妖精たちと別れ、国へ

 

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妖精の世界には昼も夜もなく、空は常に白く塗られている。想像力豊かな妖精たちはその白の世界に様々な想像を巡らせて楽しむことができるのだとベラは言う。人間の世界にいる時に姿を消している彼女らは、人間の世界にある昼の強い太陽を、白い雲間に見える青空を、夜空に浮かぶ月や星々を、この白い空に思い浮かべては歌を口ずさむ。
「私たちの世界にも美しいものはたくさんあるけど、やっぱり人間の世界のあの移り変わる空は本当にキレイよね」
リュカたちにとっては当たり前でもある空の景色は、一秒一秒で違うのだとベラは感慨深げにリュカに伝える。空に浮かぶ雲は一秒たりとも同じ形をしていないし、太陽が現れた時と隠された時では地上の景色はまるで違う。夜明け間近の空には言葉にはできないような感動を胸に感じ、黄昏時の空には胸が詰まるような哀愁が漂う。空にどんよりとした灰色の雲が覆い、水が森の木々や草を濡らす景色を見れば、勝手に口から静かな歌が流れ出す。嵐が吹き荒れる時でも、その暴風に身を任せて妖精らしからぬ素早さで宙を飛び荒ぶのが楽しいらしい。人間が住む世界の全ての景色を、妖精たちは楽しみ慈しみ大事にしているのだと言う。
「だから私たちもね、人間の世界を守りたいの。私たちの妖精の世界だけじゃなくってね」
妖精のベラにそう言われれば、リュカも人間として嬉しく感じる。自分たちの世界だけが平和でも、それは平和ではない。彼女らは妖精界だけではなく、当然のように人間界にも平和が続くようにと願っている。人間の住む世界の美しさを失いたくないと、妖精たちは切に願っているのだ。
「魔物さんのいない世界を平和って言うんじゃないよね? みんなで暮らせるのが平和よね」
ベラの言葉を聞きながら、ポピーが少しの不安を顔に表してそう言った。人間の住む世界には今は当然のように魔物たちも棲んでいる。稀にリュカの仲間たちのように人間と共に歩む魔物もいるが、その凡そは人間と敵対し、悪くは人間の世界を破壊しようとする魔物もいる。リュカたちは常々魔物の仲間たちと行動を共にしているため、魔物への敵対心が薄れている部分もあるが、一方、旅をする者としての魔物の恐怖も常々味わっている。リュカたちは言わば、常に矛盾の中で生きている。
「難しいところですね。我々魔物がいなければ、当然のように人間の世界には平和が保たれるものと思われますが」
「だけどさ、それは初めからそうだったら、って話だよ、ピエール。今は魔物が世界にいるのが当たり前なんだから、魔物がいなければなんて、考えてもどうしようもないよ」
ピエールの当然のような考えを、リュカはまた当然のように否定する。時をいくら遡っても、果たして魔物がいなかった頃にたどり着けるのかどうかも分からない。一体この世界にいつから魔物がいるのか、はたまたいつから人間がいるのかなど、誰にも分からない。もしかしたらこの妖精の村の図書館の本にその起源が載っているのかも知れないが、リュカはそれを調べたいとは思わなかった。知ったところで、今起こっている問題は何も解決しない。己の知識が少しばかり満たされるだけだ。
「とにかくさ、平和がいいんだよ」
ティミーが気軽な調子でそう言う。白い空を見上げ、そこらに飛ぶ蝶を目で追うように視線を流す。妖精の村には絶えず桜の花びらがはらはらと舞っている。春を司るこの村には一定した温かな空気が満ちている。髪や頬を撫でる春風はいつも心地よい。
「みんな平和がいいんだよね。ボク、頑張るからお父さんも一緒に来てね」
振り返るティミーの顔つきは、リュカが彼と再会した数か月前とはまるで違っている。まだ八歳の子供がするような表情ではない。今は背中に背負う天空の剣の輝きを弾き返すほどの、強い運命を背負う、少年の域を飛び出た青年のような顔つきをしていた。
妖精の村の外を歩いていた時、妖精の一族であるコロボックル族の四体に出遭った。彼らもまた世界の平和を目指す冒険の途中だった。勇者を名乗るコロヒーローが使おうとして失敗した雷撃の呪文を目にして、それがかつての勇者が使っていたという事実を耳にして、ティミーはその呪文を覚えたいと言った。好奇心旺盛な彼としては、単に呪文のカッコよさに憧れて使いたいと思う子供心もあっただろう。しかし本心では、勇者の宿命を負った自分が使うべき呪文だと感じているに違いない。
結局、コロヒーローが唱えて失敗したギガデインという強力な雷撃の呪文を習得することは叶わなかった。しかしティミーの中に勇者の呪文を習得する強い気持ちが芽生え、育ち始めたのは確かだった。一度はプックルの呼び出す稲妻を見て、勢いとは言え同じような雷を呼び起こしたティミーだ。そのうち勇者として、勇者の呪文を身に着けてしまうのだろう。
子供の成長が早いとは聞いたことがある。子供が成長していくことは喜ばしいことと思う。しかしそこまで急がなくてもいいじゃないかと、リュカはティミーの成長を留めたいと思ってしまう。
