2017/12/03

真実というもの

 

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文献に載るほど昔から存在する塔だが、堅固な造りのためか、長年の風に晒されながらもどこも崩れることなく現在にまで存在している。封印の解かれた入り口を入ると、左右に広い回廊が伸びているが、正面にはまた外に出たかのような景色が広がっている。今は夕陽の橙色に照らされ、そこは穏やかな空気で満ちていた。
リュカたちは自然と目の前の外の景色に向かって進んだ。そこは塔の中庭で、まるで常に手入れされているかのように整然としていた。庭に生える草花は無造作に伸びることもなく、そこには自然の秩序が見える。塔の窓から吹き抜ける風に揺れ、耳に心地よいさらさらとした音が中庭全体に響いている。二つある泉はどこから湧き出ているのか、常に澄んだ水で満たされ、各々の泉の中央には石の女神像が慈悲ある微笑みで庭を眺めているようだ。天国や楽園を表現するなら、恐らくこのような場所なのだろうと思えるほどに、今リュカ達がいる場所は現実の世界とかけ離れているように思えた。
しばし中庭をぼうっと眺めていた一同の前に、ふと何かが動く気配があった。その瞬間、リュカは塔の中には魔物がいるのだということを嫌でも思い出し、我に返った。
「何だろう、あんなに低い草に紛れているのかな」
目を凝らして何かが動いた場所を見つめるリュカだが、整然とした草花はただそよ風に揺られているだけだ。そこに不穏な雰囲気を感じるわけではない。しかしそこに何かがあるという確信はある。 何かの罠かも知れないと、視野を広げようと顔を上げた途端、それははっきりと見えた。
高貴な衣装に身を包んだ青年が、真紅のマントを肩に翻して、草花の上にどかりと座っていた。その顔つきからして年はリュカたちよりも少し上だろうか、口元にはわずかに髭を生やしている。座る姿勢は堂々たるものだが、そんな青年が少し背を丸めて手にしているのは目の前に生える小さな花だ。風に揺れる花を優しく手に取り、そして顔を上げ、誰かに話しかけるように口を開いた。しかしその口から声は聞こえなかった。
青年が話しかける先に、一人の女性が立っていた。リュカに背中を見せて立つ女性は、艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、衣装は青年と同じように高貴なもので、草花に埋もれる長衣の裾と長い黒髪がさらりと風になびいて揺れている。青年の呼びかけに応じるように、女性はゆっくりと青年の方を振り向き、何事かを話している。しかしその声もリュカには聞こえない。
天国のようなこの庭園にふさわしい二人の姿をぼんやりと見つめていたリュカだが、女性の足元にいる小さな気配に、思わずあっと声を上げた。女性の足元には、スライムがいた。草花の中でスライムが、女性の足元で懐くようにぴょんぴょんと跳ねている。まるでスラりんが抱っこをせがんでいるようだと、リュカは思わず息を漏らして笑ってしまった。
すっとしゃがみ込んだ女性は、スライムを両手に抱くと、そのまま青年に近づいて行った。口元に髭を蓄えた勇猛そうな青年は、その顔に似合わない柔らかい笑みを浮かべると、その場で立ち上がった。そして近づいてくる女性に、自らも歩み寄る。スライムを胸に抱える女性を、スライムごと抱き寄せようとしたところで、女性がおかしそうに笑ってそれを止めた。
そして、女性はリュカを見た。
目が合った瞬間、リュカはその女性を見たことがあるような錯覚に囚われた。年はリュカと同じくらい、背はヘンリーよりも低くマリアよりは高い。真っ直ぐな髪は癖がなく、さらさらと素直に風に流れる。口元には常に笑みを湛え、漆黒の瞳は様々なものを引きつける雰囲気を醸し出していた。それは人間、動物、はたまた魔物にまで及ぶものだということは、彼女が胸に抱いて手で撫でているスライムを見れば分かる。スライムは心地よさそうにうとうとと目を閉じかけてすらいた。
リュカの記憶の中、ふと脳裏に蘇る言葉があった。
『坊ちゃんはお母様に似てらっしゃいますよ』
サンチョのその言葉に、当時少なからず傷ついた記憶があった。父の強さ、逞しさに憧れる自分は、父ではなく見も知らぬ母に似ているのかと、何も知らない子供の頃はがっかりしたのだ。
今、目の前に現れている女性を見たことがあると錯覚したのは、自分に似ていたからだと、リュカは気付いた。いるはずのない女性が、目の前で柔らかく微笑んでいる。自分が一声かければ、長年の父の夢が果たせるかも知れないと思いながら、リュカは喉の奥で引っ掛かった声をどうしても出すことができない。
―――母さん―――
まるでリュカの心の言葉を聞いたように、若かりし頃の母は静かに頷いた。その様子を見ていた父が、何事かとリュカの方を見つめる。しかし父の視線はリュカに合うことはなく、庭園内を彷徨う。リュカ達の存在は感じていないようで、不思議そうに首を傾げるだけだ。
直後、庭園の草花の上を、強い風が吹き抜けて行った。一瞬、塔の中で風が唸り声を上げ、リュカ達はその突風に思わず目を閉じる。そして再び目を開けた時、庭園には仲睦まじい男女の姿はなく、ただ草花の上でスラりんが目をぱちくりとさせて、辺りを見回していた。
「あら、今そこにどなたかいらっしゃいませんでしたか?」
マリアの声に、リュカは束の間の夢から覚めた気分だった。実際に夢みたいなものだったのだろう。若かりし頃の父と母が、時を越えてこの場所に現れるわけがないのだ。
しかし夢を見たのは自分だけではないということに、リュカは強張った顔つきでマリアを振り返った。マリアも同じ景色を見ていたのだとしたら、リュカが目の当たりにしていた景色は夢ではない。
「そう言えば、神の塔は魂の記憶が宿る場所とも言われているそうです。今の幻影ももしかしたら誰かの魂の記憶だったのかも知れません」
馬車に置いてきた中の文献にそんな記述があったと、マリアは思い出すように諳んじた。
「魂の記憶?」
「かつてこの塔にいらしたことがある方なのでしょうね、きっと。そうでないと、この場所に魂の記憶を刻みつけることはできないでしょうから」
「この場所に……いたことがあるんだ」
リュカは幻影の見えていた場所まで歩いて近づいて行った。風が攫って行った父と母の幻影とは別に、母の幻影に抱かれていたスラりんが一人取り残されたように、心細い声を出していた。リュカはスラりんを抱き上げると、しばしその場にたたずむ。
「リュカ、見たよな」
後ろからヘンリーの声が聞こえた。彼の声は固く強張っていた。それだけで、ヘンリーも自分と同じ景色を見たのだと、リュカには分かった。
「見たよ。ここにいた」
自分の声が自分の声ではないようだった。遠くから聞こえる自分の声に、リュカはまだ夢を見ているような気分になる。
