<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?><rss version="2.0"
	xmlns:content="http://purl.org/rss/1.0/modules/content/"
	xmlns:wfw="http://wellformedweb.org/CommentAPI/"
	xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/"
	xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom"
	xmlns:sy="http://purl.org/rss/1.0/modules/syndication/"
	xmlns:slash="http://purl.org/rss/1.0/modules/slash/"
	>

<channel>
	<title>LIKE A WIND</title>
	<atom:link href="https://like-a-wind.com/feed/" rel="self" type="application/rss+xml" />
	<link>https://like-a-wind.com</link>
	<description>あなたの心に、ＤＱを。</description>
	<lastBuildDate>Tue, 30 Jun 2026 07:07:31 +0000</lastBuildDate>
	<language>ja</language>
	<sy:updatePeriod>
	hourly	</sy:updatePeriod>
	<sy:updateFrequency>
	1	</sy:updateFrequency>
	<generator>https://wordpress.org/?v=5.9.13</generator>
	<item>
		<title>「天皇と皇族」　世界最長を誇る日本の王朝の現在と未来　（著：竹田恒泰）を読んで</title>
		<link>https://like-a-wind.com/emperor/</link>
					<comments>https://like-a-wind.com/emperor/#respond</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Tue, 30 Jun 2026 07:07:31 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[徒然]]></category>
		<category><![CDATA[日記]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://like-a-wind.com/?p=4753</guid>

					<description><![CDATA[日本に暮らす日本人の中で一体どれほどの方々が、日本の皇室について知識があるのでしょうか。恐らく、ほとんどの方が皇室について何も具体的なことは知らないまま、過ごしているのではない ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>日本に暮らす日本人の中で一体どれほどの方々が、日本の皇室について知識があるのでしょうか。恐らく、ほとんどの方が皇室について何も具体的なことは知らないまま、過ごしているのではないでしょうか。かくいう私も、当然のように何も知りませんでした。学校で教えられることもなく、父母から教わることもなく、知識を得る切欠がないまま大人になり、それでも特別困ることもないためにそのまま過ごしている方が私を含めほとんどではないかと思います。</p>



<p>それ故に、皇室をよく理解している方々には一般的な『男系男子』や『万世一系』と言った言葉の意味も、俄かには分からないまま過ごす方が大半だと思われます。その言葉がどれほどの意味を持つのか。知れば、それがとんでもないことなのだと、誰もが理解できると思うのですが、そこに至るまでにはそれなりの時間をかけて天皇や皇室について知識を得なければならないために、タイパやコスパと言われるような今の時代ではなかなかその知識を身に着けるまでに至らないという……そんなところなのではないかと思います。</p>



<p>ただ、今の今、そんなことは言っていられないと、皇統を説明するための本が出版されています。ということで、今回はこちらの本を読んでみました。</p>



<p><a href="https://www.amazon.co.jp/%E7%AB%B9%E7%94%B0%E6%81%92%E6%B3%B0%E3%81%AE%E7%89%B9%E5%88%A5%E8%AC%9B%E7%BE%A9-%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%81%A8%E7%9A%87%E6%97%8F-%E5%AD%A6%E3%81%B3%E7%9B%B4%E3%81%97%E3%81%AE%E6%99%82%E9%96%93-%E7%AB%B9%E7%94%B0%E6%81%92%E6%B3%B0/dp/4054070671/ref=sr_1_1?crid=YY3YUK2UO7MA&amp;dib=eyJ2IjoiMSJ9.JVWU51qR85XaK3WgPTDGHAnG-jEN7qubfKr7wymRtoS7nS0FgrpCwNr7Z5UljvKsvvFF9xfYU-V03N3DZq-jqb_y9EbwmgRVT9r0z1_qjUJmjX3rPdfKnC1HvJqYe0rjNn_lSiOHsNPEYaAryhiW8_SbJzRQjXvJKDI9pUeBz_60APiIwPQc7UnUnDuAS7FDpDxh5RAvJBeazmh3bBphWaTrtEXPtPNQlMA5sa63yeU2zWyEr09ti_i7V2GqgtfjYbP5MrkTl0Y9XkB5Nw8iDlX18H-BAvm-3EcN9BDzqks.qjvD6TeQchst8Ox_v0pdDZf4MzPhUJ0KZlRMvmKSU44&amp;dib_tag=se&amp;keywords=%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%81%A8%E7%9A%87%E6%97%8F+%E7%AB%B9%E7%94%B0%E6%81%92%E6%B3%B0&amp;qid=1782802896&amp;sprefix=tennnouto%2Caps%2C196&amp;sr=8-1">「天皇と皇族」　世界最長を誇る日本の王朝の現在と未来</a></p>



<p>著者の竹田恒泰さんは、テレビにも出演される有名な方ですが、この方の特別は何といっても“元皇族”であるということでしょう。私のようなゲームに染まった子供時代を送った人間からすれば、元皇族という肩書だけでもうどうしようもないワクワクがあったりもするのですが（すみません）、たとえ竹田さんの口が悪くとも滲み出る品の良さが垣間見えると、やはり元皇族の方なのだろうなぁと、動画チャンネルを拝見していてそう思ったりもします。話が面白く分かりやすく聞き取りやすいのは、やはりその育ちもあるのではないかと、半ば夢を見てしまいます。</p>



<p>今、政治の世界では皇統のことについても議論が重ねられているようですが、この議論についても私たちは本当のところをどれだけ理解できているか、疑問に思うところです。学校でも家庭でも皇統なんて言葉は一度たりとも出たことはない、という方がほとんどではないでしょうか。</p>



<p>よく言われる“女系天皇”や“女性天皇”という言葉についても、ほとんどの方がその意味を正確に理解していないと思っています。言葉には、表面に見える意味と、その内側に込められている意味とがあります。表面上は、いかにも男女平等を描いたような雰囲気で、女性でも天皇になる権利を持つべきだ、という意見が出てくるのも時代的にはあることなのだろうとは思います。しかし、皇統というものを知って、さらにはこの日本という国がこの先もずっと続いて欲しいと思うのならば、この女系天皇や女性天皇という考え方はそもそも生まれないということに行き着くはずです。</p>



<p>私はこの日本という国が好きです。若い頃には、少ないですが海外旅行の経験もあり、その度に日本人に生まれたことがどれだけ恵まれているかを実感しました。一度は、どこから来たのかと尋ねられ、日本人と応えると、それだけで握手を求められた経験もありました。私は別に何もしていないけれど、何故そのような温かな反応を示してくださったのかを考えれば、それは私たちの先人の方々のお陰、ということに尽きます。そのような日本という国を築いて、海外にもその評判を知らせてくれたから。本当に、先人の方々には感謝の思いを忘れないようにしたいと思います。</p>



<p>今上陛下は第１２６代の天皇陛下です。……よく考えてみてください。１２６代です。一般に、商売でも３代続けるのも難しい、５代、６代と続いていればそれはもう江戸時代にまで遡れるかもしれない、１０代なんて続いていたら……と考えた上で、この１２６代をもう一度考えてみると、これがいかにとんでもないことなのかが想像できると思います。世界で最も古くから続く国、それが日本という国です。ということを、日本人が最も理解していないという現実があるんですよね。海外の方の方がよほどこの現実離れした現実を理解してくれそうな気もします。</p>



<p>女系天皇がもし日本に誕生したとしたならば、それはこの１２６代続いた“王朝”が途切れることになります。永らく続いてきた日本の王朝についても様々な議論があるところですが、それでも１２６代続いていると言えるだけの歴史も証もあるわけですから、この歴史を簡単に否定することはできないでしょう。その歴史は、もし女系天皇が誕生したら、はい、また１代から始まりね、ということになってしまう。これが“皇統の断絶”です。</p>



<p>もしこのような状況となっても、多くの日本人はもしかしたら、「それの何が問題なのか？」と思うくらいにのんびりしているかも知れません。何となくですが、私はそんな雰囲気も感じます。それが戦後教育の悲しいところではありますが。</p>



<p>この状況となった時には日本国内よりも寧ろ、対外的に、外国に向けての日本としての大いなる強みが一つ、喪われてしまうという大問題が発生するんです。１２６代続く万世一系という血筋、この歴史の積み重ねに勝るものはこの世広しと言えど、存在しないと言っても過言ではないでしょう。唯一無二の価値、というものがあります。今を生きる私たちは、日本という国が持つこのような価値を正確に知らなければならないのだと思います。特に、世界情勢が不安定な時こそ、この唯一無二の安定は他の何よりも頼りにできるものでもあるでしょう。</p>



<p>そのような価値を知ることも大事なことですが、日本における「天皇」がどのような存在なのかを知ることも大事なことかと思います。</p>



<p>天皇は常に、日本の為に、日本国民の為に、「祈る」存在です。ただただ私たちのために「祈り」を捧げてくださっています。今時の物質主義的な世の中では、一見するとあまり意味のないようにも思う方もいるかも知れませんが、それこそ実際にその行為を自分ごとにして考えてみてください。あなたは知らない誰かの為に、毎日毎日祈りを捧げることができますか？　それこそ、私心を一切なくして、ただただ国民の為に「祈る」ことができるでしょうか。それは決して仕事と割り切って行うものではありません。ひたすら心の底から、国の為に、国民の為に、ただただ「祈る」。これがどれほど難しいことか。</p>



<p>そう考えてみると、それは究極の『親』の姿なのではないかと、ふと思いました。多くの親は、何かのメリットを受けるために、我が子の安寧を祈るものでしょうか？　多分、そんなことはないですよね。子供が幸せならそれでいい、と思う親がほとんどのはずです。そして、親が無償で子を思うから、それに安心して子は伸び伸び活動できる、と。この親と子の精神の結びつきがそのまま、天皇と国民の精神の結びつきなのかなと、今さらながらに戦前の方々の想いが感じられるようで少し鳥肌が立ちました。</p>



<p>先の大戦で様々大きな断絶があったのは事実ですが、それでも皇統は戦後もずっと途切れることなく続いています。日本が敗戦し、昭和天皇とマッカーサーとの会見で、昭和天皇が「自分はどうなっても構わないから国民を助けてほしい」と伝え、それを受けるようにマッカーサーは米国に「皇室は日本に不可欠だ」という報告を送っている……。マッカーサーは初め、昭和天皇が自らの命乞いをするものと思っていたようです。しかし寧ろその反対で、自らの命を顧みることなく、ただ国民を助けてほしいと言う昭和天皇の姿に、マッカーサーは感動すら覚えたのだと。このようなことも、私たちの多くは知らないまま、存続しているこの日本という国に甘えて生きている、ということです。</p>



<p>こちらの本には、竹田さん特有の視点から、今の皇室についても様々書かれています。先ずは知識を得るためにも、こちらの本を手に取って読んでみることをお勧めします。文章は丁寧で、品よく、日本語の美しさに触れることもできます。皇室の今時のカジュアルな姿も見え、一般的には遠い存在にも思える皇室を身近に感じることができるのは、こちらの本ならではの味わいかと思います。戦後に皇籍離脱した旧十一宮家についても説明があったりと、私たちが普段知ることのない日本の芯の部分に触れることができます。</p>



<p>色々と知識を得た上で初めて、今話題にもなっている皇室典範改正について、その内容が分かってくるものと思います。大事なことは、日本という国をこのままずっと存続させること。そのためにどうするのが望ましいのか、私たち国民一人一人が今や知らなければならない、というところにまで来ているのかなと思っています。</p>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://like-a-wind.com/emperor/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>0</slash:comments>
		
		
			</item>
		<item>
		<title>「葉隠武士道」（著：松波治郎）を読んで</title>
		<link>https://like-a-wind.com/hagakure/</link>
					<comments>https://like-a-wind.com/hagakure/#respond</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Fri, 26 Jun 2026 01:23:35 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[徒然]]></category>
		<category><![CDATA[日記]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://like-a-wind.com/?p=4750</guid>

					<description><![CDATA[かなり前に読み始めていたこちらの本、ようやく今になって読み終えることができました。途中、色々と他の本を読んだりして、なかなか落ち着いてこちらの本を読むことができずにいたのですが ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>かなり前に読み始めていたこちらの本、ようやく今になって読み終えることができました。途中、色々と他の本を読んだりして、なかなか落ち着いてこちらの本を読むことができずにいたのですが、さすがにこれ以上先延ばしにしてはいけないと、一気に読み終えました。</p>
<p><a href="https://www.amazon.co.jp/%E5%BE%A9%E5%88%BB%E7%89%88%E3%83%BB%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E8%AA%9E%E8%A8%B3-%E8%91%89%E9%9A%A0%E6%AD%A6%E5%A3%AB%E9%81%93-%E6%9D%BE%E6%B3%A2%E6%B2%BB%E9%83%8E/dp/486622181X/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&amp;crid=1DVFBI0YXUQQ0&amp;dib=eyJ2IjoiMSJ9.P5nOhNRc895KmIrn4Nl56hRz2aQksGQ4kIbnE7jxBRA-agB10LmnzpYknYHS-Mm6_9wYb8YwhLG_cr2ESQjcS3MuwneHVKqqWY3soEusB3BDLoQS2q24OZG9tKo7QmoGu3iWENhfAP8xe3DrCTLil6d-TTa83DnzuxL9SBgw4MWvi9rQN1U-pIBahGRLktEajhy9XV4z5Fx4vdpqjuM42Q0NSJblWX8ULXYZWIlRgcdUiF1x0UyuDsZ7YcytCg0JE-YOiBLNI_MehDzMUuA5jtLZZJMm94JsCnYuJI5GQsg.83Wk9mfFa6oM2qJC2KxuLtNsYK900XH6uW5z6R7w4bE&amp;dib_tag=se&amp;keywords=%E8%91%89%E9%9A%A0%E6%AD%A6%E5%A3%AB%E9%81%93&amp;qid=1782436591&amp;sprefix=%E8%91%89%E9%9A%A0%E6%AD%A6%E5%A3%AB%E9%81%93%2Caps%2C209&amp;sr=8-1">「葉隠武士道」（著：松波治郎）</a></p>
<p>この本の著者である松波治郎氏は、明治三十三年岐阜県に生まれ、戦前・戦中に活躍した作家です。そしてこちらの本は、昭和十七年九月二十日に再版となった一路書苑刊を底本として復刻・現代語訳したものです。まさしく、大東亜戦争の戦中に書かれた本、ということです。</p>
<p>復刻された本、ということはどういうことかと言うと、ここでは「戦後にGHQによって没収、廃棄された本」ということです。そのような本はごまんとありますが、その一冊がこちらの『葉隠武士道』。当時の敵国に目をつけられたということは、何か都合の悪いことが書かれていたということ、なんでしょう。どうやら当時（今にも通じる？）、米国は日本のこの武士道精神を恐れていたようですからね。</p>
<p>読んでみて私が思ったことを率直に言えば、確かに、力の湧く書、であることを感じました。人間の道徳について、細かく書かれていて、その具体例は普遍的であり、今でも十分に通用するものです。</p>
<p>響いた言葉として、「徹底するところに勝あり」というものがありました。これは何も戦争などに限ったことではなく、「徹底するところに力があり、徹底するものに美がある」ということ。この言葉はこれからのAI時代を前に心に響く言葉でもあるかと思います。なんだか今時のタイパやコスパとは対極にあるような考え方にも思えます。徹底するからには、それなりの時間をかけて、費用もかけて行わなければならない。タイパ、コスパを考えながら徹底しようとしても、それは結局徹底していないことになるのではと。</p>
<p>では、この武士道という考え方はいつから始まったものなのかと思えば、それはいつから始まったというものでもなく、「日本国民の性格」なのだと本の中では書かれています。武士という名称は中世に起こったものですが、武士道はもともと日本民族固有の性情なのだと……これもまた腑に落ちるところです。</p>
<p>この本に書かれている武士道は、何も武士に限った考え方ではなく、老若男女すべての日本人がその対象となっているんです。武士道をただ“武士”のものであると見る見方は、西欧流の見方であって、日本人であればその生活にまで武士道は落とし込まれているのだと。</p>
<p>この武士道がどのように表されているのかと言えば、「武士道というは　死ぬことと見つけたり」とあります。……一見すると、いかにも武士が仕える主君のために命を懸けて戦うというように感じられますが、この言葉の意味はそのような表面的なことに留まりません。しかし、とても当たり前のことを言っています。</p>
<p>人は何のために生きているのか、とはよく言われる言葉かも知れませんが、それと同義で、更に先を見るように、人は何のために死ぬのか、ということを述べているんですね。何のために生きるのかを考えるのもとても大事なことと思います。しかし生きとし生けるもの全て、いずれはこの世からいなくなります。それならば、一体自分は何のためにいずれ死ぬのか、そちらを考える方がずっと究極的で、最終的な“生きる目的”となるような気がします。</p>
<p>何のために死ぬのか、というのは同時に、何のために生きるのか、ということであり、武士においてはこれが主君のため、であったと。では、今に生きる私たちは一体何のために生きて死ぬのかと考えると……何だか哲学的な話ですが、決して“自分のため”とはならないのではと思います。自分の為に生きて、自分の為に死ぬ、と書いてみると、これは何だかあまりにも……虚しい。自分がいなくなった後に残るものが何もない、そんな空虚を感じます。この世にいなかったも同然のような……。それはちょっと考えすぎかも知れませんが。</p>
<p>人が後に残せるものは決して物質に限ったことではなく、寧ろ物質的なものよりも、精神的なものが大きいのではと思います。人は生まれたその時、一切何もない状態から始まり、様々な人や物や環境の影響を受けて大人になっていく。様々な影響を受けて大人になった人がまた、新たに生まれてきた人間に影響を与えていく。どうせ与える影響なら、悪いよりも善い方が良いに決まっています。誰もこの世がどんどん悪くなることを望んでいないですもんね。</p>
<p>やはり、人は誰か他の人の為に生きるのが、人間社会において健康的なのではないでしょうか。自由だー！　とか　自分を大事にー！　も大事な感覚かと思うけれども、それよりももっと、「みんながんばれ！」の掛け声をかけつつ、その掛け声をかける人が一番頑張って見せる、という関係性が最も良いものを生み出すのではないかなと、思っています。実際に過去、日本はそうやっていろいろなものを作り出してきたのではないでしょうか。『徹底する』という言葉の感覚は、私としてはすっと腑に落ちる言葉でした。ある意味私も、ドラクエ５の長編小説を『徹底』して書き上げたという思いがあります。……ま、人様の作ったゲームに乗っかる形なので、あまり威張ったことは言えませんが（汗）</p>
<p>この『徹底』の良いところとして、何かに徹底して取り組んだ後にはとんでもない清々しい気持ちになれること請け合いです。どんな小さなことでも、とことんやってみると、その経験自体が自分の人生の糧になります。タイパ、コスパを先に口にするようでは、この『徹底』には行き着かないのではないかなと思います。</p>
<p>こちらの本、その白黒の装丁から難しいことが書かれているのかと身構えてしまいそうですが、実際に書かれているのはそれほど難しいことではありません。一般家庭の生活にも響く内容で、子供のしつけや家庭のあり方、母親のあり方についてなど、私のような普通の主婦にも読めるものです。しかも、その内容が結構面白い。この当時にもこんなことがあったのかと、ぷっと笑ってしまうこともあります。緊張せよ、という話がありますが、そこでは当時の衆議院での議員の居眠りの話なども書かれており、いまでも十分に想像できる状況に思わず笑ってしまうこともありました。</p>
<p>堅苦しく考えずに手に取って見ることをお勧めします。一度は読んでおいて決して損にはならないどころか、物事の見方が深まり、精神も安定するような本かと思います。</p>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://like-a-wind.com/hagakure/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>0</slash:comments>
		
		
			</item>
		<item>
		<title>本編を更新しました。「歓喜に包まれる城にて」（完）</title>
		<link>https://like-a-wind.com/%e6%9c%ac%e7%b7%a8%e3%82%92%e6%9b%b4%e6%96%b0%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%82%e3%80%8c%e6%ad%93%e5%96%9c%e3%81%ab%e5%8c%85%e3%81%be%e3%82%8c%e3%82%8b%e5%9f%8e%e3%81%ab%e3%81%a6%e3%80%8d/</link>
					<comments>https://like-a-wind.com/%e6%9c%ac%e7%b7%a8%e3%82%92%e6%9b%b4%e6%96%b0%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%82%e3%80%8c%e6%ad%93%e5%96%9c%e3%81%ab%e5%8c%85%e3%81%be%e3%82%8c%e3%82%8b%e5%9f%8e%e3%81%ab%e3%81%a6%e3%80%8d/#comments</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 24 Jun 2026 01:11:53 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[日記]]></category>
		<category><![CDATA[更新]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://like-a-wind.com/?p=4745</guid>

					<description><![CDATA[とうとうこの日を迎えることができました。おしまいのお話、アップすることができました。 歓喜に包まれる城にて これにて二十年以上に渡り書き続けてきたドラクエ５長編二次小説のお話を ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>とうとうこの日を迎えることができました。おしまいのお話、アップすることができました。</p>


<p><a href="https://like-a-wind.com/text46-7/">歓喜に包まれる城にて</a></p>



<p>これにて二十年以上に渡り書き続けてきたドラクエ５長編二次小説のお話をめでたく閉じることとなりました。お付き合いいただきました皆様には、ここで御礼申し上げます。長らくお付き合いいただきまして本当にありがとうございました。</p>



<p>最後のお話に限ることではないですが、いつもいつもお話をアップする前に「本当にこれでいいのか？」と悩みながらアップするのですが、最後のお話においては殊更悩んでいました。書きたいことを書ききれていないのでは……と悩むのですが、きっと書きたいことを書ききれることはないと思うので、ある種の勢いでこうして皆様にお届けすることができた次第です。</p>



<p>……何だか、まだ続きそうな感じでお話が終わっていますが、後のお話は皆さまのご想像で楽しんでいただければと思います。お話が一つ終わったからと言っても、この世界はまだまだずっといつまでも続くので……それこそ、これからもずっと「強き心は　時を超えて」続いていくものを思っております。</p>



<p>さて、これからは恐らく気ままに日記など更新していく感じになるかと思います。長編はもう、ちょっと、疲れました（笑）　楽しいんですけどね、お話を考えるのは。しかしここまで長くなってしまうとは、私も想像していませんでした。年も取るわけだ。</p>



<p>お気軽にコメントに感想などお寄せいただければ、大変嬉しいです。</p>



<p>これからも、ドラゴンクエストに光あれ！</p>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://like-a-wind.com/%e6%9c%ac%e7%b7%a8%e3%82%92%e6%9b%b4%e6%96%b0%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%82%e3%80%8c%e6%ad%93%e5%96%9c%e3%81%ab%e5%8c%85%e3%81%be%e3%82%8c%e3%82%8b%e5%9f%8e%e3%81%ab%e3%81%a6%e3%80%8d/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>2</slash:comments>
		
		
			</item>
		<item>
		<title>歓喜に包まれる城にて</title>
		<link>https://like-a-wind.com/text46-7/</link>
					<comments>https://like-a-wind.com/text46-7/#comments</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 24 Jun 2026 00:48:06 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[DQ5（長編）]]></category>
		<category><![CDATA[青年時代（６）]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://like-a-wind.com/?p=4739</guid>

