2017/12/03

かつての家と父と

 

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リュカは暗闇の中で、目を覚ました。目を閉じていても変わらないほどの目の前の暗闇に、リュカはこの世界に訪れる朝がなくなってしまったのだと、そう思った。
仰向けになったままぼんやりと目の前を見つめているうちに、彼は眺める先に洞穴の天井のでこぼこした影を見た。視線を横にずらせば、洞穴の中に朝日が入り込んでいるのが分かる。時間を忘れるように天井を見つめ、大分目が慣れてきたところで、リュカはここがサンタローズの村だと思い出した。
板を張り合わせて作っただけの簡単なベッドの上で、リュカは寝返りを打った。木板の感触が直に伝わるほどの固いベッドは、オラクルベリーの整えられた宿屋のベッドに比べると、もはやベッドとは呼べないほどに粗末なものだ。しかしこの固いベッドを固いと思えるほどに、あの大神殿での奴隷生活から遠ざかったのかと、リュカは止まることのない時の流れを無性に感じた。
寝返りを打った先には、毛布を頭から被ったヘンリーの姿がうっすらと見えた。暗くて眠っているのかどうかも分からない。
昨夜はこの洞穴の宿で泊まろうと、宿の主人にその旨を伝えた後、ヘンリーはしばらく外に出て戻ってこなかった。宿の主人が心配そうにヘンリーの後ろ姿を見つめるのを、リュカは気付かないふりをして過ごした。宿の受付から仕切られただけの部屋の隅に荷物を下ろし、雨に濡れた服を少しでも乾かそうと、用意されていた布の服に着替えた。洞穴の宿は夫婦二人で営んでいるらしく、気の付く妻がリュカの服を洗うと言って引き取ってくれた。夫婦の厚意を断るほどの気持ちの余裕もなく、リュカはそのまま服を任せることにした。
じめじめとした洞穴の宿は、お世辞にも心地よい場所とは言えなかった。窓も何もない洞穴の中は、入口の扉が開いてなければずっと暗闇のままだ。火を灯すための油も貴重なもので、夜になっても洞穴の中の明かりは最小限に抑えられていた。夫婦に、見えなくて不自由しているんじゃないかとリュカが問うと、彼らは目が慣れれば暗くてもある程度見えるようになると、予想外の明るい笑顔で答えてくれた。そう言われ、リュカも納得したように暗がりに目を凝らし始めた。奴隷として生きていた頃を思えば、暗闇に目を慣らすということは不可能ではないことを、思い出した。
入口の扉を閉じてしまえば、外の雨の音も届かなくなる。ヘンリーは宿の扉をきっちりと閉じて、外へ出て行ってしまった。リュカはその後を追おうとは思わなかった。何も言わずに出て行ったヘンリーの後ろ姿を見て、リュカは今は彼と一緒にいてはいけないような気がしていた。
サンタローズとラインハットという、村と国の関係は、二人には関係のない時間に起こったものだ。幼い頃、リュカはただ父に連れられラインハットという国を訪れ、自分の意思とは関係なくヘンリーに引き会わされた。ヘンリーも突然知らない子供が自分の部屋を訪れ、友達になってと言われ、警戒心丸出しでそれを拒んだ。あの時、リュカもヘンリーも、与えられた時間、場所で、その時思ったことを言ったり行動したりしただけだ。王子と友達になってくれと、ラインハット王や父に言われ、その通りに行動したリュカと同じように、ヘンリーもいつも通りに『子分になれ』と突っぱねた。まだ子供だった彼らに、他の行動を取れる選択肢はなかった。
ヘンリーが自室の隠し通路を使って、階下に隠れたのも、彼にとっては普通のことだった。それまでにも何度となく姿を隠しては、他の子供たちを驚かせていたのだろう。結局は見つかってしまう隠し通路だが、ヘンリーはその通路をなかなか見つけられない同年代の子供たちに自慢するように、お前たちとは違うんだと威張り腐った態度で、友達になろうとする子供たちを遠ざけた。上下関係を知らしめるように、子分にならしてやると、ヘンリーは友達という対等な立場を望む貴族の子供たちを鼻で笑うように馬鹿にした態度で見下していた。
そんな貴族の子供たちとは全く違う子供が突然、彼の部屋に現れた。リュカはラインハット王子であるヘンリーに怖気づくこともなく、むしろ態度の悪いヘンリーに正面から嫌な顔をして、どうして友達になれないんだと憤りの表情も隠さずに話した。おまけにリュカの後ろには馬鹿デカイ猫がぴたりとつき、ヘンリーを品定めするようにうろつき回るから、ヘンリーは猫から逃げるように椅子の上に乗ったり、手で追い払ったりした。