「俺も……。あの人の姿は忘れない」
ヘンリーの低い声の調子に、リュカはやはり自分はもう夢から覚めているのだと実感した。若い頃の父の姿を見て、恐らくヘンリーは自分と同じほどの衝撃を受けたのかも知れない。彼にとっては、生まれて初めて殴られた相手で、ひねくれた彼の心を解きほぐす決定的なきっかけを与えた人物なのだ。
「すると、あの女の人はもしかして……」
「うん、多分、そうだと思う。僕も会ったことはないけど」
「会ったことはなくても、やっぱり分かるもんだな」
「ヘンリーにも分かるの?」
「だってよ、似てたぜ、お前に」
ヘンリーにはっきりと言葉にされ、リュカは思わず顔を歪めた。自分だけで感じていたのだとしたら、思い違いだったのかもしれないという逃げ場はあった。しかしヘンリーに客観的に言われ、リュカは目の前にいた幻影が間違いなくかつての両親の姿、記憶だったのだと確信した。
「前にここに来たことがあるんだね、きっと」
「しかしエラく立派な格好をしていたな。まるでどこかの王侯貴族だった」
「らしくなかったよね。だから見間違いだって初め思ったんだ。そんな格好したこところ、見たことないもん」
「だよな。城に来た時、なんて貧乏くさい戦士を呼んだんだって思ったからな。こんな奴にお守されるなんてごめんだって」
「ひどいね。まあ本当に君には困らされてたみたいだったけどね」
二人の会話の内容は軽い調子のものだったが、言葉を交わしながら二人の声が少し震えたのを、互いに感じていた。
「お知り合いだったのですか」
マリアの声に、二人は何とはなしに微笑んだだけだった。幻影の人物が誰だったのか、はっきりと言う気にはなれなかった。ただそこにいたのが紛れもなく若かりし頃の父と母だったことに確信が持てれば、リュカには十分だった。
「さあ、先に行こうか」
かつて、父と母はこの場所に来たことがあったのだろう。神の塔と呼ばれるこの場所に、一体何の用があって来たのかは知る由もない。入り口の扉の封印をどうやって解いたのかもまるで謎だ。しかし彼らの魂の記憶が、息子であるリュカに反応して幻影として出現したのは紛れもない事実だった。
ヘンリー同様に、神の存在を信じていないリュカだが、それでももしかしたらこの塔には神がかった力が働いているのかも知れないと、リュカは吹き抜けになっている塔の真上を見上げた。夕焼けが夕闇に変わりそうな時刻に移ろうとしている。どこかに神の姿が見えるわけではない。リュカは誰にともなく、心の中で感謝の言葉を述べていた。



塔の二階に上がり、まるで風化していない廊下を進む。吹き抜けになっている塔の中央部分を囲むように石柱が何本も立てられている。その石柱の間からも絶えず風が流れ、リュカ達が進む廊下にも外からの風が流れ込んでくる。それでいて廊下には土埃も何も落ちていないのだ。
「何か神聖な気配を感じます。神がお造りになったというのは、本当かも知れませんね」
本心では神を信じないマリアも、思わずそう言葉にしてしまうほど、塔にはその雰囲気があった。その一つに、塔の中央部分を長く渡る石の廊下がある。下から何かに支えられているわけでもなく、ただ宙に浮かぶようなその廊下にも、何やら神がかった力を感じてしまう。それもこれも、先ほど階下の庭園で見た幻影が影響を及ぼしているのは間違いなかった。
二階の道は一本道だった。しかしこの宙に浮いているような石の廊下を渡るのは少々勇気が必要だった。塔全体は堅固な造りで、長年の風雨にもびくともしないしっかりしたものだが、宙に浮かぶ廊下は何とも頼りない見た目で、一歩踏み出しただけで崩れそうなほど弱々しく、細い。廊下の両側は吹き抜けとなっており、塔に吹きこむ風はその両側を吹き下ろしたり吹き上げたりと、危うさを助長させている。
「風に煽られて下に落ちてもどうしようもないね。ゆっくり行こう」
そう言いながらリュカは風に揺れているマントの裾を掴むと、ベルトの隙間に押し込むようにして通した。マントの内側に風をはらまないよう、抑えつけたのだとマリアは気付いた。そして自身の服装を見て、マリアもその必要があると、足首まで隠す長いスカートをまくりあげる。
「な、何してんだよ、マリア」
「スカートの内側に風が入ると、身体ごと飛ばされてしまうかもしれないので、短く結んでおいた方が良いかと思って」
膝上までまくりあげたスカートを絞るように手にすると、そのまま結び目を作って固定した。
「ヘンリーさん、ちょっと剣を貸してもらえますか」
「何するつもりだ」
「髪が邪魔になるので、切ってしまおうかと」
何の躊躇もなく波打つ美しい髪を切ろうとするマリアに、ヘンリーは怪訝な顔をする。恐らく剣をマリアに渡せば、彼女は首の辺りでばっさりと髪を切り落としてしまうだろう。いくら彼女の意思とは言え、ヘンリーは素直に剣を渡す気にはなれなかった。
代わりに、剣を手に取ると彼は自分のマントの裾をひも状に一部、切り取った。ギザギザに切れたマントの切れ端をマリアに差し出す。
「これでリュカみたいに結んでおけ。それでいいだろ」
「あ、はい、ありがとうございます」
意外なヘンリーの提案にマリアは戸惑った返事をするが、彼から布の切れ端を受け取ると、後ろで一つに髪を結んだ。これで無闇に風に煽られる心配はない。
「私に剣を渡すのは危ないって思ったんですか」
「いや、そうじゃなくて……女の子は髪を大事にするものなんじゃないかって思ったから」
「でもそんなことも言っていられないかと思って……」
「せっかくキレイなんだから、切らない方がいい」
呟くようにそう言うと、ヘンリーはマリアから目を逸らしながら歩きだした。宙に浮かぶ石の廊下の上を、既にリュカが歩き始めている。道幅も狭く、不規則に風が吹くこの廊下を歩くには、一人ずつ進むのが良いと、まずはリュカが先に進み始めたようだ。少し間隔を空けて、ピエールが続く。
石の廊下を渡るリュカは、まだ沈みきらない夕陽に照らされる塔の上部を見上げた。数階上に、今リュカ達が渡る宙に浮かぶような廊下と同じような石造りの道が見えた。しかしその道は道半ばで途切れており、渡ることは無理だと思われた。神の塔と呼ばれる神秘的な塔だから、そこには道ではない何かがあるのかもしれないと、早くそれを確かめたい衝動に駆られた。
「リュカ殿、伏せてください」
後ろからピエールの声が聞こえたが、リュカはその声に反応することができなかった。その直後、思い切り頬を張られる感覚があり、あと少しで渡り切る廊下で思わずよろめく。細い道でよろめき、階下に落ちかけるリュカを、ピエールが慌てて支えた。
「大丈夫ですか」
「うん、大丈夫だけど、一体なに?」
