2017/12/03

記憶の風景

 

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月と星がそろそろ一日の眠りに就く頃、二人はオラクルベリーの北西に位置する店に足を運んでいた。
夜にしか営業しないオラクル屋はまだ店を開けており、二人の若者が店に姿を現すと、店の主人は珍妙な道具を磨き布で拭く手を止めた。そして何も言わずに店の中から出てくると、出入り口の扉を開けて出て行ってしまう。二人も訳知り顔で後についていく。
店の裏側に回ると、もう目覚めていた一頭の白馬が小さくいななくのを聞いた。厩舎の柵から長い首を伸ばし、人の現れる気配に慎重に耳を立てて聞きとっているようだ。堂々とした巨馬だが、その目はどこか好奇心に満ちているようにも見えた。これからの冒険を楽しみにしている、そんな雰囲気だった。
「ちゃんと世話はしといたぞ。これだけ大きな馬なのに、大して飼葉もいらんようだ。山積みにしてあった飼葉をほとんど食べずに過ごしていた」
「そりゃあ助かるな。大食いでグルメな馬だったらどうしようかと思ったぜ」
「僕たちじゃ美味しい草なんて良く分からないしね」
リュカとヘンリーが柵の近くまで行くと、白馬は二人に催促するように前足で地を鳴らした。その気にさえなれば、巨馬は柵を破って外に出ることも容易くできただろう。しかしそんな暴挙には出ずに、白馬は大人しく二人がまた来るのを待っていた。リュカとヘンリー、オラクル屋の主人がそれぞれ、この特別な白馬との出会いは何かの巡り合わせだと思っているのと同時に、白馬も似たような思いを抱いているのかもしれない。
「大事にしてくれよ。こんな馬、そうそう手に入らないからな」
オラクル屋の主人が柵を外し、白馬の手綱を引いて、白馬を厩舎の外に出してやった。大きな馬だとは思っていたが、厩舎の外に出てきた白馬を見て、リュカもヘンリーも思わず息を呑んだ。馬の背に乗るには、文字通り飛び乗る以外の方法はない。
オラクル屋もそれを承知で、既に特殊な鐙を用意してくれていた。二段構えの鐙で、一つは馬に登る時用、一つは騎乗時に足を乗せておくものだ。オラクル屋自ら白馬に騎乗しようとした時、恐らく飛び乗ることができなかったのだろう。急きょ作られた二段構えの鐙の下段のものは、鉄製ではなく、動物の皮を輪にしている簡単なものだった。馬の背に乗せる鞍も通常の馬のサイズでは間に合わないため、この白馬特製のものが乗せられている。
「鞍はどうにか仕入れられたんだ。だが鐙はどうしようもなかった。これほど背の高い馬は世界中探してもいないだろうから、どうしてもこの馬に合う鐙が見つからなかった」
「いいんです、僕は裸馬に乗るつもりでいましたから」
「お前なら乗れそうだけどな」
馬車の荷台を用意してあると、オラクル屋は二人を町の外れまで案内した。町の裏手には広い草原が広がっており、そのまま町の外に出られる造りになっている。この場所で町の子供が遊んでいるのだろうと、リュカは夜の月明かりに照らされる青い草原を見ながらそう思った。
木々の陰に置かれていた荷台を白馬に取りつけ、折りたたまれていた幌を広げると、いっぱしの馬車が出来上がった。白馬は自らも後ろの荷台を首を回して見るなり、得意げに鼻を鳴らした。
「こんなものまでつけてもらって、本当にあんな安値でいいのかよ」
ヘンリーが疑わしげにオラクル屋を見るが、彼は完成した馬車を満足そうに眺めながら首を横に振る。
「いいんだ。こんな立派な馬がいたら、誰だって最高級の世話や馬具を準備したくなるってもんだ。……ちょっと最高級のものとはいかなかったがね」
「十分です。僕たちじゃこんなこと思いつきもしなかった。ありがとうございます」
「本当はもうちっと女の子らしい馬具を準備できれば良かったんだけど、これだけ大きいと選んでもいられなくてね」
「女の子? こいつ、メスなのか?」
ヘンリーが驚いたようにそう言うと、白馬は意味ありげな表情でヘンリーをじっと見つめた。
「そうだよ。ちゃんと大事にしてくれよ。じゃないと、愛想尽かされてどっか行っちまうかも知れないぞ」
「はい、ちゃんと世話するようにします。魔物がいる中、いきなり逃げられたんじゃ、心配になるからね」
リュカが白馬に近づき、その長い首を撫でてやると、白馬は気持ちよさそうにゆっくりと目を閉じた。
「これから長旅になるだろうけど、よろしくね」
リュカが話しかけると、白馬はその言葉に応じるようにリュカに顔を寄せた。言葉を返すことはないが、白馬のその行動が『こちらこそ、よろしく』と上品に言っているような雰囲気を出していた。
オラクル屋の主人に礼を言い、白馬の手綱を引いて馬車を進ませ始める。歩きながら、白馬は一度オラクル屋に長い首を折りたたむように頭を下げた。オラクル屋の主人は帽子を手に取り、それを小さく振りながら、白馬と二人の若者の旅路が無事に行くよう祈った。
馬車の姿が見えなくなると、オラクル屋は星の残る空を仰いだ。東の空はすでに白み始めている。月と星は間もなく眠りに就くだろう。それと共に眠ろうと、オラクル屋の主人は欠伸と共に目の端に涙を浮かべた。



馬車の荷台でヘンリーが一枚の紙切れをじっくり見ていた。リュカが簡単に作った北の村までの地図だ。オラクルベリーで会った旅の戦士に道を教えてもらったリュカが、その記憶で宿においてあった紙に書き起こしたものだった。幌の中から顔を出し、周りの風景とリュカの地図を見比べ、進む方角が合っているのかを確認する。
既に陽は空の中点を越え、一日は折り返し地点を過ぎた。進む左手にはずっと森の景色が続き、右手からは潮の香りが流れてくる。北の陸地に行くには、十年ほど前にできたという橋を目指さなければならない。橋がかかる川を見つけようと、ヘンリーは左手に広がる森の中を注意深く見渡していた。
太陽を隠さない程度の薄雲が空にたなびく。このところ、陽の光は徐々に強まってきている。季節は夏に向かっていた。
白馬の横で歩きながら手綱を握るリュカは、額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。隣を悠々と歩く白馬は何度となく首を下に曲げて、リュカを鞍に乗せるような仕草をしていたが、リュカは笑いながらその白く長い首を撫でるだけだった。
「おい、乗せてくれるって言ってんだから、素直に乗っておけばいいだろ」
もう三度目になる白馬の行動に、ヘンリーが白馬の味方になるように言う。
「せっかくオラクル屋のおやじが鞍まで用意してくれたってのに、使ってやらないともったいない」
「僕は歩いて行きたいんだ。ヘンリーが乗っていったらいいよ」
「お前、それって嫌味だろ。こいつ、俺が鞍に乗ろうとしても、ちっとも首を下にしないんだぜ。お前も見ただろ」
