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	<description>あなたの心に、ＤＱを。</description>
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		<title>本編を更新しました。「神の褒美」</title>
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		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Tue, 24 Mar 2026 01:02:04 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[日記]]></category>
		<category><![CDATA[更新]]></category>
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					<description><![CDATA[桜がちらほらと咲き始め、今日はまた暖かいので更に桜が咲きそうですね。春です。なんだか無条件に心地も良くなります。いいですね。 さて、本編を更新しました。 神の褒美 ここでのお話 ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>桜がちらほらと咲き始め、今日はまた暖かいので更に桜が咲きそうですね。春です。なんだか無条件に心地も良くなります。いいですね。<br />
さて、本編を更新しました。</p>
<p><a href="https://like-a-wind.com/text46-4/">神の褒美</a><br />
ここでのお話は、一体どうしたものかと頭を悩ませましたが、夢あるお話に仕上がったように思います。ドラクエがゲームという本体に甘んじて書かせてもらいました。現実はきっとこうはいかないのでしょうが、この世界の神さまというのはあの方なので……ということで、明るい感じでお話を書いてみました。異論、反論、様々ございましょうが、まあ、一つのお話として受け止めていただければと思っています。</p>
]]></content:encoded>
					
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		<title>神の褒美</title>
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		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Tue, 24 Mar 2026 00:50:09 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[DQ5（長編）]]></category>
		<category><![CDATA[青年時代（６）]]></category>
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					<description><![CDATA[昼の陽光は明るく、竜神の背に乗るリュカたちを心地よく照らしている。青空はどこまでも広がり、南の海の方へと目を向ければ、そこにぽつぽつと白い雲が浮かぶ景色が見えるだけだ。リュカた ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>昼の陽光は明るく、竜神の背に乗るリュカたちを心地よく照らしている。青空はどこまでも広がり、南の海の方へと目を向ければ、そこにぽつぽつと白い雲が浮かぶ景色が見えるだけだ。リュカたちが魔界で戦っている最中、この地一帯が暗雲に包まれ、世界は間もなく完全なる闇に覆われかけていた余韻はどこにも見当たらない。リュカたちを乗せる竜神は広く晴れ晴れとしている世界の景色を琥珀色の目に映しながら、その心は非常に安らかに凪いでいた。<br />
ラインハットを後にしてすぐ、リュカの視線は自然とある方角へと向けられていた。幼い頃、父に連れられプックルと共にラインハットへ向かうべくこの広い平原を歩いた。その平原が今リュカたちの眼下に広がり、大きな川を挟んで向こう、懐かしきサンタローズの村がある。竜神の背に乗り移動すると、世界はこれほどに狭いものかと、あっという間に見えた山深い村の景色にリュカは思わずその景色に見入る。<br />
竜神が突然そこで旋回をした。ポピーが小さく悲鳴を上げてリュカにつかまる。ピエールもバランスを崩しそうになり、転がりかけたところをアンクルに支えられた。今リュカは、ずっと手にしていたドラゴンの杖を持っていない。杖は魔界の奥深くで彼の手を離れ、今も恐らく魔界の奥底にあるままとなっているに違いない。以前にも竜神の背に乗り、空から世界を見たことがあったが、その際にはドラゴンの杖を通じて竜神とも意思疎通を図ることができた。しかし今は竜神の意のままに空を飛び、リュカたちにもその行先は分からないのだった。<br />
しかしこの場で竜神が旋回をしたということは恐らく、とリュカはサンタローズの村に寄ることを期待する。ただ、この山がちの地形に竜神が降り立てるような広い場所がないようだと、リュカは遥か下方のまだ小さな地図ほどに見えるサンタローズの村をじっと見つめる。<br />
意思の疎通が図れたわけではない。しかしそれはただリュカが竜神の意図を読めないだけで、竜神は当然のようにリュカの心情に気づいている。伊達に神様をしているわけではないと言わんばかりに、竜神はその場で垂直方向に一回転をすると、ポピーだけではなく皆が悲鳴を上げる中、世界の救世主には特別だというように神としての力をほんのわずかに放った。途端に光に包まれたリュカたちには、一体何が起こっているのか分からず、ただその身体は竜神の背を離れていく。</p>
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<p>祈りを捧げるシスターが両手を合わせる、村の小さな教会の遥か上方から、高らかな竜の鳴き声が響いた。目を閉じていたシスターはその声に静かに目を開ける。ちょうど時は昼頃。一日に二度の食事で事足りている彼女はこの後も本来ならば村の復興をと、数少ない村人たちと力を合わせて手を働かせていた。<br />
胸には、数カ月前に過労と心労に倒れた神父から譲り受けた首飾りが光っている。ずっと村の再生を共に夢見ていた恩人でもある神父が亡くなってしまったことに、彼女はこらえきれない悲しみを抱きつつも前を向き、それでも神は人間を見捨てはしないのだと信じ続けた。神への信仰が彼女の心のよりどころであったことは確かだ。しかし、彼女のその役目は唐突に終わってしまったのだ。<br />
神の奇跡としか言いようのない出来事が、このサンタローズの村に起こっていた。少し前まで村の上空、のみならず、その暗雲は遥かにどこまでにでも広がっているような景色があった。しかしその暗雲の景色はある時、一度に吹き飛んでしまった。そして神への祈りを欠かさず、サンタローズの村はいつか必ず復興を遂げるのだと、日々の仕事は小さいながらも手を動かしていたシスターの目の前に、かつてこの村に住んでいた者たちが次々と姿を現したのだ。それは初め、夢だと思った。しかしかつて村に住んでいた者たちは皆、相応の年月を経て、年を重ねた姿となっていた。武器屋を営んでいたパパスの喧嘩友だちを自称する男も、幼いリュカが村のあちこちを動き回るのを静かに見守っていた宿屋の主人も、パパスを相手に自ら酒を口にしてしまっていた酒場のマスターも、他にも村に暮らしていた人々が村に戻ってくる光景を目にして、シスターはしばし信じられない思いでただ立ち尽くしていた。戻ってきた者たちは皆が皆、己の意思でこの村に戻ってきたのだと話す。しかしどうやって戻ってきたのかは誰も分からないという、不思議としか言いようのない現象がそこにあった。彼らの話を聞いてシスターは、やはりこれは夢なのだと思わざるを得なかった。しかしたとえ夢でも構わないと思った。人間は夢を見るものだ。夢なら夢で、この世界を目指して現実を生きていけばいいと、彼女は常と変わらず神に祈りを捧げながら夢と現実に向き合うことを覚悟した。<br />
彼女の夢は、サンタローズの村をあの時の平和の姿に戻すこと。それは徐々に再生していくしかないものだと当然理解していた。しかしそれさえも、夢は大きく覆してくれた。一晩だ。寝て、起きたら、村の景色は一変。村を包んでいた毒の沼地の臭気が感じられず、村に漂う空気は日に晒され、清らかな川の上を心地よく滑り、空気を吸い込んだ肺をまるで傷めない。シスターは自分があの頃の少女に戻ったかのような錯覚を覚えた。荒れ果てていた村の景色は、彼女が幼い少女だった頃の景色そのままのものに戻り、かつての惨劇など何もなかったかのような平和な光景を見せていた。<br />
気づけば、長閑な村の風景を演出するように、すっかり昔の景色のままの村には家々が建ち、臭気を上げていたはずの毒の沼地は消え去り、そこにはふかふかに耕された畑が蘇っている。夢にしては出来すぎている。幼い自分がここまで村の景色を細かく覚えて、夢に再現しているのだろうかと思うと、それもまた不可能なのではないかと感じる。教会が頼りだと訪ねてくる村人たちと話をすれば、彼らが知らぬところで過ごした年月を感じることができる。時は、決して止まっていない。動き続ける時の中を生きてきたのであれば、この信じがたい現象は確かに現実に起こっていることなのだと認めることができる。<br />
教会の中で祈りを捧げていても、高らかに聞こえた竜の鳴き声に、シスターの口元に笑みが浮かび、小さな皺が刻まれる。外に出ている村人たちは、一様に晴れ渡る空を見上げているのだろう。静かな村に、人々の明るい歓声のような声が聞こえる。彼女は今、神の奇跡というものを当たり前のように信じている。きっとこの村の奇跡は、神の御慈悲による奇跡に違いないのだと、そうでなければ説明がつかないものだと、もう彼女の中でサンタローズの復興した景色は夢ではなく現実のものとして受け止められている。<br />
魔界の悪しき王は滅びたと、彼女は祈る際に両手を当てる亡き神父の首飾りを通じて神の声を聞いた。今まさに、その竜神がサンタローズの村の遥か上空を飛んでいるに違いない。もう一つの太陽かと見まごうほどに輝かしい竜神のその背に、かつてこの村に暮らしていた小さな男の子がいるのだろう。帰ってきた、彼が。神の奇跡もさることながら、一体あの小さな男の子だった彼が起こした奇跡はどれほどのものかと、彼女はまるでいつもと変わらない様子で神への感謝の言葉と共に祈りを捧げる。</p>
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<p>唐突に目の前に現れたのは、一つの木の扉だった。リュカたちが並び立つのは明るい日に照らされた暖かな外で、開けた視界に映ったのは古びた木造の教会だ。それはこの村で唯一、惨禍を逃れた建物だった。いつから建つ建物なのかも知らず、しかしリュカは幼い時にこの近くにまで走ってきて遊んでいたことを覚えている。村人たちは皆、幼いリュカに優しかった。それというのも、この村に拠点を構えた父パパスの人望のなせる業でもあったに違いない。この村でリュカは、リュカ個人であるというよりも、パパスの子であることでこの村で安全に暮らせていたのだろう。<br />
「リュカ、ここは……」<br />
ビアンカが辺りをキョロキョロと見渡しながら、多少困惑しつつリュカに呼びかける。ビアンカはこのサンタローズという村がラインハットの襲撃を受け、ほとんど滅ぼされてしまった時の景色で、記憶が留められている。ましてやここを訪れるのはそれ以来のことで、彼女は自分の目に映る景色を初めて見るものとして捉え始めている。しかしそれはリュカも似たような状況だった。<br />
ラインハットの援けによりサンタローズの村の復興は進んでいることを知っていたリュカも、まるで過去に少年であった彼が暮らしていた時と同じ村の景色が広がっていることに、驚かないではいられなかった。夢でも見ているような気分で、あまりに平和で、幼い頃の記憶そのものの村の景色に、リュカもまた驚きの表情でしばしその場に立ち尽くしていた。<br />
「あれ？　マスタードラゴンは上に飛んでるよ」<br />
「私たち、どうやってここに来たのかしら……？」<br />
ティミーとポピーもこの場所には足を踏み入れたことがない。かつてリュカが父パパスと、従者サンチョと共に暮らしていた村の話をしたことはあったかも知れない。しかしそれがこの場所だとは当然気づかず、見知らぬ村の景色にただ訳も分からない様子で辺りを見渡すだけだ。<br />
その時、目の前の教会の扉がきしむ音を立てて開き、中から一人のシスターが姿を現した。村人たちが教会を訪れることは珍しいことではない。しかし目の前に立つ四人は明らかに旅人であり、シスターの視線がリュカと出会うと、彼女は息を吞んでしばしその顔に見入った。<br />
サンタローズの村の景色は、彼らが少年と少女であった頃のように、美しく輝いている。日に晒された緑は力強くも温かく、耳には近くを流れる川のせせらぎの音が心地よい。健康的な作物を育てる土壌があり、よく耕された畑からは良い土の匂いが運ばれてくる。教会の周りに咲く花々はどれも瑞々しく、そこが荒れ果てていた地であったことなど忘れ去っているかのようだ。子供の頃のあの景色であるにも関わらず、リュカの前に立つのはこの村で苦労を重ねてきたであろう一人の立派なシスターであり、シスターの前に立つのは幼い頃から想像も及ばぬほどの壮絶な人生を送ってきた遠い国の王であることに違いはない。夢のような現実があるとすれば、彼らが今目の前に見ている光景そのものなのだろう。<br />
「ようこそ、お帰りなさい。サンタローズの村に」<br />
落ち着いたシスターの声に、リュカの心もまた落ち着いた。サンタローズの村はあの頃の景色を取り戻している。つい数か月前にリュカはこの村を訪れている。その際にはまだ村の景色はあの時の惨状をあちこちに留めており、果たしてこの村は元の姿に戻るのだろうかと半ば諦念に近い思いがリュカの胸にはあった。一度、壊されてしまったものは完全には元には戻らない。たとえ見た目に元に戻ったとしても、それは元あったものとは異なるものだ。村が壊れた景色を知っているリュカやシスターの心の中にはいつまでもその記憶が残るのだ。それだけでかつての平和なサンタローズの村は、完全に元の姿に戻ることはない。<br />
しかし今は嘘のような平和な村の景色が周囲見渡す限りに在り、その温もり溢れる景色にリュカもシスターも、その心は無垢な童心の頃へと帰る。彼らの頭上、遥か上を、静かに緩やかに旋回を続ける竜神が見守っている。<br />
「リュカさん。あなたがパパスさんとこの村から出かけて行った日。あの日のことをつい昨日のことのように覚えています」<br />
見た目にはすっかり元の景色を取り戻したサンタローズの村に立っていれば、シスターの言葉をそのまま受け止めることができると、リュカは小さく頷いた。リュカもシスター同様、決してこの村の景色を事細かく覚えているわけではない。しかし見渡す景色のどこを切り取っても、リュカの記憶の中の景色のどれかと一致するのは、無意識にも幼い頃の記憶が残っているためなのだろう。何故それほどに村の景色を覚えているのか。それはきっと、あの時が最も楽しかったからに違いない。すぐ隣で、妻が小さく鼻をすする音が聞こえた。<br />
「まさかあの日以来、二人とも帰らなくなるなど誰が思ったでしょうか……」<br />
シスターの少女の頃の記憶の中でも、旅人パパスの姿は憧れの大人の男性の姿だったのだろう。パパスは長い航海の旅を終え、約二年ぶりにサンタローズの村へ、息子のリュカと共に戻ってきたのだ。そして数か月滞在しただけですぐに、ラインハットへと向かうこととなった。誰もが知り合いのようなこの小さな村で、二年ぶりに帰郷した父子の旅人を温かく迎え入れてくれたのは、この村でずっとその父子を待ち続けていた従者の存在も大きかった。村人たちは皆が皆、他所からやってきた旅人を受け入れ、惨劇の後でさえもこうして信じ続けてくれている。改めて考えてみると、幼い頃には何も気づかなかったこれらのことは、サンタローズの村人の温かさがあって初めて生まれたことなのだと、それを代表するかのように成長した少女の姿に過去の村の姿を知る。<br />
「しかし今あなた方はこうして帰ってきてくれました」<br />
シスターとしてサンタローズの村の教会で立派に日々務めを果たしている彼女だが、言葉を口にする音に、シスターという立場を超えた、突き抜けたような明るい喜びの音が表れ始める。今や、リュカを見つめる目はまるで少女の頃のような純粋な驚きや喜びに満ち、目には内から滲み出るような光が表れ、白い歯を見せてにっこりと笑っている。目に湛える涙の雰囲気は、村の悲劇を乗り越え、あの頃の明るい村の景色が戻ってきた嬉しさに明るくなる。<br />
「しかも世界平和というお土産まで持って……。」<br />
生まれも育ちもサンタローズの彼女にとっては、村が元気を取り戻すことに比べて、世界平和はお土産に収まってしまうのだと、リュカは思わず笑顔になった。人にとっての幸せとはそういうものだし、それで構わない。隣にいる家族が、友人が、仲間が笑ってくれていれば、それが人の最たる幸せというものだ。リュカ自身もまた、そのために今まで戦ってきたのだ。この世界を救いたいと初めからそんな大層なことを考えていたわけではないし、究極的にはそれを考えたことはないのかも知れない。しかし大事な者たちを守るためには、大事な者たちに笑って過ごしてほしいと思えば、己には恐らくこの道しか選ぶことはできなかった。それが運命、宿命と言われるのなら、それを否定することもできないが、紛れもなくリュカは己の行く道は己が決めたのだと思うことにしている。そうでなければ、無責任ということになってしまう。<br />
シスターが突然、組み合わせていた両手をぐっと握りこみ、両目をきつく閉じ、「ほんっとうにうれしいっ！」と叫ぶように言った。その一言に、彼女のこれまでの長年の苦労が報われたのだと、リュカも一緒に笑顔になって喜んだ。これまで彼女はどれだけの絶望に追いやられていたのか。しかし彼女もまたこの村で、絶対に諦めてなるものかと歯を食いしばり、村の生き残りの者と共に支えあって生きてきた。その彼女の苦労がここでこうして報われたのなら、リュカとしてもこれほどうれしいことはない。<br />
―わーい、うれしいなあっと！　リュカが帰ってきた！　わーい、わーい！―<br />
あの時の少女が飛び跳ねて喜んでいる姿が、リュカには見えたような気がした。リュカにとっても取り戻せない時間は、シスターとなった彼女にとっても取り戻せない時間だ。しかしこれからの時間を、恐らく神様のご褒美でもあるサンタローズの復活と共に彼女が歩んでいけるのなら、彼女が背負ってきた苦労はここでようやく報われることになるだろう。リュカにはそれが本当にうれしいことだった。<br />
「あ、あら、私ったら取り乱してしまいました……」<br />
赤面する彼女を見て、リュカはシスターが本当に目の前で飛び跳ねて喜んでいたのだと気づいた。<br />
「ううん！　シスターが喜んでくれて、私もうれしい！」<br />
「そうだよ！　ボクたち、そのために頑張ったんだもん！　みんなが喜んでくれれば、それが一番うれしいよ！」<br />
目の前でここまで感情露わに喜びを表すシスターの姿を見て、ポピーもティミーも一緒になって喜んだ。手を取り合い、ぐるぐると回り出す姿を見れば、やはり成長してシスターとなった彼女は少女に戻ったように見えてしまう。それはきっと、彼女がまだ若き娘であった頃の時間を失ってしまったからなのかもしれない。少女の頃に辛く悲しい現実に当たり、彼女はまだ成年前の娘であるにも関わらず、ただの子供のままではいられなくなった。年相応の子供のままでいては、ただの大人の足手まといになってしまうからだ。<br />
恐らくリュカよりも十ほども年上の彼女だが、その表情はまるで彼女がまだ一人の若き娘であった頃を思い出させるように幼く、無垢なものだった。温かく、命ある村の景色に包まれ、サンタローズの村でのこれからの生活が輝くばかりのものとなった彼女の未来を共に喜ぶように、リュカも手を差し出し、彼女と固く握手を交わした。</p>
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<p>「ウソみたい……。私、夢を見てるのかしら。村がすっかり元通りだわ」<br />
事情を話し、教会を去る時も、シスターは明るくリュカたちに手を振り、そして教会の中へと再び入っていった。リュカの帰る場所はここではない。彼は家族と仲間と共に、ここから遠い地にあるグランバニアへと戻らねばならない。サンタローズの景色を目にすれば、リュカはここが自分の帰るべき場所なのではと錯覚を起こしかけるが、隣を歩く大人の姿をしたビアンカに、双子の子供たちがいれば、それはただ思い出に浸っているだけなのだと自覚できる。<br />
「世界が平和になったばかりなのに、いつの間に修復したのかしら？」<br />
「不思議だね」<br />
リュカもビアンカの言葉に相槌を打つように返事をする。実際、今のサンタローズの景色のあり様は、ありえない現象なのだ。リュカは幾度かこの村を訪れ、廃墟となってしまっていた村の景色を目にしている。ビアンカもまた、実はサンタローズの村がラインハットの襲撃を受けたという話を聞いた直後に、一人勝手にアルカパの町を飛び出し、村の惨状を目にしたことがあった。その時の衝撃が今も胸に残っているために、彼女はすっかり元通りとなってしまったような村の景色に、夢でも見ているようなふわふわと浮ついた気分で村の中を歩いている。<br />
「もしかしたら私たちへのプレゼントに、神様がチカラを貸してくださったのかもね」<br />
「きっとそうだよ」<br />
それがどこの、何の神様などという話をリュカはしなかった。今も、この村の遥か上空をゆるやかに竜神が飛んでいる。たとえばあの竜神の力でサンタローズの村がこうして昔の景色を取り戻したとしても、リュカは特別礼を述べるつもりはない。竜神もまた、リュカに礼を言ってもらえるとも思っていないだろう。これが竜神の力によるものなのかどうかを確かめるつもりもない。竜神もまた恩着せがましくやってやったという態度をとることもないだろう。ただ、サンタローズの村がこうして昔の平和な景色を取り戻したという現実があり、そこには確かにその年月を経たかつての村人たちが戻り、この村と共に生きていこうとしているという事実がある、それだけで良いとリュカは空を見上げて竜神の姿を目に確かめることもしなかった。<br />
リュカの記憶では、このサンタローズの村で過ごしたのはほんの数か月の間だけのことだ。しかし彼はこの村の地理を不思議なほどにしっかりと覚えている。それほど広い村ではなく、幼いリュカでも一日あれば村全体を回れるほどにこじんまりとしているのだ。彼は外での父との旅とは異なり、この村では一人で自由に動き回れることができたために、その時の楽しくわくわくした思いと共に様々覚えていたに違いなかった。<br />
それはビアンカも同じだった。ビアンカは隣町アルカパに住む少女でありながらも、このサンタローズの景色はきらきらした思い出と共に脳裏に、また胸の中に残されていた。教会を出て少し歩くと、近くをゆっくりと散歩をする一人の老人と出会った。横には村の若者が付き添ってはいるものの、杖を手に歩く老人はさほど付き添いも必要ではないほどにしっかりとした足取りを見せている。空から照る陽光が気持ち良いというように青空を見上げ、杖を支えに背筋を伸ばす。その老人の姿を見て、リュカは思わず立ち止まり、信じられないという思いで口をあんぐりと開ける。<br />
「あっ、あなたはいつぞやの……」<br />
歩く老人に付き添う若者が、リュカを見て目を丸くし、声をかける。以前リュカは、ヘンリーとデール、そしてサンチョと共にこの村を訪れ、目の前の若者とも話をしたことがあった。その時、若者は寝たきりとなっていた老人の世話をしていたが、まさかその時の老人が今健やかに歩いているとは思えず、リュカは返事もままならないまま目を瞬き、老人を見つめている。<br />
「僕も驚いているんですよ！　おじいさん、急に元気になって歩き出すようになって……一体何が何だか……」<br />
そう話す若者は、困惑よりも喜びを前面に出し、その表情はただにこやかなものだった。<br />
「かと思ったら、村も景色が変わっちまって……これが神のゴカゴってやつなんですかね？」<br />
「そうそう、その、神のゴカゴってやつだよ、きっと。でも……良かったね」<br />
「はい！」<br />
明るく返事の出来る若者を見て、リュカはこの村には特にこのような若い力が必要だろうと思った。村が元の姿に戻った奇跡があったとして、そこで終わってはいけない。人の命というのはこれからも言わば永遠に繋がっていくものだ。<br />
「おお、旅人さんかの？」<br />
老人がリュカたちを見つめる目に、強く生きる力を感じる。光がある。あの時の寝たきりとなっていた老人と同一人物とは思えない力強さを感じるが、間違いなくあの時の老人だった。杖を頼りに歩く姿を見せるものの、その背筋は丸くなってはおらず、その内杖も必要ではなくなるのではないかと思うほどに彼は自分の足で地に立っている。<br />
「ふむ……どこかで見かけたことがあるような……」<br />
顎の白髭を左手で触りながら、老人はじっくりとリュカを見つめる。今、彼の頭の中には彼がこれまで経験してきた長い歴史の場面場面が次々と映し出されている。それは目にもとまらぬ速さで変化し、老人の思考とは別に移り変わる。しかしそれが唐突に、一つの場面で止まる。老人の脳裏に止まって映された景色には、かつてこの村に住居を構え、村人たちからも慕われていた屈強な戦士の姿が現れている。旅に出ていることが多かったために村にいることが珍しいほどだったが、寧ろそれが故にあの戦士の存在は目立ち、老人にとっても大きなものとなった。<br />