ピエールがさし示すところに目を向けると、天井の一角にびっしりと赤いコケがうごめいていた。赤いコケからは何本もの黄色いロープのようなものが垂れさがり、それらは風に揺られるわけではなく、それぞれ意思を持って動いている。うごめく赤いコケの塊の中で、いくつもの大きな目がギョロギョロと辺りを見回している。目は人間の頭ほどの大きさがあり、気味悪く動く目にじっと見られると、通常の人間はそれだけで足がすくんでしまいそうだ。
再び黄色いロープが飛んできた。リュカは咄嗟にしゃがんでそれを避けたが、天井にびっしりと集まる魔物インスペクターのほとんどが塔への侵入者であるリュカ達に気付いており、次々とロープのように見える触手を振り回してくる。リュカは仕方なく剣を手に取り、自分に向けられる触手を次々と切り落として行った。
「埒が明かないね。呪文で攻撃しないと倒せない」
「しかし呪文を唱える隙をくれませんな」
ピエールもリュカ同様、剣で魔物の張り手攻撃を薙ぎ払っている。後ろを見れば、ヘンリーも同じ格好で魔物の攻撃を避けるのと、マリアを守るのとで精一杯のようだ。インスペクターの黄色い触手は剣で切られようが大した痛みもないようで、おまけにすぐに再生してしまう。天井にびっしりと張り付く赤いコケに埋もれる目を直接攻撃しないと、魔物を倒すことはできないようだ。
「とにかくここじゃ足場が危なすぎる。何とかあっちまで渡ろう」
あと数歩歩けば細い廊下を渡り切れると、リュカは振り回される黄色い触手を剣で避けながらタイミングを計った。背後から振りかかってきた魔物の攻撃をピエールが薙ぎ払うのを見たと同時に、リュカは廊下から向こう側の広間へ転がって飛び移った。廊下を渡り切ったリュカにインスペクターの大きな視線が一斉に注がれる。その瞬間を逃さず、ピエールは走り込んで廊下を渡り切った。赤いコケの中からいくつもの目をギョロつかせるインスペクターは、どうやらこの渡り廊下を渡る侵入者を片端から獲物にしているようだ。獲物として捕えるにはこの細い一本の渡り廊下は格好の場所なのだろう。その証拠に、廊下を渡り切ったリュカとピエールからは既に視線を外し、まだ廊下に取り残されているヘンリーとマリア、スラりんに興味を移してしまった。長く黄色い触手をうねうねと動かしながら、手ぐすね引いて待っている格好だ。
「ヘンリー殿、イオの呪文は唱えられますか」
ピエールがそう呼びかけると、ヘンリーは天井に張り付く魔物との距離を見て、首を横に振る。
「ダメだ、俺の位置からじゃ多分届かない」
ヘンリーが単身であれば、いくらか無茶をして魔物に近づき、呪文を唱える行動を取っただろう。しかし今、彼はマリアを背に庇い、完全に守りの態勢を取っている。マリアが彼の背中を押したとしても、ヘンリーは彼女の意思は尊重せずにその場に踏みとどまるだろう。
「ピエール、僕たちだけでやろう」
「そうですな、仕方がありません。もしかしたら取りこぼしが出るかも知れませんが」
「多分、大丈夫。その瞬間にヘンリーが追い打ちをかけてくれるよ」
リュカとピエールが同時に呪文を唱え始める。インスペクターらは二人のそんな様子には気付かず、まだ廊下の中ほどにいるヘンリーたちに視線を集中している。廊下を通過した者には興味もないらしい。
リュカの手から呪文が放たれると、インスペクターらの周りに強い風が吹き荒れた。垂れていた黄色い触手がぶちぶちと切れ、天井から赤いコケが剥がれ落ち、階下へと落ちて行く。しかしリュカの唱えるバギマの呪文は、対象となる敵が不明瞭なのが欠点だ。それは魔物に対するリュカの姿勢が原因の一つでもあった。彼には魔物を片端から片づけるという意識が薄い。とりあえず目の前にいる、自分の行く手を邪魔する相手だけを対象とするため、運良くその攻撃を受けない魔物が出てくるのだ。
リュカの呪文攻撃で、インスペクターらが一斉にリュカとピエールの方へ注意を戻した。その瞬間、ピエールがイオの呪文を発動する。天井の一角で爆発が起こり、塔全体がその衝撃に揺れる。赤ゴケに包まれた目玉が天井からいくつも落ち、階下の庭園を荒して行く。リュカは庭園に落ちていた自身の視線を、すぐに天井の魔物へと戻した。案の定、数匹の魔物がまだ天井に張り付いて、目玉をギョロつかせている。ピエールの呪文だけでは倒れなかった魔物たちだ。
再度、呪文を唱えようとしたリュカとピエールだが、それを遮るような閃光が彼らの目の前に走った。魔物に焦点を合わせていた二人の視線は、そのあまりの眩しさに視界を遮られ、たまらず目を瞑った。右も左も、上も下も、何も分からない状態のまま、リュカとピエールはどこから飛んでくるかも分からない魔物の攻撃を受け始める。頭や身体、手足に容赦なくロープを打ちつけられるような攻撃に、二人ともただ身を固めて防御するしか為す術がなかった。
そんな攻撃を受けている最中、再び塔内に爆音が轟いた。ヘンリーがイオの呪文を使ったのだと、リュカにもピエールにもすぐに分かった。徐々に目が開けられるようになり、微かな視界で辺りを確認すると、リュカの目の前にはスラりんを大事そうに抱きかかえたマリアの姿があった。
「大丈夫ですか、リュカさん、ピエールさん」
マリアはそう言いながらスラりんを床に下ろし、自ら持ってきたのだろう、薬草を手ですり潰してリュカの腕の傷口に当てた。リュカが痛さに顔をしかめるのにも構わず、他の傷口にも薬草を擦りこんで行く。
「なるべく魔法力は温存しといた方が良さそうだから、薬草で手当てしておけよ」
「そうだね、あんな魔物ばっかりいるようじゃ、これからずっと呪文を使わなきゃいけないからね」
「呪文の使い過ぎで倒れた方から言われると、説得力がありますな」
「うるせぇ、減らず口叩いてないで、お前も薬草を塗りこんでおけ」
ヘンリーがむすっとしながら薬草をピエールに投げつけると、ピエールは真面目な面持ちで傷の手当てを始めた。と思いきや、ピエールの緑スライムは一人、にやにや笑っていた。
目の前にあった階段を登ると、そこには二階と同じような広間が広がっていた。皆が各々辺りを見渡して見ても、何か変わった場所があるわけではない。塔はさらに上に続いているはずだが、上り階段も見られなかった。
「どうやって上に登ればいいんだろう」
「またさっきの魔物がいれば、あの黄色いヤツをロープ代わりにして登れって、そういうことか?」
「大人しく上らせてくれるとは思えませんが。振り払われて階下に落とされ、一貫の終わりとなりそうです」
「それに、ここにはさっきの魔物がいないみたいだよ。下の階で生活してたのかな」
「俺たちが根こそぎ倒しちまったんじゃないのか」
「もしかしたらそうかも知れません」
「あ、あの、目の前の立派な門のようなものは、何なんでしょうか」
マリアの言葉に、三人がその方向を振り向く。階段を登ってきた時に目には入っていたが、その先に道がなく、ただぽっかりと大きな穴が開いてるだけだったため、進む道としては端から除外していた。