「ヘンリーが怖がってるからだよ。だからこの子も怖がっちゃうんじゃないかな」
「こ、怖いわけあるかよ」
リュカの言葉に思わず身を引くヘンリーを見て、リュカは脳裏に幼い頃の記憶が蘇るのを感じた。ラインハット城で初めてヘンリーと会った時、ヘンリーはリュカの隣にいるプックルに怯えていた。プックルが興味深そうにヘンリーに近づくと、ヘンリーは見たこともない大猫から逃げるのに必死で、椅子の上に立ち上がったりしていたのだ。
しかしその後、ヘンリーがプックルを恐る恐る撫でていたのを思い出す。ヘンリーは本当は動物が好きに違いないと、その時のリュカも今のリュカも同じように思った。ただ、ちょっとしたプライドや先入観が、彼が素直に動物に触れない原因なのだ。
「そのうち背中に乗せてもらえるようになるよ」
「まずはお前が乗ってくれないと、俺が一番ってわけには行かなさそうだけど」
拗ねたように口をとがらせたまま、ヘンリーは荷台にごろりと横になった。白い巨馬は人間が一人とちょっとの荷物が乗った馬車を、まるで何も感じていないように軽々と引いて行く。そこにリュカが一人乗ったところで、この巨馬は大した変化も感じないまま馬車を引き続けるだろう。
時折、巨馬は隣を歩くリュカの様子を窺うように、長い首を下げることがあった。『どうして私の背に乗らないの?』と首を傾げるような動作で、リュカをじっと見つめる。リュカはそんな白い巨馬の首をさすりながら、「僕は自分の足で歩いて行きたいんだ」と言うだけで、白馬の背にも馬車の荷台にも乗らず、周りの景色に目をやりながら歩き続けた。
ずっと左に広がっていた森の景色が、前方で途切れるのが見えると、リュカは荷台のヘンリーに話しかけた。
「ヘンリー、僕の描いた地図ってどうなってる? 森があそこで途切れてる」
リュカの声に、荷台で寝転がっていたヘンリーが幌の中から顔を出す。彼も同じように前方の景色を見渡し、手元にある手書きの地図を見比べる。
「もしかしたら、あの森の途切れたところ辺りに、北に行く橋があるかもしれない。このまま向かってみようぜ」
「橋があれば、そこに川があるはずだね。ちょうどいいや、水も汲んでおこう」
馬車の荷台には水を入れる皮袋が二つ、置いてある。修道院を出る時には一つだけを持って出ていたが、長旅になれば到底一つの皮袋では足りないと、リュカがもう一つ道具屋で買ってきていた。まだそれほど中身が減っているわけではないが、旅をする以前に、生きて行く上で水は不可欠だ。
「魚も捕まえられたらいいな。焼いて食おうぜ」
「そうだね、明るい内に食事を済ませて、夜は進めるだけ進もう」
「この調子だと、今日も月は出そうだな。新月じゃなかったよな」
「今日はまだ半月くらいじゃなかったかな。雲さえ出なければ、大丈夫だと思うよ」
森の風景が途切れたところには、今リュカ達が進んでいるような草原が広がっているようだ。今となっては旅人の姿もほとんど見ないが、かつてよりこの道は北の土地とオラクルベリーを結ぶ道となっているのだろう。周りは丈高い草がうっそうと生い茂っているが、リュカ達が進む道は比較的見通しの良い草原地帯だ。土肌も見える道を、白い巨馬が難なく進む。
なだらかな坂道を登り、遠くに見ていた森との境界線に着くと、そこから見える景色にリュカとヘンリーは思わず足を止めた。二人が想像していたものより数倍もの大きな橋が、まるで海のただなかに架けられているような景色が目の前にあった。しかし橋の下には波が打ち寄せるわけではなく、海のように見える水場は、今まで想像してもいなかったような大河なのだと分かる。橋が架けられているのはせいぜい小さな川で、二人は川に入って魚でも捕まえようなどと、気楽に考えていた。そんな水遊びができるような川ではないと分かり、二人は水汲みすらどうしようかと悩み始めた。
「もっと小さな橋かと思ってたぜ。こんなにデカイとはな」
「でも考えてみたら、これくらい大きくないと、馬車なんて通れないよね」
「それもそうか。人が一人二人通るくらいなら吊り橋程度でもいいけど、あれだけ大きな町が南にあるんだもんな。……それにしても、デカイけど」
「こんな大きな橋をどうやって作ったんだろう。どれだけ時間がかかったんだろうね」
リュカとヘンリーは近づいてくる巨大な橋を、ぼんやりと眺めた。白い巨馬は二人の暗い思いに気づくことなく、軽やかに馬車を進めて行く。間もなく夕陽に変わろうとしている太陽が、二人の横顔を柔らかく照らす。太陽の光を避けるように馬車の荷台の中に引っ込んだヘンリーが、ぽつりと呟いた。
「俺たちはもっとデカイ仕事をさせられてたんだっけ」
「あの大神殿ができるのは、いつ頃なんだろう」
リュカのはっきりとした言葉に、ヘンリーは思わず目を伏せた。
二人が奴隷として働かされていたあの場所では、今も多くの人々が希望のない労働を強いられている。その中には彼らと同じように、平和なある日、魔物あるいは人間の手で連れ去られた子供たちも多くいる。彼らは絶望の中、ただ生きている。己の運命と割り切るにはあまりにも理不尽な人生の転換に、子供たちはなす術なく、ただ生きることしかできない。リュカやヘンリーのように、逃亡に成功する人間など、一人としていないのだ。
彼らを助けたマリアの兄、ヨシュアはその後、恐らく何かしらの罰を受けているはずだった。奴隷の中でも目立っていた二人を逃がし、それを隠し通していられる性格でもないだろう。罪でもない罪を正直に認め、上からの理屈のない裁きを、それこそ運命だと悟り、受けているに違いない。そう考えるだけで、二人の表情は険しくなった。そして、それ以上のことを考えるのは、止めた。
「いつか、助けに行こう、絶対に」
「それこそ、死ぬ覚悟でな」
交わす言葉はそれだけで、二人は目の前の巨大な橋をただじっと眺めた。今、彼らが大神殿の地を思い返したところで、何もできないほどに無力なのは分かっていた。第一、あの場所が一体どこだったのかすらも、二人には分からないのだ。ただ高い高い山の頂上で、万年雪があるような寒い場所で、抜けるような青空も空しく感じるような場所、というくらいの感覚しかない。気がついたらあの場所に連れ去られ、気がついたら海辺の修道院に辿りついていた。二人の記憶の中にある大神殿の地は、十余年の間でそれだけのものだった。
橋の上を進み始めると、馬車の車輪が石の上を走る騒がしい音を立てる。魔物の数もそれほどではなかったかつては、この大きな橋を幾人もの旅人や行商人が行き来をしていたのだろう。大きな馬車も余裕を持って行き違いできるほどの横幅のある橋だった。しかし今は、青年二人と行く巨大な白馬が一頭、一台の馬車を引くだけだ。海のような大河に架かる橋を渡るには、寂しい風景だった。
「魚くらいは取れるかな」
橋の欄干から伸びあがって下を覗きこむリュカを見ながら、ヘンリーは冷静に「止めておけ」と声をかけた。