夢うつつに、あの時の戦士は異国の王だったと、老人は知らされた。驚くことはなかった。ただ納得するばかりの過去の事実に、老人はあの時の戦士パパスがどこか威風堂々としており、村人たちの信頼も間もなく厚くなったことをも思い出す。村の奥にある洞窟に足を踏み入れる許可を与えられたのも、老人がパパスという男を信じることができたからだ。その後、村は残酷な運命を辿ることとなったが、老人は決してパパスという男を疑わなかった。妻を探し旅を続けているという男の言葉に嘘はないと感じていた。ましてや彼にはまだ幼い子があった。幼子を連れる旅を続ける理由として、彼が話す妻を探す旅というのは、彼の真剣な表情も含めどこにも嘘は見当たらなかった。<br />
その時信じた男の面影を、老人は目の前に立つ青年に見出した。青年はどこか優しげであり、あの時の屈強な戦士を彷彿とさせる雰囲気は感じられないながらも、その目に宿る意思の強さたるや、寧ろあの時の戦士を超えているのではないかと思えてくるほどだった。落ち着き、穏やかな顔つきを見せながらも、青年の精神は逞しく、そして揺るぎなくそこにあるのだと感じることができた。<br />
「昔、この村にいたパパス殿は……」<br />
老人の言葉は非常にはっきりとしており、誰もが白髭に覆われた口からパパスの名が出たことを聞いた。リュカの両目が僅かに見開かれる。<br />
「なんと、グランバニアという国の王様じゃったそうじゃ。わしゃ、もうびっくりじゃわい！」<br />
老人がパパスを思い出したのは、間違いなくリュカの表情にあの頃のパパスを見出したからだった。しかし老人自身がそれには気づかず、ただにこやかに笑ってそう話しただけだった。老人は恐らく、ほとんど寝たきりとなっていた状態の時にも、人の話す言葉は聞こえており、村のシスターなどからかつてのパパスの素性などを耳にしていたのかもしれない。それとも、これもまた“神のゴカゴ”なる妙な力が働いた結果に起こったことなのかも知れない。その経緯などリュカには分からないことだが、老人の隣でリュカと同じように驚いている若者の姿を見ても、この村にも新たな風が吹いているのだということを感じ取ることができた。この場では誰もが、笑顔を見せている。この村の惨状を目にし、記憶にも残っているリュカやビアンカからすれば、サンタローズの村がこうして昔の姿を取り戻し、明るい日に照らされ、村のどこからも生きた土の匂いが漂うだけで目頭を熱くし、思わず笑顔になる。<br />
「おじいちゃん、この村では身分をかくして暮らしてたんだね。それって、すごくかっこいいかも！」<br />
「わたしもこの村に住んでみたいな……。だってなんだかやさしい感じがするの」<br />
ティミーとポピーの言葉に、老人はただただにこにこと笑顔を向けるだけで、隣に立つ若者は首を少し傾げながらも合わせるようににこやかに子供たちを見ている。ここで細かな話をすれば、この若者などはひっくり返ってしまうかもしれないと、リュカは「また来ますね」と言い残し、健康的な老人と若者に手を振ってその場を後にした。<br />
「ねえ、お父さん、どうしてボクたちをここに連れてきてくれなかったの？」<br />
「ラインハットからそんなに遠くないところよね。来ようと思えば来られたのに、どうして？」<br />
リュカは旅の間、子供たちをこのサンタローズの村に連れてくることはしなかった。子供たちの心に、無用な傷を作りたくはなかったのだ。ただでさえ彼ら二人は生まれた時から父も母も知らず、ましてや勇者などという宿命まで負わされてしまっていた。どこの親が我が子を辛い目に遭わせたいと思うのだろうか。要らぬ痛みを負わせることなど望まぬリュカが、ティミーとポピーをこの場に連れてこなかったのは当然のことだった。<br />
「お父さんも、おじい様のことを思い出すから、ちょっと寂しくなっちゃうんじゃないかしら？　ね」<br />
ビアンカの言葉には、彼女自身の思いも含まれているのだとリュカは感じた。こうして昔の景色を不思議と取り戻したサンタローズの村であっても、一度は滅ぼされかけてしまったサンタローズを知っている者であれば、彼らの心がリセットされることまでにはならない。この村は確かにラインハットの襲撃を受け、深い深い傷を負ったのだ。その傷があるだけに、あの頃の平和な時間を思い出すと、戻れないという現実の辛さ、寂しさに行き当たってしまう。<br />
「そうだね……そんなところかもね」<br />
ビアンカの寄り添う言葉に、リュカは甘えて乗じることにした。彼女の言葉が全くの嘘というわけではない。寧ろそこにはリュカの本心がある。確かに、この村に来ればあの時の思い出が胸に沸き、決して戻れないという一抹の寂しさを覚えてしまう。それが自分のことのように分かり、想像できるから、ビアンカはそうやって子供たちにささやかに説明したのだ。<br />
「……そっか。あの、ごめんなさい」<br />
ティミーが落ち込んだように、反省するように小さな声で謝るその反対側で、ポピーが静かにリュカの手を取り、手を繋いだ。その仕草は、父の寂しさを慰めるような優しさでもあり、彼女自身が感じる寂しさを紛らせるものでもあった。父が寂しい思いをしていると思うと、それだけで自身も寂しさを感じてきてしまうのが、ポピーという利発で心優しい娘なのだとリュカは彼女を自らの誇りにも感じている。<br />
「あはは、大丈夫だよ。来てみたら意外と……寂しくもないもんだね」<br />
「ふふ、それなら良かったわ。……あ、じゃあちょっと行ってみましょうよ」<br />
「どこへ？」<br />
「そんなの、決まってるじゃない」<br />
そう言いながらビアンカが目を向ける方向には、ぽつぽつと立つ村の民家がある。その景色が、リュカが幼い時に見たものと全く同じであるかどうかはもはや分からない。しかしその中に一つ、リュカにもはっきりとその姿を覚えている家がある。この村では珍しい二階建てであるために、その家は遠くからでも眺めることができる。当時とまるで同じ姿だと、リュカは感じた。つい数か月前にこの村を訪れた時にはもちろんその家はなく、ただ家の近くにはリンゴの木が立つだけだった。まるで夢の世界にいるようだと感じるその景色を見て、リュカはやはりこの村には“神のゴカゴ”が働き、村自体が当時の姿を思い出すように、あの頃の平和なサンタローズの姿を取り戻したのだと考えざるを得なかった。<br />
季節は夏を迎えているのか、青々とした木々の景色に、復活した村の強さまでをも感じる。耳に聞こえる、村の中を流れる川の音が涼しい。妻となったビアンカと、心優しく元気な二人の子供たちと、平和な姿を取り戻したサンタローズの村の中を歩いているだけで、リュカの心はふわふわと浮ついた状態となっていた。夢なら覚めるなと願うが、感じる夏の暑さも、耳に聞こえる川の涼やかな音も、健康的な土の匂いもすべては本物だ。近づいてくるかつて住んでいた家がどこか小さく見える違いはあるが、それだけだった。<br />
「ここ、すごく懐かしいわ……。ねえ、リュカ、覚えてる？」<br />
二階建ての家の脇の道を歩きながら、ビアンカは独り言のようにそうリュカに問いかける。ビアンカの隣でリュカも家の二階の窓を見上げる。あの二階の部屋でビアンカと本を読んだ記憶がおぼろげに蘇ってくる。当時、自分は本を読むことはできなかったかと、リュカの記憶は少々あやふやだ。蘇る記憶には、ビアンカが得意げに指先に火を生み出す景色が浮かび、それに続いてリュカ自身が初めて回復呪文を成功させたことを思い出す。父の喜んだ顔が自分よりも下に見える。宙にふわりと浮いているような感覚。笑顔の父に高く抱き上げられ、父が心底喜んでくれていたのだと、今になってそれがリュカには分かったような気がした。<br />
リュカが無言で立つその横顔を見つめながら、ビアンカははっと気づいたように言葉を続けた。<br />
「……って、ううん。なんでもないわ。昔のことばかり思い出しても、意味ないものね」<br />
彼女はリュカが寂しくならないように、辛くならないようにとそう言っただけだった。しかしその実、彼女自身がかつての平和で楽しかった頃のことを思い出すことに、そこはかとない淋しさを感じていたのだ。あの時は隣町アルカパで彼女の父ダンカンが風邪に倒れ、その薬を求め彼女は母と共にこのサンタローズの村を訪れていたのだ。ビアンカの思い出す景色の中には、はっきりと、かつての元気な母の姿があった。アルカパの町で宿を切り盛りする元気そのものの母だった。お転婆の止まない娘ビアンカをよく叱る、温かな母だった。鮮明に思い出せてしまうために、二階の窓を見上げるビアンカの瞳には知らず涙が滲む。<br />
道を歩き、家の正面へと回り込んだ。変わらずある井戸、そしてあの時にはなかったはずのリンゴの木が育っていることに、リュカはこれが夢ではないのだと思うことができる。しかし今、木に実はなっていない。村人が収穫したのだろうと、リュカはそこにも生きている命を感じた。<br />
その時、民家の玄関の扉がゆっくりと開いた。人が住んでいると思っていなかったリュカもビアンカも思わず驚いて、家から出てきた人物をじっと見つめてしまった。その視線に気づかないではいられなかった家の住人の男は、前掛けをしたような姿で、どうやら四人家族と見える彼らに会釈する。<br />
「あ、あの、この家に住んでいるんですか？」<br />
「え、ええ、つい先日からですが……あ、旦那様に何か用ですか？」<br />
目が合ったからと、すかさず話しかけたビアンカに、どうやら使用人らしきその男が答える。体形はやせ気味で、使用人としてはどこか頼りないと感じてしまうのは、リュカが勝手に一人の使用人を想像してしまうからだ。<br />
「旦那様なら上にいますよ」<br />
そう言うと、彼は玄関から出てきて用をすることを後回しに、再び家へと戻り、彼の言う“旦那様”を呼びに向かったようだ。まるで誘われるようにリュカが歩く傍で、ティミーが不思議そうにリュカに問いかける。<br />
「お父さん、このおうちの人と知り合いなの？」<br />
「いや、そうじゃないんだけどね」<br />
「私、お父さんとおじい様が暮らしていたおうちに行ってみたいなぁ」<br />
「あはは、ここがそうなんだよ、ポピー」<br />
リュカが自然に笑いながらそう言うと、ティミーとポピーが同時に「えっ！？」と素っ頓狂な声を上げた。開かれたままの玄関の扉を手で押さえ、リュカは家の中を覗き込んだ。すぐ奥に見える台所もあの時のまま、そこにいつも立っていた太っちょの使用人の姿がリュカには見えるようだった。この建物も一度は跡形もなく壊れ、崩れていたというのに、家だけではなくその中までもあの時のままに姿を戻している。<br />
二階から階段を下りてくる先ほどの使用人の男性に続き、後からもう一人、“旦那様”が下りてきた。その姿を目にして、リュカよりも寧ろビアンカの方があからさまに肩を落としていた。リュカにも彼女がそのような雰囲気を隠せなかった理由はわかる。どうしても彼らは、あの二階から下りてくる人物に屈強な戦士像を描いてしまっていたのだ。しかし旦那様と呼ばれる男の姿は使用人よりも瘦せており、足元までを覆うローブに身を包んだその姿は戦士とは呼べず、言うならば一日中城の図書室にこもっているような学者を彷彿とさせるものだった。リュカも思わず肩に力が入っていたが、その旦那様の姿を見て静かに深く息をつくと同時に、肩から力が抜けるのを感じていた。しかし、これで良かったのだとも思っていた。この家に住む人ならば、父に似ていない人がいい。あの時のあの思い出は、この村がこうして奇跡的に復活を遂げたとしても、合わせて復活できるようなものではないのだ。それだからこそ、大事にリュカの胸に在り続けてくれる。<br />
「この家はその昔、伝説の勇者の祖父パパスと勇者の父リュカが住んでいたそうだ」<br />
使用人の男性がリュカたちに茶を用意しようとしていたが、リュカはそれを丁重に断った。旅をする中で時間がさほどないと短く説明すると、学者を思わせる家の主人は旅人に聞かせるにはうってつけだと言うように、立ち話の中でそう話し始めたのだ。<br />
「それを……知っていたんですね」<br />
「ああ、まあ、たまたま知ったのだがね。しかしそんな大事な場所を放っておくこともできないと、私は自らこの場所に住むことで、かつての勇者の祖父と父が住んだ家を守ろうと、そう考えたのだよ」<br />
「そうなんですね。それは、ありがとうございます」<br />
「いやいや、礼には及ばんよ。しかし驚かんかね？　これほどこじんまりとした家に、勇者に連なる者たちが住んでいたなど」<br />
「そう考えてみると、そうかも知れませんね。僕はここをよく知っているので……」<br />
「なに？　知っていると？　そうか、それで見学しに来たのだな」<br />
「見学……」<br />
「見学！　そうね、見学させてもらいましょうよ。私、二階もちょっと見てみたいかなぁ、なんて」<br />
それはビアンカのただの好奇心や純粋な願望から出た言葉だった。そして瞬時に相手の言葉に乗り、この機を逃さないという判断ができるビアンカに、リュカは内心で感嘆するばかりだった。この強かさは彼女が持って生まれた特性だと、あの時強引にリュカをこの家の二階へと連れて行った彼女の手を思い出す。<br />
家の主人が快く家の中へと招いてくれたため、リュカとビアンカが先に家の中へと入り、続いて後ろに立っていたティミーとポピーも「お邪魔しまーす」と元気に挨拶をして入っていく。子供とは言え、ティミーが背中に背負い身に着けている天空の剣の煌めきに、家の主人も使用人も思わず目を丸くしている。ただものではないと一目に分かるその神々しい武器に、彼らは互いに目を見合わせて首を傾げた。<br />
今家に住む二人と共に二階へ上がると、リュカは変わらぬ部屋の景色に、また一つの思い出が脳裏を過るのを感じた。机ではよく、父パパスが調べ物や書き物をしていた。幼いリュカには父が何を読んで、何を書いているのかも分からなかった。今にして思えば、父はリュカには何も知らせないために、積極的には文字も教えなかったのではないかと勘繰ってしまう。そもそもそのような時間もなかったというのが真実なのだろうが、当時の父としては旅に無邪気に連れ立つ幼い息子に、魔界に連れ去られた母を捜す旅をしているのだなどとは言えなかったのだと思う。父が読むもの書くものには必然と、魔界のこと、勇者のこと、伝説の武器防具のことなどがあったのは確かだ。リュカは幼いながらも父の手助けをしたかった。しかし父は子供に僅かな荷でも背負わせたくはなかった。二人の子供の親となったリュカには、当時の父の想いを我がことのように想像することができた。<br />
ビアンカもまた、この部屋に思うことがあったようで、彼女は迷わず部屋の端に置かれる本棚へと歩み寄っていった。本棚にはあの頃と同じように、びっしりと隙間なく本が並べられている。並ぶ背表紙を人差し指で追いながら、彼女の指は一冊の本で止まる。<br />
「信じられない……」<br />
ビアンカが丁寧に引き出したその本は、何かの事典のように分厚い本で、表紙には『天空城』とあった。初めのページをめくると、そこにはあの天空城の簡素な絵と合わせて、古い言葉で天空城の辿った一つの歴史が語られている。<br />
「おじさまは……知ってたのね」<br />
「ああ、その本は私が苦労して手に入れた本の一つなのだよ。とても興味深いものだろう？　この本には伝説の勇者にまつわる話も……と、何故この本のことを知っているのかね？」<br />
リュカとビアンカは寧ろ、この家の主人のその言葉に驚きを示した。学者の雰囲気を醸す家の主人の言葉に嘘は見られず、彼がただ勇者の伝説であったり、天空城のことであったりを純粋な興味を持って調べ続けていたのだと感じられる。<br />
「僕の父が、この本と同じものを持っていたようで……」<br />
「お父さんは昔、ここに住んでいたんだよ！」<br />
「おじい様とお父さんと、サンチョさんも一緒だったのよね？」<br />
「なに？　昔ここに住んでいたと……？」<br />
家の主人は訝し気な表情で、家族に違いない四人の旅人を改めて眺める。彼が最も違和感を覚えていたのは、まだ子供でありながらも、見たこともないような立派な武具を身に着けるティミーだった。子供が身につけているものだから、少々華美なものでもそれは玩具の類なのだろうと思うようにしていたが、それにしては放つ輝きが目に眩しく、心にまで沁みるようだった。<br />
彼は先ほど、自分の口で言ったのだ。“この家はその昔、伝説の勇者の祖父パパスと勇者の父リュカが住んでいたそうだ”と。その言葉が今、彼自身に跳ね返り、目の前に立つ立派な天空の装備品を身に着けるティミーの姿に、彼の目は飛び出そうなほどに丸くなる。<br />
「す、すると、あなた方が！　あわわわわ」<br />
腰を抜かしそうになる彼をリュカは慌てて支えるが、その手さえも恐れ多いと言わんばかりに家の主人は目を白黒させて言葉も継げない。しかし彼のそんな慌てふためいた状態も見ないまま、ティミーとポピーは初めて目にする父と祖父とサンチョの暮らしたこの家の景色を隈なく見回している。<br />
「あ～ん……誰もいなかったら、このおうちでゴロゴロしたかったのに……」<br />
「ねえ、お父さん。ここを別荘にしようよ」<br />
「何を言い出すのよ、この子は……。もう住人がいるでしょ。ティミーったら失礼な子ね」<br />
おほほほと口に手を当てて笑うビアンカの笑顔は少し引きつっていたが、それはもしかしたら彼女自身が少し同じようなことを考えていたからかも知れなかった。家の主人などはティミーの言葉を聞いて更に腰が引けたように「そ、それは当然、もちろん、あなた方がそう仰るのなら……！」と、後先考えずに家を譲る気になっている。リュカは彼を支えながら、かつては父がよく座っていた椅子に座らせると、落ち着いた様子で彼に言う。<br />
「僕たちには僕たちの家があります。だから……大事に住んでください」<br />
ここはリュカの思い出の場所だ。思い出の場所は、思い出の場所としてあってくれればそれで良い。誰が起こした奇跡か分からないが、このサンタローズの村はこうして昔の姿を取り戻した。思い出の場所を、大事にしてくれる人がいるのなら、それは非常に幸せなことだとリュカはもう一度このサンタローズの家の景色を見渡す。ほんの数か月、暮らしただけの思い出だが、ここにはリュカの濃密な幸福の時間が詰まっている。それがここにあるというだけで、これからのリュカの人生の支えにもなるのだ。<br />
リュカたちがサンタローズの家を去る時も、家の主人も使用人も、決して欲深いような願いなど一つも口にしなかった。ただ握手を交わすだけで感激を露わにし、「この手はもう洗わん！」などと少々不穏なことも言っていた。<br />
家を出て、再び村の道に出る。窓を見上げる。ふとリュカの目には、窓の向こうに立つ父の姿が映ったような気がした。子供の頃はきっと気づいていなかった。しかし父パパスはいつもいつもこうして幼いリュカが外で遊ぶ様子を二階の窓から見つめていたに違いなかった。その表情は心配するようなものだっただろうか、嬉しそうに口髭生やす口角の上がったものだっただろうか、いずれにせよその表情は慈しみ深いものだったに違いない。今も心の中で慕う父パパスを思えば、リュカにはそうとしか考えられなかった。<br />
平穏な村の景色を眺めていると、川の土手を何かが駆け上がってくるような気配を感じ、リュカは咄嗟に身構えた。危険を感じるような鋭い気配ではない。しかしそれが何者であるかが分からないために、思わず家族を守るために身構えたのだ。<br />
土手の草むらから姿を現したのは、一匹の猫だ。いや、ただの猫ではない。リュカに向かって一直線に駆けてくる大きな猫は、頭から背に向かって豊かな赤毛を靡かせ、いかにも嬉しそうな顔つきで向かってくる。<br />
「プックル！」<br />
「まあ！　かわいい！」<br />
子供の姿に戻ってしまったプックルは容赦なくリュカの胸へと飛び込むと、リュカは難なくベビーパンサーとなってしまったプックルを抱きとめた。ビアンカがプックルに顔を寄せ、プックルもビアンカの頬を何度も舐めた。<br />
「えっ！？　プックルなの！？」<br />
「ウソでしょ？　どうして？　でもかわいい！」<br />
「私たちにも何が何だか……」<br />
プックルを後から追いかけ来たのであろう一匹のスライムが、ピエールの声で話している。確かに色は緑色をしているが、見た目にはどこからどう見てもスライムそのものだ。緑色のスライムが、怪訝な顔つきで話す様子を見て、リュカのみならず誰もが思わず笑ってしまう。笑われたピエールはショックを受けたように、表情豊かに驚き、落ち込んでしまった<br />
「あっ、ごめんなさい、ピエール。悪気はないの！」<br />
「ええ、分かっております、ポピー王女。私の姿がスライムになってしまったばかりに……」<br />
「僕たちの先入観だね。スライムならスラりんみたいに話してくれるものだと勝手に思ってるんだ」<br />
「にゃう～」<br />
「でも村の人がピエールを見たらびっくりしちゃうわ。ほら、おいで、抱っこして隠していてあげるから」<br />
「えっ！？　いや、ビアンカ嬢に頼るわけには」<br />
「おい、これって、オレたち戻れんのかよ。っていうか、誰の仕業だよ、こんなの」<br />
いつものアンクルの声が聞こえるが、いつものアンクルの姿は見えない。プックルやピエールと同じように草むらからがさがさと出てきたのは、一匹の赤茶色をした子ヤギだ。可愛らしい声で鳴くはずの子ヤギが、アンクルの野太い声でリュカたちに話している。どうやら彼らを魔物の姿でこの村に入れるわけには行かないと、咄嗟に竜神が機転を利かせるように彼らの姿を変化させたのかも知れない。他に彼らの姿を変える要素も見当たらず、リュカのみならずビアンカも、ティミーとポピーも、一様にしてサンタローズの村の遥か上空を飛ぶ竜神を眩しく見上げた。<br />
「そんなことができるの？　マスタードラゴンって」<br />
「おばあ様だって、あのジャハンナの町で魔物を人間に変えてたんだもん。マスタードラゴンだったらこれくらいできるんだよ、きっと！」<br />
ティミーが自信を持ってそう言えば、むべなるかなという思いで誰もが頷いてしまった。兎にも角にも今このサンタローズの村では普通では起こりえないことが様々起きていることに、リュカは幼い頃に体験した妖精の国での冒険をも思い出す。まだまだ世界にはリュカの知らない物事が溢れているのだろうと、そう思うとリュカの表情はまるで少年の頃のような好奇心に満ちたものとなった。<br />
「プックル！　今なら僕の方が早く走れるかも！」<br />
「にゃうっ！」<br />
そんなことはないっ！と言い切るプックルを置いて、リュカは村の広い道を先に走り出してしまった。小さなプックルが「にゃっ！」と抗議の声を上げたかと思うと、リュカの後を追いかけだした。あっという間に追いつき追い越すプックルに、リュカは「ダメかあ～」と笑いながらゆっくりと止まった。<br />
「まったく、男の人っていつまで経っても子供よねぇ」<br />
「お父さん、楽しそうでうれしいな」<br />
「プックル！　今度はボクと勝負だ！」<br />
「小さいとは言え、プックルはそもそも猫ですからね。なかなか……」<br />
「今のオレなら勝負できるかもしんねぇぞ」<br />
前足をかく子ヤギの姿のアンクルは、背に羽のような模様を見せながらその場に飛び上がろうとする。平和の景色を取り戻したサンタローズの村で、世界を救った勇者たちが、後先のことを何も考えないままに好きに遊んでいる。その景色を一人、遥か空から見下ろす者の琥珀色の瞳は優し気に、しかしどこか悲し気に光を湛えている。<br />
遥か昔のこの世界で、惨く滅ぼされてしまった小さな村をもう一つ、マスタードラゴンは知っている。その元凶が自身にあることも、一人静かに理解している。今、その時の罪滅ぼしをしたということでもない。しかしこの世界を救った者たちへの褒美を神が与えることに何の問題があるだろうかと、マスタードラゴンは平和の景色を取り戻したサンタローズの村で笑う彼らの姿に、嬉しく微笑む。<br />
そして同時に、あの時もこうしてあの村に平和を取り戻してやっていればという思いも過るが、そこでマスタードラゴンは人間らしい思考を止めた。世を統べる神として、人間という生き物に寄り添いすぎることの危険を知っている。この世界を救うのが人間ならば、この世界を滅ぼそうとするのもまた人間であったりもする。こうして地上から遥かに高い空に舞い、人間たちとは距離を置くことが、神という存在に求められていることに違いない。<br />
神はただ、世界の平和を祈る。それを理解していながらもこうして手を差し伸べずにはいられなくなってしまったマスタードラゴンは、微笑むその琥珀色の瞳の中に、長らく人間の姿に扮し、人間世界に紛れ込んで過ごした日々を思い出している。竜神は一人、見下ろす世界の救世主らに羨望のまなざしを向けている。人間とはいいものだと感じる竜神は、もはや己の神らしからぬその心の在り方を悪いものだと思うことはない。</p>
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		<title>「祖国に還える」（中野五郎　著）を読んで</title>
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		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Tue, 10 Mar 2026 06:17:09 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[徒然]]></category>
		<category><![CDATA[日記]]></category>
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					<description><![CDATA[我が家に様々本がある中、今回はこちらの本を読んでみました。 こちらの本はハードカバーで５００ページ超という大作で、本の帯にはこう書かれています。『「実録」アメリカで見た太平洋戦 ... ]]></description>
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<p>我が家に様々本がある中、今回はこちらの本を読んでみました。</p>