マリアに言われて改めてその門を見ると、立派に装飾の施された門で、ただそこにあるだけのものではないように見える。リュカは門まで歩いて行くと、すぐ先にある吹き抜けの穴を下に向かって覗きこむ。風が音を立てて塔内を巡り、リュカの前髪も上向きに煽られた。
門の柱に手をかけ、吹き抜け部分となっている穴をぐるっと見渡すと、正面と、左手に同じような造りの門があるのを見た。その先に続く道を目で確かめると、リュカはそこまで進むための道はどこにあるのかと改めて辺りを見回す。道らしき道はなく、先へ進むとなると、吹き抜けとなる穴の周りに辛うじてついている縁を伝って行くしかない。その縁はリュカの足の大きさよりも少し広いくらいしかない。人一人が横向きになってようやく進めるくらいの狭い幅だ。
「ここを行くしかないんだろうな」
「魔物が出ないことを祈りましょう」
後ろに来ていたピエールもすぐにその状況を察知し、周囲に魔物の気配があるかどうかを確かめた。 「こんなところで戦いたい魔物もいないよ、きっと」
「先ほどの天井からぶら下がる魔物もいないようですし、仕方がありません、進みましょう」
「とりあえず近いところから行ってみよう。あっちの左にある門を目指すね」
そう言うと、リュカは吹き抜けに向かって足を伸ばした。それを見て、スラりんがリュカの肩に飛び乗る。そしてそのままリュカのマントの中に潜り込んだ。
「それが一番安全かもね、スラりん。絶対に落ちないようにするね」
「ピ」
一瞬リュカが気を抜いた瞬間、塔内に吹く風の力が強まる。まるで神が来る侵入者を試すかのような意地悪な風だ。一瞬の突風を身体を縮めて耐え、風が収まるとリュカは再び進み始めた。
「お前はどうやって行くつもりだよ。幅が収まってないじゃねぇか」
「こうすれば平気です」
怪訝な顔で問い掛けてきたヘンリーに、ピエールは緑スライムを器用に縮めて見せた。細身になった緑スライムはじりじりと石の床に擦るようにして、リュカの後を進み始めた。一見、鎧兜に包まれたピエールは動きもぎこちなく固そうに見えるが、下の緑スライムの部分はスライムだけに自在に形を変えることができる。
「便利なもんだな」
「ヘンリー、マリアを連れて来られそう?」
何歩か進んでいるリュカから声がかかると、ヘンリーはマリアの顔を覗きこんだ。
「行けるか?」
「はい、大丈夫です」
マリアの返答は、ヘンリーが予想したものと一字一句相違ないものだった。彼女が己の身を庇うような弱気な発言をするわけがないと思っていた。
「リュカ、気にせず進んでくれ、何とかする」
「うん、頼んだよ」
縁に沿って進むリュカは、後に続くピエールを気にする余裕もないようだ。塔の中央に大きく口を開ける穴に背を向け、足元を確認しながら一歩ずつゆっくりと進むのが精一杯だ。
「マリア、先に行ってくれ。自分のペースでいい」
「はい。では……」
縁に一歩踏み出し、前を行くリュカの姿勢を真似しながら、マリアも進み始めた。吹き抜けの穴を通り抜ける風はやはり意思を持っているように、彼らの行く手を妨害する。壁に手をつきながら縁を進むマリアの修道服をバサバサと煽り、先ずは彼女を、と言った様子で風を強めてくる。ふらつくマリアの腰を、ヘンリーが右腕で何とか支える。マリアが修道服をたくしあげてまとめておかなければ、今頃風の勢いで二人揃って階下に落とされていたかも知れなかった。
「あの、ヘンリーさん、私にはお構いなく。大丈夫です」
ゆっくりと進みながら言うマリアに、ヘンリーはとんでもないと言わんばかりに首を横に振る。
「どこが大丈夫なんだよ。マリアこそ俺に構うな。何にも気にせず前だけ見てろ」
「でも私なんかに構っていたら……」
「でももクソもない。いいから早く行け」
苛々したようなヘンリーの口調に、マリアは何も言葉を返せないまま、ただ足元だけを無言で見つめた。幸いと言うべきか、古い塔の割には造りは堅固なままで、彼らが進む縁の部分も崩れる心配はなさそうだった。今のヘンリーには何を行っても受け入れてもらえない雰囲気を感じたマリアは、そのまま言葉を交わすこともなく、ゆっくりとリュカ達の後を追った。
「どうしたの、二人とも」
何とか縁を歩ききったヘンリーとマリアに、リュカは首を傾げながら問い掛ける。縁を進み、見えていた門をくぐって広い廊下に出たと同時に、二人が不自然な様子で身を離したように見えたのだ。
「何でもない。ところでどうなんだ、上り階段はあるのか」
「この先にあるようですよ。ほら」
ピエールがさし示す方向に、両脇に数本の石柱を従えるような上り階段が見えた。行き先は見える階段で間違いなさそうだ。左右を見渡してみても、他に特別なものは見当たらない。天井を見上げても、階下で見たような赤ゴケ目玉の魔物は棲みついていないようだ。
「鏡って一番上にあるんだろうね」
「こんな塔にわざわざ保管してるんだから、そうとしか考えられないな」
「あとどれくらい上れば良いのでしょう。外から見た時はそれほど高い塔には感じられませんでしたが」
「この上にまつられているのかも知れませんね。でもまだ神の試練があるのではないでしょうか」
マリアの言う通り、神の塔に関する文献には『塔の中で神は来る者に試練を与える』というような記述があったのを、皆思い出した。今までで試練と言えば、入り口の扉の封印を解くことと、吹き抜けの造りの塔内を移動するのに思いの外苦労したこと、それだけだ。
「まあ、行ってみれば何か分かるよ。とりあえず進んでみよう」
リュカの現実的で楽観的な思考に反対する者もおらず、一同は目に見えている上り階段に向かって歩き出した。



「ヘンリー、火をつけてもらえるかな」
「何だこりゃ、何にも見えないじゃないか」
階段を登った四階に当たる場所には、明かりがなかった。どうやら塔中央の吹き抜け部分が壁で閉じられているようで、外からの明かりが全く入らないようになっている。同時に、吹き抜けと接していないため、やたらと風に煽られる心配はない。
ヘンリーが火を灯すと、わずかばかりの視界が広がる。階段を上ってきた場所はちょっとした広間になっており、目を凝らして辺りを見てみると、一か所だけ通路が伸びているのが分かった。
「一本道みたいだね。行こう」
「リュカ殿、この階には魔物の気配を感じます。気をつけて進みましょう」
「うん、そうみたいだね。魔物はやっぱりこういう暗いところが好きなの?」
リュカに問い掛けられると、ピエールは考えるように少し唸った。
「好きというよりは、身を隠しやすいのでしょう。魔物だって無闇に戦いたくはないものです。中には好戦的な種類もいますが、できれば戦いなど避けて通りたいと思っている魔物も決して少なくありませんよ」