「食いものはまだあるだろ。無理して獲ることもねぇよ」
「まあね。これから冬になるんだったら、今獲っておかないとってなるけど、暑くなってきてるもんね。食べ物には困らないかな」
「まるで熊だな」
「大した違いはないよ、こうやって外を歩いている時は」
「それもそうか」
橋を渡りきり、再び足を踏み入れた陸地には先ほどまでと同じような草原が広がっていた。人の通りがほとんどないのは今まで歩いてきた道のりと変わらないはずだが、どこか周りの雰囲気が廃れていた。景色も同じように山あり森ありと変わらないが、橋を渡った瞬間から、まるで全く違う場所に来てしまったような期待や不安に駆られる。
リュカは注意深く辺りを見渡してみた。はっきりと魔物の気配を感じるわけではない。木の陰や草陰に隠れていると言ったこともなさそうだ。目の前には大きな森が広がり、西側には人の足では越えられそうもない峻嶮な山々がそびえている。太陽は間もなく、山々の背に隠れようとしていた。陽の光が届かなくなれば、今の速度で歩き続けることはできない。リュカは高くそびえる山々を左手に見ながら、馬車を進める速度を少し速めた。
「北の村まで歩いて五日くらいって言われてるんだ。でも僕たちは馬車を使ってるから、もしかしたらもっと早く着くかも知れないよね」
「あの旅の戦士が歩いて四日って話だろ。このまま順調に行けば、五日もしないで着きそうだな」
「どういうところなんだろ。また色々と話が聞けるといいんだけど」
「でも嫌に寂れてるんだろ。人だってそんなにいないかも知れないぜ。もう一つの北のお城って方が人はいそうだよな」
大した緊張感もないまま歩き続けていると、リュカは突然、地面の出っ張りに躓いた。転ぶことは免れたが、よろけたリュカを見てヘンリーが荷台の上から口を出す。
「そろそろ白馬の世話になれよ。歩き疲れてんだろ、それ」
「いや、そうじゃなくって……なんだろ、これ」
リュカは立ち止まって、躓いた石をまじまじと見下ろした。地面に半分以上埋まる赤い石が、意思を持ったようにひとりでに動き始めた。驚いたリュカが後ろに飛び退り、再び注意深く赤い石を見つめる。小さな赤い石と思っていたものが、地面と言う殻を破るように、飛び出して姿を現した。地面から出ていたのは身体のほんの一部で、姿を現したのは、全身をトゲで覆われた小さな岩ほどの魔物だった。見た目の赤が鮮やかで、怒ったような表情さえしていなければ、美味しい果物にも見えるような魔物だ。
荷台にいたヘンリーも、魔物の姿を見るなり慌てて馬車から飛び出してきた。手には修道院から持ってきた小型のナイフを構えている。
「お前に蹴っ飛ばされて怒ってるんじゃないのか、こいつ」
足元にいる魔物、爆弾ベビーは小動物さながらのキーキーと耳につく声を上げながら、リュカを怒りの表情で見上げている。リュカは困ったような顔をして、魔物と向き合っている。
「悪気はなかったんだけどなぁ」
「とりあえず、武器くらい構えたらどうだ」
ヘンリーに言われ、リュカは腰のベルトに挿していた檜の棒を両手で構えた。だが本気で魔物と対峙している雰囲気はみじんもない。
「ごめん、って言っても通じないよね」
「あのじいさんが言ってたみたいに、『愛を持って戦う』ってヤツをやればいいんじゃねぇの?」
「その戦い方、分かる、ヘンリー?」
「俺に聞くなよ、そんなこと」
二人が話をしている間にも怒りを増幅させたのか、爆弾ベビーは地面に弾みをつけて、突然飛びかかってきた。リュカは檜の棒を咄嗟に盾にして、魔物を弾き飛ばした。飛ばされた魔物はその丸っこい身体を生かして地面を転がる。そして再び全身の刺に力を込めるように、身体を強張らせてリュカに飛びかかる。
三度ほどそんな応戦を繰り返すと、今度は地面に留まったまま、何やら小さな声でぶつぶつと言い始めた。赤い身体がますます真っ赤になって行く。
「文句言ってるのかな」
「んなわけあるか、あれは呪文だ」
まるで熟れたイチゴのように真っ赤になってしまった爆弾ベビーは、長い呪文を唱えながら、身体を小刻みに震わせ始めた。小さな身体から発せられる魔力があまりにも強大で、リュカとヘンリーは逃げることも忘れて、その場で呆然と立ち尽くしていた。
風船が限界まで膨らんだように、爆弾ベビーの身体も限界まで膨張した。爆発寸前のような緊張感が辺りに漂う。リュカはようやく目の前の危険を察知し、ヘンリーの腕を引っ張って魔物から離れた。近くで待機していた白馬にも「逃げろ」と声をかけたが、白馬は何のことやらと、構わず地面に生える草を食んでいた。
敵に背を見せて逃げたリュカ達の後ろで、魔物は膨らみきっていた身体を徐々に小さくしていた。爆発の緊張感がみるみる小さくなり、大爆発を起こすつもりだった魔物は、元の通りの小さな岩ほどの大きさに戻った。しかし真っ赤になった身体の色は元に戻らず、そのままだ。
そんな魔物の様子を見て、リュカとヘンリーはこめかみに汗を垂れながら息をついた。二人は一瞬、あの世へ行くほどの覚悟を決めていた。それほどに爆弾ベビーの放とうとしていた呪文は危険なものだった。しかしまだ小さな爆弾ベビーはその呪文を成功させる魔力を持っていなかったようだ。もし成功していたらと思うと、リュカとヘンリーは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
魔物は呪文の失敗などにはめげずに、しつこくリュカに体当たりをしてくる。このままでは前に進めないと、リュカは本気で檜の棒を構えた。そして体当たりをしようと地面を跳ねてきた爆弾ベビーを、球打ちさながら、思い切り打ち返した。ちょうど芯に当たった魔物の小さな身体は、目の前の森の奥の方まですっ飛んで行ってしまった。
「今のうちに先に進もう」
「いや、ちょっと待て。ここの道、ずっとこいつらが埋まってるぞ」
ヘンリーの言葉に、リュカは進もうとしている道を眺めてみた。草の陰にちらちらと見える赤っぽいものが、全て爆弾ベビーの頭か何かだろう。馬車でこの道を通る限り、地雷のように埋まる魔物を避けては通れないのが分かる。魔物の頭をふんづける度に地面から湧き出て来て、そのうちとんでもない数の爆弾ベビーに襲いかかられるかも知れないと、リュカは思わず身体を震わせた。
馬車が進みやすいこの平地を行くのを止め、リュカは森の方に目をやった。森の中の木々はまばらで、馬車が通れないほど群生しているわけではないようだ。白馬もリュカと同じように、森の中に目をやっている。
「森の中で迷わないように、森とこの道の境辺りを進もうか。そうすれば北に行く道からそれないだろうから」
「森の中にも魔物はいるだろうけど、まあ、仕方ないか」
「もうそろそろ陽も落ちそうだし、あまり長くは歩いていられないね。夜はあまり動かない方がいいから、どこか森の中で場所を見つけて、休もう」