「ティミー」
「うん、何?」
リュカが呼びかければ、ティミーは先ほどの顔つきなど忘れて屈託のない子供の笑みを見せる。子供の顔を見て言葉がすぐに出てこない自分は、果たして父親をやれているのだろうかと、成長しない自分がもどかしい。
「ティミー王子よ、くれぐれも突っ走ることのないようにの」
「勇者一人で、世界を救えると思うなよなー」
言葉に詰まるリュカに代わり、魔物の仲間たちがティミーの一人で走りがちな足を止めてくれる。マーリンもミニモンも、ティミーを大事に思ってくれている。勇者という立場である以前に、子供である彼を守らなければならないと思っているのはリュカにも伝わる。
「大丈夫だよ。ボクが先に行こうとしても、どうせお父さんが止めるもんね」
まだ子供と共に過ごした時間は一年にも満たないが、ティミーは父であるリュカを信頼しきっている。
ティミーがこれまで過ごしてきた時間のほとんどはグランバニアの城の者たちとの時間だ。双子であるポピーと過ごした時間はその中でも最も長いものだろう。それだけに双子の子供たちの間には言葉に交わさずとも理解し合っている部分があり、それは誰の目にも明らかだ。互いに深く分かり合える、唯一無二の関係だ。
兄妹の関係とは別に、父子の関係もまた、唯一無二の関係だ。ティミーにとって父はリュカしかいないし、リュカにとって息子はティミーしかいない。たとえ八年の間、彼が生まれてからずっと離れ離れになっていても、彼は今間違いなくリュカを唯一無二の父だと思い、心の奥底からそれを信じている。ポピーもまた、父であるリュカを心の奥底に、安心の素でもあるかのように置いてくれている。
子供たちの信頼に今更戸惑っている場合ではないのだ。リュカはまだ父親として覚悟し切れていない自分の心を叱咤する。勇者として立派に立とうとする息子を、兄に負けていられないと奮闘する娘を、もっと自分のところへ引き寄せてもいいのだと、リュカは言葉を口にする。
「当たり前だろ。僕は君の父親なんだから」
音に乗せる言葉の威力は強い。言葉にすれば、気持ちが追いつく。思っていることでも、たとえ思ってもいないことでも、言葉にしてしまえばその意味に気持ちがついて行こうとする。子供たちが「お父さん」と常々呼んでくれることに、リュカは大層甘えているのかも知れないと感じた。
「リュカがお父さんだなんて、初めは不思議だなぁって思ってたけど、お父さんって感じがするわ」
ベラがそう言いながら楽し気にリュカの周りを飛び回る。ベラと追いかけっこをするようにミニモンも同じ軌道を描いて飛んで行く。妖精と魔物が遊ぶ光景は、実はこの妖精の村では珍しくない。しかし妖精の村には限られた魔物だけが住むことを許されている。旅の途中でこの妖精の村に立ち寄る魔物など、長い妖精の歴史の中でも数えるほどしかなかったことだろう。
「ザイルには悪いことをしたかなぁ」
リュカたちは今、妖精の村の中を皆で歩いている。桜の花びらがはらはらと落ちる中、ポワンに会うためにと巨大な桜の木へ向かっていた。リュカたちはもうじき、この妖精の村を去る予定だった。
「大丈夫よ。ザイルもね、今は心を入れ替えてこの村にもちょくちょく来ているのよ」
「でも村に住むことはないんだね」
「ケジメってものなのかしらね。私たちはザイルが村に来ても迎え入れられるんだけど、彼自身が『それはちがうだろ?』って言って聞かないのよ」
リュカが子供の頃に、世界は一時、冬に包まれた。その原因の一端を担ってしまったのがドワーフの少年ザイルだった。己の祖父を村から追い出した仇を討つのだと、ポワンを困らせるのだと、雪の女王の甘言に乗せられたザイルは雪の女王の企みに加担してしまったのだ。
ドワーフの少年は二十年経っても、ドワーフの少年のままだった。妖精の村から西に向かって歩く途中で、リュカたちはドワーフの少年ザイルと遭遇したのだ。彼はちょうど妖精の村に向かう途中だと言っていたが、結局村には来ずにそのまま西の洞窟へと戻って行ってしまった。
『……よし! お前の仲間になって一緒に旅してやるよ! 仲間モンスターの一員ってことでさ。いいだろ? なっ、なっ?』
リュカと再会したザイルは、大人になったリュカを見てもすぐに彼だと気づいた。そして旅をしているリュカにすぐさまついて行こうと、そんな好奇心の塊のような言葉をかけてきたのだ。
「僕はさ、あそこで『じゃあ一緒に行こう』って言って、それでザイルが一緒に来ることになったら……なんとなくだけど、ザイルが後悔するんじゃないかって思ったんだ」
ザイルは良くも悪くも、突っ走りがちな性格のドワーフの少年だ。過去の出来事を反省している点においては事実だが、その性格が変わっていないのも事実だ。ザイルがリュカたちと旅をしたいという気持ちに嘘はなかったのかもしれない。しかし彼の中には妖精の世界で過ごす時間もまた大切な時間に違いないとリュカは思った。