今でもその時のことを、リュカははっきりと思い出すことができた。ヘンリーと出会った時の、嫌な気持ちは忘れがたいものがある。威圧的で近づけない雰囲気で全身を覆い、来る者は理由なく全て拒む姿勢に、リュカは正直、友達にはなりたくないと思っていた。しかしラインハット王や父の頼みは真剣なもので、リュカは子供心にも彼と友達にならなくてはいけないのだと、理解していた。
今では無二の親友だと、リュカは迷いなく言うことができる。隣のベッドで背中を向けて横になっているヘンリーの姿を暗がりに見ていると、尚のこと彼を友達だと思える。恐らく、ヘンリーは眠ってはいないだろう。リュカも大して眠れはしなかったが、その間にもヘンリーの寝息が聞こえることはなかった。寝返りを打っている気配も感じなかった。
「おはよう、ヘンリー」
暗がりの中で声をかけてはみたが、返事は期待していなかった。案の定、ヘンリーは背を向けたままじっと黙ったままだ。リュカは構わずにベッドから起き出し、近くに置かれていた自分の旅装を手に取ると、手早く着替えた。昨夜のうちに、宿の夫婦が服を乾かしてくれていたようだ。
リュカは二度目の朝の挨拶をすることなく、ヘンリーを残したまま部屋を出て行った。彼は起きているにも関わらず、返事をしないだけだ。恐らく、ヘンリーの心境は自分よりもずっと複雑なのだろうと、リュカは想像した。だからあえて彼を置いて部屋を出ないと、きっとヘンリーはずっと動かないだろうと、リュカは一度宿の外に出ることにした。
宿の受付には眩しい朝日が差し込んでいた。窓もない洞穴の宿には、扉を開け放していないと明かりが取り込めない。宿の主人は気持ちの良い朝日を入れるため、入口の扉をほぼ全開にしていた。季節がら、丁度良い暖かさの日差しが入口に差し込む。
昨日の雨はすっかり上がり、洞穴から覗く空は薄青色だった。リュカは眩しそうに目を細めて宿の出入り口を出ると、一瞬、村の景色から目を逸らすかのように目をきつく閉じた。昨日の雨が残っているのか、辺りに漂う空気は湿っている。目を開いた先に広がる景色は、残る雨のおかげでぼやけ、村全体を靄に包んでくれている。襲撃を受け、傷ついたままの村の姿は、まだリュカの前にはっきりとは現れない。そのことが今のリュカにはありがたかった。
しかし靄のかかる景色でいられるのも、朝のひと時だけだろう。じきに靄は晴れ、太陽の下、サンタローズの現実がリュカの目の前に現れる。リュカはまだ靄のかかるこの朝の時間に、自らサンタローズの村の様子を見に行こうかと、一人歩き出そうとした。昨日の昼から何も口にしていなかったが、空腹も喉の渇きも、何も感じなかった。
「俺も行くよ」
後ろから声が聞こえ、リュカは足を止めた。掠れた小さな声だが、朝の静かな空気の中ではよく響いた。
「無理しなくていいよ。宿で休んでて」
「休んでられるかよ。俺もちゃんと見ておく」
村のどこかで、鳥が鳴いている。靄がかかり、一体どこに鳥が止まるような木があるのか分からないが、サンタローズの村はまだ生きているのだと感じた。白い靄に遠慮するように、鳥の声も控えめだが、靄が晴れて日差しが地に届くほどになれば、鳥たちも朝の会話を何に憚ることもなく始めるだろう。
サンタローズが襲撃されたのは十年も前のことなのだ。その間、村の教会には神父とシスターが、村の道具屋を改装して宿にした夫婦が、村を見捨てて離れることなく、生活を続けてきた。この村だけ、時が止まっているわけではない。一度焼き払われた村には既に、何にも負けない雑草が茂っている。時はいかなる時でも流れ続けている。
「一人でいるより、誰かといた方がいい」
ヘンリーの言葉に、リュカは「そうかも知れないね」と小さく答えた。朝靄が徐々に流れ、村の景色が晴れて行く。リュカが後ろを振り向くと、ヘンリーと目が合った。互いに泣き腫らした目を見て、思わず笑った。
「ひどい顔してるね」
「人のこと言えるかよ」
「近くに川が流れてるんだ。そこで顔を洗ってから行こう」
どこに行くかは言わなかった。村を周って見るにしても、行く先は一つ。昨日、真っ先に向かおうとして止めてしまった、かつての自分の家だ。当時、まだほんの子供だったリュカは、家の書棚にある本の一つも読めなかった。その中には父が仕事で使っていた本もあったはずだ。文字の読めるようになった今、その本を読めば、何かの手がかりになるかもしれないと、リュカはサンタローズの現状とは切り離してそう考えていた。
互いの顔を見た後、いくらか安心したのか、二人の腹が鳴りだした。昨日の昼頃から食べていないことを思い出したように、二人は揃って空腹を感じた。
「お客さん、朝食も食べずにお出かけですか」
宿の主人が外にいた二人に声をかけに出て来ていた。その手には布の包みがある。