「川か沢の近くがいいな。これだけ深い森があるんだから、川の一つくらい流れててもおかしくない」
夕闇が迫りつつある頃、まだ微かに残る陽の光を頼りに、少しでも前にと、リュカとヘンリーは馬車を進めた。森の端を進みながら、爆弾ベビーが埋まる地雷地帯を抜けるところまでと、リュカは道の様子を目で確認しながら歩いていた。一方でヘンリーは、森の中に水の音が聞こえないかと、馬車の幌から顔を出しながら耳を澄ませていた。
馬車の進む車輪と白馬の足音の間に、森の中でざわつくような音をヘンリーは耳にした。荷台から飛び降り、立ち止まって森の奥に目を凝らす。しかし聞こえる音は意外に近く、ヘンリーは遠くにやっていた視線をごく近くに引き戻した。
「うわっ」
木の根元近くに、身を寄せ合うようにして身体を揺らしている魔物の姿があった。その姿がもっと小さければ、魔物とは気付かずに通り過ぎていただろう。大きな赤い笠をかぶったキノコの魔物だった。しかしその魔物たちは、間近に馬車が通っているというのに、その音にも気付かずに眠りこけている。
ヘンリーの声に異変を感じたリュカは、檜の棒を構えたまま馬車の反対側から回ってきた。そして目の前ですうすうと眠っているキノコの集団を見て、思わず笑顔を漏らした。
「眠ってるから、起こさないように、もうちょっと森の奥に入ろうか」
「そうだな、無駄な戦いはしない方がいいか」
「キノコの魔物なんているんだね。食べられるのかな」
「くれぐれも、食うなよ」
リュカは白馬の手綱を持ちながら、馬車を森の奥へと誘導させる。先ほどまで迫ってきていた夕闇が、早くも森の上を覆おうとしている。森の中で比較的安全そうな場所を見つけたら、すぐに馬車を止めようと、リュカは集中して辺りを見渡した。
すると、森の中の異変にすぐに気付いた。馬車の中に戻ろうとしていたヘンリーも同じように、周囲の異変に気づいたようだ。森の中に甘い果実でも成っているのだろうか、仄かに甘い香りが漂っている。美味しい果物を想像させるような良い匂いに、リュカもヘンリーも目を凝らすのではなく、鼻を利かせ始めた。その香りは何故か地面から漂ってくるようだ。
二人は馬車を進めながらも、辺りに漂う香りに、どこかの木に美味しい果実が成っているのではないかと期待した。しかし辺りに実のなるような木は生えていない。それでも地面から漂う甘い香りに、もう熟れて地面に落ちた果実があるのかと、足元に注意を払いながら歩き進んでいた。
二人の期待を砕くような光景が、周囲に広がっていた。リュカとヘンリーは信じられない思いで、目の前のキノコの大軍を前に、呆然と立ち尽くした。数えきれないほどのキノコの魔物が、大半は寝息を立てて眠っているが、起きているお化けキノコたちは眠そうな目を人間二人に向けている。敵意を感じるような目つきではないが、お化けキノコが珍しく森を通る旅人二人を、そのまま素通りして通してくれるとも思わなかった。早速、人間に興味を持った何体かのお化けキノコが、ゆっくりと近づいてくる。
「起きてるキノコだけでもすごい数だ。相手になんかしてられねぇ、逃げるぞ」
「もう囲まれてるみたいだよ。集団の力ってすごいね」
「お前はどこまで呑気なんだ」
一見呑気に構えていたリュカだが、檜の棒を持ったまま、両手を前に構えた。早々に呪文を唱え始めるリュカを見て、ヘンリーも慌ててお化けキノコたちと向き合った。
リュカの手から放たれた真空の刃が、お化けキノコの群れをなぎ倒すように攻撃する。起きているものも眠っていたものも、一網打尽に打撃を加えた。しかしリュカの攻撃をきっかけに、眠っていたお化けキノコたちも一斉に目を覚ましてしまった。
「あ、しまった。バギはまずかったかな」
「どうすんだよ。収集つかなくなってきたぞ」
「逃げるにしても、これ以上森の奥に入ったら迷いそうだし。一か八か、もう一度あっちの道に戻るのがいいかも」
「あの爆弾を相手にするよりは、まだこっちのキノコの方が勝ち目がありそうだと思うけどな」
二人が目の前の魔物から目を離して会話をしていると、キノコの群れの中から一体、二人に向かって飛び出してきた。手足の短いキノコの動きを甘く見ていたヘンリーは、思いの外素早い動きを見せるキノコの攻撃をまともに食らってしまった。予想以上の重量感に、思わず草地の上を滑るように転ぶ。体当たりと共にキノコの笠からカビ臭い粉が舞い上がり、ヘンリーはたまらずむせた。
しかし再び近づいてきたキノコに、ヘンリーは手にしていたナイフを振り上げて反撃した。キノコの笠が四分の一ほど切り取られ、頭が欠けたような風貌になったキノコはおかしな叫び声を上げながら奥に引っ込んでしまった。
「キノコだけあってナイフで簡単に切れるんだな。これなら何とかいけそうだ」
「でもやっぱりこの数は辛い……ふわぁあ」
「この局面でよく欠伸なんてしてられるな」
「別に眠いわけじゃないと思うんだけど、なんだろ」
リュカが檜の棒を右手に持ちながら、止まらない欠伸をこらえようと顔を歪めている。しかし口を閉じて大きく呼吸をすると、鼻から強い甘い香りが入り込んできて、その香りに眠気を誘われ、結局欠伸は止まらない。
リュカが目をこすりながら目の前のキノコを見ていると、キノコたちは集団で大きな口を開け、熟れた果実のような甘い匂いを出していた。森全体に漂う甘い匂いは、このお化けキノコが発する甘い息が原因だったようだ。この独特の甘い匂いは人間の眠気だけではなく、仲間の魔物の眠気も誘うようで、甘い息を吐いているキノコの近くにいるキノコの瞼は再び落ちかけている。お化けキノコたちを見つけた時に大半が眠っていたのは、仲間のキノコが発する甘い息に眠気を誘われていたからだと、リュカは草地に両膝をつきながら考えていた。
「おい、どうしたんだよ、リュカ」
「ヘンリー、気をつけて。早く逃げた方が……」
ヘンリーの次の言葉を待たず、リュカは誘われるがまま眠りの世界へ身を投じてしまった。突然倒れてしまったリュカを見下ろしながら、ヘンリーは目の前のキノコたちの吐きだす甘い息の正体に気がついた。服の袖で鼻と口を覆い、極力甘い息を吸い込まないようにするが、これでは攻撃ができない。
「もう戦うってのはナシだな。とにかく逃げないと」
魔物との戦闘では自分よりはるかに経験値の高いリュカが呆気なく倒れると、ヘンリーは冷や汗をかきながら、必死になって思考を巡らせた。手にしているナイフ一本では、目の前のキノコの大軍を相手にすることは考えるだけ無駄だ。対抗できる手段は呪文だけだと、修道院から借りてきた魔法書の中から、まだ試したことのない呪文を頭の中で一つ、選び出した。
「一か八かだ。成功しなかったら……なんてことは考えないようにしよう」