<figure class="wp-block-embed is-type-rich is-provider-amazon wp-block-embed-amazon"><div class="wp-block-embed__wrapper">
<iframe title="[復刻版]祖国に還える" type="text/html" width="1090" height="550" frameborder="0" allowfullscreen style="max-width:100%" src="https://read.amazon.com.au/kp/card?preview=inline&#038;linkCode=ll2&#038;ref_=k4w_oembed_PcZj78Pjmudsay&#038;asin=B0DWBBGZ12&#038;tag=scapi-22"></iframe>
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<p>こちらの本はハードカバーで５００ページ超という大作で、本の帯にはこう書かれています。『「実録」アメリカで見た太平洋戦争　開戦前から帰国まで…日本人新聞記者による９カ月の記録』</p>



<p>当時、アメリカに特派員として任務に就いていた新聞記者である中野五郎氏による、日記を含めた実録に基づく記録が収められている本です。流石は新聞記者というだけあって、観察も鋭く、表現にも富み、非常に読み応えのある実録です。このような本を読む際、私が思うのは、当時のことを知るためにはやはり当時のことを知る方が当時の感覚、感情で書くものが最も参考になるものだなということ。その点で、以前に読んだ「肉弾」という日露戦争の一端が描かれた本も、先人の方の想いを知るものとしてはとても良い本だと思っています。</p>



<p>著者である中野氏は、当時の朝日新聞社ニューヨーク特派員。真珠湾攻撃の翌日、著者の泊まる現地のアパートにFBIが踏み込んできて、その場で逮捕されるという不遇に遭います。当然、真珠湾攻撃が起こることなど知らず、しかしそれが起こったことはすぐに知り、何とも潔いようにこれから自身に降りかかる災難を予期して、逮捕の前日にも普通にレストランで知人と夕食を取っていたりします。ある種の、現実逃避にも感じられますが、この真珠湾攻撃よりも以前からかなり不穏な雰囲気はあったようで、中野氏ご自身も本来ならば間もなくアメリカを離れて日本へ帰国予定だったということです。戦争機運が高まり、開戦日時（ゼロアワー）をいかに引き延ばせるか、という現状だったと。それが、その直前に捕まることに……。</p>



<p>逮捕されたのは現地時間で１２月８日の午前１０時半。真珠湾攻撃があって、その直後ともいえるタイミングです。取り調べ後、その夜にはもうフィラデルフィアへ護送。デラウェア河の対岸の小さな町グロスターシティの荒れ果てた敵国人収容所に拘禁となってしまいます。……これが、戦争という非常事態時の出来事なんだと、驚くよりも、ただただ受け入れるしかないのだなと淡々とした気持ちにもなってしまいます。</p>



<p>そして中野氏は新聞記者としての本領を発揮するように、当時の敵国キャンプでの抑留記を細かく残しています。日記形式でつけられた当時の様子は、中野氏の当時の感情と合わせて、本当に細かく記されています。</p>



<p>敵国キャンプでの抑留生活を中野氏は「陰鬱・単調・不潔」という言葉に表しています。精神的にも肉体的にも堪え難いものだったと。人間として、この３つが揃った時の地獄ったらないだろうなと、読んでいても辛くなりました。南京虫に悩まされ、便所の汚物の臭気が辛かったとのこと…。それだけでもう、“人間”としては扱われていないのかなと思ってしまいます。実際、その面もあったのだろうな…。</p>



<p>このグロスターシティでの抑留生活を約３週間ほど過ごします。ここでの日記が残せたのは、日記帳があったから。ただ、事前の取り調べ時に、所持品の押収などもあり、日記帳などは持ち合わせていませんでした。ではどうやって日記帳を手に入れたのかというと……</p>



<p>このキャンプには酒保という、兵士を相手にする売店があり、そこに働くおばさんに「日記帳を買ってきてほしい」とお願いすると、あっさりと買ってきてくれたようです。後の厳重な所持品検査を恐れ、中野氏は全文英語で日記をしたためるという用心深さを持ちつつ、記者という職種柄の積極性で酒保のおばさんに買い物を頼んでしまうという、その強かさは素晴らしいなと感じました。日記を書くことで、この陰鬱などからも幾分救われた面もあったようです。何かしないとやってられないという感じでしょうか。人間、ただぼうっとは過ごせないですもんね。</p>



<p>食事は囚人に出されるようなものだったけれど、やはりそこでも酒保に頼る場面があり、酒保で牛乳やアップルパイ、オレンジを食べることもあったとのこと。なので、食事の面で滅茶苦茶な空腹に苛まれたことはなかったようでした。ただそれでも、日記に書かれる食事内容を読んでいると、到底普通には耐えられそうもない内容が並んでいました…。囚人と同等のもの、という意味がよく分かります。</p>



<p>約３週間が経ち、今度はフィラデルフィアへ移送されることが決定しました。これが場所としてはかなりのグレードアップ。バージニア州ホットスプリングスのホテルへ。と言うのも、やはり新聞記者という身分が影響しており、日本を代表する外交官の立場が一応重んじられたということでした。ということは一方で、相変わらずの厳しいキャンプ生活を強いられている日本人が多数いるということ。その現実は当然中野氏も分かっており、胸を痛めていました。そして今回移送されたホテルの代金は、日本の資金から払われるから、１ドルも疎かにはできないという思いで過ごしていたようです。</p>



<p>この間もずっと、日本の大使による交換船手配の交渉が進められていました。交換船というのは、戦争が始まり、互いに敵地にて捕らえられてしまった者同士を交換、引き渡すために、互いに船を出して、言わば人質となってしまった者同士を交換しようというものです。その交渉が一度は直前まで決まっていたものの、現地人が敵国の人間は受け入れられないという反対を示して、決まりかけていた手配もキャンセルになったりと、難航していました。いろいろの決定事項というのは、このような細かな調整が必要になってくるのだなと、その景色がよく分かる状況です。</p>



<p>住みよいホテルへと移送された中野氏ですが、むしろキャンプ生活で呻吟していた方が敵愾心が高められると、新たなホテル暮らしに意気地がなくなる恐れを感じていました。他の日本人がまだキャンプで苦しめられているという現実もあり、その胸中は複雑だっただろうと思います。その思いが、こうした細かな日記をつけるという行為にも表れていたのかなと思われます。新聞記者としての誇りもあり、この１分１秒を無駄にはしないと、しっかりとした記録を残そうとしたのではないでしょうか。</p>



<p>ホテルで生活している時には、映画を見ることもしばしばあり、観る映画にもいろいろな感想を書いています。ただ楽しんで映画を見ているなどということはなく、その映画一つ一つにも、敵を知るための情報があるのだと、映画に込められているメッセージにも注意を払うのは流石だなと思いました。</p>



<p>４月４日にまたまた移動となり、西バージニア州温泉保養地ホワイト・サルファー・スプリングスへ。４月半ば頃、新聞が遅配となり、情報はラジオ・ニュースが頼りとなります。いつでも聞けるものではないので、決まった時間に少し聞くだけ。新聞ほどの情報はないということなのでしょう。特に新聞記者にとって情報が得られないというのは、一般人に比べてもとても辛い状況にも思えます。</p>



<p>４月２９日、天長節。戦後にこの呼び名はなくなっていますが、これは戦前に用いられた天皇の誕生日の呼称です。天長節。また、皇后の誕生日は地久節と呼んでいたそうです。この一つをとっても、戦前と戦後の違いがはっきりと見えてきますね。天長節であったこの日、午前１０時４０分からホテルの映画小劇場に婦女子とも全員３５０名が参集、国歌及び天長節歌を力強く斉唱、と記録されています。野村大使からの式辞もあり、しっかりとした式が行われたのだなとその様子を感じることができます。同日、ニューヨークタイムスが報じるには、米国内の統制経済を強化。実際の日常生活の物価は５０％～３００％に達するものも出てきていたようです。物価上昇……今の私たちは決して他人事ではありませんね。</p>



<p>大使らの交渉により、交換船の日取りが決定。それに向けて６月１０日、ホテルを出てニュージャージー州ホーボーケンへ移動。船の手配もでき、６月１８日、ニューヨーク沖合から出港します。米国内で捕まってから半年以上が経っています。途中、アフリカ・モザンビークの港に寄港し、そこで日本からの交換船「浅間丸」へ乗り換え。この時にようやく「日本に帰ってきた」と思えたそうです。しかしまだここはアフリカの港。ここからインド洋を渡っての長い航海が待っています。それでも、浅間丸に乗船し、日本食を口にすれば、日本に帰ってきたと思うのも当然のことだと思います。</p>



<p>ただ、著者である中野氏は当然のように、未だ現地に囚われている日本人への思いを強く持っていました。その思いは、この本の中でも様々な場面に現れています。同胞の苦しみを一つもないがしろにすることなく、その思いは本の最後に書かれている「在米邦人の嘆き」として知ることができます。中野氏が護送されたキャンプは、広くアメリカに点在するキャンプ地の一つであって、他にもいくつものキャンプ地があり、そこでの環境、状況が示されています。緩い所もあれば、厳しいところもある、けれど、総じて日本人に対する当たりは強いように感じられました。当時、日独伊の三国が枢軸国として位置づけられ、米国ら連合国側の敵でしたが、その中でも日本人への敵視は強かったのは間違いないと思われるのは、収容人数にもそれが表れていたためです。現地に暮らすそれぞれの国の人々の人数に反比例する形で、各国の人々が捕まっていたようです。</p>