「なんだ、やっぱり人間とそう変わらないね」
「ですが、人間に対する恨みや敵意を自然と備えているのが魔物です。人間を見ると襲うのは、どうしようもない本能のようなものなんです。ですから十分に気をつけてください」
「さっそく通路の向こう側から魔物がやってきたようだな。こんな細い通路じゃ、倒さないと進めない」
ヘンリーの言葉通り、彼らが進もうとしていた通路の向こう側から、ガチャガチャと金属がぶつかり合う音を響かせる何者かがやってきた。ヘンリーが手に灯す火を少し大きくすると、通路から現れた魔物の姿が露わになる。
それは鎧兜に身を包んだ戦士の姿をしていた。頭部と顔を完全に覆う鉄仮面を装備しているため、表情はまったく分からない。右手に剣を、左手には鉄の盾を持ち、完全武装して来る者を待ち受けていたようだ。同じ格好をした魔物が全部で四体。背はリュカやヘンリーよりも低く、ピエールとそう変わらないくらいだ。
現れた四体は、まるで自分たちは塔の守護者であるといった様子で、リュカ達が進もうとする通路を塞ぐようにして横一列に並んだ。
「ヘンリーはそのまま明かりを頼むね。ピエールと僕で一気に行こう」
「分かりました。いざという時は私にお任せください」
ピエールの言うところは、たとえ暗闇になったとしても目が利くということだ。もしヘンリーが戦闘に参加せざるを得なくなり、火の明かりが絶えようとも、ピエールは変わらず戦うことができる。そんな彼の意を、リュカもヘンリーも即座に読みとった。
「いざって時はお前も頑張れよ」
「ピー」
ヘンリーは自分の足元にいたスラりんに呼びかける。スラりんは言われるまでもないと言った様子で返事をした。
全身を甲冑に身を固めた魔物、彷徨う鎧は堂々とした動きでリュカ達に剣を向け、先に攻撃を仕掛けてきた。しかしその動きはさほど速くはなく、落ちついて見ていれば避けられる程度のものだ。ヘンリーの灯す明かりが途絶えず視界が保てれば、相手の攻撃は交わせると、リュカは剣を持つ手に力を込めた。
近づいてきた彷徨う鎧にリュカは一太刀浴びせようと剣を横に払う。しかし全身を鎧に包まれた魔物に剣の一撃を加えるのは容易ではない。弾かれた剣を持ち直し、リュカは魔物の鎧の継ぎ目に狙いを定める。
相手の動きは緩慢だが、リュカとピエールの二人が主に戦うのに対して、相手は四体。当然、戦況は不利なものになる。リュカは突然横から感じた殺気に対応できず、左肩に鋭い熱を感じたと思ったら、突如腕の感覚が鈍るのを感じた。左肩を魔物の剣に切られたのだとすぐに分かった。
「リュカさん!」
思わず叫び声を上げたマリアが、リュカの元に駆け寄ろうとする。しかしその手をヘンリーが掴んで止めた。
「ヘンリーさん、リュカさんが怪我を! 早く治さなくては」
「大丈夫だ、あいつは自分で怪我を治せる。落ち着け、マリア」
ヘンリーの集中力が一瞬途切れた。その瞬間、辺りを照らす火の明かりが弱まり、視界が悪くなる。怪我を負ったリュカの姿も、瞬間、闇に紛れてしまった。
人間には視界の利かない中、金属がぶつかり合う音が聞こえる。ピエールが彷徨う鎧と戦っているのだろう。いつの間にか、ヘンリーの足元にいたスラりんの姿もなくなっている。スラりんも魔物である自分が戦うべきだと、暗闇の中でピエールと共に戦いに参加しているに違いなかった。
震えるマリアの腕をしっかりと掴みながら、ヘンリーは落ち着いてメラの火を調節する。再び視界が広がり、リュカの姿が見えると、彼は既に自身の怪我を呪文で治していた。マントの肩口が切れ、黒く濡れているのが痛々しいが、リュカ自身はもう痛みから解放されているようだった。
ピエールに向かって切りかかった彷徨う鎧を、リュカは後ろから斬り込んだ。自分が狙われた肩口から、鎧の継ぎ目が大きく開いていた。剣先が継ぎ目に入り込むと、彷徨う鎧の動きが止まる。その瞬間、ピエールが正面から鉄仮面を剣先で突いた。顔面に剣が差し込まれ、彷徨う鎧は声もなくその場に崩れ落ちた。引きぬいたピエールの剣先は、何事もなかったかのように磨きこまれたままだ。
「こやつらには本体がないようですね」
「亡霊みたいなものなのかな。まるで何かに操られてるみたいに、動きが遅いよね」
「己の意思は失くしてしまったのでしょう。遥か昔に魔物となり、そのまま年月だけが経ってしまった」
「元は……人間だったのかな」
そう考えると、どうしようもないやりきれなさを感じるが、魔物と成り果ててしまった彷徨う鎧をそのままにしておく方が罪だと、リュカは再び剣を握る手に力を込めた。戦う意思だけ残され、この世に生きながらえても苦しいだけだろうと、リュカはピエールと息を合わせて彷徨う鎧たちを葬って行った。
あと一体となり、既に腕への一撃を加え、倒れかけている彷徨う鎧の傍らに、突如現れた魔物がいた。それは初め、スラりんだと皆が思った。しかしスラりんは宙にふよふよと漂うことはできない。現に、スラりんはいつの間にかリュカの肩にちゃっかり乗っている。
宙に漂っていたスライムのような魔物は、タコのような何本もの足を動かし宙を移動すると、彷徨う鎧の腕に巻きついた。そして身体から青白い光を発すると、彷徨う鎧が受けていた傷を癒してしまった。
「ホイミスライムですね。あいつを先に倒さないと、回復されては攻撃が追いつかない」
ピエールの言葉に、リュカも攻撃の姿勢を変える。彷徨う鎧の腕に足を巻きつけるホイミスライムは、まるでスラりんのように大きな口を笑ったように開けてリュカ達を観察している。その姿はまるでスラりんと変わりなく、リュカは思わず攻撃の手に詰まってしまう。
「ピキー」
リュカの躊躇を感じ取ったか、スラりんがリュカの肩から飛び出し、ホイミスライムに向かって飛び掛かって行った。一度床に弾み、そのままの勢いでホイミスライムに飛びつくと、スラりんは大きな口を開けて噛みついた。ホイミスライムも同じような声を上げてスラりんに応戦し、まるでスライム同士が取っ組み合うように床に転がり落ちてしまった。
その隙に、リュカが剣を突き出し、彷徨う鎧の鉄仮面の中に差し込む。しかしホイミスライムに回復呪文を受けていた彷徨う鎧は、リュカの剣を受けながらも応戦し、右手に持つ剣でリュカの首の辺りを下から斬りつけた。
リュカが痛恨の一撃を食らった瞬間、ヘンリーはマリアの頭を抱きかかえた。彼女に見せてはいけない光景だと、泣きそうな表情で戦況を見守る彼女の視線を無理やり逸らさせた。
リュカが力なく床に膝をつく。目はうつろで、自ら回復呪文を唱えようという余裕は微塵もない。リュカが一瞬にして死にかけたのを見て、ピエールはすぐさま回復呪文を唱えようとしたが、呪文の完成を待たずして、彷徨う鎧がリュカにとどめを差しかねない勢いだった。ピエールはリュカの回復を諦め、彷徨う鎧の背後から、剣を振りおろそうとする右肘の継ぎ目に剣を貫き通した。魔物の攻撃の手は止み、そしてその場に倒れた。