ヘンリーはナイフを手にしたまま両手を前に差し出し、魔法書に書かれていた呪文の一字一句を慎重に思い出しながら唱える。周囲の甘い匂いなど気にならないほどの集中力で呪文を唱え終わると、両手の中に込められた呪文の霧を辺りにゆっくりと放った。森全体に漂う甘い香りはそのままのはずだが、ヘンリーの放った幻惑呪文の効果により、甘い匂いが沈静化したようだ。
お化けキノコたちが、何もない空間に向かって突進し始めた。どうやら大半の魔物に、幻惑呪文マヌーサが効いたようだ。ヘンリーは呪文の効果が切れない内にと、急いでリュカを馬車の荷台に運び、白馬の手綱を握った。白馬は不安げな様子で、荷台に運び込まれたリュカを振り向き見ている。
「あいつを助けるためだ。お前の足を借りるぞ」
真剣なヘンリーの様子に、白馬はすぐに状況を理解し、首を下に下げた。背に乗れという白馬の合図に、ヘンリーは勢いつけて白馬の背につけられた鞍の上に乗った。ヘンリーは手綱を握り、進む方向を見定め、白馬に指示するように話しかける。
「あっちに全速力で駆けてくれ。もといた道だ、分かるな」
馬に言葉で指図するのもおかしなものだと思いながらも、ヘンリーはこの白馬なら言葉だけで理解してくれるような気がした。予想通り、白馬は前足で地面をかくと、森のすぐ脇の道を見据えて一気に駆け出した。あまりの勢いにヘンリーは手綱ではなく、白馬の首にしがみつくので精一杯だった。後ろの荷台にはリュカが横になっている。この勢いで振り落とされているんじゃないかと不安がよぎったが、後ろを振り返る余裕もない。森の中のキノコたちはまだ幻影に惑わされ、あらぬ方向に突進していたり、甘い息を吐き出して仲間を眠らせたりしている。その場からあっという間に離れてしまった二人の人間と一頭の白馬には、まだしばらく気がつかないだろう。
森の中を出て、見通しの良い道に戻っても、白馬は勢いを止めずに突き進む。歩きやすい道に出れば、そこには先ほどの爆弾ベビーが地面に埋まる地雷地帯が広がる。ヘンリーは馬車が猛進する後ろで続々と地面から飛び出す赤い小さな岩に気付かないまま、ただ必死に白馬の長い首にしがみついて、難を逃れた。



「さっきはごめん」
「謝る気持ちがあるんなら、今夜の見張りはお前がやれよ。俺は疲れた」
すっかり夜になった森の中で、二人は野営をしていた。森の端っこで馬車を止め、火は起こさずに、月明かりの届く場所で食事や水分補給をする。どれだけの距離を白馬が疾走したのかは分からないが、彼女も相当に疲れた様子でゆっくりと草を食んでいる。リュカとヘンリーが皮袋から水を飲んだ後、白馬に与えると、彼女は皮袋の中に残る水を全て飲み干してしまった。幸い、近くに細く流れる川を見つけたリュカが空いた皮袋に水を足し、再び馬車の荷台に乗せた。
白馬が立ったまま首を下に向けて寝ているのを見て、リュカは申し訳ない気持ちになる。そんなリュカの向かいでは、ヘンリーが自分の両腕を揉んでいる。ずっと白馬の首にしがみついていたせいで、ヘンリーの腕は強張っていた。リュカが眠りから覚めた時、動きのぎこちないヘンリーを見て思わず笑い、頭をぶんなぐられたのを思い出し、リュカは無意識に頭をさすった。
不機嫌なヘンリーはリュカに話しかけることもなく、月明かりの下で魔法書を読んでいる。疲れたと言う割には彼の目は冴え、眠気を感じる様子は全くないようだ。リュカも魔物に眠らされたとは言え、それをきっかけに睡眠を取ったおかげで、睡魔が襲ってくることはなかった。木の実を一つ二つと口に放り込むと、懐から手書きの地図を出して眺める。
「ヘンリーの新しい呪文、僕も見たかったなぁ」
「じゃあ今度お前にかけてやる」
意地の悪い言葉を返してくるヘンリーに、リュカは小さい頃のヘンリーを思い出し、思わず小さく笑った。リュカのそんな様子には気づかずに、ヘンリーは真剣に魔法書を読み込み、呪文のイメージをふくらまそうと目を閉じて集中したりしている。昼間に体力を使いきったほどの疲れを感じているはずの彼がまったく疲労を見せないことに、リュカは不思議に思うよりも不安を感じた。
森を吹き抜ける風は昼間のものとは違い、肌寒ささえ感じるほどの冷たさだった。焚火を起こして火に当たらなければならないほどではないが、リュカは身にまとう濃紫色のマントに包まって地面に身を縮めていた。木の上では時折、鳥だか虫だかの鳴き声が響き、近くの草むらががさがさと小さく揺れることもあったが、魔物が近づいてくることはなかった。しかし夜の番をしないわけにはいかないと、リュカは唐突に立ち上がり、包まっていたマントをヘンリーに渡した。
「これを毛布代わりに使って。馬車で休んできていいよ。僕はこのまま見張りを続けるから」
「分かった、遠慮なくそうさせてもらうわ」
リュカから受け取ったマントを素早く身にまとい、ヘンリーはさっさと馬車の荷台に向かう。その途中の足取りも覚束ないもので、やはりヘンリーが疲れているのだとリュカはその後ろ姿を見送りながら思った。
「そうだ、明日の朝になるまでに、お前も一つ呪文を覚えておけよ」
濃紫色のマントを羽織り、後ろを振り向きながらヘンリーが言う。リュカはあからさまに嫌な顔をしたが、ヘンリーは構わず、手にしていた魔法書をリュカに向かって投げて寄越した。地面に落ちてしまった魔法書を拾い上げ、リュカは読む気もないままパラパラとページをめくる。月明かりが出ているので、読めないことはない。
「僕は君みたいに攻撃する呪文は得意じゃないからなぁ。何を覚えたらいいんだろ」
「俺が使ったマヌーサみたいな補助的なものもたくさん載ってるぞ。便利そうなやつを一つ、覚えてみろよ」
「便利そうなやつねぇ、何がいいかな……」
夜風の冷たさに身を震わせたリュカは、身体を温めようとその場で身体を動かし始めた。魔法書を右手に持ちながら手をぶんぶん振り回すリュカの姿を見て、ヘンリーは諦めたように息をつきながら馬車の荷台に寝転がった。
話し相手がいなくなり、時間を持て余し始めたリュカは、ようやく魔法書を真剣に読み始めた。一度読み込み始めれば、寒さなどは気にならなくなる。昼間に遭遇したお化けキノコの甘い息のように、眠りを誘う呪文もあり、リュカはそれを試そうとしてみた。しかし敵を眠らせるというイメージが上手くつかめず、しばらくしてラリホーの呪文の習得を諦めた。
他にも敵の魔力を吸い取る呪文や、混乱させるもの、敵の呪文を封じ込めるような便利な呪文について書かれている。しかしそのいずれもリュカは具体的に想像することができず、とても一晩で習得することはできないと、またパラパラとページをめくり始めた。
上級の回復呪文についても書かれているが、それについては別の魔法書と合わせて読まなくてはならないようで、今習得することはできないものだった。簡易的な魔法書だけあって、難解な上級クラスの呪文については紹介すらされていないようだ。