					<description><![CDATA[「世界が平和になったと思ってるのは、もしかしたら僕たちだけなのかも知れないね」 リュカがふとそう漏らすのは、既に山奥の村を後にした竜神の背の上でだ。行先は竜神に任せており、次に ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>「世界が平和になったと思ってるのは、もしかしたら僕たちだけなのかも知れないね」<br />
リュカがふとそう漏らすのは、既に山奥の村を後にした竜神の背の上でだ。行先は竜神に任せており、次に彼らがどこへ運ばれるかは分からない。地上の景色は飛ぶように過ぎ去り、頭の中に地図を思い描けば、この先にはカボチ村が見えるのではないかと思える方角に向かっているようだ。<br />
「外に生きる魔物としては、“平和”というものが何なのか、今一つ分からないのも無理はないでしょう」<br />
そういうピエールもリュカと出会う前は、ラインハット近くに生息するいわゆる普通の魔物だった。魔界に潜む大魔王が倒され、この地上世界を覆うとしていた悪しき気配が忽ち消え去ったために、あらゆる人間に襲い掛かり、人間をこの世から消し去ってしまえと言わんばかりの形相をした魔物がいなくなったことは間違いない。しかしだからと言って、この世界を生きる魔物たちがこれからどのように生きて行けばよいのか、急激な方向転換に戸惑っている者たちが多くいるのかもしれないと思うと、リュカは納得するように小さく息をついた。<br />
「がう、がう」<br />
「そうよ、私たちみたいに人間も魔物も仲良く手を取り合って生きていければいいんだわ」<br />
まだ幼い頃に人間の手により救われたプックルは、これが当然とばかりにそう口にし、それを聞くポピーもまたこれが当然とばかりに明るい未来を口にする。求める理想は単純だ。その単純な理想自体に間違いはない。しかしその理想に、いかに現実を近づけていくか、それは決して単純な話にはならない。<br />
先ほど立ち寄っていた山奥の村の近く、ピエールたちは遭遇した魔物使いとホイミスライム、ベホマスライムとしばし語り合っていた。主に語るのは鞭をしまい込んだ魔物使いだった。突然、空を覆う暗雲が晴れ、それと共に自身を支配していたかのような力が抜け出て、強張っていた全身が急に脱力したという。何が起こったのかは分からないが、何かが起こったのは間違いないと、辺りを見渡せば、自分と同じように立ち尽くしている魔物が数体。目の前には人間の住む村。そこで初めて、人間の村を襲おうとしていたのだと、自分の行動に気付いたのだという。ピエールは魔物使いが話す姿に、嘘偽りは感じなかった。この世に生きる魔物として、人間と敵対することに迷いはないが、だからと言って無謀にも単身で人間の村を襲うなど普通は考えるようなことではない。そして鞭を振り上げる自分を見て、慌てて逃げ出すホイミスライムとベホマスライムを目にして、得も言われぬ孤独感に後悔にと、魔物使いはその場で驚き戸惑うばかりだったという。<br />
「さっきまで敵だったヤツと、いきなり仲良しこよしなんてのは、難しいんじゃねえの？」<br />
「ボクたちにできることなんだから、できないことはないと思うんだけどな～」<br />
「でも私たちはちょっと……特別、だからねぇ」<br />
そう言いながらビアンカは夫リュカを見る。その面影に、彼の母マーサの顔がよく重なる。今では多くの魔物たちがリュカの周りに集まり、互いに信頼を置いている。それというのも、リュカが魔物と心を通じ合わせるような特別な力を有していたからだ。決して誰にでもできることではない。それはリュカであり、彼の母マーサであり、そしてそれは彼らの祖先の者たちから通じる特別な力に基づいたものなのだ。<br />
ビアンカは大魔王ミルドラースの口から、リュカやマーサの正体なるものを聞かされた。それが真実かどうかは誰にも分からないが、彼や彼の母の特別な力を考えれば、その全てを否定できるものでもなかった。リュカがかつての魔王の血に連なるものだったとしても、ビアンカはそれを否定するどころか、寧ろ今までずっと謎めいていた彼の正体が明らかになったと、納得するような気持でその言葉を自らに収めてしまった。魔王という言葉の響きに、夫リュカを重ねて見れば、そこに恐怖は感じられない。もしかしたらかつての魔王と呼ばれた者も、残虐非道な行いをするような者ではなかったのではないかとすら、彼女は夫に寄り添うようにそう考えてしまう。<br />
今、竜神の背に共に乗るプックルにピエールにアンクル、そして今はグランバニアで留守をしている魔物の仲間たちが多数、彼を信頼して共に在る。何故、リュカなのか。それが彼が特別な血を有しているからだと考えれば、それだけで理解が及ぶ。自らを大魔王と名乗った元は人間のミルドラースとは異なり、かつてこの世を混乱に陥れようとした魔王は、ただ単純に仲間である魔物たちを守るべく、悪しき人間を滅ぼそうとしたのではないだろうかとさえ、ビアンカの思考は発展してしまう。<br />
リュカを見て、彼の母マーサを思い出して、どうしてもかつての魔王を悪と断じきれない自分が勇者の子孫という現実に、彼女は思わず心の中で笑ってしまった。壮大な時間の流れを感じる。長い長い時の中で、過去とはすっかり関係性を変えてしまったかつての敵同士であるならば、これからもいくらでも未来を築くことができるだろうと、やはりビアンカの思考は光ある方へと導かれていく。<br />
「いきなり、なんて難しいだろうね」<br />
妻の考えていることが分かっているかのように、リュカは穏やかな声で話し出す。飛行を続ける竜神の背から見える世界地図の景色は、カボチ村を過ぎて南の海上の景色に変わっていた。進む方向に霞む山々の景色が見え始める。この世界で最も高く聳えるセントベレス山の景色は、遥か上空を飛ぶ竜神の背からでもはっきりと前に見ることができる。雲を突き抜けて山頂を露わにするセントベレスには、未だあの大神殿がはっきりとその形を見せている。<br />
人も魔物もいなくなってしまった、見かけばかりが美しい大神殿の地下深くに、光の教団の本体があった。教祖イブールは魔物であり、イブールの敵は全ての人間だった。地上世界に蔓延る人間どもの力を弱らせるためにと、光の教団という組織の力を使い、その触手を方々へと伸ばしていた。イブールにも正義があったのかも知れない。しかしイブールが翳す正義で、もし幸せになれるものがいるのだとしたら、それはイブールだけだったのだとリュカは思う。この広い世界で、たった一人が幸せになることに意味はない。たとえ独りよがりの幸せに浸ろうとしても、それは偽りのもとに仕上がったまやかしの幸せだ。そして非常に危うい幸せは、何か小さなことであっという間に崩れるものに違いない。<br />
「でもずっと諦めずに、仲良くしようとしていけば、少しずつ変わっていくのかも知れないね」<br />
リュカの言葉に込められた意味は、彼が生きている時間に限った話ではなかった。リュカは父パパスと母マーサの子であり、父母もまたその父母がおり、そしてそのまた上にも、とその系譜の始まりは見えないところにある。長い長い年月を経て、世界は形も色も変えていく。人が一人生きるだけの時間で、世界が劇的に変わってしまうようなことは、きっと望ましくはない。誰だって、自身の周りの生活環境が劇的に変わることなど望んでいないのだ。穏やかに、平和に、日々暮らしていければ、それが良いと思うのは人間も魔物も同じところだろう。<br />
「そのために……これからもたくさん働かないといけないんだろうなぁ」<br />
溜息交じりに零すリュカの言葉には、否応なしに彼に迫るグランバニア王としての責務がのしかかっているようだった。勇者である息子ティミーと共に、皆で力を合わせて大魔王を討ち倒し、それだけでも偉業を成し遂げたと言われて過言ではないリュカだが、彼らが生きる世界はこれからもどこまでも続いていく。寧ろ、これからこの世界の平穏を安定させるために、リュカは一国の王として力を発揮していかなければならないのだ。<br />
「ボクも一緒にがんばるよ！　ボクも“勇者”として、まだまだできることがあるよね！」<br />
少々悲観的に遠くを見つめるリュカに対し、そんな父を励ますようにティミーが明るく立ち上がる。かれが勇者だから、目の前に光が見えるわけではないのだと、リュカは思う。彼が愛する我が子だから、今はありもしない光が彼の周りに満ちるのだろうと、リュカは思わずティミーを眩しそうに見つめた。子供が親である自分に対して光を見せてくれるのと同じほどに、果たして自身は子に対して光を与えることができているのだろうかと、リュカは不安にも感じるが、リュカが父でありティミーが息子であるという親子の絆は何があろうとも壊されることはない。<br />
「おっ！　ありゃあ砂漠の国じゃねえのか？　なんだ、この神様はあの国に向かっていたのかよ」<br />
アンクルが目線を向ける方向には大海原を南下し続けた先に、半ば岩山に囲まれたような陸地が見えている。空の遥か高く、竜神の背からもはっきりとその陸地に広い砂漠の景色が広がっているのが分かる。乾ききったような砂漠の土地に暮らすテルパドールの民たちもまた、大魔王が滅ぶと共に、国の窮地を脱していた。人間の城を守るように、砂漠の地にテルパドールの兵と共に魔物であるシュプリンガーが各々位置についている。そして彼らは空に竜神が飛んでくるのを見上げ、歓声を上げて両手を大きく振った。<br />
「アイシス女王にご挨拶していった方が良いわよね？」<br />
「うーん、どうかな」<br />
ビアンカの当然のような勧めにリュカが渋るのは、テルパドールの民たちの盛り上がり様を見ていたからだ。竜神の背に乗る勇者ティミーの姿を目にするや否や、古くから勇者という希望を絶やさなかったテルパドールの人々はまるで発狂とも呼べるほどの熱量を見せて、勇者を迎えようとしていた。おおよそのことでは動じないティミーでも、砂漠の上に熱狂するテルパドールの人々の様子を見て、思わず目をぱちくりとさせている。<br />
「みんな喜んでくれてるのは嬉しいけど……お兄ちゃん、あの中に行ける？」<br />
「う～ん、どうかなぁ……」<br />
勇者伝説を信仰していたような国で、女王アイシスの予言の通りに勇者はこの世に生み出され、そして勇者が大魔王を倒した今となっては、テルパドールの人々の熱狂は最高潮を迎えていると言ってもおかしくはない。テルパドールの人々の中にひとたび入れば、ティミーを中心にリュカたちはもみくちゃにされてしまいかねないと、誰もが思わず無言でテルパドールの騒ぎぶりを見つめる。<br />
城の最上階、アイシスの姿があった。民の騒ぎぶりに対して、女王はただ静かにリュカたちを見上げているようだった。細かな表情は見えない。リュカたちには見えなかったが、アイシスは静かに涙を流していたのだった。それは民たちの喜ぶ姿に、まだ少年である勇者が偉業を成し遂げたことに、この世界が本当に救われたことに、彼女は一国の女王として心からの安堵を得たのだろう。それまで涙は堪えていた彼女だったが、竜神が運んできた勇者の元気な姿に、平和の実感と共に堪えていた涙が両頬を次々と落ち始めたのだ。<br />
「……また、落ち着いてから改めて伺うのがよろしいかと」<br />
魔物の目を持っているピエールには、砂漠の女王が嗚咽を漏らして泣いているのが見えていた。砂漠の女王としての体面を保つためにも、そしてティミーという勇者を砂漠の民の熱狂から救うためにも、ここには敢えて寄らずに済ませるのが良いと、ピエールはリュカに進言するのだった。彼の言葉はいつでも冷静だと信頼しているリュカは、とりあえずはテルパドールには寄らずにおこうと、ただティミーたちと共に砂漠の国に向かって大きく手を振り返した。それだけで人々はひと際大きな声を上げ、勇者家族に対して歓声を上げた。竜神はリュカの意を汲むように大きくテルパドールの上空を旋回すると、そのまま進路を東へと向ける。<br />
再び海に出る。日はみるみる西へと遠ざかり、空は橙に染まり、あっという間に黄昏となる。東の空から一番星が見えたと思ったら、すぐ後には夜空がリュカたちの頭上を覆い始めた。地上世界の美しさを、竜神の背に乗りながら新たに知る。日が天に昇る昼間も、星や月が浮かぶ夜も、どちらも胸に迫るような美しさだ。刻一刻と変わるこの景色が、もしかしたらなくなっていたのかもしれないと思うと、リュカたちはただ静かに何の変哲もないような空の景色を眺めてしまう。当たり前がいかにありがたいものなのかを、魔界の暗黒の景色を思い出せば、より実感できる。朝が来ると思うから、夜は怖くない。夜が来ると思うから、昼間は生き生きと活動できる。この至って普通の出来事を、これからも守っていかなければならないと、竜神の背から見る景色に、その思いは胸に染みていく。<br />
すっかり暗くなった。もう人は寝静まっているような時間なのかも知れない。地上の景色が夜空の下に暗く染められる頃にも関わらず、深い深い森の中に一点、明るい火の灯る場所がある。夜空に浮かぶ月に照らされ、森の中の頑強な城の姿が浮かび上がる。<br />
逞しくも、竜神に向かって飛び上がってくるように見える姿を、プックルが見つけた。<br />
「がうっ！　がうっ！」<br />
思わず飛び降りそうになるプックルを、アンクルが支える。暗がりの中を竜神に向かって真っすぐに飛び上がってくる姿は、魔物だ。しかしプックルが吠える声に、敵意は一切ない。森の中に建つ大きな頑強な城は、今や人間と魔物が共生する場所だ。<br />
「メッキッキー！」<br />
暗い影にしか見えないメッキ―が、ひと際元気な声を上げた。ただ、メッキ―は竜神が飛行する高度にまでは飛び上がることができず、もどかしそうに竜神の下を同じように旋回し始めた。リュカたちを迎えに来たのは明らかだった。グランバニアの人々もまた、城の中でリュカたちを待ちわびているに違いない。<br />
「メッキー！　ただいまー！」<br />
「メッキー、元気そう。きっとみんなも元気だね！」<br />
ティミーとポピーが揃って手を振る。竜神の背の上で高所にあるにも関わらず、ポピーはグランバニアに戻れた嬉しさに、一時的に高い所での恐怖を忘れているようだ。<br />
と、その時、リュカたちが乗る竜神の背が、一瞬にして消えてしまった。足場を失ったリュカたちはバランスを崩し、咄嗟に互いの手を取るが、そのまま彼らの身体は落ちていく。この状況に、流石にポピーだけではなく皆が一様に声にもならない叫び声を上げた。空を切り裂いていくほどの勢いで下降するリュカたちを、唯一宙を飛行できるアンクルが捕まえ、己の背に乗せる。しかし皆が乗れるほどにアンクルは大きいわけではない。捕まえきれなかったプックルとピエールが、そのままグランバニアの森へと突っ込むように落ちていく。<br />
「ぐおお～ん！」<br />
城門近くから、雄たけびのような声を上げて飛び上がってくる魔物が一体、落ちてくるプックルとピエール目掛けて飛行する。その背はどうにかプックルを乗せ、その上にピエールが乗り、ふらふらとバランスを取りながらグランバニアの城門へと向かっていく。マッドは凱旋してきた魔物の仲間たちを祝うように、その口から激しい炎を吐き出した。夜の景色を一瞬明るく染めたその炎の下に、リュカたちははっきりとグランバニアの城を目にした。人々を外の魔物の脅威から守るべく、城下町ごと城の中へと収めたグランバニアの景色に、リュカは亡き父パパスの思いを感じる。父はただの戦士などではなかった。ただただ、守りたいものを守りたかっただけだった。グランバニアという国には、父のような思いがずっと受け継がれてきたに違いなかった。<br />
アンクルとマッドによって、リュカたちはグランバニアの城門前へと降り立った。少し遅れて地上へと降りてきたメッキーは、何やら不思議そうな表情をして、松明に照らされる城の入り口を見つめている。しかしリュカたちがこのグランバニアに戻ってきたことを思えば、きっとどうでもよいことなのだというように、すぐさま嬉しそうにリュカたちの周りをぐるぐる回り始めた。<br />
城門前には門番の兵が二人、それに常にグランバニアの森で国の守りを務めていたアームライオンのアムールたち五体の魔物、そこに並んで同じく森での警戒を怠らなかった武闘家トレット、加えてグランバニアへの襲撃を企てようとしていた魔物らを牽制する役目を負っていた爆弾岩のロッキーが並び立っていた。地上世界が平和になったことは、当然彼らも知っている。しかしそれだからと言って皆が皆、平和に浮かれて騒いで良いわけではないだろうと、彼らは今も尚外に出てグランバニアという国を守っているのだ。<br />
「リュカ王！　お帰りなさいませ！」<br />
しかしやはりリュカたちを迎える兵士らの声はとびきり明るい。松明に照らされたその顔には、心の底からの喜びが現れている。彼らは一度も二度も、もしかしたらこのままリュカたちは帰還せず、この世界は闇に覆われてしまうのかもしれないと、意図せず想像したことだろう。王たちの帰還を信じる気持ちに偽りはなかったが、不安を感じる心にも偽りはなかった。グランバニアの上空が広く暗雲に覆われ、森に棲む魔物らの凶悪さが明らかに増したと見えた時、彼らの胸の中には考えたくもない絶望が広がろうとしていた。しかしその気持ちを無理にでも抑え込んで、その不安を超えたところで、主の帰還を信じ続けたのだ。<br />
「ただいま」<br />
リュカの落ち着いた、生きた声を耳にすると同時に、アムールとライアンが大声を上げて泣き出した。まるで獣の咆哮だ。その声が森に広く響き、未だ森に潜む魔物はその声に驚き戸惑い、危険を感じてかさらにグランバニアから距離を取ろうと密かに移動していた。<br />
「国の者は皆、王様の帰りを待っていました！」<br />
兵もまた感極まったように、そこでたまらず声を震わせた。風もないのに、城門の両脇に置かれる松明の火がごうっと一度燃え上がった。火というものは不思議なもので、いくらでも燃え盛り、生きとし生けるもの全てに恐怖を与えることもあれば、今のように人々の歓喜に合わせるように明るく燃え上がることもある。リュカたちの目に映った大きく燃え上がった松明の灯りは、共にグランバニアという国を守ってきたことを命あるもののように誇り、国の主の帰りを共に喜んでいるかのようだった。<br />
「お父さん、行こうよ！　早く！」<br />
「みんな、待っていてくれたんだって！　これ以上待たせちゃいけないわ！」<br />
ティミーが父の手を、ポピーは父と母の手を取り、淀みなく城門へと向かう。魔物の襲撃の危険を脱した今、グランバニアの城門は開け放たれている。既に城内、というよりも城下町からは明かりが漏れ、人々の熱気がここにまで流れ出してきているようだ。<br />
「がう」<br />
「リュカ」<br />
「うん。でもちょっと待って」<br />
そう言うと、リュカはここに居並ぶ国守りの者たちを労うように、一人一人の前に立ち握手を交わしたり、その身体を軽く叩いたりして感謝を伝えた。魔界に旅立ち、大魔王を倒した者だけが称えられるべきではない。こうして一人一人が自分の足で立ってくれているからこそ、この世界は守られたのだ。<br />
「じゃあ、またね」<br />
相変わらず王の威厳など微塵も感じさせない調子で、リュカは共に旅をしてきた家族と仲間たちと、熱気漂うグランバニアの城内へと歩き出した。</p>
<p><script async="" src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"></script><br />
<ins class="adsbygoogle" style="display: block; text-align: center;" data-ad-layout="in-article" data-ad-format="fluid" data-ad-client="ca-pub-7752759112270694" data-ad-slot="4114162227"></ins><br />
<script><br />
     (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});<br />
</script></p>
<p>城内に足を踏み入れたすぐそこに、既にリュカたちを待つ者たちが立ち並んでいた。リュカは彼らの表情を一人一人、真摯に見つめた。城内には常に魔力による調整が可能な明かりが灯され、彼らの姿は初めからはっきりと目に見えていた。<br />
「リュカ王、ご無事で何よりです」<br />
姿勢よく正面に立つのは、メッサーラのサーラだ。彼の声は非常に落ち着いていた。常々冷静で、慌てるところを見たことがない彼だが、今は常よりも落ち着いているように見えた。<br />
サーラの両脇にはキングスライムのキングスがその巨体を僅かに揺らし、ミニデーモンのミニモンが手に持つ大きなフォークを前に抱きかかえるように立っている。ミニモンの心に寄り添うかのように、その小さな肩にはスラぼうが乗り、まるで涙を浮かべたような水を含んだ二つの目でリュカを見つめている。<br />
「……さあ、皆が待っています。お早く中へお進みください」<br />
「いや……サーラさん。その前に、僕に確かめなきゃいけないことがある、よね？」<br />
帰還したリュカたちを見渡して、敢えて確かめるまでもないと、サーラはリュカたちに道を開けようとしたのだが、それをリュカが止めた。<br />
「いえ、こうして世界は救われたのです。あの方はそのことを最も望んでいたのです。私はそれだけでもう……十分です」<br />
「約束を守れなくて、ごめん」<br />
「あなたが謝ることなどではありません」<br />
「でも約束を守れなかった」<br />
「約束を守ることを決意して旅立たれたあなたのお心に嘘偽りなどなかったはず。それが、肝要なことです。第一……」<br />
一度、表情を歪めたサーラだが、すぐに元の表情へと戻った。ただ、それまで開いていた両手は軽く握られている。<br />
「息子である貴方を差し置いて、私が何を言えるでしょう。貴方が良ければ、それで良いのです」<br />
サーラにそう言われれば、リュカにはもう返せる言葉はなかった。いくらサーラたちに謝りの言葉を述べても、リュカがマーサの子であるという事実の前では、その言葉も空振りのようなものとなってしまう。これ以上リュカがサーラたちに対して申し訳ないと述べても、それは寧ろサーラたちを苦しめることとなる。<br />
「今はゴレムスが、魔界で母さんの心を引き継いでくれている」<br />
魔界の奥深く、エビルマウンテンの山頂にある祭壇で、ゴレムスはマーサの祈りの力を絶やさぬよう、自らの意志を石の中に留めている。ゴレムスの手から放たれている淡く青白い光は、悪しき大魔王のいなくなった魔界において、ジャハンナの町に住む人々や、魔界に生きる魔物たちの心を惑わせないよう今も魔界を照らし続けているはずだ。<br />
「ゴレムスが望んだことですね？」<br />
「そう、だね」<br />
サーラはそれ以上詳しい話をリュカから聞き出そうとはしなかった。話を聞いていたミニモンが、両目からぼたぼたと涙を零し、しゃくりあげ始めてしまった。揃ってその肩の上に乗るスラぼうまでもが、まるで身体ごと溶けてしまうのではないかと思うほどの涙を流し始める。<br />
「ミニモン、泣くのは我慢しなさいとあれほど……」<br />
「ちがうっ、これは、リュカたちが帰ってきてうれしいってナミダだ！　だから、いいだろっ」<br />
「うわーん！　リュカー、おかえりー！」<br />
ミニモンもスラぼうも、リュカたちの帰還を心から喜ぶ気持ちに微塵の嘘もなかった。ただ、それと同時に、本当にマーサを失ったのだということが胸の奥に突き刺さるように分かり、自分でもどちらか分からないような涙がただあふれ出てきてしまったのだった。<br />
彼らのやや後ろで大きく包み込むようにその姿を見せていたキングスライムのキングスが、ゆっくりと前に進み出てきて、リュカ、ミニモン、スラぼうをひと包みにするように柔らかく寄り添った。その表情は、自らの悲しみを表すと言うよりも、母を喪ったリュカに温かく寄り添うような優しさ溢れるものだった。キングスの目からも涙が零れている。しかし彼は声を上げることもなく、涙を零しながらもただリュカに寄り添った。<br />
「……マーサ様にお会いできたのですね」<br />
サーラの声は僅かに震えている。リュカが生まれるよりも前から、サーラたちはマーサを慕い、このグランバニアで共に暮らしていた。その時間は、今となってはそれほど長くなかったと言えてしまうのかも知れない。しかし魔物である彼らの生き方を一変させ、人間の暮らす城で共に生活するようになった彼らにとって、マーサという人間は言わば彼らの母のようなものであり、神のような存在と言っても間違いではないのかも知れない。<br />
「うん。ありがとう、みんなのおかげだよ」<br />
短いリュカのこの言葉に、自分を支えてくれた皆への感謝の気持ちが大いに込められていた。どれほど長い言葉にしても言い尽くせないほど、リュカは“皆”に感謝している。魔界に囚われた母に会い、言葉を交わすことなど、自分一人では到底成し遂げることのできなかったことだ。それが叶ったのは、全て“皆”がいてくれたおかげなのだ。<br />
「いえ、私なぞ何もお役に立てず……」<br />
「違うよ。みんな、一人一人がいてくれたおかげなんだ。これは本当のことだよ。だから、ありがとう」<br />
リュカは母をこれほどに慕ってくれる魔物たちがいるから、自身はここで涙を流さなくて済むのだと、笑顔でいることができた。自分の代わりにこうして泣いてくれる者たちがいる、それが有難かった。手を差し出したリュカに、サーラもまた自らの手を差し出し、握手を交わす。サーラの外見は悪魔そのもので、角にも翼にも色にも、禍禍しささえ感じられる。しかしリュカと握手を交わしたその時、それまで堪えていた涙がサーラの目から零れ落ちた。悪魔が涙を流すところなど、誰も想像したことがないだろう。悪魔に似合う表情というのは、嘲笑や憤怒のようなものに決まっている。人々は当然のようにそう考える。しかし目の前のメッサーラはリュカと固く握手を交わしながら、堪えきれなかった涙を零し、嗚咽を漏らし始めた。悪魔の様相で、誰よりも人情味溢れる感情のまま、主の死を悼んでいる。<br />
「なんだよ、あんたみたいなヤツでも泣くんだな」<br />
同じような悪魔の姿をしているアンクルが、どこかからかうようにサーラに言葉をぶつける。それもまた、仲間を思ってのことだと、リュカには分かっている。決して馬鹿にしているのではない、信頼の上で仲間を救い上げようとしているのだ。<br />
「……フッ、私も初めて知りました」<br />
「がう、がう」<br />
「奥でゆっくり話をしましょう。マーサ殿はやはり……リュカ殿の母君なのだと、私はあらゆる意味で痛感いたしましたよ」<br />
魔界の奥底で初めて目にしたマーサの姿を、プックルもピエールもしっかりと目に焼き付け、覚えている。その姿をマーサをずっと慕ってきた彼らに話すのが義務なのだと、ピエールとプックルはサーラたちを伴うようにグランバニアの城下町へと歩き始める。<br />
「リュカ、さあ、行きましょう」<br />
「みんなにも話さなくちゃならないことが、たっくさんあるもんね！」<br />
「ほら、ミニモンもスラぼうも、泣いてちゃおばあ様が悲しんじゃう。ねっ、泣き止んで……ぐすっ」<br />
釣られて泣いてしまうポピーの肩に優しく手を置き、リュカは明るく広がるグランバニアの城下町に向かって、どこまでも優しくどこまでも強い仲間たちと共に歩き進んでいった。</p>
<p><script async="" src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"></script><br />
<ins class="adsbygoogle" style="display: block; text-align: center;" data-ad-layout="in-article" data-ad-format="fluid" data-ad-client="ca-pub-7752759112270694" data-ad-slot="4114162227"></ins><br />
<script><br />
     (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});<br />
</script></p>
<p>明るい城下町の景色、本来この時間であれば城内の灯りは落とされ、人々は間もなく寝静まる頃と言ったところだが、今の今そんなことは関係ないとばかりに、まるで昼間のような明るさに包まれている。そして人々の賑わう音に熱気に、城下町全体の温度が上がっているようにも感じられた。決して不快なものではなく、喜びに満ちている人々の明るい表情に声に態度に、グランバニアの人々は訪れた平和を心から喜びあっていた。<br />
リュカたちが揃って姿を現すと、ひと際高い歓声が人々の間に上がり、混乱を極めたかのような勢いで人々がリュカたちのところへと押し寄せた。祝宴には酒がつきものということで、既に足取りも危うい者たちも当たり前のようにそこここにいるようだ。<br />
グランバニアという国は一風変わった国で、王と民との間にはまるで垣根というものがない。年に一度は王も民も関係なく、武道大会が開かれるような、ある意味で公平極まる国なのだ。その騒ぎの中に放り込まれては、それまで涙を見せていたミニモンもスラぼうも、サーラも、国王らの凱旋と平和の訪れに喜び合う民たちの中で共に笑顔を見せるようになる。<br />
「あ！　リュカ王！」<br />
群衆の中から姿を現したのは、かつてのグランバニア兵士長パピンの息子であるピピンだった。彼はその軽薄に見える性格から少々軽んじられやすい少年だが、その実力は父であるパピンの強さを思い出させるようなものだ。明るい表情で歩み寄ってくる彼だが、彼もまたリュカと同じように父を亡くしている。父を失った悲しみは確かに彼の胸の中にあるだろうが、彼はこうして皆の前で笑顔を振りまき、きっと父の思い出ごとその笑顔の中に包み込んでいるのだろうと、リュカのその強さを実のところ尊敬している。<br />
「この度のご活躍！　グランバニアの民として、これほど誇らしいことはありません！」<br />
ティミーとポピーの兄のような存在として、彼はこのグランバニアで育ってくれた。親の不在の時、ピピンという少年が双子の子供たちといてくれたことを、リュカは心から良かったと思っている。ティミーとポピーがこれほど明るく真っすぐに育ったのは、ピピンの存在もまた大きなものだっただろう。<br />
「リュカ王。無事のご帰還、嬉しく存じます」<br />
ピピンの背後に立つのは、今では彼の保護者のような立場となった兵士長ジェイミーだ。グランバニアの群衆の中から頭一つ分飛び出したような高身長のジェイミーは、リュカの前で恭しく頭を下げる。それでも人々の中から頭が飛び出ている。<br />
「ピピン、ジェイミー兵士長も、国を守ってくれてありがとう。みんなのおかげでこうして帰ってこられたよ」<br />
「いや～、リュカ王、聞いてくださいよ、こちらも大変だったんですよ～」<br />
「こら、ピピン、王にそのような口の利き方をするんじゃない。王もお疲れなのだ」<br />
「いいんだよ、ジェイミー」<br />
「でもお父さん、先にオジロンさんたちにご挨拶しないといけないんじゃないかしら……？」<br />
「ピピン！　後で遊ぼうよ！」<br />
「王子がお元気で何よりです！　はい！　後ほど遊びましょう！　……でも、手加減してくださいね？」<br />
群衆の勢いは熱気が溢れ、リュカたちは人ごみに押されるように移動させられる。背の高いジェイミーの陰に隠れ、初めは見えなかったが、彼の足元にはこの国に暮らすことになったカレブとマリーの兄妹の姿もあった。リュカは二人と目が合うと、にこやかに手を振って見せた。それだけで明るく輝くような笑顔を見せる兄と妹を見て、リュカもまた嬉しくなる。彼らの兄妹の世話を引き受けてくれたピピンの母にも小さく頷いて見せると、彼女はまるで我が子が凱旋したかのような感動を持って、エプロンの裾で涙を拭っていた。<br />
人々の輪の中に入り込み、リュカの足元に跳ねたのは、スラりんだ。リュカの足に弾むようにぶつかってきて、自己主張するように声を上げている。<br />
「ピキー！　ピキキー！」<br />
「スラりん、ただいま」<br />
足元に弾んできたところを捕まえると、リュカはスラりんを自分の肩の上に乗せてやった。リュカが自分の足で世界を歩き出し、初めて旅の仲間になった魔物がこのスラりんだった。体が小さいために、いつでもどこでもスラりんはリュカの傍にくっついていることができたが、魔界への旅にはついていかなかった。リュカの傍にいることよりも、リュカが大事に思うこのグランバニアという国を守らなければならないと、同じスライムであるスラぼうの心に寄り添ったというところもあった。魔界に囚われるマーサに会いたいという気持ちを抑え、この国に残ることを決めたスラぼうがいれば、スラりんもまたリュカの傍を離れることができると、己の我儘を抑えたのだ。<br />
「うふふ、スラりんったら、リュカに甘えるわねぇ」<br />
リュカの肩にべったりと張りつくようにその柔らかい身体を変形させるスラりんを見て、ビアンカはスラりんを撫でながら思わず笑う。もう危険な戦いに出ることもない、無事にこの国に帰ってきたリュカにならば、いくら甘えるように張り付いても構わないだろうと、スラりんはしっかりとリュカの肩に乗っている。<br />
「リュカ王よ、よくぞ戻られたの」<br />
「ミンナ、ゲンキ。ウレシイ」<br />
リュカたちに群がる民たちは、今やこのグランバニアの重鎮の位置にもいるようなマーリンに道を開け、マーリンについてきたガンドフもまた、その大きな熊のような体でのっしのっしと歩いてきた。<br />
「マーリンもガンドフも、ありがとう」<br />
「大事なさそうで何よりじゃ」<br />
マーリンの声は低く、抑えられたようなものだった。それというのも、リュカたちが無事に戻ってきた姿を目にして、自身でも予想していなかった感動が胸に溢れたからだった。今ではグランバニアという国を支える重鎮の一人となっている自身がここで心乱すわけにもいかないと、心なしか緑色のフードを目深に被る。<br />
そのような立場にはないガンドフは、マーリンの感動をも合わせて表現するように、その茶色のふかふかの毛皮に包み込む形でリュカを抱きしめた。力加減を少々間違えたか、ガンドフの抱擁に会ったリュカは思わず苦し気にうめき声を漏らす。<br />
「リュカ、イキテル。ヨカッタ！」<br />
「げほっ、そうだね。生きて帰れて良かったよ」<br />
「ガンドフ、リュカ殿が苦しそうだから、その辺で……うわっ！」<br />
ピエールの声を聞いたガンドフは、リュカを離すや否や、今度はピエールをその逞しい両腕の中に抱き込んだ。完全に抱き上げられてしまったピエールは地面から浮き上がる形で、ガンドフに完全に捕まった。その姿を見て、ティミーもポピーも嬉しそうにガンドフの身体に自ら抱き着いた。<br />
「ガンドフ、ただいまー！」<br />
「あははっ、ガンドフ、相変わらずもじゃもじゃー」<br />
「ティミー、ポピー、イイコ、イイコ」<br />
両側から抱き着かれたガンドフは、ピエールを解放し、今度は二人の子供たちの頭を優しく撫でる。ガンドフも他の魔物の仲間たち同様、リュカとビアンカが長らく不在の時に、赤ん坊だった双子の面倒を見ていた魔物だ。まるでまだ赤ん坊であるかのような力加減で、ガンドフは二人の頭をごく優しく何度も撫でている。<br />
「マーリンもガンドフも、ベホズンも、お留守番ちゃんとできてた？」<br />
少々からかうような調子で、ビアンカが彼らの後ろで見守るような顔をして大きな緑の身体を震わせているベホズンにも目を向け、はきはきと言う。ベホズンのその大きく柔らかな身体は、国の者たちにも好かれる要素を十分に持っており、人々はベホズンを国の守りの功労者だというようにリュカたちの前に押し出す。<br />
そしてそのベホズンの大きな身体に半分隠れるようにいたのは、大きな白い翼を背に持つ天空人のグラシアだった。彼女はこのグランバニア城の一室に暮らしており、普段はあまり人前に姿を見せることはない。しかしグランバニアに暮らす魔物たちとはよく交流しており、その中でも彼女はキングスやベホズンと言った仲間と特別に仲が良いようだった。言葉を交わすでもなく、ただ隣にいて心地よいと感じるのか、ベホズンもグラシアも互いに自然そのものの様子で寄り添っている。<br />
「天空の城のことと言い、竜の神様のことと言い、本当にありがとうございました」<br />
彼女はかつて、天空城が地上へと落ちてしまったことを切欠に、この地上へと落とされてしまった天空人の一人だった。リュカは彼女を見ながら、ふと魔界の町ジャハンナに行き着いた天空人のことをも思い出す。大魔王を滅ぼしたことで、魔界に囚われてしまったあの天空人もまた救われてほしいと願う。<br />
「伝説の勇者とその家族に神のご加護がありますように」<br />
リュカたちの前で両手を組み合わせ、祈りを捧げる姿を見せるグラシアは、白い翼さえなければもはや人間と見分けがつかないほどにその姿は人間らしいものに見える。それは彼女がこのグランバニアで長らく留まり、魔物をも受け入れるこの国で通常の天空人としての精神を保つよりも、人間に近く、魔物に近く、この地上世界に誰よりも近い天空人となったが故なのかも知れない。<br />
「グラシアさん、もう帰っちゃう？」<br />
彼女が目の前で祈りを捧げる姿を見て、ポピーは得も言われぬ不安を抱いたようだった。彼女が背に負う白い翼のその見た目に、どうしてもあの天空城という彼女の“家”を想像し、思わず素直にそう聞いてしまったのだ。<br />
「ずっとこのお城にいてほしいな」<br />
「ふふ、ありがとうございます、王女様」<br />
「平和になったんだもの。これで好きなだけ天空城と行き来できるわね」<br />
そう言葉を添えるビアンカは、グラシアの正面に立ち両手を差し出す。グラシアも合わせて両手を差し出し、二人はにこやかに握手を交わす。天空人であるグラシアと、天空人の血を引くビアンカ。かつての御伽噺。かつて天空人と人間との間に生まれた勇者。二人がこうして握手を交わしている場面に、リュカは御伽噺の一つの結末を見たような気分になる。どうせ見る結末なら、良いものがいいに決まっている。<br />
「そうよね、お母さん！　じゃあ、グラシアさんにはこのまま城に残ってもらって、好きな時に天空城に行ってもらえればいいんだわ」<br />
「私がたまに村に帰るようなものよ。ねえ？」<br />
「あははっ、なるほど、そうかも知れませんね」<br />
グラシアが声を上げて笑うのを初めて見たグランバニアの人々の間で、小さな歓声が上がる。これからもずっと、彼女も皆も、平和になったこの世界で互いに見たこともないような喜びに満ちた表情を見せ合って行くのだろう。<br />
「これは王様」<br />
ベホズンやグラシアと共にリュカたちの前に姿を現すのは、グランバニアの国を広く見守るシスターだ。彼女と共に、城下町奥に位置する教会からは神父もまたここで皆と平和を喜び合っていたようだ。<br />
「モンスターたちも王様のお手伝いをしたんですよね」<br />
そう言うシスターが見るのはリュカと共に帰還したプックルにピエール、アンクルという魔物の仲間たちだ。グランバニアの国を守るために国に残った魔物の仲間たちの姿は、シスターたち国に在る者たちは皆、その雄姿を目にしてきた。そしてリュカたちと共に旅立ち、魔界の旅を無事に終えて帰ってきた魔物たちもまた、さぞ勇敢に戦ってきたのだろうと彼女は帰還した魔物たちを順に見つめる。<br />
「やはり生きとし生けるものはみな、神の子ですわ」<br />
シスターのその言葉は、そのままリュカの母マーサが思い続けてきたことなのだろうと、リュカは目の前のシスターに母の姿を見るようだった。決して姿かたちに囚われない、大事とするのはその中に籠る心の在り方なのだと、リュカを初め、グランバニアに暮らす人々はその真理に気付いている。未だ、こうして人間と魔物が共に暮らす国など、グランバニアにしかないだろう。人間でも魔物でも、良い者もいれば悪い者もいる。至って当たり前で自然なことを、このグランバニアという国は気づかせてくれるのだ。<br />
「魔界の王は滅び去り、再び神の城が高く舞い上がったと聞きましたぞ」<br />
常に冷静さを失わずに、しかしその表情には微笑みを湛えている神父が、今は実ににこやかで晴れ晴れしい顔つきを見せている。世に生きる者たちの全ての安寧を願う、その先頭に立つ立場でもある神父がこうして正面から笑顔を見せてくれることで、リュカはまたこの世界は本当に救われたのだと実感する。<br />
「めでたいですなあ。わっはっはっはっ」<br />
高らかに笑う神父の声は、リュカたちだけではなく周りにいる皆をも驚かせる。神父という立場の者が己の意思をまったく隠すことなく前面に出し、笑い声を上げる姿を誰も見たことがなかったのだ。神に祈り続ける神父として、神の城が再びその本来の姿を取り戻したということもまた、彼の精神を強くしているに違いない。今は己の役目を忘れてしまうくらいに、彼もまた多くの人々と同じように嬉しさを爆発させているのだろう。<br />
代わる代わる、国に凱旋したリュカたちの前に人々が来ては、口々に礼を述べていく。共に武道大会に出場していた武器屋のイーサンも、祝い酒に顔を赤くしながら「商売あがったりだぁ！」と嬉しそうに叫んでいた。そこここに漂う酒の臭いに、ティミーとポピーだけではなく、リュカもまた少々気分を悪くしかけていた。<br />
「リュカ王、そろそろ国王の間へ……」<br />
群衆のどこにいても目立つ長身の兵士長ジェイミーが、リュカの傍に寄ってきて耳打ちするようにそう告げる。ジェイミーに言われる前に、既にリュカはこの場にはいない者たちのことを考えていた。ただ国王として、平和を民衆と共に喜び合うことは大事なことだと、自らこの場を離れる意思は示せないでいたのだった。<br />
ジェイミーが兵士ら数人と共に、リュカたちのために道を開けるよう人々を促す。そこにピピンも紛れ込み、兵の役割を果たすというよりは、ティミーとポピーの兄としての役割を果たすように、双子の話に耳を傾けていた。魔界での話を二人から聞くピピンは、目玉が飛び出るほどの驚きを見せて、興味津々に話に聞き入っていた。リュカもビアンカも、まるで本当の兄弟のような三人の姿を見れば、自然とその顔には笑顔が浮かぶ。この二人の愛する子供たちが、これほど良い子に育ってくれたのは、ピピンのお陰でもあるのだと彼の調子の良さそうな話しぶりにも窺える。<br />
リュカたちがグランバニア城の上階に向かう途中、城下町の噴水広場近くで見慣れない人間が一人、紛れ込んでいるのをリュカは見た。グランバニアという国には、それなりの多くの人々が暮らし、リュカ自身もまたすべての民を一人一人その顔を把握しているわけではない。しかしそれを差し置いても、思わずリュカは見慣れないと感じたその男をじっくりと凝視してしまった。<br />
いかにも国民に溶け込み、馴染んでいるように見せているが、リュカの目に映るその中年の男は、その平々凡々は姿には似つかわしくない、きらりと光る琥珀色の目をリュカへと向けてきた。服も平素なもので、体格もどちらかというと細身、背も高くなく、黒縁の眼鏡をかけて、片手に酒の入ったグラスを持っている。今は祝いの時であり、誰かれとなく配られるグラスをただ受け取ったのだろう。<br />
リュカはジェイミーに一言断りを入れると、訝し気な顔つきを隠さないままその男へと近づいていった。まるでリュカの行動をお見通しと言わんばかりの変わらぬ表情で迎えるその中年の男は、直前まで素知らぬ顔をしながらリュカのことを見もしていなかった。しかしいざリュカが近づいてくるのに気づくと、この国の王が近づいてくるという緊張感もなく、ただゆったりとリュカのことを見ているだけだった。<br />
いかにも目立たない市民という姿の中年の男は、敢えて目立たない服装を選び、周囲に溶け込むことを目的としているかのようだった。祝いの場に用意されている簡素な木のテーブルに手を付きながら、もう片方の手に持つグラスをリュカに向かって軽く掲げて見せる。どこか特徴的な琥珀色の目が、黒縁眼鏡の奥からリュカを悠然と見据えている。<br />
「わっはっはっはっ。人々の喜ぶ姿はいつ見てもよいものだな」<br />
姿は平民を装っているようでも、その言葉遣いはまるで平民を表していない。外見を真似るのは容易だが、その中身まで真似るのはできなかったのだろう。男の言葉がたとえば、リュカのような国王から発せられるものであれば、特別奇妙にも感じないところだ。言葉の持つ雰囲気というのは、相応の立場に合ったものが求められるというものだ。まるで平民の姿をしている男が言うには、あまりにちぐはぐな言葉であり、しかもこの国の王に向かって言うような言葉でもない。<br />
「どれ……私もいっぱい」<br />
そう言うなり、男は手にしていたグラスの酒を一気に飲み干してしまった。喉を鳴らして飲むような勢いに、リュカは思わず止めようと手を前に出したが、まるでグラスから酒が一瞬にして消えたかのように見え、リュカの手は戸惑いと共に宙に留まった。リュカのみならず、すぐ後ろに来ていたティミーもポピーも、ビアンカも目を丸くしている。<br />
「あ、あの、あなたは……」<br />
リュカは国の人々一人一人を把握しているわけではない。その中で何故この男に特別に目が留まったのか、何故わざわざ近づき声をかけようと思ったのか。そこに理由はなく、ただ導かれたというのが本当のところだった。<br />
「え？　私が誰かだって？」<br />
リュカよりも大分背が低い、体の線も細い。比べればどちらが優位なのかは一目瞭然とも言える状況だった。リュカの護衛としてついているジェイミー兵士長などにおいては、顔を真下に向けるような形で男を見下ろしている。しかしそれでもこの男は兵士長のいかつい顔つきにも怯えることなく驚くこともなく、ただにこやかにジェイミーを見上げてにこにこと機嫌よく微笑んでいる。<br />
「王様のお知り合いですか？　……のようには見えないですけどねえ」<br />
同じくリュカについてきていたピピンが、いつも通り物怖じしない態度で見知らぬ中年の男をじっくりと見つめている。そのピピンにも、男は嬉しそうに笑顔を返すだけだ。先ほど一気に飲み干した酒が影響しているのか、男の顔は仄かに赤味がかっている。しかしそれさえもどこか“真似”をしているようにも見え、僅かな不自然さを感じるリュカはどうしても訝し気な顔つきを崩せない。<br />
「リュカ、まだ分からないか？」<br />
「………………」<br />
そう言えば、このグランバニアへ到着するや否や、リュカたちはそれまで乗っていた竜神の背から唐突に落とされる羽目になった。他の地域を回っていた時には、竜神は地に降りてリュカたちを下ろすなり、神の力でも使ったか、突然にリュカたちを町の中へを送り込んだりと、竜神なりに人間への配慮があったのを感じた。しかしこのグランバニアの上空で、竜神はまだリュカたちを背に乗せたまま突然その姿を消してしまったのだ。何をするか分からない不安な竜神のこと、そのまま天空城へ帰った、とは想像できない。そして今も尚、こうして琥珀色の目でリュカを楽し気に見つめている。<br />
「私だよ、プサンだよ、プサン」<br />
果たしていたずらに成功したような自慢げな顔つきを、神という立場で表せるものかと思うが、プサンは難なくそのような表情をリュカたちに見せていた。竜神の姿でももしかしたら、普段からそのような顔つきをしているのかも知れないが、ただ竜の姿をしているから分かりづらかっただけなのかも知れない。<br />
「えーっ！？　プサンさんって、あのプサンさん！？」<br />
「どうしてプサンさんがここにいるの……？」<br />
リュカたちの尽力のお陰で、竜神の姿を取り戻したはずのプサンが、今こうして竜神の姿に戻る前の人間の姿で楽し気に祝いの場に溶け込んでいる。ティミーもポピーもただ男の名を口にしているだけで、この場にいる誰もが彼をまさか人間ではないとは思わない。ましてやここに復活した竜神がいるなどと、誰が想像できるだろうか。事態に気付いていないビアンカもまた、ただ不思議そうにリュカたちの知り合いということであれば挨拶をと慌てて頭を下げている。<br />
「やはり人間というのはいいものだなあ……」<br />
そう言っていかにも酒に酔ったようにしゃっくりをするプサンだが、それすらも人間を“真似”ているようで、その姿に真実味をリュカは感じない。しかし彼の言う言葉には嘘がないと感じていた。『やはり人間というのはいいものだなあ……』と思わず彼が口にしたのは、竜神の本音なのだろう。<br />
リュカたちよりも余程、プサンは人間という生き物を見つめてきたはずだ。何せ彼は二十年間もあの閉ざされた洞窟の中でトロッコに乗ってぐるぐると回り続けていたのだ。今冷静になって考えてみれば、二十年間もの間トロッコが壊れずに、一人の男を乗せたままぐるぐると回り続けることができるだろうかという疑念が沸くが、恐らく二十年もの間あの洞窟の中に一人いたことは間違いない。<br />
「なあ、リュカもそう思うだろう？」<br />
酔いどれの言葉だというように、プサンは演出しているのかも知れない。しかしその言葉には真実が込められているのだと、間近に見るプサンの琥珀色の目にリュカはそう感じた。竜神が込めるその意味には、神であるプサンが、魔族の王の子孫である可能性を秘めるリュカに対して、『人間とはよいものだ』と聞いている、と。リュカは柔らかな雰囲気を醸すプサンの目を見つめながら、己の漆黒の瞳に光を湛えて、応える。<br />
「ええ……決して捨てたものではありません」<br />
どう応えるのが正しいのかなど、リュカには分からない。しかしプサンのように人間を全て良いと受け入れる気にはなれなかった。良いも悪いも含めて、人間という生き物なのだと、リュカはかつては人間だった者たちが魔に落ちて行ったことを決して忘れることはできないし、忘れてはならないと思っている。何百年も前にこの世界を破滅に追いやろうとしたのが己の先祖であるかも知れないという歴史もあれば、この度地上世界を滅ぼそうと力を尽くしていたのが元は人間であったという新たな歴史も生まれてしまった。<br />
良い者も悪い者もいる中で、リュカたちがこれからもできることは、良い世界を築いていくためにはどうするのが最善なのかを考え続けることだと、リュカはこの場に賑わうグランバニアの人々の姿を広く見渡す。そしてそのリュカを、プサンはただ静かに穏やかに見つめるのだった。<br />
「リュカ殿、王の間に待つ皆さまをあまり待たせてはなりません」<br />
ピエールはリュカの後ろに控えながらも、少し前からプサンの正体に気付いていた。そしてこの竜神をさほど敬わない彼は、ただ冷静に主であるリュカの行動だけを優先させようと、頃合いを見て口を挟んできたのだった。ピエールの援けに甘えるように、リュカはプサンに一度だけ目配せをすると、プサンもまたウインクを返した。まるで「任せておきなさい」と言わんばかりの自信溢れるその態度に、リュカは寧ろ不安が増すのだった。<br />
「あーあ。プサンさんまたやっちゃったよ。これでまたとうぶん天空城に帰らないんだろうな……」<br />
「プサンさん、ホントは人間に生まれたかったのかな……？」<br />
王の間に向かい始めた時にティミーとポピーがそう話すのを聞いて、ビアンカは思わず首を傾げる。<br />
「天空城に、人間にって、二人とも何を言ってるの？」<br />
「あっ、そっか。お母さんは初めて見たんだよね、プサンさんのこと」<br />
「あれ、マスタードラゴンだよ」<br />
ポピーにティミーに、何ということもないように話す二人についていけず、ビアンカはまた首を傾げてしまう。普段は頭の回転の速いビアンカだが、あまりに現実離れした状況に、子供たちの言葉を理解するのに少々時間がかかった。<br />
「ビアンカ、あれがマスタードラゴンなんだよ。ああやって気ままに人間の姿に化けちゃうんだ」<br />
「え……ええっ！？」<br />
「あっ、そうだ。あとでグラシアさんにマスタードラゴンが来てるって教えてあげようよ」<br />
「今、このお城にマスタードラゴンが来てること知ったら、びっくりするよね、グラシアさん」<br />
今はリュカたちの傍を離れ、天空人グラシアは主に魔物の仲間であるベホズンと共に行動し、グランバニアに人々と一緒になって祝いの賑わいを見せている。まさかこんなところに彼女の主とも言えるマスタードラゴンがいるなど、思いもよらないところだろう。<br />
「わ、私は初めて見たけど……今の人がマスタードラゴンなの？」<br />
以前に、マスタードラゴンは人間の姿に化けて地上世界に紛れ込んでいたことを、ビアンカは聞いたことがあった。しかし彼女の想像する人間に化ける神様というのが、まさかあのような平々凡々の姿をした中年の小柄な男というところには行き当っていなかった。世界を統べる神なのだから、どのような人間に扮したとしても、神の空気が滲み出てしまうものだろうと、彼女は無意識にも期待していたのだ。<br />
「天空の人たちがあんなに慌ててた意味がようやくわかったわ……」<br />
マスタードラゴンの姿で、遥か高みにある空を悠々と飛んでいれば、竜神に危機など訪れようもないだろう。しかし今はこうして、一般の人間の男性よりもひ弱にも見える身体で、特別何かの力を有している様子もなく、呑気にグランバニアと言う人間の国に潜り込んでいる竜神という状況を考えれば、天空人たちが不安を抱くのも無理はない。<br />