妖精たちに迷惑をかけてしまったという反省がザイルにはある。そして妖精たちの住むこの世界の平和を守らなければと思う気持ちもまた、彼にはあるように思えた。それ故に、あの時あの場所でリュカとザイルは再会した。ザイルは一人、妖精の世界を歩き、この世界に不穏がないかどうかを日々確かめているのだろうと、リュカは永遠の少年であるザイルを見てそう感じていた。
「ザイルが本当にリュカと一緒に行きたいと思っていたらきっと、もっと粘ったはずよね。連れて行ってくれ~って」
「そうだね。そう思うよ。でもザイルは、そうしなかったから、そういうことじゃないんだと思うよ」
「リュカは大人になってもやっぱりあまり変わらないわ」
「成長してないってこと?」
「違うわよ。ただ変わらないってだけ。良いことよ、変わらないって」
「そっか。変わらないのもいいことなんだね」
大人になり、子供を持ち、自分は大人として成長しなければならないと感じているリュカとしては、ベラの言葉は新鮮なものに感じられた。無理に変わろうとする必要はないのかも知れない。変化と成長はまた別のものだと、ベラが教えてくれた気がした。
「リュカ、マタ、ココニ、コラレル?」
既にガンドフの大きな一つ目には、妖精の村への別れを予期して涙が浮かんでいる。ポワンのところへ向かっているのは、この村を出て再び人間の世界へ戻るための最後の挨拶をするためだ。
「僕はさ、もうここには来られないかなって思ってたんだけど、そうじゃないのかもね」
リュカは幼い時、プックルと共にこの妖精の村を訪れた。ベラが人間の戦士としてリュカを見つけ、妖精の村へ彼を招き入れた。子供であるリュカには妖精のベラの姿が見えた。そして今回は子供であるティミーとポピーが妖精の姿を目にして、この妖精の村へ再度訪れることができた。
「もしティミーやポピーに子供ができたら、その子たちがまたこうして妖精の世界へ連れて来てくれるかも知れないよね。子供がいる限り、こうして人間と妖精の世界はずっと繋がっていられるよ」
だから大丈夫だと、リュカはガンドフの目に浮かぶ涙をマントの裾で拭ってやる。世界自体がなくなるわけじゃない。この世界が壊されない限りは、また妖精の世界を歩く機会が訪れるかも知れないと、希望を持つ方がよほど楽しい。
「ポワン殿に挨拶をした後、我々はまたあの森を抜けて戻らねばならないのですよね」
「あー……ピエールは嫌なことを思い出させてくれるね」
「しかし、これが現実です」
「私、てっきりポワン様が何かの術で私たちを森の外まで送り出してくれるのかなぁって期待してたんだけど、そういうことはないのね」
「それも試練ということなのじゃろうなぁ」
「ポワンさまって、意外とイジワルなのかも知れないぞー」
ミニモンの言葉にベラが顔をしかめ、「今の言葉、訂正しなさいよ!」と叱りつけている。ミニモンは大きな舌を出してベラを揶揄い、宙を飛び回り、再び二人の追いかけっこが始まる。そこらにはらはらと舞い散る桜の花びらも、魔物と妖精のじゃれ合いを楽しむように彼らの起こす風に巻かれる。
「でもさ、ボクたちあの森を通り抜けて来たんだから、帰りだって平気だよ。あっちではアンクルも待っててくれてるしさ」
新たに仲間になったアンクルホーンのアンクルが、馬車とパトリシアを見て迷いの森の湖の畔でリュカたちを待っているはずだ。仲間になったばかりの魔物だが、誰一人、アンクルの行動を疑わない。アンクルがパトリシアに襲いかかっているような状況を、誰一人思い浮かべない。むしろ仲良く話でもしているのではないかと、アンクルのあの厳つい顔つきの中にある面倒見の良さそうな性格を見抜いている。
「途中までは妖精の誰かに道案内してもらえると助かるんだけどなぁ」
そう言いながらリュカがベラを見ると、彼女はミニモンを追いかけるのを止め、リュカに困ったような顔を向ける。
「リュカ、ごめんね。私はこの村を出るわけには行かないのよ。今はポワン様の傍についていないといけなくて」
「そっか。ううん、いいんだ。ベラにはベラのやらなくちゃいけないことがあるんだもんね」
リュカが穏やかに笑ってそう言うのを、ベラはやはり困ったような顔つきで見つめる。
「人間ってホント、大人になっちゃうのね」
ベラの声に漂う沈む雰囲気に、リュカは人間と妖精の違いをはっきりと感じる。不老不死とまでは行かないが、どこまでも同じ姿形でいられる妖精の生と、あっという間に成長して姿かたちをみるみる変えていく人間の生との違いは、互いに憧れる部分もあり、共には生きられない現実を寂しくも思う。
「頑張ってね、リュカ」
「うん、ありがとう、ベラ。また会えて良かったよ」
「そうね。今度はあなたがおじいちゃんになった時にでも来てくれるかしらね」
そうだといいねと、リュカは言葉にはせずにただベラに頷いて見せた。大きな桜の木の前で、リュカは今一度、妖精の世界にだけ許される巨大な桜の木を見上げる。まるで白い空を覆うような桜の花びらは、ここだけ美しい花色の景色を望むことができた。これほど美しい景色だというのに、桜の色に中にリュカの楽しい思い出はない。この色の中には別れが詰まっている気がする。