「リュカ殿! しっかりしてください」
ピエールが急いでリュカに回復呪文を施す。仰向けになったリュカの首にはひどい血の痕が残り、床にも血だまりができ始めていたが、ベホイミの呪文の効果で傷口はみるみるうちに塞がった。傷跡も消え、リュカの首は元の通りとなったが、まだ意識が虚ろな状態だ。
「おい、リュカ、しっかりしろ。死ぬな」
「……ヘンリー?」
「そうだよ、俺だ。とっとと起きろ。うっかり死のうとするんじゃねぇぞ」
「僕、死にかけた?」
はっきりとしてきたリュカの口調に、ヘンリーは思わず安堵のため息をついた。
「良かった。まだ死ぬには早いって、お前を追い返してくれたんだな、あっちから」
ヘンリーの言わんとしていることが分かり、リュカは力なく笑った。床に仰向けになるリュカの元に、スラりんも駆け寄ってきた。ホイミスライムと格闘していたスラりんは、執念とも言える根性で敵を撃退してくれたようだ。リュカの顔に半透明の身体を擦りつけ、心配そうに小さく鳴いている。
「リュカさん、良かった、ご無事で……」
蚊の鳴くような声でマリアが言う。その声は震え、頬は涙に濡れていた。それも無理はない。傷口が塞がったとは言え、リュカの首周りには血が飛び散り、床には血だまりができている。首を切られた瞬間は見なかったにせよ、マリアにとっては衝撃的な現場に違いない。
「マリア、ごめんね、怖い思いさせて」
「とりあえず首の血を拭っておけ。ひどいぞ」
ヘンリーに言われ、リュカはマントを掴むと、力任せにぐいぐいと首の辺りを拭う。ピエールの呪文の効果は抜群で、傷の痛みも傷跡も何も残っていない。手当てが早かったおかげで、失った血の量もさほどではなかったようだ。
ゆっくりと立ち上がったリュカは、進もうとする通路に目を向ける。細い通路の先に、わずかだが明かりが差し込んでいるように見えた。しかしそれと同時に、通路の先に不穏な空気が漂っていることも感じる。
「まだいるみたいだなぁ。何にもせずに通してくれればいいのに」
「そうは行かないだろうな」
「リュカ殿、私が先に行きます。ヘンリー殿、私が合図するまで火を消しておいてもらえますか」
ピエールの提案に、リュカもヘンリーも異論はなかった。暗闇でも目が利くピエールが先頭を進み、異変を感じたら知らせてもらえば良いと、ヘンリーはずっと絶やさなかった火を消した。辺りが真っ暗になり、一気に視界が利かなくなる。しかしじっと目を凝らすと、通路の奥に微かに明かりが揺れているのが見える。どうやら外の明かりではなく、何か火か炎が揺らめいているような動きがあった。
「ただの火か、魔物か、どっちだろうね」
「魔物じゃないことを祈る」
「さあ、参りましょう」
「マリア、大丈夫?」
「はい、ちゃんとついて行きます」
そう答えるマリアは、しっかりとヘンリーの手を握っていた。自ら塔に上ることを選択し、我儘を通してもらった手前、弱音を吐くことは絶対に許されないと、ヘンリーの手を握る手に力を込める。そんな彼女の意思に呼応するように彼が手を握り返してくれると、それだけでマリアは前に進む勇気を持つことができるようだった。
ただヘンリーがどんな思いで自分の手を握り返して来たのか、想像することはなかった。マリアが勇気を得た一方で、ヘンリーはここが何も見えない暗い場所で助かったと、こっそり息をついていた。



「やっと最上階に出た」
そう言うリュカの声には力がなかった。リュカの肩に乗るスラりんもぐったりとした状態だ。
「魔物の巣窟でしたね」
「よく切り抜けられたもんだ」
ピエールの兜には焦げた跡があり、ヘンリーの右頬は赤く腫れていた。階下で魔物の群れと遭遇し、何が何だかよく分からないうちに戦いが始まり、多勢に無勢と分かるや否や、リュカ達は一斉に逃げ出す選択をした。幸い、上階からの光が漏れていたため、その光に向かって次々と駆け出し、どうにか難を逃れた状況だった。
「ここまでは上がってこないみたいだね。下の真っ暗な階にたくさん魔物が棲みついてるんだ」
「夜になっても出てこないってのは、この月明かりも苦手なのか、奴らは」
ヘンリーの言う通り、先ほどまで夕陽が染めていた橙色の空は、既に月と星が照らす夜空に変わっていた。満月の明かりは辺りの景色を見るには十分に明るい。その月明かりをきらりと反射する何かを目にし、リュカはそれをじっと見つめようと目を凝らした。
しかし彼の視界を遮る影が動いた。そして月明かりを反射した何かを隠すように、その影はぴたりと止まった。今度はその影にじっと目を凝らすと、リュカの視線は大きな一つ目の視線とかち合った。
「魔物、ですね」
「そうみたいだけど、戦う気はあまりなさそう」
月明かりを浴びる一つ目の魔物は、ゆらゆらと身体を揺らして、リュカ達の様子を窺っているようだ。まるで子供のように膝を抱えて、歌でも口ずさみそうな平和な雰囲気すら漂っている。
「あの後ろに道が続いているようです」
マリアの言う通り、一つ目の熊のような魔物の後ろに、一本の大きな通路が伸びていた。一つ目の魔物ビッグアイは、その大きな目に月明かりを取りこんで、純真無垢な子供のようなキラキラとした瞳をリュカ達に向けているが、通路を塞ぐようにして座りこんでいることだけが難点だった。
「あいつは俺たちの邪魔してくれてんのか」
「わざわざあそこに座ってるってことは、そうなんだと思うけど」
「邪魔する、という明確な意思も感じられませんが」
道を隔てるビッグアイも、リュカ達のことを大きな目で見て、その存在をしっかりと認識しているのが間違いないが、自ら攻撃を仕掛けてくるわけでもない。リュカは首を傾げながらも、さほど警戒しないままその熊のような魔物に近づいて行った。
「ねぇ、そこを通してくれないかな。僕たち、そっちに行きたいんだ」
リュカが何食わぬ顔で話しかけると、ビッグアイはリュカの真似をするように同じ方向に首を傾げる。顔の横には尖った大きな耳がついていて、リュカの声に耳をぴくぴく動かしたが、言葉の意味を理解しているかどうかは分からない。
「困ったな。ちょっと強引にでもどいてもらうしかないかな」
「あんな無防備なヤツに攻撃するのか?」
「いや、みんなで横に押せばどいてもらえるかなと思って」
「大人しく動いてくれりゃいいけどな」
「とりあえずやってみようよ」
そう言ってリュカが更に近づいた時、ビッグアイの一つ目が形を変えた。無垢な真ん丸を描いていた大きな目が、不機嫌そうな三角に変わり、ビッグアイは膝を抱えながら大きく息を吸い込んだ。変化を感じたリュカは足を止め、何が来るのかと身構える。