「あ、あ、あの、リュカ王、一体どういうことでしょうか……？」<br />
リュカの護衛として傍についているジェイミーが、聞こえる話に多少の混乱を見せつつも、状況を確認しようとする。真面目なジェイミーを無駄に不安がらせることもないだろうと、リュカははぐらかすように「ああ、大丈夫だよ。あの人、何にもしないから」と、やや雑に伝えるだけで済ませてしまった。リュカは嘘を言ったつもりはない。神が敢えて何もしないのは本当のところだ。神というのは恐らく、その存在そのものに意味があると、リュカは後ろでリュカたちを静かに見続けているプサンの視線を感じながら、グランバニア上階へと向かう。<br />
「リュカよ。王の間へは、お主たちだけでゆくがよい」<br />
階段を上る手前でそう言葉をかけてきたのは、リュカたちの留守を預かっていた魔物の一人であるマーリンだった。リュカは当然のように、共に魔界を旅し、死闘を潜り抜けてきた魔物の仲間たちと共に王の間へ向かうつもりでいた。マーリンにそう言われるまで、プックル、ピエール、アンクルとこの場で離れることを微塵も考えていなかった。<br />
「そうですね。今、最も優先されるべきは“王の凱旋”であり、“勇者の凱旋”です」<br />
ピエールはマーリンの言葉に素直に納得を示す。寧ろ王と共に並んで自身が凱旋を果たしたと見せるなど、今見せるべきものではないと、魔物の騎士としてその場で立ち止まる。<br />
「がう」<br />
プックルもまた、大人しくその場で座って見せた。短い一言に『もう平和になったのだから、いつでも会える』という安心を見せ、赤い尾を落ち着いた様子でゆらゆらと揺らしている。二度も離れ離れになった過去を、プックルは乗り越えたように「にゃあ」ともう一度鳴いて見せた。<br />
「オレたちが一緒にいっても、なんだか“ミノオキドコロガナイ”って感じになりそうだしなぁ」<br />
あくまでも現実的に状況を想像するアンクルは、たとえ共に王の間に入ったとしても、寧ろ互いに気まずいような状態になりはしまいかと、そんなことを口にする。彼の、感動とはかけ離れたようなそんな言葉にある意味で救われたように、ビアンカは笑いながらリュカに言い添える。<br />
「大丈夫よ、リュカ。私たちは家族としてついていってあげるから、一人じゃないわよ。寂しくないでしょ？」<br />
「もちろんよ！　お父さんを一人なんかにしないわ！」<br />
「オジロンさんたちに報告って言っても、すぐに終わるよね？　みんなともすぐに後で会えるから、平気だよ！」<br />
「……あの、僕ってそんなに寂しがり屋に見えてるの？」<br />
妻も子供たちも揃って口にするそのような言葉に、リュカはふと自身に不安を覚える。これではまるで自分が一番子供だと、困ったような顔でそう言うリュカに、彼を囲む者たちが思わず笑い声を上げてしまう。これほどに平和で穏やかな空気が、このグランバニアの中で漂っていることに、リュカは図らずも感動を胸に滲ませる。<br />
「これ以上オジロン殿たちを待たせてはならんぞ。早う行くがよい」<br />
マーリンの言い方は、いかにも国の重鎮としてオジロンやサンチョの隣で常に共にグランバニアと言う国を支えてきた魔物の言いぶりだった。彼を置いて、オジロンたちの苦労をこれほどに理解している魔物もいないのだろう。これ以上待たせるなと言うマーリンの言葉には、リュカたちを思うのと同時に、ずっとリュカたちを待ち続けてきた彼らに対する情愛もあるのだ。<br />
「うん。じゃあ、行ってきます」<br />
兵士長ジェイミーが先導する形で、リュカ、ビアンカ、ティミー、ポピーが王の間へと続く階段を上がっていく。その姿を、プックル、ピエール、アンクル、だけではなく、他の仲間の魔物たちも、多くの人々もまた、歓声を上げて見送った。</p>
<p><script async="" src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"></script><br />
<ins class="adsbygoogle" style="display: block; text-align: center;" data-ad-layout="in-article" data-ad-format="fluid" data-ad-client="ca-pub-7752759112270694" data-ad-slot="4114162227"></ins><br />
<script><br />
     (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});<br />
</script></p>
<p>城の二階にある居住階を通り過ぎ、更に上へと向かう。外から日差しが差し込むことはない。既にグランバニアは夜更けを迎えようとしている時間帯だ。陽光輝く空を見渡す代わりに広がるのは、無数にも思える星々が浮かぶ夜空だ。城の回廊に出ると、城内の熱気から解放されたように、涼しい風が肌を触れていく。グランバニアと言う国は年中を通じて温暖な気候の地域で、夜でも寒気を感じるようなことはない。今こうして涼しさを感じるのは、それだけ城下町の熱気が高まっていたということだ。<br />
ジェイミーの後に続いて、リュカたちはゆっくりと回廊を歩いていく。国を包み込むようにある森林は静かで、時折夜の鳥が控えめに鳴き声を聞かせてくれるだけだ。森から吹いてくる風は穏やかで、つい先日までこの場所が暗雲の下に、月も星もない暗闇に包まれていたとは想像できない。人間であるリュカたちにはほとんど視界の聞かないような夜の森だが、ここにも確かに平和が訪れているのだという雰囲気を感じることができる。<br />
「ジェイミーさん」<br />
「はい、何でしょうか」<br />
国王に呼ばれては、前を歩き続けることも不敬に当たると、ジェイミーは足を止めてリュカを振り返る。そのつもりもなかったリュカは、これ以上待たせてはならない人々に会うためにと、ジェイミーの横に並んで自ら歩き始めた。今度は遅れてはならないと、兵士長は慌てて国王と歩調を合わせるように歩き出す。<br />
「後で色々と、教えてください」<br />
「……と、言いますと？」<br />
「グランバニアも、大変だったんでしょう？」<br />
そう言いながら、リュカはジェイミーの右足に回復呪文を施した。彼は決して足を引きずって歩いていたわけではない。たとえ痛みがあろうとも、彼はそれを痛みとも思わずに平静を保ち行動していた。誰にも悟られることはなかった。しかしリュカは、予想以上にゆっくりとしたジェイミーの歩みに、ふと彼の右足の負傷に気付いたのだった。<br />
「……いえ、貴方がたの苛酷な旅に比べれば、何のことはありません」<br />
「たとえそうだとしてもだよ、僕は一応この国の王でしょ？　だから色々と聞いておかないとね」<br />
「はっ……貴方がそう望むのであれば、私はいくらでも話しましょう」<br />
「うん、よろしくね。……この平和はさ、決して僕たちだけで成し遂げたものじゃないから」<br />
「ジェイミーさん、ボクも後でお話聞きたい！」<br />
「リュカの言う通りよ。私たちだけじゃきっと、どうにもならなかったんだわ」<br />
「ジェイミーさんも無事で良かったの……」<br />
肌を撫でる夜風は涼しく優しい。しかし仄かにその中に混じるのは、森の焼けたような臭いだ。リュカたちの帰還を祝うように、グランバニアの人々はただただ喜びの表情を見せてくれる。しかしこの場所にも魔の手は確実に伸び、リュカたちの知らない危機を迎えていたのは、今は見えない夜のグランバニアでも気づく臭いだったり雰囲気だったりに微細に感じられるのだ。<br />
回廊を端まで歩き、突き当りを右へと曲がろうかとした時、リュカたちの目の前に素早く動く影を感じ、皆が思わず身構えた。しかし共に歩くジェイミーは、ふっと小さな笑みを零すだけで、特別リュカたちを護衛すべく剣を構えるでもない。危険を一切感じないという姿勢のジェイミーに、リュカたちも身構えていた姿勢を崩す。<br />
夜空の星々の中、うっすらと浮かび上がるその姿は、まるでどこかのお姫様のようだった。リュカはふわりとしたドレスに身を包んだ彼女の姿に、思わず母マーサがこの国に帰ってきたらもしかしたらこのような景色が、と想像してしまった。<br />
「おかえり、みんな」<br />
まさしくグランバニア国の姫であるドリスが、姫らしくドレスを身にまとってリュカたちを待っていた。夜の暗さに、ドレスの色はよく分からない。ドリスは普段、動きやすい服装を好み、スカート丈も短いものをよく身に着けているが、今はおしとやかなお姫様のごとく足元まで覆う長い丈のドレスを着ていた。<br />
身に着ける服によって人は、その所作が自然と変わるものだ。今のドリスは普段の活発な彼女とは異なり、しとやかに両手を前に静かに合わせ、美しい立ち姿を見せている。優れた武闘家としての面も持つ彼女のこと、背筋を伸ばした良い姿勢を保つことには慣れている。<br />
「父のオジロンから聞いたわ。王様たちが魔界の王をやっつけたんだってね」<br />
ドリスの言葉遣いまでは、姫君らしい上品なものとはならなかった。しかしそんな彼女の言葉に、リュカは安心した。彼女も彼女で、一応は自身の姫君らしくない言葉遣いを気にしているようで、直後につい笑いながら言い添える。<br />
「なーんて、本当は王様にこんなクチの聞き方しちゃいけないよね。でもこういうのってなかなか直らなくて……」<br />
本当は、ドリスはリュカにこんなことを話したいわけではなかった。もっと話すべきことがあるはずだと分かっていた。誰も足を踏み入れたことがないような魔界という場所から、無事に帰還を果たしたのだ。外の世界に憧れるドリスとしては、いくらでもリュカの冒険譚を聞き出したいと思う。魔界とは一体どのような場所なのか、魔物はどれほど強いのか、魔界と言うくらいだからとてもおどろおどろしいのか、水や食べ物はどうしたのか、そこに人間はいないのか、考え出せばキリがない。<br />
しかし彼女が最も聞きたかったのは、リュカの母マーサのことだ。彼は母を救いに行くのだと、魔界へ旅立つことを決めたのだ。しかし今、彼の隣に母はいない。それだけで、彼に何があったのかは察して余りあるというものだった。聞くに及ばない質問など、晴れて凱旋を果たしたばかりの国王に投げるべきではないと、ドリスはただ優しい笑みを浮かべて、リュカを労う言葉を言おうと口を開いた。<br />
「リュカ王、ステキよ」<br />
長々と語るのは後だと、彼女の今の想いを集めたものが、こんな言葉だった。王妃も王子も王女も、こうして無事に一緒に帰ってきてくれた。魔物の仲間たちもこの城に着いていると聞いている。それがどれほど成し遂げがたいことだったか、ドリスはこのグランバニアをも襲おうとしていた魔物の群れの様子を思い出せば、自ずと知れるというものだった。<br />
リュカの母マーサについては、ドリス自身よりももっと、そのことを知りたいと思っている者がいる。彼を差し置いて自分が、という気には到底なれないと、ドリスは交わす言葉もそこまでにしてリュカたちを王の間へ向かうようにその眼差しで促した。<br />
「ドリスお姉ちゃん、今日はちょっとおすましだね」<br />
ティミーが少々からかうようにドリスにそう言うが、ドリスはいつものような元気を見せてティミーに言い返すこともしない。もう少しここで星を見るのだと、屋上庭園に留まるドリスの目には、夜の暗さに紛れて見えない涙が浮かんでいた。リュカたちが帰ってきたと知ってからも、ドリスは彼らを実際に目にするまで、本当に彼らが戻ってきたのかと疑う気持ちを捨てられなかったのだ。そしていざ、何事もなく戻ってきたようなリュカたちの姿を目にして、気が抜けたように目に涙が浮かび、それを悟られまいと一人屋上庭園に残ったのだった。<br />
ドリスも一緒に王の間へと彼女を心配するポピーを、ビアンカが先に王の間へ行きましょうと促す。ポピーがドリスを大事に思うのと同じように、ビアンカもまたドリスを可愛い妹のように大事に思っている。それ故に今は彼女を一人にしておいた方が良いのだと、人を心配させるような涙など見せたくないと理解するビアンカは、ドリスの心情を汲むようにただ静かに「ドリス、また後でね」と声をかけるに留めた。その温かな王妃に手の感触に、ドリスは声もなく、ただ後ろを向いて頷くだけだった。<br />
屋上庭園を右手に見て、左手に王の間の扉が見える。扉の両側に焚かれる松明の灯りに浮かび上がるのは、門番の兵たちと、兵よりもふくよかな体型をした一人の男の姿だ。暗い中でも、リュカはすぐに彼が誰だかを悟る。リュカたちが気づくよりもずっと前から、扉の前でじっと静かに待ち続けていた彼は、それまでは絶対に取り乱すことなく王たちをお迎えするのだと平静を保っていた。が、ひとたび松明の灯りの中にリュカたちの姿が見えると、それまでの決意などなかったかのように込み上げる涙をまるで堪えず、横にいる兵たちをも驚かせるほどに両頬から涙を溢れさせた。<br />
「ぼ、坊ちゃん」<br />
サンチョはいつでもついこう呼んでしまうのだ。彼の中でリュカは、いつまで経っても手の中に納まるような可愛らしい赤ん坊であり、素直で可愛らしい男の子であり、勇敢でも可愛らしい青年なのだった。リュカがどれほど成長しようとも、サンチョの前ではずっと子供なのだ。そしてそれはきっと、亡きパパス、亡きマーサが経験するはずだった父母としての愛情から生まれるものなのだ。<br />
しかし両脇に立つ二人のグランバニア兵の気配に遅れて気づいたように、サンチョは溢れる涙を手の甲でぐいっと拭うと、表情を引き締めて改めて国王リュカに向き直る。<br />
「いえ、リュカ王！　お帰りなさいませ！」<br />
サンチョの元気な声を聞いて、今度はリュカが表情を歪ませる番だった。頭を下げるサンチョの姿は、果たしてこれほど小さかっただろうかと、サンチョのふくよかな体型を分かっているリュカは思わず眉を顰める。サンチョが懸命に声を張って、リュカにおかえりなさいと声をかけてくれる。一体これまでに何度、こうしてサンチョにおかえりなさいと言ってもらってきたのだろうか。<br />
リュカがこの世に誕生したその瞬間から、サンチョはリュカの父パパスと母マーサと共に、その誕生を喜んでくれたのだろう。リュカは当然、その時のサンチョの様子を知ることはできない。しかし彼は常に父の従者として、その役割を全うするようにリュカの傍におり、いつでもリュカのことを最優先に考え動いてくれていたことに、彼の気持ちを窺い知れる。大事なグランバニアの王子ということも当然、その理由にあったのは間違いない。しかし決してそれだけではないのだと、顔を上げたサンチョが全く隠していない涙顔に、リュカはサンチョの“もう一人の親”としての愛情を深く感じるのだ。<br />
「サンチョ、ただいま」<br />
その言葉を口にした途端、リュカはあのサンタローズの幼い頃の記憶が蘇るのを否応なしに感じた。あの時は村の中で遊んで帰るだけだった。小さな村で、頼れる村人たちがいて、その中で遊んで帰ってくるリュカに、サンチョはにこやかに「お帰りなさいませ、坊ちゃん」と家のどこからでも姿を現して声をかけてくれた。<br />
今にして思う。サンチョはきっと、リュカに寂しい思いをさせないようにと、努めて“母”の役割を自ら負っていたのだろう。子供のいないサンチョに、ましてや男である彼に、母親の役割など非常に困難だったに違いない。しかしサンチョは、リュカの母マーサが魔界に連れ去られてしまったという現実を見てしまっているのだ。彼の主であり、リュカの父であるパパスを支えるのと同時に、唐突に母と離れ離れになってしまった生まれて間もないリュカをあらゆることから守るためにも、サンチョはきっとリュカの母になろうとしていたのだと、リュカは幼い頃に何もかもを包み込んでくれる雰囲気を見せていた彼を今になってそのように感じられる。<br />
「この度のご活躍、このサンチョ、どれほど嬉しかったことか……」<br />
到底堪えられる涙ではないと、サンチョはどうにか堪えようとしながらも、両頬からぼたぼたと涙を流しながらリュカに話す。リュカも思わず涙腺は緩むが、目の前でこれほどまでにサンチョが泣いてくれると、自分の分まで泣いてくれているようで、代わりにリュカは思わず笑みを浮かべることができた。<br />
リュカたちが魔界の奥底にいるその時、グランバニアの上空にも暗雲が流れ込み、それはあっという間にこの地の空を覆った。吹いたことのない冷たい風がどこからともなく吹き荒んだ。その光景は、一瞬にしてグランバニアの人々を不安に陥れてしまった。森に棲む魔物が唐突に我を失ったかのように目を光らせ、凶暴を見せた。そこに、魔物自体の意思は感じられないと、サンチョは感じていた。近頃では専ら城の中で内務に勤しんでいた彼もこの状況においては、自らの武器としている大金槌を手にして外へ出ざるを得なかった。<br />
敵となる魔物と向き合いながらも、サンチョの脳裏には常に魔界へと旅立ったリュカたちのことが映っていた。グランバニアが暗雲に包まれ、森の魔物が凶暴化しているこの状況に、サンチョは大金槌を振るいながらも、大事な大事なリュカたちに何事かが起こったのかとその手は常に震えていた。気が気ではなかった。もしかしたらと考えようとする思考を止めるためにも、彼は目の前の敵に向き合った。<br />
時間にしてどれほどだったのか、彼にはその感覚がなかった。一瞬、一瞬を、とにかく過ごしていただけだ。ただ、今度は唐突に暗雲が晴れ渡り、隠れていた明るい空が開けた時、その状況を身に知ったかのように途端に身体から力が抜けてしまった。その時彼の背後に迫る魔物の一撃を打ち払ってくれたのは、実はピピンだったことを未だにサンチョは知らない。<br />
「その昔、先代パパス王とまだ赤ン坊だったリュカ王を連れてこの城を出た時……まさかこんな日が来ようとは夢にも……」<br />
サンチョも考えていることはリュカと同じようなことだった。やはり彼の胸中を占めるのは、幼いリュカとの日々なのだ。人は誰しも幸せだったころの思い出を拠り所として生きているのかも知れない。リュカも、幼い頃に父とサンチョと過ごしたあのサンタローズでの日々を忘れることはできない。サンチョに至っては、リュカよりも尚、その頃の思い出は深く濃く残っているに違いない。それは親が子を看るに等しい時間だった。自らも親となったリュカにはその時のサンチョの想いが、我がことのように想像することができる。<br />
「サンチョ」<br />
涙をぼたぼたと落とすサンチョの前で、同じように泣くわけには行かないと、リュカはどうにか顔に笑みを湛える。しかしその頬はやや引きつっている。目頭は勝手に熱くなる。松明の灯りに照らされたサンチョの髪には白髪が増えたようだと感じる。年月を感じる。その年月は果たして幸せなものだっただろうか。どれだけ今まで心配や迷惑をかけてきたのかと、リュカは実の親に感謝するがごとく、サンチョの前で頭を下げる。<br />
「今まで本当にありがとう」<br />
「そんな……私が不甲斐ないばかりに……」<br />
「たくさん苦労をかけたね」<br />
「なんの……坊ちゃんが生きてくれさえすれば、もうそれで……うっうっうっ……」<br />
涙に暮れるようなサンチョだが、このまま泣き崩れてしまっては示しもつかないと、どうにかして顔を上げリュカを正面に見つめる。その時、サンチョの目に映るのは間違いなくリュカであるにも関わらず、彼はリュカではない者を目に映していた。<br />
「…………マーサ、様……」<br />
サンチョには、目の前に立つリュカの姿に、マーサが映し重なっているのが見えていた。幼い頃からよく似ていると、サンチョはリュカにそう言ったこともあった。今のサンチョの前に立つリュカの表情は、似ているということに留まらず、まるで生き写しのように見える。リュカと言う愛する息子を通じ、マーサがこうして長年に渡るサンチョの忠義を労いに来ているようで、止めようと思っていた涙は更にとめどなく溢れてしまう。<br />
「サンチョ、相変わらず泣き虫だなあ」<br />
ティミーはあくまでも朗らかにそう言う。このような時は、子供のこの無垢な明るさに救われる。涙を流していてはいつまでも王の間に向かうことができないと、サンチョを筆頭にリュカもビアンカも、共に付いていたジェイミーも涙ぐんでいる状況から脱することができた。<br />
「泣いている場合ではないですよね。……さあ、リュカ王、皆が待ちかねていますぞ」<br />
「みんなをこれ以上お待たせするわけには行かないものね。ただでさえ私たち、色々と寄り道してきちゃったんだし」<br />
「……そうだったね」<br />
考えてみれば、魔界から地上世界へと戻ってから一体どれほどの時間が経過しているのか、リュカたちは誰も知らない。世界を竜神の背に乗って巡ってきたことも合わせれば、このグランバニアに着くのは相当に遅くなってしまったのは間違いない。<br />
「サンチョにはまた後でたっぷり話すよ。魔界で会った母さんのことも……」<br />
「……マーサ様にお会いになられたのですね。それは良かった……本当に良かったです」<br />
魔界へと旅立つことを決めたリュカの背中を、サンチョは押したのだ。それはただ、マーサに成長した息子リュカと会ってほしいから、それだけだった。主であるパパスの宿願を果たすためにも、マーサをこのグランバニアに連れ戻してほしいと願っていたには違いないが、彼はただ、母と子を会わせたかった。息子であるリュカに母マーサに会ってほしいという思いよりも、寧ろ母マーサに愛する息子に会わせたいという思いの方が強かった。やはり彼は、リュカの親代わりということなのだ。<br />
「ああ、またサンチョが泣いちゃうよ！」<br />
「サンチョおじさん、泣かないで……」<br />
「ははは……ティミー王子にポピー王女にそう言われてしまえば、このサンチョ、頑張って涙を引っ込めなくてはなりませんな……」<br />
サンチョにとって双子は、孫のようなただただ可愛いという二人なのだ。そんな二人に励まされては、サンチョは改めて思う双子の優しさに可愛らしさに、その頬は自然と緩み始めてしまう。そんなサンチョを見ながらビアンカはつい山奥の村に暮らす父ダンカンを思う。祖父と孫の立場という意味で、父ダンカンとサンチョは似たようなところに立っているのかも知れない。そしてその関係はとても微笑ましいものだと、彼女はまだ目に涙を残しながらも同じように微笑む。<br />
「さあ、行きましょ……リュカ」<br />
妻の声がいつものようにはきはきとした明るいものだと感じ、リュカもまた気持ちは明るく落ち着く。夜の暗さに、扉の両脇に焚かれる松明に、リュカたちの互いの笑顔が浮かび上がっている。<br />
「うん。じゃあ、行こうか」<br />
リュカの声を切欠に、二人の兵たちが扉をゆっくりと開く。王の間には多くの灯りがあるのだろう。暗い夜の中では眩しいと感じるほどの明るい王の間へと、リュカたちは揃って足を踏み入れる。</p>
<p><script async="" src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"></script><br />
<ins class="adsbygoogle" style="display: block; text-align: center;" data-ad-layout="in-article" data-ad-format="fluid" data-ad-client="ca-pub-7752759112270694" data-ad-slot="4114162227"></ins><br />
<script><br />
     (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});<br />
</script></p>
<p>正面の玉座に座る者はいない。そこに座すことができるのは、この国の王であるリュカだけだ。しかしリュカは、扉が開いた時に、玉座に座る者の幻影を見ていた。王の間に足を踏み入れたリュカのその表情に気付いた者はいない。しかしリュカは一人密かに目を見張った。<br />
幼い頃にこのグランバニアを離れ、リュカは決してこのような場面を目にしたことはなかった。しかし今、リュカの目にはグランバニアの玉座に悠然と座る父パパスの姿が見えていた。それはもしかしたら、リュカの願望が、ただリュカの目にだけ映っているのかも知れない。<br />
非常ににこやかな父の表情を、リュカは久しぶりに目にした。これが己の願望から出来上がったような幻影だとしても、それでも父パパスはきっとリュカをこうして笑みを浮かべて迎えてくれるに違いないと思う。決して言葉を交わすことなどできない幻影は、無事に帰ってきたリュカを“よくやった”と褒めてくれているのだと、リュカは見える父の幻影にそう感じる。幼い頃、ビアンカと無茶をしてレヌール城の夜の冒険に出かけて戻った時も、パパスは叱らなければならないのに、息子の成長が嬉しいと喜んでしまったことがあった。父が喜んでくれるように、自身は逞しく成長できただろうかと、リュカは見える玉座の父に自然を浮かぶ笑みを見せた。<br />
無事に国へと帰還した国王一家を迎えるように、玉座の脇に立つのは、国王代理として長年この国を守ってきたパパスの弟であるオジロンだ。サンチョのように泣き崩れるようなことはなかったが、リュカを見つめるその目にはやはり涙が浮かんでいた。思えばオジロンもまた、長らく苦労、心労を重ねてきたのだ。世界が平和を取り戻す直前には、グランバニアの危機にオジロン自らも一人の戦士となり、国を守るべく皆と共にその働きを見せた。その姿をリュカは見ていないが、彼の真の姿が一流の武闘家であることを知っているために、この国を思うオジロンがその働きを見せないということもなかっただろうと想像する。<br />
扉は二人の兵によって閉じられ、兵士長ジェイミーは既に両側に列をなして並び立つ兵の先頭に入り、同じく並び立つ。リュカたちを先導していたサンチョもまた、リュカたちを玉座へと誘導した後に、自らはオジロンと対を為すような位置に移動し、そこに立つ。<br />
大きな玉座。今はそこに父パパスの幻影は見えない。そこに今座るのは、今の国王であるリュカなのだと、年季をも感じられる玉座はぽっかりと空いた状態で国王を待つ。ビアンカがリュカに目配せする。国王として今、為すべきことは、この玉座に座り、国王の帰還をここに示し、世界に平和が訪れたことを示すことなのだと、リュカはビアンカと共に大きな玉座に共に静かに腰を下ろした。父と母の堂々たる姿を目にして、ティミーとポピーもまた玉座の両側にそれぞれ立ち、並び立つ兵たちの姿を見つめる。彼らがいるから、こうしてグランバニアの国は守られているのだと、彼ら一人一人の清々しい表情を見ながらそう感じる。ティミーは勇者として生まれ、家族や魔物の仲間たちと共に魔界と言う見知らぬ世界を旅をすることにもなったが、それだけで世界が守られたわけではないのだ。こうしてグランバニアを守り、待ってくれてる人々がいるから、宿命を受け入れ、悪にも立ち向かうことができる。そしてそんな危険を冒し、悪に立ち向かう者たちがいるから、グランバニアの国の民らもまた決して手を抜かずに国を守る覚悟を決めることができるのだ。すべては、互いの為に。互いを思うことこそが、平和が続く礎となる。<br />
オジロンが一歩前に進み出て、国王一家帰還の祝いの言葉を述べようとした時、閉じられている扉の向こう側で何やら人々の話し声が聞こえ始めた。今、扉の向こう側にいるのは番をしている二人の兵と、庭園で一人星空を見上げているであろうドリスだけのはずだ。しかし聞こえる人の声はその三人にとどまらず、一体どれほどの人がそこにいるのだろうかと思わせるほどの、多くの人の声がみるみる賑わってきている。その状況に、玉座に並んで座るリュカとビアンカは顔を見合わせ、想像できる状況に思わず吹き出すように笑ってしまう。<br />
門番が必死になって止めていたにも関わらず、扉は豪快に開かれてしまった。王の間にいる兵たちがざわめき、咄嗟に武器を構えるが、扉から入り込んできたのは、城下町で騒いでいた国の者たちだった。ここは深い森に囲まれた、王と民との間に垣根のない、きっと世にも珍しい国。<br />
「ばんざい！　ばんざい！」<br />
「王様たちが帰ってきた！　王様！　オレはもう嬉しくって嬉しくって。ヒック……」<br />
「リュカ王！　あなた様は父上を超えられましたぞ！」<br />
「王様、ステキよ！」<br />
「ララララー。世界に平和がおとずれたー。えらいぞティミーわれらが伝説のー」<br />
城下町で騒いでいた民たちは、国王一家が上階へ上がっていったのを見送ったはずだったが、あまりの喜びに見送るだけでは気持ちが収まらなかったのだろう。国王は王の間で、玉座に戻って初めて国への帰還を果たしたと言えるのだと言わんばかりに、国民たちもまた真の王の帰還を共に祝おうと、普段は認められていないグランバニア城の上階への入場が半ば強引に許可されてしまったのだった。<br />
「まったく……仕方がないのう」<br />
溜息をつくオジロンだが、その表情は誰よりも楽し気に見える。かつてこの国では、幾度も危機が訪れ、その度に国には暗い影が落ちていた。先の王妃であるマーサが魔物に連れ去られ、妻を救おうと旅立った先代の王パパスは魔物の前に倒れ、数年を経て国に戻った息子リュカもまた妻ビアンカと共に行方知れずとなった。しかし国王となったリュカはこうして国に戻り、王妃ビアンカも王子ティミーも王女ポピーも、国を、世界を救った勇者の家族として今、元気にここにいる。終わりよければ、などと一言にまとめて良い過去ではない。しかし今の今、目の前で誰もがその顔に笑みを浮かべ、嬉しさを爆発させている状況では、長年の不安定を乗り越えた実感がわいてくるのも止められず、オジロンもいつになく心も体も軽くなるのを感じた。<br />
「リュカ王、これは……無礼講ということでよろしいですかな？」<br />
「あはは、今さらですよ、オジロンさん」<br />
リュカが玉座に着きながらそう応えると、オジロンは見たこともないほどに顔を明るくし、王の間へと入り込んできたグランバニアの民たちの間へと入り込んでいってしまった。本当はこの場で誰よりも喜びを爆発させたいのがオジロンなのかもしれないと、リュカは誰ともなく相手を見つけてダンスを踊り出すオジロンを見ながら思わず声を立てて笑ってしまう。<br />
王の間に押し寄せる人々の熱気で、途端に内部の温度が上がり暑くなる。しかしそんなことにはお構いなしに、誰もかれもが互いに喜びを表すように王の間の中で踊っている。初めは職務に就いていなくてはと真面目に兵たちの様子を見ていたジェイミー兵士長も、強引に天空人グラシアに誘われては、慣れない踊りをせざるを得なかった。サンチョのところへ話に来たシスターも、周りで楽しく踊る人々がいれば、その中に混ざって楽しく踊り始める。リュカはサンチョの踊る姿など今まで目にしたことはなかった。太った体の割に身軽でもあるサンチョは、難なくシスターをエスコートしながら踊っている。もう涙は引っ込み、サンチョの顔には滲み出て溢れている喜びが、多くの皺となって現れ出ていた。<br />
「パパスおじいちゃん、サンチョおじさんのこともちゃんと見守ってるよね」<br />
リュカの傍でそう言うポピーには、もしかしたら亡き祖父パパスの姿が見えているのだろうかと、リュカには感じられた。たとえそうでなくとも、ポピーがサンチョに対してそう思えることが、リュカには嬉しかった。この国で生まれたリュカを見てきたサンチョは、それと同じようにこの国で生まれたティミーとポピーを見てきてくれた。リュカやティミー、ポピーからの感謝だけではなく、亡き父パパスもまた従者サンチョへの感謝は計り知れないものがあるに違いない。それを直接言えない父に代わり、リュカはこれからもサンチョに感謝の言葉を伝え続けようと、彼の喜びに溢れる状況を見ながらそう心に思う。<br />
「あわわわ……私はそういう踊りはちょっと……」<br />
「なーに言ってんの。こういうのは考えるもんじゃない、感じるものなんだって！」<br />
この賑やかな王の間で、そんな会話が聞こえたわけではない。しかしリュカの目に映った二人の姿を見て、リュカは思わずそんな言葉を交わしているに違いないと二人を見てしまったのだ。この賑わいにすっかり元気を取り戻したようなドリスに力強く手を引かれるのは、人間の姿をしたプサンだ。一流の武闘家としての動きをするドリスに対して、プサンはついていくのに必死だ。踊りは通常、男性がエスコートするものなのだが、それがこの二人に関してはまるで逆転している。天空城の主として、この地上世界を統べるマスタードラゴンであっても、力強い一人の人間の姫に振り回されてしまう姿はあまりに可笑しい。<br />
「わあっ！　みんなも来たんだ！」<br />
ティミーは人々の後に続いて入ってきた魔物の仲間たちの姿に、思わず歓声を上げた。この王の間に常々入れる魔物の仲間は恐らくマーリンぐらいのものだ。しかし今はオジロンの言った無礼講を表すように、続々と魔物の仲間たちが王の間へと入ってくる。<br />
「がうがうー！」<br />
「ピキキー！」<br />
「本当に我々が入っても良いのでしょうか……？」<br />
「ミンナ、ウレシイ、ガンドフモ、ウレシイ！」<br />
「今日だけは特別じゃ！」<br />
「メッキッキー！」<br />
「ぐお～ん、ぐおお～ん！」<br />
「マッド、ここで火を吹いてはなりません」<br />
「リュカー、来ちゃったよー！」<br />
「『リュカ、よくやった……』……うわーん！　パパスさまー、マーサさまー！」<br />
「今のがリュカのオヤジの声なのかよ、ミニモン？」<br />
「メ……メ……」<br />
何やら危うい音を出しているロッキーを、両側からキングスとベホズンが包み込むように宥めている。爆弾岩のロッキーが嬉しさを爆発させたら何が起こるのかは分からないと、大きな身体をした二体が協力してロッキーに寄り添っているようだ。<br />
「これじゃあもう、ムチャクチャじゃない、ねえ？」<br />
呆れたような声でそう言うビアンカだが、その実は誰よりもその騒ぎの中に混ざりたいという思いで水色の瞳はキラキラと輝いていた。その好奇心に満ちたような表情こそビアンカだと、リュカは隣に座る妻の笑顔を見て自分のことのように嬉しくなる。<br />
「僕たちも一緒に踊ろう」<br />
リュカからそんな言葉をかけたことなどなかった。しかし今のこの状況、これほどまでに多くの人々に魔物にと、ごった返した王の間の中にあっては、落ち着いて二人で玉座に座っていられるほどリュカも大人しくはなかった。世界に平和が訪れた。おとぎ話に聞くような幸せな結末には、皆が喜び踊る姿が相応しいのは違いないと、リュカはビアンカの手を取る。<br />
「うふふ、リュカからダンスに誘ってくれるなんてね」<br />
「ホントだね。きっとこの先、こんなことないよ」<br />
「じゃあこの機を逃しちゃいけないわね」<br />
賑わう中でそう言葉を交わすと、リュカとビアンカも玉座を立ち、そのまま人々の中へと入り込んでいく。<br />
「二人もおいで！」<br />
「一緒にみんなで踊りましょう！」<br />
「やったあ！！」<br />
「うん！！」<br />
人々の中に、魔物の仲間もいる中で、リュカとビアンカは互いに手を取り、その近くでティミーとポピーもまた兄妹で手を取り合い、元気に踊り始める。王たちも踊り始めたと、人々の熱気はますます盛り上がり、王の間の中は大変な賑やかさとなった。人々の幸せな顔つきを、職務に就いている兵たちもにこやかに見つめている。中には皆と混じって踊り出す兵もいる。<br />
この賑わいの中でリュカとビアンカは、互いの声が聞こえるようにと顔を近づけ合い、言葉を交わす。<br />
「ねえ、リュカ……」<br />
「うん？」<br />
「私、あなたにめぐりあえたこと、本当に心から神様に感謝してるわ」<br />
「僕の方こそ……まあ、神様に感謝してるかどうかはよく分からないけどね」<br />
そう言いながらリュカはちらりとプサンへと視線を投げる。プサンは相変わらずドリスに振り回され、もはや目を回しているようにも見える。そんな彼らの姿を見て、ビアンカは少しだけ申し訳なさそうに小さく笑う。<br />
「絶対に私の前からいなくならないでね」<br />
明るい調子で言うものだから、リュカは咄嗟には彼女の不安に気づかなかった。世界に平和が訪れ、皆がこうして喜び合い、全ては丸く収まったのだと、言ってしまうのは簡単だ。しかし自分も彼女も一度はこの城から行方不明になるという悲劇に見舞われたのだ。十年という月日を空白に過ごした彼女にとっては、離れ離れになったあの時のことが記憶からなくならない限り、この不安というものは一生消えないのかも知れない。<br />
「私のこと、絶対に離さないで……」<br />
「……うん、絶対に」<br />
繋いでいた手を離し、リュカは両腕でビアンカを抱きしめた。公然とそのようなことをされたらいつもは恥ずかしさに自ら離れるようなビアンカだが、今は大人しくリュカに身体を寄せているだけだ。そんな王と王妃の姿に、王子と王女が、人々が、魔物の仲間たちまでが、沸くような歓声を上げる。グランバニアの者たちにとっては、こうして王と王妃が揃って仲睦まじくする姿を見ることそのものが、喜びの対象なのだった。この国は長年、国王家族がこうして平和の中に安らかに過ごせる状況になかった。それがようやく今、叶ったのだ。平和という形が今、彼らの目にしっかりと見えている。</p>
<p>どこからともなく　不思議な声が　聞こえる</p>
<p>リュカは皆と共にこの訪れた平和というものをその身に感じている時、ふと、この場を大きく包み込むような温かな雰囲気を感じたような気がした。ちらりと大きな玉座に目を向ける。しかしそこには誰の姿もなく、この国の王であるリュカをただ待っているというように玉座は静かに、賑やかに喜び合う人々を見つめているだけだ。</p>
<p>見てください　あなた。<br />
子供たちの　あの幸せそうな顔を。</p>
<p>彼女が見下ろす景色は、彼女がその身に帯びた宿命が果たされた証ともなるものだった。もう三十年、この地を離れることとなり、終ぞ国に戻ることは叶わなかった。連れ去られた魔界で一人、地上世界の平和を、人々の安寧を、ひたすら祈り続けてきた。エルヘブンに、魔界の門の番人としてその力を有して生まれた時から、彼女の運命は半ば決められていたようなものだった。<br />
しかし彼女は、与えられた運命に悲観することなく、人としての幸せを見ることができた。今、彼女の眼下にあるのは、心からの笑顔で家族と共に、国の者たちと共に平和を喜ぶ息子リュカの姿だ。我が子が心の底から喜び、嬉しそうに彼の可愛い妻と、子供たちと、国の皆と笑顔を交わし合っている。スラぼうが孫娘ポピーの肩に乗っている。ミニモンが宙を飛び回り、近くにまで飛び上がってきて不思議そうにこちらを見ている。キングスは仲の良さそうなスライムベホマズンと一緒に並び合い、その身体に孫息子ティミーを乗せて、楽し気に身体を揺らしている。サーラは騒ぎ合う人々を嬉しく眺めながら、国の兵士長と言葉を交わしているようだ。この場にいないゴレムスのことも、彼女は決して忘れていない。最も仲の良かった友だちのゴレムスは今もしっかりと魔界と言う世界を見つめ、そこには彼女の心も半分置いてある。<br />
実態のない自身が涙を流すことはないと、マーサはただ微笑む。しかしその頬には、生きていたころのような温かな涙が伝うのだった。</p>
<p>ああ　見ているとも。</p>
<p>マーサの言葉に応える低い声がある。彼女と並び立つように浮かぶその男もまた、グランバニアの王の間で賑やかに喜び合う民たちをにこやかに見渡している。長らく留守にし、終には戻れなかったこの城を守り抜いてきた者たちが大勢ここにいる。<br />
弟であるオジロンにはどれほどの苦労と心労をかけたか分からない。兄王が戻らない中で、よくぞこのグランバニアを守ってくれたと、彼は弟を見つめながら心の中で礼を言う。再び感極まって涙を流している従者サンチョは、今日一日で涙が枯れてしまうのではないかと思うほどに、もう隠すこともなく大いに泣いて喜んでいる。彼には公私にわたり大変に世話になったと、パパスは彼にも温かな視線を落とし、心の中で礼を尽くす。苛酷な運命に導かれてしまった息子の、大いなる心のよりどころになってくれたに違いないと、パパスはふとこちらを見上げたサンチョと視線を交わせたような気がした。<br />
王の間に数匹の魔物が入り込んでいるこの情景を、パパスは改めて驚きを持って見つめる。グランバニアに魔物が棲むようになったのは、妻マーサが連れてきた魔物たちがその始まりだった。しかし今では、その数が信じられないほどに増えている。その中でも最も凶悪に見えるキラーパンサーが、息子リュカの足元でこれでもかというほどに甘えてその大きな身体を擦り付けている。パパスにはそれがあの時の猫だと分かっている。彼は当初から、リュカが連れてきた猫がキラーパンサーの子供だと分かっていた。それ故に、当時は密かに驚いたのだ。血は争えないものだと、魔物を懐かせてしまう息子の力に妻マーサの力が継がれているのだとその時はっきりと感じていたのだった。<br />
リュカがこちらを見上げている。しかし焦点は合っていない。リュカのことだ、きっと何かを感じてこちらを見ているに違いない。できることならもう一度言葉を交わしたい。よくぞ生きてくれていたと、あの絶望の時からよくぞ生き延びてくれていたと、息子を褒めてやりたい。しかしどうやら、それは叶わないようだ。</p>
<p>私たちの　子供は<br />
私たちが　かなえられなかった夢を<br />
かなえてくれたようだ。</p>
<p>たとえ父の言葉が息子に伝えられなくとも、今は、彼の隣に愛する妻がおり、愛する子供たちがおり、愛する国の民たちがいる。人はいつまでも生き続けられるわけではない。それ故に、人の想いというのは絶やされることなく、大事に大事に継がれていくのだろう。親から子へ、子から孫へ、人から人へと継がれていく想いは、どこまでも、時を超えて。</p>
<p>さあ　こっちへ　おいで</p>
<p>子の元を離れがたくなるのは、父パパスも母マーサも同じだ。しかしいつまでも子の傍にいられるわけではない。だが、あの子は今、今を生きる大事な者たちと共に笑うことができている。愛する我が子が笑って過ごすことができる世界に、彼らは子を託すことができる。</p>
<p>はい　あなた……。</p>
<p>子の元を離れがたい気持ちは、隣に共に旅立つ伴侶がいれば抑えることができると、妻は夫の声に導かれるように向かう。向かう先に何があるのか、彼らは知らない。誰も知らない。しかしそれさえも、生きる子供たちの元気な姿があれば己のことなど二の次になってしまう親心に、パパスもマーサも導かれるままにグランバニアの地を旅立っていく。</p>
<p>「リュカ、どうかしたの？」<br />
ぽかんと宙を見つめているリュカに、ビアンカが騒がしい中で寄り添い問いかける。<br />
「…………うん、なんでもないよ」<br />
「……そう、それならいいのよ」<br />
そう言いながら、ビアンカは夫の目じりに浮かぶ涙には気づかないふりをした。<br />
リュカの目に、両親の姿が映ることはなかった。しかし彼は今、このグランバニアの国で人々も魔物も喜び合う賑やかな平和に、自然と父と母を想った。この平和を迎えることができたのは、決して今を生きる人々だけの想いだけではなく、これまでに生きてきた人々の想いもまた積み重なっているのだ。そうして心というのは、強さを増していく。<br />
この強い心を、次の子たちへと、そのまた先の子たちへと、繋げていくのがこれからの務めなのだと、リュカは目尻に滲む涙をすっきりとした気持ちで指で払った。</p>
<p>強き心は　時を超えて</p>
<p><script async="" src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"></script><br />
<ins class="adsbygoogle" style="display: block; text-align: center;" data-ad-layout="in-article" data-ad-format="fluid" data-ad-client="ca-pub-7752759112270694" data-ad-slot="4114162227"></ins><br />
<script><br />
     (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});<br />
</script></p>
<p>平和とは、迎えたところで終わるものではない。それが今のグランバニアにも見えている。<br />
魔物との戦いにより傷ついた森は、時間をかけてその姿を癒していく。この世界には人の怪我を治してしまう回復呪文は存在するが、その呪文は自然を即座に元通りにするような力を持っているわけではない。神が人間にその力を敢えて与えなかったのかどうかは、誰にも分からないが、リュカはそれで良かったのだと思っている。<br />
一部焼けてしまったグランバニアの森だが、そこを元の通りに森を復活させるのではなく、マーリンの提案によりそこには新たに畑を作ることにした。平和な世の中になったということは、これから人が増えていくだろうと考えれば、必然とそれに応じた食料が必要となる。人が生きるには、水と食料が必要だ。足りなければ困るものだが、余って困るものでもないと、時折国王であるリュカ自身も畑に姿を現し、畑づくりに励む人々に混じって自ら鍬を持つこともあった。<br />
ただ、一国の王であるリュカが一日中畑仕事に従事することもできず、彼はその立場に負う務めを果たすべく、始終自分の足で民たちの暮らしぶりを見て回っていた。オジロンやサンチョはほとんど玉座に座っていないようなリュカに困った顔をしながらも、それでこそリュカと言う人間なのだろうと、かつてのグランバニア王パパスを思い出したりもしていた。リュカの父パパスもまた、あまり落ち着きある王とは言えない王だったのだ。何せ、幼子を連れて旅に出てしまう国王だ。血は争えないと、オジロンもサンチョも互いに顔を見合わせて、笑みを見せつつも小さく溜息をつくだけだった。<br />
森の魔物も大人しくなり、新たに作った畑を荒らすこともない。時折、人間たちの様子を見に来るように、どこからともなく魔物が姿を現すが、決して人間を襲ってくるようなことはない。相変わらず国の守りについているアムールやシンバたちの存在も、森の魔物らの行動を抑えている一つの理由だった。平和になったからと言って、グランバニアは国の守りを一切捨てたというわけではない。危機と言うのはいつ起こるか分からないものだと、二度も国王不在の時を過ごしたグランバニアの民たちはその記憶をしっかりと胸に留めている。平和を喜んで享受すると共に、敵は魔物に限らないということも彼らは冷静に理解しているのだった。<br />
一日一日を過ごしていたら、あれからあっという間にふた月が経っていた。そんなある日の、夕食を終えた時間に、王家族私室にてリュカはランプの灯りに古びた巻物を広げ、机の上に見ていた。その姿を目にして近づいてくる彼女の気配にも気づかず、リュカは集中して巻物をじっと見つめている。<br />
「どうしたのよ、そんな難しい顔をして」<br />
急に聞こえた妻の声に身体をびくつかせ、リュカははっと彼女を見上げた。森では夜の鳥が静かに鳴く頃合いで、机の上のランプの灯りに照らされるのはリュカとビアンカの二人の顔だけだ。ティミーとポピーは、既に一日の学びも務めも終え、広いベッドの上で自由な寝姿で眠りに就いている。<br />
「ああ、何でもないよ。ビアンカも早く寝ないと……」<br />
「あら、私に何か隠し事しようとしても、ムダよ」<br />
ビアンカはリュカに釘を刺すようにそう言うと、彼が机に広げている巻物に目を落とす。そこには魔物と人間の絵が描かれており、添えられている言葉は現代の言葉ではないために一切読むことができない。それはリュカも同じはずだが、それを彼はぼんやりと長いこと見つめていたようだった。<br />
「それって確か……魔界のあの町でもらった……」<br />
「うん……そうだね」<br />
魔界に唯一存在していた人間の町ジャハンナ。そこの水車小屋に暮らすアンクルホーンのネロから、リュカはこの禁断の巻物を譲り受けていた。何が書かれているか、詳しいことは分からない。しかしあの町に暮らす、魔物から人間へと変身を遂げた者たちについての秘密の一端が、ここに書かれていることは間違いないと、リュカは描かれている絵にそう感じていた。<br />
その秘密を唯一知っていたのは、リュカの母マーサだったのだろう。ジャハンナの町に暮らす人々は皆、マーサの手により魔物から人間へと生まれ変わることができた。リュカとしては、それは幸せなことなのだろうかと疑問に感じるところもあるが、ジャハンナに暮らす人々は叶った夢に溺れることもなく、人間という命を誰よりも大事に感じるかのように幸せに生きているようだった。<br />
「……で、どうしたいの？」<br />
気付けば、向かいの椅子に腰を下ろしたビアンカが、もう答えは分かっているけど念のため聞いておこうと言うように、リュカを窺いみるように橙色のランプの灯りに夫を見つめている。すべてお見通しのような妻の水を含んだような瞳を見れば、リュカは隠す意味もないだろうと、気を楽にして妻に告げる。<br />
「ゴレムスに会いに行こうかなって思っててさ」<br />
リュカの思いの根源は、本当にそれだけだった。地上世界が平和を迎え、このグランバニアだけではなく、ラインハットもテルパドールもサラボナも、各地魔物に脅かされることのない暮らしを取り戻している知らせを受けている。リュカたちの願いは、この世界の平和だった。今ではそれがようやく、地上においてはもたらされたということだ。<br />
一つの大いなる願いは果たされ、この地上世界各地で、多くの人々の喜ぶ顔が見られるようになった。一つの願いた果たされると、人間というものはそれに満足することなく、さらなる願いを見つけてしまうものなのだ。<br />
「リュカらしいわね。そんなことを、そんなに気軽に言うなんて」<br />
今、魔界という場所がどのような状況なのか、この地上世界に暮らす者たちは誰一人としてそれを知らない。そもそも、こうして魔界に思いを馳せている者がリュカ以外にいるだろうかと、ビアンカは夫の果てしない優しさと好奇心に、ただ小さく笑うしかない。<br />
「気軽に言ってるつもりはないんだけどなぁ」<br />
「つもりはなくても、そう聞こえちゃうのよ。でも、リュカはそれでいいと思うわよ」<br />
魔界での旅を終えて、既にふた月以上が経つ。ビアンカはあの魔界での死闘を思い出せば、決してリュカをあの場所へ行かせてはならないと思う。が、彼が“決めて”しまえば、彼女にはどうすることもできないのが真実だった。<br />
「いつ？」<br />
「止めないんだ、ビアンカ」<br />
「止めたら、止まるの？」<br />
「いやあ、どうかなぁ……」<br />
さらさら止める気もないリュカの様子に、やはりビアンカは笑ってしまう。その小さく噴き出す息に、ランプの灯が僅かに揺れた。<br />
「あーあ。私も一緒に行きたいけど、ちょっと無理かな～」<br />
そう言いながら自身の腹部に両手を当てるビアンカを見て、リュカは思わず目を見張る。<br />
「えっ！？　ホントに？？」<br />
「さあ、どうでしょう」<br />
「でも、だって……」<br />
「ちょっと……指折り数えようとするの、止めてくれる？」<br />
「あ、ごめん……」<br />
身を乗り出しリュカの手を抑えたビアンカは、彼と目を見合わせると、二人同時に噴き出した。何かにつけ笑いだしてしまうこの状況が、二人にとってのこの上なく幸せな時間なのだ。<br />
「でもどうやって行くのよ。ティミーを連れて行くの？　勇者がいないとあの魔界の門は……」<br />
「うーん、ティミーは喜ぶだろうけど、この国の王と王子がまたいなくなるなんて言ったら、さすがにサンチョにもオジロンさんにも悪いかなって」<br />
「じゃあ、どうするの？」<br />
「とりあえずはマスタードラゴンに相談してみようかなと思ってて」<br />
「……神様を味方につけてるんだから、あんたって強いわよねぇ……」<br />
「だって、この世界に僕たちを戻してくれたのは、間違いなくマスタードラゴンだと思うんだよ。それなら僕たちが魔界に行くのを手伝ってもくれるんじゃないかな～って」<br />
「神様が魔界行きを手伝うものかしら……」<br />
「まあ、できることからやってみるよ」<br />
「あなたって本当は、見かけによらず欲張りなところがあるわよね」<br />
ビアンカの言葉に「心外だなぁ」とむくれて見せるリュカだが、彼女なりの誉め言葉なのだろうと受け取り、その顔には笑みが浮かんでいる。そして彼女が言う「欲張り」という言葉を、リュカ自身の思う言葉に言い換えて、伝える。<br />
「僕はただ、何も諦めないだけだよ」</p>
<p>-（完）-</p>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://like-a-wind.com/text46-7/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>2</slash:comments>
		