「簡単なものですけど、これを持っていってください」
布の包みには小さなパンが二つとリンゴが入っていた。二人はありがたくそれを受け取ると、まだ靄のかかる村の中を歩き始めた。



しばらく歩いているうちに、村を隠してくれていた靄は流れ消え、リュカとヘンリーの目にはサンタローズのひどい有様が嫌でも映った。村と言う景色はそこになく、建物らしき影は一つも見えない。自然豊かだった村の景色も、荒れた自然に侵されたものになっている。人の手によって壊され、人の手が加わらない自然というのはこれほど荒れ果ててしまうのかと、どこか遠くの世界を見るような目で眺めていた。
その景色の中で、教会だけはぽつんと何事もなかったかのように建っている。屋根の天辺に掲げられる十字架が眩しいのが空しく感じる。しかしこうして昔のままにとどめられている建物があるということは、とリュカはかつての自分の家が無事であることを、根拠なく信じていた。村の他の建物のように、自分が住んでいた家が壊され、なくなっていることをどうしても想像することができなかった。
教会の横を通り過ぎ、しばらく歩けば自分の家が見えるはずだった。ずっと父に連れられ世界を旅していたリュカにとっては、幼い頃のサンタローズの記憶はそれほど色濃いものでもないが、それでも家までの道は身体が覚えている。村の中は安全だからと、父はリュカに村の中で自由に遊ぶことを許してくれていた。リュカはプックルを連れて好きに村の中を歩きまわっていた。その時の記憶が身体に染みついていた。
もう家が見えても良いくらいに、教会からの道のりを歩いていた。昔は教会から家まで道が続いていたが、今その道はなく、雑草や、雑草すら生えない焦土と化した土の上をリュカとヘンリーは歩いていた。リュカは辺りを見渡すが、家らしき建物は依然として見えない。村の景色は見晴らしの良いままだ。信じたくないと思いながらも、リュカは現実を受け入れる覚悟を、徐々に調えて行った。
子供の頃でも、家から教会までの道のりはそれほど遠くは感じなかった記憶がある。リュカは一度立ち止まり、辺りを見渡した。期待する父とサンチョと暮らしていた家の姿は見当たらない。軒並み破壊された建物の名残が、風化しながらそこらにあるだけだ。
一つ、建物とは違う村の遺物をリュカは見た。石積みの枠に囲まれた、井戸があった。水をくみ上げるための滑車はなく、ただ井戸の石枠が残されているだけだ。リュカはその井戸の近くに、太ったサンチョの姿を見たような気がした。
「ここだ、僕の家」
リュカは建物も何もない空間に目を留めた。井戸の傍にあるのは、破壊し尽くされたかつての家だった。建物だった面影もなく、ほとんど更地に近い状態のそこには、毒の沼地が広がっていた。痛々しい村の景色に半ば呆然として歩いていたリュカは、毒の沼地の異臭に気付くこともなかった。
隣に並ぶヘンリーが、何も言わずにリュカと同じように、かつて家だった場所に目を落とす。サンタローズでの幼いリュカなど知らないヘンリーだが、村の他の建物に比べても、よりひどく、何も残らないほどに破壊されたリュカの家を見て、何も言えずにただ立ち尽くしていた。
自分の家と信じたくない思いとは裏腹に、リュカは丸見えの家の中に、地下へ下る階段があるのを見つけた。記憶の一部が蘇る。家の床下には確かに、地下室があった。リュカはその地下室で妖精のベラと会い、プックルと共に妖精の村へ行ったのだ。その時の記憶が、白く輝くものとして、嫌でも胸の中に蘇る。
「……下に、みんな隠れてるのかも知れない」
リュカは唐突に、過去の穏やかな日々の記憶に取り囲まれる思いがした。破壊された村の景色が夢で、あの地下室に下ればかつてのサンタローズがある。リュカは逃げるようにそう思いこみ、地下室への階段へと歩いて行く。階段の周りに毒の沼が広がっているが、その現実が今のリュカの目には映らない。
「おい、待てよ、どこに行くんだ」
「どこって、僕の家だよ。みんなね、下に隠れて僕を驚かそうとしてるんだ」
「何言ってるんだ、お前……」
「サンチョも人が悪いよね。そんなことしないで、いつもみたいに美味しい料理を作って待っててくれればいいのに」
「しっかりしろ、リュカ」
「プックルが妖精の村に行きたがってるかも。もう行けないんだよって教えてあげないと」
リュカの目は何も見ていなかった。ただ地下室に下る階段だけが、リュカの目に映っていた。その先には今まで見てきたサンタローズの惨状を払拭してくれる、温かな現実があるのだと、リュカはそれが当然だと言わんばかりに、毒の沼地に平然と足を踏み入れた。
「父さんが地下室にいるなんて、珍しいな。僕を捜しに行ってるのかな。僕が外から帰ってきたら、驚くだろうなぁ」
