出したかのように寒さに身を縮める。プックルも身をブルルッと震わせると、リュカのマントの中にもぐりこんだ。
リュカの隣には腕も足もむき出しの格好のベラがいる。見るからに寒そうな格好だが、当のベラは寒さなど微塵も感じていないようだ。リュカやプックルが吐く息は白いが、ベラの呼吸は色に見えない。妖精は人間と違って寒さを感じないのかもしれない。
そのベラが唐突に姿勢を正した。緊張感を醸し出すその雰囲気に、リュカは彼女の視線を追った。
正面には、立派な細工が施された木製の玉座に座り、静かに微笑んでいる妖精がいた。その妖精は他の村にいた妖精たちやベラとは異なり、大きな葉を重ねたようなドレスをまとい、頭には細かい模様の銀の髪飾りを乗せ、手には魔法使いが持つようなロッドがある。髪の色はベラと同じように菫色で、腰まで伸びている。
「ポワン様、仰せの通り人間族の戦士を連れて参りました」
ベラが大人のような口調で玉座の妖精に話しかけた。リュカはプックルを抱き上げて、胸に抱えて寒さを紛らしながら、ベラの様子を横目でちらちらと見ていた。
そんなリュカを見ながら、ポワンはふっと笑みを漏らした。
「まあ、なんてかわいらしい戦士様ですこと」
そういうポワンは、リュカよりも少し背が大きいくらいで、ベラと同じように手足がとても華奢だ。子供のリュカよりも力がないように見える。
「め、めっそうもありません。 こう見えましても彼は……」
ベラが慌てた様子で取り繕おうとするのを、ポワンは静かに制した。
「いいわけはいいのですよ、ベラ。全ては見ておりました」
ポワンの声はとても優しく、まるで歌うような軽やかさだが、一たび彼女が話し始めると割って入れないような絶対的な力が働き始めた。リュカもベラと並んでじっとポワンの話を聞く。
「リュカと言いましたね。ようこそ妖精の村へ。あなたに私たちの姿が見えるのは、何か不思議なチカラがあるためかも知れません」
サンタローズの誰もベラには気付かなかった。サンチョも宿屋の人も、『誰かのイタズラ』に悩まされていただけで、その正体は分からずじまいだ。プックルもはっきりとベラの姿が見えていたわけではなかった。この村に入った時から、プックルにもベラの姿が見えているようで、しっかりとベラやポワンを見上げて尻尾をゆらゆらと振っている。
「リュカ、あなたに頼みがあるのですが、引き受けてもらえますか?」
ポワンは何故か雪が積もらない花々に彩られた玉座に座りながら、リュカの瞳をじっと見つめてきた。
リュカは今までの旅の中で、尊敬する父が様々な人を助けたのを見て来ている。つい何日か前にも、ビアンカと母をサンタローズの村からアルカパの町まで送り届けた。道中、襲ってくる魔物は父の剣の前に近づくことすら恐れていた。
『リュカ、困った人がいたら助けてあげなさい』
そんな父の声が聞こえたような気がして、リュカは元気に一つ頷いた。
「いいよ、ボク、やるよ」
ポワンはほっとした表情をしたかと思うと、すぐに表情を引き締め、リュカに語りだした。
「実は私たちの宝、春風のフルートをある者に奪われてしまったのです。このフルートがなければ世界に春を告げることができません」
「はるかぜのふるうと? それってなに?」
リュカの素朴な質問を、隣にいるベラが引き継ぐ。
「春風のフルートで世界に春を呼ぶの。春が来ればあったかくなって、花も咲いて、ちょうちょも飛んで、土の中から虫が出てきて、動物たちも目覚めるわ。春を呼べないままでいると、このまま世界が凍ってしまう」
ベラの表情は真剣そのものだったが、彼女の口ぶりはどこか歌を歌うようなリズミカルなものだった。妖精特有の口調なのかもしれない。話にあまり現実味が感じられない。だが実際に、周りでしんしんと降る雪は止まず、リュカは足の感覚がじんじんと鈍くなってきていることに気付いた。