		
			</item>
		<item>
		<title>子供の話に思うこと⑨「部活動」￼</title>
		<link>https://like-a-wind.com/son-talk-9/</link>
					<comments>https://like-a-wind.com/son-talk-9/#respond</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Thu, 28 May 2026 07:45:16 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[徒然]]></category>
		<category><![CDATA[日記]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://like-a-wind.com/?p=4690</guid>

					<description><![CDATA[当方の息子もあっという間に成長し、今年度から中学生となりました。いつも生活の変化の時というのは、得も言われぬ緊張感があったりするものですが、中学生になって二カ月弱、息子も大分学 ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>当方の息子もあっという間に成長し、今年度から中学生となりました。いつも生活の変化の時というのは、得も言われぬ緊張感があったりするものですが、中学生になって二カ月弱、息子も大分学校生活に慣れてきたようです。とは言え、本当のところは本人にしか分からない感覚なのでしょうが。私ができることは、なるべく彼の話を丁寧に聞くことだけです。</p>
<p>さて、中学校では小学校にはなかった部活動があります。私自身、もう三十年以上前になってしまいますが、中学校三年間は部活動に所属していました。その頃の部活動と今ではいろいろと事情が異なる部分もあるのでしょうが、基本的には部活動の在り方は変わっていないのかなと、先日中学校に見学に行った際にはそう感じました。</p>
<p>部活動の顧問は学校の先生が担ってくれています。私が学生だった頃は何ら不思議に思わなかったことなのですが、大人になって改めて考えると、当時も今も、先生方はとてもご苦労をされているのだなと思います。一つのクラスの担任となり、教科を担当していろいろなクラスを担当し、尚且つ課外活動にもその時間を費やすと……。普通のサラリーマン的な考え方から見れば、なんて身を粉にして働いているのだ……！と思ってしまうような働きぶりにも思えます。</p>
<p>最近では、学校の先生の負担を減らすためにと、学校改革的なことが叫ばれるようになったような気がしますが、その一つとしてこの部活動にも言及されることが多いように感じます。もう十年以上も前になりますが、私の学生の頃の同級生でも一人、高校教師を勤めていた人がおり、部活動の顧問も担っていました。大変な話も聞く一方で、彼女の言葉にはやりがいも感じられたように思います。というのも、その言葉には間違いなく先生としての生徒への愛情があったように感じたからです。親が子の世話を焼くのと大差なく、先生が生徒の面倒を見るという間柄があったのでしょう。</p>
<p>何においても、物事には善し悪しがあるものです。ある物事は、片側から見れば光が当たっているかも知れないけど、その反対側から見れば陰となっている。それ故に、何か物事に当たる時に、片側だけを見つめるのは危険なことと思います。物事の真の姿に相対していないことと同義であって、それは結局歪（いびつ）なのではと思います。しかし最近の傾向として、誰もが“簡単なこと”を求めて、どちらか一方しか見ない傾向があるのではないかと、そのような空気を感じます。</p>
<p>学校の部活動においても、良い面、悪い面、双方をしっかりと考えて、基本は現状を維持することを念頭に置きながら、変えられるところは適宜変えていく、という方法を取るのが最善かと私は個人的に思っています。一気に改革的に変更するというのは、それこそ制度も追いつかないでしょうし、変化に対応する人材を育てるのにもそれ相応の時間がかかるものでしょう。変化にリスクはつきものだから仕方がない、とばっさりと切り捨てるようなやり方を私は良いとは思いません。それこそしっかりと考えていない証拠なのでは、と思ってしまう……。物事を進めるにはじっくりと丁寧に考えて、慎重に進めることが基本的には優先されるべきなのではないかと思います。</p>
<p>学校で部活動を行う意義について改めて私なりに考えてみると、学校の先生側からの視点として、授業以外での生徒の活動及び行動を見ることができるのは、先生としても生徒としても良い面が大きいのではと考えます。授業では、こう言っては何ですが、ぱっとしない生徒も、部活動では生き生きと活動していることも少なくないのではないでしょうか。生徒のことを多角的に見られる機会が部活動にあるというのは、先生にとっても生徒にとってもプラスに働いているのではと思います。</p>
<p>これを外注とすると、ただの外でのクラブ活動となり、先生と生徒と学校の一体感は失われるでしょう。確かに、学校側の負担は減るのかも知れません。しかしクラブ活動で生徒が放課後に外へ行くとなれば、その間先生と生徒は完全に別行動となり、互いの無意識での連帯感も失われるのかなと想像します。私としては、そこに見えてしまう互いの冷徹さがちょっと不安だなとは思ってしまうのです。考え方が古い、ですかね……。</p>
<p>学校で部活動をすれば、当然、学校内を移動したり、校庭を使ったりと、学校の中の設備を使うことになります。そして活動を終える時、生徒は後片付けも含めてすべて自分たちで責任を負うことになるでしょう。（今は違うのかしら？）　運動部であれば、活動の終わりに校庭全体にトンボがけをしますよね。私自身、中学校三年間を運動部で過ごしましたが、夕焼けの中で、あるいはナイターが点いている中でみんなでトンボがけをしたのをよく覚えています。中学校の時の思い出がほとんど思い出せないくらいに遠い過去になってしまった今でも、部活動の思い出は不思議と思い出せるのだから、それほど強烈な活動だったのだろうと思います。</p>
<p>後片づけなども含めて、学校で行われることで学校への愛着が増すものと思われます。小さな事かも知れませんが、それらも含めてすべてが“部活動”なのだと思っています。そう考えると、やはり部活動というものが、学校教育の一部なのかなと思ってしまうんですよね。決して学校と切り離して考えられるものではないのかなと。これはあくまでも、私個人の考えですが。</p>
<p>学校の外で部活動、となると、移動時間があるということ、ですよね。活動する場所にもよるのでしょうが、移動時間が発生するとそこでの責任の所在や時間の無駄などの問題も発生するのではと思います。それと、学校での活動ではなくなるということは、学校対抗試合、みたいなこともできなくなってくるのかなと思ってしまうのですが、それは違うのでしょうかね。とにかく今までの制度を変えていくということは、一方で今までのものを壊していくということになるので、挙げられる問題に一つ一つ慎重に当たって、無暗に急がないで欲しいなぁと思うのが正直なところです。</p>
<p>それと、感覚的にですが、外部クラブとなると、なんとなーくさぼりやすそうですよね。そんなこともないのかな？あくまでも私個人の印象です。</p>
<p>私が思う部活動の醍醐味は、各教科では味わえない、ある目標に向かって年単位で技術を磨ける、という貴重な体験というところです。もちろん、学生は勉学に励んでほしいというのは基本にあるとして、人間の活動は勉学だけではないのが本当のところで、寧ろこのような活動の方が人間力を育てるのに大きな役割を果たしているものと感覚的に思っています。勉強ができることだけで評価されてはたまったものではない、という生徒も少なからずいるのは昔から変わらないでしょう。ある目標に向かって、年単位で技術を磨いていく経験は、確実に社会に出てからも役立つ強さであるし、自信にもなります。</p>
<p>よくあるでしょう、ある程度年を重ねた人が、若い頃の自慢話をすることが。聞いている側としては……まあ、色々と思うところはあるのかも知れませんが、当人からすればそれは確実に当人の自信となり誇りとなり、その人という人間を作り上げている一部となっているのは間違いないところです。自信を持つというのは、生きる上でとても大事なことだと思います。何の根拠もない自信は困ったものですが、確かに築いた経験の元に出来上がった自信は、人生の糧となります。何事も、ちりつも、です。塵も積もれば山となる。若い頃は特に、山を目指して塵を積んでいけばいいと思っています。</p>
<p>勉学ももちろん、ちりつも、なのですが、勉学においてはある程度先のゴールが見えていたりしますよね。一つは、受験、かと思います。今時は、私が受験生だった頃とは様相が変わっているようで、私自身これからその辺りを色々と調べないといけないところなのでしょうが、中学校で教わる範囲、高校で教わる範囲には一応の限りがあると思います。しかし、部活動においてはその際限がない。それこそ自分の納得がいくまで、その技術を磨き続けることができます。で、私としては、どこで納得するんだろう、という疑問が沸いてしまいます。取り組む物事にもよるでしょうが、学校での勉学とは異なり、部活動で技術を磨こうとすれば、どこまでも果て無く続けることができる。これが楽しい……！……と思う私は、やはり古い人間なのでしょうか……？まあ、もう十年以上（二十年くらい？）に渡ってこうしてドラクエのお話を書き続けているような変わった人間なので、あまり私の言うことなど参考にはならないのか知れません（泣）</p>
<p>そのような体験を、学校という世界の中で得ることによって、一つの大きな果実となっていくのではと、そう思います。学校の先生の働き方改革という点において、私は決して反対する立場ではありませんが、あくまでも未来を担う生徒たちのことを第一に考える方法を模索できればと思っています。そのために何が必要なのか、一つは教員の数を増やすことが必要ならば国がそのような政策を打ち出すこと、一つはお給料を上げること、一つは保護者である私たちが先生という立場に尊厳を持つこと、それに相応する形で、先生方も堂々と胸を張れるような先生として意識を持つこと、などなど。何か一つを表面的に行ったからと言って、解決するようなことではないでしょう。すべては有機的に繋がっていて、問題として挙げられるものに対して全て一つ一つ丁寧に見ていく必要があることと思います。今時はAIの存在も無視できず、対応することは多岐にわたるものと思われます。</p>
<p>少子化という問題も大きいですね。生徒の数が減ってしまって活動ができなくなってしまうというのは、とても不本意なこと。その辺りの手当てもしていかなければいけないとなると、待ったなしの現象です。手遅れ、とは思いたくない。</p>
<p>問題の根源は、個人的な思いですが、「人の尊厳を踏みにじらないこと」、「お互い様」、という意識なのかなと思います。誰かが悪い、何かが悪い、とあっさりと薄っぺらにいろいろなことを断罪するのではなく、“何が大事なのか”を基本に考えることができれば、もっと上手く物事は収められるのではないかと、これからの子供の中学校生活にも期待していきたいと思います。</p>
<p>何せ親としては、子供が元気に朗らかに過ごしてくれていれば、それに越したことはありません。ただ、それだけです。</p>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://like-a-wind.com/son-talk-9/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>0</slash:comments>
		