リュカのブーツが毒に浸かる。夢に浸るリュカを現実に引き戻すのが、ヘンリーは怖かった。しかしこのままでは、リュカが村中を歩き回り、かつての知り合いを捜し始めるかもしれない。それも、幸せそうな顔をしてだ。そのまま帰ってこないリュカを想像するのは、もっと怖かった。
毒の沼をずぶずぶと進むリュカの肩を、ヘンリーは思いきり掴んだ。ぼうっとして視点の定まらないリュカは、振り向いてもヘンリーを見ない。あらぬ方向に視線をやり、穏やかな表情をしている。しかしその穏やかな表情は、実のない空っぽのものに違いなかった。
「パパスさんはもういないんだ」
一番口にしたくない言葉を、ヘンリーは言った。リュカも、父のことを『パパス』という名で呼ばれたことに、どこかに流されそうになっていた意識が戻った。何も見ていなかったリュカの視点が、目の前のヘンリーに徐々に定まる。幼い頃のサンタローズでの記憶の中に、ヘンリーがいるはずはなかった。まだ出会っていないはずの彼が目の前にいる。リュカの視線が泳ぐ。考えようにも、まとまりがなく、辻褄が合わず、何も言葉を発せないまま、リュカはただヘンリーを射るような視線で見つめた。
「いないんだよ、誰も」
毒の沼の中でたたずむ二人に、晴れた爽やかな風が吹く。しかしその風が運ぶのは、毒の臭気だった。吐き気を催すほどの強い臭気に鼻が気付き、リュカは足元に広がる毒の沼を見下ろした。泡を吹く沼の表面は、陽に照らされ深い紫色に照り光っている。人の暮らす家の中に、毒が広がっているわけがない。
両足の力が抜け、崩れ落ちそうになるリュカを、ヘンリーが支えた。自分の力で立つ力も失ったリュカを抱えるようにして、ヘンリーは足元に広がる毒の沼地から出た。
かつて自分の家だった場所を、リュカは正気の戻った目で眺めた。家だった名残は、一つもない。二階建ての小じんまりした家だったが、屋根も壁も窓もなにも残っていない。瓦礫すら綺麗に片づけられている。そこに家があったのかどうかも疑わしいほどに、リュカの記憶ごと全て消えてしまいそうだった。
しかしここには父が、サンチョが、プックルがいた。隣町のビアンカが来ていた時には、二階の部屋で本を読んでもらったこともあった。父が仕事と言って家を出た後は、窓から父の姿を見送った。夕食時になると、二階の部屋にもサンチョの作る美味しい料理の匂いが漂った。地下室で妖精の村に続く階段が光り輝いて現れた時には、プックルが恐る恐るその階段に前足をかけた。
リュカの幸せだった頃の記憶は、そう簡単に消えることはない。その記憶があるおかげで、リュカは今まで生きてこられた。全て壊され、燃やされ、机もイスもベッドも本棚も何もかもが灰燼と化した場所だが、確かにリュカはここで幼い頃のひと時を暮らした。目を瞑って過去に耽れば、たとえその時の家の中の様子がおぼろげになろうとも、その時感じた幸福な気持ちを忘れることはできない。
「家がないんじゃ、手がかりも見つからないね」
自分の家だけは無事なんじゃないかと、根拠のない自信を秘めていた。子供の頃には教えてもらえなかった様々なことを、家の中のそこかしこから探るつもりだった。毒にまで浸食された家の中には、何も残っていないのは一目瞭然だった。
「コレ、食おうぜ」
ヘンリーは手にしていた包みを上げてリュカに見せた。先ほど、宿の主人が手渡してくれたパンとリンゴだ。毒の沼が広がる臭気漂うこの場所でものを食べるなど、普通では考えられなかったが、リュカは彼のその言葉に頷いた。
「家でご飯を食べるのは、当たり前だよね」
「ああ、そうだ」
二人は庭だったところで地べたに胡坐をかき、パンを食べ始めた。固くて噛みごたえのあるパンだったが、ヘンリーがナイフで半分に割ったリンゴと合わせて食べれば、ほど良い水分と一緒に喉を通った。すぐ傍にある井戸の水は涸れていないようだが、水をくみ上げる滑車がないことには水をくみ出すこともできない。第一、家が毒に侵された状態では、井戸の水も飲めるとは期待できなかった。
食べ終わったリンゴの種を、二人とも地面に吐きだした。一度、この村は完全とも言えるほどの焦土と化したのだろう。しかしその時から十年ほどをかけて、地面にはそこここに雑草が茂っている。
リュカはリンゴの種を拾い、近くの地面を掘りだした。何をしているんだという怪訝な表情で、ヘンリーがその様子を静かに見ている。
「もしかしたら、木になるかも知れないよね。僕たちがこの村を出て、しばらくしたら、ここにリンゴの木がなるかなあって思って」
「ああ、悪くないと思うぜ、そういうの」