ビッグアイの口から吐き出された息は月明かりに照らされ、キラキラと輝いた。その見た目の美しさに目を奪われ、リュカ達はその息が攻撃の一種だということに気付かなかった。凍りつく息は広範に渡り、リュカ達一同を皆巻き込んだ。露出している肌は凍りつき、衣服や髪もまだらにカチコチに固まる。何より辺りの温度が一瞬にして下がり、体温が奪われる状態が最も堪えた。
「縄張り、みたいなものなのかな」
体温まで下がり、呂律が覚束ないリュカはそう言いながら身体を動かして寒さをどこかへ追いやろうとしていた。
「シンジツノカガミ」
聞き覚えのない声が聞こえ、リュカ達は辺りを見回した。
「ガンドフ、タカラモノ」
辺りに他の魔物はおらず、凍りつく息を吐いたビッグアイだけが月明かりを浴びてじっとしている。
「どうやらあいつが喋ってるようだな」
「あまり言葉が得意ではないようですが、会話ができるかも知れません」
ピエールの言葉にリュカは頷いた。会話ができれば無駄な戦いをしなくて済むと、リュカは片言の言葉を話すビッグアイに話しかける。
「君はガンドフって言うんだね。僕たち、その真実の鏡が必要なんだ」
「シンジツノカガミ、ヒツヨウ」
「ちょっとだけ貸してくれるかな。君の宝物みたいだから、使い終わったらちゃんと返しに来るよ」
「ガンドフ、タカラモノ」
「……いまいち話が通じないみたいだな」
「でも人間の言葉を知ってるわけだし、根気強く話せばきっと分かってくれるよ」
「トドカナイ。カガミ、ムコウ」
ガンドフと言う名のビッグアイは悲しそうな目をして、ゆっくりと後ろを振り返った。半身になったガンドフの肩越しに、月明かりを反射する鏡が立派な台座にまつられているのがリュカ達にも見えた。その場所まで行くには、ガンドフの後ろにある広い通路を渡れば良いのだと皆思っていた。しかしその通路は道半ばで途切れ、鏡がまつられる台座までは辿りつけそうもない状況だ。おまけに通路の両側は吹きっ晒しで、不規則に風が強まったりして来る者の行く手を阻む。
その通路を見て、リュカは階下から見上げた時に途切れていた通路はこの場所だったのだと気付いた。
「どういうことなんだろう。元々通路は途切れてたのかな。飛び越えるのは無理そうだね」
「いっそスラりんを向こうに投げて、鏡を取ってきてもらうってのはどうだ」
「帰りはどうするんですか。スラりん自身がこの幅を飛び越えられるとは思いませんが」
「鏡だけこっちに投げてもらって、スラりんはそのまま台座に……いてっ、冗談だよ、怒るな」
ヘンリーの不穏な言葉を聞きつけ、スラりんがヘンリーの後頭部に体当たりを喰らわせた。
「確かこの塔の言い伝えでは、己の見たものしか信じぬ者は神の祝福を受けられないとか」
皆の後ろからじっと遠くの鏡を見つめていたマリアが、ふと思い出したように言葉を落とす。鏡に映る月は紛れもなく月そのものだ。それが真実であることは誰も疑いようがない。
「今こそ目に見えるものを疑ってみる時なのかも知れませんね」
「目に見えるものを疑う?」
「真実はいつも何かに隠されてしまっている。だから人は真実を求めたがるのでしょうね」
マリアはそう言いながら、通路に向かって進み始めた。通路の入り口に半身になっているガンドフの脇を通り抜けようとするマリアを、リュカとヘンリーが慌てて追いかける。しかしガンドフはマリアに危害を加える様子もなく、ただ通り過ぎるのをぼうっと見つめていた。
「ガンドフ、僕たちも通してくれるかな」
リュカが柔らかな口調で問い掛けると、ガンドフはのっそりとその場に立ち上がった。ガンドフの立ち姿はそれこそまるで熊のようだった。リュカを一度見下ろすと、ガンドフはマリアの後をついて通路を進み始めた。
「大丈夫みたいだね。行ってみよう」
「マリア、危ないからそこで止まれ」
広い通路ではあるが、その両脇から唸るような風が吹き荒れている。恐らくこの風も神の試練というものだろうと、ヘンリーは信じもしない神に怒鳴りたい気分だった。
途切れた通路ぎりぎりに立つマリアは、下の景色を見下ろすこともなく、ただ通路の向こう側にある鏡だけを見つめていた。左右から前から風が吹き荒れ、本来ならその場に立つのも必死になるほどの状況だが、マリアは平然と立っている。まるで彼女の周りに吹き荒れる風を感じていないようだ。
マリアは両手を組み合わせ、考え始めた。真実とは一体何なのか。自分にとっての真実とは、何か。
大神殿建造の地より逃れ、海辺の修道院に流れ着いた当初、マリアは残された兄のため、奴隷たちのため修道女となり、一生をかけて祈り続けることを誓った。彼らのことを思い出さない日はない。いつでも彼女の心の大部分を占めている。
しかしその後、リュカとヘンリーが修道院を離れ、旅に出た。リュカの母親を探す旅だと聞き、マリアは彼ら二人のためにも祈り続けることを心に決めた。一方で、彼らに対する羨望の気持ちがあったのは否定できなかった。
そして彼らが新たな目的のために、マリアを連れて神の塔まで来ている。神の塔の封印を解くには修道女の祈りが必要だという理由で、マリアは半ば強引に彼らの旅について行くことを決めた。
毎日、修道院で祈り続けていたマリアは、祈りを捧げる毎に己の無力さを実感し、祈り続けることで一体何が得られるのだろうと、己の行動に疑問を抱き始めていたのだ。そんな折、リュカとヘンリーが再び修道院に姿を現したのは、彼女にとっての人生のタイミングだったに違いなかった。彼らの助けになりたいという思いはもちろんあったが、それと同じくらいに己を試したかった。
そんな彼女をリュカは止めなかった。自分の人生なんだから好きなように生きればいい、リュカはよくそんな意味合いの言葉をマリアに言う。ヘンリーも最終的には旅に同行することを許してくれた。そして塔までの旅路、塔に入ってからの彼の行動は、マリアを守るのを第一に考えたものだった。マリアはこの旅の最中、ほとんどヘンリーの背中しか見ていない。
誰かのために生きるのが、自分の人生なのだと思っていた。しかしそれこそが思いあがりで自己満足に過ぎないのだと、マリアは気がついていた。
「これが真実なのかどうかは分かりませんが……」
マリアの足が動いた。小さなその足は宙を彷徨い、通路がないところに踏み出される。リュカとヘンリーが彼女を引きとめようと前に飛び出すが、突風が彼らを襲い、たまらず二人とも通路に投げ出された。
「私は自分のために生きます」
人のために生きることは、結局は自分のために生きることなのだと、マリアの足は宙を歩き始めた。石造りの通路があるわけではない。何もない空中を、マリアはただ遠くにある真実の鏡を見つめながら歩いて行った。空に浮かぶ雲の上を歩くとしたら、今のマリアのようなふわふわとした足取りになるのだろうと、リュカとヘンリーは彼女の後姿をただ呆然と見つめていた。