「リュカ、春風のフルートを取り戻してくれませんか?」
ポワンが再びリュカの漆黒の瞳を覗き込んできた。父やサンチョがいる自分たちの世界はもう春も過ぎている頃というのに、村では焚火で暖を取ったりしている。まるで真冬のようだったことを思い出す。
「みんな寒いままじゃイヤだもんね。いいよ、ボクが取ってくるよ」
気軽な調子で言うリュカは、父の教えの通り『困った人を助ける』という信条に則っただけだった。特に深刻に考えて返事をしたわけでもない。
レヌール城でのお化け退治が成功したのも、リュカの自信を知らず裏付けていた。リュカの心のどこかに「自負」が芽生えつつあった。
「まあ! 引き受けてくださるのですね!」
ぱっと笑顔を輝かせて喜ぶポワンを見て、リュカもまんざらではない気持ちになった。人の喜ぶ顔を見るのはとても気分が良い。父もこんな気持ちで何人もの人たちを助けて来たのだろうか。
「ベラ、あなたもお供しなさい」
「はい、ポワン様。リュカ、私も一緒に行くわね。やっぱり子供一人じゃ心配だし」
ベラの一言でリュカの伸びかけていた鼻が少しだけ縮まった。ちょっとむすっとしたリュカが、ポワンはそんなリュカを微笑んで見つめている。
「リュカ、あなたが無事にフルートを取り戻せるよう、祈っていますわ」
「うん、待っててね」
にっこり笑って答えたリュカに、ポワンもまた笑みを返す。そんな二人のやり取りを見ながら、一人、ベラはこっそり「なんか、違うのよねぇ」と呟いていた。彼女は人間の立派な戦士と妖精の女王ポワンのきびきびしたやり取りを、心のどこかで期待していたようだった。
玉座の近くに控えていた一人の妖精が、悲痛とも言える表情でリュカに言い加える。
「私たち妖精には剣を振るう力はありません。リュカ様、どうかポワン様の願いを叶えてあげてくださいませ」
彼女の言う通り、この妖精の村にいる妖精たちに魔物と戦う力はなさそうだった。背丈はリュカより少し高いくらいで、手も足も風が吹けば折れてしまいそうなほど、細い。これから供についてきてくれるベラも同様の体型をしており、リュカは少し不安になった。
その不安を感じ取ったのか、ベラは笑いながらリュカに答える。
「私たち妖精は魔法を得意としているのよ。だから足手まといにはならないと思うわ」
「そうなんだ。じゃあ、ビアンカみたいに火のまほうとか使えるの?」
「その時が来たら見せてあげるわね。まずは村の人たちに話を聞いて回りましょう。私も詳しいことはよく知らないのよ。誰がフルートを奪ったのかとか、その人がどこに行ったとか」
そんなやり取りをしながら玉座を後にした二人を、ポワンは希望に満ちた表情で見送っていた。
先ほどほとんど素通りした木の中の部屋でベラが足を止めた。外の音は全く聞こえず、部屋の中も静まり返っている。時折カサッとページをめくる音が響くほど、静かな部屋だった。
「ここが図書室よ。私たち妖精の歴史が詰まっているの」
ベラにそう言われ、リュカは本棚に目をやったが、まだ文字がろくに読めないリュカにとっては本に書かれている文字が人間の文字なのか、妖精の世界の文字なのか、判別がつかなかった。一つ小さな本を手に取り、開いてみたが、やはり内容は分からなかった。
ただ本の素材が人間の世界のものとは異なっていた。紙にインクで書かれたものではなく、薄緑色の葉に妖精たちの髪の色のような菫色の文字が並んでいる。形も様々だった。普通に四角く製本されているものもあれば、葉の形そのままに一冊の本になっているものもある。形が整っていない本が本棚に並べられても、何故か乱れることはなく、きちんと背表紙が表を向いている。妖精たちもそうだが、妖精たちが作った本にもこの世界独特の浮力が備わっているのかもしれない。