		
			</item>
		<item>
		<title>本編を更新しました。「どんな偉業よりも」</title>
		<link>https://like-a-wind.com/%e6%9c%ac%e7%b7%a8%e3%82%92%e6%9b%b4%e6%96%b0%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%82%e3%80%8c%e3%81%a9%e3%82%93%e3%81%aa%e5%81%89%e6%a5%ad%e3%82%88%e3%82%8a%e3%82%82%e3%80%8d/</link>
					<comments>https://like-a-wind.com/%e6%9c%ac%e7%b7%a8%e3%82%92%e6%9b%b4%e6%96%b0%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%82%e3%80%8c%e3%81%a9%e3%82%93%e3%81%aa%e5%81%89%e6%a5%ad%e3%82%88%e3%82%8a%e3%82%82%e3%80%8d/#comments</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 20 May 2026 01:22:11 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[日記]]></category>
		<category><![CDATA[更新]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://like-a-wind.com/?p=4687</guid>

					<description><![CDATA[五月に入ってもう半ばを過ぎましたが、暑い日が続いていますね。しかしまだ肌寒い日もあるようで、皆さまもうっかり風邪などひかないようお気を付けください。 さて、本編を更新しました。 ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>五月に入ってもう半ばを過ぎましたが、暑い日が続いていますね。しかしまだ肌寒い日もあるようで、皆さまもうっかり風邪などひかないようお気を付けください。<br />
さて、本編を更新しました。</p>
<p><a href="https://like-a-wind.com/text46-6/" data-type="post" data-id="4679" data-rich-text-format-boundary="true">どんな偉業よりも</a><br />
エンディングのお話になっていますが、ちょっとゲーム本編とは様子が異なるところもあるかと思います……。本当だったらここでビアンカと両親は……ということが分かるところなのですが、私のお話では既に互いに分かっちゃっていることになってしまっているので、その流れでお話を作らせてもらっています。すみません。<br />
次はいよいよ、というところです。もしかしたら２話に分かれてしまうかも、というほどのボリュームになりそうです。なんせ、登場人物に登場魔物が多い。書ききれるかどうか……不安しかありませんが、楽しんで書いていければと思います。</p>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://like-a-wind.com/%e6%9c%ac%e7%b7%a8%e3%82%92%e6%9b%b4%e6%96%b0%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%82%e3%80%8c%e3%81%a9%e3%82%93%e3%81%aa%e5%81%89%e6%a5%ad%e3%82%88%e3%82%8a%e3%82%82%e3%80%8d/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>2</slash:comments>
		
		
			</item>
		<item>
		<title>どんな偉業よりも</title>
		<link>https://like-a-wind.com/text46-6/</link>
					<comments>https://like-a-wind.com/text46-6/#comments</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Wed, 20 May 2026 01:09:27 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[DQ5（長編）]]></category>
		<category><![CDATA[青年時代（６）]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://like-a-wind.com/?p=4679</guid>