リュカが檜の棒を使って地面を掘りだすのを、ヘンリーも手伝った。ナイフの先で固い地面に穴を開け、先ほど吐きだしたリンゴの種を入れると、上から丁寧に土をかぶせる。そんなことをリンゴの種の数だけ行い、二人は手を土に汚しながらその作業を終えた。
「なんだか、すっきりしたよ」
「そうだな、何でだろうな」
思い出ごと消されそうになった何もない家だが、ここに新たにリュカは夢を植え付けた。もしここでリンゴの木が育てば、決して良い思い出ばかりが蘇るわけではない。もし村が復興を遂げ、その中でリンゴの木が実をつけていても、リュカは今のこのサンタローズの惨状を思い出すだけかもしれない。しかし、一度死んでしまったこの村に、自分の手で新しい命を芽吹かせたかった。何かを変えたいという漠然とした想いだが、リュカはその想いだけでリンゴの木がここに育つことを願った。
「行こう」
「もう、いいのか?」
「うん、思い出に浸ってたって、何も変わらないよ。村には他にも人がいると思うから、会って話を聞いてみなきゃ」
「親父さんのこと、深く知ってる人がいるといいな」
ヘンリーの言葉に、リュカは家から仕事場に向かう父の姿を思い出した。いつも家の二階の部屋から、父が教会の方へ向かって歩いて行くのを見送っていた。家で書物を調べることもあったが、父は主に家を出て、教会へ向かう道を歩いて行った。一度、父の後を追いかけようとしたこともあった。その時は道の途中で会ったビアンカと一緒に教会に行った記憶がある。教会の神父に『父は洞窟の様子を見に行った』と教えられた記憶が蘇ってきた。これほどに何も残らない村にいても、リュカの幼い頃の記憶はところどころ鮮明に残っている。
リュカが歩き出すと、ヘンリーも黙って後ろを歩き出した。食べ物を少しお腹に入れたことで、二人の気持ちも少し落ち着いていた。
何もかもが壊された村だが、自然の力はその破壊の力にも負けていない。村の中を流れる川は、昔と同じように澄んだ流れを止めず、涸れることなくそこにあった。昨日の雨で流れがいくらか速くなっていたが、さほど増水しているわけでもないのを見て、リュカは土手を駆け下りて行った。川の中にじっと目を凝らすと、そこにはしっかりと生き物の気配があった。
「魚がいるね」
「後で獲って、焼き魚にしようぜ」
「魚なんて久しぶりだね、美味しそう」
川沿いを歩く二人の会話が聞こえたのか、見えていた魚は逃げるようにどこかへ泳いで行ってしまった。川はサンタローズを囲む山の奥から湧きだして流れている。リュカはこの川が洞窟に続いていたことを、川沿いを歩きながら思い出していた。まだ六歳だったリュカは、洞窟に魔物が潜んでいるとも考えずに、一人で洞窟探検を試みたのだ。その洞窟から流れる川がこれほど澄んでいるということは、洞窟の中までは破壊されていないことを直感的に感じた。
川沿いに歩いて行くと、ふと土手の陰に幼いビアンカの姿を見たような気がした。村の中を散歩していた二人は、この場所でそれぞれ家と宿に戻ろうと、別れた。その時の彼女の顔が怒ったような顔つきだったのは覚えていたが、それがどうしてだかリュカには思い出せなかった。
村を歩いているだけで色々なことを思い出し、色々な人に会いたくなる。その中の一人がビアンカだった。幼い頃からしっかり者だった彼女なら、色々なことを教えてくれそうだと、リュカは隣町のアルカパへと思いを馳せた。二つ年上の彼女は今やしっかり者の宿屋の女将として、アルカパの宿を営んでいるのかもしれない。お転婆と言われていた彼女だが、大人になって少しは落ち着いただろうかと考えると、リュカには落ち着いた彼女が想像できなくて、思わず笑ってしまった。
「なんだよ、突然」
「いや、会いたいなぁって思ってさ」
「誰に」
「ビアンカに」
「この村の女か? 何度かその名前を聞いたような気もするけど」
「何度か話してるかもね。ビアンカとの思い出は、今では楽しく思えるからね」
「今では、ってなんだよ。その時は楽しくなかったのか」
「楽しくなかったこともないんだろうけど、ちょっと、追いつけなかったんだろうな」
「なんだそりゃ、足が速かったのか」
「色々と速かった気がする」
「ふうん、俺も一度会ってみたいな、そのビアンカってヤツに」
「ヘンリーと会ったら、すぐにケンカしそう」
楽しそうに笑うリュカを見て、ヘンリーは納得できないような思いだったが、内心安心していた。そして今のリュカを自然に笑顔にできるビアンカという娘に、すぐにでも会って話がしたいと思った。この村を訪れてどん底にまで落とされたリュカを救えるのは、彼の幼い頃を知る人物なんだと、ヘンリーは嫉妬にも近い感情と共に彼女に期待した。