「僕ってあまり呪文が得意じゃないんだろうな」
習得したくなる呪文が見当たらないのは、呪文そのものが苦手なのだと、リュカは一人で気落ちしていた。魔物に向かって火を投げつけたり、氷の矢で魔物の身体を貫いたり、敵を混乱させてその間に攻撃をしかけるということが、リュカは具体的に想像することができないのだ。彼の中では、魔物たちを痛めつけるという攻撃的な概念が欠けていた。
真空呪文であるバギが使えるのは、幼い頃、攻撃呪文が得意なビアンカに純粋に憧れ、自分も魔物を攻撃する呪文を使ってみたいという単純な欲求からできたものだ。風を操る呪文は治癒呪文と相性が良いというのも、彼が真空呪文を習得できた要素の一つだった。攻撃呪文を使って、魔物をバタバタ倒したいという考えたことはない。ただ、攻撃呪文を唱えられたらカッコ良いと思っていただけだった。
それと言うのも、父に守られているという安心感があり、父に頼り切っていた無責任さがあったからだった。信頼しきっている父が反対しないことは、何をやっても大丈夫だと、リュカは信じていた。元々、魔物と戦うのが好きなわけではないが、父が許してくれれば魔物と戦うことも仕方がないのだと割り切ることができた。
「……でも、魔物だって悪いばかりじゃないよ」
ぽつりと呟くリュカの一言が、彼の気持ちの全てだった。魔物だから悪い、と決めつけることがどうしてもできない。魔物だって人間や動物や植物と同じように生きているのだ。生きている限り、リュカはたとえ相手が魔物でも、とどめを刺すということができなかった。自分の身を守るために、せいぜい追い払うことぐらいしかできないのを自覚している。
「こんなことで、この先ちゃんと旅を続けて行けるのかな」
これからの旅の中で、どれだけ凶悪な魔物に遭遇するのか分からない。リュカは父を殺した魔導師の姿をした魔物の顔を思い出そうとしてみた。しかし思い出そうとすると、彼の拳は固められ、身体は震え、訳も分からず目に涙が滲む。そして魔導師の顔を思い出せないまま、リュカは思い出そうとすることを強制的に止めてしまう。
魔物をこれほど憎いと思ったことはない。だが、手も足も出ない相手を前にしたところで、ただ震えることしかできない自分は、いざ強敵を前にしたら何もできないまま殺されてしまうのかもしれない。それでもいいんじゃないかと、諦念に似た気持ちがわき上がるのを、リュカは信じられない思いで否定した。
「これからどうなるかなんて分からないんだから、考えてもどうしようもないや。ええと、何の呪文がいいかな」
夜空には雲も出ているが、幸い、月明かりはリュカの下に届いている。魔法書の頁を捲り、補助呪文の章を開くと、余計なことは考えないように本に集中し始めた。



翌朝、森の中にはうっすらと霧が発生していた。白く霞む木々の間から、朝の鳥の声が響く。同時に、まだ夜の虫の声も止まずに鳴いている。まだ朝と夜の区別のつかない時間帯に、リュカはずっと開いていた魔法書をようやく閉じて、馬車の荷台に向かった。
白馬は既に目を覚ましており、近づいてくるリュカに挨拶とばかりに長い首を寄せてくる。そんな白馬の首を優しく撫でてやり、リュカはヘンリーが横になっているはずの荷台に向かって声をかけた。
「朝だよ、ヘンリー」
「ああ、分かってるよ」
すぐに返事が返ってきたことに驚き、リュカはそんな表情のまま荷台の中を覗きこんだ。そこにヘンリーの姿はなく、リュカは動揺したようにキョロキョロと辺りを見渡す。するとヘンリーが後ろから頭を小突いてきた。
「あっちの川で顔を洗ってきたんだ。お前も行ってこいよ、眠気も冴えるぞ」
「起きてたんだね。もしかして、あんまり眠れてない?」
「まあな。俺にとっては初めての野宿なんだ、少しくらい緊張させてくれよ」
ヘンリーの言葉に、リュカは自分が彼に比べて旅慣れていることを実感した。父に連れられ旅をしていた記憶はもうおぼろげなものになってきているが、父と旅路を行くことや、野営をすることは、身体が覚えていた。幼い頃は父の行動全てを興味を持って見ていたことが、今になって分かる。
それだけ父との記憶が残っているというのに、何故か父の顔を思い出すことが難しくなっていた。忘れるわけがないと思っていても、どういうわけだか真っ先に思い出せるのは、父の背中を見上げているような景色だった。
「ところで新しい呪文は習得できたか?」
「え?」
聞き返してくるリュカにヘンリーは意地の悪い一言でも言ってやろうかと構えたが、目を充血させているリュカの顔を見ると、「何でもない」と言ってリュカを川の方に追い払った。リュカは首を傾げ、両手を高く上げて大あくびをしながら、川に向かって歩いて行った。
森の中に発生していた霧は早朝のうちだけで、リュカ達が馬車を進め始めて一時間も経たない内に、どこへともなく白い霧は消えて行ってしまった。見通しの良くなった森の中を、リュカは昨日よりも慎重に馬車を進めていた。
「また昨日みたいに甘ったるい匂いがしてきたら、とりあえず森から出よう」
「そうだな。それまではこのまま森の中を進んでいた方が良さそうだ」
二人が草原の進みやすい道ではなく森の中を選んだのは、雲ひとつない空に浮かぶ太陽が、容赦ない熱を浴びせてくるからだった。森の中に入る方が魔物と遭遇するリスクは高かったが、それでも太陽の熱に体力を奪われて、いざ魔物と遭遇した時に戦闘すらできない状態に陥ることは避けておきたかった。馬車を引く白馬も、森の中の涼やかな道を通るのにはさほど苦を感じていないようだ。軽快な足取りでヘンリー一人が乗る馬車の荷台を引いている。
森の中では数度、魔物と遭遇した。昨日遭ったお化けキノコや爆弾ベビー、初めて遭った魔物としては大型の鳥の魔物がいた。森の中に突然現れた色鮮やかな鳥に、リュカもヘンリーも初め見惚れるほどに目を奪われたが、その鳥が木の枝に止まるでもなく、地面を走ってきた時に初めて異常を感じた。飛べない鳥がいることは聞いたことがあったが、明らかに戦闘態勢で向かってくるドスドスと向かってくる鳥型の魔物ピッキーを前に、二人は身を守るように檜の棒やナイフを構えた。
ピッキーは大きな足で地面を蹴り、鳥とは思えないとび蹴りを喰らわそうとした。攻撃を避けようとしたリュカの肩に一撃が命中し、よろけたリュカの腕に今度は鋭いくちばしを向ける。しかし自慢の色鮮やかな紅色のトサカから火が出ていると気付くと、慌てて頭を地面にこすりつけて火を消した。ヘンリーが二発目のメラの呪文を準備していたが、その前にリュカが檜の棒でピッキーの後頭部を叩き、気絶させてしまった。
地面に倒れたピッキーを見ながら、二人は一時、その場で考え込んだ。
「どうする、食ってみるか?」
「焼き鳥を食べたいのは山々だけど、焼くのに時間がかかりそうだよね」