妖精の村では人間は珍しいらしく、リュカが部屋に現れると、本を読んでいた妖精たちが読書を中断してリュカをちらちらと見始めた。その中で一人、少し気の強そうな顔立ちをした妖精が、リュカに近づいてきた。
「あなたがフルートを取り返すために呼ばれた人間の戦士ね?」
少々、居丈高に問いかけられ、リュカは無意識にも体を縮めながら一つ頷いた。するとその妖精はリュカを頭の天辺から爪先までじろじろと見つめた後に、ベラに向かって「本当に大丈夫なの?」と問いかけた。
「大丈夫よ! リュカならきっとやってくれるわ! きっと……」
ベラの自信のなさそうな言葉に、その妖精はふっと笑うとまるで挑戦的とも言えるような雰囲気で二人に教える。
「フルートを奪った盗賊は、なんでも、氷の館に逃げ込んだそうよ」
行けるものなら行ってみろ、と言わんばかりの態度に、さすがのベラもむっと来たようで言い返そうと口を開いた。しかしその直前に、その強気な妖精の頭を誰かが小突いた。
「ごめんなさいね。この子に決して悪気はないのよ。世界がこのまま冬で凍りついたら、と思うと心配で、でも自分の力ではどうしようもなくて、あなたに八つ当たりしてしまったの。嫌な気持ちにさせてしまったらごめんなさいね」
「お姉ちゃん、別に私はそんなんじゃ……」
「あなたはもう少し素直になった方が良いわ。図書室で勉強もいいけど、たまには外で木や葉や土の匂いを感じていらっしゃい。世の中、知識だけではどうにもならないこともあるのよ」
どうやら妖精の姉妹のようだ。姉に叱られた妹はその場で反省するのも癪なのか、ふいっと顔をそむけて違う場所へ移動してしまった。姉は困ったように溜め息をつくだけで、特に追いかけることもない。日常のやり取りのようだ。
「ここから北に行くと冬の国。そこには氷の館と呼ばれるものがあるそうですわ」
「その館にいるのね、盗賊は」
「……ただ、氷の館の入り口は、固く鍵で閉ざされていると聞きます」
「鍵がないと、館に入ることすらできない、そういうこと?」
「そうですね。ただ、フルートを奪った者は氷の館に逃げたと聞きますので、何かしら館に入る術があるのかも知れませんね」
「……リュカ、今の話、分かる?」
「うん、その氷のヤカタに行けばいいんだよね?」
「ホントに聞いてた?」
ベラが心配そうな顔つきになるのも余所に、リュカはにこにこしながら妖精の姉に「ありがとう」とお礼を言っていた。ほとんど目線がリュカと変わらないその妖精は優しい笑みを浮かべると、妹の後を追ってその場を立ち去った。
外に出ると、先程よりも強くなった雪が村を包んでいた。リュカは再びプックルを抱き上げて、暖を取る。隣でベラは腕も足もほとんどむき出しの状態で平然としている。
「そう言えば、ベラは寒くないの?」
「妖精は暑さ寒さを感じないのよ」
村にいる他の妖精たちもベラと似たような格好をしている。丈夫な葉を重ねてつなぎ合わせただけの衣服を一枚だけで着ている。上着などは存在しないようだ。
「じゃあ、ベラたちは冬のままでも大丈夫なんじゃないのかな」
リュカが思ったことを素直に言うと、ベラは「わかってないわね」と言った雰囲気で肩をすくめた。
「私たちは移り変わる四季と一緒に生きているのよ。桜色の春が終われば、向日葵色の夏が来て、紅葉色の秋が来て、また雪色の季節が来る。その季節の移り変わりに併せて私たちは生きているの。こんな冬のままだったら、春の季節を司るこの村の妖精たちはそのうち消えてしまう」
「……死んじゃうの?」
「人間が死ぬのとは違うと思うけど、そうね、そういうことだと思うわ」