<p>戦争とはそういうもの、なんて簡単に片づけられるものでは決してないですし、間違ってもそんな言葉一つで収められるものであって良いはずはありません。一般に暮らす人々の中で、戦争が良いものだと考える人など一人もいないと思いますが、実際の戦争での出来事を知る本がこうしてこの世にいくらもあるのですから、目を背けないためにもこのような本を読んでみることをお勧めします。何事も、知らないと言えないですもんね。先ずは、知ること。現代に生きる私たちは、あまりにもいろいろなことを知らずに過ごしていると痛感させられるんです、このような本を読むたびに。</p>
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		<title>本編を更新しました。「宿命からの解放」</title>
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		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 04 Mar 2026 02:51:44 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[日記]]></category>
		<category><![CDATA[更新]]></category>
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					<description><![CDATA[いつも遅くて申し訳ないです。なかなか満足のいくものが書けずに手間取っております。どうせ満足の行くものは書けないんですけどね。 本編を更新しました。 宿命からの解放 エンディング ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>いつも遅くて申し訳ないです。なかなか満足のいくものが書けずに手間取っております。どうせ満足の行くものは書けないんですけどね。<br />
本編を更新しました。</p>
<p><a href="https://like-a-wind.com/text46-3/">宿命からの解放</a><br />
エンディング、ラインハット編。書き切ろうと思ったらこれの三倍、四倍と、キリがないので大分端折ったつもりです。キャラクターが多くて到底書ききれるものではないと、書きながら感じていました（笑）そして何だかストーリーに不具合が生じている気もしますが……このままアップさせてもらっちゃいました。話を詰め切れず、自分の出来なさを実感して、少し落ち込んでいます。きれいに書けるものではないですね。世の中の作家さんはすごいものだなと、改めて感じております。</p>
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		<title>宿命からの解放</title>
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		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 04 Mar 2026 02:38:41 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[DQ5（長編）]]></category>
		<category><![CDATA[青年時代（６）]]></category>
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					<description><![CDATA[広大な青々とした草原地帯が視界いっぱいに広がる。日はまだ昼前の時を示すように明るく輝き、暖かく緩やかな風が草原を撫でるように渡っていく。魔物の気配がない。魔法のじゅうたんが気持 ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>広大な青々とした草原地帯が視界いっぱいに広がる。日はまだ昼前の時を示すように明るく輝き、暖かく緩やかな風が草原を撫でるように渡っていく。魔物の気配がない。魔法のじゅうたんが気持ちよさそうに飛んでいく先には、北を山に守られた立派な城が堂々と建っている。城の見張り塔の上に、ラインハットの国旗が風にたなびいている光景に、リュカは胸の中がじんわりと温かくなるのを感じた。<br />
初めてこの地を訪れた時は、隣に父がいた。父との旅には慣れており、幼いリュカは父の強さを世界一だと信じ、旅する不安はなかった。サンタローズの村で留守番しているサンチョにも、またすぐに会えるのだと思っていた。大人たちに守られていた少年の心は、守りの外にある不安というものに行き着いていなかった。<br />
あの時から二十余年の月日が流れた。様々なことが起こった。後悔は消えない。消えないものは抱えていくしかないのだと、今は半ば悟るようにそう思っている。その思いはきっと自分だけではない。寧ろ、親友の方がこの思いは強いに違いない。一見すれば責任感の欠片もないように見える彼だが、その実、恐らくリュカよりも大きく深く責任を感じ、責任を負っているからこそ、彼はこの国に戻ることを自ら決めた。そして今もこれからも、彼はこの国から逃げるようなことはしない。<br />
魔法のじゅうたんが丘の上に位置するラインハットまで皆を運ぶ。見渡す広大な草原地帯には今、竜神が降り立ち、リュカたちをじっと見守っている。そうかと思えば、竜神はどこか落ち着きなくあたりを見渡し、その巨大な身を屈めて草原に鼻先をつけたりしている。リュカは一人、その竜神の行動に訝し気な顔つきを見せる。竜神はその必要もないだろうに実際に地上世界に平和が訪れたのかどうかをその身に感じたいがために、まるで犬がそうするように鼻先で草原地帯を嗅いでいるようにも見えた。やはり神らしくない神の姿に、リュカは思わず小さく噴き出していた。見たこともない巨大な竜が目の前に現れたことに、草原の中に隠れていたトンネラーが泡を吹いて倒れていたことになど、リュカは当然気づかなかった。<br />
「リュカ殿。我々は外で待っております故、ご友人とゆっくりお話をしてきてください」<br />
ラインハットの城下町の景色が近づき、そろそろじゅうたんを降り歩いて城へと向かおうかと思っていたリュカに、ピエールが静かな声で何事もないようにさらりと声をかける。しかしその声に、抑えるような響きが含まれているのを、リュカは見逃さない。<br />
「なーに水臭いこと言ってるんだよ、ピエール。君も一緒に行くに決まってるだろ」<br />
「いえ、しかし私はこの辺りにいるスライムナイトと同じですから、この国の人々を混乱させないためにも近づかない方が……」<br />
「がう～？」<br />
「プックルは行く気満々みたいだよ！」<br />
「見た目としてはコイツの方がよっぽどヤバイだろ……」<br />
「見た目だけで言えばアンクルも……でも！　そういうことじゃないものね！」<br />
「ピエールだけ行かないの？　そんなの、さみしいな……」<br />
「しかし城下町を歩いて向かうのでしょう？　そこに魔物である私が入るわけには……」<br />
「ああ、それはそうかも。でも、それなら問題ないよ」<br />
ピエールの口にする心配事を取り除いてしまえば問題ないと、リュカは魔法のじゅうたんに手を当てながら進むべき方向を示す。リュカの意を汲んだ魔法のじゅうたんはやや速度を落としたかと思えば、緩やかに方向を変え、ラインハットの城下町の景色を右側に見るように回り込んでいく。城下町に暮らす人々の中に、リュカたちの姿に気づいている者もいるようだが、その顔つきに不安は見られない。明るい人々の表情を見ていても、このラインハットにも平和が日の光のように降り注いでいるのだと感じ、つられてリュカたちの表情も明るくなる。<br />
日の光を受けた暖かな風が、魔法のじゅうたんを下方から押し上げていく。大きなアンクルも乗るじゅうたんだが、その重さを感じさせない軽々とした動きに、ラインハットの城下町からも歓声が上がる。高度を増した魔法のじゅうたんに緊張して息をのんだポピーも、人々の歓声を耳にすればそれだけでいくらか緊張を和らげることができた。<br />
ラインハットの城下町を迂回し、向かう先はラインハット城の最上階。大きな窓からは既に、見覚えのある顔がリュカたちを見つけていた。その顔は呆れ顔でもあり、それだけでもなかった。ラインハットの上空に竜神が現れたことにはとっくに気づいていたはずだ。塔の見張りの兵が彼にその旨を知らせていたに違いない。そして普通であればラインハットの城下町を通り、正面の門からラインハット城へと入城してくるはずが、どうやら友好国の王は礼儀もへったくれもなく直接乗り込んでくるようだと、彼は兵に大窓を開けさせる。<br />
「ヘンリー、来たよー」<br />
「……知り合いじゃなかったら、攻撃を指示するところだぞ」<br />
魔法のじゅうたんの上から手を振るリュカに、ヘンリーは怪訝な顔つきを隠そうともせず友を見下ろす。魔法のじゅうたんは頑張って高度を上げていたが、それでも少しラインハットの最上階には届かないらしい。ヘンリーの隣に並び立つマリアはただにこにこと笑っている。その表情には、リュカたちが無事に戻ってきたことへの安心が見えるようだった。無事に戻ってきてくれさえすればそれで良いのだと、マリアは元気な様子のリュカたちを見て嬉しそうに微笑むだけだ。その横には、まるでヘンリーをそのまま小さくしたようなコリンズの姿がある。背の低いマリアと並ぶと、じきにその背を越すのだろうと思わせるコリンズの表情はただただ驚きに満ち、口をぽかんと開けたものだ。<br />
「お前さ、もっと普通に来られないの？　ちゃんと正面から来いよ」<br />
「だってピエールが外で待つなんて言うからさ。連れてくるにはこれがいいかなと思って」<br />
「何？　俺のところに来られないってのはどういうことだよ、ピエール」<br />
「いえ、せっかくですからリュカ殿とヘンリー殿とでゆっくりとお話をされてはいかがかと……」<br />
「水臭えこと言ってんじゃねえぞ。お前も俺に言いたいことがあるんじゃねえのかよ、ん？」<br />
そう言いながらヘンリーが指差し見るのは、今はピエールの腕から外され、腰のベルトに付けられているドラゴンキラーだ。この武器はリュカたちがまだ魔界に旅立つ前、それを予期していたヘンリーがグランバニアへと贈り物として届けたものだった。リュカという主が行くのなら、間違いなくその従者も行くのだろうと、ラインハットという国においても国宝となりうるほどの価値あるドラゴンキラーという武器を、惜しげなく贈ったのだった。<br />
「…………その節は、ありがとうございました。では、私はこれで。アンクル、私をここから降ろしてほしいのだが」<br />
「はーん？　よく聞こえないなあ……。礼を述べる時はちゃんと相手に伝わんないと意味ないだろ」<br />
「聞こえているではないですか。では、もう良いでしょう。アンクル、私を……」<br />
「ピエール、お礼を言う時はきちんと相手の目を見て言うものよ。ほら、一緒に行きましょう。ね？」<br />
ビアンカが諭すように言うと、ピエールはきまり悪く黙り込んでしまった。それを見てヘンリーは声を抑えて笑っている。そしてそんな彼らのやり取りとはお構いなしに、プックルが魔法のじゅうたんの上で姿勢を低く構えた。<br />
「えっ？　プックル、ちょっと待っ……」<br />
リュカが最後まで言わない内に、プックルは目測をつけて飛び上がった。魔法のじゅうたんでは届いていないラインハット最上階だが、己の跳躍力をもってすれば問題ないと思ったのだろう。しなやかに伸びあがるプックルの躍動感溢れる動きは美しいものだが、それを正面から受け止める位置に立つヘンリーはたまったものではない。<br />
「うわあぁ！　バカ野郎！」<br />
「にゃうう！」<br />
咄嗟にマリアとコリンズを横に押しのけたのはさすがだとリュカは驚きつつも冷静に見ていた。宙にふわふわと浮かぶ魔法のじゅうたんは、固い地面のように安定した場所ではない。プックルは飛び上がる際に力の半分を魔法のじゅうたんに吸い取られたように思ったほどの跳躍力を得られず、彼の想像ではヘンリーの頭をも飛び越して大窓の内側へと入り込むつもりだったのだろうが、上手く行かなかった。ただヘンリーを脅かすつもりだったものが、ヘンリーの顔面に体当たりを食らわせる結果となり、ヘンリーは後ろに倒れ、プックルはバランスを崩しながらも床に転がってすぐに体勢を立て直した。さすがに悪いことをしたと思ったプックルが、猫のような声を出しながら倒れたヘンリーに近づき、その顔を舐めた。<br />
「お前らなぁ……もっと普通になれよ」<br />
「ごめん、ヘンリー。大丈夫？」<br />
最も重量あるプックルがじゅうたんの上から抜け、アンクルが魔法のじゅうたんを下から支えるようにして押し上げた。それを支えにしてリュカたちが次々とラインハットの最上階の大窓から、昼前の明るい日差しを受けながら、まるで侵入者のごとく入り込んでいく。その光景をラインハット城の中庭に出ていた調理場の者が目にするなり、手にしていた料理の材料を落としてしまっていた。彼女の目に見えているのは、何やらふわふわと波打つ大きなじゅうたんを下から支えている悪魔のような外見を持つアンクルの姿だ。卒倒しかねない女性に、ことの成り行きを見ていた城の兵が慌てて説明を始める。<br />
「大丈夫じゃねえよ。いってぇなぁ、もう……」<br />
後ろに倒れ、したたかに打ち付けた腰をさすりながら立ち上がるヘンリーの姿を見たティミーが、素直に謝る気持ちで回復呪文を投げるように唱える。勇者の手から放たれたベホマラーの呪文を受けて、ヘンリーのみならず彼のすぐそばに寄り添っているマリアとコリンズにもその影響が及んだ。腰の痛みから解放されたヘンリーがすっと立ち上がるのと合わせ、何やら調子のよくなったマリアもコリンズも不思議そうに母子互いに目を見合わせている。<br />
「とりあえず中に入れよ」<br />
「うん。お邪魔します」<br />
「まるで友達の家に入るような感じよね～」<br />
「でもお母さん、窓からなんて、まるで泥棒みたいだわ……」<br />
ビアンカが半ば呆れたような顔でそう言う隣で、ポピーは呆れるというよりも不安そのものの顔つきで、先に窓から入り込む父の後姿を見つめる。そしてピエールも弾みをつけて中へと入り込むと、リュカが大窓越しに揺れている魔法のじゅうたんを引き入れ、畳んでいく。その姿をヘンリーは腕組みをしながら静かに見ていたが、リュカが魔法のじゅうたんを畳み終える前に窓枠からぬっと姿を現したアンクルの姿に、今度は腰を抜かしそうになる。リュカがグランバニアにどれほどの魔物の仲間を従えているのかを、ヘンリーは知らない。さぞかし様々な種の魔物がいるのだろうと想像はしていても、実際に魔界から飛び出してきたかのようなアンクルの魔物らしい魔物の姿を見れば、腰が引けるのも無理はない。おまけにその手には悪魔にぴったりのようなデーモンスピアが握られている。<br />
「……ったく、心臓に悪い」<br />
「ああ？　悪かったな、こんなナリでよ」<br />
「あ、そっか。アンクルは初めてだよね。見た目は怖いかも知れないけど、とても頼りになる仲間だよ」<br />
「見た目が怖いのはコイツだけで十分なんだよ」<br />
「がう」<br />
足元に強めに擦り寄るプックルの赤毛を撫でながら言うヘンリーに、アンクルは鼻で笑いながら自らも大窓から城の中へと入り込んだ。その体の大きさと、禍禍しいように見える悪魔のような翼や角に、コリンズはマリアの後ろに半分隠れるようにしてアンクルを覗き見ている。<br />
「まあ……よく無事で戻ったよ」<br />
「うん」<br />
ヘンリーがそう言いながらリュカの肩にぽんと手を置き、リュカは短く返事をするだけだった。子供の頃は一歳の年の差を優位にヘンリーが背の高さを誇っていたが、今ではすっかりリュカの方が背が高くなってしまった。肩に触れただけで、彼がどれだけの戦いを潜り抜けてきたのかを思わせられる。今もし、彼の父パパスが隣に並んでいたら、もう息子は父を超えてしまっているのではないかと思いつつ、ヘンリーはもう一度リュカの肩を軽くたたくと、彼らを部屋の奥へと誘導していく。</p>
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<p>ラインハット王兄の私室であり、家族で過ごす部屋でもあるこの場所で、リュカはヘンリーと向かい合わせに座っている。部屋には広く立派なじゅうたんが敷かれており、プックルは爪を引っ込めその上を歩き、気に入った場所を見つければそこに寝そべり、丸くなってしまった。普段、この部屋に他の人間が入るようなこともないのだろう。景色はどこを見ても立派な、それこそ王族にふさわしいものだが、普段は王兄家族が暮らす暖かな空気が漂い、その空気に誰もが無暗に緊張するようなこともなかった。ピエールは控えたところに立つべく、リュカたちが座る大きなソファの後ろ側にまるで近衛兵のように立っているが、その目は部屋のあちこちを興味深そうに見渡していた。アンクルに至っては、大きな身体で好きに歩き回り、高価な調度品を手に取って見たりするものだから、ビアンカが身内のものとして諫めた。<br />
和やかな雰囲気の中で、リュカは話した。魔界でのこと、母のこと、大魔王のこと。親友に語る内容としては、話し出せばキリがなくなってしまう。しかしこの場でいつまでも長々と話しているわけにもいかない。リュカにも帰るべき場所があるのだ。首を長くしてリュカたちを待っている大事な人々がいるということが、リュカの頭の中にちらつく。<br />
「しかし驚いたなあ」<br />
リュカが嘘をつくような人間ではないことをヘンリーは十分に理解している。それでも本心からリュカの言うことを信じることができたかと言われれば、ヘンリーには自信がない。地上のこの世界でも十分信じがたいような体験をしてきたリュカであり、ヘンリーもまたその一部を共に経験してきている。天空に浮かぶ城に入城したこともあった。竜の神がこのラインハット上空に飛ぶ姿も目にしている。魔界という世界があるということも、一応理解しているつもりだった。しかしその魔界という真っ暗な世界で、凶悪な魔物らのいる世界を旅し、そんな中でもリュカたちを助ける魔物がいたという。そして魔界にも人間の町があると聞いた時には、思わず「嘘つけ」と言ってしまった。あまりに厳しい旅の中で見た夢なのだろうというくらいに、ヘンリーは思ってしまったのだった。<br />
「リュカの息子が伝説の勇者だったとは……」<br />
リュカの息子ティミーが伝説の勇者だということは既にヘンリーは知っている。今や立派な一人の戦士のようにも見える、天空の武器と防具を身に着けた勇者ティミーの姿を見れば、彼がいわゆる勇者として唯一足りないのは背丈くらいのものだと思う。しかし彼は努めてリュカの息子が勇者であることを信じようとしていなかった。認めてしまえば、まだ子供であるリュカの息子に勇者という宿命を押し付けることになる。誰が親友の子供に勇者などという思い責任を押し付けたいと思うのか。その思いは実のところ、ティミーの父であるリュカと同様、ヘンリーも持っていた親のような感情だった。<br />
しかし、ティミーはもう大魔王を倒してしまった。この現実を以て初めてヘンリーはティミーを勇者と認め、安心して受け入れ、言葉にすることもできた。ヘンリーの心からの言葉に、言われたティミーは明るい笑顔を見せる。皆を心の底から晴れやかにするようなティミーの笑顔は、それもまた勇者であるという証明なのかもしれないと、ヘンリーは同じようににこりと笑みを見せた。そして勢い口を滑らせる。<br />
「トンビが鷹を産むとはこのことだったか！」<br />
そう言って豪快に笑うヘンリーに、すかさず反応を示すのはビアンカだ。むっとした表情も隠さずに口を開きかけたが、それよりもいち早くとりなすのがヘンリーの隣に座るマリアだ。<br />
「まあ、あなたったら。そんなことをおっしゃるとビアンカさんに悪いですわ」<br />
ヘンリーには全く悪気はない。彼はただリュカをからかうつもりでそう言っただけだった。ビアンカもまた、彼に悪気があるとは微塵も思っていない。今咄嗟に反応したのも、決して本気で怒ったわけでもなく、単に口先だけの文句を言おうとしただけだった。しかしいざビアンカの水色の瞳に軽く睨まれていると分かると、ヘンリーの空色の瞳は僅かに慌てるように揺れた。どこか逆らい難い、気の強い姉のような雰囲気を見せるビアンカが、ヘンリーは少々苦手だった。<br />
「おっと、そうだったな。悪かったな、ビアンカさん。そんなつもりじゃあ……」<br />
「ふふ、分かってるわよ。だけど、口は禍の元よ。国王のお兄様なんだもの、この立場にいるのなら色々と気を付けた方がいいと思うわ」<br />
「ああ、その通りだな……。まったく、ビアンカさんはリュカには過ぎた奥さんだ」<br />
「うん、僕もそう思う」<br />
リュカは素直にそう反応しただけだったが、そんなリュカの姿を見ながら、向かいに座るマリアがにこにこと笑っている。マリアはただただ、リュカもビアンカも、ティミーもポピーも、彼らの大いなる支えとなった魔物の仲間たちも、無事にここへ戻ってきてくれたことが嬉しかった。リュカたちがこの世界を旅だった頃から、マリアは毎日祈りを捧げていた。祈るということが無駄に終わってしまうことも彼女は知っている。しかし他に何かができるわけでもなく、あの日あの時海辺の修道院で洗礼を受けてから、彼女は祈りを捧げることで己を保ってきたようなものだった。夫ヘンリーはそんな妻に言ったことがあった。マリアの祈りの力は間違いなく俺の力になっているのだと。目に見えないものだからこそ、形や大きさで図ることはできず、それは祈りを捧げる者の想いの強さや、祈りの強さを受け止める側の想いの強さで、それはどこまでも大きくなることができるのだと、ヘンリーは半分ふざけて、本当は本気でそう妻に言ったのだった。<br />
「すぎたおくさん、って、何？」<br />
「しっかりした妻ってことよ、お兄ちゃん」<br />
「……これで“勇者”だもんな。オレでもなれたんじゃねえの、勇者」<br />
子供たちの言葉に、大人たちが笑う。たった今、リュカは息子のティミーが大魔王ミルドラースを倒したのだと話したばかりだが、天空の武器と防具を身に着けたティミーの姿にはその勇ましさを想像することもできるが、こうしてひとたび話をすれば途端に彼の子供らしさが溢れてしまう。そこに、人々が想像するような、頼れる、猛々しい勇者の像は見られない。しかしだからこそ、ティミーの持つ根明の性格に人々は引き込まれ、知らず明るい気持ちにさせられてしまう。その明るさが、暗い暗い魔界に潜む大魔王をも倒す力にもなったのだろうと、ヘンリーは屈託なく笑うティミーを見ながらそう思った。<br />
「ともかく世界が平和になり、我がラインハットの国民たちも大喜びだよ」<br />
リュカたちが魔界で大魔王ミルドラースと対峙していた時、呼応するように地上世界にも魔物の群れが各地を襲いかけていた。空は暗雲に覆われ、今のように太陽を拝むことが叶わなかった。ただの天気の変調ではないことは、誰の目にも明らかだった。<br />
リュカたちが魔界へと旅立つ前に、ヘンリーは友から地上世界を任された。世界を一瞬にして飛び回ることのできる友のこと、その言葉はラインハットのみならず各地へと向けられていたことには容易に想像が及んだ。彼はその時、友が魔界に旅立つことを止めようと声をかけた。息子を勇者にしてしまうつもりかと。子を想う親であればこの言葉で思いとどまるかもしれないと、友であるリュカの気持ちを量ったが、彼は勇者である息子を信用する以上に、子供の負った宿命ごと引き受ける覚悟で魔界へ旅立つことから逃れなかった。<br />
ヘンリーはただ、もうこれ以上親友が妙な運命に巻き込まれるのを見たくはなかったのだ。その初めはヘンリー自身が引き起こしたようなものだからと、彼はいつまでもその罪を胸に刻み、ふざけるような言葉を交わしながらも、その芯には常に懺悔の想いが過っている。ラインハットという国の立て直しを着実に進め、未来へと進む一方で、ヘンリーの罪の意識は永遠にあの時で止まったままでもあった。彼の意識があの時に立ち止まる一方で、幾度となく過酷な運命に見舞われようとも立ち止まらなかった親友は、彼の想像よりも遥かに先を先を見つめていたようだった。決して立ち止まらないと決めてしまった親友の覚悟を、彼は認めるほかなかった。任された地上世界を守るべく、己にできることを尽くすことが親友の助けになるのならと、ラインハットの国を覆うような暗雲が突如として現れ、元来ラインハット近くに生息する魔物らの動きが活発化すれば、それに真正面から立ち向かう覚悟がヘンリーにもできていた。<br />
国の兵たちと共に国を守るべく、手にする武器を振るっているうちに、一度は完全に世界は暗黒に飲み込まれたのかと見まごうほどの闇が空を覆いかけた。その景色に、彼は親友の、一見優し気ながらも頑固であることが隠し切れない表情を思い出した。全身に悪寒を覚え、この世界はついに闇に包まれてしまうのかと、彼は心の中で親友に毒づくと同時に、親友の破滅など信じないと武器を握る手に今一度力を込めた。地上世界を任されたからには、たとえ世界が闇に包まれようとも諦めるわけには行かないのだと、それ以上は無暗に悪い想像など働かせずにただただ武器を振るい、呪文を放った。決して諦めないというのはこういうことだと、彼は自身に言い聞かせて戦い続けた。<br />