					<description><![CDATA[「グランバニアに急がないとね。もう寄り道はしていられないでしょう」 竜神の背に乗り、遥か上空からまるで世界地図を覗き込むような景色を見下ろし、ビアンカが言う。リュカたちが魔界か ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>「グランバニアに急がないとね。もう寄り道はしていられないでしょう」<br />
竜神の背に乗り、遥か上空からまるで世界地図を覗き込むような景色を見下ろし、ビアンカが言う。リュカたちが魔界からこの地上世界へと戻り、どれほどの時間が経っているのかは分からない。ただ巡る思い出の地の様子を見れば、まだ一日か二日と言ったところだろうとリュカには思えた。<br />
竜神はリュカたちに何も告げないまま、世界地図の上を南下していく。一体竜神がどこへ向かっているのか、リュカたちに知らされることはない。そろそろ大陸南部に位置する死の火山と呼ばれる大きな山の景色が見えるはずだ。神と呼ばれるマスタードラゴンだが、その性格はどうやら長年人間の姿で過ごしていたからか、人間よりも人間らしいところがあるとリュカは見ている。リュカが人間らしいとマスタードラゴンに感じるのは、そこに情というものを感じるからだ。<br />
大陸を抜け、海に出る。そのまま南下を続け、大陸とは呼べないが、岩山に周りを囲まれた大きな島が見える。遠くからでも分かる、その島の中ほどに立つ異様な塔には、この竜神の魂とも呼べるドラゴンオーブが安置されていた。そこでリュカたちはプサンという一人の頼りないように見える人間を、竜神の姿に戻すためのドラゴンオーブを見つけ出し、今はこうして竜神の背に乗せられ世界を巡ることもできるようになった。<br />
「あの塔で、竜神の力を取り戻したのでしたね」<br />
ピエールの声には、どこか聞かせようとするような響きがあった。今、彼らはその竜神の背に乗っている。竜神は反応を見せないが、ピエールの声が聞こえていないわけはなかった。耳で聞くというのではなく、背に乗せている者の心の声にまで、竜神はそれこそ耳を傾けているに違いない。<br />
「神様の塔に魔物がうじゃうじゃいるんだもんな、まいっちまうよ」<br />
「がうう」<br />
ピエールもアンクルもプックルも、共にこのボブルの塔での戦いに加わっていた仲間たちだ。そして彼らは言葉にしないが、当然のようにリュカの仇敵であったあの者の姿も、ありありと思い出している。この塔の地下、リュカの憎悪そのものであったかのようなゲマが待ち構えていた。しかし誰もその記憶をここで見せることはない。<br />
「私がのんきに石になっている間に、みんなとっても苦労したのね」<br />
「お母さんは別にのんきに石になっていたわけじゃないでしょ？」<br />
「そうだよ！　お母さんだってずっと一人で……早く助けに行けなくってごめんね、お母さん」<br />
「何を言ってるのよ。私ほど幸せな母親もいないわよ。こうして可愛い子供と一緒にいられるんだからね」<br />
そう言ってビアンカはティミーとポピーを両脇に抱きしめるように引き寄せる。彼女の口から出る言葉は、彼女の嘘偽りない本心だ。もちろん、彼女は己の人生の全てを幸せだと言っているのではない。しかし今こうして子供たちと一緒にいられることへの幸せを思えば、過去も含めて幸せの中に包み込めると、そのような思いをリュカは妻から感じることができた。<br />
それはリュカも似たようなものだと感じている。彼自身もまた、人生の中で様々な出来事があった。決して平坦な道などではなく、寧ろ起伏激しい人生だったのかも知れない。それでもこうして今は皆と共に笑うことができるのは、妻と同じく、今の幸せの中に過去の己の人生を柔らかく包み込むことができるからに違いない。人間の記憶というのは、決してすっかり消えるわけではないが、徐々に薄れゆくものだ。それが恐らく、人間という生き物を支えている部分もあるのだろう。覚えていたいことも薄れゆくが、覚えていたくはないものも薄れゆく。後者に救われる部分が大きいに違いないと、リュカは自身の経験にそう思わざるを得ない。<br />
リュカは黙ったまま、座る竜神の背についている手に己の意思がこもるのを感じていた。妻ビアンカは今が幸せだと言い、子供たちと今の幸せを噛みしめるようににこやかに話をしている。しかし先ほどまでサラボナの町を巡る前、妻が見せていた表情をリュカは覚えている。彼女の目には確かに、山奥に小さく見える一つの村の景色があったはずだ。温泉が有名で、遠くからも湯治に訪れる観光客もいたという。世界が平和になり、これから再びあの村には当時を目的に観光客が訪れるようになるのかも知れない。<br />
竜神は急激に方向を変え、その背に乗る者たちが一斉に体勢を崩した。まるでサラボナの町に忘れ物でもしてきたのかと思わせるような動きで、竜神は凄まじい速さで一路北へと向かう。神のゴカゴか何かは知らないが、過ぎゆく景色が目にもとまらぬ速さに過ぎ去っていっても、リュカたちが体に感じる負荷はさほどない。ただ、急旋回する際に、その視界の急激な変わりように竜神の背から皆が落ちそうになっただけだ。ポピーが気絶しそうになるのを、ティミーが呼びかけてどうにか支えていた。<br />
再び死の火山を通り越して、やはりサラボナの町に戻るのかと思ったが、あっさりと通り過ぎた。凄まじい速さのために一体何が起こっているのかもわからないほどだと、誰もが口にするべき言葉もなく、ただ息を呑むばかりだ。流れる景色が和らいだ時に見えたのは、円い口を開けているようにも見える、大きな湖だった。その湖には絶えず滝から夥しいほどの水が流れ落ちている。遥か上空から見る滝の洞窟の景色に、リュカとビアンカは互いに目を見合わせることなく、ただその水の絶えない美しい地上世界の景色をじっと見入った。<br />
かつて水のリングを探す旅に、ビアンカは無理を言って付いていった。そうと決めた時は、ただ幼い頃の知り合いであり、ずっとその身を案じていたリュカと再び旅に出られることが嬉しいと、その思いが胸に沸くだけだった。しかし結局のところ、幼い頃の少し頼りないと思っていた年下の少年が、すっかり頼れる青年に成長していたことに、ビアンカは彼の姉として対応し切れなかったのだ。下に見える滝の洞窟の景色に、芽生えてしまったその想いをひた隠しにしていた当時の胸の苦しさを思い、ビアンカは思わず地上世界を美しく彩る滝の景色から視線を逸らした。<br />
一方でリュカはただじっと滝の洞窟の景色を見続けている。あの場所で自分は初めて、恋を知った。まさか自身がそのような感情を知ることになるとは考えたこともなかった。友人であるヘンリーとマリアが結婚し、彼らの幸せな様子を目にした後であっても、自身にそのような出来事があるとは微塵も想像していなかった。旅を続ける自身には、そのようなものは不要だと、そう思っていたのだろう。<br />
必要か不要か、そのような理屈を超えたところに恋があった。これからも続く過酷な旅を思えば不要だと思える恋も、その理屈を軽く飛び越えてリュカの目はビアンカを知らず見つめてしまっていた。無意識だったのだからどうしようもない。天空の盾を家宝に持つルドマン家の娘フローラとの結婚という道が前に伸びているのが分かっていても、リュカの心は幼馴染の娘へと向かっていた。<br />
竜神はそこでも再び急旋回をし、その背に乗る者たちはまた悲鳴を上げた。滝の洞窟の景色を上から眺め、束の間追憶に耽っていたのは二人だけだった。揺れに思わず身を寄せ合った二人は、十余年の月日を遡ったかのように熱のこもる視線を絡ませ、照れたように互いに視線を逸らして小さく笑った。<br />
「も～～～、イヤッ！　どうしてこんなに危ない飛び方をするの！？」<br />
「がうっ！　がうっ！」<br />
「マスタードラゴンの背にプックルの爪がかなり深く……痛くないのでしょうか？」<br />
「蚊に刺されたくらいのもんじゃねえの？　ヘーキだろ」<br />
「え～、じゃあかゆくなっちゃうよ。マスタードラゴンくらい大きいと、天空の剣で掻いてあげるくらいがいいのかなぁ？」<br />
そう言いながら背から剣を引き抜こうとするティミーを、ピエールが冷静に止めていた。うっかり勇者が竜神をこの場で倒してしまったら大変だと、勇者ティミーの計り知れない可能性にピエールのみならず皆がひっそりと冷や汗をかいていた。<br />
竜神は背に踏ん張るプックルの爪に痛さを感じることもなく、急旋回した後に再び南へと向かっている。来た道を引き返すような竜神の行動に、リュカは竜神がもう一か所、大事な場所へ立ち寄ることを決めたのだと感じた。サラボナの町に寄って、そのままグランバニアに向かうわけにはいかないと、そう思っていたのはビアンカではなくリュカだ。それというのも、彼女が故郷の山奥の村の景色を静かに見つめていたからだ。故郷の村に住む父ダンカンに会いたくないわけがないだろうと、リュカは内海を超えたところに見える山々の景色に向かって指差し、ビアンカに微笑む。<br />
「ちゃんと無事に帰ってきましたって、挨拶しないといけないね」<br />
リュカの言葉に、ビアンカは一瞬目を見張るも、すぐに微笑みを返す。<br />
「ありがとう、リュカ」<br />
竜神は確かに、リュカの意思をその巨大な竜の身体に受け、まるで情ある一人の人間のように感じていた。竜神は人間が好きなのだ。その理由の一つとして、人間の親子愛があった。特に親から子へ贈る無償の愛という、感情の上に存在するような感情、感情の中に内包されるような感情に、竜神は甚く感動するのだった。<br />
山々の中にぽつんと見える人々の集落の真上で、竜神はあろうことか宙返りをした。険しい山々の中に、巨大な身体を持つ竜神は降り立つことができない。宙返りと共に、リュカたちの視界はその通りぐるりと回り、皆が目を回すことから逃れるように、宙に放り出される恐怖から逃れるように瞬きをしたその時に、竜神の背から彼らの姿は消えていた。</p>
<p><script async="" src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"></script><br />
<ins class="adsbygoogle" style="display: block; text-align: center;" data-ad-layout="in-article" data-ad-format="fluid" data-ad-client="ca-pub-7752759112270694" data-ad-slot="4114162227"></ins><br />
<script><br />
     (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});<br />
</script></p>
<p>「……どうしてこんなところに……」<br />
リュカたちが降り立ったのは、どういうわけか山奥の村の中ではなく、ただの山の中だった。村にある温泉の独特の臭いは漂っているものの、少し山の中を歩かなければ村に辿り着かない。<br />
「あら、転ばないだけいいじゃないの」<br />
「どういうこと？」<br />
「リュカがここに来るときに、上手く着いたことがあったかしら？」<br />
「…………」<br />
ビアンカの言う通り、リュカはこの山奥の村に向かって移動呪文ルーラを唱えると、必ず何かしらの事故を起こしていた。着地に失敗することがほとんどだが、それというのもリュカの頭の中で山奥の村に対する想像が安定しないためだった。ビアンカをこの山奥の村から、彼女の父ダンカンから引き離してしまったという後ろめたさからか、彼女の故郷に向かってルーラを唱える時は必ずリュカの心は乱れてしまうのだ。<br />
「でも今はマスタードラゴンが私たちをここへ連れてきてくれているのよね？」<br />
「マスタードラゴンでも上手く行かないことがあるんだね！」<br />
そう言いながら皆が見上げる空には、竜神がどこか細い声を上げながらゆるやかに旋回している姿が見える。その声はもしかしたらリュカに謝っているのかもしれないと思うと、リュカは気が抜けたように小さく息を吐いて、笑うしかなかった。<br />
「世界が平和になったとは言え、やはり魔物はいるのですね」<br />
「がうがう」<br />
「平和になったと同時に魔物が消えるんだったら、オレたちはとっくに消えてるだろうからなぁ」<br />
ピエールたちの言葉の先、山道の脇に、この山に棲む魔物の影が見えている。木の陰に隠れるようなその控えめな動きに、リュカは魔物をじっと見つめる。青と赤の、形こそ同じだが色違いの魔物が二体、木の幹の陰からふわふわと姿を現し、同じようにリュカを興味深そうにじっと見つめ返している。<br />
「仲良しさんなのかしら？」<br />
「手を繋いでるみたい」<br />
「手……なのかな。ちょっと違う気がするけど」<br />
ティミーがそう言うのは、ホイミスライムとベホマスライムが互いの触手をまるで手を取り合うように繋いで空中にふよふよと浮いていたからだ。魔界の力が強まり、地上世界にもその力が波及していた時、地上に棲む魔物らは一様に狂暴化していた。しかし魔界の大魔王と名乗るものが倒れ、この世界はそれだけで一変してしまった。暗闇に包まれかけていた世界が再び晴れ渡り、人間たちは喜びと安堵に落ち着いたが、魔物たちとしては戸惑いの方が大きかったに違いない。<br />
「怖くないよ。おいで」<br />
リュカが呼びかけると、ホイミスライムとベホマスライムは互いに目を見合わせ、どうしようどうしようと逡巡する。恐らく彼らもまた、大魔王の力が及んでいた中で魔物としての凶暴性を増し、この先に見えている山奥の村を襲う気でいたのだろう。その凶暴性が萎むように消えていくに連れ、寧ろ人間に対する恐怖が大きくなっていったのだろうかと、リュカはただ二体の魔物が近づいてくるのを待っている。<br />
近くで何かを打つような鋭い音が聞こえた。その音に、青と赤の魔物は二体揃ってびくつき、あたふたと周りを見回す。続いて姿を現したのは、手に鞭を持つ魔物使いで、どうやら見失っていたこの青と赤の二体を見つけるために山の中を彷徨っていたようだった。ホイミスライムとベホマスライムを見つけた瞬間の魔物使いの表情を、リュカは見ていた。手に鞭を持っているものの、その表情に奴隷を酷使するような威圧感は感じられなかった。ただ、今までずっと魔物として手に鞭を持ち、それを使って他の魔物と接していたために、鞭を手から離すこともできなくなってしまったのだろう。<br />
リュカたち人間と魔物の一行を見るなり、魔物使いは思わず小さく悲鳴を上げた。リュカとしては過去に嫌というほど鞭で叩かれた経験があるために、鞭を振るう魔物の姿を見るだけで、どうしようもない忌避感を抱いてしまうが、その苦しい感情を一度ぐっと腹の中に押し込める。<br />
「本当は、仲良くしたいんだろう？　それならもう、武器は収めるのがいいよ」<br />
そう言うリュカの腰には、父パパスの剣が鞘に収められ、ティミーの天空の剣もまた背中の鞘に収められている。リュカの心の根底には、決して戦いたくはないという思いが当然のようにある。戦わずして済ませられるのならそれに越したことはないというのは、生きるものであれば誰しも抱く本能に違いない。誰しもが傷つきたくはないし、ましてや意味もなく命を落としたくはない。戦うことなしに心を通じ合わせることができるのは、人間同士に限らず、人間と魔物の間にも起こることと言うのは、リュカ自身の旅の中に証明している。<br />
まだ朝の早い時間の、澄んだ山の空気の中で、東から登った太陽の光が山々を照らしている。リュカは魔界という世界に一度足を踏み入れ、あの暗黒の景色を知っているために、この地上世界の日に照らされる景色の清々しさをその身により多く感じることができる。地上世界に棲む魔物の気性をも鎮めるこの陽光の力の下で、今リュカたちの目の前にいる魔物らは明らかにその表情にこれまでにないような柔和さを浮かべている。<br />
「……武器を収めたことがないのではないでしょうか」<br />
ピエールの言葉に、リュカは新たなことに気付かされた。地上世界でも常に外に生きる魔物は、いつでも武器となるものをすぐに使えるよう手に持っているものなのかも知れない。生きている中で武器を手放す瞬間がないということは、果たしていつ生きた心地がするものなのだろうかと、リュカは鞭を持つ魔物使いに対して思わず憐みの表情を見せる。<br />
「もう僕たちは戦わなくていいんだ」<br />
「…………どうしたらいい、これから……」<br />
人間の言葉を普通に話す魔物使いを、ティミーとポピーは驚きの眼差しで見つめる。二人の表情には嬉しさの笑みが浮かび、話ができる魔物であることに期待を膨らませる。<br />
「お父さん！　お話ができるんだわ！」<br />
「ねえ、ボクたちの仲間になってもらおうよ！」<br />
子供たちのはしゃぐ様子に、目の前の魔物使いだけではなく、ホイミスライムにベホマスライムも驚き戸惑っている。突然現れた人間と魔物の一行に、武器を収めろと言われ、仲間になれと言われれば、戸惑いを見せるのは当然のことだろう。子供たちの好奇心溢れる提案に、リュカはゆっくりと首を横に振った。<br />
「僕は世界中にいる魔物たちをみんな仲間にしたいわけじゃないよ。それにここで出会ったばかりで、いきなりここから遠いグランバニアに連れて行くのはちょっと無理があるんじゃないかなぁ」<br />
「鞭のしまい方が分からないなら私が教えてあげるわ。簡単よ。丸めてベルトに収めればいいんだから」<br />
そう言うなりビアンカは魔物使いにすたすたと歩み寄り、有無も言わせずにさっさと鞭をしまい込んでしまった。普段は武器に鞭を手に取らないビアンカだが、リュカは幼い頃に彼女が母親の茨の鞭をこっそり身に帯びて夜の幽霊城を探検したことを覚えている。彼女は彼女で、幼い頃に母親が身に着ける鞭の在り方を勝手に学んでいたのだろう。好奇心旺盛で勝気なビアンカならば、それくらいのことはしていたに違いないとリュカは確信する。<br />
すると、たったそれだけのことで、ホイミスライムとベホマスライムのそれまでどこか緊張した表情が和らぐのをリュカは見た。似た者同士の二体はただ、魔物使いがこれまで使っていた鞭に怯えていたのだと、リュカはまるで自分のことのように分かったような気がした。武器を収めるということは、敵意をしまい込むということだ。それだけで修復したり、進展したりする関係性というものがあるのだと、リュカは魔物同士の歩み寄る姿を見ながら思わず笑顔を見せる。<br />
ただ、関係の修復にはあともう一歩、必要なことがあるとリュカは言い添える。<br />
「悪いことをしたのなら、ちゃんと謝るんだよ。それで仲直りできるんだ」<br />
まるで子供に言う言葉だと、リュカの言葉に誰もが思う。しかし誰かとの関係性を考えれば、これが最も重要なことであることに誰も反論することはできない。何故それが最も重要なことなのか。結局は互いの心のやり取りに尽きるからだ。しかし互いの心を覗き見ることはできない。それならば、心を行動で示すしかない。<br />
魔物使いは急に手持ち無沙汰になってしまった両手をどうしたらよいかわからない様子で前に組み合わせもじもじしていたが、空に昇る日の下では己の行動も表情も隠すことができないと、半ば諦めたような様子で二体のふよふよと浮く魔物を見る。<br />
「……今まで、悪かったよ……もう、お前たちをぶったりしないよ……」<br />
魔物使いは言葉にしてみて初めて、これが己の本心だったのだと気づいたように、驚きの表情を見せていた。ホイミスライムもベホマスライムも、魔物使いの発する言葉自体を理解したかどうかは分からない。しかしその声の調子に態度に、相手の意を感じたことは確かだろう。その証拠に二体はそろそろと魔物使いの方へと近づいて行っている。<br />
仲直りをした魔物たちは、そこで一気に心が解けたようで、リュカたちにも気軽に声をかけてきた。リュカたちと行動を共にする魔物の仲間に素直に興味を示し、主にピエールに色々を話しかけ始める。<br />
「リュカ殿、我々はここらでお待ちしていますよ」<br />
「どうせ人間の村には入れねぇからな」<br />
「がう～」<br />
魔物同士で積もる話があると言わんばかりに、魔物使いもホイミスライムもベホマスライムもピエールに同意するような視線をリュカたちに向けている。邪魔をするつもりもないリュカはピエールの言葉通り、家族だけで山奥の村へと向かうこととした。魔物使いは改めてリュカたちにもさっぱりとした礼を述べると、そのままピエールたちと輪になり、腰を据えて会話を始めたようだった。<br />
彼らはこの土地に棲み、これからもこの土地で過ごすことが心地よいのだろう。もちろん、山の中で人間と遭遇すれば、それは避けようもなく敵対するものなのだろうが、彼らはもう無暗に人間を襲うことなく戦いを回避するに違いない。そもそも誰もが、戦いたいなどと思っていないのだ。<br />
「本当に世界が変わったのね……」<br />
「うん、そうだね。……ただ、平和になったって言っても、色々と大変なことはあるんだと思うよ、これからも」<br />
いくら竜神の背に乗って世界を巡ることができると言っても、リュカたちが実際に目にする世界というのはほんの一部に過ぎない。魔界の大魔王が倒され、世界が平和になったと一口に言っても、それがどのようなことなのかを一言で表すことなどできないのが現実だ。すべてが丸く収まり、めでたしめでたしということで世界は終わるわけではない。これからも続いていく世界にどのようなことが起こるのかは神の手にも負えないことだろう。もし悪しき者が滅び、めでたしめでたしで終わる世界であれば、遥か昔に存在した勇者が悪を滅ぼした時から今もこれからも、平和な世の中が続いていたはずなのだ。<br />
「でもさ、あの魔物たちが仲良くなれて良かったよね！」<br />
「私たちみたいに、魔物と人間も仲良くなれるんだもの。魔物さん同士が仲良くなれないはずがないよ！」<br />
子供たちの未来を示す言葉は力強く明るい。その雰囲気に、沈みかけるリュカの心は上へと持ち上げられる。親として子供を支える以上に、自分は子供たちの存在に支えられているのだと感じれば、リュカの顔にも笑みが浮かぶ。<br />
「さあて、リュカの緊張もほぐれたところで、私の実家に行きましょう！　すぐそこよ！」<br />
ビアンカはついつい悪戯心を覗かせてそう口にしてしまうが、リュカはそれを真に受けるように一瞬にして緊張した面持ちを取り戻してしまった。一体これまで何度、妻ビアンカを危険な目に合わせたかを考えると、義父であるダンカンにどのような顔をすれば良いのか、相も変わらず分からなくなってしまう。<br />
「やあねぇ、リュカ。そんな顔しないで、笑って、笑って！」<br />
「が、頑張るよ……」<br />
父ダンカンがリュカに怒ることなど絶対にないと分かっているから、ビアンカはついリュカをからかってしまうのだった。しかしそのようには思えないリュカはどうしても拭いきれない罪の意識からか、意識せずともこの山奥の村を前にすると緊張に身体を硬くしてしまう。父のそんな胸中を知ってか知らずか、ティミーとポピーは両側からリュカの手を引いて、元気に山奥の村に暮らす祖父に会いに歩き向かっていった。</p>
<p><script async="" src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"></script><br />
<ins class="adsbygoogle" style="display: block; text-align: center;" data-ad-layout="in-article" data-ad-format="fluid" data-ad-client="ca-pub-7752759112270694" data-ad-slot="4114162227"></ins><br />
<script><br />
     (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});<br />
</script></p>
<p>村人たちの歓迎ぶりは賑やかなものだった。竜神が山奥の村の遥か上空で、地上世界の平和を祝福するように緩やかに飛んでいる。その姿を村人たちも目にしており、この山奥の村にも世界に平和が訪れたということは知れ渡っていた。<br />
一人一人がこの村の出身であるビアンカを囲むように、口々に平和な世の中になったことを喜び合っていた。いつからこの世界が平和ではなくなったのかなど、誰にも分からない。しかしこの山奥の村を訪れる観光客は年々減り続け、近頃ではほとんど見かけなくなっていたのだ。病を癒す温泉があり、そのために湯治に訪れる旅人が多かった時もあったと言うが、最近では村人たちが温泉に入るくらいのものになってしまっていた。しかし平和な世の中になったとなれば、この村にも再び湯治に訪れる旅人が増えてくるのだろう。<br />
村人たちも、ビアンカを彼らのところに引き留めるような野暮はしなかった。早く早くと、急かされるように歩かされる先には、ビアンカの実家である大きな木造の家が見える。上り坂をずっと上り続けるのは、あの魔界のエビルマウンテンでの旅路を思い起こさせもするが、今はお天道様が空に昇り、明るく晴れやかな山道を一つの苦しみも胸に沸くことなく進むことができる。ビアンカの実家に続く梯子を上れば、先頭を歩いていたビアンカは大きく息をついて、胸に込み上げそうになるものを抑え、ノックもなしにゆっくりと扉を開いた。<br />
「ただいまー！」<br />
扉を開ければいつも、彼女はこうして家の奥にまで届くような大きな声で父ダンカンに帰ったと伝えていた。それは習慣であり、彼女の人生の一部だった。母を喪い、父の身の回りの世話をしながら暮らしていたこの山奥の村で、彼女は十年ほどの月日を過ごした。リュカの伴侶となり、村を出て旅をするようになったからと言って、彼女のそれまでの習慣がなくなるということにはならなかった。<br />
ビアンカの父ダンカンは、家の外での村人たちの賑やかな声を聞いていたようで、待っていたというように正面のテーブルについていた。腰を下ろしていた椅子からゆっくりと立ち上がる姿に、彼が過ごした年月を感じるが、その表情はどこまでもにこやかなものだった。<br />
「おかえり、ビアンカ。リュカも、ティミーにポピーも、よく来てくれたね」<br />
ダンカンが娘を見る表情には、血の繋がりのない父娘の雰囲気は微塵も感じられない。どれほどダンカンが娘を大事に思い育てたかが、彼のにこやかな表情に刻まれる皺の一つ一つに感じられる。そう感じるのが分かっているから、リュカはいつも少なくはない罪悪感を勝手に感じてしまうのだった。<br />
「おじい様、ただいま、です」<br />
「なんだなんだ、そんな他人行儀に。おじいちゃんで構わんよ。おじい様なんてガラでもないしなぁ」<br />
「おじいちゃん！　ボクたちで魔界の王ってヤツをやっつけたんだよ！　もうみーんな大丈夫なんだ！」<br />
「そうかいそうかい、魔界の王をやっつけてしまったのか……」<br />
近づくポピーとティミーに、ダンカンは目を細めてその頭を優しく撫でてやる。ティミーもポピーもすっかり背が伸び、背中が少し丸まっているダンカンに追いつきそうなほどだ。しかしそれでも、ダンカンにとっては可愛い孫たちであることに変わりなく、まるでまだ二、三歳ほどの小さな幼子の頭を撫でるような雰囲気で二人の頭を交互に撫でている。<br />
「それはともかく、リュカたち四人がこうしてわしに会いに来てくれたんだ。こんなうれしいことはないぞ」<br />
ダンカンにとってはリュカたちが魔界の王を倒したということよりも、大事な子供たち、孫たちが会いに来てくれた方がよほど大事であり、嬉しいことなのだと、そんな言葉が口から出てしまう。リュカたちもまた、何のために魔界にまで足を踏み入れ、世を荒らす悪しき者と対峙したかと言えば、大事な者を守りたかったからだ。それはビアンカの父ダンカンであり、グランバニアに待つサンチョであり、オジロンにドリス、国の皆や魔物の仲間たち、と考えて行けば、リュカたちが守りたいと思う者たちは果てしなく世界中に存在していた。それは見知っている者たちばかりではない。すべては関係し、繋がっているのだ。それ故に、リュカたちが守りたいと思うのは、この地上世界であり、魔界さえも守らなければならないと思っている。<br />
そして世界を荒らす悪しき者が滅びた今、リュカたちはこうして大事な家族であるダンカンとも再会することができた。こうやって笑顔でまた会えることを望んで、魔界での苦しい旅にも堪えてきたのだ。ダンカンが手放しで喜んでくれることが、リュカたち皆の望んだことだった。<br />
「つもる話もあるし、今日くらいはゆっくりしていけるんだろう？」<br />
娘家族を迎えた父が口にする当然のことだと、リュカはその言葉を受け止める。リュカ自身は、それで構わないと思っていた。もちろん、帰るべき国グランバニアのことは頭の片隅に常にちらついている。しかし、大事な一人娘との再会を喜び、二人の可愛い孫たちとの再会を喜ぶ義父に対し、リュカが何かを言うことはできないと感じた。<br />
リュカが穏やかに返事をしようとする直前、その一歩前に出るようにしてビアンカが父に言う。<br />
「それがお父さん……」<br />
ビアンカはビアンカで、自分が言わなければならないと感じていた。決して父を蔑ろにするわけではない、しかし今は夫であるリュカを優先させなければならない。世界はめでたく平和になった。もういつでもこの山奥の村に帰ることができる。落ち着いてこの場にいられない今をここで過ごすよりも、一度落ち着いてからまたすぐにここに戻ってくることを約束するように、ビアンカは父ダンカンの隣で丁寧に説明する。<br />
「なんだって？　グランバニアでは人々がリュカの帰りを待ちわびている？　そうか……」<br />
明らかに肩を落とすダンカンを見れば、リュカは思わずビアンカに視線を投げてしまう。リュカには二重の意味での罪の意識がある。ビアンカと結婚したことで彼女を父ダンカンから引き離してしまったこと、それに加え、彼女を十年もの間行方知れずの状態に陥れてしまったこと。特に後者に関しては、何を引き換えにしてもダンカンに謝り続けなければならないと感じていた。<br />
「あ、あの、ダンカンさん……」<br />
「やあねぇ、リュカ。“ダンカンさん”はないでしょ？　あなたのお父さんなのよ。まだ自覚してないの？」<br />
「はっはっはっ、まあ、リュカ君の父親はパパスだからなぁ。ちょっとわしでは頼りないものなぁ」<br />
「えっ、いや、そんなことは……」<br />
「あ～、そうやってあたふたするのは良くないわね～。私も傷ついちゃうじゃないのよ」<br />
「まあまあ、ビアンカ。それくらいにしておいておやり。あんまりリュカ君をいじめちゃかわいそうだろ」<br />
この父と娘の何気ない会話に、彼らが過ごした年月が詰まっているのを誰もが感じる。ビアンカはいつものビアンカのようにも見えるが、彼女は実のところ本能的に父ダンカンに甘えているのだった。父が自分の言うことにしっかりと抑えを利かしてくれるから、父がそうしてくれると彼女は信じ切っているから、それに甘えて彼女は少々強い調子でリュカに言うこともできるのだ。それが結局は、娘が父に甘えているという、父と娘が共に過ごした年月ということなのだろう。<br />
「リュカはグランバニアの王様だったな」<br />
ダンカンの言うその現実は、この山奥の村には到底雰囲気に合わないことで、ダンカン自身もまるでそのことは雲の上で起きていることだというような調子で言っている。リュカが一国の王であることも、その妻となった娘が王妃であるということも、ダンカンは一度も現実味を帯びて考えたことがない。少しでも欲をかく人間であれば、近くに権力ある人間がいれば必ずその恩恵に預かろうとするだろう。しかしダンカンにおいてはその気が全くなかった。<br />
人の幸せとは何かを考えれば、ダンカンはもう既に幸せを手に入れていた。これ以上ない幸せを手に入れている者にとっては、どのような力も金も権力も、いくら見せつけようとも影響がない。彼は山奥の村で過ごすことに満足している。村人たちは皆が優しく、困ることがあれば互いに手を取り合って過ごす間柄が出来上がっている。そして愛娘は元気に過ごし、娘の夫もまた我が子のように大事に思っている。おまけに可愛い孫たちまで元気な姿を見せてくれる。これ以上に望むことなどないと自覚しているダンカンは、ただ目を細めて愛する家族を見守るだけだ。<br />
「よしわかった。リュカ、早くグランバニアに帰ってあげるといいぞ」<br />
「お父さん、また会いに来るからねっ」<br />
本当は、ビアンカだって父ダンカンとゆっくりとした時間を過ごしたいはずだ。リュカはつい申し訳ないと詫びる気持ちを抱いてしまうが、ダンカンもビアンカも、リュカのそのような気持ちをまるで一蹴してしまうような勢いで、ぽんぽんと話を進めてしまうのだ。<br />
「会いに来るのはいいが、リュカと喧嘩して家出なんかしてくるなよ。わっはっはっはっ」<br />
「ホントにもうっ！　お父さんったら心配してるのかからかってるのか、わからないわ！」<br />
全てが自然で、全てが温かい。この心地よさの中にもし、ビアンカの母も、そしてリュカの父と母もいたならば、どれほど賑やかで幸せな空間が広がっていただろうかと、リュカはつい想像してしまう。父パパスとダンカンが酒を酌み交わす姿が目に浮かぶ。今ならばそこに自分も加わることができるだろうか。ビアンカは母と仲良く料理の支度をし、その場に加わる母マーサの姿も見えるようで、リュカの視界は滲む。祖父母が揃う中で、孫であるティミーとポピーはこれでもかというほどに可愛がられていただろう。今のダンカンが双子を見る目を見れば、それは想像に難くない。<br />
望んでいた未来があった。しかし未来は望んだ形にはならなかった。だけど、それを乗り越えて生きることが、リュカたちには求められている。これからを幸せに生き続けることが、リュカたちのようなこの世に生きる者たちには求められているのだ。それが、既にこの世を去った人々を心から弔うことになるだろう。<br />
「でも、リュカ。私がここに帰りたくなるようなことは絶対にしないでね。約束よ」<br />
「えっ！？　どういうことだよ、それって」<br />
「さあねぇ、どういうことかしらね？」<br />
すかさずからかってくるのだから、たまったものではないとリュカはこめかみに冷や汗をかく。彼女が本気ではないことは分かっている。しかしもし本気になってしまったとしても、それも理解できてしまうのだから、リュカのこめかみには自然と汗が浮き出てしまうのだった。<br />
「どれ、わしのかわいいマゴたちの顔をよく見せておくれ」<br />
改めてダンカンは目の前に立つティミーとポピーの顔を間近に交互に見つめる。双子特有の似た顔つきをしているのは誰もが認めるところだが、十歳を過ぎた彼らの顔つきはそれぞれの思いによっても性差によっても違いを見せてきている。ティミーは強くも優しい父リュカに憧れを抱き、よりリュカに似てきているようだ。ポピーは美しくも逞しい母ビアンカに憧れを抱き、よりビアンカに似てきたようだ。ダンカンは一度、ポピーを幼い頃のビアンカと見間違えたこともあるほどだ。<br />
ダンカン夫妻は子宝に恵まれず、しかしそれこそ天から降ってきた幸運をつかんだように赤ん坊のビアンカを拾い、愛しい我が子として育ててきた。血の繋がりなどなくとも、ビアンカは紛れもなくダンカン夫妻の娘だった。しかし今、こうして我が娘が血の繋がる家族を持てたことに、ダンカンはこの上ない喜びを感じている。己の叶えられなかった夢を娘が叶えてくれたこと、それが親にとっては何よりも嬉しく、どこか誇らしい。<br />
「ティミーにポピー。お父さんやお母さんのような立派な大人になるんだよ」<br />
世界を救った勇者という立場でありながらも、まだ十歳を過ぎたほどの子供であるティミーとポピーに、ダンカンは父と母を見習うのだと言い示す。その思いは、本心からのものだ。親は子に背中を見せなければならない。子は親の背中を見るべきだ。そのような互いの姿勢そのものが、親子という関係性を継続的に作り上げていく。第一、何も考えずとも自ずと親子というのはそのような姿勢を示すものだ。それは、互いに互いの存在を愛しく思い、尊重するからに他ならない。<br />
ダンカンは別段、明確にそのような思いを持っているわけでもない。ただ彼は、親子というのは何よりも大事な絆で結ばれているものなのだと、彼らに伝えたいだけだった。そしてそれをこうして教えるのが、祖父にできることなのだと、彼は考えるまでもなく感じるままに孫たちをにこにこと見つめているだけなのだ。<br />
「おじいちゃん一人っきりじゃさみしいに決まってるよ。お父さん、お城が落ち着いたら、おじいちゃんもグランバニアに呼ぼうよ。ねっ！」<br />
祖父ダンカンのこれ以上ないような優しい笑みを受け、ティミーは思わずリュカにそう伝える。そのティミーの本心には、祖父が寂しいと感じているに違いないと思えるような、家族愛があった。家族は一緒にいるべきだと思うのは、リュカたち一家に一致する感覚だ。本来ならば、魔界に囚われていた祖母マーサも地上世界へと救い出し、共に過ごす未来を描き、希望を抱いていた。それが叶わなかったという後悔も手伝い、ティミーは尚のこと祖父ダンカンをグランバニアへ呼べないかと考えてしまうのだった。<br />
「はっはっはっ、いずれはそれも良いかもなぁ。そうしたらわしは王様の父だから、そちらの国で、えっへん！と言えるわけかな？」<br />
腰に両手を当てて胸を反らそうとするダンカンを見て、皆が笑う。彼が本気で言っていないのは誰もが分かっている。この山奥の村で日々静かな時間を過ごしている彼のこと、たとえグランバニアに居を移したとしても、何にも煩わされることなく静かに暮らしたいと思うだけだろう。<br />
「あははっ！　そんなおじいちゃんも見てみたいかも！」<br />
「ありがとう……ティミー」<br />
父ダンカンに対して、明るく元気な孫でいてくれるティミーに、ビアンカは思わず礼の言葉を小さく述べた。ダンカンの娘であり、ティミーの母であるビアンカ。父も息子も、どちらも同じように大切な家族だ。その二人が顔を見合って、笑い合えているこの状況が、ビアンカにとっての何よりもの宝物だ。以前よりも父に老いを感じる状態であっても、こうしてひとたび孫の顔を見れば、その元気さにつられて元気を取り戻してくれるようで、ビアンカとしては父を元気づけてくれる息子に思わず礼を口に出してしまうのは自然のことだった。<br />
「父さん、そういえばオレンジのジャムはまだ瓶にちゃんとある？」<br />
「ああ、あるよ。毎日のように飲むからなぁ。ちゃんと宿の女将さんがなくならないようにしてくれているよ」<br />
「あっ、あのジャム、私好き！　パンに塗ってもおいしいんだもの！」<br />
以前にこの山奥の村を訪れた際に、ポピーたちは村のオレンジジャムを口にしたことがあった。ジュースにして飲んだものだったが、今はジャム瓶の一つをグランバニアにも置き、パンにつけて食べることもあった。<br />
「おお、そうかそうか。それならわしのも持っていくといい。女将さんが多めに置いてくれているからなぁ」<br />
そう言いながらダンカンは向きを変えると、奥にある台所へ入るなり戸棚の扉を開け、ジャムの入った瓶を二つ手に戻ってきた。それは今ダンカンの家にある残り全てだったが、孫を前にした祖父としては自分の分を取っておくという考えはどこかへ置き去りにされてしまうようだった。<br />
「これ、もらってもいいの、おじいちゃん？」<br />
手渡されたジャムの瓶を見ながら、ポピーが嬉しそうにダンカンに聞く。ポピーのその表情が、幼い頃のビアンカの表情にまるで重なって見えるダンカンは、子供の頃のビアンカに手を焼きながらも慈しんで育てた当時をつい思い起こし、ただただ顔に笑みを浮かべてしまう。<br />
「ああ、ああ、構わんよ。好きなだけ持っていったらいい。わしが普段使う分なんて大した量じゃないからな」<br />
「おじいちゃん大好き。だってやさしいんだもん。えへへ」<br />
ポピーが素直にそう言うのも頷けると、リュカはダンカンの孫たちに見せる蕩けるような笑みを見てそう思った。目に入れても痛くないほどに可愛いとはよく言ったものだと、ダンカンの笑顔を見ているとそんな言葉も思い出せる。<br />
「ポピーも本当にいい子ね……」<br />
素直に祖父に甘えるような態度を見せてくれるポピーが、ビアンカにとってはどこか誇らしかった。自身がこの村を離れ、父を一人にさせてしまった罪悪感は今も胸に残るが、それでもこうして孫の顔を見せることができ、父もまた孫であるティミーとポピーとのやり取りに喜びを感じてくれているならば、これ以上の親孝行はないのではないかとも思う。<br />
リュカとの結婚が決まり、その後共に旅をすることとなり、当時リュカは旅を続ける限りは子供はいない方が良いと考えていた。ビアンカもまた、夫となった彼のその考えを強く否定することもできなかった。危険な旅の最中、子供を設けることの負担を考えれば、赤ん坊という存在は間違いなくリュカたちの旅の妨げとなっただろう。しかし冷静にそう考えていたとしても、ビアンカは子供が欲しかった。<br />
その時はまだ、彼女の身勝手な思いがあったのかもしれない。自分を育ててくれた両親への恩返しにと、そのような考えがビアンカにはあった。もしリュカとの間に子を授かることができれば、さぞかし可愛いことだろうという夢もあった。お母さんになってみたいという願望もあった。自分を育ててくれた母のような、優しく厳しくたくましいお母さんになりたいと、亡き母を想うこともあった。<br />
めでたくグランバニアの地で双子を授かった。胸に抱く我が子の温かさを感じた瞬間に、ビアンカの胸には想像もしていなかったような膨大な幸福が溢れたのを、彼女は今も覚えている。いくら想像していても追いつかないほどの感動がそこにはあった。小さな小さな命は、まだ泣き声を上げることでしか、自己を主張することもできない。それに真っ先に気付いてやれるのは自分なのだと、あの時母としての覚悟が一瞬にして決まった感覚も、彼女は思い出すことができる。<br />
十年もの間、子供の傍にいられなかった。その間、子供たちを無償の愛で育ててくれたグランバニアの人々には感謝してもし切れない恩がある。人々が双子をまるで我が子のように慈しみ育ててくれたから、二人はこうしてのびのびと素直な良い子に育ってくれた。記憶にない母を目にしても、戸惑うことなく受け入れてくれたことに、ビアンカの母としての愛情は再び元の通りに溢れたのだ。<br />
「ビアンカ……」<br />
隣でリュカが心配そうに目元を拭ってくれて初めて、ビアンカは自分が知らず涙していたことに気付いた。父ダンカンはただ見守るような温かな笑顔で、娘を正面から見つめている。<br />
「あはは……この村に戻ると何だか気が抜けちゃうのかな……」<br />
「お母さん……悲しいの？」<br />
「違うわよ、嬉しいの」<br />
「村に戻ってこられて嬉しいの？」<br />
「それもあるけど……みんながこうしていてくれることが嬉しいのよ」<br />
もしかしたら、この景色は永遠に失われていたかもしれなかった。リュカたちが大魔王の力に屈していたら、今頃この地上の世界は闇に包まれ、人々は行き場を失い、悪しき魔物たちが闊歩するような世界へと変貌していたかもしれない。それを思うと、今こうして皆が笑顔でいられることそのものに、そこはかとない感動が滲んでくる。平和が守られたことを実感すれば、この村の人々も景色も何もかもが壊されることなくここにあるということが、寧ろ奇跡のようにも感じられる。<br />
「ビアンカ」<br />
「なあに、父さん？」<br />
「ちゃんと母さんにも挨拶をしていくんだぞ」<br />
「……うん、もちろんよ」<br />
ダンカンは急いでグランバニアに行かなければならない娘の背中をそっと押すように、ただ見守るような柔和な笑みを浮かべてそう言った。娘はいつまでも父に甘えるように、その言葉を受けてこの家を後にする気持ちを整えた。別れに多くの言葉はいらないのだと言うように、寧ろこれはただの一時的な別れだとでも言うような軽い調子で、ビアンカは父ダンカンの住む実家を後にした。<br />
妻の眠る墓地に、ダンカンは共に足を運ばなかった。もしともに墓地に向かっていれば、墓石の前で涙を見せてしまうかもしれないと、ダンカンはそうなることを避けたのだった。娘の前で涙など流してしまえば、心優しい娘は村を立ち去りがたくなってしまう。もう彼女は、親の手を離れ、良き伴侶にも可愛い子供たちにも恵まれた人生を送っているのだ。我が子の足枷になるのはごめんだと、父親としての意地のような気持ちもあり、ダンカンは一人家に残り、まだ朝に飲んでいなかったオレンジジャムを溶かしたジュースを飲む。涙は目に滲む。しかし頬を零れることはなかった。滲む涙はただただ温かい。</p>
<p><script async="" src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"></script><br />
<ins class="adsbygoogle" style="display: block; text-align: center;" data-ad-layout="in-article" data-ad-format="fluid" data-ad-client="ca-pub-7752759112270694" data-ad-slot="4114162227"></ins><br />
<script><br />
     (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});<br />
</script></p>
<p>ダンカンの家から墓地に向かう途中、リュカたちはまたしても村人たちの歓迎を受けた。その中に、長くダンカンの下で働く男の姿もあった。リュカは当然、彼のことを覚えている。当時、自身がビアンカに恋をしたからこそ、彼もまたビアンカに恋をしていたのだと気づいたのだ。<br />
今、彼と初めに目が合ったのはリュカだった。それというのも、やはり彼の視線にはビアンカに対する好意以上のものを感じるからなのかも知れない。リュカはそれを、嫌なものには感じなかった。彼はその好意以上にもなる気持ちを、どこか自身で達観している雰囲気を醸している。リュカのことを見つめているが、そこに敵意に依るものは一切感じられなかった。<br />
「よう！」<br />
手を挙げて明るい声を出す彼に、ビアンカは初めて気づいたというように、村人の中に彼の姿を見つけた。近づいていく彼女には、ただ彼を大事な村人の一人と思っている意識が感じられる。彼はそんな彼女の気持ちを正面から受けても、ただ明るい笑顔で、まるで彼女は自身の妹なのだと言うような顔を示して待っている。<br />
「いつも父さんのこと、ありがとう。父さん、迷惑かけてないかしら？」<br />
「ダンカンさんは優しい人だからな。むしろ物足りないくらいだよ」<br />
「まあねぇ、うちじゃあ母さんが強い人だったから……」<br />
つい話し込みそうになってしまう雰囲気を断つのは、彼の方だった。<br />
「まったくたいした連中だな、あんたらは！」<br />
リュカたちが世界を救った勇者一行だということは、この山奥の村の人々にも知られている。そのせいでこうして村人はリュカたちを囲むようにして騒いでいるのだ。この小さな村に勇者がやってきたと、ティミーの装備する天空の武器防具をまじまじと見つめる武器屋の主人もいる。わいわいと賑やかな中で、彼とビアンカの交わす言葉は丁度よい調子で紛れている。<br />
「さすがにビアンカさんがホレただけのことはあるぜ」<br />
そう言いながら彼はリュカへと視線を移した。やはりそこに、敵意に通じるものは一切ない。同じように、いや、もしかしたら自身よりも深い愛情を抱いていたかもしれない彼に対し、リュカはようやく自然と笑みを返すことができた。<br />
「いや、負けたよ」<br />
その言葉の意味は、ビアンカという一人の女性を好きになった者同士の間で、互いの胸に染み入るような感覚をもたらした。一方は圧倒的な敗北を認めることで、その心は嘘のように晴れた。もう一方は相手の敗北宣言から得た勝利の立場に、自信を持ってこれからも立ち続けられるという意識を明確にすることができた。要するに、二人の男たちは互いに今までにはないほどの“自身”を持つことができるようになったのだ。<br />
そのような彼のすっきりと晴れたような笑顔に気づいたのかどうかは分からないが、その場を立ち去った後にビアンカがふと漏らした言葉があった。<br />
「あの人にもきっとすぐにいい人が現れるわよね」<br />
他の村人たちの中に紛れてしまったその人を振り返りながらビアンカがそう言うと、隣を歩いているポピーが、自分でも何を思ったのか分からないままに母の手をそっと掴んだ。<br />
「お母さん……」<br />
「ん？　なあに、ポピー？」<br />
自分を見てくれる母の表情は、どこまでもポピーの母親だった。この山奥の村でビアンカがどう過ごしていたのか、本当なら知りたいと自然に思うのがポピーという少女だが、今はその思いに蓋をしたいと思った。この山奥の村で育ったビアンカという女の子がいた。しかし今、ポピーが目にしているのは、グランバニアの王妃である母ビアンカだった。ポピーにとって大事なのは、考えるまでもなく、母であるビアンカの方だった。<br />
「……ううん。なんでもないの。お母さん……大好き」<br />
「？　どうしたのよ。うふふ、可愛いわねぇ」<br />
いつもはしっかりしている娘のポピーがこうして甘えを見せてくれることが、ビアンカにとっては非常に嬉しい。我が子を可愛いと思うのは至って普通で、親として頼られること、甘えられることなどがあれば、尚のこと子に対する愛しさは増すというものだ。子供たちと共に過ごすことのできなかった十年という年月を補うように、みるみる大きくなっていく子供たちへの愛情は膨れ上がるばかりだと、ビアンカはポピーの頭を優しく何度も撫でた。<br />
ビアンカが母が眠る墓地へと向かうのを、村人たちは邪魔することなく、共に賑々しく歩いていく。ビアンカたちがそれほど長くこの村にいることができないと知れると、村人たちは一様に肩を落としたが、無理に引き留めるようなことはしない。あくまでもビアンカの生きる場所はこの村ではなく、外にあるのだということを村人たちはこの十年という月日に理解しているのだろう。<br />
墓地に足を踏み入れれば、村人たちの話し声も自ずと静まった。この場所で騒々しく声を立てるような者はいない。ここは亡き人と静かに話をする場所だということを、誰よりも村人たちがそう感じている。ビアンカと、彼女の亡き母との静かな会話を邪魔する意図もなく、村人たちは墓地の手前で足を止め、存分に母と娘で話をするのが良いと彼女たち家族をその場で見送った。村人たちの手で絶えずきれいに掃除されている墓地に足を踏み入れ、ビアンカはまだ朝の爽やかな空気が満ちている墓地の景色に、自ずと心が静まるのを感じた。<br />
「母さん、ちゃんと戻ってきたわよ」<br />
母の墓石の前にしゃがみ、ビアンカは静かな声で話しかけた。いつでも心の中には亡き母への思いが揺蕩っているが、やはり母の墓の前で手を合わせれば、まるで目の前に生前の母が現れるかのような雰囲気を感じる。亡き母が眠るこの場所で手を合わせることの意味の深さを、ビアンカは自然と口から出る言葉に感じている。<br />
「私たちの子が世界を救ったのよ。信じられないわよね、世界を救った勇者なんですって」<br />
「ボクだけじゃなくて、みんなでチカラを合わせたから世界を救えたんだよ！」<br />
ビアンカが自慢するように言う言葉を半ば遮るように、ティミーが母の隣にしゃがみながらそう言った。ティミーの表情は真面目なもので、彼は自分だけが持ち上げられ、特別扱いされることを苦手としていた。勇者である自身だけで世界を救えるはずはなかったと、ティミーはその身に深く理解している。“勇者”という誰にも分かる目印を背中に貼り付けていたようなもので、その目印を人々に見せなくてはならないと、絶やしてはならないと、それだけを思ってティミーは行動していたようなものだった。<br />
「きっとおばあちゃんもチカラをくれたよね？」<br />
「うん、それは間違いないよ。みんなが僕たちに力をくれたんだ」<br />
ポピーの言葉を受けて、リュカは本心からそう応える。結局人の力というのは、人々の心に支えられているということに尽きるのだろう。今は墓地に眠るビアンカの母も、娘の無事を、健康を、安寧を願い続けているに違いない。そのような母の愛情を信じているビアンカもまた、亡き母の安らかな眠りを妨げたくはないと、この地が荒らされることなど望まない。互いの信頼や愛情に底はなく、それらは終わることなくどこまでも続いていくものなのだと、リュカは墓石に向かうビアンカの姿にそう感じる。<br />
母を亡くした後にビアンカの面倒をよく見てくれていた宿の女将が、村人たちを代表するかのように墓地の中へとやってきて、村人たちで摘んだ花束をビアンカに手渡した。礼を述べるビアンカに、女将は首を横に振ってその場をすぐに立ち去ろうとしたが、ティミーとポピーがそれを止めた。共にこの場にいてほしいと願う子供たちの希望に応えるように、女将もまた墓石に手を合わせる。<br />
前にもこの場所に風が吹き、供えた花が転がるのをリュカは見たことがあった。それだけで妻の母と話をしているような気になったものだったが、今度は違った。山奥の村の墓地では決して起こらないような突風が目の前に起き、墓石の前に備えた花束を風に攫った。リュカたちの頭上にまで巻き上がった花束が、束の体裁を崩し、一輪一輪の花々へと散らばっていく。まるで頭上から浴びた花のシャワーに、リュカたちは一斉に頭に花々を優しく被せられてしまった。<br />
「ちょっと、リュカ！」<br />
「違うよ、僕じゃないよ」<br />
すぐにリュカの呪文を疑ったビアンカだったが、母の墓石に供えた花束にそのような悪戯をするリュカではないと、彼の言葉をすぐに受け取る。振り向き見る母の墓石に、ビアンカは母の嬉しそうな笑顔を見たような気がした。娘の家族が世界に平和をもたらしたのだというお祝いの気持ちもあったのだろう。そしてこれからも娘が愛する夫と子供たちと末永く暮らせるように願う亡き母の思いが、きっと花のシャワーを浴びせたのだと、ビアンカは胸に込み上げる嬉しさと共に皆と一緒になって散らばった花を一輪一輪拾い始めた。元気だった母の姿が目の前に見えるようで、ビアンカはただ明るい笑顔を見せ、亡き母に口先だけの文句を言うのだった。</p>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://like-a-wind.com/text46-6/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>2</slash:comments>
		