ベラが神妙な顔つきでそう言うと、リュカは泣きそうな顔になり、俯いた。
「ぼく、頑張るね。頑張ってそのフルートを取り返すから、ベラ、死なないでね」
呟くような小声で、しかし強い意志を感じさせるようなはっきりとした言葉で、リュカは言った。ベラは一度首を傾げたが、すぐに笑顔になって言葉を返した。
「頼りになる戦士サマだわ。私の目に狂いはなかったわね」
妖精の村を見渡すと、戦士に相当するような頑丈そうな者は見当たらない。皆、ベラやポワンのように手足も細く、白く、身体も小さく、外で魔物と対峙するのは到底無理そうだった。父がいつも旅で振るう剣など持つことすら叶わないかもしれない。それほど非力な存在に見えた。
しかしそんな妖精の村にも一応防具屋があった。村の外では魔物が徘徊しているのだろう。妖精たちも村の外に出る時は魔物に備えなければならないはずだ。
一体妖精はどんなものを身につけるのか気になったリュカは、プックルを連れて防具屋へと向かった。ベラが再び首を傾げて後をふわふわと付いてくる。
防具屋には妖精ではない小さな男がいた。店のカウンターから頭だけをひょっこりと出し、ちょうどリュカと同じ高さで視線が会った。焦げ茶色のもじゃもじゃした髪と髭をたくわえ、目も鼻も丸く小さく、この透明な雰囲気漂う妖精の村には似つかわしくないような、小汚いと言えるくらいの中年の男だった。カウンターに置かれる手の甲にももじゃもじゃと毛が生え、指の節がごつごつと逞しい。
「なんじゃ、人間のコドモがおるんか」
声は大人の男の声だった。まじまじと見るリュカの視線に居心地悪そうに、店の男が言う。
「なんじゃ、ワシが珍しいんか」
「おじさんは妖精じゃないの?」
「ワシゃ、ドワーフじゃ」
「ドワーフ?」
「人間の世界の御伽噺とかで読んだことはないのか? 妖精とドワーフ、出てくるじゃろ」
リュカは幼い頃より父と旅を続けている。家でゆっくりと本を読み聞かせてくれる母はいない。妖精の存在も今日、初めて目にして初めて受け入れた事実だ。しかし予備知識がないために、かえって御伽話の存在を素直に受け入れることができた。
「ベラよ、この子供は一体誰じゃ?」
防具屋のドワーフがそう聞くと、ベラは少し誇らしげにリュカを紹介する。
「この子はポワン様から大事な任務を仰せつかった戦士さまよ。リュカって言うの」
「こんな子供がか? なんとまあ、頼りない」
自分のことを完全に否定されたリュカだが、リュカの視線は店の棚に置かれる防具類に釘付けだった。二人の会話など聞かずに、じっと新品の防具類を見つめている。
「なんじゃ、わしの作った防具が気に入ったのか?」
「これ、おじさんが作ったの?」
「ああ、それがわしの仕事だからな」
リュカはドワーフの手で精巧に作られた青銅の盾に見入っていた。触ってみると、寒い冬の空気を吸いこんでいるようで氷のように冷たい。作りに全くムラがなく、一面が均一の青銅色をしている金属板を何枚も張り合わせて作り上げられている。
リュカの熱心な視線を見ていたドワーフは、しばらくしてからリュカに威勢良く話しかけた。
「坊主、わしの作った防具を装備して、ポワン様からのご使命を果たしてくれよ」
良く見ると、ドワーフの目つきは人懐こいものだと、リュカは本能的に感じた。一見すると怖い印象を持つ外見だが、その実は妙に人情深い性格をしているのかも知れない。
「でも、ボク、お金持ってないから、買えないよ」
「ポワン様が選んだ戦士様なんだろ。だったら、ここにあるもので気に入ったのは持ってきな。わしの作った防具がポワン様の命に役立つんだったら、カネなんて大した価値じゃねえ」
「ほんとうに? ほんとにいいの?」