「俺もいつかは行ってみたいもんだな、その妖精の世界ってところに」
リュカたちは妖精の世界を抜け、今は迷いの森の中を歩いている。相変わらず森の中はじめじめとした空気に包まれ、森の木々の間から覗く空は今にも雨が降りそうな灰色の雲が立ち込める。うっかりすると地面のぬかるみに足を取られかねないため、プックルもパトリシアも足元にいつも以上の注意を払っている。地面の凹みにある水たまりを、ピエールも巧みに避けて進む。
「プックルも行けるくらいだから、アンクルもきっと受け入れてもらえるかな」
「大丈夫よ。魔物だからとか、妖精だからとか、人間だからとか、そういうことは関係ないようだもの」
「でもさ、今度は妖精のお城に行くんだよね。そこも妖精の村みたいに不思議な世界かも知れないよ」
「おっ、じゃあそこには俺も連れて行ってくれよ」
「じゃがまだそれがどこにあるかも分からんのじゃ。これからグランバニアに戻って、色々と調べてみないことにはのう」
「妖精の図書館の本も色々と見てみたけど、結局妖精のお城がどこにあるかなんてわからなかったものね」
妖精の村に滞在していた際、リュカたちが村の外を歩いている一方で、マーリンとポピーは村の図書館で妖精たちの所蔵する世にも珍しい本を多く読み込んでいた。妖精たちが本として残している記録は主に自然に関するもので、木々の生命やその意思、そよぐ風の心、水にこもる感情、土に眠る記憶など、人間や魔物の感覚では及ばない自然の持つ心についての記述が多かった。その大半が詩となり、大きな葉で出来ている本を開けば、本が自ら歌い出すこともあった。耳に心地よい本の歌に、マーリンもポピーも何度も目を擦っていたという。
「もしかしたらあの本の歌に何か糸口があったのかも知れんが、ワシらには分からんかった。なんせ良い声で歌を響かせてくれるからのう、眠くて眠くて……まるで呪文をかけられているかのようじゃった」
「でも呪文で眠らされるのとは違って、あの歌で眠れればとっても良い夢を見られそうだなぁって思ったわ」
妖精の世界にはどこまでも夢のような物事が詰まっているのだろうと、リュカは二人の話を聞きながら感じていた。妖精たち自身が辛く厳しい現実の世界ではなく、夢のような明るく喜びのある世界にありたいと思うが故に、夢を詰めた歌を歌うのだろう。
「あっ、ありがとう。ここまでで大丈夫だよ。キミも気をつけて帰ってね」
そう言いながら手を振るティミーの先には、何もない。リュカや魔物の仲間たちには見えない誰かに、ティミーとポピーが手を振って挨拶をしている。彼らが手を振る方向の風が揺れるのを感じた。森の木々の葉がこすれ合い、青い匂いがひと時強まる。しかしそれもすぐに周りの湿った空気の中に溶け込み、消えてしまった。
「ベラよりも小さい妖精さんだったわ」
「ボクたちみたいに、まだ子供だったのかもね」
妖精の術がかかる迷いの森を抜けるところまでは案内をと、ベラが妖精の一人にその役目を託していた。途中、何度か森に棲みつく魔物との戦闘にもなったが、姿の見えない妖精に危害が及ぶ心配はなかった。ティミーやポピーに妖精の位置を確認すれば、魔物との戦闘が起こっている時は木の上の方で身を潜め、身体を震わせながら様子を見守っていたという。
「ちょっと怖い思いをさせて、悪いことをしたね」
「でも、大丈夫だよ。あの子、きっとそんなに弱くないと思うよ」
「そうよ。ベラさんに道案内を頼まれた時、喜んでたもの。きっと外の世界に少し出られて、楽しいって思っていたんじゃないかな」
「妖精は姿を消せるんだから、怖がる必要もないのになー」
そう言いながらミニモンは、双子が見送った妖精の後を辿るように宙を飛ぶ。しかしやはり姿の見えない妖精を追いかけることもできず、どこか寂し気にリュカのところへ戻ってくる。
「でもよ、いくら姿が見えないからって、魔物の呪文を浴びたら怪我するんだろ? そりゃあどっかに逃げてくれてた方がいいよなぁ」
「アンクルの呪文は激しいもんね。火に風に氷にって、ボクたちも必死になって避けてるよ」
「悪いな。なるべく呪文は使いたくないんだけどよ。ついつい、な」
「あの小鬼の魔物が出て来た時は仕方がないよ。呪文で一気に行かないと、こっちが危ないからね」
リュカたちが遭遇する魔物の種類は、この森を抜けて妖精の村に向かう時と変わらない。その中でも最も厄介な相手が、四体の小鬼が合体した魔物オーガヘッドだった。かの魔物は大抵の場合、集団で現れ、いかにも楽し気にリュカたちに挑みかかってくる。ただ直接的な攻撃だけならばまだ躱すこともできるが、魔物が使用する呪文が非常に厄介なのだ。
リュカたちの守備力を下げたと思えば、魔物ら自身の守備力を上げてしまう。こちらの直接攻撃が効きにくいからと呪文を使おうとすれば、呪文封じの呪文でリュカたちの呪文を封じ込めようとする。幻惑の呪文を唱えてリュカたちの視界を奪ってくる。ようやく倒せそうだと魔物らを追い込めば、鼬の最後っ屁とばかりに激しく身体を弾けさせて強烈な石礫を食らわせてくる。リュカが皆に戦いの指示を出せば、すぐさま声を真似て全く逆の指示を直後に出してしまう。全てにおいて、厄介極まりない魔物なのだ。
「アノマモノ、モトカラ、マモノ?」