マリアが向こう側の通路に渡った瞬間、通路の周りに吹き荒れていた風が止んだ。突然、無風となった塔に静寂が訪れ、その静けさに耳鳴りがするほどだった。広い通路を歩き、台座の前に着くと、マリアは目の前にある真実の鏡を覗きこんだ。そこにはどこか晴れやかな顔をした自分が映っていた。
「お借りいたします」
台座から鏡を取り上げ、マリアはそれを大事に胸に抱えた。そして台座に向かって一度頭を下げると、踵を返してリュカ達のいる通路に戻ろうと歩き始める。
鏡を胸に抱くマリアの姿を見て、ビッグアイが目を輝かせていた。長年、遠くから見つめるだけだった宝物を手にして歩いてくる人間に、熊のような魔物がのそのそと近づいて行く。その景色を、ヘンリーは穏やかに見ることができなかった。
途切れた通路ぎりぎりのところでマリアを待ち受けるビッグアイ。通路を戻ってくるマリアは、まるで通路は途切れていないと言わんばかりに、ごく自然に空中を歩いてくる。そんな彼女の様子を、リュカとヘンリーは相変わらず信じられないと言った様子で見守る。宙を歩くように見える彼女は現実味を帯びず、リュカもヘンリーも下手に手を出すことができないのだ。
その時、空中を歩くマリアの身体が突然、よろめいた。止んでいた風がいきなり唸りを上げて彼女に吹きつけたのだ。見えない通路を踏み外すのが分かった。重力が彼女の身体を連れ去ろうとする。
鏡を抱いた彼女に、毛むくじゃらの魔物の手が伸びる。ガンドフがマリアに手を伸ばし、その身体を支えようとするが、通路を外れたガンドフの大きな身体も重力には逆らえない。リュカとヘンリー、ピエールがガンドフの身体を掴むも、三人の力を以ってしても大きな熊を持ち上げることはできない。
塔の最上階から、彼らは真っ逆さまに落下していった。眼下には月明かりを浴びる庭園が広がっている。異常な速度で落下しているにも関わらず、リュカはその庭園の景色が幻想的で綺麗だななどと、悠長なことを思っていた。
庭園に叩きつけられて一貫の終わりだと、各々覚悟を決めていた一同の下から、まるで彼らを拾い上げるような風が吹き上げた。息ができないほどの強い風は彼らの身体を包みこみ、重力の力を和らげる。鳥が地面に着地するような軽やかさで、彼らは庭園の草花の上に身体を横たえた。
「みんな、生きてる?」
上体を起こしたリュカが、同じように庭園に落ちた仲間たちに声をかける。皆、一様に何が何だか分からないような様子でぼんやりと夜空を見上げている。
「あの、ごめんなさい、大丈夫ですか」
マリアに声をかけられ、ガンドフがその大きな一つ目を開けた。マリアを包みこむようにして庭園に落ちたガンドフは、彼女がしっかりと胸に抱いている鏡を目にして、素早く上体を起こす。
「カガミ、キレイ」
そう言いながらガンドフは鏡に手を伸ばす。マリアもガンドフの膝の上に乗りながら、鏡を魔物に向けて見せてあげた。
「ガンドフ、君の宝物なんだよね、この鏡」
「タカラモノ」
熊のような魔物に近づいて話しかけるリュカに、ガンドフは目をキラキラさせて答える。答えると言うよりは、ただリュカの言葉の一つに反応しただけと言った方が良いかも知れない。
「でもちょっとの間だけこの鏡を貸してもらいたいんだ。僕たち、どうしてもこの鏡が必要なんだ」
「ヒツヨウ? ヒツヨウ?」
「うーん、何て言ったらいいかな。ガンドフはこの鏡が好き?」
「スキ。ガンドフ、カガミ、スキ」
目を細めてにっこりと答えるガンドフは、『好き』という単語の意味は理解しているらしい。
「僕たちもこの鏡が好きなんだ。だから……そうだ、一緒に行けばいいんだ」
「おい、こいつを連れて行くつもりか」
リュカの提案にいち早く反応したのはヘンリーだった。リュカとガンドフの会話が始まった時から、嫌な予感がしていたようだ。
「だってガンドフはこの鏡が宝物なわけだし、僕たちはちょっとだけ鏡を借りられればいいんだよね。またこの塔にまで戻ってくるのも面倒だなと思って、だったら一緒に来てもらえれば一番でしょ」
「この世界でお前だけだよ、そんな発想するのは」
呆れた様子で言うヘンリーだが、反対する気にもなれなかった。と言うのも、ガンドフを見ると、足元に近寄って来たスラりんに興味津々な目を向けて、既に仲良くなりかけている。ピエールも観察するようにガンドフを眺めているが、どこか心を許しているような雰囲気だ。おまけにマリアに至っては、ガンドフの膝の上に乗りながら、手にしている鏡をスラりんやピエールに向けて遊んでいるようにすら見える。
「ま、あいつさえ良ければいいんじゃねえの?」
「見る限り、もう仲間だよ、ガンドフは」
「じゃあそう言うことで、とっととこの塔を出ようぜ」
平然とした口調でそう言うヘンリーだが、その言葉の軽やかさとは裏腹に、決して自分からガンドフに近寄ろうとはしない。恐らく、大きな熊のようなガンドフが怖いのだ。そんなヘンリーの姿を見ながら、リュカは幼い頃の彼を思い出した。ラインハットを訪れ、彼の部屋に入った時、ヘンリーは大きな猫のプックルを怖がっていた。言葉の通じない大きな相手に何をされるか分からないという恐怖が、彼の中には強くあるのだろう。
「ヘンリー、そのうち慣れるよ」
リュカがからかうように後ろから声をかけると、ヘンリーが憮然とした口調で言い返した。
「うるせぇ、怖くなんかない」
素直に返事をしてしまったヘンリーに、リュカは声を殺して笑った。しかし更に彼をからかう言葉は控え、リュカはピエールたちに呼びかける。一同が塔の外に出ようと歩き出すと、ガンドフも何の疑問も持たない無垢な目をしてついてきた。彼にとって、ここは神の塔と言う神聖な場所だというよりは、宝物があった場所という認識くらいしかないのかも知れない。
皆が塔から出て、リュカは誰もいなくなった庭園を振り返った。そこは一面、月明かりに照らされ、穏やかな風で草花が揺れている。リュカ達を窮地から救った突風が吹き荒れた場所と同じ場所とは思えないほど、静かで神秘的な場所に様変わりしていた。期待してじっと目を凝らしたリュカだが、もうそこに若かりし頃の父と母の姿はない。
「でも……ありがとう」
ここに存在していたのは、父と母の魂の記憶だ。記憶がリュカ達を助けたのかどうかは定かではない。しかし通常では考えられない何かの力に助けられたのは事実だ。あのタイミングで下から突風が吹き上げ、リュカ達を庭園への落下から救ったのは、見えない特別な力があったからだとリュカは確信していた。そしてその力は、リュカ達人間だけではなく、魔物であるスラりんやピエール、ガンドフまでをも救った。
庭園でスラりんを抱えていた見も知らぬ母の姿を思い出す。この塔に刻みつけられた母の魂の記憶が、人間も魔物も区別なく救ったのではないかと、リュカは頬を通り過ぎる風に感じていた。

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