「坊主は悪いヤツをやっつけてくれるんだろ?」
「うん、春風のフルートってやつを取り返すって、さっき約束してきたんだ」
「じゃあその約束にわしの作った防具を役立ててくれ」
リュカはドワーフの言葉に甘え、リュカはまず青銅の盾を手に取った。手にした瞬間、重みがずしろと両腕に伝わってきたが、持ち手をしっかりと握り、左肩に乗せるようにして構えると、リュカにも装備する事ができた。初めこそ重く感じたが、持ち方さえコツを掴めば、子供のリュカにでも十分装備できる防具のようだ。
「人間はこの冬ってのが寒いんだろ? じゃあ、こいつも持っていきなよ」
ドワーフの店主はそう言いながら毛皮のフードを前に差し出してきた。外側は動物のなめし皮で外からの寒い空気を通さず、内側はふわふわの毛がみっしりとついており、被るだけでほのかに温かい。耳まですっぽり覆われるが、不思議と外の音が聞こえづらくなるということもなかった。
「おじさん、前来た時はそんなのなかったじゃない」
「お前さんたち妖精には必要ないじゃろうが、こんなものは。どうせ寒さなんぞ感じちゃおらんのだから」
「でもデザインがかわいいじゃない。今度私たちにも売ってよ」
「そんなに大した量を作っておるわけじゃあない。あとはわしらの分だけしかないんじゃ」
「なーんだ、そうなの」
ベラはがっかりした様子でリュカが被る毛皮のフードをわしわしと触った。外側から触られると、内側の毛がリュカの両頬を包み込んで、リュカはその温かさに気持ち良さそうに目を瞑った。
「リュカ、なかなかサマになってきたわね。じゃあ早速外に出ましょうか」
ベラが張り切った調子でそう言った直後、リュカとプックルは同時に大あくびをした。そんな一人と一匹を見て、ベラは思わず肩を落とす。
「ちょっと、しっかりしてね。これから大きな任務を果たさなきゃいけないって時に」
ベラに叱られると、リュカはバツが悪そうに俯いて、足元のプックルと目を合わせた。プックルなどはそんな雰囲気はお構いなしで、目を瞑りかけては開け、瞑りかけては開け、を繰り返している。今にもその場で眠ってしまいそうだ。
「仕方ないわね。少し村の宿で横になったらいいわ。休んでから行きましょ」
「うん、ごめんね、ベラ」
「いいのよ、リュカもプックルもまだ子供だものね」
いつもだったら子供扱いされることを嫌うリュカだが、この時は眠気が勝っており、ベラのその言葉にも素直に頷いてしまった。
宿に着くと、ベラが宿の店員に話をつけてくれたようで、リュカはプックルと一緒にすぐに部屋へと案内された。部屋とは言っても、簡単に間を葉の柵で区切られただけの空間だ。そこに綿のベッドが置かれており、その横に置かれている小さなテーブルには一輪の白い花の枝が差し込まれているガラス製の水差しがあった。ベラがグラスに水を注ぎ、リュカに手渡すと、リュカはその水を何も考えずに少し口にした。花の蜜が溶け込んでいるのか、ほんのり甘い味がした。
「ベラ、また後でね」
「リュカたちが起きたら出発よ。とりあえずゆっくり休んで」
「うん……」
リュカは夢現のまま返事をすると、すぐに寝入ってしまった。少しだけ口にした甘い水が尚更リュカの眠気を増長させていたのかもしれない。プックルもリュカの隣で横になると、そのまますうすうと眠りに就いた。
寝返りを打ったリュカは、プックルの「にゃっ」と言う叫びに近い声で目が覚めた。寝返りと同時に、プックルを押しつぶしてしまったらしい。飛びのいたプックルがベッドから降りると、リュカも徐々に視界を慣らしていく。
「あれ?」
パリッとした白い綿のシーツの感触があった。視界には部屋の窓があり、水色の空が広がっている。まだこの村に着いてからそう経っていないが、それでもある程度は見慣れたこの景色。