川沿いを進み、朝日から昼の強い陽に変わりかけた頃、二人は昨日訪れた教会の近くまで足を進めた。土手に作られた土の階段を上れば、教会の建物が見えるはずだった。一度教会に寄るつもりだったリュカだが、川沿いの道はまだ先に続いている。村には教会以外の建物は残されていないと思っていたが、川沿いを進んだ先に、建物の影があることに気がついた。この道もビアンカと一緒に歩いた記憶がある。見える建物には確か、老人が一人、住んでいた。
「もしかしたらいるかもしれない」
「なんだ、教会に行くんじゃなかったのか」
土手の階段を上らずに川沿いを進み始めるリュカに、ヘンリーが後ろから声をかける。
「そうか、村長さんだったのか」
唐突にリュカは事実を知った。幼い頃は単に村人の一人だと思っていた。村にある民家や店は軒並み破壊され、跡形も残っていないものがほとんどだが、教会近くに建つ、村の中では大きなこの民家は唯一襲撃を免れたように形をとどめていた。石壁は苔むし、家の周りは雑草で埋め尽くされていたが、屋根も壁もある民家としての形をとどめているのは、この家が特別だったからに違いない。
家の入口に向かう道があった。そこだけ雑草が取り除かれ、人が行き来できるような道になっている。恐らく教会のシスターか誰かが、村長に敬意を払うように、家周りの世話などをしているのだろう。
リュカは扉を二、三度叩いた。家の中から返事は聞こえない。村には鍵がついている民家などなく、人々は互いに信頼し合っていた。村長の家も同様に、玄関の鍵はついていなかった。リュカはゆっくりと扉を開けた。
家の中は湿気に満ちていた。外観からは無事に見えた家だが、やはり被害は受けているようで、昨日降った雨が屋根から雨漏りして床を濡らしていた。しかしベッドの上に静かに横たわる老人にとっては、大した問題ではないようだ。幸いなことに、ベッドの上には雨漏りしていないようだ。
「お邪魔します、おじいさん」
ベッドの横たわる老人は既にリュカを見ていた。しかし目はうつろで、その目にはっきりとリュカの姿が映っているわけではない。ただ家の中で動く何かを、うつろな目で追っているだけのように見えた。
ベッドの傍らに置かれたサイドテーブルの上には、水差しと吸い飲みが置かれていた。吸い飲みにはまだ水が少し残っているが、それは今朝老人が飲んだ残りのようだ。
「リュカ君、よう来なすった」
嗄れた老人の声だが、はっきりと名前を呼ばれたことに、リュカは驚きも隠さず老人を見つめた。咳き込んだ老人の背中をさすり、咳が落ち着くと、老人はサイドテーブルに置かれている吸い飲みに手を伸ばした。リュカは信じられないほどに軽い老人の身体を起こし、老人の口に吸い飲みを当てると、老人は喉をひゅうひゅうと鳴らしながらゆっくりと水を喉に通した。
背中を支えるリュカの手に、老人はそっと手を添えた。生気が戻ったような老人の瞳に、リュカも安心して背中を支える手を退けた。
「起き抜けが一番辛くてのう。すまんかった」
相変わらず老人の声は嗄れていたが、ベッドの上に起き出した姿は意外に元気そうに見える。背筋も老人のそれのような曲がり方はせず、比較的しゃんとしている。
「おじいさん、僕のこと、覚えていてくれたんですね」
「パパス殿の息子を忘れるわけがなかろう。それにしても、小さい頃のまんまじゃ」
「あはは、そんなに成長してませんか、僕」
「そういう意味じゃないわい。小さい頃のまま、しっかりした子じゃ」
「しっかりしてるなんて、初めて言われました。嬉しいです」
リュカは素直に礼を述べた。老人の言葉は本当に嬉しいものだった。自分のことを覚えていてくれたことも、父の息子を忘れるわけがないという言葉も、しっかりしていると言われたことも、何もかもが嬉しかった。
「ところで、そっちの子は誰じゃ。あの時の女の子じゃないようじゃが」
リュカの後ろで目立たないように立っていたヘンリーが、居心地悪そうに顔を歪めた。老人から目を逸らそうとしても、まるで射ぬかれるように見つめられ、ヘンリーは逃げ場のない心境で老人の視線に耐えていた。
「僕の友達です。今、一緒に旅をしてるんです」
何の迷いもなく『友達』と紹介してくれるリュカが、ヘンリーには有難かった。それと同時に、信じられない思いがした。リュカはあえて、ヘンリーの名を呼ぶことを避けていた。襲撃を受けたサンタローズの村人が、その原因となったラインハット王国第一王子の名を知っていてもおかしくはない。この村の村長ならば尚更だ。