日の光がこれほど眩しいものだっただろうかと、まるで吹き飛ぶように空を覆っていた暗雲が散り散りに消えていった時、そう感じた。戦っていた魔物の気性が嘘のように大人しくなった。魔物が目の前から消えていなくなるようなことはなく、その存在は確かにこの世界に残りながらも、目の前で戦う人間から慌てて逃げ出すように、背中を見せてどこへともなく走り出した。唐突に空に現れた陽光の力に人間は驚くだけだったが、魔物らはその強い光の力に恐れを為したに違いなかった。<br />
戦いは突如として終わった。ヘンリーは全身を包んでいた悪寒から解放され、合わせて絶望の緊張感から逃れることができたと、目から涙が零れたが、すぐにそれを拭ったために彼のその姿を見た者はいない。<br />
リュカたちが世界を救ったのだと、誰の便りを受けるでもなく彼はそうと悟った。辺りに流れる空気が日を浴びて暖かくなり、戦う兵たちは束の間ぽかんと立っていたが、城の見張り塔に立つデールが空からの陽光を受けた鏡を持ち、その隣に立つマリアが両手を組み合わせると、鏡の光は一瞬輝きに満ち溢れた。マリアの斜め後ろに立っていたコリンズはあまりの眩しさに目を開けていられなかった。その光は、ラインハットの人々に真の平和がようやく訪れたのだと知らせたのだ。<br />
ラインハットの国にそのような事情があったことを、リュカたちは知らない。ヘンリーもまた事細かに教えるつもりもなかった。こいつは十分に苦労しているんだからと、これからはただゆっくり休めばいいのだと、そう思うだけだ。ようやくこの世界に真の平和が訪れたのなら、これからは運命も宿命も気にせずに互いに過ごすことができるだろうと、ヘンリーは口元に小さな皺を刻みながら笑みを浮かべる。<br />
「俺もリュカの友人として鼻が高いぞ」<br />
口にする言葉というのはどうしても多かれ少なかれ嘘が混じる。鼻が高いなどと口にするのは、ヘンリーがいつも通りにお道化ている証だ。本心でありながらも、本当に伝えたいことはこのような言葉に収まるものではない。結局、言葉というのは心全てを伝える手段にはならないということなのかも知れない。<br />
「お前とは本当に長い付き合いだったな」<br />
しかし何も伝えないでは、何一つ伝わらない。そして言葉として伝えれば、それが聞いた者の一部になることは間違いない。第一、伝えないままに別れてしまっては、もう後戻りもできないことを、ヘンリーもリュカも知っている。<br />
「これからも仲良くしてこうな」<br />
「うん、もちろん」<br />
向かい合わせに座るソファを立ち上がり、二人は互いに右手を差し出し固く握手を交わした。世界は勇者とその仲間たちによって救われた。ただの御伽噺であればそれでお話はおしまいだ。しかし彼らの生きる世界は寧ろこれからが始まりのようなものなのだ。特に彼らはそれぞれ国を代表する立場であり、これからも人生を懸けて為すべきことが山ほどあり、その仕事に終わりはない。悪しき魔物の存在が小さくなったとは言え、悪しき者がすべて滅びたわけでもなく、恐らく世界はそのようなことにはならない。国を背負う者としては、寧ろこれからの方が面倒ごとが増えることにもなるのかも知れない。<br />
しかしそこで不安を覚えたり、溜息をつくようなことにはならない。光が戻ったこの世界に誰もが顔を明るくしている。地上を照らす日の光があり、人々の明るい顔があれば、それでリュカもヘンリーも己の為すべきことに意気込んで向き合うことができる。苦難を知っているからこそ、彼らは光のありがたみを人よりも深く感じることができるのだ。<br />
唐突にラインハット城の最上階の大窓から侵入するような形で入り込んだために、今になってリュカたちの前に茶と菓子が給仕によって運ばれた。質素な焼き菓子はマリアの手作りのもので、瓶に保存してあるものから出されたものだった。マリア自身がそれを言うことはないが、見た目は質素だが丁寧に形を整えて作られている焼き菓子を見て、リュカはすぐにそうと気づいていた。<br />
床のじゅうたんの上に寝そべっているプックルは鼻を引くつかせ、赤い尾を一振りしたので、驚く給仕の者に代わりポピーが焼き菓子を受け取り彼に食べさせてやった。リュカたちの後ろに控えるように立つピエールにはマリアが直々に手渡しに向かう。ピエールの手を取り、焼き菓子を渡すマリアを見ても、ヘンリーは和やかな表情を見せている。リュカも彼の家族も途轍もない宿命を負い、その道を歩んできたが、寧ろ彼の家族よりも長らく主である彼と共に同じ時を過ごしてきたピエールの苦労を思うと、それもまた計り知れないものだとヘンリーはつくづくと思う。<br />
リュカとヘンリーがマリアの兄ヨシュアの計らいであの大神殿からの脱出に成功し、十余年ぶりに地上世界へと戻った後、間もなく彼らの仲間となったのがスライムナイトであるピエールだ。ヘンリーは自らがラインハットに残ることを決めた際、これからリュカを支えていけるのは魔物の仲間であるピエールだろうと期待していた。そして彼の期待以上に、ピエールはリュカを支え続けてきたはずだ。魔物の生というものがどういうものなのか、ヘンリーは詳しくは知らないが、リュカを主と慕うピエールはこれからもその生が尽きるまでリュカを支えると同時に、グランバニアという国と共にあり続けるのだろう。<br />
「やっぱり美味しいわよね～、マリアさんの作ったお菓子。ねえ、今度作り方を教えてもらってもいいかしら？」<br />
当然ビアンカも出された焼き菓子がマリアの手によって作られたものと気づいていた。世界は平和になったのだということを示すように、ビアンカは明るい顔つきで小さな菓子を食べながら、今度はアンクルに菓子を手渡しているマリアにそう言う。<br />
「ええ、もちろんです。でもビアンカさんの方がお料理などお上手でしょうから、あまり自信はありませんが……」<br />
「マリア様の作るお菓子ってとても美味しいもの。私も一緒に作り方を習いたいな」<br />
「あら、ポピーも？　ふふ～ん、誰に作ってあげたいの？」<br />
「えっ、誰にって……」<br />
母ビアンカにそう言われて、ポピーはまるで意識していなかった「誰に菓子を作りたいのか」を意識する。彼らの正面に今座るのは、見た目にはうり二つのような父と子だ。同じ緑色の髪を伸ばし、にこにこというよりは、どこかにやにやとポピーを見るヘンリーと、その隣で慌ててポピーから視線を外したコリンズだ。<br />
「お、お父さんとか、お兄ちゃんとか！」<br />
「おお、良かったな、コリンズ！　お前もきっとポピーちゃんの言う“とか”の部分に入ってるぞ」<br />
「う、うるせーよ、オヤジ！　別にそんなのどうでもいいんだ！」<br />
「もしコリンズくんがもらえなかったら、ボクが分けてあげるよ！」<br />
「お前はもっとうるさいんだよ、ティミー！」<br />
「お兄ちゃんはうるさくないもん！　お兄ちゃんがせっかく分けてあげるって言ってるのに、何よその言い方！」<br />
「何だよ、それ！　なんでオレがティミーからもらわなきゃいけないんだよ！」<br />
「分けてあげるって言ってるんじゃない！」<br />
「お前からオレにくれればいいだろ！」<br />
言った瞬間に、コリンズは顔を真っ赤にし、釣られてポピーも言葉に詰まり、顔を赤くする。ティミーは「あ、でもコリンズ君はいつも食べてるもんなぁ」と、マリアの焼き菓子をいつでも食べられるコリンズには何の不満もないだろうというように首を傾げている。子供たちの様子を見ながら、今はもう、ティミーとポピーに勇者という運命の暗さを感じることもないのだと、リュカはそれが心から嬉しかった。魔界へと旅立つ前は、こうして子供同士が無邪気に語らう姿を見ても、この光景をこの先も見たいから旅を進めるのだと思っていても、何の翳りもなくこのような明るい未来をはっきりと思い描くことができなかった。<br />
再び席に戻ってきたマリアが、今度はヘンリーの隣ではなくコリンズの隣に並んで座る。そしてあと一、二年のうちに背丈も越されるかもしれない息子のコリンズの頭を撫でると、リュカへと向き直りにこやかに話す。<br />
「あなた方のおかげで世界が平和になり、兄もきっと浮かばれたと思いますわ」<br />
マリアもきっとリュカと同じように感じたのだろうと、彼女の穏やかな顔つきを見ながらリュカはそう思った。彼女の口から兄ヨシュアのことが話されるときには、いつもどこか悲し気で後ろめたい雰囲気が見られたが、今それは見られない。彼女が兄を喪った悲しみは決して消えることはないのだろうと思う。それはリュカが父と母を喪ったこととも同じようなことだろう。しかしその悲しみを超えて得たものがあれば、悲しみを乗り越えることができるのだと、今の彼女はそれを示しているようだった。<br />
世界の犠牲となった人々がいる。それを決して忘れてはいけない。しかしいつまでもそれだけに縛られていては、犠牲になった人々も浮かばれない。大事なのは、忘れないこと、覚えていること、思うこと。それが大事だと分かるから、人は己の心と向き合うためにも祈りを捧げるのかも知れない。<br />
「ボクはさ」<br />
まだ声変わりもしていないティミーは今、その身を天空の防具に固めており、まだ子供でありながらも彼が勇者であることを疑う者はいない。いつもは背に負っている天空の剣は今、ソファに座る膝の上に横に寝かせるようにして持っている。勇者の持つ剣は、勇者であるティミーの意思に反応するように、今はまるで穏やかな寝息を立てるかのようにその鋭さを眠らせている。<br />
「ボクが伝説の勇者で良かったと思うよ」<br />
世の人々が想像する勇者像とは恐らくかけ離れたところに、勇者ティミーは立っているに違いないとリュカは思う。そう思うのは、リュカ自身がそう思うからだ。父パパスの遺志を継ぎ、リュカは勇者を探す旅を続けた。世界を救うと言われる人物であれば、屈強な体つきをした大人の男に違いないと、その想像は父パパスに酷似したものとなっていた。<br />
我が子が探し求めていた勇者と知った時、リュカの胸にはただ絶望が溢れた。同時に、自らはまるで覚悟が決まっていなかったのだと思い知らされた。我が子が勇者であるならば、それを丸ごと引き受けなければならないのが親なのだと、勇者の息子を前に立たせるのではなく、勇者を守るために己が前に立つのだと、生まれたその覚悟に迷いはなかった。<br />
親が子を育て、成長させるのと鏡合わせのように、子が親を育て、成長させるということを、リュカはティミー、ポピーの存在に大いに知らされた。これからも彼らには様々なことに気づかされ、そのたびにリュカもまた人としての成長を遂げていくのだろう。自分が勇者で良かったと胸を張る息子の姿は、世界が平和を迎えた今は心安らかにその言葉を受け入れられる。<br />
「ふーん、ティミーは伝説の勇者だったのか」<br />
まるで今知ったかのようにそう嘯くコリンズの表情は、彼が頑張って作っている不遜さが表れているが、その目にはただ純粋な憧れが見えてしまっている。ティミーが身に着ける天空の武器も防具も嘘のようでありながらも本物の煌めきを放ち、ラインハットの王子として育つコリンズも見たことのない宝石のように輝いているのだ。<br />
「あれ？　コリンズくん、知ってたよね？」<br />
「もう何度も話したことがあったじゃない。忘れてたの？」<br />
「忘れてねえよ。でも、ホントに悪いヤツをやっつけるなんてさ……お前、えらいんだな」<br />
「えらい……えらいのかな、ボクって」<br />
「私はお兄ちゃんがえらいとは思わないけど……すごいなとは思う」<br />
「それならポピーだってすごいよ！　ポピーの力がなかったら、ボクたち進めなかったと思うもん」<br />
「そう、かな？」<br />
「そうだよ！」<br />
「よしっ、じゃあ、なんだったら本当にオレの子分にしてやってもいいぞ！　二人とも！」<br />
コリンズの無邪気ながらも反感しか買わないような言葉に、ティミーは目を瞬きぽかんと口を開けて彼を見つめ、ポピーはすかさず「はあ！？」とその場にいきり立つ。<br />
「何なのよ、子分って！　コリンズ君の子分になんかならないわよ！」<br />
「いっ、いいじゃねえかよ！　オレがお前たちの親分になれば、お前たちだって少しは楽に……」<br />
「コリンズ君こそお兄ちゃんの子分になればいいのよ！」<br />
ポピーがここまで感情をむき出しにして、舌まで出して怒っている姿など、リュカはこのラインハットでしか見たことがないような気がしていた。ふと妻のビアンカの顔を覗き見れば、彼女は何やら楽し気ににこにこと笑っている。彼女も娘のポピーがこれほど怒る姿を見慣れていないはずだが、どこか余裕を持って傍観するように娘を見守っている。彼女にとって、娘と友好国の王子が喧嘩することは特別悪いことでもないようだ。<br />
「コリンズ君ってわがままっぽいけど、本当は根はいいヤツ……なのかな？」<br />
ティミーの心の声が漏れ聞こえ、リュカは息子の言葉に、腕組みをしながら小さく唸るように長く息を吐きだした。じゅうたんに寝そべっていたプックルが耳をぴくりと動かし、のそりと起き上がると、凶悪にも見える牙を見せながら大欠伸をして見せる。その姿だけでコリンズは思わず震え上がり、小さく「ひぃっ」と声を出した。以前はリュカと共にプックルの背に乗せてもらったこともあるコリンズだが、やはり見た目に凶悪な姿をしているプックルは本能的に怖いらしい。<br />
「あ、プックル、まだ寝ていて大丈夫だよ。大丈夫、そういうことじゃないから」<br />
「がう？」<br />
「うん、大丈夫。そういうことじゃないから」<br />
「……どういうことじゃないのか説明しろよ、リュカ」<br />
「……いや、僕にもよく分からないけど、何だろう、複雑だよね、うん」<br />
「複雑なんでしょうね、娘の父親って……父さんもどんな気持ちだったのかしら……」<br />
「コリンズ、ティミーくんもポピーちゃんもお友達でしょう？　お友達に子分だなんて言うのはよくないことですよ」<br />
「……はい、母上」<br />
同じことを父であるヘンリーに言われれば素直に聞けないコリンズだが、母であるマリアに言われると素直に聞き入れることができるのは、マリアの持つ雰囲気であり、その雰囲気を作り上げている彼女の人生なのかも知れない。何もかもに反抗するのではないコリンズの態度は、実は聡明であることを垣間見せている。先ほど彼が言いかけた言葉も本当のところは、勇者の宿命を背負っていたティミーとポピーの重荷をいくらか自分も背負えればと思ったから出かけた言葉だった。小さい頃のヘンリーそっくりの容姿を見せつつ、後悔と反省を身に帯びるヘンリーと、亡き兄の言葉を守り、己の幸せに向き合う努力を続けたマリアからの愛情を受けたコリンズが、悪い子に育つはずがないとリュカも分かっている。それ故に、いつもは穏やかな娘ポピーをこれほど怒らせてしまうコリンズに対して、得も言われぬ複雑な感情を抱いてしまうのだった。<br />
ラインハット城の最上階に位置するこの王兄家族の私室には、昼前の明るい日差しが入り込み、いかにも平和が訪れたのだと言うように、室内を温かく照らしている。薄く開いた窓からは緩やかに風が通り、ラインハットの周辺に広がる緑の草原の景色を彷彿とさせるような瑞々しい香りが漂う。この景色が少し前まで、暗黒に覆われかけていたのだ。それが再びの日の目を見るように、暗雲が吹き飛ぶように晴れ、その上を行く竜神が高らかに鳴いたのを見た人々が、互いに手を叩きあって平和の到来を喜び合った。<br />
今また、ラインハットの遥か上空で、竜神が高らかな声を上げたのをリュカたちは聞いた。エルヘブンの村にいた時と同様、そろそろラインハットを引き上げろという神の指図だ。<br />
「おい、リュカ、お呼びだぞ」<br />
退屈そうに部屋の窓から外を見ていたアンクルが、窓の外に見えるマスタードラゴンの飛ぶ姿を目にして声をかける。見慣れないアンクルの姿は、ヘンリーたちにとってはまるで部屋の端に立つ悪魔の像のようでもあり、リュカの仲間と言えども思わず表情を固くしてしまう。一度は魔物によって乗っ取られかけていたラインハットという国においては、魔物という存在そのものに対する拒絶反応は強い。部屋の中でヘンリーたちの護衛を務める兵たちの顔に常に緊張感が漂っていたことに、リュカが気づかないはずもなかった。<br />
「もうちょっとゆっくりしたかったんだけどなぁ。でもあんまりのんびりもしてられないみたいだし」<br />
「早く帰ってやれよ、お前の国に。俺のところにはまたいつでも来られるだろ？」<br />
「うん、そうだね。平和になったんだもんね」<br />
「ただ来るにしても窓から入ってくるようなことはするなよ。ちゃんと正面から入ってこい」<br />
「うーん……うん、なるべくそうするよ」<br />
言葉を濁すようにそう返事をしながら、リュカはソファから立ち上がるとくるりと後ろを振り向き見る。ソファの後ろに立ち控えていたピエールが、ずっと手に持っていたクッキーを慌てて隠すように手の中に握りこみ、握る手の隙間から小さな欠片が床へと落ちた様子を目にして、リュカは思わず小さく笑ってしまった。そしてソファから移動し、ピエールの隣に立つとこそこそと一言二言交わし、その間にピエールは握りこんでしまったクッキーを緑スライムの口へと屈んで放り込んだ。マリアからのクッキーを食べてしまうのが惜しいと手に持っていたピエールの姿に、ヘンリーもどこか温かい笑みを浮かべていた。<br />
「じゃあ、またね」<br />
「おい、言った傍から窓に向かうんじゃねぇよ。普通の人間は四階の窓から出たり入ったりしないんだよ」<br />
「それにリュカ、あなた、グランバニアの国王として、ラインハットの国王様にご挨拶しなくていいの？」<br />
「あ、そっか。デール君にも会っておかないとね」<br />
ちょうどその時、頃合いを見計らったようなタイミングで、王兄夫妻の私室の扉がノックされた。素早く扉が開かれ姿を現したのは、たった今話に出たラインハット国王デールだった。急いで階段を上ってきたのだろうか、少し息を切らしながらリュカのことを目を丸くして見つめている。<br />
「リュカ王！　無事にお戻りになられたんですね！」<br />
「あ、良かった。今ちょうどデール君のところに行こうと思ってたんだ」<br />
「ビアンカさんが言わなきゃ、窓から帰ってただろ、お前」<br />
「みなさんご無事で本当に喜ばしい限り……うわぁ！」<br />
「がう？」<br />
「ああ、悪いな、驚かせるつもりはないんだがな」<br />
リュカの脇から現れたプックルと、リュカの後ろから近付いてきたアンクルの姿に、デールは思わず後ろに飛びのき驚いた。ヘンリーよりも寧ろ、デールの方がこのラインハット城の中に魔物がいるという事態に拒絶反応を示してしまうのは仕方のないことでもあった。そんなデールの姿を見て、リュカはやはり仲間の魔物たちを連れてこの城を歩くことはできないということを改めて感じた。<br />
「い、いえ、皆さまリュカ王のお仲間、なんですよね？　この度は世界を救ってくださって本当にありがとうございました。ラインハットの王として、国民を代表し心からお礼を言います」<br />
王兄夫妻の私室の開いた扉を挟んで、デールがラインハット国を代表して言葉を述べる。本来であれば、友好国の国王同士、改まった場所と機会を設けて互いに言葉を交わすべきところ、どこかの家の玄関の扉を挟んでの立ち話のような雰囲気に収まりそうなこの場面を、デールの衛兵二人が思わず顔を見合わせて奇妙な感覚を共有している。<br />
「リュカさん。いえ、グランバニアのリュカ王！」<br />
デールは当然のようにリュカたちを階下のしかるべき場所へと招いて、改めて国王同士の話をしようと考えた。しかしそこで再び、ラインハット上空を旋回している竜神が高らかな声を上げる。ラインハットを襲おうとしていた魔物らの発する声とは異なり、竜神の声には恐怖ではなく畏怖がある。先ほども聞こえた竜神の声に、リュカが申し訳なさそうに指で上を指し示した。<br />
「早くしろって言われてるみたいなんだ。だから、ごめんね、デール君」<br />
「ははあ、そうですか……本当はもっとお引止めしたいところですが……さぞかしグランバニアではあなたの帰りを待っていることでしょう」<br />
「うん、今度来るときはまたゆっくりできるように来るからね」<br />
「はい、ぜひ」<br />
「今度来るとき、なんて“ちゃんと”言えるようになったんだな、お前も」<br />
「あはは、そうだね」<br />
これまでにも何度もラインハットを訪れているリュカだが、ここを去るたびに毎度もう二度とここには来られないのかもしれないと、胸の中のどこかでそう思っていた。決して旅の最後まで諦めないと決めていたリュカだが、同時にもう二度とここへは来られないのかもしれないという覚悟も胸に秘めていた。そしてその覚悟は、言われるヘンリーも同様だったのだろう。<br />
「やっぱりここから行くよ、ヘンリー」<br />
「ああ」<br />
そう言いながらリュカが懐から畳んだ魔法のじゅうたんを取り出すのを、ヘンリーは腕組みをしながら静かに見つめていた。ラインハットの兵たちは決して悪気もなく、リュカの仲間である魔物の姿に多かれ少なかれ驚きを隠さず、いつでも腰の剣を引き抜けるようにとその身体には目に見えて緊張が漲っている。ラインハットの国を無暗に混乱させないためにも、リュカは来たとき同様に、泥棒よろしく大窓から魔法のじゅうたんで飛び出すことにした。<br />
先にアンクルが大窓から飛び出し、広がった魔法のじゅうたんの下へと潜り込む。今度はそれを中庭から見上げていた犬が、一声悲鳴を上げた後に、けたたましく吠え出してしまった。犬の鳴き声に反応するように、中庭に姿を見せる人々もアンクルの悪魔らしき姿に各々恐怖の反応を示している。<br />
「……まあ、オレを見たらそうなるだろうな」<br />
「国民には私から後で説明をしますのでご安心ください」<br />
「よろしくね、デール君」<br />
「お前たちも立派な救世主だもんな。何も勇者だけがこの世界を救ったわけじゃないだろ？」<br />
「その通りですよ、ヘンリー様！　みんながいてくれたから、ボクもポピーも戦えたんです！」<br />
「勇者はお兄ちゃんなのかもしれないけど、勇者だけじゃ世界は救えなかった……」<br />
「プックルもピエールもアンクルも、ものっすごく大活躍だったのよ！」<br />
「がうがうっ！」<br />
「いえ、私などは何も大したことは……」<br />
「そんなことはありませんよ、ピエールさん。あなたはずっと、リュカさんたちを支えていらっしゃるじゃありませんか」<br />
「……母上もこの……緑の騎士とお知り合いなんですか？」<br />
互いに話したいことは尽きないが、それもまた“今度”という機会が巡ってくるという安心感が、彼らを包んでいる。リュカもポピーも、移動呪文の使い手であり、遠く離れたグランバニアの国からでも瞬く間にこのラインハットへと立ち寄ることができる。今のこのひと時の別れには、少しの寂しさも悲しさもなく、ただただ明るい未来を描ける別れだと、魔法のじゅうたんに乗り込んだリュカはもう一度大窓に向かって手を伸ばす。ヘンリーが身を乗り出すようにして手を伸ばし、もう一度握手を交わした。<br />
「いつでも来いよ」<br />
「うん。今度はうちにも来てよ」<br />
「ああ、そうだな。お前の国も一度見てみたいもんだ」<br />
「頼もしい仲間たちがたくさんいるよ」<br />
「……おっかないのをけしかけるのはもうやめろよな」<br />
「がう？」<br />
「おっかないやつなんていないよなぁ、プックル」<br />
このままではいつまで経ってもここを立ち去れないと、アンクルが「行くぞ！」と声をかけるなり、下から支える魔法のじゅうたんを運ぶように、大窓を離れて飛び上がった。ぱっと離れた互いの手の感覚はそのままに、リュカはその手を振り、ヘンリーもまたその手を振って一時の別れを告げた。<br />
今までにこれほど明るい別れがあっただろうかと思えるほど、リュカは明るいヘンリーの顔を見つめ、ヘンリーは明るいリュカの顔を見つめた。お互い、一人ではない。家族がおり、苦楽を共にする仲間たちがいる。晴れ渡った青空を望めば、これから先には明るい世界が広がるばかりだと希望だけを抱く。<br />
あっという間に小さくなったラインハットの景色の中に、ラインハットの城下町に住まう人々が空を見上げ、指さしたり大きく手を振る者の姿も見られる。竜神が青空を旋回している。あらゆる景色が今は光に満ちていると、リュカは自然と浮かぶ笑みそのままに親友の国を眺めていた。</p>
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		<title>本編を更新しました。「母を想う」</title>
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		<pubDate>Fri, 13 Feb 2026 04:48:53 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[日記]]></category>
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<p>本編を更新しました。</p>