ガンドフの言葉の意味を、リュカも同じように考えていた。あのオーガヘッドという魔物はもしかしたら元は妖精だったのではないかとリュカは感じていた。今の姿を見ればとても妖精には見えない小鬼の集まりだが、補助呪文の扱いに長けており、それらをまるで遊ぶように使い、リュカたちが攻撃すればきゃあきゃあと騒いで四体がバラバラになって逃げ惑う姿など、どこか愛らしささえ漂うのだ。油断をすればすぐにリュカたちが追い込まれる状況でも、オーガヘッドの戦う姿にはほんのりと妖精らしさが残っているような気がした。
「しかし魔物になり果ててしまったのでしょうね。これも魔物の力が強まっているということなのでしょうか」
「がうがうっ」
「そうかも知れないし、そういうことじゃないかも知れないね。今の僕たちにはその辺りのことはよく分からないや」
「何せ妖精の歴史は遥か古から続いておるからのう」
「とにかくよ、俺たちゃ前に進めばいいってだけよ。妖精の女王だとか言ってたよな。つぎはそいつに会えばいいんだろ?」
アンクルがすっかり仲良くなったパトリシアの隣に並びながら低い声でそう言う。アンクルがパトリシアのたてがみを力強く撫でると、パトリシアも大きな尻尾をぶるんと振って、機嫌良さそうにしている。
「ま、そういうことだね。僕たちができることは、地道に地道に、一歩一歩。そうしていればいずれは何か、今は見えないことが見えてくるよ」
そう信じないことには前に進めないのだということは、リュカは口にしない。皆には希望の言葉だけを伝えればいい。後ろ向きの言葉を口にすることは、仲間たちを率いて旅をする者としては控えなければならない。
「お父さん、そう言えばもうすぐ年が明けるんじゃないかな」
ティミーが季節感などまるでない森の上の灰色の空を眺めながらそんなことを言う。妖精の世界に続くこの森には常に、雨の気配がまとわりついている。
「そうしたらグランバニアでは新年祭があるはずよ。もうオジロンさんが準備を進めているじゃないかしら」
「新年祭?」
「お父さんは参加したことがないんだね。国中でお祭りをするんだよ。とっても楽しいんだ、みんなで食べて騒いで踊ってさ」
「お兄ちゃんはいつも食べることに専念してる気がするけどね」
「そんなことないよ! 今回はお父さんが一緒だから、何か特別なことをするんじゃないかな」
ティミーが期待の眼差しで見上げてくると、ポピーも揃って同じ顔をリュカに向ける。二人の顔を見ながら、リュカはぼんやりと「やっぱり二人は双子なんだなぁ」などと、一瞬の現実逃避に走る。
「特別なこと……何だろう、僕はあんまり目立つようなことはしたくないんだけどなぁ」
「一国の王様ともあろうお方が何を仰っているのですか」
「リュカ王は根っからの旅人じゃからのう。国王歴が浅いから仕方がないが、少しずつでも国王としての立場にも慣れておかんと、後で苦労するぞい」
「大丈夫だよ。だってオジロンさんが上手いことやってくれてるから、もうほとんど任せておけば……」
「がうがう」
プックルの言葉にリュカは続けようとしていた言葉を飲み込む。王家の証を手に入れ、まだ身籠っていた妻ビアンカにも、立派な国王になることを誓ったのではないのかとプックルはその声の中に表していた。
もし今、ビアンカが隣にいれば、リュカは彼女と子供たちと国の者たちと、グランバニアの新年祭で国王としての責務を疑うことなく果たしていたのかも知れない。たとえ母マーサを救う旅が続いていたとしても、リュカは彼女への見栄のためにもグランバニアの国王を演じることに躊躇はなかっただろう。
グランバニアの本来あるべき姿、それはリュカが国王として立ち、隣に妻ビアンカが彼を支え導き、彼らの双子の子供たちが未来に繋げる希望を国中に広く配り届ける。そんな未来をリュカもかつては、夢見たことがあったことを思い出す。
「……うん、そうだね。僕はやっぱりまだ国王としての自覚が足りないんだなぁ」
「それは、仕方がないよ。だってお父さんはあまりグランバニアにいられないんだもん」
「そうよ。大丈夫。お父さんが新年祭にいてくれるってだけで、きっと国の皆さんも喜んでくれるわ」
子供たちの心からの優しさが胸に染みる。一体この子たちは誰に似てこんなに優しい言葉をかけてくれるのかと、リュカは今はまだ隣にいない妻を想う。
「リュカ王―、そろそろおかしな森を抜けられそうだぞー。ルーラで帰るんだろー?」
妖精の術がかけられた迷いの森は、サラボナ東に広がる広大な森林地帯のほんの一部だ。勝手に森の景色を変えてしまうような奇妙な術のかかった森を抜ければ、そこからは移動呪文が有効となる。妖精の村を出て迷いの森を歩いて帰る中でも、森に棲む魔物たちとの遭遇があり、戦闘があった。まだいくらか余力を残している仲間たちだが、ここで油断をしては一気に魔力も体力も削がれる心配がある。
「よし、早く森を抜けてすぐにグランバニアに戻ろう。パトリシア、ちょっと急ぐよ」
リュカがそう呼びかけると、パトリシアは分かってると言わんばかりにブルルルッと鼻を鳴らした。もしかしたらパトリシアにも迷いの森を抜ける景色が見えているのかも知れない。
これから妖精の女王がいる場所を突き止めなくてはならない。グランバニアではまた図書室にこもり、調べ物に費やす時間が増えるだろう。しかしそれ以上にリュカは、子供たちから聞かされた国の新年祭の内容が気になり始めていた。国王としての務めを果たさなければならないのは覚悟を決めるが、やはり全力でオジロンやサンチョの助けを求めようと一人心の中でこっそりと呟いていた。