村への襲撃を悲しむリュカには、目の前の村長にヘンリーを突き出すことも可能だった。ヘンリーはサンタローズの村人に会う度に、そうされることを覚悟していた。しかしリュカはそんなことは微塵も考えていないようで、ヘンリーをただの友達と見ている。懺悔の気持ちで自ら名乗り出ようと、口を開きかけても、リュカの本心を測りかねて、結局ヘンリーは何も言い出せないままだった。
「パパス殿はどうされた?」
老人は恐らく、分かっていて聞いているのだろう。しかしそれと同時に、信じたくないという気持ちもあるに違いなかった。リュカの隣にパパスがいないことは、それだけで事情を察するに余りあった。
「父は亡くなりました。もう十年くらい前です」
リュカは淀みなく答えた。老人はまるで謝るように頭を下げ、リュカの肩に細枝のような腕を伸ばし、手を置いた。勝手に冷たいと思い込んでいた老人の手は、リュカの凍りそうになる心を溶かすかのように、温かだった。
「リュカ君はお父上が旅をしていた理由を知っているのかね」
「父は母を捜す旅をしていたと聞きました。だから僕も父の意思を継いで、母を捜して旅をしています」
リュカはただ端的に、それだけを老人に話した。老人もリュカのこれまでのことを聞き出そうとするわけではなく、全てを見通したような目で静かに頷いた。リュカの目には確かに、父パパスの遺志が継がれているように老人は感じた。
「そう言えばあの当時、パパス殿は洞窟の中に大切な物を隠していたようじゃ」
「大切なもの? なんでしょうか」
「儂にもそれは分からん。一度聞いたこともあったが、言葉を濁されてしもうた」
村人に、それも村長である目の前の老人に隠し事をする父が、リュカには想像できなかった。信頼するサンタローズの人たちにも隠しておきたい何かが、小さい頃に探検した洞窟の奥にあると言う。闇雲に進んだ洞窟の道はさっぱり覚えていないが、小さい頃に一人でも無事に探検できた洞窟だと思えば、たとえ魔物がいようとも不安に思うことはなかった。
「何年も経っているのでどうなっているかは知らんが……恐らく洞窟の中はあの頃のまま残されているはず」
「僕、行ってみます。父のことだからきっと、何か旅の手がかりになるものを残していると思うので」
リュカが礼を言って部屋を出ようとすると、老人はその後ろ姿を呼びとめた。
「洞窟への道は、そっちではないんじゃ」
そう言いながら老人はベッドから足を出し、意外にもすんなりと床に立った。振り返ってその姿を見たリュカは慌てて老人を支えようとしたが、その必要はなかった。ベッドに立てかけてあった杖を手にし、それを支えに床に立っている。老人は細い目で目配せをすると、「ついてきなされ」と静かに言って、部屋の奥へと足を向ける。
部屋の奥には勝手口があり、老人はその小さな扉を開けると、裏庭へリュカ達を案内する。誘導されるがままに勝手口を出て、リュカは見たことのある景色に遭遇した。家の横には川が流れており、その対岸の景色は丈高い雑草で覆われている。リュカはその丈高い草をかき分けて洞窟に入って行った自分の姿を、客観的に見たような錯覚に襲われた。
「お父上はここから筏を進めて、洞窟の奥に入っていたようじゃ」
老人の指し示す先には、手作りの小さな桟橋が川に突き出ており、そこに筏が一つ、繋がれていた。辺りを見れば、この辺りに襲撃の跡は見られない。ラインハットの兵士たちは襲撃の手をここまで伸ばしてはいないようだ。筏は年月と共にかなり風化していたが、乗れないほどではなさそうだった。
「仕事と言って家を出た父が向かっていたのは、ここだったんですね」
「お主が小さい頃に行ったのはあっちの道じゃろう」
老人が指差すのは、草に覆われ、小さな子供など隠してしまうような対岸の原っぱだ。
「知っているんですか」
「幼い子供が一人で洞窟に入って、無事に戻ってきたことが、この小さな村で話題にならないとでも思うか?」
老人がにこにこしながら話すのを見て、リュカは思わず頭を掻いた。村にそんな話題が上っていたことなど、今の今まで知らなかった。さすがパパスの息子だと、かつての村人たちはリュカを褒めて、会話に上らせていたらしい。
「気をつけて調べなされよ」
老人はにこやかな表情で、杖に身体を預けながらリュカ達を見送る。リュカは筏の繋がれている小さな桟橋に乗ると、筏を漕ぐためのオール代わりになる長い棒を手にした。水をかくための棒ではないようだ。小さな筏にはあまりにも不釣り合いな長い棒に、リュカは思わず首を傾げる。
「それで川の底を突くんじゃ。川の流れに逆らって進まねばならんからのう。相当な力がいる」
老人に言われた通り、リュカは長い棒を川の中に突き刺してみた。川の水深はそれほど深くはなく、恐らくリュカが川の中に入れば、頭くらいは出るほどの深さだった。ただ泳いで行くのは憚られた。どれだけの距離を進むのかも分からず、おまけに洞窟の中の暗闇を進むのだ。