<p><a href="https://like-a-wind.com/text46-2/">母を想う</a></p>



<p>世界が平和になり、最初に訪れるのはこの村でした。この巡る順番も、色々と考えさせられるところがあります。しみじみ、だけど明るく、がこの村でのお話ですね。</p>
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		<title>母を想う</title>
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		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Fri, 13 Feb 2026 04:42:07 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[DQ5（長編）]]></category>
		<category><![CDATA[青年時代（６）]]></category>
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					<description><![CDATA[竜神が向かう先は、リュカたちの帰る場所グランバニアなのだろうと、皆そう思っていた。竜神の背中はあまりにも広く、容易に眼下に広がる世界地図のような地上世界の景色を望むことができな ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>竜神が向かう先は、リュカたちの帰る場所グランバニアなのだろうと、皆そう思っていた。竜神の背中はあまりにも広く、容易に眼下に広がる世界地図のような地上世界の景色を望むことができない。ただその速度は凄まじく、まるで大空のどこまでも続くような空気を切り裂くように移動する。そのどこまでも青い景色が、まだリュカたちには眩しい。白い雲よりもさらに上を行く竜神の背の上で浴びる陽光も強く、熱いほどの日差しを浴びれば、あの暗闇に包まれた魔界での記憶は一気に薄まっていくようだった。が、リュカは決してあの場所を忘れたりはしないと、自ら強く思い決めている。<br />
竜神が少しずつ下降を始めた。日は西にやや傾きを見せているが、まだ空は青く明るい。下降をする竜神の身体は広く行き渡る白い雲の中へと入りこんだ。しかしそれもすぐに抜け出した。ポピーがまたリュカにしがみつき、表情を硬くさせている。リュカも、この胃が上へと持ち上がるような竜神の下降の動きは好きではないというよりも、気分が悪くなる。相変わらずビアンカとティミーは元気で、悲鳴でも何でもない悲鳴を上げて楽しんでいる。ピエールは平静を装っているが、恐らく必死になって竜神の背に緑スライムを張り付けて踏ん張っている。今度はプックルがうっかり竜神の背から飛び上がりそうになるのを、アンクルがその赤毛の背中を上から押さえた。<br />
グランバニアの大森林の景色を想像していたリュカたちだったが、彼らの目に入ったのは、天を衝くような尖塔のある景色だった。近くには小川が流れ、草原も森もあるような自然豊かな景色だが、それらがあるのは深い深い谷の中だった。グランバニアではないこの景色を見ても、リュカの胸の中には“帰ってきた”という感覚があった。それはリュカ自身が故郷に帰ってきたのではない。きっとリュカの指に光る命のリングに、その想いが宿っているのだろう。<br />
エルヘブンの村人たちの姿が小さく見えた。彼らの目にも当然、大空を飛ぶ竜神の姿が見えている。まだ小さな点ほどに見えている人々の姿を目にしても、リュカたちにはその表情の明るい雰囲気を感じることができた。<br />
「おい、リュカ。このでっけえ神さまは、あの近くに降りられんのか？」<br />
アンクルの言葉に、竜神が人間世界に容易に足を踏み入れられないことに改めて気づく。あまりに大きな竜神はその大きな身体ゆえに、少しの動きでも地上世界への影響力を持ってしまう。できる限り地上世界を荒らしたくはないと考える竜神の降りるべき地というのは、城一つが建つような広さが必要になるのだ。<br />
「あっ、そうだ」<br />
エルヘブンのどこか懐かしさが胸に迫る風景を見つめながら、リュカはふっと思いついたような声を上げた。この村を初めて訪れた時、リュカはマーサの子として迎え入れられた。リュカが村に来る前からそれを予期しており、落ち着いた様子でリュカたちを快く迎え入れてくれたのは、巫女たちだけではなく、村人たちも同じだった。リュカが当時まだ厳しい旅を続けていることを案じるように、彼らは村の宝をリュカたちに譲り渡したのだ。世界に二つとないに違いない、魔法のじゅうたんが今もリュカの懐に小さく折りたたまれて収まっている。<br />
「これで下に降りよう」<br />
リュカは懐からまるで紙を折りたたんだだけのようなものを取り出すと、それを広げ始める。それはリュカが広げようとせずとも自らの役割を知っているかのように、自ら徐々にその面積を広げていく。間もなく、竜神の背の上にふわふわと浮かぶ魔法のじゅうたんが、それこそ故郷に帰ってきたと言わんばかりに波打ち、リュカたちが乗り込むのを待つ。<br />
「うわ～、なんだか久しぶりだね！」<br />
「大丈夫かな……」<br />
「大丈夫よ、ポピー。これだけ広いんだもの、落っこちたりなんかしないわ」<br />
先ほどまで小さく折りたたまれた紙のように見えていただけの魔法のじゅうたんだが、今はもう立派に丁寧に織り込まれた一枚の巨大なじゅうたんに変身している。そこに飛び跳ねて乗り込むティミーも難なく受け止め、魔法のじゅうたんは彼の身体を波を起こして飲み込むように受け入れる。ポピーは遠慮がちにそっと乗り込み、ビアンカは娘を支えるように手を添えながら自らも乗り込んだ。プックルはじゅうたんに気遣うようにしっかりと鋭い爪を隠し、ピエールはポピーと同じような不安な様子を隠さないまま静かに乗り込んだ。<br />
「オレは横からついていくよ」<br />
「アンクルは飛べるもんね。便利だよなぁ、空を飛べるって」<br />
そう言いながらリュカも最後にじゅうたんに乗り込む。魔法のじゅうたんを動かすには、どうやらエルヘブンの血を引く者の意思が働かなければならず、リュカたちをじゅうたんの上に受け入れても尚、まだ小さく波打ちながらその場にとどまり続けている。<br />
竜神はその間、エルヘブンの村の上に留まるように飛んでいた。当然のごとく、己の背で何が起こっているのかを把握している。なるべく安全に彼らをあの場所へと送り届けなければと、竜神はその厚意からもう少しエルヘブンの村へ近づこうと飛行を再開すると、竜神の背の上にふわふわと浮いていた魔法のじゅうたんはぽつんとその場に取り残されてしまった。<br />
途端に、魔法のじゅうたんは安定感を失い、ぐらぐらと揺れ始める。そもそも、この魔法の品は竜神が飛行するほどの高度な場所を飛ぶことができない。地面からそれほど離れない場所で安定を保ちながら飛ぶものなのだ。<br />
ティミーとビアンカは揃って悲鳴を上げた。ポピーは悲鳴すら出せなかった。プックルはじゅうたんから離れないようにと、収めていた爪を剥き出しにしてじゅうたんにしがみつく。ピエールは緑スライムを縦に伸ばしてどうにか身体の一部をじゅうたんに張り付けていた。まだじゅうたんの端に立っていたリュカは、あまりの勢いで下降するじゅうたんから放り出され、空中でアンクルに捕まえられた。<br />
「アンクル……ありがとう」<br />
「せっかくこっちの世界に戻ってきたのに、こんなところで死んじまったら洒落にもなんねぇよ……」<br />
リュカを脇に抱えながら、アンクルはあっという間に小さくなってしまった魔法のじゅうたんを追いかけ、急降下していく。そんな彼らの姿を、図らずもその状況を引き起こしてしまった竜神は、少々ばつが悪そうにエルヘブンの村の遥か上空を旋回しながら見下ろしていた。</p>
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<p>「そうですか……。ではたった一度きりとは言え、マーサ様に会ったのですね」<br />
エルヘブンの村を象徴する、天を突くような祈りの塔の中、この村を治めることを継承した四人の巫女が、リュカたちと相対している。祈りの塔の内部に西日が差し込み、その日の光を、祈りの間の中央にある水晶玉を照らしている。床の上に柔らかな布が置かれ、その上に大きな水晶玉が安置されている。四人の巫女たちはどんな時でも祈りを捧げることを忘れない。彼女たちには今、中央の水晶玉の中に映る何かしらの景色が見えているのだろうか。それとも、主を失った今となっては、水晶玉は何も答えなくなってしまったのだろうか。<br />
「マーサ様のその時の嬉しそうな顔が目に浮かぶようですね……」<br />
四人の巫女たちは皆、いつも通りの静かな声でリュカに語りかけていた。しかしそのどれもが、静かな涙声だった。彼女たちの胸に去来するのは、在りし日のマーサの姿。それに重なるリュカの姿が目の前にあり、彼女ら四人は各々声を詰まらせながらも、リュカたちの、マーサの子らの無事を心の底から喜んだ。<br />
「このエルヘブンは……大丈夫でしたか？」<br />
リュカがそう問うのは、外から見たときにこの祈りの塔の屋根の一部が壊れていたからだった。明らかに何者かの攻撃を受けた跡が見られ、リュカたちが魔界で戦っていた時に、確かにこの地上世界にも悪しき大魔王の影響が及んでいたことを察したのだ。<br />
地上世界に現れ始めていた魔界の影響に、エルヘブンも戦っていた。四人の巫女たちは、本来ならばエルヘブンの長老ともなるべきだったマーサの遺志を継ぐように、この村を守るために立ち上がっていた。地上世界の国々であるグランバニアやラインハット、テルパドールなどよりももっと古くから存在するこの村を守ることは、彼女らに課せられた使命だった。<br />
世界のためにも、このエルヘブンがなくなることはあってはならないのだと、巫女たちは各々の力を発揮していた。彼女たちの持つ力は決して攻撃的な力ではない。あくまでもこの歴史の深い村を守るための力だ。近くに流れる小川は、村人たちの生きる源であると同時に、いざというときに村を守るための力となるものだった。四人の巫女たちは力を合わせ、小川の清流から守りを生み出した。<br />
「リュカ」<br />
名を呼ばれたリュカは、目の前に立つ小柄な巫女を見つめる。その顔にはどこか、母マーサに似るところがあるような気がした。そのことに気づけば、リュカは目の前に立つ四人の巫女たちに山ほど聞きたいことがあるのだと、己の中から溢れるほどの疑問がわき出すのを感じた。母マーサとは一体どのような人だったのか。それは決して人柄などという範囲に留まるものではない。母は果たして人間だったのかという、ありえないような疑問だ。そしてこの世界でも重要に違いないエルヘブンという村が、世界では全く認められていない現実は何なのか。この村の過去、それも程遠い過去に一体どのようなことがあったのか。母マーサを失った今となっては、エルヘブンという村について詳しく聞けるのは恐らくこの四人の巫女に限るだろう。<br />
しかしリュカが口を開けるよりも先に、リュカの名を呼んだ巫女がいかにも嬉しそうに顔を綻ばせ口にする言葉に、リュカは問いかけることができない。<br />
「貴方の母上マーサ様を、私たちはとても誇りに思います」<br />
巫女のその一言で、リュカが疑問に思い、彼女らに聞きたかったことの全てが瞬時に消えてなくなってしまった。リュカが母マーサの死を伝えると、彼女らは一人も取り乱すことなく、しかし悲し気な表情は隠さずにそれを受け入れた。その態度に、彼女たちは皆、既にマーサの死を知っていたのだろうとリュカは感じた。その中で彼女らは、リュカが最期に母に会えたことを喜んでくれたのだ。目を潤ませながら、マーサの死を悼むと同時に、彼女が最愛の息子であるリュカと会えたこと、そして子供のリュカが母であるマーサにおよそ三十年の時を経て会うことができたことを、エルヘブンの巫女たちは心から喜んだ。<br />
そしてマーサが最期まで、初志貫徹するように、この世界を守り抜くために戦ったことを、彼女たちは皆本心から誇りに思った。村に生まれたマーサはゆくゆくはこの村の長老となるべき女性だった。彼女はその生まれからか、誰よりも運命に翻弄された者だったのかも知れない。その運命を受け入れながら、彼女は運命に導かれるままにエルヘブンの村を出て、一国の王妃となった。マーサが己の運命を受け入れるということは、エルヘブンの村に留まることに収まらなかったのだろう。己に降りかかる全ての運命を受け入れること、それがこの世界に必要なことなのだと、最愛の夫と、最愛の息子と引き離されてしまった後でも彼女は決して世界を、未来を諦めなかった。<br />
己の運命を信じるということは、彼女にとって決して諦めないことだったに違いない。その姿はリュカの父パパスにも重なる。父もまた死ぬ間際でも、あれほどの業火の中においても、何一つ諦めていなかったのだとリュカは思っている。そうでなければどうして幼いリュカに、母を助けることを託すだろうか。パパスもまたリュカの未来を信じ、幼いながらも己の息子は勇気あるたくましい人間だと信じ、彼ならば絶対に母マーサを助け出すことができる、母と子は必ず再会を果たすと信じた。<br />
リュカもまた、目の前のエルヘブンの巫女たちがこの村の主であったマーサを誇りに思うように、父と母を誇りに思う気持ちが胸の中に溢れた。父と母の諦めない心は、息子であるリュカに自ずと受け継がれ、そしてそれはリュカの子供たちへも受け継がれた。何故その心は受け継がれたのか。それはきっと、親が子に“背中”を見せてきたからなのだろう。言葉で語るにはあまりにも多すぎる人の想いは、言葉に語らずともその背中に表れる。背中に語られる人の想いを、人は言葉に置き換えることもなく、ただただ己の中に感じ取ることができるものだ。親に限らず、人は人の想いを敏く感じ取ることができるに違いない。最も大事なものというのは、恐らく言葉に置き換えることもできない。しかしだからこそ人の想いは確かに人から人へと受け継がれていくものなのだ。<br />
「マーサ様はこれからもきっとあなたたちの心の中で生き続けてゆくことでしょう」<br />
マーサを深く知っている者からの言葉だと、リュカは目の前の巫女たちの様子を見ながらそう感じた。エルヘブンの村の巫女たちも、マーサが魔界に連れ去られてしまったと知った時から、このような日がいずれ訪れることを覚悟していたに違いない。しかし同時に、彼女たちは諦めずに村の主であったマーサの帰りを待ち続けた。覚悟することと諦めることは違う。諦めることとは断絶であり、覚悟するということは永続だ。彼女たちの心の中にもこれからマーサというエルヘブンの大巫女は生き続けていくのだろう。マーサがいなくなっても、マーサがいたということは永遠に消えることはない。<br />
「お父さんとお母さんと、おじいちゃんとおばあちゃんの血」<br />
そう言いながら、ティミーは己の両の手の平を見つめている。天空の装備に身を固め、剣を振るい続けてきた彼の両手は子供とは思えないほどに硬くなり、勇者としての力を発揮してきた。その手の平には、父と母から授かった命が生き、その父と母もまた、親から命を授かりこの世に生まれてきた。一体いつから、どこから命が始まったのかも分からない神秘の中に、今の己の命があるのだと感じると、己がたとえ勇者でなくとも、ただ一人の人間としてここに立っていることにも奇跡を感じる。<br />
「そのすべてがこの身体に流れてると思うと、すごく感動する」<br />
普段ならば意識することもない、自身の身体というもの。そこにはこの世のあらゆる奇跡が詰まっているのだと感じることができる。自分は自分であると共に、自分だけではないのだという繋がりに気づかされる。歴史のどこか一つでも、異なる点があったなら、今の自分は生まれていなかった。もし父と母が出会っていなかったら、もし祖父母が互いに一緒になることを望まなかったら、今の自分はこの世に生まれていなかったのだ。一体どれだけの奇跡が積み重なり、自分が生まれ、そして剰え自身は勇者としての運命をその背に負ってきた。その繋がりを、この祖母の故郷であるエフヘブンで深く感じることができるようだと、ティミーはその目にうっすらと涙を浮かべている。<br />
「ポピーもそうだろ？」<br />
父と母と離れ離れになっている間も、常に隣にいてくれたのは、双子の妹のポピーだった。生まれた時から同じ時を過ごし、グランバニアの人々はいつでも双子の兄妹を分け隔てなく一緒になって可愛がってくれた。そのような彼らの想いの中には間違いなく、グランバニアという国が失いかけていた国王リュカと王妃ビアンカの存在があった。親を知らずに育ってしまう双子のためにと、彼らは常に幼い双子に両親であるリュカとビアンカの話をし続けた。それは子供たちに、あなたたちの親は二人とも素晴らしい人なのだと教えなければならないという義務感を超えて、彼ら自身が抱える親が傍にいない双子への悲哀と、行方不明となってしまった国王と王妃への悲哀がそうさせたのだった。<br />
王子と王女、国における特別な立場にあって、全く同じ環境で育ってきたと言っても過言ではない双子の兄妹。王子と王女であると同時に、勇者とその妹という運命を受け、それすらも同じように享受してきた。彼らを取り巻く環境、運命、それらはすべて彼らの生きる時代にずっと紐づいてきた歴史の中に生まれたのだと思うと、その奇跡に感動しないではいられない。<br />
「うんっ！　お兄ちゃん！」<br />
まるでぴたりと共鳴するような想いが、ポピーの胸の中にも溢れていた。父と母が隣にいる。父と母をこの世に生み出した祖父母がいる。ずっと繋がってきたその血筋は、今ここにあるだけで奇跡そのものに違いない。どこで途切れてしまってもおかしくなかった。人間の命が儚いものだということを、ポピーは幼いながらにも既に感じている。それが、今生きている自分の中には確かに父と母の血が流れており、それは祖父母に繋がり、そのまた祖先へ、とずっとそれはどこまでも続いていく。一体どれほどの奇跡が重なって自分が生まれてきたのかと、出会ってすぐに喪ってしまった祖母の姿を思い出せば、その想いはただ深まるだけだ。<br />
「わたし、おばあちゃんともっといろんなこと話したかったけど……でも、もういいの……」<br />
ポピーはあの魔界の奥深くで、祖母マーサに会えることを心の底から楽しみにしていた。会ったら何を話そうと、様々なことがその頭に思い浮かんでいた。祖母の手によって生み出されたというあの魔界の町ジャハンナに住む人々についても、聞きたかった。元は魔物だったあの町の人々に好かれていた祖母マーサが、ポピーには不思議でたまらなかった。そしてエビルマウンテンの頂上で、巨大な祭壇の上で初めてマーサの姿を見たと同時に、彼女が抱いていた疑問は全て解かれたような気がしたのだ。何も言葉を交わさない内から、マーサという不思議極まりない祖母という人を、その身に知り受けたような気がした。それはきっと、己の中にも祖母の血が流れているからなのかも知れないと、ポピーはティミーと同じように両方の手の平を見つめる。<br />
「おばあちゃんのこと思っただけで胸があったかくなるから、きっとおばあちゃん、私の胸の中にいるの」<br />
その人が世界からいなくなっても、その人がいたという思い出はいつまでも生きる者の胸に残る。人は必ずいつか死ぬ。死んでしまえばすべては終わりかと言えば、それはあまりにも浅はかな言葉だ。この世に生きる者たちが、この世を去った者たちを忘れない限り、亡くなった人々もまたこの世から消え去ってしまうわけではないのだと、ポピーは今も手にしているストロスの杖を目にしながら微笑み、同時にその頬には涙が流れた。<br />
ビアンカの胸にも、たった一度だけ会うことのできたリュカの母マーサの姿が温かく残る。リュカは母に似ていると、サンチョがよく言っていた。一目見た瞬間に、マーサにリュカの面影を見るのは容易だった。サンチョの言う通り、母と息子はよく似ていた。息子を見つめる母の目が、息子への愛情に溢れていたのを、今もありありと思い出すことができる。マーサが魔界という世界でも数十年にも渡って生き続けていられたこと、それは魔界の扉の番人として唯一無二の力を持つことにも理由はあったのかも知れないが、彼女の精神を支えていたのは間違いなく一人息子リュカの存在だったに違いない。<br />
ビアンカ自身もまた、愛しい双子の子供たちと引き離された。石の呪いを受け、十年、時は過ぎた。その間、彼女の見る景色はほとんどが閉ざされ、気づいたときには成長した息子と娘、そして夫が目の前にいた。石の呪いの中にあったほとんどの時の記憶がないことは寧ろ幸せなことだったのかも知れないのだと、エビルマウンテンの頂上にあったあの祭壇に立つマーサの姿を思い出し、ビアンカはそう感じる。三十年もの間、ずっと、愛する夫と愛する息子と離れ離れになり、たった一人で魔界という世界に閉じ込められていたマーサを思うと、己の不運だった境遇など忘れてひたすら義母に対する憐憫の情が沸き起こる。<br />
「本当にお母さまには一度しか会えなくて残念だったわね」<br />
ビアンカの声は涙に震えていた。マーサに会うまではビアンカだけではなく、ティミーもポピーも、きっとグランバニアに待つ人々も魔物の仲間たちも、マーサを地上世界へ連れ戻し、共に再会を喜び合えるのだと信じていた。現実に行方不明となって数年立っていたリュカもビアンカも、グランバニアへの帰還を果たしたのだ。それは奇跡などと呼ぶものではなく、必ず起こりうるものだというほどの自信に気づかぬうちに繋がっていた。<br />
マーサの胸に秘めていた覚悟に、ビアンカは辿り着くことができない。ビアンカも勇者の子孫などというあまりにも特異な生まれを持つが、彼女はそれを知らぬままに育ち、過ごしてきた。しかしマーサは生まれながらにたった一人、魔界の門を開くことのできる力を持ち、エルヘブンの村の長となり、運命に導かれるままにグランバニアという国の王妃になり、玉のような王子を産むや否や魔物に攫われる……それから三十年もの間、胸に抱いていた赤ん坊のリュカのことを思いながら過ごすなど、もしかしたら死んでしまうよりも深い地獄にいたのかも知れない。そう考えると、ビアンカは悔しくてたまらない気持ちになってしまう。どうにかして、助けたかった。マーサのためにも、リュカのためにも。<br />
しかし今、こうして自身が悲しいだの悔しいだのと涙を流すことを、きっとマーサは喜ばないだろう。彼女は息子であるリュカの意思を振り切ってでも、自らの命を賭し、息子たちがこの世に生き続けることを望んだ。　それならば私たちは幸せに生き続けなければならないのだと、喪った人の希望を叶えるためにもビアンカは努めて明るい声を出す。<br />
「でも、お母さま、ずっと見守ってくださってるわ」<br />
言葉にすることを、ビアンカは本心から言った。リュカが子供の頃に亡くした父パパスが彼をずっと見守っているのと同じように、母マーサもまた彼を見守っていてくれているに違いない。人はこの世から命が消えたとしても、魂までもが消え去るわけではない。彼らの魂は、今にこの世に生きる子、孫、亡き彼らを知る親しい人々の胸の中にずっと残り続ける。<br />
「ビアンカ……」<br />
そのような彼女の底抜けの優しい本心が窺え、リュカは思わず妻の顔をまじまじと見つめた。涙に濡れているのは明らかだが、彼女はそれを思わせない笑顔を見せる。根が勝気なところがある彼女にはこれまでにも何度も救われたとリュカはしっかりと理解している。涙は流すまいと努める彼女は、涙を落とさぬようにと瞬きをせずに少し上を向いている。<br />
「だから、悪いことはしないでね！　……なんてね♪」<br />
頑張ってふざけたことを言う妻が、目を細めて笑うと同時に一筋だけ涙をこぼしたのを見て、リュカは涙を見ないふりをしつつ、「悪いことなんかしないよ」と笑った。<br />
「あの、一度母の部屋に上がっても良いですか？」<br />
リュカがそう問うと、四人の巫女たちは快く首を縦に振って返事をした。プックルとピエール、アンクルは今、この祈りの間に足を踏み入れていない。彼らはエルヘブンの村の外に住まう、村を守るゴーレムたちと話をしている。ゴーレムは言葉を持たない。しかしそれ故に、プックルたちが伝えるゴレムスの話も確かに理解してくれるに違いない。ゴレムスがマーサの代わりに魔界を守るのだと伝えられれば、村のゴーレムたちもきっと悲しむことはなく、寧ろ誇りに思ってくれるかもしれないと、リュカは信じている。<br />
四人で祈りの塔の頂点に位置するマーサの部屋へと入る。少し前に来たばかりだったが、その時はこの部屋でマーサも共にいるという想像をしていた。魔界からマーサを救出し、このエルヘブンの村に彼女を連れてきて、一緒にこの部屋で語らうことができたらと、あの時は本当にそれが叶うのだと心の底から信じていたところがあった。母が子供の頃や、父と出会い、グランバニアに向かった時のことなど、聞きたいことは果て無くあった。階下にいる四人の巫女たちに母の過去を聞くこともできるのかもしれないが、リュカにそれはできなかった。やはり母自身から、母がどのように思っていたのかも合わせて、聞きたかった。<br />
床に敷かれている敷物の上に、ティミーが腰を下ろし、近くにポピーも腰を下ろした。天井を見上げると、エルヘブンの村を象徴するような尖った塔の屋根の形が、ありありと分かる。祖母マーサは祖父パパスに連れ出されるまでずっとこの小さな塔の中に半ば閉じ込められていた。それは自身に課せられた宿命のためと、マーサはきっと割り切っていたのだろうが、割り切れないこともあっただろう。特にティミーにとっては、外に出られないことなど考えられないことだった。一国の王子として生まれたティミーもまた、容易に外の世界に出られる立場ではなかった。しかしもう一つの肩書である勇者という名は、彼を否が応でも外の世界へと旅立たせた。<br />
ほんのひと時しか会うことのできなかった祖母の人生を思うと、その半分以上を魔界という暗黒の中で過ごしたことに、同情心は極まる。ティミーは己に課せられた宿命を思えば、祖母もまた厳しい運命に導かれたのだろうと思うことができる。しかしその代償があまりにも酷いじゃないかと、その目は父リュカに向けられる。<br />
リュカはティミーたちのように床には座らず、整頓されているマーサの机の上に手を置き、机の上にただ視線を落としている。父の様子に、母を喪ったという悲しみは感じられなかった。父の黒い目に浮かぶのは、人を慈しむような穏やかな光だ。亡き母を悼むのと同時に、母が完全に運命から解放されたことをどこか嬉しく思うような雰囲気さえ見せている。<br />
そんな父の姿を見たティミーの顔に、ふわりとした笑みが浮かぶ。最も悲しみを抱えているはずの父が、亡き母の部屋の景色を見ても涙を見せるどころか、微笑みを湛えている。それは決して我慢をしているという雰囲気でもない。父は祖母の暮らした部屋で、祖母の人生を悲観するのではなく、ただ温かな気持ちで受け入れている。<br />
「もうおばあちゃんの部屋を見ても悲しくならないや……」<br />
父リュカの様子を受ければ、ティミーの口からも自然とそんな言葉が出た。祖母が悲しい運命にあったのだと想像するのはこちらばかりで、実のところ祖母は自身の人生を悲観していなかったのかも知れない。ティミーがそう思えるのは、祖母が最期に満足そうに微笑んでいたからだ。そこに悲しみも苦しみもなかった。もう二度と会えないと思っていた息子リュカと会えた、それは祖母にとって彼女の生きる道を支えていたたった一つの希望だった。それが叶い、祖母は心の底から満足したのだろう。<br />
「だって今頃はおばあちゃん、おじいちゃんと楽しく遊んでるよね？」<br />