「そうだな。それにこんなにでかいと、食うのにも時間がかかりそうだ」
「もったいない気もするけど、先を急ごう」
「色鮮やかなキノコには毒があるってのと一緒で、もしかしたらこいつも食っちゃまずいヤツなのかもしれねぇしな」
「ここで焼き始めたら、他の魔物も呼び寄せちゃうかもしれないね」
草地に倒れるピッキーをそのままに、リュカたちは再び馬車を進めた。その後も数度、魔物と遭遇したが、出現する魔物の種類は同じようなものだった。徐々に戦いにも慣れてきた二人は遭遇する魔物の特性を掴み出し、次に魔物に遭った時の対策を立て始めていた。
森の中から太陽の位置を確認しながら、昼過ぎまで森の中を進んだ。リュカはオラクルベリーで出会った旅の戦士に聞いて作った簡単な地図と目の前の景色を見比べてみた。もう少し進んだ先で、どうやら森の終わりがあるようだ。その先には土肌の見える道がある。地図を見ると、その道の更に先には山々の景色があるはずだった。リュカは森の中から目を凝らして、遥か前方を見遣った。うっすらと見える山の稜線に、リュカは顔をほころばせた。
「あの道に出たら、山と山の間から更に北に向かうみたいだよ。森を出たら、少し進路を西向きにすることになるかな」
リュカの説明を聞きながら、ヘンリーは荷台から飛び降り、リュカが手にしている地図を横から覗きこんだ。
「すげぇな、この地図。かなり正確だ」
「いずれはちゃんとした地図が欲しいよね。これってこの地域だけのものしか書き写してないから」
「その必要もなく、さっさと見つかればいいんだろ、お前のおふくろ」
思いもよらぬヘンリーの言葉に、リュカは返す言葉もなく彼の顔を見た。ヘンリーは笑いながら続ける。
「だってどこにいるか分からないんだから、次に目指す村にいるかも知れねぇだろ」
「でも父さんが長い間捜して見つからなかったから、そんなに簡単に見つかるとは思えないよ」
「そんなの分からないだろ。お前の親父さんの行ったことのない場所だったら、そこにいる可能性だってあるよ」
「そうなのかなぁ」
「そうだよ」
何の根拠もない自信だが、ヘンリーのそんな強い言葉にリュカは期待が高まるのを感じた。
まだ幼い頃、父と離れて奴隷にさせられるとは思ってもいなかった。奴隷として働かされていた大神殿から逃げ出したいとは思いながらも、本当に逃げ出せるとは思ってもいなかった。次に向かう村で、早々に母が見つかるとは思ってもいない。しかし今までも思ってもいないことが実際に起こっている。リュカはまだ見ぬ母の姿を想像しながら、軽い足取りで白馬の横を歩き続けた。
森を出ると、広場のような土地が広がっていた。道とは思えぬほどの広さだが、良く見てみると、北には山間の奥に進む道が伸びており、東には山道ほどではないがなだらかな上り坂が続いている。リュカは広場の真ん中に立ち、両方の道をしばし眺めた。
「北に向かうならこっちの道だろ。行こうぜ」
ヘンリーの呼びかけにも応えず、リュカは広場に立ちながら東の景色を見渡している。遥か彼方に、自然の景色ではない建物のような影が見える。点ほどにしか見えないその建物を、今の位置から目で確認することは不可能だった。
リュカは北に向かうという目的を追いやって、東の景色に呼ばれるように歩き始めた。勝手に進路を変えたリュカに、ヘンリーは怪訝な顔つきで白馬の手綱を引いてついて行く。山道ではないが、遥か遠くに見える景色を目で確認するには、夜まで歩かなくてはならないだろう。それだけで一日をふいにしてしまうと、ヘンリーはもう一度リュカに呼びかける。
「おい、そっちじゃないんじゃないのか、リュカ」
「僕、この景色を知ってる」
「何だと?」
「あそこにある建物が何なのか分かれば、思い出せる気がするんだ」
リュカが見つめる先の景色を、ヘンリーも同じように眺めて見た。微かに目で確認できる建物らしき影は、確かに自然のものではない。西に傾いてきた陽を正面から浴びる目の前の景色は、はっきりと浮かび上がっている。人々が暮らす集落のような場所であれば、人工的な建物が点在しているはずだが、リュカの目に映る建物の影はたった一つだけだった。人々が住むような場所ではない景色を何故覚えているのか、リュカは確かめるために足を速めた。
陽は完全に傾き、白い昼の景色から、辺りは夕焼け色に染まり始めた。なだらかではあるがほとんどが上り坂だったため、予想以上に時間がかかったと、リュカは後ろを振り向いて夕陽を眩しそうに睨んだ。
建物の影はもう目で確認できる位置にまで来ていた。夕陽を浴びて、堅牢な石の建物は橙色に染まっている。古びた塔のような建物だが、その頂上には何やら大きな布がはためいている。布には柄が描かれているようだが、その柄が確認できるほどの距離には来ていなかった。
しかしリュカには、その赤い布が国旗だと分かった。ヘンリーが隣に立つと、自ずと身体が震えるのを感じた。
「あれは……」
ヘンリーがそこで言葉を切り、リュカはその後を引き継ぐことができなかった。二人はしばらくの間、何も話すこともなく、ただその建物をぼんやりと眺めた。
「ラインハットの関所だ」
リュカはやっとの思いでその言葉を吐きだした。
幼い頃、父とこの道を歩いて、ラインハットの関所を通り、ラインハットへ向かった。関所の橋では父に肩車をしてもらい、きらきらと光る川を一緒に眺めた。肩車をしてもらい、父が自分とは違う癖のある髪の毛だと知った。ラインハットへ行く途中でスライムにまたがる騎士の魔物に遭遇した。ラインハット城でヘンリーに会った。
リュカの脳裏に過去の出来事が一気に駆け巡る。そしてその思い出の終着点は、ラインハット城より東にある遺跡での別れだ。リュカは全身から嫌な汗が噴き出すような感覚を覚えた。
「この関所の向こうにラインハットが……。ってことは、あっちの北の村って……」
「サンタローズだ、きっと」
口に出して言うなり、リュカはラインハットの関所に背を向けた。歩いてきた道を戻るように、坂を駆け下りて行く。まるで注意力を失ったリュカの後ろ姿を、ヘンリーは慌てて追いかける。向かう先の景色は、夕陽が山間に落ちようとしている心許ないものだ。このままがむしゃらに駆けて行ったところで、サンタローズの村に着くにはまだまだ時間がかかるだろう。
ヘンリーは手綱を握り締めながら、同じスピードでついてくる白馬の様子を横目に見た。表情などないはずの白馬の顔つきが、いかにもリュカを心配しているように見えた。
旅慣れた戦士の足で、北の寂れた村からオラクルベリーまで四日かかると聞いている。しかしリュカとヘンリーには大きな馬車を軽々と引くような丈夫な馬がいる。ヘンリーは昨日、この白馬にしがみつきながら魔物の群れから逃げ切った感覚を思い出す。白馬の足をもってすれば、村まであと一日もかからず着くかもしれない。