		
			</item>
		<item>
		<title>子供の話に思うこと⑧「中学校の英語教育」</title>
		<link>https://like-a-wind.com/son-talk-8/</link>
					<comments>https://like-a-wind.com/son-talk-8/#respond</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Fri, 01 May 2026 07:14:34 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[徒然]]></category>
		<category><![CDATA[日記]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://like-a-wind.com/?p=4676</guid>

					<description><![CDATA[この春から、息子が中学生となりました。月日の経つのは早いもので。背もとうの昔に追い抜かされています。家族で私が一番ちびっことなりました。ただでさえチビですが。チビなビビです。  ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>この春から、息子が中学生となりました。月日の経つのは早いもので。背もとうの昔に追い抜かされています。家族で私が一番ちびっことなりました。ただでさえチビですが。チビなビビです。</p>



<p>先月、早々に学校で公開授業があり、学校へふらっとお邪魔してみました。息子が受けていたのは理科の授業でしたが、隣で英語の授業が行われていて、一応大学まで英語を専攻していた私としては興味もあり、ちらっと覗かせてもらいました。普通に日本人の先生が板書をしながら説明するというスタンス。懐かしい光景です。</p>



<p>中学校から受け取った学校の説明には年間の授業数が書かれており、そこで驚いたのは、国語よりも数学よりも、英語が最も多い授業数だということ。……おいおい、どういうことだよと、目を疑いました。なんでも昔と比べるのは良くないことと思いますが、確か私が中学生の時には国語と数学の方が授業数は多く、英語は週３とかだったような。This is a penの世代で、教科書はお決まりのNew Horizonでした。ああ、懐かしい。もうウン十年と前のことです。</p>



<p>中学校の授業でどうしてこれほど英語が重要視されているのかを考えると、今の教育者のお偉方の世代がこのようなことを決めていることを思えば、単にその世代の方々の英語への憧れというものがそのまま反映されているんではないかなと。もしかしたら今の若い方にもあるのかも知れませんが、日本人の英語への憧れというのは恐らく戦後から根強いものがあったのではないかと思います。なんかこう、キラキラしてるぅ、みたいな。英語が話せるだけでかっこいい、みたいな。世に溢れる流行りの歌にも英語が多く使われたりで、それも相まって「なんかかっこいい」という印象が醸成されたのは一つ、あるでしょう。実際、私もそんな感じで英語に憧れた一人です。だから大学に入っても英語を専攻しました。喋れませんけど。</p>



<p>子供への教育を考えるに当たり、常により良い教育をと考えること自体は全く間違っていないと思います。しかしそこに大人の憧れや勝手な希望を入れてしまっては、教育自体が歪んでしまうものと思います。あくまでも「子供の教育に良いこと」を常に優先的に考えなくては、学ぶ子供たちもその内容に戸惑うのではと思います。</p>



<p>中学校で習得する英語の単語数も、昔に比べて格段に多いと聞きました。それというのも、小学５年生から英語教育が始まり、中学校に入学するときには「英語の土台はできているね？」というところから始まるからなのかなと思いますが……小学校での英語の授業を見てきた人がそう考えているんですかね？　ネイティブの先生を小学校に置き、英語のみで進められるような授業で、生徒たちは凡そぽかーんとした状態で進められる小学校での英語の授業に一体どれほどの意味があったのか。私としては謎です。息子に聞いても、「英語のゲームとか歌とか、なんだかよくわからないままだった」という感想を漏らしています。授業とは呼べないですね。しかもネイティブとは言いながらも、出身を聞くと絶対「ネイティブ」ではないでしょうと突っ込みたくなる人選だったりと、小学校での英語教育がいかに杜撰な設計のもとに進められているか。</p>



<p>結局、「子供たちに英語を学ばせなくては！」と無暗に思っている大人がただ外国人の講師をつけて、それらしい感じで英語の授業を取り入れている、そしてそれで満足しているというようにしか私には感じられませんでした。それだからこそ、小学校では本当に英語の授業など不要だと思うんです。そもそも、「英語の授業」ができていないんですよ、現場は。あのような授業で英語が身につくわけがないです。</p>



<p>物事の学習って、基本は反復だと思います。繰り返し繰り返し暗唱したり、書いたりすることで、頭で覚えるというよりも体が覚えるという……。現に私たちが普段話したり書いたりしている日本語も、生まれた瞬間から使いこなせたわけはなく、段々と、練習を重ねてできるようになってきたものですよね。それを外国語である英語でやろうとすれば、同じような反復が必要となるはずです。それこそ、私が中学生の頃の英語の教師は必ず「repeat after me」と言って、生徒に言葉を繰り返させていました。あの方法、恐らく間違ってはいなかったと思います。だって「学ぶ」ということは「まねぶ」ということですから。真似させるということが、学習の基本でしょう。</p>



<p>少なくとも小学校の英語の授業時にそれをやっているようには見えませんでした。私にはただの幼稚園のお遊戯の延長のようにも見え、この時間はもったいないとまで思っていました。小学校の時の英語の授業で何か英語というものが身についていれば良いのですが、恐らくそんなことにはなっていないから今、中学校に入ってから英語を苦手とする生徒が増えているのではないかと思います。</p>



<p>何かを学習する時、入り口で躓いてしまっては、もうそこから先に進みたくなくなりますよね。中学校の英語においては、その現象が起きているのではと思います。初めから転んで大けがをしてしまえば、そこから復帰するのはなかなかに難しいものでしょう。中学校に入学して、初めのテストでちんぷんかんぷんとなれば、もうそこで一気にやる気が失せるのも責められません……。人間って、そういうものだし。当然、易しければ良いものではないですが、そもそも小学校での英語教育がどうなんだいという状況での中学校の英語なので、土台から間違えているのではと思うわけです。</p>



<p>また、中学校の校舎内に貼られていた英検を推進するようなポスターにも、ある種の闇を勝手に感じてしまいました。こりゃあ……アレかな、と。不思議なんですよね、英検を学校という場が推し進めるのって。どうやら英検を取得すれば、受験にも有利だという条件があるようですが、この英検ってそもそもどうなのかしら、という疑問が。私自身、英検２級を持っていますが、だから何だというほどのもので、実際に役立つかどうかと言えば、いやあそんなことは……と言わざるを得ない。しかも中学生で頑張って取得しなくても良いんではないかなと思います。もし取得するとしても、高校、大学、社会人でも、それくらいの時に好きに取ればいいと思っています。こういうものを受験に絡めるのはやめてほしいなぁと思うのと、やっぱりある種の闇を感じてしまう……。だって、今や英語を学習したいと思うなら、いくらでも方法があるじゃんと思ってしまうわけで。英検に合格するよりも、英語での日常会話に困らない人の方がすげぇぇと思いますよ、私なんかは（笑）</p>



<p>そしてやはり思うのが、今の今、この時代になってそこまで必死に日本人全員が英語を勉強する必要があるのか、ということ。これに尽きます。それよりも、翻訳こんにゃくツールのようなものを使えるように、機械に強くなった方が良いんでは？なんて。あくまでも、英語という言語自体が「ツール」なので、このツールを使って何がしたいかの方がよほど重要でしょう。</p>



<p>こちらが何をしたいのかと合わせて、相手方が私たちに何を求めているのかと考えれば、私が海外に行ったときに痛切に感じたのは、「相手は私のこと、日本のことを知りたいんだ」ということでした。それは今も変わらずあることなんじゃないでしょうか。それを考えれば、私たちが最も重要視しなければならないのは、もっと深く自国のことを知るべきということではないかしらということです。聞かれても、知らなければ答えられないんですからね。だーかーら、もっと重要視するべき科目は国語や社会であると思うんです。</p>



<p>世界で唯一、２０００年以上続く日本という国がどれだけ特別視されているか、私たち日本人が最も分かっていない。何においても、内にいると分からないものです。しかも、戦後の私たちは妙な教育を受けてきたので尚更です。もういい加減、英語をやたらと羨望するのではなく、「適度」な位置に移動させることを考えた方が、今時で言えば“タイパ”がいいんじゃないでしょうか？　最も頭の柔らかい時期に、躍起になって英語を勉強するよりも、他にやることがあるんじゃないでしょうかねぇ。</p>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://like-a-wind.com/son-talk-8/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>0</slash:comments>
		
		
			</item>
		<item>
		<title>本編を更新しました。「守られた思い出の町」</title>
		<link>https://like-a-wind.com/%e6%9c%ac%e7%b7%a8%e3%82%92%e6%9b%b4%e6%96%b0%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%82%e3%80%8c%e5%ae%88%e3%82%89%e3%82%8c%e3%81%9f%e6%80%9d%e3%81%84%e5%87%ba%e3%81%ae%e7%94%ba%e3%80%8d/</link>
					<comments>https://like-a-wind.com/%e6%9c%ac%e7%b7%a8%e3%82%92%e6%9b%b4%e6%96%b0%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%82%e3%80%8c%e5%ae%88%e3%82%89%e3%82%8c%e3%81%9f%e6%80%9d%e3%81%84%e5%87%ba%e3%81%ae%e7%94%ba%e3%80%8d/#respond</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Fri, 24 Apr 2026 06:02:23 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[日記]]></category>
		<category><![CDATA[更新]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://like-a-wind.com/?p=4671</guid>

					<description><![CDATA[いつも遅くなって申し訳ないです。忘れたころに更新するbibiでございます。あとエンディングだけだから～と軽く考えていたところ、作るお話と合う辻褄を考えていると、恐ろしいほどに時 ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>いつも遅くなって申し訳ないです。忘れたころに更新するbibiでございます。あとエンディングだけだから～と軽く考えていたところ、作るお話と合う辻褄を考えていると、恐ろしいほどに時間がかかってしまうという……これまでどれだけ取っ散らかった話を書いていたかと、反省しかしていません……。そして回収しきれる自信がないという……ひぃ……<br />
とりあえず一つ、更新しました。</p>
<p><a href="https://like-a-wind.com/text46-5/" data-type="post" data-id="4668" data-rich-text-format-boundary="true">守られた思い出の町</a><br />
この町でのお話も、私が途中で話を無暗に広げてしまったせいで、色々と辻褄を合わせるのに苦労するという、自業自得の目に遭ってしまいました。勝手なことはするものじゃありませんね。<br />
さて、次もまた苦労しそうな村ですね。サラボナほどではないかなと、また変に楽観視をしていますが、どうなることやら。</p>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://like-a-wind.com/%e6%9c%ac%e7%b7%a8%e3%82%92%e6%9b%b4%e6%96%b0%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%82%e3%80%8c%e5%ae%88%e3%82%89%e3%82%8c%e3%81%9f%e6%80%9d%e3%81%84%e5%87%ba%e3%81%ae%e7%94%ba%e3%80%8d/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>0</slash:comments>
		
		
			</item>
		<item>
		<title>守られた思い出の町</title>
		<link>https://like-a-wind.com/text46-5/</link>
					<comments>https://like-a-wind.com/text46-5/#respond</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[bibi]]></dc:creator>
		<pubDate>Fri, 24 Apr 2026 05:52:48 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[DQ5（長編）]]></category>
		<category><![CDATA[青年時代（６）]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://like-a-wind.com/?p=4668</guid>