死後の世界があるのかどうかなど、ティミーはまだその世界を知らない。ただ、今はあるのだと思える。そこではきっと、祖母が会いたかったであろうもう一人の人物、祖父パパスとの再会を果たしているに違いないと思う。世界の平和を願い、その人生を全て捧げてきたような祖母に、それくらいの救いはあってもいいじゃないかと、ティミーはこのエルヘブンの村の外を飛んでいる竜神を、祈りの塔の天井の先に見透かすように見上げる。<br />
「そうだね」<br />
ティミーの言葉を受け、リュカは彼の方へと向き直ってそう言った。エビルマウンテンの頂上の祭壇の上で、母が最期を迎えるという時、リュカの目には確かに、亡き父の姿が映っていた。父パパスが生前、幼いリュカを連れて旅を続けていたのは、魔界に連れ去られた妻マーサを救い出すためだった。あの魔界の奥深くでようやく父は母と会うことができたのだ。<br />
まだ幼かったリュカには知りえなかった、父パパスと母マーサの、夫婦の間の愛情の姿がそこにはあった。本当のところは、欲を言ってしまえば、二人とも生きてこの世に残っていて欲しかった。そう思うのは二人の子供として仕方のないことだろう。<br />
だが息子であるリュカもまた、人の親となった。親としての視点を持つことができるようになった。それは、我が身などどうでもよいと思えるほどに大切なものができた、という視点だった。<br />
今となってはただただ、父と母には感謝の気持ちが胸に溢れる。子供がどれだけ感謝を伝えようとも、親はただ当然のことをしたまでだと思うだけだ。そう考えられるのは、リュカ自身が双子の子供たちに対してそう思うからだ。寧ろ、色々としてやれなくてごめんという懺悔の気持ちがほとんどだ。この懺悔の気持ちが強い状況も、この先の未来、子供たちが成長し、家族を持ち、新たな家族の形を始めた時に初めて収まっていくものなのかもしれない。子供たちを新たな未来に託した時、親はそこでようやく子から手を引くことができるのだろう。<br />
リュカが幸せになること、それが父パパスと母マーサの願いだとすれば、リュカは己の幸せに正面から向き合わなくてはならない。そう思うリュカの目に映るビアンカ、ティミー、ポピーは彼の幸せそのもので、リュカは両親の願いを叶えるためにも、この目の前の家族を幸せに包まなければならないのだと、その目に涙は生まれない。<br />
「ねえ、リュカ」<br />
そう言うビアンカの手には、魔界での旅の最中ずっとその手から離さなかった賢者の石が握られている。彼女はどれほど辛い状況でも、決して賢者の石を手放さなかった。それは単に皆を癒すことのできる力を持つ石だからということに収まっていなかった。<br />
「お母さまからいただいたものだから、ここにお戻ししておきたいんだけど……どう思う？」<br />
回復呪文を使えないビアンカが賢者の石を手にして、仲間たちを癒す役割を引き受けていたが、彼女は自らが仲間たちを癒しているという感覚はなかった。これはあくまでも義母マーサの手にあったものであり、決して自分の手にあるべきものではないと感じていた。彼女がこの場所にそれを残しておきたいと思うのは、この賢者の石が義母マーサのものであるという意識が強いからだろう。あくまでもビアンカにとって賢者の石は借り物であって、本来の持ち主に返したいという彼女の中のいつもの正義心もあるようだった。<br />
「……うん、それがいいかもね」<br />
リュカは彼女に決定を委ねなかった。好きにしたら良いとリュカがビアンカに言えば、それは無責任にも繋がるだろうとリュカには感じられた。その責任はマーサの子であるリュカが引き受けなければならないと、リュカは賢者の石を母の部屋に残すことを自ら決めた。<br />
ビアンカは大事そうに手にする賢者の石を、まるで何かの儀式のように真っすぐと歩いて、部屋の中央へと持っていく。部屋の中央辺りに座るティミーとポピーが立ち上がり、その間にビアンカは入り込み、子供たちと顔を見合わせて、互いに微笑みながら賢者の石をマーサの部屋の中央の床の上に静かに置いた。ちょうど階下の、祈りの間の中央に置かれる水晶玉の真上に位置し、賢者の石は水晶玉に反応するようにほのかに青白い光を放ち始める。<br />
マーサの部屋の中に、癒しの光が満ち、リュカたちの身体を労わるように、癒すように包み込む。その強くも儚い光は、母マーサの最期を思わせた。彼女は最期に、リュカたちを救うべく、自らの身体を犠牲にして全てを復活させる呪文を放った。メガザルの呪文を彼女は当然のように身に着けていた。あの呪文を放った時の母の心境を思えば、そこに微塵の躊躇も見られず、ひたすら残す者たちに幸あれと、光あれと願う祈りだけがそこにあったのだろうと今もそう思える。今もその祈りの力を見せるように、賢者の石は亡きマーサの意を汲むかのごとく光り輝き、その光は祈りの塔のマーサの部屋の中に満ちるだけではなく、部屋の窓からも飛び出していった。祈りの塔の外で、エルヘブンの村人の声が上がったのを聞いた。リュカたちはその景色を見なかったが、マーサの部屋を飛び出した青白い癒しの光は、エルヘブンの村全体をも包み込むような勢いで広がったようだった。村人たちはその温かな光に、温かな涙を流していた。その涙の意味をはっきりと理解したものはいなかったが、一人一人の胸の中にじんわりと沁みる温かなものが、人々に涙を流させた。今までぽっかりと胸の中に空いていた穴が埋まったかのような、充足感が人々の心の中を満たした。<br />
光が収まると、賢者の石は元の通り、淡く青白い光を湛えるだけの魔石となった。幾度となくリュカたちの危機を救ったこの賢者の石は、自らの在るべき場所はここだと認めたように、穏やかに光を淡く放ち続ける。その光に導かれるように、ずっとティミーが肩に掛ける天空の盾の裏に張り付いて隠れていたはぐりんが、そろそろと床へと降りてきて賢者の石へと近づいていく。青白い光を見つめるはぐりんの目には、賢者の石を通して、生前のマーサが映っているようにも思えた。はぐりんは自らの流体の身体を伸ばし、部屋の中央に置かれた賢者の石の周りをぐるりと囲む。二つのつぶらな目は、じっと賢者の石の中に在るのかもしれないマーサの姿を追おうとしているようだ。<br />
「はぐりん……ここに残るかい？」<br />
リュカがしゃがみ込んでそう問いかけると、はぐりんはリュカを見上げながら困ったように「キュー……」と小さく鳴いた。はぐりん自身がどうしたらよいのか分からないという雰囲気だったが、同時にマーサが過ごしていたこの部屋を立ち去りがたいのだという目を、部屋のあちこちに向けながら示している。<br />
リュカはしゃがみながらはぐりんを撫でる。触るとこれ以上硬いものはないというほどに硬いが、彼はその体をどこまでも自由に変形させ、どこにでも潜り込んでしまう。そんな彼は本来人間の前に姿を現すことはない魔物だ。しかし魔物の世界である魔界で、彼は人間であるマーサは恐れなかった。マーサの子であるリュカにも心を許し、リュカの仲間たちの前にも普通に姿を見せてくれるのは、マーサという人間を信用したからだ。<br />
そしてあのエビルマウンテンで、はぐりんがリュカたちと共に行動したのはもしかしたらマーサに会うためだったのかも知れないと、今になってリュカはそう感じた。はぐりんがマーサがもうこの世にいないことを理解しているかどうかは分からない。しかし彼は確かに、この場所にマーサの気配を感じ、わずかにでもこの場所に留まろうという思いを初めて持ったのだ。<br />
「ここにいてもいいと思うよ」<br />
エルヘブンの村人たちがはぐりんを村から追い出すことは決してないだろう。この村を守るのは魔物のゴーレムたちであり、彼らは生前のマーサの友人たちだ。村の巫女たちに確かめてはいないが、恐らくこの村の人々は純粋な“人間”ではないのかも知れない。それならば尚更、魔物であるはぐりんを受け入れてくれるに違いないと、リュカは微笑みながらはぐりんを見つめる。<br />
「僕たちは違う場所に帰るけど……絶対にまたここに来るよ」<br />
リュカは確信をもってそう言う。グランバニアへ戻ったのちもこの村を訪れる機会があることを、リュカは己の中に決めている。単に母の故郷を訪れるという意味合いではない。リュカにはまだこの村でやるべきことがあるのだと、己の指にある命のリングにそう見定めている。<br />
「……キュルッ！」<br />
リュカの言葉が届いたのかどうかは分からないが、はぐりんは元気に一声そう言うと、賢者の石をしたから支えるように体を潜り込ませ、まるで自らが台座となったようにそのまま固まってしまった。その姿に一瞬、エビルマウンテンの頂上にいるゴレムスを思い出し息を吞んだが、固まったままでも二つの目をリュカに向けて見上げるところを見ると、ただ銀の台座に擬態しただけのようだった。<br />
「へえ～、すごいね！　普通の台座に見えるよ！」<br />
「はぐりんがここに残るのはちょっと寂しいけど……でもまたすぐに会えるわよね！」<br />
「お義母様の故郷だもの。リュカがここに来たいと思えば、村の皆さんもきっと歓迎してくれるわ」<br />
「あはは、でも、まあ、僕も一応王様やってるし、ちょっと落ち着いてからかなぁ」<br />
まだまだこの村には知りたいことが山ほどある。しかし今はここでゆっくりしている時ではないと知らせるように、エルヘブンの村の遥か上空で竜の鳴き声が響くのを耳にした。マスタードラゴンが呼んでいる。そろそろ村を後にしなければならないのだと、リュカは自らも立ち去りがたい母の部屋を後にするべく、その場に立ち上がった。<br />
「もう行くの、お父さん？」<br />
「うん。とにかく今は、世界が本当に平和になったのかを確かめないとね」<br />
「マスタードラゴンが上で待っているものね」<br />
「神様を待たせる人なんて、きっとお父さんが初めてだよ！」<br />
そう言いながらティミーが楽しそうにけらけらと笑う。そんなティミーもまた、平気で神様を待たせそうな性格をしていると、勇者たる天空の武器防具を身に着けたその姿を見て思わずリュカは笑ってしまう。ここにいる誰もがあの竜神を、決して無心に崇めたりはしていない。リュカとしてはその状況がなぜか心地よい。<br />
あまりのんびりはしていられないのだと、リュカたちはマーサの部屋を後にする。最後に部屋を出たリュカが今一度部屋の中を振り返り、ぐるりとその景色を見渡した。中央には、すっかり銀の台座となっているはぐりんが、この宝物を守るのだというように賢者の石を半ば包むように戴いている。淡く青白い光を湛える光の中に、リュカは母の幻影を見る。じゅうたんを敷いた床の上に正座をして座り、リュカを横に振り向き見つめている。リュカは己の心の中に母の幻影を見ているのだと理解しながらも、穏やかな母の微笑みを見て思わず手を振り、「またね」と小さく呟いた。リュカの見る母の幻影は、可愛い我が子を見る母親の顔つきで、手を振り返してくれた。</p>
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<p>「やはりマーサ様は偉大な女性でした。マーサ様の子とその孫たちが世界を救ったのですからね」<br />
エルヘブンの村の祈りの塔を出たところに、村の巫女たちを守るための兵が立つ。このエルヘブンの村にとって、村の長でもあったマーサは村人たち皆から伝説的な存在となっている。マーサが魔界に連れ去られてしまったのはもう三十年ほども前、尚且つこの村を出たのは更に前のことになる。しかしマーサを直接見たことのない者にとっても、村に語られているマーサの話の影響で、寧ろ直接見たことがないために神格化されている部分がある。<br />
「そうね。お母さまの力がなければきっとミルドラースに勝てなかったわ」<br />
兵の言葉にうんうんと頷きながら、ビアンカはエビルマウンテンで初めて目にしたリュカの母の姿を思い出す。ゴレムスの手の平に乗りながら、最期の力を振り絞ろうとする義母の姿を見て偉大を感じない者はいないに違いないと、ビアンカは純粋にそう思う。母としての力も当然あっただろう。しかしそれだけではない、エルヘブンの村に伝わる魔界に通じる力がそこにはあったのだと、あの時まるで大樹のように見えたマーサの姿を思い出せば必然とそう思える。<br />
そしてマーサの姿を瞼の裏に思い浮かべれば、彼女がかつての魔族の王の末裔だなどと、どうして思うことができようか。たとえそれが真実だったとしても、決してそれだけが真実というわけではないに違いない。エルヘブンという村がその村の歴史の中で、地上世界と魔界との間で門番の役目を果たしてきたことにも当然、ビアンカたちが知らない真実があるのだろう。魔界の大魔王を倒したものの、まだ様々な謎は謎のまま残されている。しかし今はとにかく、光を失わなかったこの世界に喜んでいたいと彼女はただ義母の想いに感謝する。<br />
祈りの塔を後にしたリュカたちは、まるで宙に浮いているかのような村の階段をゆっくりと降り、村の宿屋の前の広場に出た。ポピーは相変わらず宙に飛び出すような危うい階段を降りるのを怖がったが、それよりもティミーが危なっかしく階段を駆け下りていく姿に生きた心地がしなかった。せっかく大魔王を倒した勇者がうっかり階段で足を滑らせ、このエルヘブンの地で命を……などということにでもなれば、リュカには世界が平和になったことなどどうでもよくなってしまう。<br />
降りた先では、平和が訪れたことを確かに実感している人々がどうやらリュカたちのことを待ち受けていたようだった。村人たちの表情が底抜けに明るい。人々が次々に握手を求めるのはリュカであり、ティミーだ。その中でもリュカの手を固く握りしめ、まるで人生のすべての感謝を表すような態度を見せるのは、村の神父だった。<br />
「魔王ミルドラースが滅びた今、やがて大神殿も朽ち果てるでしょう」<br />
神父が言うのは、セントベレスの頂上に立つ、地上世界における魔物の総本山とも呼べるあの大神殿のことだった。あの場所にはリュカもかつて奴隷として生きていた。光の教団の教祖であるイブールと対峙し、リュカは私怨を晴らす意味でも、怪物の教祖を滅ぼした。そして魔界においても魔王ミルドラースを倒したことで、あの大神殿は完全に力を失うのだと、神父は目じりに涙を浮かべてリュカに礼を述べた。人々の信仰心を利用した悪しき方法に、神父は酷く心を痛めていたに違いない。神父の固い握手に彼のその想いを感じたリュカもまた、己の想いと共に固く握り返した。<br />
「かつて教団の奴隷となり、大神殿のもとに眠る人々に、どうか安らぎを……」<br />
ミルドラースを倒したからと言って、全ての人々が救われたというわけではない。世界中に蔓延り始めていた悪しき力にその命を奪われ、既に幾人もの人々がこの世を去っているのだ。リュカ自身もまた、運が味方しなければこの世に残っていなかったのかも知れない。そしてその運の一つを授けてくれたのは、あの大神殿でリュカに救いの手を差し伸べてくれた一人の看守だった。<br />
「私も祈るわ。あそこで眠る人たちが天国へ行けるように……」<br />
静かにそう言うビアンカは、石の呪いを受けたのちにあの場所で長らく留め置かれていたのだ。彼女がその間に何を見て何を感じていたのか、リュカは詳しく聞いたことはない。詳しく聞く気もない。誰だって思い出したくない光景はある。そして彼女は、リュカがあの場所で奴隷として生きていたことを知っている。彼女が今、祈りを捧げる姿には恐らくリュカの過去に寄り添う気持ちがあるに違いなかった。悲しい運命に遭った者たちがこれで救われるわけではないかも知れないが、どうにか彼らの魂に安らぎをと願う気持ちは抑えることができない。<br />
「ねえ、リュカ。またあの場所へ行けるかしら？」<br />
真剣な祈りを捧げたのちにそんなことを言うビアンカに、リュカは思わず面喰う。誰がずっと囚われていたような場所へ戻りたいなどと思うのか。怪訝な顔つきで妻を見るリュカに、ビアンカは真剣な顔つきで提案する。<br />
「犠牲になった方々がいるんだもの……ちゃんと弔ってあげないといけないと思うの」<br />
あの場所でまだ生き延びていた人々は、リュカが自身の立場などから使える力で、マスタードラゴンの力も借りて地上世界へと戻した。リュカとしても、あの大神殿に残してきた今は亡き人々を弔わなければならないという思いは抱いていた。今の自分があるのは、あの場所に斃れた人々の命があったからだと、奴隷に生きたころの記憶に戻れば必然とそう思える。何かの形で亡き人々に感謝の思いと、安らかな眠りを願う気持ちを届けることができたらと、妻の提案に小さく何度も頷く。<br />
「……お花はどうかな。たくさんのお花」<br />
ポピーがぽつりと、しかし彼女の気持ちを込めてそう言った。彼女もリュカと共にあの場所に足を踏み入れ、大神殿に起こっていた異様を知っている。幼かったリュカがあの場所にいたことも、知っている。<br />
「それがいいよ！　たくさんの花を持って行ってさ、あの場所が埋もれるくらいの！」<br />
ティミーの明るい笑顔は、それだけで沈む人々の心を救い上げてくれると、リュカは思わずつられて笑顔を見せた。心の底からそのような提案をしてくれるティミーもポピーも、本当の人としての優しさを身に着けている。彼らは純粋に亡き人々を弔いたいと、きっと以前にビアンカの母のお墓参りをした時のように美しい花々を手向けたいのだと言っているのだ。<br />
「あの場所が埋もれるくらいのって言うと、ちょっと用意できるか分からないけど、でも花っていうのはいいね」<br />
リュカもまた、父パパスの亡き場所に、親友ヘンリーと親代わりのサンチョと共に花を手向けたことがあった。花を手向けることで、父の死と改めて向き合うことができた。胸に去来する様々な思いを、花というのはその華やかさと香りで浄化してくれるのかもしれない。花の力を借りて、あの場所に再び向き合うことを考えておこうと、リュカはいつでも自分を支えてくれる家族に頷いて見せた。<br />
エルヘブンの村の上空で、竜神が高らかに一声鳴いた。それだけでエルヘブンの村を広く囲んでいる木々がざわざわとあおられ音を立てた。リュカが見上げると、竜神もまたリュカを見下ろしている。ここであまり時間を過ごしてはいられないと、リュカは村の人々に一斉に礼を述べ、村を立ち去ろうとする。竜神のところにまで行くには魔法のじゅうたんを使わなくてはならないと、懐から畳んだ紙のような魔法のじゅうたんを取り出そうとした時に、ふとリュカの耳に聞こえた声があった。<br />
「かつてこの村から駆け落ちした若い二人のその子らが世界を救った。ロマンチックよねえ……」<br />
その声はビアンカにも聞こえていたらしく、思わずリュカとビアンカは二人して目を見合わせた。女性の声だったが、誰がその言葉を口にしたのか分からない。リュカたちを囲む村人たちの間に進みながら、ビアンカが目を丸くしながらリュカの耳元に近づき言う。<br />
「お母さまたちって駆け落ちだったの？」<br />
「いや、聞かれても……僕も知らないよ、そんなの」<br />
そう言いながらも、リュカは初めてこのエルヘブンの村を訪れた時のことを思い出す。本来ならばこのエルヘブンの村の長として暮らし続けるはずだったマーサを、パパスはグランバニアへと連れて行ってしまった。そのことに村人は当然良い印象を持ってはおらず、パパスを恨みに思ったとまで言われたこともあった。しかしまさか父が母と駆け落ちをしたなど、リュカは想像したこともない。冷静に考えれば考えるほど、あの父とあの母が駆け落ちをするというイメージは沸かない。子供にとって父と母の物語というものは得てして想像し難いものだと、リュカはこの時初めて実感した。<br />
「う～ん、やるわねえ……」<br />
それに引き換えビアンカは何の障害もなくパパスとマーサの駆け落ちを想像しているようで、彼女の水色の瞳がどこかきらきらと輝いているようにも見えた。リュカは妻のその顔つきに思わずむくれてしまう。相変わらずビアンカの憧れの的は父パパスなのだと思うと、尊敬する父に対して複雑な感情が胸の底に俄かに沸き起こってしまう。<br />
「ふっふふ～」<br />
「なんだよ」<br />
「やきもち？」<br />
「違うよ」<br />
目聡いビアンカはリュカの表情に彼の心情を察し、意地悪な笑みを浮かべながら夫の頬を指先でつついた。そんな母の行動に、ティミーとポピーが両親の仲の良さににこにこと笑う。家族の温かな雰囲気に、思わずリュカのむくれた表情も和らぎ、吹き出し笑ってしまう。平和だと感じる。亡き父に対してやきもちを焼けるほどに平和で、何か悪いことでもあるのだろうかとリュカは懐から畳まれた魔法のじゅうたんを取り出すと、歓迎に囲む村人たちの輪を抜けたところでふわりと投げ、魔法のじゅうたんはリュカの意を受けたように徐々に広がっていく。</p>
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<p>エルヘブンの村を出て、魔法のじゅうたんで草原地帯を少し進んだ。空を見上げれば、夕刻になろうとする頃の橙の日が西から指し、東には既に暗くなりかけた空に一つ明るい星が輝いている。よく晴れている。リュカのこの村の印象は、霧に守られ、これほど開けた空が仰げる場所ではなかったはずだった。しかしもうこの村を隠して守ることはないのだというように、村の祈りの塔も西日を受け、眩しいほどに光り輝いている。その景色にも、この世界は平和になったのだと思わせられる。<br />
水の気配が濃くなってきた。リュカは既に仲間たちの気配を感じている。エルヘブンの森の中に黄と赤の鮮やかな色が見えれば、それがプックルだとすぐに知れた。同時にプックルもリュカに気づき、相変わらずの足の速さであっという間にリュカのところにまで駆けてきた。<br />
「がうがう」<br />
「うん、そうだね」<br />
プックルを追うように、かなり後ろにピエールとアンクルの姿も見える。合わせて見えるのは、この村の守り手である三体のゴーレムたちだ。元々は、彼ら三体のゴーレムたちと一緒に、今はエビルマウンテンの頂上の祭壇に立つゴレムスがいた。プックルがリュカに伝えたのは、魔界に残ったゴレムスについて三体のゴーレムたちに話したとのことだった。言葉を持たないゴーレムたちだが、こちらが伝えようとすることはじっと耳を傾け、深く理解してくれる。話をしたのはピエールだろう。まるで今、そのピエールに従うようにゴーレムたちが三体揃って後をついてきている。<br />
「リュカ殿、お早いお戻りですね」<br />
「上で“急げ”ってさ」<br />
「……ああ、なるほど」<br />
森の中からも日に照らされた空は覗ける。今もその空に大きく旋回しながら竜神が悠々と飛んでいる。リュカの母の故郷であるからもっとゆっくりと過ごすのではと思っていたピエールだが、平和は世界全体に訪れているのだ。世界と繋がりを持っているリュカは、たとえここでゆっくりと過ごしたいと思っていても、立場上そうすることもできない。<br />
「こいつらも一応、理解してくれたみたいだぜ、ゴレムスのこと」<br />
「そうか……良かった」<br />
アンクルの後ろに立つ三体のゴーレムたち。仲間のアンクルも身体の大きな仲間だが、ゴーレムという魔物は彼の比ではないほどに大きいと改めて三体のゴーレムを見上げてそう感じる。エルヘブンの森の木々は古くから生き続けているのか、他の地域に見る森の木々に比べても大きく背が高い。そのためにゴーレムという巨大な魔物も難なく森の中に隠してしまう。<br />
「久しぶりだね、みんな」<br />
リュカは並ぶ三体のゴーレムたちを見上げながら、その様子に気づいた。ゴーレムたちの身体がところどころ傷つき、欠けている部分も見られる。恐らく彼らはこの場所で戦っていたに違いない。リュカたちが魔界の奥底で戦っている時、あの大魔王の周りには地上世界を見せる岩がいくつか浮遊していた。魔界から地上世界へとその手を伸ばしていたミルドラースの力は確実に、この地上世界へと及んでいた。その影響を受けたエルヘブンも悪しき魔物からの攻撃を受け、それにこのゴーレムたちも対抗していたのだろうと、リュカはゴーレムたちに両手を伸ばす。<br />
「ごめんね。母さんを連れて帰ってこれなくて」<br />
リュカの言葉に、ゴーレムたちは伸ばされたリュカの手に応えるように、各々その場に静かに跪いた。ほのかな光を絶やさないゴーレムたちの目はただじっとリュカを見下ろしている。その目は純粋に、マーサの息子であるリュカのことを心配しているものだった。<br />
「今は母さんの代わりに、ゴレムスが魔界を守ってくれてるよ」<br />
エビルマウンテンの頂上の祭壇に、マーサの遺志を継いで石となったゴレムスの姿を思い出す。今もゴレムスの手から、魔界を淡く照らす青白い光が絶えず放ち続けられているだろう。大魔王が滅んだ後の魔界は、変わらず魔界の魔物が生きる世界ではあるが、そこに邪悪な気が乱れ狂うことはないだろうと、リュカは信じている。あの世界にも、ロビンやシーザーと彼の家族、ギーガといった魔物たちがいる。魔物も決して悪い魔物ばかりではないことを、リュカはその経験に大いに知っている。<br />
「大丈夫。また会えるよ」<br />
リュカは決して悲しい表情を見せていなかった。彼が言った言葉は、彼の本心から出た言葉だった。リュカは絶対に再びあの魔界にいる魔物たちにも会えるのだと思っている。自身はグランバニアという地上世界の国の王であると同時に、もしかしたら魔界でもその立場にいたかも知れないのだと考えれば、その責任は地上世界だけではなく魔界にも及ぶのだと、寧ろその表情は明るい。<br />
きっと母は目指していたはずだ。地上世界と魔界との繋がりを。その橋渡しをできるのは恐らく自分たちしかいないと、リュカは家族である天空の血筋の妻と子供たち、そして魔物の仲間たちを見渡した。<br />
「これからもこの村のこと、よろしくね」<br />
今生の別れというわけではないのだと、リュカは三体のゴーレムたちへの挨拶を軽く済ませる。エルヘブンという、いつから在り続けているのか分からない古い古い村を、この三体のゴーレムたちは村がある限り守り続けていく。彼らもまた、この地でマーサの遺志を継いでいくのだ。<br />
皆がそれぞれゴーレムたちに別れの言葉を口にする。そのどれもが明るいものだ。ずっと彼らを待っていた魔法のじゅうたんがひらひらと波打ち、その姿はまるでゴーレムたちにお辞儀をしているようだった。魔法のじゅうたんに乗り込んだリュカたちは、竜神と合流するためにより広い草原地帯を目指して飛び始めた。遠ざかるゴーレムたちの姿を見つめるリュカたちを、ゴーレムたちもまたいつまでも見つめ続ける。<br />
ある瞬間、ゴーレムたちの周りに色とりどりの何かが噴き出すように舞い上がった。それは唐突に現れた花びらだった。花吹雪に包まれたゴーレムたちは別段驚くこともなく、ただどこか嬉しそうにそれを眺め下ろす。子供達にはしっかりと見えていたようだ。リュカの目には映らなかったが、この平和を一緒に喜んでいる妖精たちの姿がありありと感じられ、思わず彼の顔も綻んだ。</p>
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		<title>選挙のその後が肝心</title>
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		<pubDate>Tue, 10 Feb 2026 06:21:11 +0000</pubDate>
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		<category><![CDATA[日記]]></category>
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										<content:encoded><![CDATA[
<p>今回の衆議院議員選挙は大いに盛り上がっていたのではないかと思っています。国の在り方を決めるものにたいして盛り上がるだなんて不謹慎かしらとも思うけれども、熱量がかなりあったことは確かでしょう。そもそも選挙に“出馬する”なんて言い方をするのだから、どこか賭け事的な要素もあるんではないかと。</p>