サンタローズの村にいた。
「ベラ、どこ?」
リュカはまだ開かない目を擦りながら、辺りをキョロキョロと見渡した。ベラの姿はどこにもなく、代わりに椅子に座り机の上に本を広げているパパスの姿があった。目覚めた途端に寝言のように言葉を呟くリュカに、パパスは少し首を傾げた。
「どうした、リュカ」
「お父さん、ベラ、知らない?」
「ベラ? 誰のことだ?」
「ようせいだよ。さっきまでようせいの村にいたのに、ぼく、どうしてここにいるんだろ」
「?? 何を言ってるんだ、リュカ」
「ねぇ、プックル、ベラはどこにいったのかなぁ」
リュカと同じように、プックルも目覚めた瞬間に変わっている景色に驚いた様子で、部屋中を嗅ぎまわっている。何か怪しいものがあるのかないのか、尻尾を立て気味に、多少緊張した様子で部屋を歩き回る。どこを嗅ぎ回っても、妖精たちはどこにもいないようだ。
リュカがベッドの下を覗き込んだり、机の隙間を目を細めて見てみたり、窓を開けて外の様子を見渡してみたりするのを、パパスは不思議な気持ちで見ていたが、やがてふっと笑みをこぼした。
「リュカ、寝ぼけているな」
半分寝ぼけ眼のまま動き回るリュカを見て、つい噴出してしまった。普段あまり寝起きの良くないリュカが、目覚めた瞬間にベッドを飛び降り、あちこち動き回っている姿を見て、パパスはおかしくなってしまった。一体どんな夢を見ていたのか。
「寝ぼけてないよ、お父さん。ホントだよ、ようせいさんの村にさっきまでいたんだよ」
「きっと夢でも見ていたんだろう」
「夢・・・・・・そうなのかな」
父にそう言われると、リュカは途端に自信がなくなってしまった。実際に妖精の村で購入した青銅の盾も毛皮のフードも手元にない。ベラの姿も見えない。妖精の村の人たちとの会話も、今ではふわふわとうわべだけの感触しか残っておらず、まるで現実味を帯びていない。
そう思い始めていたら、ベッドを降りていたプックルが突然、階段を駆け下りていった。リュカが呆気に取られてぽかんと口を開けていると、パパスが席を立ちながら言う。
「父さんはこれからちょっと出かけてくるが、リュカはあの猫と留守番をしていてくれ」
「うん」
そう返事をしたきり心ここにあらずのリュカを、パパスは不思議そうに見つめた。よっぽど記憶に残るような夢でも見たのだろうか。しかし他に特におかしな様子もないようだと判断し、パパスは先程プックルが駆け下りていった階段をゆっくりと下りていった。
パパスが出かけた後、リュカはプックルを追うようにベッドを下り、階段を駆け下りる。先程まで眠っていたせいか、手も足も温まっていたが、やはり妖精の村での雪の感触が頬に残っている。青銅の盾もこの手で持ち、重さを実感したはずだ。毛皮のフードの温かさも頬が覚えている。
1階の食事をする部屋に、プックルの姿はなかった。サンチョに教えてもらった地下への階段が細く開いているのが見える。プックルはその隙間から地下へと走っていったのだろう。サンチョの姿もなく、どうやら買い物に出かけているようだった。
リュカもプックルの後を追うように、再び地下の部屋へと足を伸ばしていった。
相変わらず光が差し込まず、暗い。暗がりの中で、プックルが歩いている気配がある。リュカはまだ目の利かない暗闇に目を凝らしながら、地下室を進んでいく。
先程まで妖精の村に続く光る階段があった場所に、リュカが足を置いた瞬間、再び足元から光り輝き始めた。光の粒子が空気中に零れ、リュカとプックルを包み込まんばかりに、光が拡がる。
プックルにもその光が見えるようで、今度は臆せずに自ら光の中に飛び込んで行った。プックルの勇猛さに慌てたリュカは、急いで自分も光の中へと駆け出した。