「無事に戻ってきてくれて何よりだ。しかし今回の旅は長かったな……少々肝を冷やしたぞ」
「すみません、オジロンさん。なかなかたどり着けない場所だったもので」
「いや、皆が一人たりとも欠けずに無事であるならそれで良いのだ。疲れておるだろう、休んでから報告でも良いのだぞ」
「いえ、大丈夫です。旅の報告を先にさせてください」
グランバニアに戻ったリュカは早々に玉座の間に赴き、オジロンと対面していた。玉座の間には他にサンチョとマーリンがおり、子供たちや他の仲間たちは各々の場所で身体を休めている。
リュカは妖精の村を目指す旅に手古摺ったこと、妖精の村で得た情報などをかいつまんでオジロンに話した。傍ではサンチョも難しい顔をして耳を傾けている。悠に二月以上も国を空け、妖精の村を目指す森林探索を続けていたとリュカが話せば、オジロンもサンチョも改めてリュカたちの無事を喜んだ。新しく仲間になったアンクルを躊躇なく城に入れたことには二人揃って顔をしかめ、ちょうど魔物の仲間たちが過ごす城の大広間へ連れて行く途中でドリスに会い、彼女が嬉々としてアンクルの力がどれほどか確かめたいと一緒に広間へ行ったことを伝えれば、オジロンは「全く、あの娘は……」と言葉にして眉間に皺を寄せながら頭を横に振った。
「アンクルは気の良い奴ですよ。心配することはないと思います」
「パトリシアを任せて森の中で留守を任せた時も、しっかりとパトリシアを守ってくれていたようじゃ。頼れる仲間が増えたと、それだけのことじゃろう」
「まあ、そこはリュカ王を信じるがなぁ。我が娘の行動がいつまで経っても落ち着かん方が余程問題だ」
「オジロン様、今度の新年祭でもドリス様が主催する武闘大会を開かれるおつもりですか?」
サンチョの言葉にリュカは口をあんぐりと開けてその言葉の意味を考えた。
「いつまで続けるつもりなのかは知らんが、あの娘はやると言うだろうな」
「もうかれこれ五年は続いていますね。武闘大会に向けて兵士たちも日々の鍛錬に身が入るという事実もあるので、悪いことばかりではないのですがね」
「主催者が一国の姫だぞ? 他国に知れたらとんだ笑い者だ。ただのお転婆では済まされないだろう、もう年も年なのだから……」
リュカにとってはいつまで経っても年下の様に思える従妹のドリスだが、実際には彼女は既に二十歳を越えている。一国の姫君としてはそれなりの身分の者と結婚して、淑女として落ち着いていても決しておかしくはない年頃なのだ。
「ドリス姫はのう、毎年武闘大会で優勝した者なら結婚してもいいと言っておるのじゃが、姫自身が優勝してしまうから、毎年その約束は流れてしまうのじゃよ」
「……ドリスって、そんなに強いの?」
「あれほど鍛錬に熱心な姫君もおらんじゃろう。呪文は一切使えないが、一流の武闘家と呼べるほどの強さはあるぞい」
彼女を負かすものは兵士長クラスの者と魔物の仲間たちくらいだという。兵士長は既婚者であるためドリスとの結婚は適わず、魔物の仲間と結婚するわけにもいかない。彼女の条件を飲めるものは、独身である男性に限られ、その中には彼女を負かす者がいないのだという。
他国から強者を呼ぶという手段もあるが、わざわざ一国の新年祭にあの険しい山々を越えてグランバニアを訪れる旅人もいない。そもそも新年祭は国の人々が国の中で楽しみ祝うものだ。新年祭の本来の目的からズレるのはドリスも嫌っており、あくまでも国内から強者を見つけ出そうとしているようだった。
「結婚してる人は優勝してもドリスと結婚できないで、その優勝した人には他に何か良いことがあるのかな」
「もちろん国から賞金を出しますよ。だからそれを目指すのにも、武闘大会に出ようとする者たちは本気で鍛錬を積んでいます」
「それって僕は参加できる?」
リュカがふとそう問いかけると、オジロンもサンチョもマーリンも揃って怪訝な顔つきをする。
「僕はたとえ優勝しても賞金なんかいらないからさ、その代わりドリスに一つ、言うことを聞いてもらうっていう条件を出すのはどうかな」
リュカの提案にオジロンの表情が明るくなる。
「それは良い考えじゃ! リュカ王ならばドリスも勝負に勝つのは難しいだろう」
「難しい……僕、負けるかも知れないんだね。嫌だなぁ、ドリスに負けるの」
「武闘大会ですからね。剣などの武器はご法度です。それに呪文は一切使ってはいけません。回復呪文もです」
「ああ、なるほど、そういうことなんだ。ドリスに有利なわけだ」
「そうなのじゃよ、そもそもドリス姫が主催しておる会だから、姫に有利な条件がついておるんじゃ」
「いいよ、それでも。僕も出てみるよ。あと一週間くらいで年が明けるから、それほど身体も鈍らないで参加できそうだし。ああ、でも少し魔物の仲間たちと体術の訓練をしておいた方が良いかな」
回復呪文が使えないとなると、相手から一撃を受けた途端に形勢は不利になる。攻撃を躱す訓練が必要になると、リュカは魔物の仲間たちに協力してもらおうと考えた。
「国の新年祭にリュカ王が参加するのは初めてのことだから、他にも特別な催し物をしても良いだろうな」
「とりあえず坊っちゃ……いや、リュカ王には国王としてのお言葉を頂戴することになりますので、よくよく内容をお考え下さいませ」
「……あ~、やっぱりそういうの、あるよね。僕の言葉っていうのも大事なのかも知れないけど、今までのオジロンさんの言葉も教えてくださいね。お手本がないとよく分からないです」
「今度の新年祭はいつも以上に楽しみじゃのう。その中でもやはり盛り上がるのは武闘大会じゃから、リュカ王よ、きっちり準備をしておくのが良いぞ」