<p>期日前投票がかなり多かったようですね。選挙当日に雪予報があったので、それで期日前投票を利用した方が増えたというのもあったんでしょうね。しかしそれにしても、合わせた投票率も前回に比べて上がったようですし、政治に関心を持つ国民が明らかに増えているんだなぁと実感しています。</p>



<p>今回は与党が圧勝ということで。私としては、この日本という国を大事に思う人たちが政治をしてくれればそれでよいだけなので、これからそうなることを願っています。大転換が起きたことは間違いないですが、それで突然すべてが上手くいくということでもないんでしょう。政治家の方々も一人一人が少しずつ異なる信念やら思いやらを抱いているわけで、そして政治家だけではなく、政治家の方々を取り巻く様々な環境が政治に影響しているわけで……多くの方々が望んだ選挙結果になったとしても、それは単にようやくスタートラインに立ったまでの話で、問題はこれからだということには違いないですよね。</p>



<p>新しい政権が“責任ある積極財政”を掲げているので、とりあえず積極財政はとっとと進めてほしいところです。税が財源じゃないこともとっとと認めてほしいです。消費税はあまりにも不要な税なので、食料品だけとか言ってないで一律で下げるか撤廃で良いと思っています。今や消費税に関しては様々な方が動画を上げて説明しているので、よくわかんね、と思っている方はそのような動画を見てみたらよいかなと思っています。消費税が社会保障の財源と言っているのも嘘っぱちだと分かるし、そもそも買い物するたびにもらうレシートが嘘っぱちだと気づくので。消費税は間接税ではなく、直接税。私たち一般の消費者が収めている税金じゃないということ……だいぶ広まってきたのではないですかね、この事実。</p>



<p>日本が日本であるためにということを考えれば、外国人の受け入れに制限をかけるのは当然の話だと思っています。日本というこの国の特異性は、日本のためにも、広く言えば世界のためにも守っていかねばならないものでしょう。そのためにも、まずは日本人が守られる社会があるべきだと思っています。その点で、今の与党はちょっと信用できないところがあるんですよね……。違法だけを取り締まっても、その一方で労働者として積極的に外国人を受け入れていては、日本の在り方は必然と変化していくでしょうし、そのような変化を今の多くの日本人が望んでいるとは思えません。日本の良いところの一つに、治安の良さがあるんじゃないんでしょうか。この治安の良さというのは、日本の歴史に、文化に生まれ育まれたものでしょう。外国人が悪いというわけではなく、怒りの矛先は、目先の金のために外国人を受け入れようとしている一部の日本人に対してなんです。ここにも公金なんとかという問題が……。金、金、金と、額に金の文字が浮かび上がっていそうな人に、大事なものが壊されてしまうのは避けたいところです。</p>



<p>あとは、日本の皇統について。この話については、今の時代に生きる日本人があまりにも知らなすぎるだけなんだと思っています。だって誰からも教えてもらっていないですもんね。私は何冊かの本を読んで一応理解しているので、男系男子を守り続けることには一も二もなく賛成です。というか、賛成もなにも、これまでの日本の歴史を作り上げてきたことそのものなので、賛成とか反対とか、そのような議論になること自体が問題だと思っています。人々が判断するようなものではなくって、それはただそこに“在るもの”なんですよね。ただただ途切れなく続いてきたものを、これからもひたすら続けるということ、それだけのことなんです。何故か？　続いてきたから。何故続ける必要があるのか？　続けること自体に価値があるから。</p>



<p>お金は誰かが刷ればいつでもできるものですけど、歴史というものは一度断絶してしまえば、そこでおしまいです。歴史に価値があるのは、誰もがその身に分かるはずです。そうでなければ誰もありがたがって神社やお寺にお参りに行くこともなくなるでしょうし、骨董品の価値もまるでなくなりますよね。古きよきもの、なんて言葉も存在していないでしょうね。</p>



<p>私たちがどうして代々続く“何か”に感動したり敬意を払ったりするかと言えば、誰も歴史には頭が上がらないからじゃないでしょうか。その最たるものの一つが、日本の天皇家の男系男子という、ひたすら長いこと続けてきたこの制度ですよ。この歴史が２６００年余りも続いているから、外国からの評価もとんでもなく高いものになっているんです……って、そのことに気づいている日本人がどれだけいるかなぁと考えると、多分、ほとんどの方が知らないままに日々を過ごしていますよね。だって、学校の歴史の授業で教えてもらっていないんですもんね。戦前は普通に教えられていたことを。この事実を知っているだけで、どれだけ日本人が日本人として誇りが持てるんだろうかと思うと、本当にもったいないなと思います。</p>



<p>前にも書いたことがあると思いますが、私はこの日本という国にこの先も続いてほしいと思っています。そのためにも、今後の日本の政治には期待はしたいところです。周りのしがらみとか、強烈な圧とかに屈さずに、政治を進めて欲しいなぁと思っています。そのために何が必要かと言えば、私たち日本国民一人一人が賢くならなきゃならんのですよ。人任せにしてちゃダメだと、今回のがらりとひっくり返った選挙の体験に気づいた人も多いのではないかと思います。ただ波に乗っかるのではなく、あくまでも一人一人が知識を身に着けて、自分で考えて、判断できるようになればもっと良い方向に変わるのではないかなと、とりあえず今は未来に期待したいと思います。</p>



<p>とにかく、今ようやくスタートラインに立ったばかりのようなものです。もし、この政権が間違った方向に舵を切ろうとしたら、国民は素直に批判しないといけません。盲目に信じてしまうのは一番危うい。中に入り込むように、のめりこむように見るのではなく、一歩も二歩も引いて、俯瞰するように政治を見るよう、私も冷静な目を持つようにしたいと思います。</p>



<p>これからどうなるんだろう……と不安も期待もあるのは、私にも一人の子供がいるからというのが大きいんだと思います。未来は子供たちのために。より良い未来を目指したいと思うのは、将来大人になる子供たちにそういう未来を生きてほしいから。ホント、そんだけなんです。</p>
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		<title>「罪と罰」(ドストエフスキー)を読んで</title>
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		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Thu, 29 Jan 2026 01:44:24 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[徒然]]></category>
		<category><![CDATA[日記]]></category>
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					<description><![CDATA[前回呼んだ「戦争と平和」（レフ・トルストイ）に続けて、同じくロシア文学の「罪と罰」（フョードル・ドストエフスキー）を読みました。どちらも世界的に有名な本ですね。こちらも非常に読 ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>前回呼んだ「戦争と平和」（レフ・トルストイ）に続けて、同じくロシア文学の「罪と罰」（フョードル・ドストエフスキー）を読みました。どちらも世界的に有名な本ですね。こちらも非常に読み応えのある作品でした。</p>



<figure class="wp-block-embed is-type-rich is-provider-amazon wp-block-embed-amazon"><div class="wp-block-embed__wrapper">
<iframe loading="lazy" title="罪と罰〈上〉" type="text/html" width="1090" height="550" frameborder="0" allowfullscreen style="max-width:100%" src="https://read.amazon.com.au/kp/card?preview=inline&#038;linkCode=ll1&#038;ref_=k4w_oembed_MmAIixJGwkeOMN&#038;asin=4102010211&#038;tag=scapi-22"></iframe>
</div><figcaption>「罪と罰」（ドストエフスキー）</figcaption></figure>



<p>前に読んだ「戦争と平和」のような教訓的な、教育的な要素は見られず、こちらの「罪と罰」は半ば推理小説のように楽しんで読むことができました。私自身、小学生から中学生くらいの時に推理小説、というよりは、赤川次郎さんの作品にハマった時期があり、三毛猫シリーズを多く読んでいたこともあり、その時の感覚を思い出しながら、ワクワク感と共に読みました。</p>



<p>作品中で、思わずのめりこんでしまう箇所は、やはり主人公ラスコーリニコフと予審判事ポルフィーリーとのやり取りでした。心理戦の描かれ方が面白い。読み手側としては、主人公が既に犯罪に手を染めていることを知っていて、それに対して判事ポルフィーリーが探りを入れてくるのですが、これが探りなのか、単に質問をしているだけなのか、それにしてもめちゃくちゃしゃべる人だなとか、いろいろと思わせられる賑やかな人物として描かれていることに、なんとなくですが刑事コロンボを思い出してしまいました。……で、後で調べてみたら、刑事コロンボの脚本の担当者が本当にこのポルフィーリーをモデルとしていたと発言しているようですね。びっくりしました。刑事コロンボも、赤川次郎さんの推理小説も、私の母が好きだったので、横で見ていたり、小説を読んだりしていたんですよねぇ。推理ものって面白いですよね。だから今でも様々な推理ものが多くの人たちに好まれているんでしょうね。</p>



<p>主人公ラスコーリニコフは、私の印象としては、頭でっかちの青年、という感じでした。理想や思想は大きなものだけど、現実は全くそれに追いつかないという、そんな感じです。よくあることです。というかきっと世の中、そんなことばかりかもしれません。理想や思想と現実との間には、とんでもない距離があったりしますが、それでもほとんどの人々は現実に身を寄せてどうにか生きていくしかない、と地に足つけて頑張っていますよね。もちろん、理想に向かって進むことが悪いわけではないし、人の生き方としてはそうあるべきなんだろうと思います。しかしここで危険なのは、一人で理想や思想に向かって突き進んでしまうことなのかなと思います。自分の目の焦点にぴたりと合ったものだけを見つめて、他は目に入らないために、自分では突き進んでいる感覚もない状態……でもこれこそが犯罪に走ってしまう人の心理状況なんだろうと、細かく描かれたラスコーリニコフの心理描写は非常に面白いと感じました。</p>



<p>著者は本当に犯罪に手を染めたことがあるのかしらと思わせるほどに、主人公が殺人を犯した後のその心理を表現する描写が生々しく狂っているように見えました。行動も落ち着かず、言動も落ち着かず、これじゃあすぐに犯罪はバレるんではと、主人公の犯罪を知っている読者にはそう思えてしまうのですが、これが結構バレないままに時が過ぎていく。それ故に、主人公は猶のこと精神が保てなくなってしまう。しかし自ら白状することもできない。同時に罪の意識に耐えられなくなっていく。これらの心情の描写が本当に生々しい。そんな主人公をさまざまな環境が取り囲み、彼の心情をさまざまに翻弄する。……推理小説好きとしてもとても楽しめる作品でしたし、当時のロシアの状況を知るにも良い作品だろうなと思いました。</p>



<p>「戦争と平和」でも感じたことですが、これらの作品に描かれるロシア人の描写に、私は、何とも言えないあっけらかんとした明るさを感じてしまうんですよね。それというのも多分、私が大学生の頃に第二外国語として取っていたロシア語の教授がやたらと明るかったというのもあるのかも知れません（笑）　日本人の教授だったんですが、「さっき、酒でも飲んできましたか？」みたいな明るい教授だったような記憶があります。さすがウォッカの国は違うなと当時思った記憶もあります（笑）</p>



<p>主人公のラスコーリニコフなんて、罪を犯してからはずっと思い悩み、これから暗い人生を過ごすに違いないという状況なんですが、あまり「暗い」という印象はないままでした。暗いというよりも、狂ってる？という感じ。……まあ、彼の場合は罪を犯しているので、そうなってしまったのですが。</p>



<p>あと、ちょっと混乱したのが、話の中に表現される人の名前が、本名だったりあだ名だったりで、一人に対していろいろな呼び名があることです。主人公のラスコーリニコフにしても、本名はロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフという名で、話の中ではラスコーリニコフはもちろん、ロジオン、ロージャ、ロジオン・ロマーヌイチと、さまざまな呼び名で呼ばれるので、これらが同一人物であることに気づかないまま読んでしまうと、もうそれだけで頭が混乱します。男性と女性で語尾が変わるというのはなんとなく覚えていたんですが、これだけ呼び名自体が変わってしまうと、それだけでちょっと話を追うのが辛かった……（笑）</p>



<p>こういう作品を書く作者ドストエフスキーは一体どのような人物なのかしらと、あとがきなども読んでみれば、どうやらギャンブラー依存症のような人だったようですね。政治犯としてシベリアに送られたこともあり、妻や兄を亡くしたりと、とても波乱に満ちた人生を送っているようです。作品というのは本当に、作品を作る作者の人生そのものが出現する場所だなとつくづく感じます。ちなみに、この「罪と罰」が当時、ロシアの雑誌での連載が始まった時と同じ時期に、「戦争と平和」も連載されていたようです。</p>



<p>とある作品を読む際には、どうしてもその作品を書いた作者の素性というものが気になってしまいます。特に古典となると、その時代背景も多く作品に影響を及ぼしているはずで、その辺りも知らないといけないことなんだろうなと、年代を調べたりしてしまいます。「罪と罰」が雑誌で連載されたのは、１８６６年１月から。日本だったら、そろそろ明治時代が始まろうとする頃で、いわゆる幕末の頃ですね。この頃、ロシアは大改革の時期で、１８６１年に農奴解放令を実施し、その後も国家の構造そのものを変化させるような改革をしている時代でした。それというのも、１８５６年にクリミア戦争に敗北したことがその理由とされているようです。……激動の時代だったのだと思われます。ちょうどそのような時期にこのロシア文学の代表とされる二作が生まれたということなんですね。</p>



<p>ようやくドストエフスキーの代表作「罪と罰」を読むことができたので、次は「カラマーゾフの兄弟」をと、地元の図書館へ行ってみたのですが、どうやらどなたかが借りているようだったので、外国文学の棚をふんふんと目にしていて、なんとなく目に留まったものをまた借りてきました。読書、始めて見るとハマるものです。しかし私は自分の書いているお話もどうにか仕上げなければならないと思っていますので、そちらも着々と進めていければと思っています。あとひと踏ん張り、頑張らねば。</p>
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		<title>またまた選挙ですね</title>
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		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Tue, 27 Jan 2026 01:33:14 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[徒然]]></category>
		<category><![CDATA[日記]]></category>
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					<description><![CDATA[今度は衆議院議員選挙……あれ？　一昨年もあったような気がする、なんて思いますが、一昨年の衆議院議員選挙はなくてもよかったものを無理にやったようなもので、今回とは意味合いが違うと ... ]]></description>
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<p>今度は衆議院議員選挙……あれ？　一昨年もあったような気がする、なんて思いますが、一昨年の衆議院議員選挙はなくてもよかったものを無理にやったようなもので、今回とは意味合いが違うと思っています。選挙一回行う毎に、一体どれほどのお金が動いているんだという批判もあるようですが、今回の選挙は必要なものなんじゃないかなと、さまざま情報を見ているとそう思わせられます。</p>



<p>寒いこの冬の最中の選挙で、雪国の方々には投票が大変だという批判も見られますね。大変だと思います。特に、関東のからっとした地域に住んでいる私のような身のものとしては、雪深い地域に住まう方々のご苦労は察するに余りあるものと感じます。理想としては、春か秋、外を出歩くのに心地よい季節を選んで選挙を行ってもらえれば、それが一番いいに決まっています。暑い夏の選挙も、なかなかたまったものではありませんものね。</p>



<p>しかし、こればかりは何せ“タイミング”が最も優先されるものなのでしょう。今は日本の事情だけで動けるほど、世の中簡単な仕組みに収まっていません。世界情勢は目まぐるしく、ネットの発達などにもよって、一日であっという間にその情勢がひっくり返ることもしばしば。すべてにおいて、昔に比べて物事の速度が増したのは確かです。そんな状況の中では、一分一秒ものんびりしてはいられないという現実があるでしょう。</p>



<p>誰だって、何がベストでいつがベストのタイミングかなんて、分からないと思います。それが分かるのは、後になって、当時のことが過去になった時に初めて「あれはベストだった」と言えるかどうかというだけなんじゃないでしょうかね。そしてきっと世の中にはそうそう“ベスト”はなく、常に“ベター”をなるべく選ぶことぐらいしかできていないんじゃないかなと思っています。</p>



<p>で、とにかくまた選挙、ということで、私も一人の日本国民として投票には行く予定です。今回の選挙はとても忙しないことには違いないですね。投票日まで二週間、その間に公報が来て、投票用紙が発送され、掲示板が設置され……これらが全国各地で行われるんだから、実際に選挙にかかわる方々のご苦労も凄まじいものがありますね。本当に目が回るほどの忙しさかと思われます。</p>



<p>外国と比べて日本での投票率というのは低いようですが、それでも前回の参議院議員選挙では投票率が上がったようです。そして衆議院に続けて、参議院も与党は少数になりました。今も与党は少数のために、連立を組んでどうにか凌いでいるような状況です。</p>



<p>これって端的に言って、投票率が上がれば、それだけ政治の仕組みが変わるということを意味しているということですよね。今はどうやら政治に興味を持つ人も増え、ネットでも多くの政治系動画が上げられています。そして視聴回数もかなり増えているので、それに乗っかる動画が増え、視聴回数が増え、乗っかり……というスパイラルができているように見えます。</p>



<p>こんな状況、私は想像したこともありませんでした。というかそもそも、私がこれほど政治に興味を持つようになるとも思ったことはありません。政治も経済も、私には程遠い世界とずっと思っていましたから。多くの人は私とおんなじでしょう、きっと。政治も経済も、私のような庶民には関係なく、お上が上手いことやってくれているんだと信じていたところがありました。</p>



<p>だけど、さすがに近年、政治を信じられなくなる現象がはっきりと世の中に見えてきたので、いざ政治経済に目を向けてみれば……おいコラ、今まで何してくれとったんじゃ、という現実に気づかされてしまったと。一度知ってしまうと、もう知らなかった頃には戻れません。人間は機械ではないので、データを削除することはできない。一度記憶に刻まれてしまえば、その記憶はただ頭の片隅に残るだけではなく、自分の感情と一緒に身体の隅々にまで行き渡る感覚です。その感情が怒りから始まっているものだから、より忘れにくくなるのも当然というものです。</p>



<p>ただ、ここで表面上だけで何かを批判するのは違うかなとも思っています。それをやったら多分、誰かの思う壺になりかねない。だって今までずっとそうして、何も知らない私たち庶民は騙されていたようなものでしょう。表面上だけで何かをやりあって、互いに喧嘩するような事態を、もはや誰も望んでいませんし、それこそバカバカしいことだと冷めた目で見る感覚があります。</p>



<p>各政党、公約を掲げていますね。今回の選挙も一応、それを参考にさせてもらいます。しかしいつもながらに公約は言うだけで、選挙が終われば公約なんか守らないじゃん、といった批判をする人も多くいるでしょうし、私もそれは思っています。現に、公約は守るものではないなんて言った人もいますもんね。あれを言えちゃう辺りは、そもそも政治家の資格はないだろうなと思います。いや、政治家どころか……という話もなってきますが、ここでそれは特に掘り下げません。それこそ、アホらしい。</p>



<p>私としては、もう一度日本に元気を取り戻してほしいと願っています。私自身も知らないんですよ、景気の良かった時代の日本を。とても明るかったんでしょうね。当然、今の方が生活自体はとても便利になったことは違いないです。それなのにいかんせん、元気がない気がします、昔に比べて。</p>



<p>元気があるかどうかって、とても大事なことだと思うんですよね。何せ、一人の一人のやる気があれば、できることも数倍、数百倍、数千倍と膨れ上がっていくに違いありません。ドラゴンボールの元気玉ってありますが、あれは決して漫画の世界だけの話ではなくて、ただ漫画の中ではああやって可視化されているだけで、現実の世界にも見えないだけで、似た現象は確かにあるものだと思っています。</p>



<p>一人一人が元気を持って、それが一丸となれば、できることは増えるし向上するものだと思います。だから人は仲間を作って、チームを作って、組織を作って、いろいろなことをするんですもんね。まあ、組織を作って悪いことをする人もいるから、全てが良いわけではないですけど。でもそれはそれで、それを“悪いこと”と見定めることができれば、相手は組織になっているので一網打尽にすることもできるという……それこそ、私たち一人一人が“曇りなき眼”を持つ必要がありますね。私は思うのですが、恐らく日本人は曇りなき眼を持っている人が多いと思いますよ。そうじゃなければきっと、さまざまな楽しい漫画もアニメも生まれていなかったんじゃないかと思っています。今に流行る漫画も、今にリバイバルされる少し前の漫画も、多くの人がただ純粋に楽しめるものですもん。嫌味というものがないんですよ。もし根っこに何かしらの嫌味を感じれば、敏感に人々はそのような娯楽を避けて、きっとそれは流行らないものとなるのではないかと思います。それくらいに日本人には微細な感覚があるのだと思っています。それは今ぱっと生まれたものでもなく、むかーしむかしから培われてきたものです。私たちが生まれるよりもずーーーっと前から。</p>



<p>私は近頃本当に日本という国に生まれて良かったと思っています。とてつもなくラッキーだったと思います。だからこの日本という国を残していけたらなぁと思っています。そのためには……という考えで今回の選挙にも投票に行こうと思います。世界で最も長く続く国ということに誇りを持って。</p>



<p>知れば知るほど、この国には奇跡を感じます。一体何なんだろう、この国は、と。とても不思議な国です、日本というのは。そういう国をこの世界から失くしてはいけないでしょう。……今、そんなことを思うほどに、危機感を覚えています。皆さんにもぜひ、各政党の公約と、各政党の性格と、候補者個人についてちょっと勉強して、投票所に行っていただきたいなぁと思っています。</p>
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