ヘンリーは手綱を強く引き、強引に白馬の足を止めた。白馬が訴えかけるような目つきでヘンリーを見るが、彼は有無を言わさずそのまま白馬の背に飛び乗った。そして両手で握りしめ、再び白馬を走らせる。
「おい、リュカ、荷台に乗れ」
あっという間に追いついたヘンリーが、馬上からリュカに呼びかける。半ば我を失っていたリュカはその声にようやく足を止めた。息を切らし、肩を激しく動かすリュカを見て、ヘンリーは彼の真剣さを嫌でも肌に感じた。
「お前が走るよりこいつの方がよっぽど速い」
「うん、そうさせてもらうよ」
自分の足で歩くというこだわりなどまるで初めからなかったかのように、リュカは素直に馬車の荷台に乗った。そして荷台でゆったり構えるでもなく、幌の中から半身を乗り出すようにして、前を見据える。
「荷台にある水でも飲んでろ」
ヘンリーはリュカにそう言うなり、馬車を走らせた。白馬は心得たように早足で馬車を引き始める。しばらくは下り坂が続くが、先ほどの広場まで来ると、今度は北へ続く上り坂が続く。山間の岩肌が剥き出しになるような歩きにくい道を、白馬は蹄で器用に登って行く。
がたがたと揺れる荷台に乗りながら、リュカはずっと幌から身を乗り出して前方の景色に目をやっていた。西側に峻嶮な山が並び、頼りにしている夕陽を遮る。それと同時にいつの間にか空一面に雲が広がり始めていた。今夜は月明かりが期待できそうもなかった。月も星もすっかり隠してしまうような、分厚い雨雲が頭上の空を覆う。
夜になっても、白馬は山間の道を歩き続けた。馬は夜行性ではないが、夜目は利く。明かりのない暗い道を、白馬は指図されるわけでもなく、ただひたすら北に伸びる道に沿って進んだ。まだ辺りの景色が分かるうちに、リュカはもう一度地図を覗きこんだ。しかしオラクルベリーで会った旅の戦士の地図を完璧に写したわけではない。凡その地形を書き写しただけで、距離についてはリュカの期待が多大に反映されていた。リュカの手にする地図の距離で行けば、もうとっくに北の村に着いていてもおかしくはなかった。リュカは地図を懐にしまい、暗くなってきた景色に目を凝らして、サンタローズを見つけようとずっと幌から身を乗り出していた。
黒い空から雨粒が落ちてきた。細かな雨粒だが、徐々にその量を増し、霧状になって満遍なくあらゆるものを濡らす。大した雨ではないが、月明かりも星明かりもない真っ暗の状態では、今まで感じていなかった不安が生まれる。
あの時からもう十年以上が経っているのだ。十年前は小さな集落だったオラクルベリーが、今では大都市となってしまうほど時は流れ、大きく変化している。オラクルベリーで会った旅の戦士は、北に寂れた村があると言っていた。リュカの記憶では、サンタローズの村が寂れているという印象は全くない。自らの記憶と旅の戦士が教えてくれた実情が違うことに、理由もない不安を覚える。しかしそれも子供の頃の限定的な記憶のせいなのかもしれないと、リュカは胸の内に生まれた不安を閉じ込めた。
白馬が歩く速度を緩めた。そしてヘンリーが操る手綱の動きに合わせ、東側に広がる森に入って行く。葉を多くつけた木々に守られる森の中ではいくらか雨が凌げる。幌の中にいたリュカはさほど雨を浴びていなかったが、馬上のヘンリーと白馬は何の遮りもなく、空からの雨をじかに浴びていた。そんな単純なことにも気がつかなかった。ヘンリーが馬上から下りる気配を感じ、リュカは自分に余裕がなくなっているのを感じた。もう互いにはっきりと姿が見えないほど、辺りは暗くなっていた。
「ヘンリー、ごめん。少し休もう」
「今日はもうこの辺で止めにしないか?」
想像していなかったヘンリーの一言に、リュカはすぐには返事もできずに黙り込んだ。暗い森の中からヘンリーの疲れた声が聞こえる。
「せっかく久しぶりに故郷に戻るってのに、ボロボロになった状態で着いたら、村の人たちも素直に喜べないんじゃねぇかな」
彼の言う通り、このまま夜通し進んだとしても、村までの距離が分からないため、いつ村に着くのかは分からない。もうすぐ着くのかも知れないし、明日になるかも知れない。はたまた明日にも着かないかも知れない。確実な予定も立てられない状況で、休みなく進み続けるのは危険だと、リュカは改めて気付かされた。
どれだけの長旅になるか分からないのだ。感情に任せて行動したら、命取りになる。
「そうしよう。今日はここで休んで、明日早くに出発しよう。朝には止むといいなぁ、この雨」
「助かった。俺も中で休ませろ」
ヘンリーは暗い中、じっくり目を凝らして馬車の荷台に上がった。代わりにリュカが荷台を下り、白馬に水をやろうと、荷台に載せていた皮袋を手にして白馬に近づいて行く。
「次はお前が馬に乗ってくれ」
「どうしたの、ヘンリー」
「慣れるまでは、ケツが大変なことになるぞ。あーいてぇ」
ヘンリーは仰向けではなく、姿勢を横にしながら寝転がった。そんなヘンリーの様子には気づかず、リュカは白馬の首を撫でながら皮袋の水を与えた。暗い中でも白馬が水を勢いよく飲んでいるのが分かる。暗がりの中で白馬が疲労していた様子を知り、彼女を働かせ過ぎてしまったと反省した。
白馬は水を得た後、地面に広がる草を食み始めた。目の前で食事を始める白馬を見て、リュカも急に空腹を覚える。朝方に少し食べたきり、何も口にしていないことに改めて気付いた。
「僕たちも少し食べて、休もう。夜の見張りは僕が先にやるよ」
「頼んだ。お前の故郷は逃げも隠れもしないから、ゆっくり行こうぜ」
「うん、そうだね。楽しみは取っておいた方がいいって言うもんね」
「そうだな」
言葉短く応えるヘンリーに、リュカは唐突に気付いた。ヘンリーの故郷も目の前だったのだ。あのラインハットの関所を越えれば、彼の故郷に戻ることができた。そんなことにも気付かず、馬車をサンタローズへと進めてしまった自分は、やはり余裕がないのだと感じた。
しかし今、ヘンリーにラインハットへ戻ることを進めても、彼は首を縦に振らないだろう。リュカにはそんな彼の意固地でひねくれている性格が分かっていた。たとえ心の奥底でラインハットに戻りたいと思っていても、決して自分からはその意思を告げない、そう思った。
ヘンリーや白馬を気遣うのと同時に、リュカの脳裏には幼い頃のサンタローズの景色が蘇る。まだ子供だったリュカは、村人たちに守られる存在で、一日一日が幸せに包まれて過ぎて行った。今ならそう思える。当時、どう思っていたかはもうあまり思い出せない。幸せの中に身を浸らせていたら、それを幸せだったとは感じていなかったのかも知れない。
「サンチョ、元気にしてるかなぁ」
リュカは幸せだったという記憶の中、サンタローズの村の景色を思い浮かべていた。

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