国の新年祭は一日で終わるものでもないようで、数日間をかけて様々な催し物が行われるらしい。国民も一年の始まりのこの祭を非常に楽しみにしているため、今も城下町では準備に余念がないと言う。リュカも今は旅の続きをひと時頭の隅に追いやり、一国の王としての責務を果たさなければと新年祭という行事に向き合うことに意識を傾けた。少なくともグランバニアの国にはひと月は留まることになるだろうと予測をつけ、その間の空いた時間には妖精の女王の居所を突き止めなくてはと、妖精のホルンを道具袋の外側から手で触り、意思を改めて固める。
報告を終え、リュカは上階の自室に向かう。その途中、階段を上ったところの近くにある大窓から見渡せる景色に目をやる。窓に近づき、外を望めば、辺りは一面青々とした森林が広がっている。その景色だけを見れば、まるでつい先ほどまで探索していた妖精の森の景色を見ているのかと思えた。
「妖精の村は広い森に隠されていたけど、妖精の女王は湖の近くに……グランバニアの北にあるのは湖? もしかして妖精の女王はグランバニアの近くにいるのかな」
山々に囲まれた深き森、その森の湖の真ん中でホルンを吹く。妖精の女王に会うにはそうすることが必要だと、妖精の村のルナが教えてくれた。グランバニアも険しい山が南に聳え、広い森林に囲まれ、北には広い湖がある地形と考えられる。北の湖近くで妖精のホルンを吹いてみるのを試しても良いかも知れないと、リュカは窓の外遥か遠くに霞む水面の景色を目を細めて見つめる。
ふと目の前が眩み、リュカは窓枠近くに手をついて身体を支える。二月以上もの旅から戻ったばかりで、ようやく身も心も安心できる家に帰れたことを実感し、足の力が抜けてしまいそうだった。壁に肩で寄りかかり、深く息をつく。白くぼやけていた視界が戻り、城の床に焦点が合うようになる。
グランバニアでは新年祭の準備で城下町が賑わっているという。国の力を強くするためにも、民たちの力を大事にしなくてはならないのは当然のことだ。国王が国民に支えられるのと同時に、国王は国民を支えて行かねばならない。そこに私的な感情は、差し挟むべきではないことは分かっている。
リュカは窓の外に広がる森の景色を、焦点が合わないままぼんやりと眺める。
「お祭りなんてさ、一番、参加したいだろうにね」
楽しいことを一緒に楽しみたいのに、やはり彼女はいないのだなと、リュカはぼんやりした森の深緑の景色に彼女の服を思い出す。少しでもぼんやりする時間があれば、すぐに感傷的になってしまう自分をどうにかしたかった。グランバニアで身体を休める時間は大事だと思う。しかしここにいるとどうしても妻と過ごした、人生の中でも最も幸せな時間を思い出す。双子を身籠り、彼女はいつでも幸せそうに笑っていた。この国の王妃になることも、それがどれほどのものかと、夫である自分といられればそれでいいのだと、笑い飛ばしていた。いつでも記憶の中の彼女は笑っていて、それがかえって悲しみを誘った。傍にあるはずの笑顔が傍にないことに、過去の幸せに浸りきることができない。
「お父さーん!」
ティミーの元気な声が聞こえた。リュカはそれだけで表情を緩めることができる。子供の急な呼びかけが、本当は非常にありがたい。現実の中にも確かな救いがあるのだと教えてくれる。
「お話終わった?」
「うん、とりあえずね。簡単な報告だけだったから」
「じゃあ部屋で一緒に休もうよ。お父さんが一番疲れてるでしょ」
長旅に疲れたような顔をしながらそんなことを言うティミーに、リュカは困惑した笑みを向ける。勇者として生まれ、勇者として生きようとしているまだ八歳の彼の方が余程体力的にも精神的にも疲労を溜めているだろうに、勇者としてあらねばならない思いを常に抱えているティミーはそんな疲労をどこかへ吹き飛ばしてしまうほどの元気を持っている。勇者の運命を重荷に感じている様子は微塵もない。彼は自分が勇者として生まれたことに、間違いのない誇りを持っている。
「そりゃあさ、疲れるよ~。今回の旅は長かったもんね。ポピーは部屋で休んでるのかな」
子供が素直に疲れを訴えない代わりに、リュカは素直に疲れたと言葉にする。そうすることでティミーも溜まる疲労を表に出すことができれば良いと思う。
「休んでるって言うか、難しい本を難しい顔して読んでるから、ボクつまんないなぁって部屋の外でお父さんを待ってたんだ」
そう言うティミーの口の端には何かの食べかすがついている。同じ階にある厨房に入り、こっそりつまみ食いをしてきたのだろう。一つ所に留まって人を待つようなティミーではない。腹を空かした彼は厨房で保管してある菓子の一つでもひょいと口に放り込んできたに違いない。
「お腹も減った気がするけど、その前にとにかく寝ようかな。やることやったら、もう眠いや」
リュカがそう言いながらティミーの口の端についた食べかすを取れば、ティミーは年相応の照れ笑いを見せる。子供の子供らしい表情を見て、リュカはようやく柔らかく笑えた。
「ポピーも休ませないとね。あの子はちょっと真面目過ぎる。根を詰めても良いことないよって教えてあげないと」
「そうだよねー。ポピーがいっつも良い子ちゃんでいるとさぁ、ボク、なんかちょっとツライよ」
ポピーが真面目でいることでティミーに小言が回ってくるのだと、彼は不満そうにそう話す。双子で生まれた宿命もあるのだなぁと、リュカは常に隣で生きてきた二人のことを思い、思わずまた笑った。ティミーもポピーも、生まれながらの宿命を負っているのはもう否定のできない現実だが、その宿命の中でも笑って過ごせるようにしてやらねばと、リュカはティミーの祖父に似た癖の強い髪を優しく撫でた。