リュカは隣に立つヘンリーを見た。ヘンリーは川に浮かぶ筏を見下ろしながら、何やら苦しげな表情をしている。リュカにはその理由が分かっていた。ラインハット東にある遺跡でのことを思い出しているのだ。
陽に晒される川は明るく、美しい。しかし山奥から流れ出る川の源は、洞窟の奥深く、暗闇の中にある。暗闇の中をこわごわと筏を進めると考えると、リュカもヘンリーと同じように、あの時、遺跡から逃げ出そうとした時のことを思い出してしまった。その記憶は、最終的に絶望に導かれて行く。
「俺も探すぞ。何でもいいからリュカの手伝いをさせてくれよ」
ヘンリーがその記憶をかき消すように、はっきりとリュカにそう言った。リュカも彼の声を聞いて、今はあの時とは違うのだと、現実に戻ることができた。あの時のように子供でもなく、既に父はここにいない。
父の過去を知ろうと洞窟の中を探るだけで、それはむしろ、リュカの楽しみでもある。子供の頃には知りえなかった父の考えや行動が、洞窟の奥深くに眠っているのかもしれない。筏に乗って暗い川を進むと言う、あの時と状況が似ているだけで、その目的は正反対と言って良いほど違うのだ。
考え方を切り替え、リュカは幼い頃に一度、この洞窟を訪れた時のことを思い返した。その時何故洞窟に入ったのかを思い出す。
父の後を追いかけようとした。誰かに、父が洞窟に入って行ったと聞いたような記憶がある。あの時も今と同じように、父の背中を追いかけようとしたのだ。しかしその時は、たまたま洞窟の中で倒れていた道具屋の主人を見つけただけだった。そのまま洞窟に入った目的など忘れ、サンタローズを離れアルカパに行き、村に戻ってきても妖精の村に行ったりして、サンタローズに洞窟があることすらすっかり忘れていた。毎日が飛びすさぶように過ぎて行った。
「君と一緒にここに来られて良かった」
リュカは心底そう感じていた。父の影響を一番に受けているのは間違いなく息子のリュカだが、目の前にいるヘンリーも少なからず影響を受けている。ラインハット東の遺跡で、父に頬を叩かれたヘンリーの姿を思い出す。
「……気持ち悪いな。そういうのは女に言えよな」
「そういうもんなの?」
「そういうもんだろ」
真面目に聞き返すリュカの顔を見て、ヘンリーは思わず笑った。ふと出た自然な笑顔に、リュカはヘンリーとの間に感じていた嫌な距離感が、錯覚だったのだと思えた。
ラインハットがサンタローズの村を襲った過去は覆せない。その原因となったのが、ヘンリーの失踪であり、ささいなきっかけは彼のいつも通りの小さないたずらだった。しかし物事の原因が一つだと考えるのは、あまりにも簡単だった。その時ちょうど、パパスがリュカを連れてラインハットを訪れていた。その時たまたま、リュカはヘンリーの部屋を訪ねていた。偶然にもプックルが椅子の下の階段を見つけた。全てが偶然で、運命だった。
たとえばあの時プックルが椅子の下の階段を見つけなかったら、ヘンリーは誰にも見つけられないまま男たちに連れ去られ、そのまま亡き者にされていたかもしれない。リュカとヘンリーが一緒にいるところに来た男たちが、間違えてリュカを連れ去っていたかもしれない。可能性は様々で、誰が助かり、誰が犠牲になるかなど、誰にも分からなかった。
だからこそ、リュカは共に助かり、今も行動を共にしているヘンリーがいることが、何よりも有難かった。
筏を繋いでいたロープを外し、先に筏に乗るようにヘンリーに促す。そろそろと足を乗せるヘンリーだが、筏は見た目よりも頑丈で、大した揺れもなくヘンリーを乗せた。当時の父が使っていたものだと思うと、それ相応に頑丈なのも頷けた。リュカも手にしていたロープを筏に上に投げると、自分も乗りこんだ。筏を進めるための棒を手にし、試しに川底を突いてみる。澄んだ川の中で、魚が逃げて行くのが見えた。
「おじいさん、行ってきます」
「気をつけるんじゃぞ」
「父が何をしていたのか、ちゃんと見てきますね」
「後で儂にも教えてくれぃ」
リュカはにこやかに返事をすると、筏を進め始めた。つい櫂のように筏の横で水をかこうとしてしまうが、そうすると筏が回転してしまい、そのまま川の流れに乗って村の中へ押し戻されそうになる。コツをつかみ、力強く川底を突けば、筏はグンと進んだ。洞窟の入口に入る手前で、リュカとヘンリーは見送ってくれている老人に小さく手を振った。ただニコニコしている老人を見て安心した気持ちのまま、二人を乗せた筏が洞窟の入り口をくぐって行った。

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