					<description><![CDATA[竜神の背に乗り、高みから望む地上世界は驚くほどに小さいように感じるものだ。竜神が常にこうした小さな世界を眺めているのかと思うと、住む世界、生きる世界がまるで違うのだということを ... ]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<p>竜神の背に乗り、高みから望む地上世界は驚くほどに小さいように感じるものだ。竜神が常にこうした小さな世界を眺めているのかと思うと、住む世界、生きる世界がまるで違うのだということを思い知らされる。竜神と人間では同じ視線を持ちようがないことを認めさせられる。サンタローズの村を離れ、すぐに見えた隣町アルカパの景色を見ても、遥か眼下に自然とは異なる人工的な景色が僅かにあると分かるだけだ。<br />
ただこの竜神は人の心に寄り添うようにその高度を下げ、リュカたちにアルカパの町の様子を細かく見せようとする。恐らくただの神様であれば、このような配慮もないのではないかとリュカは思っている。何故竜神がわざわざ人の住む町の様子を見せようと高度を下げたりするのかと言えば、竜神自身が好奇心を持ち、平和の世を喜ぶ人間の姿を間近に見たいからなのではと、そう思えばリュカの脳裏にはどこか頼りない一人の酒場の店主の姿がふと映る。誰よりも世界に平和がもたらされたことを喜んでいるのは、リュカたちを背に乗せて世界を飛び回っているこの竜神なのかも知れない。<br />
アルカパの町の上を緩やかに一周。町の人々も竜神の姿に気づき、多くの人々が手を振ったり手を合わせたりしている。あまり高度を下げて飛行すれば、翼の起こす風が町に影響を与えてしまうと、竜神は高い高度を保ったまま身体を斜めにしてリュカたちにも町の様子を見せる。落ちそうになる恐怖にポピーは目をつむりかけたが、リュカが支えてやり一緒に町の様子を眺めた。笑顔を見せる町の人々の様子を目にすれば、ポピーの顔にも自然と笑顔が浮かんだ。<br />
「寄らなくて良かったのかい、ビアンカ」<br />
「いいのよ。平和になったんだもの、いつでも来られるわ。今はグランバニアに急がないと」<br />
「お父さんがルーラで来られるなら、あっという間だもんね」<br />
「お母さんが小さい頃に住んでいた町なのね？　私も今度一緒に行ってみたいな」<br />
アルカパの町を過ぎて、竜神はそのまま西へと向かう。すぐに海へと出た。穏やかな海はほとんど真上から照る陽光を受けてきらきらと輝いているのが、リュカたちにも広く見えている。竜神の背から見える世界は小さい。しかしその美しさは恐らく人間が見つめるものと変わらない。この美しい世界を壊したくないという思いは、人間も竜神も同じものなのだ。<br />
竜神の進む速度は、海を行く船に比べても、比べ物にならないほど速い。しかしリュカたちを照らす昼の陽光の位置が奇妙なことに変わらない。リュカは自身が使う移動呪文ルーラに起こる時間の経過の現象を知っているために、ずっと位置を変えない空の太陽の姿にすぐに疑問を感じた。それはどうやら竜神の背にへばりついて乗っているピエールも同じだったようだ。<br />
「この世界は平和になったと同時に、ずっと昼の世界になったのでしょうか」<br />
「そんな話は聞いてないんだけどなぁ」<br />
「がう～？」<br />
「それって平和になったって言うのかよ」<br />
海を照らす陽光の力は衰えず、空はずっと明るい。海に出てから、竜神の飛行速度が幾分落ちたようにも感じる。その分、竜神は己の力を他に向けているのかと考えれば、それこそ神業をリュカたちにこっそりと見せていたのだった。<br />
広い海原を下に眺めながら、竜神は空に光る太陽を連れてきている。恐らく竜神にその意思はなく、ただこの世界の平和を喜ぶ神の強い心が勝手に太陽をも連れてきてしまっているのだった。広い海原はすぐに過ぎ去り、竜神は西の大陸を見下ろしながら飛行を続ける。リュカは頭の中に世界地図を思い浮かべながら、下にポートセルミの港町が見えるだろうかと眺めていたが、海の景色はあっという間に過ぎ去り、見えるのは広い西の大陸の青々とした景色だった。見えたのが特徴的な町の造りを見せるルラフェンだと気づくと、いくらか東へ置いてきたような位置に見える太陽に、竜神が自身のしでかしている異変に気付いたのだろうと思えた。<br />
「お父さん、あのね……」<br />
リュカの視線に気付き、同じように空に眩しく照る太陽を目を細めて見つめていたポピーが、遠慮がちに話し始める。<br />
「私、今まで使ったことなかったんだけどね」<br />
「うん」<br />
「昼と夜を変えることができる呪文があるの」<br />
「えっ？」<br />
「でもね、そんなことしちゃうと、世界中の人が困るでしょ？　だから一度も試したことはないのよ」<br />
ポピーは勇者の妹として、呪文を習得することには非常に貪欲だった。それは勇者ではない自分にできる最善のことだと信じ、続けてきた。あらゆる呪文に興味はあった。しかし彼女が呪文を習得するのは、単に呪文を習得したいからという好奇心を超えて、勇者の妹としてなすべきことがあるという目的のために他ならなかった。<br />
「えー！？　そんな面白い呪文があるんだ！　やってみてよ、ポピー！」<br />
即座にそのような反応を見せるティミーを見ながら、リュカは人の持つ呪文の特性について思う。リュカに火の呪文が使えないのと裏表に、ビアンカには癒しの呪文が使えない。人は自ら使う呪文を選べるわけではない。もしティミーがポピーの言う昼夜逆転が可能の呪文ラナルータが使えたら、彼はその好奇心の高さゆえにきっと今までに何度もその呪文を試していただろう。やはり呪文は人を選ぶのだろうと思うのと同時に、それが最善の現象なのだろうとリュカは苦笑いを見せる。<br />
「えー、ダメよ、そんなことしちゃ。夜がいきなり朝になったら、寝不足の人だらけになっちゃうわ」<br />
「朝がいきなり夜になっても、また寝なきゃいけなくなっちゃうものねぇ」<br />
「そりゃあ楽でいいじゃねえかよ」<br />
「がう～」<br />
「確かに、食事のタイミングも分からなくなりますね」<br />
「まあ……そんなことをするのは神様ぐらいにしておいた方が良さそうだね」<br />
そう言いながらリュカは自身らが乗る竜神の背を軽く叩いた。今のリュカは、ずっと手にしていたドラゴンの杖を持っていない。しかしもはや杖がなくとも、竜神はリュカの意を、背を叩くその手から受け止めることができるようだった。<br />
竜神の鳴く声が大きく響き渡る。既に通り過ぎたルラフェンの町に住む人々も空を見上げ、北へと飛び去って行く竜神を歓声を上げて見送っていた。太陽は東の空に輝かしく浮かんでいる。竜神はその光を右に受けながら、北へ北へと進み、間もなく南下を始めた。</p>
<p><script async="" src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"></script><br />
<ins class="adsbygoogle" style="display: block; text-align: center;" data-ad-layout="in-article" data-ad-format="fluid" data-ad-client="ca-pub-7752759112270694" data-ad-slot="4114162227"></ins><br />
<script><br />
     (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});<br />
</script></p>
<p>朝早いとはいえ、年中温かな気候に恵まれるこの土地では、触れる空気に冷たさを感じることは先ずない。東の空から日は既に昇ってきている。しかし今はまだ、多くの町の者たちは起き出してこない。つい先日、世界に平和が訪れたことを彼らは空の青さに知り、青空に現れた竜神の高らかな鳴き声に知らされていた。<br />
サラボナの町も他の地域同様に、魔物の群れが悪の意思を持って襲い掛かろうとしていたが、町の者たちが互いに互いを守ると言う強力な意思のもとに凌いだ。暗雲立ち込めていた空が唐突に晴れ渡ったのを、その時サラボナの町の者たちは夜空に現れた月と星にそうと知った。そしてその朝、竜神は世界を巡り、世界に平和が訪れたのだと高らかな鳴き声と共に告げて行ったのだ。<br />
それから更に一日が経った。人々は昨日は一日中喜びに沸き、終日がお祭り騒ぎだった。魔物との戦いに疲れていた男たちもその疲れなど忘れ、お祭り騒ぎに興じていた。その疲れでようやく、サラボナの町の人々は確かな疲れを身体に感じて、朝日にも気づかずにぐっすりと眠っているのだった。<br />
サラボナの町の奥、町を広く見渡すようにひと際大きな屋敷が一軒、静かな朝を迎えている。屋敷の主はこの町を見守る立場の者として既に起き出し、早く朝食も済ませていた。空を渡る竜神が平和を告げた。しかしその平和をもたらしたであろう彼らがまだ帰っていない。サラボナの領主でもあり、世界を相手に交易を続けるルドマンは今はただ、彼らの帰りを待っていた。<br />
屋敷の番を長らく務める老犬が一声、大きく鳴いた。竜神の平和を告げる声は、世界の人々に広く平和の到来を告げたのだろう。それに対し、ルドマンの屋敷の番を務める老犬リリアンは、ルドマンの待つ者たちの到着を告げた。長く共にいる飼い犬の鳴き声に、飼い主は当然のようにそれを言葉と感じている。リリアンの声は喜んでいる。おかえりなさい！と。ルドマンは間もなく呼びに来るであろうメイドの姿を予期しながら、夫人と互いに互いの身なりを確かめていた。</p>
<p><script async="" src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"></script><br />
<ins class="adsbygoogle" style="display: block; text-align: center;" data-ad-layout="in-article" data-ad-format="fluid" data-ad-client="ca-pub-7752759112270694" data-ad-slot="4114162227"></ins><br />
<script><br />
     (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});<br />
</script></p>
<p>「わっはっはっ。やあ、愉快愉快！　魔界の王を倒し、世界に平和を取り戻してくれるとはな」<br />
相変わらずの豪快な笑いを見せるルドマンの姿に、リュカの身体を知らず包んでいた緊張はいくらか解けた。決して嫌いというわけではないが、リュカはこのルドマンの屋敷に足を踏み入れると条件反射にも等しい緊張感が体を包んでしまうのだった。恐らく人生で最も緊張した瞬間をこの場で味わったからに違いないと、リュカは今ならいくらかそう冷静に思うことができた。<br />
竜神の背に乗っていたリュカたちは、大陸の上空を南下していく中で、海と山の景色を同時に眺めていた。海辺にはサラボナの町、山奥にはどうにか目視できるほどに小さい村が見えた。ビアンカの目が引きつけられるように、山々の景色を眺めているのがリュカには分かった。それも当然だと言うように、リュカは竜神の背に手を当てその意を伝えようとしたが、その瞬間に再び、彼らは光に包まれ、神の強引な力によって竜神の背から忽然と姿を消した。光が止み、竜神の背に残されたプックル、ピエール、アンクルは互いに眩しそうに眼を細めながら目を見合わせた。プックルが不平を言うように一声鳴き、勢い竜神の背から飛び降りかけると、ピエールは慌ててそれを止め、アンクルは冷静にプックルを拾える位置へと移動した。空から魔物が降ってきたなどとなれば、折角平和を享受した人々の中に混乱が起こるのは必至だと、ピエールもアンクルも仲間を宥めすかしていた。ということをリュカたちは知らない。<br />
光に包まれ、あくまでも竜神の善意のもとにその背から降ろされたリュカたちの目の前には、他では見ないような大きな屋敷があった。その前にリュカたちが眺めていた景色は、海と山。今彼らが感じているのは、微かな潮の匂いだった。丘に登れば、海を眺めることもできるこのサラボナの町で、リュカたちは今静かな町の朝の雰囲気を感じていた。<br />
近くで大きな犬の吠え声が聞こえた。柵の中に飼われているリリアンが、屋敷の番犬としての仕事を忘れず、その声で屋敷の主に来客を知らせてくれたのだろう。子供たちが真っ先に柵へと近づいていく。賢い老犬は決して子供たちに嚙みついたりはしない。寧ろその白い尾は喜びを示すように振られ、穏やかな目で子供たちが近づいてくるのを待っている。犬の声を聞いた屋敷のメイドが間もなく屋敷から姿を現し、朝の早い時間にも関わらず四人の来客を手際よく招き入れ、そして今に至っている。<br />
ルドマン家の応接間に通されたリュカとビアンカは、屋敷の主であるルドマンと彼の夫人を前に立ち、挨拶から話を始めている。その状況がリュカたちにあの時を思い出させているのだった。互いに想いを伝え合い、夫婦となることが決まった瞬間の地に足がつかないような高揚感や幸福感以上に、夫婦となることが決まる直前の人生で最も緊張した瞬間の感覚が蘇る。リュカもビアンカも知らず緊張に肩に力が入っていることに気付いていない。以前、十年という月日を経てビアンカを救い出した後にもこのルドマンの屋敷を訪ねたことがあるにも関わらず、まだ彼らは身体にしみ込んでいるあの時の記憶と共に身体を強張らせてしまうのだった。母の横に立つポピーはそっと横目に、母が前に軽く組む両手を落ち着きなく細かく動かしているのを見ていた。<br />
「さすがリュカとその子供たちじゃ。私が見込んだだけのことはあるな。これであの時フローラと結婚してくれていればと思うが、それは言うまい」<br />
「えっ！？」<br />
思わず声を出してしまったポピーは、慌てて口に手を当てて、出てしまった声をなかったことにしようとした。ティミーは話をまともに聞いてもおらず、ただルドマンの屋敷の応接室を興味深そうに眺めている。リュカもビアンカもただ少し困ったように笑うだけだ。<br />
「ともかく今日ほどうれしい日はないぞ！　やあ、愉快愉快！」<br />
そう言ってルドマンが手を差し出すと、リュカはその手を取り固く握手を交わした。以前にはこのサラボナの町が巨大な怪物に滅ぼされようとしていたところを救ったこともあった。リュカにとってこの町は良くも悪くも深い縁がある町であることは間違いのないことだった。<br />
あまりゆっくりはしていられない事情を話した上で、リュカたちは応接間の席に着いた。メイドにより香りの良い茶が運ばれ、喉を潤しながらリュカは魔界という世界のことを話した。ルドマン自身、世界を相手に商売をするような大富豪だ。行ったことも、想像したこともないような魔界という世界の話を聞けば、その目はまるで冒険に憧れる少年のような輝きを見せていた。相応の年を重ね、本来であれば落ち着きを見せるはずのルドマンだが、その芯にあるのは常に先へ先へと進もうとする力だった。彼が商才を持ち、サラボナという一つの町の領主にもなっている事実は、代々の血筋のものもあるのだろうが、彼自身がどれだけ世のため人のための行動を取れるかという信条を抱いているからに違いない。そしてその信条を基にしているためだろうか、彼が人を見る目は鋭く、今も真っすぐにリュカの目を、ビアンカの目を、子供たちの目を順々に見つめている。嘘偽りないという気持ちを示すためにそうするのは、もはやルドマンにとっては普通の行動なのだった。そしてそれに応じる相手の目に、その人の真実を見極めようとすることもまた、彼にとってはごく普通の行動なのだ。<br />
「リュカさんの息子さんが伝説の勇者だったなんて……。本当に驚いてしまいましたわ。きっとリュカさんとビアンカさんとは結ばれる運命でしたのね」<br />
ルドマンの隣に座る夫人が、いかにも貴婦人を表すような穏やかな口調でそう感想を伝える。ルドマンという豪快な男に隠れてしまいがちな夫人だが、彼女もまた肝の座った女性であることはその物腰から感じられる。いくつもの突拍子もない行動を取ってきたであろうルドマンの隣で、彼女はずっと離れることなく支えてきたのだ。<br />
話が魔界での冒険となると、ルドマンは興味深そうに表情豊かにリュカの話に聞き入ったが、夫人が長らく彼らをここに引き留めるわけには行かないと、しかし決して話に水を差さないような柔らかな仕草で夫をたしなめるように言葉を挟んだ。<br />
「ぜひフローラとアンディにも会ってやってくださいまし。あなた方の帰りを待つ方々もいらっしゃるでしょうから、あまり時間を取らせたくはないのですが……」<br />
「おお！　そうだな。既に使いの者がフローラたちに君たちのことを知らせているだろう。じきにこちらへ来るものと思うが……」<br />
「いえ、ぜひこちらから伺わせてください。お二人はあの丘の上の学び舎に……」<br />
「いえ、二人は別荘におります。以前、ビアンカさんにも泊まっていただいたあの別荘ですわ」<br />
夫人がそう言うなり、リュカとビアンカは再び緊張に身体がこわばるのを感じた。ルドマンのこの屋敷から南へ少し歩いたところに、彼の別荘がある。<br />
ビアンカが以前にその別荘を使用したのは、あの花嫁選びの日の前日が初めてだった。緊張と、未来への虚無感に、一睡もできなかったのは誰にも言っていない。今も誰にも言う気はない。このまま年を取り、あの時が遠い過去になったようなおばあさんになった頃にもしかしたら話す気になるかもしれないなどと、今は無責任にそんなことを考えられるようにもなった。あの時はきっと、人生で最も自分のために泣いたのだろうと、当時の若さを今は懐かしむこともできる。<br />
リュカの脳裏にはただただ月夜に美しく浮かび上がるようなビアンカの姿が思い出されていた。別荘の二階の窓から、ビアンカはリュカを見下ろしていた。夜の暗い中、彼女の姿がはっきりと見えるはずもないのに、リュカはその時の彼女の姿に神々しささえ感じていた。今に思い出されるそのような彼女の姿は、リュカが想像する彼女の像をも含んでいた。それが、当時の彼の視点だったのだ。人に惚れるというのは、そのような景色を生み出してしまうものということを、リュカは今も気づいていない。<br />
リュカたちはここで待つのではなく、フローラとアンディの暮らす別荘へ行くことをルドマンに伝えた。待つのは性に合わないのだとビアンカが笑顔で言えば、ルドマンも夫人も笑って彼らを送り出してくれた。ルドマンの屋敷を出て、屋敷の大きな扉が閉められると、リュカもビアンカも同時に深く息をついた。ビアンカなどは暑くもないのにこめかみに滲んだ汗を指で拭っている。<br />
「お父さん、ルドマンさんの別荘ってどこなの？」<br />
大きな屋敷を今一度見上げながら、ティミーがそう言うと、リュカは朝の心地よい日に照らされて緑も輝く木々の向こうを指さした。水の流れる音も耳に涼しい。年中温暖なこのサラボナの町では緑は常に濃く強く豊かで、人々を潤す清かな水も町中に堂々と流れ、町の中心的存在となる大聖堂とも呼べる大きな教会前には人々の憩いの場となる噴水がある。国という形を成してはいないものの、町がこうも豊かに発展し、存続しているのは、豊かな自然の恵みと共に町の人々もまた豊かな心で暮らしているからなのだろう。<br />
「別荘って、なんだかいいよね！　秘密基地みたいな感じがするよ」<br />
ティミーはそれほど遠くはない場所に、木々の葉の隙間に見えるルドマンの別荘を目にし、無邪気にそんな感想を漏らす。その言葉に隣を歩いていたビアンカは思わず吹き出し、いかにも男の子が憧れそうな場所だと、息子の無邪気に救われたような笑顔でティミーの頭を一度撫でた。<br />
「あの……ねえ、お父さん？」<br />
ビアンカの後ろを歩くリュカに近づきながら、ポピーが小さな声で話しかける。彼女はどうやら父リュカだけに話をしたい素振りで声を低めていたが、少し前を歩くビアンカにも当然のようにその声は聞こえていた。<br />
「前から聞きたかったんだけど……」<br />
「うん？」<br />
「お母さんってこの家に来るとすごく緊張するみたいなの。昔この家で何かあったの？」<br />
少々早口にそう聞くポピーは、一気に言ってしまわないと言う意欲が挫けそうだというような雰囲気を醸していた。気になるけど聞いたら悪いかも、だけど聞いてみたい、でも……というような気持で、結局ポピーはリュカにそう聞いたのだった。彼女はこれまでにもこうした問いかけをリュカにしたことがあった。父リュカがもしかしたらフローラと結婚していたかもしれないということは一応知っている。しかし詳しい話などは一切聞いたことがない。ポピーが小さな声でリュカに話しかけるそのほんの少し前を歩くビアンカの両肩が僅かに上がり、彼女に緊張が走るのをリュカは見てしまった。<br />
「う～ん、まあ、色々とね」<br />
「色々って？」<br />
「……どこから話したらいいんだろう」<br />
「ねえ、リュカ」<br />
ぱっと後ろを振り向いたビアンカとその呼びかけの声に、今度はリュカがびくりと両肩を上げた。彼女の顔つきは一つもぎこちないところなどなく、ただ穏やかでにこやかなものだ。ルドマンの屋敷のあの応接室にいる時の緊張感は既に彼女の身体を縛り付けてはいない。彼女は努めて、このサラボナの強い緑の景色に目を向け、その生き生きとした木々も草花も平和に守られたことに心を安らげているようだった。<br />
当時のあの時、彼女はただ悲しみと辛さに涙していただけではない。その後には人生で最も最良の時間をこの町で過ごしたのだ。この町で、ビアンカはこの世の地獄と天国を一度に見たようだったと、胸の中でそう思っている。<br />
「この町で結婚式をしたのが何だかついこの間のことみたい……」<br />
子供たちが生まれて十年が経つ。このサラボナの町で結婚式を挙げたのはそれよりももっと前になる。しかし暖かで明るいこの町の景色があの頃とほとんど変わっていないようにも思えるのは、ビアンカだけではなくリュカも同じだった。町全体に仄かに香る花の匂いもまた、二人に当時のことを思い出させた。あれから十年以上が経っていることが信じられないのは、あの瞬間が彼らにとって初めて自身の想いを誰にはばかることなく、互いに示すことができた時だったからかも知れない。<br />
「石になってた時間が長いからそう感じるのかしら？」<br />
少しふざけたような調子でそういうビアンカに、リュカは困ったように笑う。<br />
「ううん、そうじゃないわよね」<br />
ビアンカは決してリュカを困らせたくてそんなことを言ったのではない。彼女としてはあの呪われた時間さえも今では笑い飛ばしてしまいたいと思っているのだ。それが皆のためでもあり、自分のためでもあるのだと、彼女は近づいてくるルドマンの別荘を眺めながら明るい笑みを浮かべている。<br />
「ねえ、お父さん。お母さんと結婚してよかった？」<br />
母の何かを感じ取っているのだろうかと思うような、ポピーの鋭い言葉がリュカに届く。一つの答え以外は許さないと言わんばかりの雰囲気がありありと漂っているのは違いないが、ポピーがリュカに求めているのはそれ以上のことだ。しかしポピー自身もそのことにはっきりとは気づいていない。ただ己の中にあるもやもやを言葉にしただけのことだ。<br />
「もちろんだよ。僕にはビアンカしかいないよ」<br />
リュカの本心の言葉に、ポピーはみるみる顔を明るくした。どうやら彼女の期待以上の言葉と態度が父から得られたようだった。リュカにはそのつもりもないのが本当のところだが、まるで口説き文句のようなその言葉に、ポピーだけではなくビアンカまで仄かに顔を赤らめている。<br />
「私、お父さんもお母さんも大好きだから、二人が結婚して本当に良かった！」<br />
「ボクも、ボクも！　お父さんとお母さんじゃなきゃ、お父さんとお母さんじゃなかったよ！　……って、あれ？　なんだかよくわからないね、これじゃあ」<br />
「うふふ、言いたいことはよ～く分かるわ、ティミー。二人とも、ありがとうね」<br />
「僕たちだって、二人が僕たちの子供で良かったって思ってるよ。本当にありがとう」<br />
たまたま勇者という運命を授かってしまったティミーに、勇者を兄に持つこととなった妹のポピー。世界に平和が訪れた今は、彼らを強く縛り付けていた勇者という宿命は緩やかに解かれた。しかし彼らがリュカとビアンカの子供たちであることは、彼らがこの世に生を受けた時から、未来永劫変わることはない。ただ純粋に親子の関係に浸ることができるようになった今に、リュカもビアンカも改めて生きる幸せを感じていた。</p>
<p><script async="" src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"></script><br />
<ins class="adsbygoogle" style="display: block; text-align: center;" data-ad-layout="in-article" data-ad-format="fluid" data-ad-client="ca-pub-7752759112270694" data-ad-slot="4114162227"></ins><br />
<script><br />
     (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({});<br />
</script></p>
<p>揺るぎない幸せを感じていたはずの彼らだが、その思いはその時々に必然と多少なりとも揺れ動いてしまうのは仕方のないことだ。それが人間というものなのだろう。<br />
ルドマンの別荘近く、手入れの行き届いた庭に咲く色とりどりの花々に囲まれて立つ、二人の姿があった。まだ朝の早い時間、清々しい空気に辺りは満ちている。一人は杖を手にしながらも、いくらか杖にも頼らずに歩く様子が窺える。その隣、腕に眠る赤ん坊を大事に抱える青髪の夫人が、朝早くにも関わらず別荘に向かって歩いてくる旅人の姿を目にして、ゆっくりと歩みを止めた。<br />
別荘の周りに咲き乱れる色とりどりの花々の景色も相まって、朝の清々しい空気の中に見るアンディとフローラ夫妻の立つ姿はどこか幻想的にも見えた。声を出さずに、アンディはゆっくりと大きくリュカたちに手を振っている。恐らくフローラが胸に抱く赤ん坊が眠っているのだろう。朝の早い時間ということもあり、木々の間にささやかに鳴く鳥の声の静けさに、ティミーも自ずと声を抑えて「こんにちはー」と挨拶をする。<br />
既にルドマンの屋敷から渡されていた使者にリュカたちの訪問を知っていたフローラとアンディは、別荘の中で待っていることもできずに、朝の散歩よろしく庭に出てリュカたちを待っていたのだった。フローラが抱く赤ん坊はつい先ほどまで目を覚ましていたらしいが、母の腕の温かさに安心したように眠ってしまったようだ。その眠っている赤子を覗き見るように顔を前に出すと、ビアンカはいかにも嬉しいというように頬を緩める。<br />
「本当にありがとうございました。リュカさん、ビアンカさん、それにお二人のお子達」<br />
何よりも先にフローラが心からそう御礼の言葉を述べるのは、ここサラボナもまた地上世界の危機に晒されていたからに他ならない。この町も例外ではなく、気性荒くした魔物たちの標的となり、暗黒を思わせる暗雲が空一面を覆う中で魔物に襲い掛かられようとしていた。実際に、町の自警団のみならず、町の男たちは手に武器を取り、町を守らんと魔物との戦いに出ていた。その中には戦いを支援する目的でフローラ自身も加わっていた。戦いの経験などないフローラは間もなく町へと戻らされることとなったが、この町の、この世界の平和を強く願う一人であることには違いなかった。<br />
この町は一度、ただでさえ危機に見舞われたのだ。ルドマンの先祖の者が封じ込めていた怪物ブオーンが復活してしまい、もしあの大きな山のような怪物がサラボナの町に襲い掛かっていれば、今頃はこの美しいサラボナの町は今の姿を留めていなかったかも知れない。宿命はそこにもあったのだろうかと思わせるタイミングで、リュカたちはちょうどその時サラボナの町を訪れ、怪物ブオーンを倒すことに成功した。ルドマンは町の自警団の男たちを集め、怪物に立ち向かおうとしていたが、その必要もなくなった。が、その時の経験がこの度の危機に生きたのは間違いなかった。<br />
町の長を務めるルドマンという人物は、ただ安穏と長という地位に胡坐をかいているような人物ではない。彼の目は常にサラボナという町、引いてはこの世界全体を眺めている。世界のためにもこのサラボナの町を守り切らなくてはならないという意思を強く持ち、その意は町の人々にも波及した。結局は一人一人が守るべきものを意識しなければ、守るものも守れない。<br />
暗雲に覆われ、嘘のように暗い夜の闇が唐突に、光に晒されたのだと皆がそう思った。実際には、暗雲の向こうに隠されていた月が姿を現しただけの光だった。しかしそれでも夜の闇はこれほど明るかっただろうかと思うほどに、月の放つ光は目に眩しいほどだった。夜空には星々も煌めき、美しい夜空に目を向けるだけで、サラボナの町の者たちは皆、自身に一気に温かな血が通うような感覚に陥った。生きていること、これからも生き続けられるということに、引いていく魔物の群れの景色に未来を見出すことができたのだ。<br />
そしてこの朝早くに、サラボナの町の遥か上空を、高らかな声を上げて飛行する竜神に気付いた者たちが町の中にちらほらといた。既に彼らは起き出し、世界に平和が訪れたのは本当のことなのだと確信した喜びと共に、今日これから町中でお祭り騒ぎを始める気を起こしている。元来、この温かな風土に生きるサラボナの町の人々の性格は明るい。お祭りの機会をいつでもどこかに探しているようなもので、世界が平和になったなどとなれば彼らは恐らく全力でお祭り騒ぎを決行するに違いない。つい昨日も、賑やかに騒いでいたにも関わらずだ。<br />
そんな街の様子など感じられないような離れた場所に位置するルドマンの別荘では、ただ朝の静かな空気が漂い、そこでリュカは杖を片手に立つアンディと握手を交わした。フローラは胸に抱く赤ん坊を抱え直して手を差し出そうとするが、それをビアンカが抑えるように彼女の手に自身の手を当てた。<br />
「うふふ、良く眠っているわね」<br />
ごく小さな声で言うビアンカに、フローラもふわりと笑みを見せ、「ええ」と短く返事をする。別荘の中に入って茶でもと勧めるフローラだが、リュカが空を指さすと、それに合わせるように高らかに鳴く竜神の姿に彼女は驚きつつも、納得したように小さく頷いた。<br />
「リュカさんたちを待つ方々がいらっしゃいますものね。早くお帰りにならなくては」<br />
「わざわざこちらにも立ち寄っていただいてありがとうございます」<br />
控えめな声で話してはいたものの、その小さな声にフローラの腕に眠っていた赤ん坊が僅かに身じろぎし、薄く目を開いた。起こされた赤ん坊は泣くものだろうと、リュカは微かに身を引いて身構えたが、赤ん坊はただぼんやりと虚空を見つめた後、間近に見えるフローラに視点が合うとにこにこと笑う。母の温かな体温にすっかり安心しているのだろう。ポピーはその姿を見ながら、「かわいい～」と同じようににこにこと見つめる。<br />
「あなた方はやはりすごい人たちだったんですね」<br />
アンディが杖にやや体重を乗せながら、リュカに明るくそう告げる。アンディが初めてリュカと出会ったのは、ルドマンの屋敷でフローラの花婿となる男を募っていた時のことだった。今から十年以上前になることだが、その時のことをアンディはつい先日のことのように思い出せる。あの時、彼は周りが何も見えていなかった。ただただフローラのために危険極まりない詩の火山へ赴くことにも躊躇をしなかった。あの頃は若かったと振り返ることができるようになった彼だが、例えば今同じ状況に陥ったとしたら恐らくあの時と同じことを繰り返すだろうと、普段は自身の中に眠っている本性を感じることができる。<br />
アンディが今この場に立てているのは、死の火山で瀕死のところを目の前のリュカに助けられたからだ。運よく死の火山へ辿り着いたものの、アンディには洞窟を奥へと進むほどの力も運もなかった。結局、大火傷を負って倒れていたところを、リュカと彼の旅の仲間たちに救われたのだ。その時の後遺症として片足に今も不自由があるが、隣に愛するフローラがいることを思えば、今や杖を巧みに使うことができるようにもなった自身は幸せ者だと本心からそう思える。<br />
「そんなすごい人と一時であれフローラのことで競い合ったなんて……。なんだかますます自分に自信が持てたような気がします」<br />
目の前に立つリュカという男とかつて一人の女性を競い合ったことなど、今や信じられないおとぎ話のようなものだとも思えた。しかし現に世界は勇者を中心とした者たちの働きにより救われ、その勇者の父親となるのがこのリュカという男だった。それを考えても、やはりおとぎ話のようなものだと思える。彼は今も若々しく美しい妻ビアンカを隣に連れ、彼らには凛々しく聡明な二人の子供たちがおり、それもまた現実離れした感覚をアンディにもたらすが、彼らの会話を聞けばそれは至って人間味あふれるものなのだ。<br />
「競い合った　って……えっ、お父さん、フローラさんと結婚してたかも知れないの？　競い合ったってことは、お父さん、フローラさんと結婚したかったってこと？　そうなの？」<br />
アンディの素直な言葉を聞いたポピーが驚いたように目を見開き、後ろを振り返り父リュカを見上げる。その目を見て、まるで幼い頃のビアンカに睨まれているような圧迫感を覚えつつ、リュカは言葉も上手く継げなくなってしまった。<br />
「えっ？　いや、えっと、その……どうかなぁ」<br />
状況によってはそうなってもおかしくはなかった当時のことを思い出し、リュカが素直にそう言うと、今度は異なる方向から圧迫の雰囲気を感じ、リュカはそろそろとそちらへと視線を向ける。案の定、ビアンカがどこか無表情な笑顔でリュカを見つめていた。<br />
「どうかなぁってことは、やっぱりそういうことなのね、リュカ」<br />
「えっ！？　そういうことって、どういうこと？」<br />
「こっちが聞いてるのよ」<br />
「そうなの？　ねえ、そうなの？　お父さん、どういうこと？」<br />
「ええ～……どういうことなのかなぁ、よく分からなくなってきたかも……」<br />
「リュカのこういうところがねぇ……ちょっとねぇ……」<br />
「どういうところが、“こういうところ”なのか教えてよ、ビアンカ」<br />
「そういうことはちゃんと自分で考えた方がいいわ」<br />
「なんだか、そうとかこうとかどうとか、ボク、全然わからないよ！　一体何の話をしてるの？」<br />
「リュカさんがフローラと結婚していたかもしれないってことだよ、ティミーくん」<br />
当時であれば絶対に口にしたくもなかったであろうその可能性を、今ではアンディも余裕を持って口にすることができる。それほどに仲睦まじくアンディとフローラは互いに寄り添いながら、十年以上の年月を夫婦として過ごしてきた。互いの愛情を深く確信しているからこそ、過去の話は全て笑いながら話せるようになったのだ。<br />
「アンディ……あまりリュカさんたちを困らせないであげて」<br />
この場で奇妙な雰囲気になってしまったことを明確に理解しているのは女性たちだけだった。ポピーは誰よりも大好きな父を、今はまともに見る気にはなれずにいる。ビアンカは見せる笑顔にどことなく憂いを見せている。フローラはもしかしたら伴侶となっていたかもしれないリュカとは、あの時から誰よりも親しい異性の友人として己の心の中にその存在を置いているが、その実当時ほのかな恋心を抱いたことを忘れてはいない。人の感情とは一言で言い表せるようなものではなく、本人にもはっきりとすべてを語ることなどできない。それを察して欲しいと無意識に願う三人の女性の心情など他所に、今が幸せなのだから何か困ることでもあるのだろうかと首を傾げるアンディに、当時のことをとやかく言われてもあの時よりももっと前からビアンカだけを見ていた気がするリュカと、自分の母親がフローラだったかも知れないのかぁなどと突拍子もないことを考えるティミーと、彼らは彼らでてんでばらばらのことを考えていた。<br />
各々の思考が交錯する雰囲気を敏感に感じたのか、フローラの腕に抱かれる赤ん坊が泣き出してしまった。最も弱く、最も愛らしい存在が声を上げれば、この場にいる誰もがそこに集中する。最も小さな存在でありながら、最も人々をまとめる力があるのはもしかしたら赤ん坊なのかもしれない。<br />
「まだ眠いのかも知れないわね」<br />
「そうかも知れません。ちょっと寝かしつけてきますね」<br />
そう言ってその場を離れようとするフローラの迷いない後姿に、ビアンカは彼女が堂々とした母親として生きているのだと感じた。たとえ血が繋がっていなくとも、フローラは腕に抱く子を己の子供として温かく抱いているのだ。そんな母の愛情を、ビアンカは己のこととして思い出し、ここからさほど離れていない故郷へと思いを馳せる。<br />
「フローラさん、僕たちそろそろ……」<br />
「あら、そうですか……。でもこうしてまたお会いできて本当に良かったです」<br />
振り返るフローラに、リュカはごく自然と微笑みかけた。互いに愛する伴侶と結ばれ、これからは平和な世界の中でさらなる幸せを築いていけるだろうと、明るい未来が広がると思えば彼らの笑みにも全く翳りは見られない。<br />
「どうかいつまでも仲良くお幸せに」<br />
「フローラさんとアンディさんもお元気で」<br />
「今度はゆっくりお茶でもしましょうね」<br />
「またいつでもお越しください、皆さんで」<br />
言葉を交わす中でも小さく泣き続ける赤ん坊を、ポピーとティミーがあやして泣き止ませようとしていた。弱くなった赤ん坊の泣き声に、その小さな命はただ眠い眠いと、赤ん坊の浅い眠りへと向かおうとしている。その小さく愛らしい姿に、ポピーは先ほどまでのことなどすっかり忘れたように、とろけるような笑みを浮かべている。<br />
彼らの暮らす別荘から離れ、間もなくサラボナの町の中を流れる水路の上を渡ろうとする時に、ビアンカが独り言のように小さな声で言う。<br />
「ねえ、リュカ？」<br />
弱いビアンカの声に、不穏というよりは不安を感じたリュカは、隣を歩く妻の顔を覗き込むように見つめ、「どうしたの？」と声をかける。<br />
「あの日、フローラさんじゃなくて私を選んだこと、後悔してない？」<br />
「……まだそういうことを言うんだ」<br />
リュカは半ば呆れるような調子で応えてしまう。溜息交じりにの反応を見せるリュカに、ビアンカは少しむきになるような態度で言ってしまう。<br />
「だってフローラさん今でもすごく美人だしおしとやかだし……」<br />
そう言うビアンカ自身が、フローラという女性に憧れているのかも知れないと、リュカはふと考える。確かにフローラはまさしく麗しい貴婦人という容姿をしており、その所作一つ一つにも育ちの良さから優雅な様子が見て取れる。いかにも女性が憧れる女性なのだろう。しかし女性の魅力というものは決してそんな一つの価値に凝縮されているわけではないだろう。現にリュカは、幼い頃からお転婆と言われていたビアンカを選んだのだ。一体どうして彼女を選んだのかは、リュカ自身にもはっきりとは説明できない。言葉では言い表せない、言い尽くせない感情がリュカの中に溢れ、それがただビアンカという一人の女性に向かっただけなのだ。<br />
「ん？　なんで黙ってるの？」<br />
「え？」<br />
黙っていたつもりなどなかったリュカだが、ただ考え事をしていただけで言葉を発しなかったら、結局黙っていたこととなってしまった。しかしどの言葉を彼女に発しても、言葉にした瞬間からそれは薄く軽いものになってしまいそうだと、リュカは困惑する。どのような言葉を口にしても、どれも完全には当てはまらないのだ。<br />
故に、リュカは言葉ではなく態度で表すことにした。一度立ち止まり、口づけをする。ティミーとポピーが互いに顔を見合わせて、驚きの表情を露わにしている。ビアンカは一瞬身を固くし、すぐに離れたリュカに「もうっ！」と言って顔を真っ赤にしながらその胸を両手で押しのけた。<br />
「ビアンカがそんなことを言うからだよ」<br />
「……分かったわよ……もう、言わない……」<br />
恥ずかしさに真っ赤になってしまった顔を誰にも見られたくないというように、両手で顔を覆うビアンカを、リュカはにこにこと見つめている。言葉では言い尽くせないというのはこういうことなのだと、リュカは今の彼女もまた好きなのだと、まるで恋人同士のようにその手を取って繋いだ。<br />
サラボナの町の、当時から変わらない明るく華やかな雰囲気に、リュカもビアンカも自ずと当時の記憶がありありと脳裏に蘇る。身も心もあの頃のような初々しさを取り戻したようで、空に広がる青空を見渡せば、式を挙げて教会を出た後の光り輝く青空の景色を思い出す。世界は平和を迎えることができた。これからは人々が無暗に不安に苛まれることなく、存分に人々の幸せが続くのだと、リュカたちは皆、空に舞う竜神の姿を遠く見つめた。リュカたちに呼応するように、竜神が一声鳴けば、再びリュカたちは眩い光に包まれた。</p>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://like-a-wind.com/text46-5/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>0</slash:comments>
		
		
			</item>
	</channel>
</rss>