Comment

  1. ピピン より:

    bibiさん

    ザイルの存在忘れてました…(笑)
    この作品では仲間にしないのですね。

    ここに来て武闘大会とは想像もしてなかったです…正直凄くワクワクします!
    もしかしてここであの人が登場するのかな?

    • bibi より:

      ピピン 様

      コメントをありがとうございます。
      ザイルは今回、仲間にしませんでした。もし仲間にしていたら賑やかメンバーが増えていたかな。
      これから数話、当方オリジナルの話が続くと思います。ゲームとは無関係の、グランバニアでのひと時を書いていきたいと思っています。
      あの人の登場? ふふふ・・・どうでしょう。

  2. ケアル より:

    bibi様

    ゲームではルーラで妖精の村に行けるけど…やっぱりbibiワールドでは行けないんでしょうか?

    新年祭ですか…bibiワールド全開ストーリー続きそうですね。まさかドリスが主催の武闘会があるなんて…(笑み)
    たしかにリュカにとって武闘家の知識と技量は無いとは言わないけど…無いですもんね。魔物の仲間で武器を使わないガンドフあたりから教えてもらいましょうか。

    ポピーのIQって8歳にしてもしかしたら東大クラスかもしれないですよね(笑み)
    8歳にして、どんだけの呪文書と参考書が読めるなんて…すごすぎですよね(爆笑)

    • bibi より:

      ケアル 様

      コメントをありがとうございます。
      お察しの通り、私の個人的設定ではルーラで妖精の村へは行けないことにしています。なるべくゲームに沿った設定で話も書きたいんですが、やはりゲームそのものの世界を持ち込むと、もっと話もギャグ寄りにならざるを得ないので、ちょっとこちらの都合でルーラで飛べないことにしました。悪しからずです・・・。
      新年祭は勝手に入れさせてもらったお話なので、退屈に思う方もいらっしゃるだろうなぁと思いつつも、ちょっと数話にかけて書かせてもらおうかと。グランバニアでの生活をあまり書いていないので、一応彼も国の王様だし、自国での生活の一片をここでお見せできればと思っています。
      ポピーは何と言っても勇者と双子の女の子なので、普通ではありません。勇者ではないけど、勇者を隣で支えるほどの力を持つ、とてもかっこいい女の子です。ポピーの活躍もこれから書いて行きたいですね。彼女もこれからバンバン呪文を覚えるので、書くのが楽しみです。

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